『何も持たない彼が、何かを掴むまで』   作:星見る物書き

5 / 9
「これまでのお話」

外部居住区にて無為の日々を送っていた青年、神代守人は新型神機使いとしての適性を見出される。
適合後、藤木コウタという友人を得つつ、彼は新兵訓練に打ち込んだ。
しかしその成績は全く振るわず、同期のコウタも一足早く実戦任務に着くことになった。
劣等感を抱え、落ち込み、それでも前進しようとする彼に
教練担当者である雨宮ツバキは励ましの言葉をかける。

そんな折、訓練もままならない神代守人に出撃命令が降った。


〈第3話 I have a wrong guess.〉

「…遂にか」

思わず口をついて出た。

猛訓練が終わり、食堂の壁の隅で手早く食事を詰め込み、自室に戻るとNORNに新着メッセージがあった。

明日の訓練についてだろうか、そんな呑気な予想をしていた。いつしかアナグラでの日常に慣れてしまっていたのだろう。

差出人は「フェンリル極東支部」、件名は「出撃命令」

あぁ、遂に来た。どこか納得したような、諦めたような心地がする。

ターミナルを操作し、命令書を開示した。

出撃予定は明日の午後。詳細はブリーフィングにて伝える。ロビーに集合せよ。

簡潔にまとめれば、それだけだった。

メッセージを読み終わり、ふと脳裏に、アラガミに喰い殺されている自分のイメージが浮かんだ。

ばりばり。ぼりぼり。そんな音を立てて喰われている自分。

あぁ、そういえば孤児院のみんなも、そんな風に喰われてたっけな。遠い日の光景を微かに思い出しかけ、すぐに忘却の海に沈める。

今日の訓練も何か目覚ましい向上があったわけではない。

相も変わらず成績は散々、悲惨、暗澹たるものだ。

こんな俺が出撃したって、死にに行くようなもの。

もしやフェンリルに見切りをつけられただろうか。

あまりにも使えない新型適合者に業を煮やし、適当な実戦データを採集して、俺は使い捨てられるのか。そして新しい次の適合者でも探すか、それとも既にアテがあるのか。

…別に、それでも構わない。

あの腐りきった日々の中でヒトとして死を待つか、それともオラクル細胞を埋め込まれた半アラガミ人間として喰われて死ぬか。それだけの人生。

どちらにしろ、俺の先には死が待っている。

…俺は一体何をしているんだ?

そう思うと、急に全てのことがバカらしくなってきた。

雨宮教官の迫力に負けて、いかにも従順なゴッドイーターの訓練生を装っていたが、バカな真似をしたものだ。

どうせ死ぬ人間に要らぬ手間とエネルギーを使わせてしまった。その時間と手間はコウタ1人にかけた方が遥かに有意義だったろうに。

コウタにしたって俺のような人間を気にかけるより、他の神機使いと一緒にいた方が今後のためになる。

あぁ、そうだ。俺はどっかで勘違いをしていたようだ。ゴッドイーターに選ばれて、自分が必要にされてるという都合のいい考えが、自分勝手な希望がどこかにあった。

ゴッドイーター。神機使い。新型。

そう、周りが必要しているのは神代守人ではなく、新型ゴッドイーターだ。

要は俺の遺伝子と体のデータしか必要とされていない。

あぁ、何を恥ずかしく厚かましい勘違いをしていたのだ俺は。

…今日はもう寝てしまおう。

一人反省会など、そんな日課はどうでもいい。

全て放り捨ててしまえ。

…どうせ明日、死ぬのだ。

 

 

「雨宮ツバキ大尉。何か言いたげな顔をしているが」

フェンリル極東支部の支部長室。ここに3人の人間が「彼」について話し合っていた。

ヨハネス・フォン・シックザール、ペイラー・榊、そして雨宮ツバキ。

ツバキは意を決するように目を閉じ、やがて見開き言った。

「支部長に反命するようですが、今回の出撃命令には賛同できません」

「だろうな」

シックザールは予想していた発言にうなづいた。

「神代の訓練成績を見ていただければ分かる通り、彼はまだ出撃できるような実力もメンタルも持ってはいません。これでは彼に死んでこいと言うようなものです。いずれ来るとはいえど、貴重な新型神機使いを命の危険にさらすのは時期尚早と思われます」

支部の最高責任者相手に少し言い過ぎだ、と軍人としての考えがツバキの頭によぎる。しかし、部下の、新兵の命を守ることもまた自分の職務だと言い聞かせる。

硬く思いつめた表情のツバキにシックザールは、確かにそうだ、と前置きをして、告げる。

「これはフェンリル本部たっての要望でもある」

本部の名前が出てくる。これはツバキにとっても予想はできていた。彼女は重々しく口を開く。

「詳しくお聞かせ願えますか?」

「うむ。では榊博士。彼のデータを提示してくれ」

「そう言うだろうと思って、もう準備はしてあるよ」

部屋の中央にいくつかのウィンドウが浮かび上がる。そこには神代守人のデータが列挙してあり、榊が飄々と告げる。

「よくこれで新型に適合できたものだ、というのが正直な感想さ。事前の検査結果より適合率が格段に低い。もう少し低ければ『大変なこと』が起きていたはずだよ」

明示されているデータは決して良好でも優秀なものでもない。神機使いのパラメーターとしては良くて下の中。こと極東支部に所属している神機使いの中ではあらゆる面でワーストだ。

「事前検査と適合検査後のデータに何故ここまで落差があるのか。博士の考えを聞かせてもらいたい」

シックザールは机の上に肘をつき手を組み、低い声音で説明を求める。

「そうだね。まず新型神機自体にブラックボックスの領域があるから、そこに起因するというのが一番楽な仮説かな。科学者としてはあまり頂けない仮説だけどね。次に…」

榊は勿体振るように少し間をあけた。恐らく自分でも興味深い仮説を立てたのだろう。

「彼の中にオラクル細胞は存在するけれども、人体とは完全に分離しているという仮説だ」

シックザールとツバキの眉がピクリと動く。聞いたことがないケースだ。

「そしてそのオラクル細胞は今後緩やかにゆっくりと、それこそ彼の体を蝕んで適合していく。現在はその初期段階であるということだね」

「そんなことが、ありえるのですか?」

ツバキの口から素朴な疑問が飛び出る。通常オラクル細胞が人体に注入されれば、人間の細胞や神経と同化し共存するか、異化したままそれを喰い尽くしてしまうか、そのどちらかだ。完全に分離し、相互不干渉のまま異なる2つの細胞が存在するなど、あり得ない。捕食に特化したオラクル細胞なら尚更だ。

「まだまだ未知の分野を多く残すオラクル細胞だからね。詳しく追跡調査しないと、あるともないとも断定できない。何しろまだ仮説段階だからねぇ」

榊はどこか楽しそうに喋っている。興味深いケースを考察する機会を得て、内心喜んでいるのだろう。更に榊は続ける。

「でもそう考えると、彼の訓練成績もつじつまが合うところがあるんじゃないかな?要するにゴッドイーターとしての身体が出来ていない。常人に毛が生えた程度とも言える。しかもオラクル細胞は同化もせず、彼の体内で好き勝手に動いている状態だ。彼、身体が上手く動かないとか言っていたんじゃないかい?」

ツバキは神代守人の言動を逐一、頭に中から探り出す。

「確かに。そのようなことを言っていました。私から見ても、ブレードを当てる自信が見受けられない、シールドを展開しても模擬ターゲット程度に押し負ける。またフォーム変型時に神機の動作不良を起こすなど、心当たりはいくつかあります」

「きっとそれが、このケースなりの拒絶反応ということだろうねぇ」

俄かには信じ難いが、そのような異変が起きているならば腑に落ちるところは多々ある。

ツバキは得心がいったように頷いた。

しかしシックザールが鋭く割り込む。

「さすがは博士、面白い仮説だ。だが…」

彼もまた意味ありげに間をおく。この人物がこういった間を置く時、それは話の主導権を握ろうとしている時に他ならない。

「事前検査が正確ではなかった、という可能性もあるのではないかね?」

榊は軽く頷き、ツバキは微かに口の端を歪める。

確かに遺伝子の事前検査は確実ではない。昔とは比べ物にならないほど正確になったが、それでも適合検査で発生する「事故」はゼロではない。

もしこの仮説を支持するならば、それが意味する事は…

「神代守人は、全く偶然に新型神機と適合したのであり、適合者として『最適』ではない。我々の報告を受けた本部はそう考えつつあるようだ」

冷たくシックザールは断言し、榊がすかさず言葉を発する。

「ヨハン。それじゃあこの出撃任務は、本部による『殺処分』みたいなものじゃないかい?」

その細い目には微かな反感が宿り、彼は言葉を継ぐ。

「最適な適合者ではないから、いくつかの戦闘データを採集して、彼は用済み。神機を取り上げることは命令一つで可能だけど、既にあの新型と適合してしまった彼にゴッドイーターとしての活動は望めない。本部にとって、不要なゴッドイーターを生み出したことを隠せるし、別の適合者のために新型を『キレイ』に空けられるというわけかな」

不要なゴッドイーター。実戦経験が豊富ならばツバキのように指導教官になれるが、新兵ならばまず無理だ。オペレーターや整備班として身を振ることも出来るだろうが、戦わず戦いもしなかったゴッドイーター、いや半アラガミ人間を生み出したことは、フェンリルに対する不信感を芽生えさせかねない。1人でも多く「使える」ゴッドイーターを求めるフェンリルにとっては都合が悪い。

「随分と辛辣じゃないか、ペイラー。…そんなに彼が気に入ったのかい?」

シックザールの言葉にも微かな挑発の色が乗る。

「気に入ったといえば、そうだろうね。何しろとても興味をそそられるケース、そして素体だからね。つまらない政治で邪魔をされたくないんだよ」

人柄ではなく、データを気に入る。ペイラー・榊がマッドサイエンティストと呼ばれる所以だった。

「相変わらずだな。しかし勘違いをしないでくれ。私も出来れば彼をまだ出撃させたくはないのだ。しかし本部の意向も完全には無視できない。ならば…」

そこでツバキが口を挟む。

「リンドウと出撃させる、ということですか」

シックザールはその通りだと頷いた。

「確かにリンドウならば神代を生きて帰らせる確率を飛躍的に高めるでしょう」

「ふむ、リンドウ君は今特務に着いていると聞いていたけど、大丈夫なのかい?」

「先ほど、帰投するとの通信があった。また任務内容もオウガテイルの撃退程度のものにするつもりだ」

それならば、と榊とツバキは少し納得したような顔を見せる。

だがシックザールは依然として低いトーンで言葉を続ける。

「だが、今回の出撃は彼にとって試練石にはなるだろう。もし任務を上手く遂行出来るならば今後の心配は多少和らぐ。また実戦で何かしらの発展を見出すこともあり得る。しかし、予想以上に遅れを取るならば…」

本部は何かしらの圧力をかけてくるだろう、と発されない言葉の続きを2人は読んだ。

神代守人が新型神機使いになってまだ1週間が過ぎた頃だ。対アラガミ戦線の強化が急務だとしても、あと少しは猶予があっても良いくらいだ。だが本部がここまでプレッシャーをかけてくるということは、新型神機への適合候補者が各地で見つかりつつあるということだろう。数少ない神機の中でも更に希少な新型機を、能力が低い者に遊ばせておく時間はない。一刻も早く戦況を好転させる新型ゴッドイーターを誕生させなければならない。人類は、いやフェンリルはそこまで追い詰められている。

「さて、彼についての議論は以上で良いだろう」

シックザールは多少強引に、話を打ち切ろうとしている。

榊とツバキの2人は何か違和感を感じた。彼は何かを隠しているのではないか。

 

 

「ということで。何が何でも神代を生きて連れ戻せ」

極東支部のエレベーターにて、ツバキは彼の弟にピシャリと言い切った。

「姉上も面倒なーーー」

「大尉と呼べ」

「はいはい、大尉も面倒なヤツを抱えましたなぁ」

フェンリル指揮官の制服を身にまとった男、雨宮リンドウはどこか間の抜けた声で感想を述べた。キリッとした目鼻立ち、どこか女性を甘く誘惑するような端正な顔立ち。しかし間の抜けた表情でそれも台無しになっている。

「まぁ、心配に及ばずともちゃんと生きて連れ戻しますよ」

リンドウは壁に背をもたれて言う。真剣に取り合っていないようだが、この男は真剣味を内に秘め、表に出さないタイプだ。

「うむ。お前なら心配はないが…データを送った通り少々イレギュラーな存在だ。注意は払えよ」

「了解しました。上官殿」

ちょうどエレベーターがロビー層に着いた。2人は揃って出て、これから出撃する新型神機使いを探して、周囲を見渡す。するとリンドウが少し怪訝な表情で口を開いた。

「もしかし、アイツですか?」

リンドウの視線の先、階段を下った所にあるベンチに、一人うなだれているような、ふさぎ込んでいるような男がいる。ロビーにいる職員たちも眉をひそめて彼を避けているようだ。ツバキの表情も怪訝なものになる。

「あぁ、アイツだ。しかし…あまり良い状態ではないな」

出撃に備えて午前の訓練は休みにしていたが、こんな状態になるなら無理矢理にでも引っ張り出し、訓辞の1つでも垂れるべきだったとツバキは後悔した。

そんな姉を横目に見ながら、リンドウは優しげな笑みを浮かべた。

「姉う…、大尉も知っての通り、初出撃の新人ってのは変に自信過剰か、それとも変に自信喪失か、どちらかなモンです」

「そうだな」

「たぶん、アイツは後者で、しかもそれを一晩かけてこじらせちまったんでしょう。…あそこまでこじらせた奴も珍しいですがね」

リンドウは軽く笑いながら歩み出す。

「大丈夫ですよ。必ず生きて連れ戻します」

チラとツバキに向けた瞳。優しげな声音とは違い、そこには真剣味のある熱が宿っていた。

「よろしく頼んだぞ」

「了解です。お優しき姉上殿」

そう言うが早いか、リンドウは階段を降りていく。彼の後ろではツバキが馬鹿者!と声を荒げていた。

とはいえ、少し骨が折れそうだ。何から始めるかな。

と、リンドウは頭をポリポリと掻きながら、今にも消えそうな存在感の青年に声をかけた。

 

第3話 I have a wrong guess 〈了〉




お読みいただき、ありがとうございます。
昨日投稿し始め、UAが350を越え、お気に入り登録も増えました。
他の方に比べて少なくはありますが、1日で350人もの方に読んでいただくのは、
とても恐縮であり、嬉しいことでもあります。
面白い話を投稿できるよう、他の作品の魅力的な部分を勉強しながら、一層努力いたします。
これからも、よろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。