『何も持たない彼が、何かを掴むまで』   作:星見る物書き

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「これまでのお話」

外部居住区で無為の日々を過ごしていた青年、神代守人。
彼は、遺伝子に神機使いとしての適性を見出されゴッドイーターになった。
しかし全く実力は発揮されず、訓練についていけず、
本人の知らぬところでは適合率が最低ラインであることも判明。
業を煮やした本部から無理やり出撃を要請され、彼はもはや今日死ぬのだとネガティブモード。
極東支部の上層部は彼の生還率を引き上げるため、任務に雨宮リンドウを同行させるのだが…


〈第4話 I have a fear.〉

「よう新入り」

リンドウは、目の前でドス黒いネガティブオーラを撒き散らしながら、座っている青年に声をかけた。

青年はゆっくりと顔をもたげるように上げた。その動きは、なんとなくヌルヌルとした蛇を彷彿とさせる。青年とリンドウの目が合った。

青年の目を一言で述べるなら、濁っている。外部居住区のスラムにでも行かなければお目にかかれない、生きることを放棄した目だ。

「あー、神代守人で間違いないな?」

リンドウはとりあえず笑いながら話しかけてみる。すると青年は立ち上がって言った。

「神代守人です」

抑揚のない、どこかツルツルと滑っていく声だった。

リンドウは困ったなと頭を掻き、口を開いた。

「俺は雨宮リンドウ。お前が世話になっている雨宮ツバキ教官の弟だ。今回の任務に同行する」

守人の瞳に変化はない。

「形式上、お前の上官に当たるが、まぁ詳しい話はどうでもいい」

そう、本当にどうでもいい。今はとにかく、この青年を少しでも能動的にしなければ。リンドウも自身が持つ出撃者生還率の高さには自負心がある。だが何より、生きることを放棄した人間は、許せない。放っておけないのではない。許せない。

「命令は3つ」

リンドウは青年の目に前に握りこぶしを見せる。そして守人の目をじっと見つめて言い始める。

「死ぬな」

リンドウの人差し指が立つ。が、青年の瞳に変化はない。

「死にそうになったら逃げろ」

リンドウの中指が立つ。守人の瞳はリンドウを見つつ、しかしどこか遠いものを見つめている。

「そんで隠れろ」

リンドウの薬指が立つ。守人の瞳に一切動きはない。

「運が良ければ不意をついてぶっ殺せ」

変化なし…おいおい、起きてるよな?こいつ、

「それじゃあ、4つです」

ビクッとリンドウの肩が震えた。聞き間違いでも見間違いでもない。確かに守人の口が動き、そこから言葉が出てきた。相変わらず目は死んでいるが。

「お、おう、おう。そうだな。これじゃ4つだな。悪い悪い」

ハハハハハ、リンドウの滑り笑いがロビーに流れる。

周囲の神機使いや職員は、可哀想にリンドウさん、といった視線を投げかけてくる。

だがリンドウにとっては大きな進歩だ。自己紹介のような作業的なやり取りではなく、リンドウの言葉に反応があったのだ。それも質問に答えるのではなく、向こうから自発的にツッコミを入れてきたのだ。まだなんとかなりそうだな、とリンドウは考えた。

「あ、リンドウじゃない」

そこに明るく黄色い声が飛び込んできた。階段から1人の女性が降りてくる。

「おぉ、サクヤか」

橘サクヤ。第一部隊所属の衛生兵であり、また狙撃手でもある。スナイパー型の神機を取り回し、その銃の制動力はアナグラ随一。また高い判断力と統率力も兼ね備えており、優れた後方支援要員として評価されている。第一部隊の生還者率が高いのはリンドウの実力と指揮もさる事ながら、彼女の的確で献身的なサポートもあるからだろう。

それ以外に彼女の特徴といえば、その容貌と服装である。

エプロンのような、首と腰だけに紐を回し、背中が大きく露出している服をじかに「身に着け」ている。だから彼女が誇る、大きく美しいバストが横からこれでもかという程に見える。穿いているロングスカートも長さが斜めに左右非対称で、健康的な美脚が露わになっている。昔の、中東の踊り子を彷彿とさせる衣装だ。

容貌の方は、ボブ気味に切り揃えられた黒髪に、大きくクリッとした目、程よく厚い唇、そしてスッと通った鼻筋。世に存在する男なら、誰が見ても美人だと言い、あわよくば自分のものにしたいと思うだろう。だがアナグラの男たちは彼女に決して手を出さない。

「何してるの?」

サクヤはリンドウに近づいて来た。

その2人の、肌と肌の距離は友人同士のソレよりも近い。

「あ、もしかして新しいーーー」

サクヤは守人の顔を見て、一瞬言葉を失くす。

「人みたいね、うん」

無理やり言葉を紡ぎ出し、笑顔を浮かべるサクヤ。やっぱコイツは優しいなぁとリンドウは思う。

「あーサクヤ君。今、隊長が厳しい鉄の軍規を教え込んでるところだから、また後にしなさい」

変におどけてサクヤに席を外すように促すリンドウ。はーい、とサクヤはどこか艶のある声で返事をすると、少し目を細めて守人に手を振り、立ち去っていく。

「…」

守人もその後ろ姿を見つめるが、やはり瞳に大した変化はない。リンドウは軽くため息をつくが、そろそろ出撃時間が迫っている。

「さ、行くぞ。守人」

リンドウが肩を叩くと守人は、か細く返事をした。

 

 

贖罪の街。

人々はこのエリアをそう呼ぶ。

元々はヨコハマと呼ばれていた地区であり、ターミナルに記録されている映像では無数の人々が行き交い、居住、観光、経済とあらゆる機能を果たす大都市だった。しかしそれもアラガミの出現により、かつての賑わいを微塵にも感じさせない。ビルも道路も何もかもが捕食され、抉られ、生命の気配は皆無。一部の人々はヒトが余りにも驕り、昂り、傲慢に振る舞っていた為に天罰が下ったとして、またその赦しを請おうとこの地に身を寄せ合い、ここを贖罪の街と呼び始めた。

そのとある高台に2人のゴッドイーターが降り立った。

リンドウは無線を通してヘリのパイロットと帰投に関しての最終確認をすると、守人に向き直る。

「緊張するか?」

「…分かりません」

ヘリの中でも何かと話しかけてみたが、一向にメンタルが良好になる気配が見えない。いつまでも目を伏せたままだ。さすがのリンドウも、一発グーで殴ってショック療法を試みるか?と思ったが、そんなことをすればコイツはますます塞ぎ込むタイプだろうと考え直した。

「さて、今回のターゲットはオウガテイルだ。この極東で確認されているアラガミの中で一番小さく、弱いって言われてるヤツだ」

リンドウは再び守人の目を見つめて、任務の内容を確認する。

「弱いっても、アラガミだからな。ゴッドイーターでも油断すれば即座に胃袋の中だ。しかも詳しい潜伏場所も特定されてない。索敵には十分気をつけろ?」

「…はい」

返事をするだけ、まだマシか。

「索敵は二人でやる。俺が後ろで、お前は前だ。発見後、戦闘になったらお前が前衛を務めろ」

前衛。その言葉を聞いて、守人の肩が少し震えたように見えた。

「心配すんな。ヤバくなったらいつでもサポートに入る。絶対に死ぬな。そして死なさねぇ」

そう言いながら、リンドウの頭の中に一つの仮説が思い浮かぶ。目の前の青年の心は、脅迫観念で占められているのではないか。「上手く」やらなくてはいけない、「失敗」してはいけない、という脅迫観念。それをこじらせて、自暴自棄になり、どうせ死ぬんだと諦めているのではないか。

もちろん、失敗は許されない。もし単独なら、ミスは即刻死につながる。 またチームにおいても1人のミスが全滅につながることも少なくない。だが、1人のミスが即刻必ず死につながるわけではない。チームだからこそ誰かがフォローして、何とか事なきを得ることもある。

「よぅし、守人。空を見上げてみろ」

守人は顔を上げる。どことなく億劫さとぎこちなさが見て取れる。

太陽は中天を過ぎた頃だが、ところどころ雲に覆われていて蒼穹の空とは言えない。

それでも太陽の光は地上に、守人の顔に降り注ぎ、彼は少し目を細めた。

「はい、深呼吸。いっち、にぃ、さん、しー。にぃー、にっ、さん、しぃ…」

言われるままではあるが、自分なりに胸を膨らませて深呼吸していた守人は、ふとその動きを止める。

「どうかしたか?」

リンドウは守人の細かい動作も見逃さず、そしてコミニュケーションをはかる。

「いえ、何でも…」

「嘘つけ。なんか思ったり、見つけたんじゃないのか?」

消え入りそうな声で内に引きこもろうとする守人をリンドウは引き止める。守人にとっては苦痛だろうが、リンドウは彼の感情と考えを何とか引き出したい。俺たちは仲間なんだと実感させたい、そう思っていた。

「いや、その…。…あの雲…」

しどろもどろになりながら、守人が言葉を紡ぎ出す。

「その…俺が住んでたバラックをうろついてた…野良犬に似てるなって」

「どの雲だ?」

「あそこの…」

守人は指を指す。今日、彼が初めて見せる、能動的な仕草だ。

リンドウは神機を持っていない左手を額に持ってきて、太陽の眩しさを遮りながら、彼の指の先を見た。

そこにはか細長い雲が幾つか重なり合って、なるほど、痩せこけた犬に見えてくる。

「このご時世だからな。どっかから逃げ出した、痩せっぽちの野良だったんだな」

「えぇ…。美味しかったです」

それを聞いて思わずリンドウは吹き出した。確かにこのご時世、痩せこけた野良犬でも食料にはなる。むしろスラムの人間はそうでもしないと生きていけない。

しかし美味しかったと言うその瞬間、さっきまで辛気臭い顔つきでブツブツ言っていた守人の顔が微かに緩んだ。

なんだ、そういう顔もできるんじゃねぇか。そう思うと、急に安心してしまって、ふいに笑いがこみ上げてきたのだ。

「あ、あの…おかしかった…ですか?」

守人は顔を暗くして、上目遣いにリンドウを見て言った。

「いや、あまりにも突然だったからな」

そう聞くと守人は目を伏せがちにした。まるで余計なことを言ってしまったというように。

「だが、そういう発想は嫌いじゃない」

すると守人の眉が、え?と微かに上がる。

「むしろ、好きだ」

強張っていた頰がほんの少し緩む。

あぁ、間違いない。こいつは人とコミニュケーションをとることが全くなかったんだろう。人の愛情に飢えているとも言える。周りにどう見られるか、どうしたら周りに迷惑をかけずにすむか、どうすれば周りに捨てられないか。自分を見失って、そんなことばっかり考えている。全く手のかかりそうな子犬だな、そうリンドウは思った。

「さ、そろそろ落ち着いただろ。行くぞ」

リラックスタイムはここまでだ。リンドウは顔と声を引き締めて呼びかける。

「はい」

やはり僅かに上ずって緊張している声。だが守人の目には幾ばくかの、生気が宿り始めた。

 

 

大きなビルの廃墟と崖の間、その細い道を2人の神機使いが前後に隊列を組んでゆっくり、またゆっくり進んでいく。

(前方、異常なし)

(後方、異常なし。索敵続行)

2人はハンドサインでやり取りをしながら、声と足音を殺し、やはりゆっくりと進む。

小石を蹴飛ばした音や呟き程度の音で、こちらの存在に気づくアラガミもいる。今回のターゲットであるオウガテイルはそこまで発達した聴覚は持たないので、用心のし過ぎと言えばそうだ。しかし、リンドウはいかなるリスクも見逃さずに対処をする。任務の効率を多少犠牲にしても、全員生きて還す。それがリンドウの、隊長としての信念だ。

もうすぐ大きく開けた場所に出る。狭い道はもうほとんど探した。出来れば襲撃パターンが限られる隘路で、戦闘マニュアル沿いに片をつけたかった。開けた場所ではどこからアラガミがやってくるか絞りづらい。また動きに制限がない分、戦闘時にどう動くか本人の経験と実力がそのまま出やすく、戦闘マニュアルや訓練にないケースも発生しうる。それは明らかに新米神機使いには負担だ。

守人が立ち止まる。そこから左に曲がれば大きく開けたフィールドに出る。守人は壁に身を隠しながらゆっくりと前方を確認した、その瞬間、

「ーーーッ!!」

息を飲む音と共に、守人はリンドウに振り返り

(敵影発見!指示を!)

激しくハンドサインを出す守人に、リンドウは冷静に対処する。

(了解。まず落ち着け)

すると力強く大地を踏みしめる音がリズム良く聞こえてきた。だいぶ近いようだ。リンドウは即座に戦闘プランを組み立て守人に伝え始める。

(守人が飛び出し、銃形態で牽制。その後俺が閃光弾を投げつける。相手が怯んでいる内に近づいて斬撃しろ。いいな)

守人は一層緊張した面持ちで頷くと、ギュッと神機を握り直す。

(絶対に無理はするな)

本当ならばリンドウ自身が前衛を務めたいのだが、フェンリルの余計な思惑があるせいで守人の戦闘データを多く採集しなくてはならない。また守人の射撃訓練の成績と今のメンタルを考えれば、ただの迷惑なトリガーハッピーになり兼ねない。…誤射姫に続く誤射王子なんて勘弁してほしい。

(3カウントで戦闘開始)

守人はコクンと頷いた。

 

 

始めに姿を確認した時、冷たい氷を胃の中にねじ込まれ、心臓が飛び出るかと思った。

オウガテイル。鬼の顔のような形をした尻尾を持つ小型のアラガミだ。4本足の獣のようだが、前足は見る影もないぐらいに退化しており、極端に発達した後ろ二本足で活動している。

リンドウさんは一番弱いアラガミだと言ったが、自分はそれを模した訓練ターゲットでさえ満足に撃破できないのだ。加えて、これは実戦。死ぬこともある。…そう、死ぬこともある。

……

………待て。俺は怖がっているのか?

何故。どうして。昨日あんなに死ぬんだ死ぬんだと思い続けていたではないか。そうだ。そう思い続けた。それが今、目の前に現実となったのだ。…ならば、ならばどうでも良いではないか。

リンドウさんがカウントを出し始める。

(カウント3)

…恐れるな。

(カウント2)

…受け入れろ。

(カウント1)

…どうにだってなってしまえ!

次の瞬間、体が勝手に飛び出した。神機を銃形態に変形させる。ガキッガキッとぎこちない音を立てながら、50型機関砲の銃身が飛び出す。前方確認。オウガテイルは…こちらに気づいた。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

喉から、いや腹から勝手に雄叫びが上がる。とにかくオウガテイルに向けてトリガーを引く。

1発。初弾はターゲットの上方へ飛んでいき、オウガテイルはこちらに向かってくる。

2発。今度はオウガテイルの3歩ほど前に着弾、オウガテイルは変わらずこちらに向かってくる。

3発。今度はっ…着弾!!顔に当たった!当たったぞ!?当てた!!ターゲットはしゃがみ込む。動きが、止まった!追撃をーーー

「離れろ!!」

耳を貫いていくリンドウさんの鋭い声。ターゲットが尻尾を曲げて地面に押し付けている。…しまった、訓練でよく見た動きだ。そのまま尻尾の力で上空に飛び上がり、こちらに襲いかかる気だ。そしてこのパターンでの俺の死亡率は………

「対フラッシュ!!」

その時リンドウさんの叫び声。刹那、眩いばかりの閃光そして耳をつんざく破裂音。閃光弾が投げられたのだ。混乱気味の頭で先の作戦プランを思い出す。銃で牽制後、閃光弾、そしてーーーそうだっ、神機を剣形態に変形させっ、

その時ガギィッと鈍い音を立てて、神機の変形が止まった。…こんな、とこでっ!?

「下がれ!」

リンドウさんが俺とオウガテイルの間に割り込む。ターゲットはまだ閃光弾のショックから立ち直れていない。リンドウさんは鋭く神機を振るい、4閃。オウガテイルの顔に4本の線を刻む。怯んだオウガテイルは負けじとリンドウさんに噛みつこうと飛びかかるが、瞬時に展開されたシールドに阻まれ、逆に弾き飛ばされる。

俺は変形しきれていない不細工な神機を右手に、ぼぅっとその戦いを見ていた。

あぁ、そう動くのか、と。

リンドウさんの動き。オウガテイルの動き。身体の軌道、予備動作、眼球の動き…

だが突然、リンドウさんがこちらを振り向き叫んだ。

「後ろ!新手だっ!!」

え?と俺は後ろを振り向き、全てがスローモーションに見えた。

俺の後ろにあった

高い崖から、

その上から、

1匹の、

オウガテイルが、

俺をめがけて、

飛び降りてーーー

背中に、衝撃。

あぁ、倒された。この背中の、内臓が押しつぶされそうな重圧は恐らくオウガテイルのもの。

うつ伏せに押し倒され、神機は俺の手から滑り離れた。口に砂がまとわりつく。ザラザラとした不快感に顔をあげれば、リンドウさんが見たこともない恐ろしい顔で、閃光弾を握りしめている。そして首に少し湿った、気持ちの悪い、尖った…恐らく牙が触れる感覚。

 

 

あ、死ぬ。

死ぬんだ。

乾いた気持ちで反芻する。

 

 

ははは、短い人生だったな。

バカみたいな人生だったな。

なんで俺みたいなやつがここま生き残ったんだろう。

本当に、バカみたいだ。

……

………

 

 

死ぬ。

ーなんで?

ーーふと、疑問が、湧く

 

 

そう、死ぬ

ーだから、なんで?

ーー疑問が、湧く

 

 

死にたがってたじゃないか。

ーいつ?

ーー疑問が

 

 

え?

ーだから、いつ?

ーー疑問。

 

 

目の前に、覚えていないはずの風景が広がった。

大破したトラック。無数に倒れ伏した人。ぐちゃぐちゃと咀嚼するアラガミ。

目の前に、忘れ去った光景が広がった。

瓦礫と化した家。無数に散らばる子供。ぐちゃぐちゃと咀嚼するアラガミ。

目の前に、乾いた思い出が広がった。

薄汚れたスラム。家と呼ぶのを憚られるバラック。俺の…両手。何かに、濡れた、震える、手。

 

 

嫌だ。

あぁ、嫌だ。

死ぬのは嫌だ。

嫌だ。

嫌だ嫌だ!

嫌だ嫌だ嫌だ!!死にたくない!死にたくない!死にたくない!!!

こんな所で死んだら、父さんと母さんはどう思う!

こんな所で死んだら、孤児院のみんなと先生はどうなる!

こんな所で死んだら俺は、俺は、俺はっ!?

俺はまだっーーー

 

 

バンッ!!

一瞬の強烈な閃光とけたたましい破裂音。

間に合ったかっ!?とリンドウは目を見開き、神代の元へ駆け出すその時、

「グガアァッ!!」

神代の声ではない。聞きなれた、オウガテイルの痛みの声だ。

ギリギリのところで抵抗したかとリンドウは思った。

だが、即座に異変を目の当たりにし、更に目を見開く。

オウガテイルの足元に…淡い、光?

淡い光が神代守人を包み込んでいる。

そしてその彼は、どうやらうつ伏せの状態から、肘鉄でオウガテイルの頭を…砕いた、らしい。

後ろに振り貫かれた神代の右肘、歪な破砕痕が穿たれたオウガテイルの右の横顔。

そうとしか思えない。

だが何が起こった?どうなってる?

さしものリンドウも目の前の展開に怯む。

あの光は近接型の神機使いが捕食に成功し、バースト状態になった時に身にまとうものだ。

リンドウ自身、見ない日もまとわない日もないと言える淡い光。

しかしあの状態からどうやって捕食したのか。神機は、今も明らかに彼の手から30センチほど離れている。

だが更に理解が追いつかないのは、生身でアラガミにダメージを与えている事である。

いくらバースト状態とはいえ、アラガミに傷を負わせるには神機を介さねばならない。

しかし目の前にある光景は明らかにその前提を無視している。

とその時、

「グガァァァァァッ!!」

リンドウの後ろから、先ほど相手にしていたオウガテイルがショック状態を抜け出し飛びかかり、

ガシュッ!!

豪快な衝撃音。こともなげに、リンドウは体を一回転しながら刃をアラガミに食い込ませ、そのまま慣性に従って右に吹っ飛ばす。手応えと経験からして、今ので終わりだろう。それよりも目の前の状況だ。

肘鉄で頭を砕かれたであろう新手のオウガテイルはよろめいている。

素早く体を仰向けにした神代は、アラガミの胴体へ真っ直ぐに蹴りを入れ、巨体がゴムボールのように壁に叩きつけられた。

その隙に神代は自分の神機を掴み、ゴゥッと光が強くなった。

リンドウはどんな些細なことも見逃すまいと目を凝らす。

神代は先ほどとは比べ物にならないほどスムーズに、思わずリンドウも見惚れるくらいの手際で、神機を剣形態の変形させる。自身の体と共に光を放つ、ブレードを構える。

壁に叩きつけられたオウガテイルは体勢を整えーーー

辺りにアラガミの血が撒き飛んだ。

4撃、とリンドウは見た。

構え、間合いを詰め、4手。恐らく2秒も経ってない。

「グガーーーッッッ!!」

剣閃に遅れて木霊する、アラガミの咆哮。そのままオウガテイルはドウッと地面に倒れこむ。

ピクリとも動かないオウガテイルの体。じわりと広がっていく血だまり。

予想し得ないイレギュラーを挟みながら、唐突に任務は終わった。

しかしリンドウの胸には終わった実感も達成感もない。むしろ、嫌な胸騒ぎがした。

「…よぅ、おわっ…」

やっとのことで言葉を絞り出すリンドウを尻目に、神代はもう動かないオウガテイルへ向かってブレードを振り上げる。光はまだ収まってない。

「っ!?おい!神代!やめろ!!」

リンドウの制止も聞かず、神代はやたらめったらにブレードをオウガテイルに振り下ろし、その死骸をめちゃくちゃに切り刻む。肉を切る音、抉る音、砕く音。撒き散らされる血とオウガテイルの破片。

リンドウは後ろから神代を羽交い締めにするが、彼の細い体からは予想もできない凄まじい膂力にリンドウの体もふらつく。

「いいっ、加減にっ、しろっ!!」

リンドウは神代を無理矢理になぎ倒す。倒された神代は小さく、低く呻き声を上げ、そのまま倒れ伏す。バースト状態の光も神代が意識を失うとともに消え失せた。

念のためにリンドウは脈や眼球などを調べ、バイタルをチェックするが、異常はない。

「やれやれ…」

リンドウは驚くべき光景を披露した新型神機使いを担ぎ、ため息をついた。

「本当に手のかかりそうな子犬…いや、狼か?」

不気味な静寂を漂わす街に、帰還用のヘリが近づく音がし始めた。

 

第4話 I have a fear. 〈了〉

 




お読みいただき、ありがとうございます。

日増しに増えていく1話あたりの文字数…
しかし、どこで区切れば良いものやら…と。

描写がしつこく重いのと、きちんとプロットを書いてないのが原因ですかね。
とにかく、精進いたします。
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