『何も持たない彼が、何かを掴むまで』   作:星見る物書き

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※今回のお話は進展がありません。読み飛ばしても問題はありません。

「これまでのお話」

外部居住区にて無為の日々を過ごしていた青年、神代守人。
ゴッドイーターとしての適性を見出されつつも、訓練に全くついていけなかったり
いきなり出撃を命じられ、ネガティブモード全開になったり
リンドウさんに世話をかけたり、思うように戦えなかったり色々やらかすが
オウガテイルに喰い殺されかける瞬間、謎の覚醒を遂げる。
その反動なのか最後には意識も失い、なんとか生還するが…



〈第4.5話 That day.〉

夢、なのだろうか。

神代はぐにゃりと歪む思考の中で、そう思った。

ある金属製の看板が目の前に見える。

文字の1つ1つが、カタカナとはいえどあまりに直線的で、読みにくいが「サンフラワー」と書かれている。

いや、そう刻んだのだ。

…これを作るのは大変だった。

ただのガラクタでさえも値段をつけられるご時世に、みんなでガラクタを集め、みんなで売りさばき、なんとか金属製の板を調達した。先生と店のおじさんが何か話し込んでいたが、あれはきっと値切っていたか、それとも強かに俺たちをダシに使って泣き落としていたのだろう。

塗料を買うお金まではなかったので、石を使ってキズをつけ、みんなで文字を刻み込んだ。

ヒロとタクが絶対に1文字目のサを書くんだと言い争い、あまりにも紛糾するので先生と3人で一線ずつ書いていた。後は1人ずつ文字を刻み、最後の横棒は先生と俺たち5人で計6回同じ線を刻み込んだ。

実のところ、先生は「ひまわり」または、ひらがなで「さんふらわー」と名付けたかったらしい。だけど年端もいかない子供たちが、石を使って丸みのある文字を書くのは難しいだろうと思って「オトナの余裕」を見せたの、とイタズラっぽい笑みを見せて言ってくれた。「あの日」の前夜だった。

文字を刻んだが、これだけでは寂しいわねと先生は言った。ハナが絵を描こうよ!と言った。ヒロとタクミはどうやって書くんだよ!と言った。俺は絵は下手だから嫌だ!と言った。しかしハナとマーコが勝手に盛り上がってしまい、男3人の駄々は押し切られた。

じゃあこれなら、みんなも描きたくなるでしょ?と先生は言って、ポケットから小さなチェーンがつけられた丸い金属製の、薄汚れたペンダントを取り出した。その瞬間、子供達は見るー!見るー!と先生に群がる。はいはい押さないの、と先生は言ってペンダントについている小さなボタンを押した。パカッと軽い音を立てて、ペンダントの蓋が開く。中には写真が収まっていた。

一面に黄色い「ひまわり」が咲き誇り、中央には麦わら帽子というものを被った女の子が笑いかけている。まだアラガミが出現する前、先生が子供の頃に撮ったという写真だ。

うわー、すげぇー、きれー、と思い思いの感想が咲き乱れ、みんなが笑顔になった。

こうなると男の子は簡単なもので、タクはこれよりスゴいひまわり描けるぜ、ヒロは俺の描くひまわりの方がスゴいぜ、と俄然やる気になって、また喧嘩し始めた。俺はこの写真ほどのひまわりを描ける自信はなく…あぁ、離れたところで先生に質問したんだ。

「先生。…ぼく…ぼく…」

「どうしたの?リト」

リト。モリヒトは長いからって、そう呼ばれていた。

「ぼく…上手く描けるかわかんない」

…この頃から俺は後ろ向きだったな。

そんな俺に先生は優しく微笑んでくれた。

「先生はリトが描くひまわり、見たいな」

「でも…僕、ヘタだし…先生の似顔絵も上手くできないし」

以前子供達は、誰が一番上手く先生の顔を描けるかと、地面いっぱいを使って似顔絵大会をしていた。俺はダントツでビリだった。

「リト。先生はリトが書いた似顔絵好きだよ」

「…ほんと?」

「あの時、先生はこんなに目は細くないって、ヒロとタクに言われてたね」

一瞬で「あの時」を思い出し、暗くなるリトの顔。

「でも、リトは笑ってる先生を描こうとしてくれたんでしょう?」

そして一瞬で、胸の辺りに暖かい気持ちが流れ込んでくる。

「うん。だって、だって、笑ってる先生が好きだから!」

あまりに声が大きかったのだろう、他の4人が何話してるの?と一斉にこっちに集まってきた。

「ふふ、ありがと。ねぇ、皆は知ってるかな?ひまわりのような笑顔って言い方があるの」

ひまわりのような笑顔。きっと、それは先生の笑顔だ。先生のことだ。

いつだって、どんな時だって、俺たちのことを見ていてくれた…そう、

 

「あの日」だってーーー

 

 

 

フェンリル極東支部、その中枢である支部長室に、前日と同じように3人の人間が集まっていた。

「神代は以前として意識を失っていますが、バイタルに問題はありません」

ツバキが手元の資料を参考に報告した。

「そうか。イレギュラーが起こったとはいえど、無事ではあるということか」

シックザールは机に肘を着いて手を組み、何かを思案するように目を閉じた。

「…と、いうことで、僕の話を始めてもいいかな?」

榊はいつもの穏やかな顔を、更にニッコリさせながら言葉を告げた。

「全く君という人は…。構わない。始めたまえ」

部屋の中央にいくつかのウィンドウが浮かび上がる。1つは映像だ。上空からの視点だろう。廃墟を進もうとする神代とリンドウが映っている。他2つのウィンドウに折れ線グラフ、それ以外の物には数字が羅列しある。

ゴッドイーターの腕輪には装着者のバイタルや偏食因子の活性率を計り記録する機能がある。恐らくは神代の情報を抜き出し、まとめたのだろう。

「さて、まずは時系列を追って状況を確認しよう。この映像は神機使いたちの腕輪にあるカメラ、及び『本部の強い要望』によりヘリを使って記録したもの、2つの映像を合わせて編集している」

映像が流れ始める。それと同時にグラフと数値も動き始める。映像が徐々に2人にズームしていく。

「最初の10分くらいは慎重な索敵だからね。飛ばしてしまうよ」

映像が早送りになる。それに合わせてグラフと数字も動くが、大した変化はない。強いて言えば、グラフも数値も依然として低い値にある。

「さて、ここからだ」

榊がそう言うと、映像が通常の再生スピードになった。2人がハンドサインでやり取りをしている。カメラの性能がすこぶる良いらしく、2人で画面が占められる程のズーム映像になっても、そのやり取りが鮮明に見える。

「アラガミを発見したようだね。作戦を立てて、神代君が飛び出す」

映像に合わせて榊がシックザールに説明し始める。戦闘になって数字が多少の乱高下を始めた。心拍数や脈数などが上昇している。しかし神機との適合率や偏食因子の活性値は低く、グラフは低空飛行のままだ。

やがて神代の神機が動作不良を起こし、沈黙。オウガテイルとリンドウの戦いになる。それを見つめている神代。と、その彼を目がけ新手のオウガテイルが崖から飛び降り、神代の背中を押し倒す。リンドウは閃光弾を取り出すが、アラガミは牙を神代に持っていく。結末を知っているとは言えど、あまり良い気分のものではないとツバキは思った。

「さぁ、ここからだよ」

榊の声には嬉しさが乗っている。よほど興奮しているのだろう。

リンドウが閃光弾を炸裂させようとする、その刹那ーーー

「ここさ!!」

榊は映像を止める。

「これは…」

ツバキが低い声で唸る。偏食因子の活性値を表すグラフが突然上に飛び上がった。その様子は山なり、などではない。まさに天を衝くような断崖絶壁。シックザールは呟いた。

「バースト状態か」

リンドウから状況を聞いていたツバキも、改めて信じられないという風に呟く。

「しかし、どうやって…?」

映像を見る限り、神代は神機を手にしていない。それどころか捕食形態の様子も見えなかった。

「彼の腕輪の記録映像に切り替えようか」

映像が俯瞰から一人称視点になる。オウガテイルと戦うリンドウの後ろ姿。そして激しくブレる映像と、彼の手から離れていく神機、映し出される地面。オウガテイルの気味の悪いうめき声が聞こえる。

と、更にまた激しく画面がブレて、言いようのない鈍い音がした。オウガテイルの顔に歪な傷跡が穿たれているのが見える。ここで榊は映像を止める。

「信じられないことだが、彼は捕食も無しにバースト状態へ移行。更に生身でアラガミに傷まで負わせた」

部屋に沈黙が流れる。あり得ない、と。しかし現実としてそのあり得ないことが起きている。ツバキは戦士としてだけでなく、ある程度オラクル細胞に関しての専門知識も持っている。しかし目の前のケースに全く理解が追いつかない。

「ただ、驚く点はここだけじゃあないんだ」

榊は興奮冷めやらぬ様子で映像を再開する。映像では神代がオウガテイルを蹴飛ばし、彼は手元を離れていた神機を掴む。

「ここさ!!」

まるで子供のようにはしゃいでいる榊。その彼が見つめているグラフは、神機との適合率を表すもの。そのグラフもまた先ほど同じように上に飛び上がっているが、その終着点を見てツバキ、そしてシックザールさえも驚きを驚きを隠せない。

「興味深い、という言葉では言い表せないな、この感覚は」

元技術屋としての血でも騒いでいるのだろうか、シックザールが唇を歪めて呟いた。

「しかし…これでは、ほぼ神機と一体ではありませんか」

「そう言えるね」

神機と一体。それもまたあり得ないことだった。

「当然ながら人とアラガミは違う生き物さ。その遺伝子情報がどこまで似ていようと、人の細胞とオラクル細胞は根本的に違うからね。したがってヒトの細胞はヒトを構成し、オラクル細胞はアラガミを構成する。では、その細胞がもし完全に一致したとしたら、そこから成るモノは何なのか。人なのか、アラガミなのか、それとも別の何かか…」

榊は仰々しく喋ると、さて、と言って落ち着きを見せた。

「これ程のケースを見せられては、神代守人君という逸材を、失うわけにはいかないよねぇ?ヨハン」

シックザールはフッと鼻で笑うと喋り始める。

「私にとっては逸材だが、君にとっては研究対象ではないかね?ペイラー」

榊はその言葉を笑って受け流した。

「それはともかく、一先ずこのケースを本部に報告する。映像まで撮られてしまっているならば、誤魔化せまい。ただ、彼の身柄はここ極東支部から異動させないと約束しよう」

その言葉に榊は満足げだった。ツバキも複雑な気持ちではあるが、神代がとりあえずの成果を出したことには安堵していた。

「また彼に関するデータは最高レベルの機密事項に指定する。無用な混乱を避けるための処置だ。今後、神代守人は定期的なメディカルチェックを受けながら、第一部隊に所属しゴッドイーターとしての任務を遂行することに決定する」

つまり彼の秘密を極東支部にて明らかにしようということだ。実戦データを取りつつ、その検証を進める。この瞬間、彼はモルモットという立場に置かれた。

その後、彼に関する扱いと今後のことを詳しく取り決め、ツバキは安心と不安の両方を抱きながら、神代の様子を伺うべく支部長室を退出した。

「さて、そろそろ僕もラボに戻ろうかな」

今にもステップを踏みそうな榊をシックザールが呼び止める。

「ペイラー」

「何だい?ヨハン」

シックザールは、珍しく少し躊躇いを見せて、言う。

「このケースをアイーシャが知ったら、何と言っただろうな」

数瞬の沈黙。

そして長年の付き合いである榊だからこそ見抜いた。シックザールの目に、微かに浮かぶ憂いの色を。

「…正直に言おう。今回の神代君のケースを見て、初めに連想したのは『あの日』のこと、そしてソーマの事だよ」

榊もまたどこか遠くを見つめながら語り出す。

「アイーシャなら…確かに、なんと言っただろうね。僕には分からないよ。傍観者に過ぎなかった、そしてこれからもそうである僕には、ね」

「…済まない。聞かなかったことにしてくれ」

シックザールはそう言うと、目の前の書類に目を通し始めた。

榊も無言で部屋を出る。

足音が、寂しく鳴り響いていく。

 

第4.5話 That Day.〈了〉

 




お読みいただき、ありがとうございます。

前話の解説しなきゃ、と思いつつ
かと言って全部ぶちまけると、これから伏線も張れず
じゃあ、とりあえずおさらいチックに書くかと思ったら、
全く進展がなかったでござる。

かと言って無視したり、未確定な状態で書き進めるワケにも行かず、
インターバルのような回にいたしました。

オラクル細胞と偏食因子とその他もろもろで、
頭の中でゴチャゴチャしてるので、
いつかキチンとまとめたい。
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