機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第94話

戦闘を終えたヴァニスはグレート・エデンに乗艦し、自室に戻る。

 ヴァニスの自室は例に漏れず豪勢な装飾品や調度品が揃い戦艦の中とは思えない作りとなっている。

 自室には戦闘の前に連れて来られたキオが椅子に座っていた。

 ルウの死で気落ちしていたが、いつも通りとはいかないが何とか持ち直している。

 

「戦闘があったんですか?」

「まぁな。火星圏だからと言って油断し過ぎだな」

「そうですか」

「どうやら宇宙海賊が入り込んだようだ。わざわざ火星圏まで来て何を奪いに来たのやらな」

 

 そっけなく返すキオにヴァニスはわざと敵が宇宙海賊だった事を明かす。

 ヴァニスに思惑通り、キオは宇宙海賊と言う単語に反応する。

 

「宇宙海賊! 本当ですか?」

「嘘を言ってどうする。仕掛けて来たのは宇宙海賊ビシディアンだったな」

「父さんが……」

 

 キオは一度は立ち上がるも宇宙海賊ビシディアン、つまりは父アセム・アスノが来ている事を知り13年間も会っていないアセムが火星圏まで自分を助けに来てくれた事を嬉しく思う。

 

「尤も私自ら出撃して撃退したがな」

「父さんは無事なんですか?」

「どうだろうな。知っていてもお前に教える義理はないな」

 

 キオの質問にヴァニスは答える気がない事を知り、キオも始めからまともに答える気がない事に気が付くと再び椅子に座る。

 

「姫様」

 

 すると、ザナルドがヴァニスの部屋を訪ね、ヴァニスはキオを部屋に残して廊下に出る。

 ヴァニスはグレート・エデンのブリッジへと向かい、ザナルドもそれに続く。

 

「いつまでガンダムのパイロットを傍に置いておくつもりですか? すでにFXの開発は完了しているので利用価値はないと思われます」

「お前が気にする事ではない」

「しかし!」

 

 ザナルドは食い下がる。

 今まではガンダムのパイロットとしてAGEシステムの解析などで手間取った時にキオの持ちうる情報を聞き出す為に生かしておいたが、今となってはキオを生かす理由はない。

 ガンダムのパイロットとして大々的にキオの処刑を告知して地球圏にガンダムのパイロットの処刑を見せつける事で連邦軍の戦意や士気を削ぐ事に使うべきだとザナルドは考えている。

 だが、ヴァニスにはその気がない。

 

「今、処刑したところで確実に戦意を削ぐとは限らん。逆に戦意を向上させる結果になる可能性もあり得る」

 

 確かに、ガンダムのパイロットの処刑を連邦軍に見せつける事で戦意を削ぐ事は出来るかも知れない。

 だが、逆に処刑を見せつける事で戦意が上がる可能性も考えられる。

 どちらに転ぶかは連邦軍次第である為、下手にキオを扱う事は出来ないと言う事だ。

 

「ガンダムのパイロットは生かしておいていざと言う時の切り札に使う。捕縛した時に乗っていた機体は海賊に持って行かれたからな。奴は逃げる術などはない」

 

 キオが乗っていたコアファイターは先の戦闘でビシディアンが奪い返した為、キオは自力で逃げ出す事は難しい。

 ヴァニスの部屋にいる為、ヴァニスの隙をついて人質にすると言う事も考えられるが、流石にヴァニスが13歳の子供に遅れを取るとはザナルドも思わない。

 

「それにレギルスの量産化は順調だ。次期に量産型レギルスの先行試作機が完成すると報告も来ている。レギルスを量産化すればそのような小細工は必要ない。ザナルド、私が父の跡を継いだからには今までのような半端な戦いはしない。敵は圧倒的な力を持って徹底的に潰す」

「量産型レギルスの性能はダナジンを凌駕していると私も聞いております。そこまでお考えであれば私からは何も……それとは別にゼハートの裏切りの件はいかがなさいましょう。海賊と合流したゼハートは我が軍の見えざる傘の技術も流していたようですな。そのせいで捜索は難航しています。ご命令あれば、私がゼハートを始末しに向かいますが?」

「無用だ。すでに手は打ってある」

 

 ゼハートはヴェイガンを裏切ったとザナルドを始め、一部の兵には知らされている。

 今はビシディアンのMSに回収されて行方を暗ませているが、見えざる傘によって発見する事は出来ていない。 

 ザナルドは見えざる傘の技術もゼハートがビシディアンに流したとまで考えている。

 だが、ヴァニスはすでに手を打ってあると言う。

 

「その件はもういい。それよりも準備は出来ているだろうな」

「はっ。すでにセカンドムーンの全戦力を地球圏へと移動させる準備は出来ています。しかし、大丈夫なのですか? 全戦力を地球圏に移動させては万が一火星圏に地球種が侵攻して来た場合、防衛する事が出来ません」

「愚問だな。今の奴らに火星圏まで侵攻する力は残されてはいまいよ」

 

 ヴァニスはヴェイガンの全戦力を地球圏に移動させるつもりでその為の準備が進められている。

 そのせいでグレート・エデンが地球圏に向かった後にはセカンドムーンを初めとした火星圏にはMSの一機も残されない事になる。

 もしも、敵の襲撃を受けた場合、セカンドムーンは抵抗をする事もなく陥落するだろう。

 ザナルドはその事を懸念するが、ヴァニスは連邦軍には火星圏まで侵攻する力はないと言う。

 確かに連邦軍はビッグリングを落とされ、ロストロウランも大打撃を受けている。

 その上でルナベースは司令自らの寝返りで労力を使う事なく掌握してヴェイガンの基地として使われている。

 その為、連邦軍は戦線を維持する事で精一杯で火星圏まで兵を送る余裕はない。

 しかし、今回のように連邦軍以外の勢力が火星圏に入りこまないとは言えない。

 

「しかしですな……」

「くどいぞ。言った筈だ。私は父のように温い戦いはしないとな。全戦力を投入して連邦軍もUIEも捻り潰す。我らに敵対する物をすべて倒せば問題は無かろう。それよりもお前のザムドラーグの修理を終え次第、ゼハートを始末するための最後の一手としてお前にも出て貰う。良いな」

「はっ」

 

 セカンドムーンの防衛の不安は残るも確かに敵をすべて滅ぼしたのであれば、防衛の必要がないと言うのも当然だが極論だ。

 だが、今のヴェイガンにはそれだけの勢いがある。

 ザナルドも今はその勢いを殺さずに勢いに乗り一気に勝負に出る時だと納得させる。

 そして、裏切り者の始末の最後の一手を任された事で今はゼハートを討つ方を優先させる。

 ゼハートが裏切ったのであれば、ヴェイガンの機密情報の多くが漏れる危険性がある。

 敵が火星圏にいる間に始末すれば情報が連邦軍に漏れる危険性は大きく減る。

 その為、ザナルドも早急にゼハートを始末する必要性は認めている。

 ゼハートは若くしてイゼルカントの側近に抜擢されている。

 その事実は気に入らないが、実力がある事は認めざる負えない。

 ヴァニスがどのような手を打ったかは知らないが、ゼハートを討てるのは自分以外にはいないとザナルドは自負していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バロノークに回収されたゼハートはバロノークの艦長室でアセムと対面していた。

 スラッシュの時とは訳が違う為、警戒されていたが、アセムの指示で艦長室にはアセムとゼハートの二人だけだ。

 対峙する両者の表情は険しい。

 

「久しぶりだな。ゼハート……前にこうして直接会ったのは20年以上も前の事か」

「そうだな。俺にとっては数年前の事だけどな」

 

 どちらも表情を崩す事は無い。

 二人が直接会ったのは23年前のノートラム攻防戦の終盤に地球に降下するのを阻止した時だ。

 あの時は二人とも18歳だが、今ではアセムは40歳を過ぎているが、ゼハートはまだ20代だ。

 その為、アセムにとっては23年前の事だが、ゼハートから見れば数年前の事でった。

 だが、二人ともあの時の事は今でも克明に覚えている。

 連邦軍とヴェイガンの垣根を越えて地球を守る為にダウネスを破壊した。

 

「そんな事を言う為に私を助けたのか?」

「私か……友達を助けるのに理由は必要か?」

「友達だと?」

「そうだ。俺は今でもゼハートの事を友達だと思っている。お前はどうだ?」

 

 アセムの言葉にゼハートは揺れる。

 アセムは23年経った今でもゼハートの事を友だと言い切れる。

 一度は敵として割り切ろうともした。

 だが、完全に割り切れる物でもなく、海賊になってからは割り切る必要はないのだと気が付いた。

 生まれがどうだろうとアセムはゼハートの生まれには関係なく友達となった。

 後からゼハートがヴェイガンの人間だと知ったところでそれは友達がたまたまヴェイガンの人間だったと言うだけに過ぎない。

 

「俺は……ヴェイガンの戦士だ」

「だが、お前は何度も俺を助けてくれたじゃないか。ゼハート。お前は戦士である前に一人の人間だった」

 

 ゼハートはヴェイガンの戦士であろうとするも、アセムの言葉に反論出来ない。

 かつてゼハートはアセムに戦場で勝利している。

 だが、一度もアセムに止めを刺す事が出来なかった。

 それはゼハートがアセムに対して情を持ってしまった事に他ならない。

 それを自覚したからこそ、アセムを戦場から遠ざけようとも警告した事もあった。

 今でもその情を捨てたかと言われれば捨てたとは言い切れない事も自覚している。

 

「俺にどうしろと言うんだ」

「俺と共に戦ってくれ」

「俺にヴェイガンを捨てろと言うのか?」

「違う。俺はヴェイガンをただ討つ気は無い。この戦争を終わらせる。その為にゼハートの力も貸して欲しい。それはヴェイガンの未来にも繋がる筈だ」

 

 アセムも今となってはヴェイガンを倒す気は無い。

 そして、ゼハートにも力を貸して欲しいと考えている。

 ゼハートの力はアセムが一番良く知っている。

 それ以上にゼハートが共に戦ってくれると言う事はアセムにとってはどれだけの大軍を味方につけるよりも頼もしい味方だ。

 

「終わらせる? この戦いをか? 今更、どちらかが滅ぶ以外に戦いを終わらせる方法があると言うのか?」

「さぁな。俺にも分からない。だから、探すんだよ。俺とお前とならそれが出来る。昔みたいに協力して何かを成す事だって出来る筈だ」

 

 ゼハートの言う通り、すでに連邦軍とヴェイガンの戦闘は60年以上も続き今更戦闘を止める事は出来ず。どちらかが滅ぶしかないだろう。

 アセムもそれ以外で戦闘を終わらせる方法など分からない。

 だが、それを認める事が出来ない以上は別の方法を模索するしかない。

 それでもアセムはゼハートとならその答えを見つける事が出来るかも知れないと思っている。

 アセムは地球で生まれ、ゼハートは火星圏で生まれた。

 生まれの違う二人が同じ目的の為に動けばそれは連邦軍とヴェイガンの戦争を終わらせる第一歩になる気がする。

 かつて、二人が学生だった頃もMSクラブで仲間と共に大会で優勝する為に試行錯誤をして結果的に様々な問題をクリアして大会で優勝した。

 規模が違えど今度も出来ると確信している。

 

「昔か……」

「ああ……MSクラブにいた時、俺達は協力して大会で優勝しただろう?」

「戦争を終わらせるのと大会に優勝する事を同じに考えるか……」

 

 学生の大会と戦争を一緒にする事は非常に馬鹿らしい事だが、ゼハートも不思議と否定する気にもなれない。

 ゼハートにとって、MSクラブのいた時の1年半は充実した日々だった事も否定は出来ない。

 

「だが、確かにな……俺もお前とならやれる気がして来たよ」

 

 アセムは本気で自分となら、やれると思っている。

 それに感化されたのかゼハートもやれる気がして来ている。

 

「少なくとも、姫様にヴェイガンの未来を作れるとは思えない」

 

 それが答えでもあった。

 ヴァニスはセカンドムーンを人質に取られた時には躊躇う事もなく戦闘を継続した。

 ゼハートもアセムが本気だったとは思わず、脅迫がブラフであったとしてもヴァニスはブラフと見破っていたのではなく本当にどうでも良かったのだと今なら断言できる。

 

「姫様……フォルスの事か。ゼハート、教えてくれなぜフォルスがヴェイガンにいる? それになぜお前が姫様と呼ぶ?」

「フォルス? 何を言っている。アセム」

 

 アセムとゼハートの話しは根本的にずれていると言う事に二人は気が付く。

 アセムは戦闘中の通信でFXに乗っているのはフォルスであると知り、戦死した筈のフォルスがなぜヴェイガンにいる事が気になっていたが、ゼハートにとってはFXのパイロットはヴァニス・イゼルカントで指導者のフェザール・イゼルカントの娘でフォルスと言う名ではない。

 二人はそのずれを修正する為に互いの持っている情報を整理する。

 

「成程……ではイゼルカント様の娘だと思っていた女は地球の人間だったと言う事か?」

「ああ……間違いない。戦闘中に通信で話した時にアイツは俺の事を知ってた」

 

 ヴァニスの口ぶりからダークハウンドのパイロットがアセムだと言う事を知っており、自分がフォルスである事も否定していない。

 

「だとしたらどういう事だ? イゼルカント様はヴァニスの事を自分の娘だと、自身の後継者だと紹介した」

「そうなると、イゼルカントは知っていた事になるな」

 

 そう考えれば辻褄は合う。

 イゼルカントはヴァニスを娘と紹介したが、血縁関係があるかまでは分からない。

 娘と紹介された事で勝手にイゼルカントとは血の繋がった娘であると思っていただけに過ぎない。

 だが、イゼルカントはヴァニスの素性を知った上で自身の娘として後継者にしたと言う事になる。

 

「しかし……イゼルカント様の余命が僅かとはいえ、なぜだ……」

 

 アセムはイゼルカントの余命が僅かだと言う事に驚くが今はそんな事を考えている余裕はない。

 

「フォルスは叔父さんの命令で動いていたと聞いている。叔父さんの命令でCMCに入社して、恐らくはビシディアンにもだ。叔父さんは最強のガンダムを作る事が目的らしい。となるとフォルスをビシディアンやヴェイガンに潜り込ませる事でこちらのMSなどの情報を収集していたと言うところか……」

 

 クライドの目的から推測できるが、アセムはすでにヴァニスとクライドの間に繋がりがないと言う事は知らない。

 ビシディアンにいた時も詳しい事は何も話さず、誰にも心開く事もなかった。

 その為、ヴァニスが陣営を転々としているのはクライドの指示でMSの情報を集める事だと考える。

 前提から間違っている為、アセムの推測は全く違う方向に進んでいる。

 

「ドクターCがクライド・アスノだと言う事は、レギルスを完成させたのはヴァニスの能力に合わせたMSを与えると言う事か」

 

 アセムからレギルスを完成させた謎の技術者、ドクターCがクライドだと知ったゼハートもドクターCことクライドがガンダムレギルスを完成させたのは、ヴァニスにMSを与える事だと推測するも、やはり前提から間違っているので違う方向に進んでいる。

 

「そのせいで厄介な事になっている。ヴェイガンではレギルスタイプのMSを先行試作機がヴァニスが使っていた機体と俺用に調整された機体、マリィが好き勝手に弄った機体の三機がある。その上でレギルスの量産化計画も本格化している」

「あれが後三機か……その上量産化か……レギルスが量産化すれば連邦軍に勝ち目はなくなるぞ」

「だろうな。俺も詳しくは知らないが量産型の性能は従来のMSよりも高性能だと聞いている」

 

 ガンダムレギルスは一機でも一騎当千の力を発揮する。

 ヴァニス程のパイロットがそうそういるとも思えないが、同型機が三機いる事は脅威だ。

 それに加えてヴァニスのFXに量産型レギルスを投入されるとビッグリングを落とされてAGEシステムを失った今の連邦軍では勝ち目がない事は明らかだ。

 そして、それはアセムの望むところではなく、ゼハートはヴェイガンの未来さえ作れれば地球を奪う必要も地球の人間を殲滅する気も無い為余り気が進まない事でもあった。

 だからと言って具体的にレギルスの量産化計画を阻止する方法など都合良く転がってはいない。

 戦争を終わらせる方法を二人で模索する前にどうしようもない壁に当たるが、ブリッジからの通信が入る。

 

「どうした?」

「キャプテン。すぐブリッジまで上がってくれ。おかしな事になってやがる」

 

 それはラドックからの通信で余り要領の得ない報告ではあるが、ラドックがそこまで要領を得ない報告も珍しくアセムはゼハートと共にブリッジに向かう。

 

 

 

 

 二人がブリッジに上がると、ラドックはゼハートを一瞥する。

 流石にヴェイガンの人間、それも幹部であるゼハートとブリッジに入れる事は歓迎出来ないが、アセムが連れて来た以上は問題ないと判断する。」

 

「こいつだ。見てくれ」

 

 ブリッジのメインモニターにはゼハートの搭乗艦であるファ・ザードが映されいるが、ファ・ザードは攻撃を受けていた。

 それもヴェイガンの戦艦からだ。

 ラドックが言うおかしな事とはこれの事だった。

 映像は模擬戦には見えず明らかにファ・ザードを沈める気で攻撃している。

 

「ファ・ザードが攻撃を受けているのか? 一体……」

 

 なぜと言いかけてゼハートはすぐに気が付く。

 ヴァニスがセカンドムーンの住民を見捨てようとしていたとはいえ、ゼハートの行動は明らかにヴェイガンの指導者であるヴァニスに対する裏切り行為でしかない。

 事情があったとはいえ、その事情をヴァニスが他の兵に説明する訳がない。

 となれば、ゼハートは単に裏切っただけとなる。

 そして、ゼハートの妻であるマリィやその部下に裏切りの容疑がかかっても不思議ではなく、寧ろ、疑いがかからない方がおかしい。

 今までそんな当たり前の事に気づく事もなかった事が悔やまれるがそんな事を言っている場合ではない。

 

「誘われているな」

 

 アセムはその光景を見てそう判断する。

 ゼハートもそれに同感だった。

 この戦闘の目的はファ・ザードを沈める事ではない。

 ゼハートを誘き出す事が目的だ。

 本当に粛清するのであれば、ファ・ザードにからクルーを拘束して下してから行う筈だ。

 ファ・ザードを沈める事はヴェイガンにとっては戦力を失う事に繋がる。

 その上でヴァニスが粛清を気づかれてファ・ザードに逃げられると言う失態を犯す程甘い相手とも思えない。

 つまりは、ファ・ザードを襲撃してそれを知ったゼハートがファ・ザードを助けに出て来たところを叩く事が本当の目的だろう。

 それが分かるからと言って、ゼハートにはファ・ザードを見捨てる事が出来ない事までヴァニスは見越しての作戦だった。

 ゼハートは悔しいがそれを認めざる負えない。

 ファ・ザードにマリィや自分の部下が乗っている保障は無い。

 ファ・ザードのクルーはヴァニスの息のかかった者達に入れ替えられており、ゼハートが出て来たところで敵に回るかも知れない。

 だが、ヴァニスの性格を考えるとそんな事はしないで本当に部下を乗せている可能性は高い。

 そうしなければ、ゼハートが出て来る確率を落とす事になるからだ。

 仮にゼハートがファ・ザードを見捨てたとしてもゼハートの部下と言う敵と内通しかねない不安要素を排除する事も出来る。

 

「アセム。MSを一機貸して欲しい。動きさえすれば何でも良い」

 

 それがゼハートの決断だった。

 例え、罠だとしても部下を見捨てる訳にはいかない。

 それをしてしまえばセカンドムーンの住民を見捨てたヴァニスと同じになり、そもそも、ファ・ザードが友軍からの攻撃を受けているのは自分のせいでもある。

 だが、ゼハートのギラーガはヴァニスのFXに大破させられており、使い物にはならない為、アセムにビシディアンのMSを一機借りようとしている。

 

「お前ならそう言うと思っていた。ラドック、ディアハウンドの換装は終わっているな?」

「それは出来てるが……まさか、キャプテンも出るってのか!」

「出るのは俺とゼハートだけだ。ディアハウンドの火力ならあの程度の数なら問題ない」

 

 大火力を持つディアハウンドを使えばファ・ザードを攻撃している部隊の数などもろともしない。

 

「アセム……良いのか?」

「当たり前だ。友達を助けるのは当然だろ」

 

 アセムにとってはそれが当然の行動だった。

 アセムもヴァニスの狙いは分かっている。

 だからこそ、ゼハートと一人で行かす事もしないが、ビシディアンやホワイトファングも危険に晒す事はしない。

 その為に、ゼハートと同行するのはアセム一人だ。

 

「済まない」

「ラドック。すぐにMSの出撃の用意をさせろ。その後、ホワイトファングと共にここから離れるんだ」

「分かってる」

 

 MSを出せばその進路からこちらの位置が捕捉されかねない。

 恐らくはそれもヴァニスの狙いなのだろう。

 その為、二人が出撃した後は移動しなければならない。

 アセムとゼハートが格納庫に向かうとラドックはホワイトファングに二人が出撃する事を伝えて移動の準備を始める。

 

 

 

 

 

 バロノークの格納庫には先の戦闘で使われなかったMSが何機も置かれている。

 その中にゼハートとも馴染み深いMSが置かれていた。

 スラッシュがビシディアンに来た時に乗っていたMS、ゼイドラだ。

 損傷したいた箇所をマッドーナ工房で補修されて搭載して来ていた。

 火星圏と言う事でヴェイガンのMSを使えば友軍だと誤認させる事も可能でそれを行う場面も想定していた。

 アセムはそのゼイドラをゼハートに使わせるつもりだった。

 ビシディアンのMSの操縦系統はゼハートも慣れてはおらず、流石のゼハートでもすぐに扱うのは難しいが、ゼイドラなら操縦系統はヴェイガンのMSと同じになっている。

 武装にはゼイドラガンは無いが、ゼハートなら十分に扱う事は出来るとアセムは判断している。

 

「懐かしいな……」

「親父!」

 

 ゼイドラのコックピットで機体の状況を把握しているところに出撃を聞きつけたスラッシュが取りつく。

 

「スラッシュ……済まかった」

「親父……そんな事はどうでも良いって、それよりもお袋を助けに行くんだろ? 俺も行く!」

「駄目だ。お前はここに残れ」

「何で! 俺だって戦える!」

「分かってるだからこそだ。お前まで船を離れたら誰がこの船を守る? ここには敵しかいないんだ」

 

 ビシディアンの首領であるアセムがバロノークを離れて、ティアナのティエルヴァ・ツインエッジは大破して使えない。

 移動するとはいえ、火星圏に絶対安全なところなどは存在しない為、ホワイトファングの戦力があるとはいえ、もしも戦闘になった時にスラッシュがいるといないでは大きく違う。

 アセムもその危険性を考慮して出撃するのは自分一人にしている。

 

「けど……」

「今、船を守れるのはお前しかいないんだ。今のお前はビシディアンの一員なのだろう? ならば、仲間を守る事も重要な役目だ」

「……分かったよ」

「頼んだぞ」

 

 ゼハートはそう言いゼイドラのハッチを閉じる。

 そして、出撃準備に入る。

 バロノークのカタパルトに二機のMSがセットされる。

 一機はゼハートのゼイドラだ。

 もう一機はアセムのディアハウンドだ。

 ディアハウンドはダブルバレットの火力を更に強化した大軍専用の装備をダークハウンドに装備した形態である。

 両肩のマント型バインダーに装着していたアンカーショットはダブルバレットのドッズキャノンに変更され、手持ちの火器もドッズランサーからハイパードッズライフルになっている。

 脚部はダブルバレットのウェアを使っている。

 バックパックにはAGE-1 フラットが装備していたゼフルドランチャーをフォトンブラスターキャノンのデータを反映させて改良したビーム兵器が内蔵されているグラストロランチャーが装備されている。

 グラストロランチャーを装備したせいで機動力はダブルバレット以上に低下しているがそれを補って余りある火力をディアハウンドは有している。

 

「ディアハウンド、出るぞ」

 

 ディアハウンドが射出されゼイドラも射出されるとディアハウンドはストライダー形態に変形してゼイドラを背中に乗せるとファ・ザードの元に向かう。

 

 

 

 

 

 

 遡る事一時間程前、ゼハートがヴェイガンを裏切ったとされ、その部下であるファ・ザードには潔白を証明する為にゼハートの捜索を命じされていた。

 指揮官であるゼハートの裏切りに艦内の雰囲気は重い。

 未だにゼハートがヴェイガンを裏切った事を信じられないと言うのが殆どだ。

 

「マリィ様、本当にゼハート様はヴェイガンを裏切ったのでしょうか?」

 

 ブリッジで捜索の指揮を執るマリィにフラムは尋ねる。

 フラムはザナルドよりゼハートの粗を探す為に送られて来た。

 本人は兄のドールが命を賭して守る価値があるのかを確かめる為であったが、その目的の特性上、フラムはゼハートを良く見て来た。

 その為、ゼハートがヴェイガンを裏切るなど考え難いと思っている。

 

「さぁ? 私に聞かれてもね。だけど、見たでしょ。ゼハートは姫ちゃんのFXに攻撃してる」

「ですが……」

 

 マリィもフラムも裏切りの証拠として戦闘中にゼハートのギラーガがヴァニスにFXを攻撃している映像を見ている。

 無論、その際にビシディアンがフォトンリング・レイでセカンドムーンの住民を人質にした事やヴァニスがそれを切り捨てる気だったと言う事は伏せてギラーガがFXを攻撃した映像だけしか見ていないのでその映像を見る限りではゼハートがヴァニスを攻撃しているようにしか見えない。

 その上で当のゼハートはビシディアンと共に行方不明になっている為、ゼハートの裏切りの証拠はあってもそれを覆す証拠は何一つ無い。

 

「姫ちゃんにゼハートを嵌める理由はないし、ビシディアンにはアセムとスラッシュがいるからね。ゼハートはあれで情に流されるところがあるからね」

 

 ゼハートは計画の為には非情になれるように見えて実際はそこまで割り切れる事は無い。

 それは何度もアセムに止めを刺せるチャンスがありながら止めを刺せなかった事からも明らかだ。

 だが、だからと言ってプロジェクトエデンを捨てる事が出来ない事も事実であった。

 

「では、マリィ様は本当にゼハート様がヴェイガンを裏切ったと考えているんですか?」

「だから、私に聞かれても分かんないって、私はゼハートじゃないからね。でも一つ言える事は男ってのはいくつになっても子供で夢とか理想を追いかける生き物だって事。ゼハートは理想を捨てれる程大人じゃないって事よ。取りあえずはゼハートを見つけて問い詰めれば良いだけの事よ」

 

 結局、いくら考えようともゼハートの考えはゼハートの口から聞くしか分かる術はない。

 そう結論が出ると警報がなる。

 

「何事か!」

 

 フラムは状況を確認する。

 メインモニターには数隻の戦闘艦がファ・ザードに対して砲撃を行っている映像が写し出される。

 

「どこの部隊だ! すぐに止めさせろ!」

「多分、無駄だよ。連中は確実にこっちを沈ませる気よ」

 

 明らかにファ・ザードを沈める気で攻撃している事は明白だ。

 すぐに相手側に通信を繋ごうとするが、通信は繋がらない。

 

「どうやらエサにされたわね。私達。通信をする気もないって事は冗談や手違いで済ます気はないって事」

「そんな……」

「すぐにMSを出撃させて」

 

 マリィが指示を出すが、ゼハートの裏切りに重ねて友軍からの攻撃で兵士達は動揺している。

 

「さっさとする。時間を稼げばゼハートが来る筈よ」

「ゼハート様が?」

「私らを始末するのにファ・ザード一隻を捨てる訳がない。つまりは戦艦一隻を捨ててもおつりが来る相手を釣り上げる気なのよ。向こうはね。そんでゼハートがこの状況を知って動かない訳がないわ」

 

 時間さえ稼げば敵の狙いであるゼハートが出て来るとマリィも予測する。

 

「MSが来ます!」

「死にたくないなら、早くしなさい!」

 

 戦闘艦からMSの発進が確認される。

 出て来たのはガフランやバクトが殆どでダナジンはおらずドラドが混じっている程度だが、MSの防衛のない戦艦を落とすには十分だった。

 マリィの指示でファ・ザードのMSが射出される。

 

「ゼハート様は本当に来るの……」

 

 フォーンファルシアで出撃したフラムは呟く。

 マリィはゼハートは来ると言っているが、フラムは完全にそれを信じる事は出来ない。

 ゼハートが本気で裏切ったかも分からない状況でゼハートを信じる事は到底出来ない。

 だが、今、自分達は切り捨てやれようとしている事だけは変えようのない事実だった。

 ファ・ザードから出撃したダナジンは機体性能ではガフランやバクト、ドラドよりも上だが、決定的に士気が落ちている為、撃墜こそはされずとも押されている。

 フォーンファルシアはビームバルカンを連射するが、ドラゴン形態のガフランはかわしてビームライフルで反撃して来る。

 腕の電磁装甲で防ぐ事が出来るが、実戦経験のほとんどないフラムでは防ぐので精一杯だ。

 

「くっ……ゼハート様」

 

 ガフランのビームバルカンをかわしているが、ドラドのビームサーベルでフォーンファルシアバトンごと右腕が切り落とされる。

 そして、ガフランに接近され、ガフランはビームサーベルを振り上げる。

 だが、そのビームサーベルは振り落される前にガフランの腕がビームによって撃ち抜かれる。

 

「あれは……」

 

 バロノークから出撃して来たディアハウンドの背中からゼイドラは勢いに乗ったまま、ゼイドラソードでガフランの首を切断する。

 

「大丈夫か? フラム」

「ゼハート様!」

「俺のせいで済まなかった。事情は後で説明する。ファ・ザード。聞こえるか?」

 

 ゼイドラはフォーンファルシアの前で止まり、ディアハウンドはMS形態に変形する。

 ディアハウンドにドラドがビームライフルを放ち、ディアハウンドはハイパードッズライフルで反撃する。

 

「来たのは良いが、どれが敵なんだ?」

 

 戦場に到達したが、アセムには敵の区別が出来ない。

 識別信号では自分以外のMSは全てヴェイガンのMSだと表示されている。

 それでも自分やファ・ザードに攻撃するMSが敵であると判断出来るがそれだとどうしても後手に回ってしまう。

 

「アセム、今、マリィから友軍機の識別を送る」

「助かる」

 

 ゼハートもアセムが敵と味方の区別が出来るようにファ・ザードからファ・ザードの搭載機を友軍機と識別できるように識別信号が送られて来る。

 それによりディアハウンドでも敵と味方の区別が出来るようになる。

 ディアハウンドは両肩のバインダーのドッズキャノンで正確に敵を撃ち抜く。

 ドラドらガフランがビームライフルで攻撃するが、ディアハウンドは機動力の低さを補う為に最小限の動きで回避してハイパードッズライフルとドッズキャノンで敵を撃墜する。

 

「フラムは下がっていろ」

 

 ゼイドラは右手にはゼイドラソードをつけ、左手にはビームサーベルを展開する。

 そして、ドラドの両腕を切り裂いて蹴り飛ばす。

 バクトのビームバルカンを回避しながら、バクトに接近してゼイドラソードをバクトの腹部に突き刺すとビームサーベルでバクトの頭部を胴体から切り離す。

 

「下がれ! お前達と戦う理由はない!」

 

 ゼイドラはコックピットを切りなさすように戦う。

 ゼハートはアセムと共に戦う道を選んだが、それはヴェイガンを捨てたのではなくヴェイガンの為に決めた事で今自分に銃口を向けている兵士もまた、ゼハートの同胞だ。

 

「戯言を!」

「ザナルドか!」

 

 不意に殺気を感じるとそこにはザナルドのザムドラーグがゼイドラに取りついていた。

 ザムドラーグはザムドラーグテイルでゼイドラを弾き飛ばす。

 何とか、腕でガードするもゼイドラへのダメージは少なくない。

 

「側近のよしみで貴様はこの手で葬ってくれるわ!」

 

 ザムドラーグはビームバルカンを放ち、ゼイドラもビームバルカンで応じる。

 だが、重装甲な上にザムドラーグのビームバルカンはゼイドラのビームバルカンよりも口径が大きく威力も高い為、ゼイドラの装甲の方が先に破壊されるだろう。

 ゼイドラはザムドラーグの攻撃をかわして接近戦に持ち込む。

 ゼイドラソードを振り下ろし、ザムドラーグは腕で受け止める。

 

「効かんな! そんな旧式のMSでこの私に勝てると思っているのか!」

 

 ゼイドラの攻撃はザムドラーグの装甲を貫くには至らず、ザムドラーグは至近距離からビームバルカンを放つ。

 距離が近い為、ゼイドラはかわしきれずに被弾して行く。

 

「やはり、ゼイドラでは……」

「ゼハート様! ザナルド様! お止めください!」

 

 フォーンファルシアがゼイドラの援護の為にフォンファルシアビットを射出する。

 

「フラムか! 貴様もゼハートに誑かされおったか!」

「違います! ゼハート様はヴェイガンを裏切った訳ではありません!」

「世迷言を! 貴様も見たであろう!」

 

 フラムはゼハートの潔白を訴えるもザナルドは聞く気ななかった。

 すでに証拠となる映像を見ている上に元からゼハートを良く思わないザナルドは完全にヴァニスの言う事を信用し切っている。

 ザムドラーグはビームバルカンで前方のフォーンファルシアビットを撃墜し、背後の物をザムドラーグテイルで叩き落とす。

 

「貴様も裏切るのであればここで始末する!」

「ザナルド様!」

 

 ザムドラーグはフォーンファルシアにもビームバルカンを放つ。

 

「ザナルド! 貴様!」

 

 ゼイドラはフォーンファルシアにも攻撃している事で自分に対する攻撃の手が緩んだところを接近して、ビームサーベルを振るうがザムドラーグは回避してゼイドラの背後を取る。

 23年前は高軌道型MSとしてゼイドラに追従出来る機動力を持つMSはストライダー形態のAGE-2くらいだが、今の時代ではMSの開発技術が進んだ事でザムドラーグでもゼイドラに機動力では決して劣っている訳ではなかった。

 ザムドラーグはザムドラーグキャノンを放ち、ゼイドラは何とか回避するもザムドラーグのビームバルカンまでは回避できずに直撃を受ける。

 それによりゼイドラの装甲が破壊され行く。

 

「ちぃ!」

「ゼハート様!」

 

 フォーンファルシアはビームバルカンでゼイドラを援護するが、ザムドラーグの装甲の前に牽制にすらならない。

 

「止めだ! ゼハート!」

 

 ザムドラーグはビームサーベルを展開してゼイドラに止めを刺しに行くが、ストライダー形態のディアハウンドがハイパードッズライフルを放ち、ザムドラーグを牽制する。

 ディアハウンドはグラストロランチャーを前方に向けて放つ。

 その威力はザムドラーグの装甲でも無事では済まない為、ザムドラーグは回避する。

 

「ゼハート! 大丈夫か!」

「ああ……済まない。アセム」

 

 ディアハウンドはMS形態に変形して損傷しているゼイドラを庇うように前に出てハイパードッズライフルを放つ。

 

「海賊のガンダムが……貴様もここで終わりにしてくれるわ!」

 

 ザムドラーグはビームサーベルでディアハウンドに切りかかり、ディアハウンドはかわしてドッズキャノンを放つが、ザムドラーグの電磁装甲に阻まれる。

 

「ちっ……装甲が厚いな。だが、これならどうだ」

 

 バックパックのグラストロランチャーを放ち、ザムドラーグは回避する。

 ディアハウンドはストライダー形態に変形して、カーフミサイルを放つ。

 ビームバルカンでカーフミサイルを全弾迎撃するが、その隙にディアハウンドはビームサーベルを抜いて接近していた。

 ディアハウンドの一撃をザムドラーグはビームサーベルで受け止める。

 

「ゼハート、聞こえる? そんな旧式じゃきついからすぐに戻ってアンタのMSの調整はばっちりだからさ」

「了解した」

 

 ゼイドラはファ・ザードの方に向かう。

 ザムドラーグはザムドラーグキャノンでゼイドラを狙うが、ディアハウンドのドッズキャノンとハイパードッズライフルに邪魔をされる。

 

「ちぃ! 地球種風情が!」

「悪いがもう少し相手をして貰う」

 

 ディアハウンドはグラストロランチャーを放つ。

 

 

 

 

 

 ファ・ザードに帰還したゼハートはすぐに格納庫のレギルスRに乗り込む。

 ゼハートを捜索するに当たり、マリィの独断でレギルスRはファ・ザードに積み込まれていた。

 そして、道中でいざと時の為に調整を万全な状態にしてある為、すぐにでも出せる状態になっている。

 

「ガンダムレギルスR、ゼハート・ガレット。出る」

 

 システムを立ち上げたゼハートは休む事なく再度出撃する。

 出撃したレギルスRはレギルススピアーで一瞬にして数機のガフランの首をはねる。

 その機動性能は並みのパイロットでは反応する事も出来ないだろう。

 そして、レギルスRはザムドラーグに向かって行く。

 

「アセム、ザナルドは俺に任せてくれ」

「頼む。俺は母艦を叩きに行く」

 

 ディアハウンドはストライダー形態に変形すると戦闘艦の方に向かう。

 ディアハウンドはハイパードッズライフルで前方のドラドを撃墜して、ビームバルカンで進路上の敵を排除する。

 戦闘艦からも砲撃が放たれるが、ディアハウンドは回避して戦闘艦の上を取るとMS形態に変形してハイパードッズライフルとドッズキャノンで戦闘艦の砲門とスラスターを潰す。

 

「これで十分だろう」

 

 戦闘能力を失った戦闘艦を撃沈する事なく、ディアハウンドはファ・ザードの防衛に戻る。

 

「レギルスRまで持ち出していたのか」

 

 ザムドラーグはビームバルカンをレギルスRに放つが、ゼイドラの時とは違いレギルスRはビームの合間を縫うように回避して簡単に接近を許してしまう。

 ビームサーベルを振り上げるも、レギルススピアーでザムドラーグの右腕が切り落とされる。

 ザムドラーグは左手のビームサーベルを突き出すが、レギルスRはザムドラーグの背後を取る。

 

「舐めるなよ!」

 

 ザムドラーグテイルで背後のレギルスRを攻撃するが、レギルスRはレギルススピアーでザムドラーグテイルを破壊する。

 そして、レギルスRのレギルスビットがザムドラーグを襲い重装甲を易々と破壊して行く。

 

「ザナルド、俺達が戦う理由は無い。下がれ」

「ヴェイガンを裏切っておきながら何を言う!」

「俺はヴェイガンを裏切った訳でではない。ヴェイガンの未来のためだ」

 

 ザナルドとは何かとゼハートを敵視している為、ゼハートもザナルドに対しては余り良い感情は持っていない。

 だが、ザナルドもまたゼハートと同様にヴェイガンの為に戦っている為、ゼハートからすれば同胞で殺す意思はない。

 

「……ちっ」

 

 ザナルドも状況の不利を悟ると、撤退を始める。

 ザムドラーグが大破して撤退した事でファ・ザードを攻撃していたMSも戦闘艦まで撤退して行く。

 

「これで良かったんだな。もう、後戻りは出来ないぞ」

「覚悟の上だ」

 

 完全にヴェイガンに敵対する行動を取ったため、もう言い訳は出来ない。

 だが、ゼハートはそれも覚悟の上であった。

 そうでもしない限り、ヴェイガンの未来を創る事はもはや不可能な段階まで来ている。

 その為であれば裏切り者の汚名など幾らでも被る覚悟は出来ている。

 すべては故郷の為の行為だと思えば裏切り者の汚名など気にする事はない。

 

「分かった。俺はバロノークに帰還する」

「俺はファ・ザードのクルーに状況を説明してから合流する」

 

 ディアハウンドはストライダー形態に変形すると、事前に決めてあった新しい合流地点へと向かい、レギルスRはファ・ザードに帰還する。

 

 

 

 

 

 

 

 ファ・ザードに帰還したゼハートはフラムやマリィ、その他各部署の代表のクルーをブリッジに集めて今回の一件の事情を説明する。

 一通りの説明を終えるが、クルーは困惑している事が分かる。

 それも当然だ。

 新たな指導者であるヴァニスがイゼルカントの実の娘ではなく、セカンドムーンの住民の事など平気で見捨てるなどいきなり言われても到底信じられない。

 だからと言ってゼハートがヴェイガンを裏切る行動もゼハートの言っている事が正しいのであれば理解は出来る。

 

「成程ね……姫ちゃんはうちのパパが作った強化人間って訳ね。道理で……」

 

 マリィは事情よりも明らかに異常な能力を持っているヴァニスが父、クライドによって人工的に作り出された強化人間である事で納得が言ったようだ。

 

「それにしてもドクターCがパパで自分の最強のガンダムを扱う為に最強のパイロットを作るね……確かに高性能MSを開発する時のネックは作っても扱えるパイロットがいない事もあるから、まさか自分で作っちゃうとはね。流石、私のパパだね」

 

 マリィはそこまでして自分の最強のガンダムを完成させようとするクライドの執念を素直に尊敬するが、技術者ではないゼハートやフラムからすれば到底理解できない領域の話しだ。

 

「それでゼハート様、これからどうするつもりですか?」

「俺はアセムと共にヴァニスを討つ」

 

 戦争を終わらせる方法はまだ、分からないがヴァニスがヴェイガンを導く先に未来がないと言う事は確信している。

 その為、最低でもヴァニスを討つ事は決まっている。

 例え、最強に相応しい力を持とうとも勝たねばヴェイガンに未来がないのであれば刺し違えてでも討つしかない。

 

「お前達に強制はしない。俺について来れないのであれば、ファ・ザードを降りてくれても構わない」

「今更戻れる訳がないと思うんだけどね」

 

 マリィの言う通り、ヴェイガンに戻ったところで裏切り者として始末されるのが落ちだ。

 それ以前に話しは聞いた時には戸惑っていた兵も腹は決まっている。

 

「ゼハート様、我々は最後までゼハート様について行くつもりです」

 

 部下を代表してフラムが答える。

 その言葉に皆は頷き誰一人として反対する者はいない。

 フラムも裏切り者の汚名を背負ってでもヴェイガンの未来の為に戦うゼハートに対してドールが命を賭して守る価値があったのだと確信し、自身もゼハートの下でヴェイガンの未来の為に戦う事を決める。

 

「お前達……俺は地球の人間を殲滅するつもりも、地球を奪うつもりもない。それでもついて来ると言うのか?」

 

 ゼハートは今までのヴェイガンの方針である地球の人間を殲滅して地球を奪うつもりもない。

 それ以外でも地球圏に移住すれば十分にヴェイガンの未来を創る事は可能だと考えている。

 地球を奪う事がエデンへと到達する道ではない。

 地球でなくとも、毎日が充実していればそこが理想郷、エデンなどのだと今なら分かる。

 かつてMSクラブの日々がゼハートにとっては充実した日々であったようにだ。

 それでもなお、誰一人文句を言う者はいない。

 

「そろそろ、話しは纏まった?」

 

 ブリッジのモニターにホワイトファングと強制的に通信が繋がれてホワイトファングのブリッジの艦長席に座るエリーゼが映される。

 

「げっ……」

 

 それを見たマリィは顔を歪める。

 

「久しぶりね。マリィ」

「うん……そうだね」

 

 マリィは上ずった声で返事をする。

 明らかにエリーゼは怒っている事がマリィに伝わって来る。

 それも当然だ。

 この23年の間、行方を暗ませているだけでなくマリィが所属していた連邦軍と敵対しているヴェイガンでMS開発を行っていたのだエリーゼが怒るのも無理はない。

 

「全く、アンタはクライドの受け継がなくても良いところをダイレクトに受け継いで」

 

 クライドはMS開発に関しては並々ならぬ熱意を持っている。

 それはMS開発の発展に貢献しているが、それと同時にMS開発のインフレ化にも繋がっている。

 事実、唯でさえEXA-DBの一部の情報を持つ事で兵器レベルで優勢だったヴェイガンのMS開発は頭打ちだったところをクライドの介入でレギルスの量産化と言うふうに発展している。

 そのせいで連邦軍は窮地に立たされている。

 その上、クライドは好き勝手にMSを開発する為、歯止めが効かなくなっている。

 今は最強のガンダムの開発に熱中しているが、それが完成したところで満足するとは思えず、最強のガンダムを超える究極のガンダムの製造に取り掛かる事は容易に想像がつく。

 マリィはそんなクライドのMS開発にかける異常な熱意を受け継いでいる。

 クライドのようにアスノ家の技術やEXA-DBの技術を持たない為、マシと言えるがそれでも褒められた事をしていない。 

 

「そりゃ、私、パパの子供だもん」

「自慢できる事じゃないでしょ!」

 

 マリィはエリーゼに怒鳴られて縮こまる。

 いつもは自分の好き勝手に動いているマリィがここまで縮こまる事は初めてなので普段のマリィを知る者は少なからず驚いている。

 

「エリーゼ、説教は後にしろ」

 

 長時間の説教の入りかけたところでウルフが止める。

 通信自体、ヴェイガンに傍受される危険がある為、長時間は避けたいからだ。

 

「隊長も老けましたね」

「お前の方は相変わらずってところだな」

「褒めても何も出ませんよ」

「褒めてねぇよ。それよりも、話しは纏まったのか?」

 

 余りマリィの相手をしていても無駄に時間を浪費するだけだと判断してマリィを軽く流すと本題に入る。

 ゼハートが状況説明の為にファ・ザードに帰還した事は戻ったアセムから聞いている。

 そこでファ・ザードはこれからどうするかを確認しておきたい。

 場合によってはビシディアンに協力するとなれば戦力の補強となる。

 

「ええ……ファ・ザードもアセム達に協力するつもりです」

「そいつは助かる。こっちもいろいろと戦力不足だ。味方になるってんなら、互いに過去の事は流そうや」

「分かっています。今は過去のいざこざで分裂している暇はありません」

 

 ゼハートがウルフと直接話すのは今回が初めてだが、かつてゼハートはヴェイガン、ウルフは連邦軍として敵対していた。

 ゼハートもウルフの隊が配属されているディーヴァに仕掛けた事もある。

 その為、ファ・ザードのクルーの中にも元連邦軍であるウルフ達と共に戦う事に抵抗があるかも知れないが、今はそんな事を言っている状況ではないと言う事はゼハートも十分に理解している。

 

「そんなら、こっちは事前に決めてある合流ポイントで待ってるから早いとこ合流してくれ」

「分かりました」

 

 補給も増援もない火星圏で単独で動く事は危険なので、ファ・ザードもバロノークとホワイトファングに合流するべく移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼハートの始末に失敗したザナルドはセカンドムーンに戻りグレート・エデンのブリッジに報告に来ていた。

 グレート・エデンのブリッジには通常の戦艦よりも多くのブリッジクルーがいる。

 グレート・エデンは単なるMSの母艦としてではなく、ヴェイガンの新たな前線基地としての役割も兼ねている。

 そのブリッジの済みのブリッジ全体を見渡せる位置に艦長席が備え付けられている。

 だが、艦長席には派手な装飾が施しており、レッドカーペットなどがあり、艦長席と言うよりもまるで王座だ。

 その王座にヴァニスは座っている。

 

「成程、ゼハートの始末に失敗したと」

「申し訳ありません。まさか、ファ・ザードにレギルスRを搭載していたことは予想外の事態でして……」

 

 ザナルドはありのままを報告する。

 ゼハートに敗北し、生かされた事を報告する事は屈辱以外の何物ではないが、事態を報告するのに虚偽を混ぜる訳にもいかない為、屈辱だろうと正直に話す。

 

「良い。レギルスRを奪われたところでどうと言う事は無い」

 

 ヴァニスはザナルドを責める気は無い。

 寧ろ、褒めたいとまで思っていた。

 ザナルドの失態もあり、レギルスRはゼハートの手に渡りゼハートは自分を討ちに来るだろう。

 最強を証明する為にはレギルスRとゼハートは倒すべき価値のある相手だ。

 その為、キオとガンダムAGE-3と言う倒すべき敵のいなくなったヴァニスにとっては退屈をしないで済む。

 

「それよりも、お前がゼハートを始末に向かっている間に準備は完了した」

 

 ザナルドがゼハートと交戦している間に、グレート・エデンの出航準備は完了している。

 グレート・エデンにセカンドムーンの戦力を収容し、イゼルカント夫妻も乗艦している。

 

「ではいよいよ地球に?」

「当然だ」

 

 準備が完了したと言う事は本格的にプロジェクトエデンの最終段階が開始されると言う事だ。

 

「機関最大、グレート・エデンはこれより地球圏へと向かう」

 

 ヴァニスがそう言い、ブリッジクルーは各方面に指示を飛ばす。

 そして、しばらくするとグレート・エデンはヴェイガンの総戦力の艦隊を率いて地球圏へと移動を始める。

 ヴェイガンの全戦力が地球圏へと移動を始め、戦場は再び地球圏へと移り変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ようやくアルカディアに投降した分が終わった……

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