機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第95話

 

 

 

 火星圏から帰還したビシディアンはファ・ザードとホワイトファングとは別行動でノートラムに入港している。

 バロノークは海賊の戦艦だが、フリットの計らいによって連邦軍に攻撃される事なく、入港が出来た。

 流石にファ・ザードはヴェイガンの戦艦である為、ヴェイガンに並々ならぬ憎しみを抱くフリットは許しはしないだろう。

 その為、ファ・ザードはノートラムから離れた宙域で見えざる傘を使い隠れている。

 ホワイトファングもノートラムに入港する事は出来たが、地球圏でも敵しかいないファ・ザードと共に残っている。

 

「何だと! もう一度行って見ろ!」

 

 ノートラムの連邦軍の施設でアセムはフリットに火星圏での出来事をゼハートの事を伏せて話すとフリットはアセムの胸元を掴む。

 今にも殴り出しそうな勢いだったが、アセムもそれを止める事は無い。

 あれだけ啖呵を切って火星圏までキオを助けに向かって置きながら、AGE-3のコアファイターを奪還できたが、肝心のAGEシステムはすでに取り外されているので余り意味はなかった。

 その上でキオを救出する事が出来なかったのだ、アセムにフリットに言い返す言葉もない。

 

「やはり、海賊に頼んだのが間違っていたのだ!」

 

 フリットはアセムの胸元を突き飛ばすように話してアセムはソファーに座り込む。

 アセムは何も言い返す事も出来ずただ、フリットの怒りを受け止めるしかない。

 

「これから連邦はルナベースの奪還作戦に入る。火星圏から移動して来たヴェイガンの大艦隊の一部がルナベースに入港したとの情報を得たからな」

 

 この一か月で連邦軍は月面のルナベースがすでにヴェイガンに落ちていると言う情報を得ている。

 その為、今はノートラムを中心にルナベース奪還のための戦力を確保している。

 ルナベースは連邦軍の宇宙の拠点でも重要な基地である為、ビッグリングを落とされた連邦軍はルナベースを確保しなければラ・グラミスの攻略に乗り出せない。

 そして、地球圏に来たグレート・エデンを旗艦としたヴェイガンの大艦隊は一部がルナベースに入港し、残りはラ・グラミスの部隊と合流している。

 大艦隊の戦力は確認できるだけでは旧式のMSが多いがそれでも数で勝れば厄介となり、一層ラ・グラミスの防衛戦力が増強されてルナベースの奪還の重要性が増している。

 フリットもキオを救出するためにはルナベースを奪還してからでなければ勝ち目のない事は理解しており、フリットは連邦軍に戻り前線指揮を執る事になっている。

 

「そうか……俺は俺で動かせて貰う」

「勝手にしろ! だが、くれぐれも私の邪魔だけはするなよ!」

 

 火星圏に向かう前にも勝手にしろと言われたあの時とは意味合いが違った。

 あの時はアセムにキオの事を任せてはくれたが、今はアセムに対して何も期待していない。

 アセムはフリットの信頼を裏切った為、それも甘んじて受ける。

 

「連中はAGEシステムを使った新しいガンダムを生み出した。その性能は俺達と戦ったレギルスをも超える」

「分かっている」

 

 すでに火星圏で交戦したFXのデータはフリットにも渡している。

 フリットはアセムを一瞥して部屋を出て行く。

 

「父さん……俺も俺で勝手にさせて貰うさ」

 

 アセムはフリットの出て行った扉を見てそうつぶやいた。

 火星圏でのキオの奪還には失敗した。

 だが、キオが生きている以上、再び救出の機会を見極めて救出作戦を実行する気でいる。

 フリットからの期待はなくなったが、昔のアセムなら自身を喪失していたかも知れないが、今のアセムは逆に開き直る事が出来る。

 フリットからの期待がなくなり、一度は失敗しているのだ次からは何度失敗しようとも構う事は無い。

 最終的にキオを助ける事が出来ればそれでもいい。

 今はそれだけで良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 フリットと別れて軍の施設を後にしたアセムはノートラム内のホテルに来ている。

 ノートラム内のも高級ホテルと言っても過言ではないホテルに海賊の自分は似つかわしくないと思いつつも、アセムは足を運んでいる。

 ホテルの最上階のスイートルームにアセムは訪れる。

 そこには地球から避難して来たアセムの家族、妻のロマリーに母のエミリー、そして妹のユノアがアセムを待っていた。

 

「久しぶりだな」

 

 アセムは今までの行いに後ろめたさを思いつつ何とか言葉を捻りだす。

 三人とも一目でアセムだと気が付いて驚きを隠せない。

 

「アセム!」

 

 ロマリーが涙を浮かべながらアセムの胸に飛び込む。

 

「ロマリー……ごめん……」

 

 アセムはそう言ってロマリーを抱きしめる。

 その中には13年間も音信不通にしていた事と火星圏でキオを助ける事が出来なかった事の両方が含まれていた。

 

「ううん……今はアセムが生きていただけで良いの」

 

 ロマリーもキオの事はすでに聞いている。

 だが、今だけはアセムが生きていた、それだけで良かった。

 その様子を見ていたエミーとユノアは気を利かせて部屋から出て行きアセムとロマリーを二人きりにする。

 しばらくはどちらも話す事も抱き合っていたが、二人は落ち着いて部屋のソファーに座る。

 

「アセム……今までどうしてたの?」

「それよりもロマリーに合わせたい人がいるんだ」

 

 ロマリーは13年間を埋める為にアセムの13年間を知ろうとするがそれをアセムが止める。

 そして、部屋にゼハートが入って来る。

 ゼハートもバロノークに乗り込んでノートラムに来ていた。

 流石に元ヴェイガンのゼハートが連邦軍の施設に入る訳にもいかなかったが、施設を出たアセムと合流してホテルまで来ていた。

 その後は、エミリーとユノアと遭遇しないように隠されており、二人切りになったタイミングで部屋に入って来た。

 

「ゼハートなの……?」

 

 ロマリーは信じられない物を見ているかのようだった。

 それも当然の事だ。

 ロマリーも卒業式の日にゼハートがヴェイガンの人間で何度もアセムと戦った事は知っている。

 そのゼハートが目の前にいるのだ簡単に信じられる訳がない。

 

「久しぶりだな。ロマリー」

 

 ロマリーはアセムとゼハートを何度も見る。

 話しの流れからアセムとゼハートは共に来たと言う事になる。

 ロマリーには状況がまるで分からない。

 

「どこから話そうか」

「そうだな。俺達の23年間を埋めるんだ。すべてだろうな」

 

 ゼハートもソファーに座り、三人はこれまでの23年を埋めるかのようにいろんな事を話した。

 マリィが生きており、今はファ・ザードにいると言う事。

 アセムがここに来るように誘ったが、レギルスRの調整をしたいからと来る気がない事が相変わらずであった事、アセムが海賊になった理由、アセムとロマリーは年と取りゼハートだけ

 

明らかに年が違う事が妙な感じであると言う事、ゼハートとマリィの間に息子がいると言う事、アセムがいなかった時のキオの話し、23年間でアセムもロマリーもゼハートもいろいろな事があり話しは数時間に渡るが三人にはその時間がアッと言うまで話しをしている時は昔、MSクラブにいた時に戻ったかのように錯覚をする程だ。

 

「もうこんな時間か……」

「時間が経つのは早いね」

 

 話しを始めた事は昼過ぎだった筈だが、すでにコロニー内では夜となっている。

 

「アセム達はこれからどうするつもりなの?」

「俺とゼハートはキオを助ける為に動く。そしてヴェイガンの指導者であるヴァニス・イゼルカントを討つ」

 

 それがアセム達の当面の目的であった。

 戦争を終わらせるにしても今はその手段は全く分からない。

 だが、キオとこのままにしておく訳にも行かず、ヴァニスを野放しにすればヴェイガンは破滅の未来を辿る。

 まずはキオを救出してヴァニスを討つ事がアセムとゼハートに出来る事でそれはウルフ達にも伝え賛同を得ている。

 

「ゼハートはそれで良いの?」

「ああ……俺も腹を括っているよ。ヴェイガンの未来の為にはあの女を討つしかない」

 

 ゼハートもヴェイガンと敵に回す覚悟は出来ている。

 だが、それはヴェイガンを裏切るのではなくヴェイガンの為に戦うと言う事は今も変わらない。

 

「ロマリー、君はどうするつもりなんだ?」

「お義母さんとユノアさんと一緒にトルディアに向かうつもり。ここも安全じゃないみたいだから」

 

 ヴェイガンの占領地域が増えている地球よりかは安全だが、ノートラムが戦略的に価値のある場所である以上はいつヴェイガンの攻撃を受けるか分からない。

 その為、ノートラムは安全とは言えず、ロマリー達はかつて学生時代に過ごしたトルディアに向かう予定だった。

 

「そうか……」

「そこで待ってるから、私……アセムとキオが返って来るのを」

「ああ……約束する。今度こそ必ずキオと共に帰る」

 

 13年前は果たせなかった約束。

 あの時は最後の任務でシドと遭遇して帰る事が出来なかった。

 そして、フリットとの約束であるキオを火星圏から助けて戻る約束も果たせなかった。

 だからこそ、今度こそキオと共にロマリーのいるトルディアに帰るとアセムは約束する。

 

「その時はマリィも必ず連れて行く。その時にスラッシュもロマリーに紹介する」

「約束だよ。ゼハート」

 

 今回はMSを優先したマリィだが、アセムが帰る時にはマリィも連れて二人の子供であるスラッシュも連れて行くと約束する。

 今更、23年を完全に取り戻す事は不可能だが、再び新しい未来を創る事は可能だった。

 

「約束だ。アセムの背中は俺が守るから安心して待っていてくれ」

「言ってくれるな。今はもうゼハートにだって遅れは取らない自身はあるからな。俺の方がゼハートの背中を守ってやるさ」

「そうだね。二人が揃えば無敵だもんね」

 

 ロマリーがそう言って三人は笑みを浮かべる。

 アセムもゼハートは一度は生まれが違う事から敵となったが、今またこうして互いに背を預ける事になり、学生時代の時と同じように互いを信頼している。

 一度は違う道を進む事になったが、今は同じ道を進む事になり何より心強い仲間となる。

 

「俺達はそろそろ行くよ」

「うん。二人とも気を付けてね」

 

 アセムもロマリーと離れるのは名残惜しいが次に会う時はキオと共に再会する事を誓いゼハートと共にバロノークへと戻って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球圏に到達したグレート・エデンからファ・アークが艦体を離れて連邦軍の月面基地「ルナベース」に入港し、残りの艦隊はラ・グラミスと合流する為にラ・グラミスへと向かって

 

いる。

 ルナベースはヴェイガンの一斉蜂起の時に基地司令のアローン・シモンズの裏切りによってヴェイガンの手に落ちていた。

 その後、友軍を装い連邦軍の情報をヴェイガンに流し続けて来たが、今はそれが明らかになった為、隠す必要もなく堂々とヴェイガンの戦艦が入港し、ヴェイガンのMSが防衛についている。

 

「貴様か、我が軍門に下りたいと言うのは」

「お初にお目にかかります」

 

 ルナベースの司令室にザナルドを引き連れたヴァニスが入って来て基地司令のアローンが二人を出迎える。

 基地司令のアローンが親子程年の離れているだろうヴァニスに低姿勢になっている。

 裏切りの際にアローンは極秘裏にヴェイガンの工作員を多く入り込ませている為、ルナベースの人員の大半はヴェイガンの人間で元連邦軍の人間も自分の為に連邦軍を裏切った連中なのでいざと言う時には自分を守ってくれる保障などない。

 その為、アローンはヴァニスの機嫌を損なわない事に必死だ。

 上手く取り入れば、自分のヴェイガンでの地位も確立できると言う思惑もある。

 それは当然、ヴァニスも熟知しており、ヴァニスの後ろにいるザナルドもアローンを嫌悪の目を向けている。

 

「この度は我々の受け入れを……」

「つまらん話しは良い。それよりも連邦軍は血眼になってここを奪い返しに来るだろう」

「それなら問題ないんじゃない。今の連邦軍の戦力はズタズタよ」

 

 司令室にルナベースでも数少ない元連邦軍のMSパイロット、ジラード・スプリガンが入る。

 ジラードはヴァニスを一瞥する。

 

「へぇ。貴女が新しい指導者? ずいぶんと若いようだけど」

「貴様! 姫様に向かってその口の聞き方はなんだ!」

「良い」

 

 ジラードのヴァニスに対する無礼な物言いにザナルドは声を上げるが、ヴァニスはそれを止める。

 

「その程度の事などどうでも良い。その力を私の為に使えば文句はない」

「分かってるわ。連邦とアスノ家は私が潰してやるわ」

「それで良い。行くぞ。ザナルド、アローンはここで警備を続けろ」

 

 ヴァニスはアローンに指示を出すと踵を返す。

 

「良いのですか? 姫様、あのような態度を許してしまえば……」

「構わんと言っている」

 

 ジラードのような態度を許していれば、ヴェイガンの指導者としての面子が丸つぶれになってしまう事をザナルドは危惧している。

 その上、ジラードは地球の人間である事がザナルドは気に入らない。

 

「自身に対する態度を一々気にしていては器の底が知れると言う物だろう。それにあの女は我々を裏切らんよ」

「なぜ、そのような事がお分かりになるので?」

「あの女の素性は調べてある。あの女はかつてアスノ家に男を殺されているからな」

 

 ヴァニスはすでにジラードの素性は把握している。

 その結果、ジラードはヴェイガンを裏切る事は無いと確信している。

 

「あの女の本名はレイナ・スプリガン。ジラードとは死んだ婚約者の名だ。その婚約者は実験中に事故で死んでいる。連邦軍が開発したXラウンダー能力を増幅するシステムの事故でな」

「ほう……連邦軍はそのようなシステムを開発していたので?」

 

 ザナルドはジラードの過去よりも連邦軍が開発したXラウンダー能力を増幅するシステムの方に興味があるようだ。

 ヴェイガンでもXラウンダーに近い能力を疑似的にパイロットに与えるミューセルの開発などXラウンダー能力に関する研究が進められている。

 その中にはXラウンダーの能力向上の研究もされているが、その結果としてXラウンダー能力を下手に強化すれば暴走すると言う危険性があると言う事が分かっている。

 もしも、連邦軍が開発したシステムを手に入れればヴェイガンのXラウンダー戦力が飛躍的に向上する。

 

「システムの基礎となるシステムは20年以上前にクライド・アスノが完成させている。だが、クライド・アスノはノートラム攻防戦で死んでいる。その後、連邦はそのシステムを量産化しようとした。だが、その時にはフリット・アスノも軍を退役しておりその技術を受け継げる技術者はいなかった。皮肉にもAGEシステムの存在が優秀な技術者を育てる機会を奪ってしまったのだな」

 

 クライドがガンダムZERO Ⅲαに搭載した「Xブーストシステム」を連邦軍は量産しようとしたが、その時にはすでにフリットも軍を退役した後で当時の連邦軍の技術者にはXブーストシステムを完全に理解する事が出来なかった。

 それは今まで連邦軍はクライドやフリットから得たアスノ家の技術やAGEシステムの導き出した技術、マッドーナ工房のような外部組織の技術に依存する傾向が強かったせいで技術者は現場レベルでは向上していたが新技術を開発する技術者が決定的にかけていた。

 そのせいでXブーストシステムをまともに扱う事が出来ないシステムとなってしまっていた。

 その為、事故の危険もあるが、戦局を有利に進める為にと実験が強硬された。

 人的被害を出さない為の手段としてクライドはMSの無人操縦システム、ARISUシステムを開発していたが、ARISUシステムはUIEによって奪取されている上にXラウンダーがいなければ実験すら出来ない。

 

「だから連邦軍は多少の犠牲を覚悟でデータ収集の為に軍内部のXラウンダーで実験を行ったと言う訳だ」

 

 レイナ・スプリガンとジラード・フォーネルはXラウンダー能力を持ち尚且つ事故が起きて死んでも面倒がない事からテストパイロットとして選ばれた。

 本来、Xブーストシステムを搭載されているガンダムZERO Ⅲαのパイロットのエリアルドや連邦軍最強のXラウンダーであるユーリアが選ばれなかったのは、ヴェイガンとの戦争でアスノ家が中心となっている。

 退役したとはいえフリットの発言力は大きい上にフリットを慕う兵も少なくはない事もありアスノ家の人間を使う訳にも行かず、二人とも連邦軍の中では代えの機会戦力である事も危険な実験に使いもしもの事があってはいけないと言う事で除外されていた。

 

「その時に暴走事故が起こりジラード・フォーネルは命を落としその事実は隠ぺいされた。事故の原因はジラード・フォーネルの独断行動によっておこされた物と処理されてな」

 

 まともに扱えもしないシステムを使った結果に事故が起き、連邦軍は隠ぺいを図った。

 その事故は軍に過失があるのではなく、テストパイロットのジラード・フォーネルの独断行動に起きた事であると真実を捻じ曲げてだ。

 当然、真実を知るレイナはその事実を上層部に訴えた事は容易に想像がつくが、その結果も容易に想像がつく。

 彼女が少佐から大佐に異例の昇進をした時期と重なる事から昇進を口止め料になったのだろう。

 だが、恋人であるジラードが死んだ後に事故の罪を擦りつけられた口止めとして昇進させられたところでレイナは納得が出来ない事も当然でそれが連邦軍を憎むきっかけとなり、システムを作ったまた戦死したクライド・アスノ、ひいてはアスノ家を憎むに至り、その憎しみを忘れない為とジラードが共にいると言う意味を込めてレイナは事故以降はジラードと名乗るようになった。

 

「つまり、あの女は私怨で動いている。だから裏切る事は無い」

 

 今まで所属していた軍を裏切ってまで復讐を行う覚悟がある為、ジラードは簡単にはヴェイガンを裏切る事は無い。

 

「仮に裏切ったとして私が始末すれば事足りる」

 

 そして、ジラードがヴェイガンを裏切ればヴァニスが始末すればすべて解決する問題でもある。

 

「ザナルド、私は生まれで相手を判断する気は無い。力に生まれは関係ないのだからな。故に私は力を持つ者を私の作る理想郷……エデンに住む事の出来る優良種を認める。生まれなど些細な問題なのだよ。ザナルド」

「はぁ」

 

 ザナルドは曖昧に返事をする。

 ザナルドにとっては火星圏で生まれたヴェイガンこそがエデンの住人になる事が出来、地球種はその為に滅ぼす存在でしかない。

 中には利用出来る相手がいる事も認めてはいるが、それも使えるか使えないかでの判断で同胞として見ている訳ではない。

 ヴァニスの考えは自分とは違うが、イゼルカントの娘であるのなら必ず深い考えがあるのだとザナルドは考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノートラムから連邦軍の艦隊はルナベースに対して奪還作戦を行うべく移動を開始している。

 旗艦としてAGEシステムを搭載したガンダムを失ってはいるがアンバット攻略作戦やノートラム防衛戦でも旗艦として運用されたディーヴァを中心として編成されている。

 その中には新型の量産型ディーヴァ級やアマテラス、バロックスなども編入されており、ラ・グラミス攻略だが連邦軍も持ちうる戦力の大半をつぎ込んでの大規模な作戦となっている。

 ルナベースはビッグリングを落とされた連邦軍にとっては必要不可欠な基地である事もあり、ルナベースの防衛部隊の総戦力を超える戦力を何とかかき集めていた。

 

「アルグレアス、後は任せる」

「了解したした。ご武運を……アスノ司令」

 

 

 ディーヴァのブリッジでは艦長の隣にはフリットではなくアルグレアスが座っている。

 今回の作戦ではアルグレアスが全体の指揮を取りつつ、前線でフリットが指揮を執る事になっている。

 その為、フリットは出撃の為に修理したAGE-1 フラットで出撃準備に入っている。

 

「フリット・アスノ、ガンダムAGE-1 フラット。出るぞ」

 

 作戦開始の為に各戦艦からMSが射出され、ディーヴァからもゼフルドランチャーを装備したAGE-1 フラットが出撃してそれに続きアビス隊のMSも射出される。

 MSの展開が完了し、各隊が月面に降下を始めるとルナベースからもヴェイガンのMSが展開しルナベース奪還作戦が開始される。

 フリットと共にアビス隊は連邦軍の部隊の中でも後方に展開している。

 フリットが全体の指揮を執る為、戦場を見渡すためだ。

 アビス隊はそのフリットの護衛を任されている。

 

「アビス隊各機、アスノ司令のAGE-1を守れ!」

 

 クランシェカスタムを中心にAGE-1 フラットを囲むように展開し、月面に降下している部隊への援護射撃を行う。

 ルナベースからの出て来たダナジンの頭部をAGE-1 フラットが精密射撃モードで撃ち抜く。

 ルナベースの砲台の攻撃を掻い潜りつつ、連邦軍のMSが月面に降下して行く。

 稀に月軌道上の連邦軍の戦艦からの砲撃と物量もあり連邦軍の優勢に事が運んでいる。

 

「連邦軍は本気でルナベースを奪還しようと……」

 

 ルナベースの司令室でヴァニス達は戦況を見ている。

 ザナルドは部隊への指示に怒鳴り、アローンは自分の思っている以上の部隊を投入して来た連邦軍に戦意を喪失しつつある。

 

「ディーヴァにAGE-1……それにあの時の奴もいるのか」

 

 モニターにはディーヴァにAGE-1 フラット、ジェノブレイズが映されている。

 連邦軍最強のMSに蝙蝠退治戦役の英雄が揃いヴェイガンの兵士にも敗北するかも知れないと言う恐怖が見えている。

 

「少々役不足ではあるが……まぁ良い。ザナルド、私もガンダムで出るぞ」

「はっ! 姫様のFXの準備を急がせろ!」

 

 ザナルドはすぐに指示を出す。

 状況的にヴェイガンは不利なのはザナルドも理解している。

 連邦軍にはジェノブレイズを投入している上に2機のガンダムタイプのMSを投入して旗艦は恐らくはディーヴァで士気が非常に高い。

 その上、ヴェイガンの側には1機で戦局を打開できるエースパイロットが戦場にはいない。

 この状況を打開するためにはこちらもエース級のパイロットを投入する必要がある。

 ザナルドのザムドラーグは火星圏でゼハートに大破させられて、未だに修理が終えてない。

 となれば必然的に状況を打開する為にヴァニスのFXを投入する事になる。

 指導者自ら出撃する事で単純なFXの戦力だけでなく、こちらもガンダムを投入する事で自軍の士気を高めて敵軍の士気を削ぐ事も可能だ。

 

「私も出させて貰うわ」

 

 司令室にパイロットスーツで出撃準備を終えているジラードが入って来る。

 戦力の温存でジラードを待機させていたが、いつまで経っても出撃命令が出なかった事もあり、司令室に直談判に来た。

 

「良かろう。その力、見せて貰うぞ」

 

 ヴァニスはジラードを引き連れて出撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 降下作戦が開始され、先発の部隊が月面に到達しルナベースへと進軍を開始しているが、月面方向からのビームが連邦軍の戦艦を撃ち抜いて撃沈する。

 そのビームは一撃に留まらず2発目、3発目と放たれてそのつど戦艦が撃沈される。

 

「ルナベースにあれ程の火力は情報にはなかった筈だ」

「いや……違う!」

 

 その攻撃はルナベースに新しく配置されたビーム砲ではなく、出撃して来たヴァニスにガンダムAGE-FXであった。

 FXのスタングルライフルに追加のバレルを装着する事でチャージモードを上回る火力を持つダイダルバズーカとなり、FXはダイダルバズーカを装備している。

 

「あれがAGEシステムが生み出した新たなガンダムか……ヴェイガンに下った以上は私の手で葬ってやる」

 

 AGE-1 フラットはドッズライフルを放ちながら、FXへと向かう。

 

「アスノ司令! 単独で挑むのは危険です!」

 

 セリックの静止を聞く事もなく、フリットはFXへと向かう。

 FXはCファンネルを展開してAGE-1 フラットの攻撃を防ぎ、ダイダルバズーカを放つ。

 

「アビス隊、アスノ司令の援護に向かうぞ」

 

 AGE-1 フラット1機でFXに挑むのは自殺行為も良いところでアビス隊もFXへと向かう。

 

「雑魚が何機来ても無駄だ」

 

 FXはダイダルバズーカを放つ。

 クランシェカスタムやガンダムZERO Ⅲ、ジェノアスOカスタムは簡単にかわすもデレクとジョナサンのクランシェは何とかその一撃をかわす。

 ダイダルバズーカはその威力の反面、連射が利かない為、アビス隊のMSはFXに集中砲火を浴びせるがどれもCファンネルによって阻まれる。

 

「あの防御は厄介だ。各機、囲んで仕留める」

 

 アビス隊はFXを囲むように展開する。

 FXはほとんど動く事もなかったので囲む事は容易で全方位からの集中砲火を浴びせるが、Cファンネルに阻まれてFXに攻撃が届く事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァニスがフリットの元に向かう事になり、ジラードのティエルヴァはユーリアのジェノブレイズの方に向かっている。

 ガンダムと戦えないのは不本意ではあったが、ユーリアを討つ理由もある為、ジラードは素直にヴァニスに従った。

 ティエルヴァはジェノブレイズにドッズライフルを放つが、ジェノブレイズはビームシールドで防ぐ。

 

「ちっ……やってくれるじゃない」

 

 完全に隙をついての不意打ちだが、ユーリアは完全に反応して防いだ。

 そして、ジェノブレイズはツインドッズキャノンで応戦して来る。

 ティエルヴァは何とかかわしてドッズライフルで反撃するも、ジェノブレイズには当たらない。

 

「でかい図体をしてるくせにさ!」

「ティエルヴァ……ジラード・スプリガン大佐」

 

 ティエルヴァの攻撃を回避しながら、ドッズガトリングライフルを向ける。

 ドッズガトリングライフルの放たれるビームをティエルヴァは回避しようとするが、高い連射速度を持つドッズガトリングライフルをかわし切れずに右足に被弾する。

 ティエルヴァはTビットを射出し、ジェノブレイズはドッズショットライフルで広範囲に攻撃してTビットを落とす。

 だが、ティエルヴァはビームサーベルを抜いて接近してビームサーベルを振るい、ドッズガトリングライフルを切り裂く。

 

「アンタの父親のせいであの人は!」

 

 ティエルヴァは再びビームサーベルを振るうが、ジェノブレイズはハイパービームサーベルで受け止める。

 ティエルヴァのビームサーベルではジェノブレイズのハイパービームサーベルよりも出力が低い為、次第に押し切られてティエルヴァの右腕が切り落とされる。

 そして、ドッズショットライフルを向けられる。

 至近距離で放たれたドッズショットライフルをシールドで防ぐもシールドが腕ごと破壊される。

 

「この状況では……」

 

 両腕が破壊され、Tビットも破壊されている以上ティエルヴァに攻撃手段は残されてはいない。

 その為、ジラードは後退する。

 ユーリアもルナベース奪還作戦を優先し、戦闘能力を失っているティエルヴァを追撃する事は無い。

 

「どういう事? 基地じゃなくて戦艦の方に帰投しろって……」

 

 ルナベースに帰還しようとしていたジラードに通信文が届く。

 それは後退する際にはルナベースに帰投するのではなく、ルナベースに接近中のヴェイガンの戦艦に直接帰還しろとの命令文だった。

 直接戦艦の方に戻る理由は分からないが、周囲にも被弾したヴェイガンのMSが何機かルナベースを離れて行く事が見える。

 連邦軍もルナベースの奪還が最優先である事もあり、離脱するMSには目もくれていない。

 それがルナベースではなく戦艦に帰還しろと言う命令に関係しているのかも知れない。

 敵は基地の奪還が優先で離脱するMSは狙わないと見越しても命令とも考えられた。

 

「まぁ良いわ」

 

 どの道、基地に戻ったところでティエルヴァを修理して戦場に戻るのは難しい為、ジラードは大人しく命令に従い離脱して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァニスのFXの周囲にはAGE-1 フラットやアビス隊のMS以外にも20機以上の連邦軍のMSが囲んでいた。

 FXの鉄壁の防御は大小合わせて14基のCファンネルによる物で、最大で14方向からの攻撃に対応できる。

 その防御を突破する為には15方向以上からの同時攻撃を行う為にルナベースへの降下部隊とは別の降下部隊の援護部隊を集めてFXを囲んでいる。

 

「撃て!」

 

 フリットの指示で一斉にFXに対して攻撃を開始するが、FXのCファンネルは20方向以上からの攻撃に対して止まる事なく攻撃を防ぎ続けて完全に防いで見せた。

 そして、Cファンネルは周囲のMSを襲う。

 そのスピードは並みのパイロットでは反応をする事なく、一瞬で頭部のメインカメラや四肢、スラスターが破壊されて達磨になる。

 完全に戦闘能力を奪われたところにCファンネルが胴体を貫いて破壊されるか、FXのダイダルバズーカで跡形もなく消滅させられる。

 

「AGEシステムが生み出したガンダムがここまでとはな……敵に回ると厄介だよ」

 

 クランシェカスタムがドッズライフルを放つが、Cファンネルの防御を破る事は出来ず、デレク機とジョナサン機も同様に攻撃してもFXに届く事はない。

 

「隊長! こっちの攻撃が効きません!」

「このままじゃジリ貧ですぜ!」

 

 幾ら攻撃してもFXには届かず、Cファンネルで戦闘能力を奪った上で確実に撃墜されて行く。

 

「諦めるな! 奴とて人間だ。攻撃を続ければいずれはミスを犯す!」

 

 セリックがデレクとジョナサンにそう言うが、ここまで正確にCファンネルを操り自身はほとんど動く事なく戦闘をしているヴァニスがミスを犯すとは考え難い。

 だが、攻撃を続ければ今は確実にCファンネルで防ぐ為、攻撃を続けると言う事はそれだけFXが攻撃に使うCファンネルの数が減ると言う事になる。

 

「セリック! 援護しろ!」

「アスノ司令!」

 

 AGE-1 フラットがドッズライフルを放ちながら、FXに突っ込み、アビス隊のMSが援護する。

 AGE-1 フラットの攻撃とアビス隊のMSからの攻撃をCファンネルで防ぎ、残りのCファンネルをAGE-1 フラットに差し向ける。

 CファンネルをAGE-1 フラットはシールドで防ぐが、シールドは切り裂かれるがそのままAGE-1 フラットはFXに突っ込む。

 Cファンネルを抜けたAGE-1 フラットは左手でビームサーベルを抜いてFXのダイダルバズーカを切り裂く。

 

「成程……思い切りの良い攻撃だ」

 

 CファンネルをAGE-1 フラットに差し向けるが、アビス隊の攻撃で妨害を受ける。

 

「余り無茶な戦いはしないでください。アスノ司令」

「だが、これで奴の大砲は使えん」

 

 ダイダルバズーカを破壊した事でFXの火力は無いに等しい。

 AGE-1 フラットのシールドを失ってもお釣りが来る。

 

「機体は旧式だが、蝙蝠退治戦役から生き延びて来た実力は本物と言う事か……ならば、お前から先に仕留めさせて貰う」

 

 FXは自分の周囲にCファンネルを集める。

 そして、自分の周囲に高速でCファンネルを球体を描くように回転させる。

 それによってCファンネルはFXの周囲を守るバリアとなる。

 FXは自分の周囲にCファンネルを回転させた状態でAGE-1 フラットに突っ込む。

 アビス隊からの攻撃を高速回転するCファンネルによって阻まれる。

 突っ込んで来るFXの周囲にはCファンネルがある為、触れると切り刻まれる事もありアビス隊は道を開けるしかない。

 

「私が狙いか!」

 

 AGE-1 フラットはドッズライフルを撃ちながら後退するも、今までとは違う機動力でFXはAGE-1 フラットを追う。

 機動力に差があり過ぎる為、FXは容易にAGE-1 フラットに接近するとCファンネルの動きと止めて両腕にビームサーベルを展開して振り下ろす。 

 FXのビームサーベルがAGE-1 フラットの両腕を肩から切り落とす。

 

「叔父さん!」

 

 ガンダムZERO ⅢとジェノアスOカスタムがドッズライフルでFXを牽制する。

 FXはCファンネルで防ぎながら、AGE-1 フラットから離れていく。

 

「さて……次は……」

 

 フリットのAGE-1 フラットを戦闘不能に持ち込んだところでフリットへの攻撃を止める。

 フリットは面倒ではあるが、機体が50年以上も昔のMSを改良している為、脅威とは言えない。

 だが、フリットの頭脳は更なる高性能MSを開発する事が可能な為、ここで殺す気は毛頭ない。

 フリットを戦闘不能にした時に別のターゲットに狙いをつけようとするが、不意に発作が起こる。

 仮面をつけた事でXラウンダー能力を制御して抑えているが発作は起こる。

 

「こんな時にか……」

 

 ヴァニスの視界は歪み、激しい頭痛に頭を抑える。

 だが、そんな事を知る由もないアビス隊からの攻撃をCファンネルで防ごうとするが、Cファンネルはビームの射線上からずれており、ビームを受け止める事もなく攻撃はFXに直撃する。

 

「当たった……どう言う事だ?」

 

 今の今まで完全にCファンネルで攻撃を防いでいたFXに初めての被弾。

 それも明らかにCファンネルで攻撃を防ぎ損ねている。

 直撃しても無傷ではあったが、明らかなミスであった。

 それからクランシェカスタムやデレクとジョナサンのクランシェの攻撃が先ほどまでとは違い面白いように当たって行く。

 

「雑魚が……良い気になるなよ」

 

 FXはCファンネルをアビス隊に差し向ける。

 だが、Xラウンダー能力を使った瞬間に頭痛が激しくなり、デレクやジョナサンはCファンネルの動きに完全に反応出来なかったが、頭痛が激しくなった事でコントロールが狂いクランシェには当たる事がなかった。

 

「どういう訳か分からないが、今がチャンスだ! 攻め込むぞ!」

 

 事情は分からないが、敵のミスは油断を誘う演技ではないと判断したセリックは一気に勝負に出る。

 アビス隊とその他の部隊のMSがFXに集中砲火を浴びせる。

 FXはかわす事もCファンネルでも防ぐ事がなく、直撃を受ける。

 AGE-3以上の強固な装甲を持つFXにはほとんど効果のない攻撃だが確実にFXの装甲を削っている。

 

「舐めるな! 雑魚どもが!」

 

 突如、FXが青く発光する。

 FXにはもう一つの形態が存在する。

 AGEドライヴのリミッターを完全に解除する事でAGEドライブの出力を最大まで向上させる事で全身のCファンネルのポートから余剰エネルギーを放出する事で青いビームサーベルを展開すると同時に余剰エネルギーが機体を覆った形態、FXバーストモードだ。

 FXバーストモードになったFXはCファンネルの精度は落ちるが、その分機体性能を極限まで向上させている。

 

「私の道を阻むな!」

 

 FXはでたらめに動きまわるが、その進行上のMSを破壊する。

 

「うぐぅ!」

 

 だが、仮面で抑えられているとは言え、Xラウンダー能力を使った事で頭痛は激しさを増していく。

 

「ごほっ……」

 

 そして、ヴァニスはせき込み、とっさに口元を抑えると手には血が付いている。

 力を使い過ぎたせいで発作が更に悪化して吐血するまでに至った。

 

「これ以上は無理か……」

 

 これ以上、戦闘を続けても自分の体をいたずらに傷つけるだけでそこまでして倒す価値のある敵もいない為、ヴァニスは口元の血を拭いFXバーストモードを解除して後退を始める。

 その後退先はルナベースではなく、近くまで接近していた戦艦だ。

 戦艦に帰投したヴァニスは戦艦のブリッジに通信を繋ぐ。

 

「私だ。プランDを発動させろ」

「プランDですか? しかし、ザナルド様は未だルナベースで指揮を執っておられます」

「ザナルドも覚悟の上だ。早くしろ、ザナルドの覚悟を無駄にするな」

 

 ヴァニスは戦艦の艦長に指示を出す。

 だが、艦長はザナルドがルナベースにいる事でヴァニスの言うプランDを発動させる事に難色を示している。

 

「了解です」

 

 ヴァニスに説得されて艦長はプランDの発令し、それを聞き届けたヴァニスはブリッジとの通信を閉じるとFXのコックピットで意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 ヴァニスとジラードの後退で連邦軍の進軍を止める事はヴェイガンには出来ず次々とMSが撃墜され、ついにルナベースの内部にまで連邦軍は侵入を許してしまっている。

 ルナベースの内部でも戦闘が開始され戦況は連邦軍に流れが向いている。

 

「アスノ司令、何か妙です」

 

 アビス隊はFXとの交戦を終えて、降下部隊の支援を行いつつも状況を把握しているとセリックがそう言う。

 戦闘能力のほとんど残されていないAGE-1 フラットだが指揮官機として戦場に残っている。

 

「うむ……いくらなんでも簡単過ぎる」

 

 セリック同様にフリットもこの状況が妙だと感じていた。

 ヴェイガンも連邦軍がルナベースを血眼になって奪い返しに来る事は予想が出来ている。

 それなのにヴェイガンがルナベースに配備している戦力も少なく、ルナベースに侵入する事も容易だった。

 その中にエース機と思われるMSもユーリアと交戦したジラードのティエルヴァとヴァニスのFXの2機だけだ。

 戦局を左右する重要な拠点にエース機が2機だけと言うのは考え難い。

 

「まさか……奴らは!」

 

 フリットはある仮説に思い至る。

 そうなれば、この状況は敵の思う壺である。

 

「アルグレアス! すぐに突入した部隊に撤退を指示しろ!」

「どう言う事です? アスノ司令、報告では基地の制圧も間もなくのようです」

「これは罠だ! 奴らは基地を破棄するつもりだ!」

 

 フリットの仮定はヴェイガンは始めからルナベースを守り切る気がないと言う事だ。

 戦闘中にも被弾したMSが戦闘宙域から離脱しているのを確認している。

 その時は大して気にする事もなかったが、今となっては基地を廃棄する為、基地ではなく近くに隠れている母艦に帰投していたのだとすれば説明もつく。

 エース機が少ないのも突破されても構わなかったからだ。

 基地に突入した連邦軍を巻き込んでルナベースを自爆させれば連邦軍の戦力を削ぐ事が出来る。

 連邦軍にとってはルナベースは宇宙での重要な拠点であるが、ヴェイガンにとっては差ほど価値がなかったと言う事だ。

 ヴェイガンは宇宙にはラ・グラミスとグレート・エデンの二つの拠点を持つ為、ルナベースを必死に防衛する必要はなかった。

 その為、連邦軍が奪還に戦力を注ぎ込む事を見越して連邦軍の戦力を削ぐ為にルナベースを自爆させるとフリットは考えていた。

 

「急いでルナベースから部隊を下がらせろ!」

「分かりました。すぐに命令を出します!」

 

 アルグレアスがルナベース内の部隊に撤退を指示するが、敵がいつ自爆するか分からない為、突入部隊以外の部隊もすぐに後退命令が出て連邦軍の艦隊がルナベースから離れ始める。

 

「ザナルド様! 敵MSが基地内を進行中です!」

「防衛の部隊を向かわせろ! 姫様はどうしている!」

 

 ザナルドは連邦軍の進撃を食い止める為に指示を飛ばしていた。

 ルナベースに連邦軍のMSが突入しており、明らかに劣勢になっている。

 

「姫様のガンダムは現在は後退しており予備部隊に収容されています」

 

 ヴァニスの無事を確認してザナルドは一先ず安堵する。

 ヴァニスが戦死すればヴェイガン全体の指揮が著しく低下してこの戦闘だけでなく戦争に敗北する危険性もあるが、ヴァニスが無事ならばまだ負けた訳ではない。

 

「とにかく、連邦軍を基地から叩き出せ!」

「ザナルド様! 基地内部に強力な熱源を探知しました!」

「どういう事だ!」

 

 オペレーターはルナベース内で強力な熱源を感知したと報告する。

 ザナルドもすぐに確認するが、確かに基地の最深部で強力な熱量の反応が感知出来る。

 

「おい! これはどういう事だ!」

 

 基地内部の事に精通している筈であろう、基地の元司令官のアローンに説明させようとする。

 ヴェイガンの劣勢により、基地から逃げる算段をつけていたアローンは突然の事でびくりとしつつ、ザナルドと共にモニターを見る。

 

「これは……どうして自爆装置が起動しているんだ!」

「自爆装置だと! どういう事だ!」

 

 ザナルドはアローンの胸倉をつかむ。

 その反応は基地を敵に制圧された時の機密保持の為に自爆装置が仕掛けられていた。

 その為、アローンは自爆装置を使われないように長い年月をかけて内部にヴェイガンの工作員を入り込ませていた。

 だが、何度確認してもルナベースの自爆装置が起動している。

 いつもなら、ザナルドの見幕に怯えるが今はそんな事をしている余裕はなかった。

 

「早く逃げなければ我々も基地の自爆に巻き込まれてしまう!」

「ふざけた事を!」

 

 だが、ザナルドはアローンの言っている事を信用しない。

 ルナベースの自爆装置が作動していると言う事は誰かが作動させたと言う事だ。

 ルナベースに入り込んだ連邦軍は未だに交戦中なので基地の自爆装置を作動させる事は出来ず、連邦軍がルナベースを破壊する理由はない。

 最終的に奪還作戦が失敗した時にヴェイガンに利用されないように破壊する事は考えられたが、状況的に連邦軍がルナベースを破壊する理由はない。

 

「ザナルド様! 熱量が……」

 

 オペレーターが報告する前にルナベースの自爆装置によりルナベースが破壊されていく。

 

「なっ……」

 

 そして、基地全体が大爆発を起こした。

 

「くっ……ヴェイガンめ!」

 

 フリットの仮説は当たり、ルナベースは大爆発を起こす。

 アルグレアスからの指示でルナベースに突入していた部隊は内部のヴェイガンのMSと交戦していた為、撤退が遅れてほとんど脱出する事が出来ずにルナベースの自爆に巻き込まれた。

 ルナベースから脱出する事が出来た部隊も自爆の余波で破壊される部隊も決して少なくはない。

 

「司令の言った通りに自爆するとは……」

「そんな……」

 

 ディーヴァのブリッジでもその自爆の凄まじさは見る事が出来る。

 

「アルグレアス、残存部隊を回収して宙域から離脱するぞ」

 

 フリットはヴェイガンへの憎しみを抑えつつ指示する。

 ルナベースの奪還に失敗し、戦力を大きく削られた。

 今、ヴェイガンの攻撃を受ければ艦隊は全滅しかねない。

 

「了解しました」

 

 すぐにMS隊を収容すると連邦軍の艦隊はノートラムまで撤退を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 ノートラムを出航してファ・ザードとホワイトファングと合流する為に航行していたバロノークでもその結末が届いていた。

 アセムとゼハートはブリッジのメインモニターに映されていたルナベース戦の結末に少なからず驚いている。

 そこには大きなクレーターだけが残されている。

 数日前まではそこには連邦軍の月面基地ルナベースがあったが今は何も残されてはいない。

 

「ルナベースが自爆してだと……」

「あそこにはザナルドもいたはずだぞ……」

 

 戦闘にヴァニスのFXも確認できる。

 ザナルドはヴァニスについてルナベースにいたはずだった。

 ザムドラーグはゼハートとの交戦で大破している為、ザナルドは基地で指揮を執っていた可能性が高い。

 そして、ルナベースから離脱した艦艇が確認出来ない事から基地にいた者は皆、自爆によって死んだと言う事だろう。

 ゼハートもザナルドに対しては余り良い感情は持っていなかったが、ザナルドもゼハート同様ヴェイガンの未来の為に戦う同胞だった。

 状況から考えて自爆を実行するように指示を出したのはヴァニスである事は確かだ。

 つまり、ヴァニスは自分の部下を切り捨てたと言う事になる。

 

「それでヴェイガンの動きは?」

「今はあの要塞に集結してるな」

 

 ヴェイガンはルナベースを自爆させた後はヴァニス達を回収した戦艦もラ・グラミスに合流して動きはない。

 

「キャプテン! ヴェイガンの要塞から攻撃が!」

「どこが攻撃を受けた!」

 

 ラ・グラミスの方からバロノークの位置からでも捉える事が出来る程の攻撃が確認できる。

 恐らくはビッグリングを一撃で破壊出来る威力を持った要塞砲ディグマゼノン砲である事は想像がつく。

 問題はその攻撃目標だ。

 ディグマゼノン砲の威力を考えれば大抵のところは破壊出来るだろう。

 

「キャプテン……ロストロウランが落とされました」

「まさか! ディグマゼノン砲でロストロウランを直接撃ったのか!」

 

 ルナベースの跡地が映されていたモニターに別の映像が映される。

 そこには連邦軍の地球の基地ロストロウランのある南米が映し出される。

 ゼハートもヴェイガンにいた時に襲撃をして失敗したロストロウランが映し出されるが、そこには大きなクレーターが出いていた。

 ゼハートもロストロウラン襲撃の後にディグマゼノン砲でロストロウランへの攻撃を提案したが、イゼルカントにより地球環境への被害を理由に否決された。

 ゼハートもそれで納得し、ロストロウランを落とす事に気を取られて地球環境への配慮を怠った事を恥もしたが、ヴァニスは地球の環境を一切無視してロストロウランの破壊を行ったのだ。

 その攻撃でロストロウランは壊滅的な打撃を受けた。

 完全に壊滅は免れたが、もはや基地としてはほとんど機能しないだろう。

 

「これでじゃ連邦軍は本格的にやばいぞ」

「ああ……ビッグリングだけでなくルナベースとロストロウランまで落とされたんだ。もう、連邦軍に拠点はほとんど残されてない」

 

 連邦軍の主要な基地であるビッグリング、ロストロウラン、ルナベースと陥落した事で連邦軍の拠点はほとんど残されていない。

 

「キャプテン! 全世界のネットワークがハッキングを受けています!」

「何だと!」

「全世界に映像を強制的に流されているようです」

 

 バロノークのモニターにも全世界に流されていると言う映像が映される。

 そこにはグレート・エデンのブリッジの艦長席に座っているヴァニスの姿が映される。

 ヴァニスはルナベース攻防戦の時の発作も収まっており、顔色も悪くない。

 仮面にいつものドレスだけでなく、マントもつけて王座に座っている。

 その後ろには連邦軍の制服を着ているジラードの姿も映されている。

 

「諸君、私はヴェイガンの指導者、フェザール・イゼルカントの娘、ヴァニス・イゼルカントだ。私は今ここに宣言する。私の父、フェザールは地球を侵略すると宣言した。だが、私は地球を侵略する気は毛頭ない。地球とヴェイガンはなぜ今まで戦闘をしていたと思う? それは連邦軍とヴェイガンと言う二つの陣営が存在したからに他ならない。その連邦軍ももはや虫にの息だ。だからこそ宣言する。私は地球とヴェイガンの垣根を越えた新たな国家『ネオ・ヴェイガン』の設立し私、ヴァニス・イゼルカントはネオ・ヴェイガンの女帝としてネオ・ヴェイガンを統べる事を宣言する。我らネオ・ヴェイガンは生まれや陣営、性別、思想の一切を受け入れる。我らの国家の一員に迎え入れる条件はただ一つ! 私に服従を誓う事だ! 私に服従を誓えば誰であれ受け入れよう。だが、私に刃向うのであればネオ・ヴェイガンの総力を持って叩き潰す。世界よ! 私に従え! 世界はこの私が手に入れる!」

 

 ヴァニスは世界に対して高らかに宣言した。

 地球やヴェイガンと言った生まれの垣根を越え、ヴァニスに従う者の新たな国家『ネオ・ヴェイガン』

 その映像は地球の各都市や地球圏の各コロニー、火星圏のコロニーにも流されている。

 世界はその映像を見てヴァニスに従うか刃向うか、どちらを選択するにしても歴史が大きく動いた瞬間である事は明白だった。

 

 

 

 

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