ネオ・ヴェイガンによるノートラムの制圧と連邦政府に対する和平交渉の知らせを地球の戦局の悪化に伴いトルディアに逃げて来た連邦政府の官僚はトルディア基地のその知らせを聞いている。
トルディア基地の司令室には連邦軍に復帰したフリットとその補佐官となったアルグレアス、基地の司令であるアルフレッドがいる。
その知らせと連邦政府の判断にフリットは憤っている。
「ふざけた事を! 和平だと奴らが和平などあり得ない!」
「アスノ司令、貴方は戦争をしたいのかね?」
「そうではない! ヴェイガンが和平など考える訳がない!」
政府の官僚は呆れた表情でフリットを見る。
連邦政府はこの和平を受ける気でいる。
だが、フリットはネオ・ヴェイガンが和平などあり得ないと主張する。
それはヴェイガンに対する憎しみと偏見から来る物だが、アルグレアスもアルフレッドも同感だった。
状況的に連邦軍にネオ・ヴェイガンが和平を申し出るメリットは全くない。
それなのに、和平を申し出ると言う事にはその裏に何かあると考えた方が自然だ。
しかし、連邦政府の考えは違った。
戦局で優位に立っているネオ・ヴェイガンだが、勢いとは裏腹に懐事情が厳しい事から和平を申し出ていると考えている。
ノートラムを制圧した時には量産型レギルスのような高性能量産機をある程度の数を生産できる事から、ネオ・ヴェイガンの懐事情は十分に潤っている為、それは考え難い事であった。
「アスノ司令。ネオ・ヴェイガンとの和平は政府の決定事項なのだよ」
官僚は聞き分けのない子供を諭すように言う。
彼らからすればフリットは戦争を望んでいるように見えるのだろう。
100年以上もの間、連邦政府は地球圏の絶対的な支配者で、自分達が支配する側の人間でそれが当たり前である為、官僚達は気づいてはいないのだろう。
すでに地球圏の支配者は連邦政府ではなく、ネオ・ヴェイガンの女帝ヴァニス・イゼルカントに代わっている事を。
故に自分達の方を上として現在の状況を見ているが為に自分達に都合の良い解釈をしている。
「分かりました」
「アルグレアス!」
「アスノ司令、連邦政府はネオ・ヴェイガンとの和平を望んでいます。連邦軍は連邦政府の方針に従う義務があります。貴方の行為は国家反逆罪に当たります」
アルグレアスはフリットにそう言う。
フリットを信じられないと言う表情で見る。
長年の腹心の言葉とは思えかった。
そして、司令室に警備の兵が入って来る。
「連れて行け」
「話せ! 私を誰だと思っている!」
兵はフリットの脇を抱えて司令室から連行して行く。
「全く。君は賢明な男のようだな」
「いえ、連邦軍の軍人として当然の判断です」
アルグレアスはさも当然かのようにそう言い、その後は和平に関する詳細を話し合う。
官僚との話しを終えると、司令室にはアルグレアスとアルフレッドの二人が残されている。
二人の間の空気は重い。
話し合いとは名ばかりで官僚達は自分の意見ばかりを優先し、アルグレアスやアルフレッドの意見などまるで聞く気は無かった。
「それで何を考えているので?」
「分かりますか?」
「当然だ。提督がアスノ司令を切り捨てるなど考え難い」
官僚が戻って来ない事を確認すると、アルフレッドがそう言う。
アルフレッドはアルグレアスがフリットを拘束する事に疑問を持っていた。
アルグレアスがどれだけフリットの事を慕い信頼しているかは良く分かっている。
そのアルグレアスがフリットを切り捨てるなど考え難い。
だが、アルグレアスはフリットを拘束するように指示を出した。
故にそこのは裏があると考えた。
「今の連邦軍ではアスノ司令はその力を発揮は出来ない。レクセル准将、貴方に頼みがあります。貴方は連邦軍の外には多くの繋がりを持っておられる。その人脈を活かしてアスノ司令を連れ出して欲しい」
アルグレアスは軍の立場では自分の方が上ではあるが、アルフレットに頭を下げる。
今の連邦政府はネオ・ヴェイガンと和平をする気でいる。
だが、ヴァニスが大人しく和平を結ぶとは思えない。
アルグレアスもフリットのやり方を支持している。
ヴェイガンを一人残らず殲滅すると言う事には全面的には指示は出来ないが、戦争を終わらせる為にはそれしかないかも知れないと言う事も理解はしている。
連邦軍が逃げ腰である以上はフリットの意見は通らないだろう。
アルグレアスはフリットを失脚させた上で独自に動いて貰う為にフリットを拘束するように指示を出した。
そして、アルフレッドは軍の外に多くの人脈を持ち、その人脈を使えば十分にネオ・ヴェイガンと戦う事も可能だと判断した。
「確かに私の人脈を使えば出来なくはないが……だが、提督はどうする。和平にはユーリアのバロックスも同行するが、ディーヴァとガンダムは連邦軍にはもうないんだぞ」
和平交渉の艦隊にはユーリアの搭乗艦のバロックスが旗艦となる。
アルグレアスもバロックスに乗艦する予定となっている。
その艦隊にはディーヴァは同行しない。
ディーヴァは蝙蝠退治戦役から大規模な戦闘では旗艦として連邦軍の象徴とも言える戦艦で、ヴェイガンが母体となっているネオ・ヴェイガンを刺激しない為と言う理由でトルディアに残っている。
その上、連邦軍には今はガンダムが存在しない。
キオのAGE-3はヴェイガンに鹵獲されたが、今はコアファイターが回収されてホワイトファングに搭載され、フリットのAGE-1 フラットとエリアルドのガンダムZERO Ⅲは廃棄される事が決定している。
その理由もディーヴァが同行しない理由と同じで、エリアルドに至ってはすでに地上に転属となっており、今はディーヴァから降りて地上にいる。
そんな状況でフリットまでいなくなれば連邦軍に勝ち目はなくなる。
「私とて無駄死にをしに行くつもりはありません。もう一つ、面倒事を頼みます。何とかして宇宙海賊ビシディアンに連絡をつけて欲しい」
「なぜ?」
「和平交渉の場はネオ・ヴェイガンの旗艦グレート・エデンとなっている。恐らくそこにキオ・アスノがいるだろう。聞けばビシディアンの首領はアスノ司令のご子息のアセム・アスノと言う事らしい。我々は和平交渉の場でキオ・アスノの奪還作戦を強行する。その時にビシディアンにも動いて欲しい」
和平交渉の場で連邦軍が騒ぎを起こしているうちにビシディアンにキオを救出させる。
その為に、ビシディアンを動かして欲しかった。
アルフレッドの人脈ならばビシディアンにそれを伝える事が出来れば作戦の成功率は大きく変わって来る。
「今の連邦軍に出来る事はそのくらいしかない。ビシディアンの援護にはディーヴァをつける。頼めますか?」
「無茶を言ってくれる」
「状況が状況です」
すでに連邦軍に勝機は無いが、だからと言ってヴァニスに屈する訳にもヴァニスの支配を認める訳にはいかない。
それを打開する為にはガンダムを受け継いで来たアスノ家の力が必要だとアルグレアスは考える。
ディーヴァをビシディアンの援護につけるのはディーヴァにはAGEシステムの一角を担うAGEビルダーが搭載されている。
今の連邦軍にはAGEシステムを使いこなす事は出来ない為、ディーヴァも連邦軍から離す必要もあった。
その為に自分達が捨て駒になっても構わないほどにだ。
「分かった。私も出来る限り手を尽くして見る」
「私の方はディーヴァのエイナス艦長とアビス少佐を説得をしてきます」
ディーヴァもまた、連邦軍を離れて行動する為、艦長のナトーラやアビス隊の隊長のセリックにも賛同を得る必要がある。
だが、アルフレッドの人脈で支援するとはいえ、軍を抜けて独自に行動する事は容易ではなく、ナトーラ達が賛同するかは話して見るまでは分からない。
話して見て、賛同を得られないどころか官僚に告げ口をされる危険性もあるが、今は信じるしかなかった。
「そちらは任せるよ」
ディーヴァの方はアルグレアスに任せて、アルフレッドは方々に手を尽くしてある場所に連絡をつける準備を始める。
「久しぶりに連絡が来たと思えば厄介な事を頼んで来るのね」
「今更だろ」
数時間後、アルフレッドはホワイトファングに連絡を付けていた。
ホワイトファングの艦長のエリーゼとは旧知の仲で今でも互いの連絡先は把握していたが、エリーゼはホワイトファングで行方を暗ませている為、連絡を付けるのに時間がかかったが、どうにか連絡を付けて状況を説明する事が出来た。
「俺達に誘拐をしろってか」
「有体に言えばそうなる」
フリットを連れ出すと言えば聞こえが良いが、頼んだ事はフリットを誘拐しろと言う事だ。
フリットは連邦軍によって拘束されている為、正規の手段では連れ出す事には手間がかかる事もあり、強硬策を取るしかない。
「だが、まぁ今の連邦が弱腰ってんならあの時のように勝手に動くしかねぇわな」
今の連邦政府は蝙蝠退治戦役の時のように本気で戦う気がない。
それで世界が平和になるならまだしも、先に待っているのはネオ・ヴェイガンによる支配しかない。
それを良しとしないのであれば、軍から離れて戦うしかない。
連邦軍に属さずとも戦う手段は多い。
「それにフリットとは知らない仲じゃねぇからな。受けても構わないよな?」
「まぁね。うちとしてもフリットにいてくれると何かと助かるわ」
フリットは技術者としてもパイロットとしても優秀な為、ホワイトファングの戦力の増強にも繋がる。
「決まりだな」
「助かる。段取りは後から打ち合わせするとして、もう一つ頼みたい事があるんだ。エリーゼ達は宇宙海賊ビシディアンと連絡を付ける手段はあるかい?」
「なくは無いけど、それがどうしたの?」
「提督からの頼みで連邦軍が和平交渉の席で騒ぎを起こすからキオ君の奪還に動いて欲しいと伝えて欲しい」
エリーゼ達がビシディアンに連絡がつけられると言うのであれば手間が省ける。
連邦軍が起こした騒ぎに乗じてビシディアンがキオの奪還に動くように伝えて貰う。
「和平の席で騒ぎを起こすと不味いんじゃないの?」
「提督は覚悟の上だと思う」
そうでなければ、フリットを軍から離れるように仕組む事も宇宙海賊に協力を頼む事は無いだろう。
「分かった。こっちの方でアセムに連絡を付ける」
「ビシディアンの件は私達に任せて貰えば大丈夫よ。アルフはフリットの事を頼むわ」
「分かってる。昔に一度似たような事はやっているから問題はないし、あの時とは違うからやり易いさ」
アルフレッドは過去にクライドに言われて新型MSの狂言奪取を行っている。
あの時は基地にはばれないように注意していたが、今回はそこまで気にする必要はない。
フリットを連れ出すに前に基地の兵に指示を出せばフリットを連れ出す事は訳がない。
その後、作戦の詳細を確認してアルフレッドはホワイトファングとの通信を終える。
アルフレッドとの話しを終えたアルグレアスはトルディアの宇宙港に停泊しているディーヴァを訪れていた。
いきなりの訪問でディーヴァのクルーは無い事かと慌てたが、今は落ち着いてアルグレアスは艦長室にいる。
艦長室にはアルグレアスの他、ナトーラとセリックの二人だけだ。
ナトーラはアルグレアスを前に緊張しきっており、明らかに萎縮している。
今の今まで連邦軍の総司令官であるフリットが乗艦していたのに提督を前に萎縮するナトーラにセリックは軽く呆れるが提督自ら事前に通達もなくディーヴァに来ると言う事は余程重要且つ火急な要件である事は想像がつく。
「君達は今回の和平をどう見る?」
いきなりの質問にナトーラは狼狽え、セリックに助ける視線を送っている。
セリックは仕方がなくナトーラの代わりに答える。
「失礼ですが、今回の和平交渉に応じると言う判断には疑問があります。ネオ・ヴェイガンはノートラムを陥落させる際にほとんど自軍に被害を出す事なくノートラムの防衛部隊を殲滅しています。そこまでの戦力を持ちながら、和平を言って来るとは考えにくいです。恐らくは何かしらの罠を張っていると思われます」
「同感だ」
セリックの政府を批判する意見にアルグレアスも同意する。
政府を批判する事に同意した事でセリック達も少なからず驚いている。
「今回の一件でアスノ司令は更迭された」
「何ですって!」
セリックとナトーラはフリットが更迭された事を知り驚いている。
フリットはつい最近までディーヴァに乗艦し、役職的に二人と関わる事は多かった。
その時にセリックとは感情が先走り易いフリットと論理的に考えるセリックとは意見が食い違う事もあり、ナトーラは才能を見出されつつもきつい言葉を投げかけられる事が多かった。
だが、それでもフリットの能力を知っている為、この状況でフリットを更迭する事が連邦軍にどれだけの損失を与えるか分からない訳がない。
「おかしいとは思っていました。あのアスノ司令が和平など認める訳がないですからね」
セリックは和平に応じるとなった時にフリットが認める訳がないと違和感を持っていたが、フリットが更迭されたのであれば納得がいく。
恐らくはセリックの考えていた通り、フリットは和平を認めず、政府の官僚によって更迭されたのであろう。
「その事については今は良い。それで君達にやって欲しい事がある。私は和平交渉を応じるつもりは毛頭ない。その場でビシディアンがキオ・アスノの奪還作戦を行う筈だ。君達にはトルディアで待機命令が出るがその援護を頼みたい」
「あの……それってまずい事ですよね……」
「当然だ」
アルグレアスはナトーラに言い切る。
ディーヴァはトルディアにて待機を命じられているのに命令を無視する上に宇宙海賊の援護をするのだただで済む訳がない。
「だが、今の連邦軍ではネオ・ヴェイガンには勝ち目はないだろう。ディーヴァは希望なのだよ。蝙蝠退治戦役ではディーヴァは連邦軍を離れて独自に行動してアンバットを叩いた」
「でもそれは当時の艦長がクルーを脅していたからですよね?」
「艦長、それについては色々と怪しい点がある。グルーデック・エイノア艦長がクルーを脅したとはいえ数か月の間も救援の要請もなく彼に従っていたとは考え難い。幾ら銃で武装をしていても単独で数か月もクルーを拘束し続ける事は不可能だ。複数での犯行だと考えると多くの人員、少なくともディーヴァの主要クルーは自分の意志で艦長に協力していたと考えられる方が自然だ。政府や裁判官も艦長が脅してやらせたと言う事は素直に信じてはいないはず。だが、罪を彼一人に擦りつければアスノ司令を初めとしてアンバット攻防戦を生き残った兵を連邦軍に戻る事が可能だ」
今の時代、当時グルーデックが一人でクルーを脅して独断行動を取っていたなど信じる者は少ない。
戦艦一隻を単独で占拠する事など不可能だからだ。
だが、それが事実として残っているのは当時のディーヴァのクルーとディーヴァやガンダムを連邦軍に戻したいが為である事は容易に想像がつく。
「その通りだ。当時の連邦軍はヴェイガンの正体を知りつつも情報統制によりUEは異星人やモンスターだと一般市民に教え込んで裏ではヴェイガンに通じる者もその時代から存在していた。ディーヴァはアンバットを落とす為に連邦軍を離れて戦っていた」
当時の真相を知る者は多くはないが、アルグレアスもフリットから当時の信じるは聞いている。
「つまり、我々に50年前のディーヴァと同じ事をしろと言うのですね」
「そうだ」
「艦長、君が決めるんだ」
「私がですか!」
セリックの言葉にナトーラは立ち上がる勢いで驚く。
ナトーラには酷だが、この決断はナトーラがするべき決断だった。
ナトーラの決断でクルーの進む道が決まるが、これから先何度もそんな決断に迫られる事があるだろう。
セリックもナトーラの至らないところをフォローをする気はあるが、重要な決断は艦長であるナトーラがすべき決断だ。
「私達……連邦軍の軍人の役目は……市民を守る事です……なので……それが必要であるなら……私、やります」
ナトーラはオドオドしながらだが言い切る。
言い切った後に少し青ざめている。
今までフリットやセリックに頼り切っていたナトーラには一世一代の決心だったのだろう。
ナトーラが決断にセリックも意を唱える事はしない。
ナトーラが決断したところで、今後のディーヴァの行動を話し合う。
トルディアを制圧したネオ・ヴェイガンのグレート・エデンは和平交渉の場へと向かっていた。
和平交渉の場はかつてはビッグリングのあった宙域を指定してある。
未だに宙域にはビッグリングの残骸や戦闘で破壊されたMSや戦艦の残骸が漂っている。
「陛下、連邦政府から和平交渉に応じるとの返答がありました」
ブリッジでヴァレリの報告を艦長席に座るヴァニスは頬杖をつきながら聞いている。
連邦政府が和平交渉に応じると言う事は8割方はヴァニスの思惑通りの事が起きていると推測できる。
「ここまで予想通りだとつまらんな」
ヴァニスはそう零す。
今の連邦政府に和平をチラつかせればすぐに食いつく事は容易に想像がついたが、ここまで簡単に事が運ぶとつまらない。
「予想通りで良いではありませんか。それよりも陛下、タチアナに何かをさせているようですが、一体何を? それにレギオンをグレート・エデンに積んで来たようですが、FXがあれは必要ないのでは?」
「お前に説明する必要があるか?」
「いえ……そう言う訳では……」
現在、グレート・エデンにはFX以外にあるMSが積まれている。
ガンダムレギオン、FXの完成により使われなくなったガンダムレギルスの一号機をFXのデータや技術を使って全面改修したガンダムだ。
性能的にはFXと対等の性能を持つガンダムだが、FXとは違いAGEドライヴを搭載していない上にその性能から扱えるパイロットもいない事から予備機となっている。
FXがある以上、レギオンを使う必要はないが今はグレート・エデンに積み込まれている。
更にはヴァニスはヴァレリには何も言わずにタチアナに指示を出している。
ヴァレリにはその内容が知らされていないが、余り執拗に聞いてもヴァニスの機嫌を損ねるだけだ。
余り面白くはないが、ヴァレリは引き下がる。
「お前は私に黙って動いている。お互い様だ」
ヴァニスの言葉にヴァレリは心臓を掴まれたように感じる。
ヴァニスの言う通り、ヴァレリもヴァニスには黙って動いている。
その行動は公になればヴァレリは失脚しかねない。
その事実をすでにヴァニスは掴んでいる。
それはつまり、いつでもヴァレリを失脚する事が可能である事を示している。
「陛下……それは」
「気にする事は無い。お前にもいずれ働いて貰う時が来る。その時までお前を使ってやる」
ヴァニスはそれを理由にヴァレリを追放する気は無いらしい。
しかし、ヴァニスに弱みを握られている事には変わりはない。
ヴァレリはヴァニスに弱みを握られ、ヴァニスに逆らえない状況に追い込まれ屈辱を抑えつつ、グレート・エデンは和平交渉の場に向かう。
フリットを連れ出す為に、ホワイトファングはファ・ザードとバロノークと別行動でトルディアに接近している。
すでに連邦軍の艦隊はトルディアを出航し、和平交渉の場へと向かい、ディーヴァもトルディアを出航している。
今、トルディアには必要最低限のMSしか残されてはいない。
ホワイトファングからMS隊が射出される。
「キースと、ライルは手筈通りに動け。ファムとクリフォードは俺に続け」
ウルフのGファング、ファムのゼイ・ドルグ、クリフォードのガンダムAGE-3 トラインはキースのGバウンサーとライルのジェノアスキャノンⅡと別ルートからトルディアに向かう。
GバウンサーとジェノアスキャノンⅡはそのまま直進してトルディアに接近する。
すると、トルディアからアデルマークⅡが数機接近して来る。
「こちらはトルディアの守備隊だ。所属不明機、すぐに所属と接近する目的を告げよ」
接近するアデルマークⅡからオープンチャンネルでGバウンサーとジェノアスキャノンⅡに警告される。
その後、通常回線に切り替わる。
「ご苦労さん。手筈通りに頼むぞ」
「ああ……分かっている」
GバウンサーはアデルマークⅡにドッズライフルを放つ。
ジェノアスキャノンⅡもドッズキャノンを放つ。
2機の攻撃をかわしたアデルマークⅡもドッズライフルで応戦する。
交戦が始まるが、どちらも決定的な攻撃を行う事は無かった。
この戦闘自体、出来レースだからだ。
アデルマークⅡのパイロットもGバウンサーとジェノアスキャノンⅡが囮で別働隊がトルディアに接近している事は知っている。
だが、後で政府から追及があった時に言い逃れる為に接近する所属不明のMSを迎撃していると言う事実を残す為の戦闘を行っている。
どちらも多少の損傷は出来レースだとばれない為に適度に被弾する予定だが、どちらも撃墜はされないように事前に打ち合わせがしてある。
GバウンサーとジェノアスキャノンⅡはトルディアに向かうウルフ達が戻るまで適当に戦闘を行う。
キース達と別れたウルフ達はトルディアに取りついている。
トルディアの外部ハッチに接近すると、外からハッチが開閉する。
「お待ちしていました」
そこにはシャルドール・ローグが3機がウルフ達を待っていた。
シャルドール・ローグのパイロットもまた、今回の事を聞かされており、内部にウルフ達を入れる役目を任されている。
彼もトルディア基地に所属する連邦軍の兵士だが、トルディアに配備されているシャルドール改を急遽、マッドーナ工房から取り寄せた部品を使いシャルドール・ローグに偽装したMSを使っている。
それはいざと言う時にはトルディア基地の軍人が手引きしたのではなく、海賊が手引きしたと言う事にする為だ。
今回の一件が終われば、シャルドール・ドールもシャルドール改に戻される為、後で追及されても幾らでも言い逃れが出来る。
「首尾はどうだ?」
「すでに司令のAGE-1は確保してあります」
シャルドール・ローグの奥には無人のガンダムAGE-1 フラットがある。
政府の方針でガンダムタイプのMSの破棄が決定した為、使わないのならフリットと共にAGE-1 フラットも持ち出す為に表向きは別のコロニーに移送された事になっているが、極秘裏に持ち出されている。
「分かった。ファムはここに残って待機。クリフォードは俺について来い」
予想外の事態の為にファムをその場に残して待機させて、ウルフとクリフォードはトルディアの内部に向かう。
トルディアの内部に侵入した2機はトルディア基地を目指す。
囮の部隊が戦闘に入った時点で、トルディア内には緊急事態警報が発令され市民の避難が行われているので今は市民はシェルターに避難している。
その為、多少派手に戦闘しても市民への被害は出ないで済む。
「クリフォード、市民が避難してるからって油断するなよ」
「分かってますって」
クリフォードはいつも以上に緊張している。
今までは後ろのキャロルが乗り、フォローをしてくれるが、AGE-3のコアファイターは単座式で今は一人で操縦している。
「来るぞ」
上空からクランシェが3機接近してドッズライフルを放つ。
Gファングは飛び上がり、バルカンでクランシェを牽制する。
AGE-3 トラインはホバー走行で後退しながら回避する。
「ここはお前に任せた。何、連中もプロだ。うまくやってくれる」
Gファングはトルディア基地に向かい、クランシェはAGE-3 トラインに向かい、MS形態に変形すると地面に着地してドッズライフルを放つ。
「糞! 本当に落とす気がないのかよ!」
3機のクランシェの攻撃をかわすのが精一杯ですでに何発がは被弾している。
厚い装甲を持っている為、直撃を受けても致命傷にはならない。
向こうも事情が分かった上での戦闘だと分かっていても被弾するのは面白くはない。
「こっちも反撃させて貰うぜ!」
AGE-3 トラインはビームトンファーを展開して、強引にクランシェに接近するとビームトンファーを振るい、クランシェはシールドで防ぐが、シールドごと腕を切り裂かれる。
腕を切り落とされたクランシェは後退しながら頭部のビームバルカンを放ち、別のクランシェがビームサーベルを振り下ろし、AGE-3 トラインは腕のシグマシスキャノンで受け止める。
トルディア基地に到着したGファングは基地の防衛のMSと交戦している。
残っているのはシャルドール改やアデルと言った旧式のMSしか残されてはいない。
Gファングはビームサーベルを抜いて構える。
「白い狼を相手にしてるんだ。手加減の必要はない。俺が訓練をつけてやるよ」
「お願いします」
アデルがビームサーベルを抜いて、Gファングにビームサーベルを突き出すが、Gファングは機体を少し伏せてビームサーベルをかわした腕でアデルの懐に入り込むとビームサーベルでアデルの腕を切り、シールドでアデルを持ち上げて投げ飛ばす。
「次だ」
「行きます!」
シャルドール改とアデルが同時にビームサーベルで切りかかるが、Gファングはアデルのメインカメラをバルカンで潰して、体当たりで弾き飛ばす。
シャルドール改の斬撃をビームサーベルで受け止めて押し戻すとビームサーベルでシールドを切り裂き、シールドからビームソードを展開して、シャルドール改の両足を切り裂いてシャルドール改は基地に倒れる。
その後も防衛部隊は果敢にウルフに挑むも相手にはならず、全機が戦闘不能となる。
「たく……もう終わりか。最近の若いやつらはてんでなってないな」
防衛部隊との戦闘を終えたウルフは事前情報でフリットが更迭されているとされる、独房を探す。
「ここか……」
独房を見つけると、Gファングは独房の屋根を無理やり破壊して剥がす。
「よう、フリット。何か面倒な事になってるじゃねぇか」
ウルフは外部スピーカーで独房にいるフリットに話しかける。
当然の事態に戸惑うフリットだが、Gファングが手を差し伸べてフリットがその手に乗るとGファングはフリットの乗せた手を機体の胸元まで持って来る。
「これはどういう事だ。ウルフ?」
「お前の右腕からの頼みでね。お前を拉致りに来たんだよ」
ウルフは機体のハッチを開けて事情を説明する。
まだ、混乱しているがフリットもこれがアルグレアスの差し金であると言う事は理解できた。
「乗れ!」
「済まん」
フリットはGファングに乗り込むとハッチが閉じる。
「フリットは回収した。撤退するぞ」
クリフォードと共にトルディア内部から離脱する。
連邦軍も一応は追撃をするも、Gファングに返り討ちに会い戦闘不能となりGファングとAGE-3 トラインはトルディアの外壁部に逃げ込む。
連邦軍の追撃を逃れた2機はファムと合流する。
「これはどういう事だ? ウルフ、なぜ海賊が」
「落ち着けよ。こいつらはトルディア基地の連中だ」
フリットは海賊が運用するシャルドール・ローグがいる事でウルフに掴みかかるが、これが偽装である事を説明されて納得する。
「お前は自分のガンダムに乗れよ」
フリットはGファングからAGE-1 フラットに乗り換える。
「ご武運を」
AGE-1 フラットが起動し、トルディアの外部ハッチが開きウルフ達はトルディアの外に離脱する。
それをシャルドール・ローグは敬礼をして見送った。
「エリーゼ! トルディアから離脱した!」
「分かったわ」
ウルフ達がトルディアから離脱した事で、キース達もホワイトファングまで撤退し、ウルフ達を回収したホワイトファングはトルディアから離脱して行く。