戦闘宙域から離脱したディーヴァはデブリベルトに身を隠している。
安全圏まで離脱するまで、アビス隊とキオが護衛についていたが、追撃がなく安全を確認した事でMSはディーヴァに帰投している。
ディーヴァに着艦したFXからキオが降りる。
「キオ!」
FXから降りたキオにウットビットが駆け寄って来る。
「ウットビット……」
ウットビットと久しぶりに会いキオも帰って来たと言う事を実感して顔を綻ぶ。
そして、キオがFXで戻って来た事を聞きつけたウェンディも格納庫に駆けつけるとキオを見つけて駆け寄る。
「ウェンディ、ただいま」
「お帰り。キオ」
「それよりも捕まっている間何もなかったのかよ?」
「うん。大丈夫だったよ」
ヴェイガンに捕まって以降、手荒な扱いを受けていなかったかとウットビットは心配するがキオは否定する。
捕まっている間はキオも自分でも驚く程の高待遇であったが、ここでその事を言ったところでそんな扱いになった訳を説明が出来ない為、二人には手荒な扱いをされていなかった事だけは言えば良い。
「キオ、悪いがいろいろと聞きたい事がある。すぐに艦長室に来てくれないか?」
セリックが会話に割り込んで来る。
手筈ではビシディアンがキオを救出する筈だったが、予想外にもキオが新型ガンダムに乗っていた為、セリック達でも事情を把握する必要があった。
本来ならばすぐにでも艦長室で話しを聞きたいところだったが、キオと仲の良かったウットビットとウェンディがキオと少し話す時間は待ったが、事情が事情なだけに余り待っている余裕もない。
「分かりました。ウットビット、このガンダムを頼むよ」
「任せとけ!」
キオは話しを切り上げてセリックと共に艦長室に向かい、ウットビットはロディと共にFXの解析作業に入る。
艦長室でキオはナトーラとセリックと事情を説明する為にやって来る。
キオの無事を直接確認したナトーラは安堵している。
一方のキオはこの場にフリットがいない事に気が付く。
ここまで護衛する時にもフリットと通信で話す事もなかったが、この場にいない事に違和感を感じていた。
「あの……爺ちゃんはどうしたんですか?」
キオが二人に尋ねるが、セリックの表情は余り変わらないが、ナトーラの方は明らかに狼狽している。
「アスノ司令は現在、連邦を離れている。それは俺達も同じだ」
セリックは説明の出来そうもないナトーラに代わり今のディーヴァの置かれている状況にフリットがここにいない理由と連邦を離れてどうしているかをキオに説明する。
それを聞いたキオは余り動揺した様子はない。
「そうですか……」
「意外だな。この話しを聞けば少しは動揺すると思っていたが」
ナトーラが狼狽していたのも、あれだけ慕っていたフリットが連邦軍を離れて今は別行動している事でまだ幼いキオが動揺するかも知れないと考えていたからだ。
しかし、キオは動揺する事もなくその事実を受け止めている。
「爺ちゃんは凄い人だから大丈夫だと思います」
キオは幼い頃からウルフに武勇伝を聞かされている。
その中には蝙蝠退治戦役でディーヴァが連邦軍を離れて行動していたことも聞かされている。
その時の事もあり、キオはフリットの事は心配はしていない。
フリットならばどんな状況でも無事でいると信じているからだ。
「そうか……では本題に入る。キオ、あのガンダムはどうした? 君にガンダムを奪取出来るとは思えない」
フリットの事やディーヴァの置かれた状況を話した為、次はキオに質問する番だ。
キオのパイロットとしての資質や能力はセリックは疑う余地はない。
だが、MSのない状況でFXを奪取出来るとは思えない。
その為、キオがなぜFXに乗っていたかを確認しなければ安心は出来ない。
「あれはヴァニスさんに渡されました」
「ヴァニスさんって……ネオ・ヴェイガンの女帝よね」
「にわかに信じられんな……」
FXはAGEシステムが新たに生み出したガンダムでセリック達も交戦する可能性を考慮してビシディアンから提供された記録やルナベース奪還作戦で交戦している為、FXの性能が従来のMSとは段違いである事は知っている。
それだけのMSをキオに渡すなど考え難い。
「でも、ヴァニスさんに渡された事は本当なんです」
「分かった。今はそれを信じるとしてなぜ、彼女はキオにガンダムを渡したのかは聞いていないのか?」
まだ、疑問は残るが今はキオの言っている事を信じて話しを進める。
ヴァニスがキオにFXを渡したと言う事が事実であるのなら、その理由が疑問になる。
渡したとなればそれ相応の理由があり、その理由を聞けば疑問も晴れるかも知れないからだ。
「分かりません。でも、ヴァニスさんはあのガンダムで自分を殺しに来いと言っていました」
「えぇ!」
「一体、何を考えている? キオに自分を殺させる? 何の為に……」
キオの答えにナトーラは驚き、セリックの方を見てセリックはその理由を考える。
自分を殺しに来いと言う事は言葉通りに捉えるとしてその理由が分からない。
ヴァニスがキオに自分を殺しに来いと言う事はヴァニスは自身の死を望んでいると考えられる。
「彼女は死にたがっているのか?」
「違うと思います。彼女は死ぬ気はありません」
キオはそう断言する。
少なくともキオにはヴァニスが死にたいと思っているようには見えない。
「彼女は何を考えているんだ」
「そこまでは分かりません。でも、僕はヴァニスさんを止めたいです」
キオにもヴァニスが何を考えてキオにFXを渡したのは分からない。
だが、キオはヴァニスを止めたいと言う事だけははっきりと言える。
「止める? 彼女の要望通りに彼女を殺すと言うのか?」
「違います。それじゃヴァニスさんと同じです。僕はヴァニスさんを止めたいんです。殺したい訳じゃありません」
あくまでもキオはヴァニスを止めると言う事に拘る。
それは殺す事ではない。
殺してしまえば敵をすべて滅ぼすと言うヴァニスと同じでキオはヴァニスのやり方を否定すると言う意味も込めて殺すのではなく止めようとする。
「だがどうする? 彼女は言って聞くとは思えない。ならば、殺すしかないだろう」
セリックは直接的な面識はなくとも、ネオ・ヴェイガンの今までの戦いを見る限り、ヴァニスを説得できるとは思えない。
「今の僕に出来る事はヴァニスさんから正面からぶつかる事です。ぶつかってヴァニスさんを止めます。止めたいんです」
「なぜそこまで、止める事に拘る?」
「僕も良く分かりません。ヴァニスさんの元でヴァニスさんの考えを聞いて、僕はそれを認める事は出来ませんでした。でもそれだけじゃないんです。多分……ヴァニスさんが悲しそうにしていたから……」
キオはあくまでもヴァニスを止める事に拘っている。
それは単にキオがヴァニスのやり方を認める事が出来ないと言う事以上にあの時のヴァニスがどことなく悲しそうにしていた事がキオには引っかかっていた。
それが何なのかはキオも分からない。
だが、キオはヴァニスを止めたいと言う事だけははっきりと言えた。
「ふぅ……艦長、どうする?」
「私はそれに関してはキオ君に一任したいと思います。今の私達は正規の軍人と言う訳でもないですし、ヴァニスさんに対応できるのもキオ君しかいませんし……」
どの道、ヴァニスとまともに戦えるのはディーヴァではキオしかいない。
そのキオがヴァニスを殺さずに止めると言って聞かない為、それを認めるしかない。
キオもヴェニスと戦わないと言っている訳でも無い為、無理にキオの考えを否定しても仕方がない。
「分かった。艦長がそういうなら俺も従おう」
セリックとしてはまだ、完全に納得がいった訳でも無いが、ネオ・ヴェイガンとの戦いに勝利する為に必ずしもヴァニスを殺す必要もないのも事実で、ここでヴァニスを殺すべきと主張したところで今後に響きかねない為、この辺りで引いた。
「ありがとうございます。それでナトーラ艦長、セリック隊長、ディーヴァはどこに向かうんですか?」
「私達はコロニー『サマーウォール』に向かう予定よ」
「そこにはレクセル司令の古い知人がいてディーヴァを匿ってくれるそうだ」
ディーヴァは安全を確保した上で、コロニー「サマーウォール」に向かう手筈となっている。
そこにいるクレマン家の現当主のレオナール・クレマンにアルフレッドが事前に連絡を付けてディーヴァを匿って貰える事になっている。
レオナールとアルフレッドは50年来の付き合いがあり、レオナールも事情を聴いて二つ返事で受け入れた。
「その後、体勢を整えた上でネオ・ヴェイガンの動向を見て決めます」
単艦で出来る事は限られており、今は体勢を整えた上でネオ・ヴェイガンの動向を把握して動くしかなかった。
連邦軍との戦闘を終えたグレート・エデンも宙域を離脱して移動をしている。
その先はラ・グラミスでもノートラムでもない。
戦闘を終えたその足である場所に向かっていた。
「それで納得の行く説明はして貰えるのかしら?」
グレート・エデンの親衛隊の詰所でタチアナが親衛隊を代表してヴァニスに問い詰めていた。
いつもならヴァニスに対して絶対的な忠義を持っているコーデリアも今回ばかりはタチアナに何も言わない。
タチアナが問い詰めているのは先の戦闘での事だ。
誰が見てもキオにFXが奪取される事はあり得ないと思っている。
キオはどう見ても子供で見かけによらず高い身体能力を持ってたり、特殊な武術や戦闘技術を会得しているようにも見えない。
その上でタチアナはFXのコックピットの調整を指示されている。
そこから考えるとヴァニスは意図的にキオにFXを渡したと言う事になる。
仕事としてヴァニスの下についているタチアナも敵に塩を送る真似をしたヴァニスの真意を聞かないでいると言う事は出来ない。
コーデリアもヴァニスの真意が知りたいが為に何も言わないのであった。
「まさかさ、あの子にガンダムを渡したって事は無いわよね?」
いきなりシェリーが核心を突く質問を投げかけてヴァニスの返答に皆の注意が向けられる。
「だとしたらどうする?」
ヴァニスも隠す気は無い為、素直に答える。
その答えに親衛隊は少なからず驚く。
「私達はそのせいで死にそうになったんだけど」
シェリーはあからさまにヴァニスに対して敵意を向けている。
ヴァニスの渡したFXに乗ってジラードを除く4人のレギルスが戦闘不能に追い込まれている。
幸い、損傷も少なくすぐに修理は出来るが、意図的に渡されたMSで戦闘不能にされた事は誰もが面白くはないだろう。
「それがどうかしたか? あの程度で死ぬような奴は親衛隊には相応しくはない。違うか?」
ヴァニスの返しにシェリーは反論は出来ない。
元々、親衛隊はヴァニスの身辺警護が主な任務である為、ヴァニスと同性である女である事が第一基準ではあるが、その中でもMSパイロットとして高い素質や実力がある事が絶対条件でもあった。
その為、戦場で戦死するイコール、ヴァニスの親衛隊の資格はないと同義でもあった。
その事は当然、周知の事実だった
故に例え、FXが相手でも死ぬような奴を必要とされなくとも文句は言えない。
しかし、それと感情的な部分では納得がいかない事も事実だ。
「陛下、恐れながら申し上げます。陛下はなぜ、ガンダムをあの少年に譲渡したのですか?」
コーデリアが意を決してヴァニスに尋ねる。
ヴァニスがFXをキオに譲渡したとして、その目的が分からないからだ。
FXはレギルスを超える性能を持っており、それを敵に渡せばネオ・ヴェイガンの戦力が低下して連邦軍の戦力を増強させる事に繋がる。
事実、FXには親衛隊のレギルスが4機も戦闘不能にされ、今のネオ・ヴェイガンにはFXと対等に戦えるのはヴァニスのガンダムレギオンしかいない。
「ガンダムは連邦軍にとっては勝利の象徴だ」
連邦軍がガンダムタイプのMSをベースとした量産機を開発してもガンダムタイプのMSを量産しないのもそこにある。
ガンダムとは連邦軍にとって14年間も一度も勝利する事の出来なかった蝙蝠退治戦役で初めて勝利したMSであり、蝙蝠退治戦役を勝利に導いた伝説のMSと言ってもいい。
その為、連邦軍におけるガンダムとは勝利の象徴ともなっている。
「だからこそ、私はキオ・アスノにガンダムを渡した。やがてガンダムは私の前に現れるだろう。そこで私がガンダムを打ち倒せば奴らの希望は潰える」
実際のところ、最強の敵として認めたキオと最強の性能を持ったガンダムを倒す事が目的ではあるが、ヴァニスは尤もらしい事を言う。
だが、ヴァニスがキオのFXを倒したのであれば連邦軍の戦意は完全に折れる事も事実である為、嘘を言っている訳でも無い。
「私がガンダムを討つ。それで連邦軍は終わりだ。私が勝てば文句はあるまい」
「ご尤もで……出過ぎた真似を……」
コーデリアもヴァニスの能力に関しては一切の疑問を挟む余地は無い為、それ以上は何も言わない。
「ガンダムの件は分かったわ。それで、グレート・エデンはどこに向かっているの?」
「ドレッドノートだ」
「ドレッドノートってUIEの拠点じゃん!」
親衛隊にもグレート・エデンの進路に関しては詳しい事は聞かされていない為、親衛隊は個人差はあれど驚く。
「あそこにはかなりの戦力が配備されている筈よ。そこにグレート・エデンの戦力だけで攻め込むつもり?」
ドレッドノートはグレート・エデン同様にUIEの巨大な移動要塞だ。
アキラはCMCに所属していた時に一度、ドレッドノートに奇襲をかけている。
その為、ドレッドノートに配備されている戦力の一端を見ている。
その奇襲の理由がそこに囚われていたヴァニスこと、フォルスの救出で当然の事ながらヴァニスもそれを知らない訳がない。
グレート・エデンの搭載MSは戦艦の比ではないが、数の上ではドレッドノートに配備されている戦力と大して変わらないか、ドレッドノートの方が数は多い。
親衛隊のレギルスの修理は時間がかからない為、使う事は出来るがそれでも攻め切れるかは分からない。
「まさか、私もそこまで無謀ではない。今回の事はヴァレリがセッティングを進めていたことだ」
「つまり、陰険な事すんの?」
今回、グレート・エデンがドレッドノートに向かうと言う事はヴァレリの提案による物であった。
ヴァニスが握っているヴァレリの弱みとはヴァレリがネオ・ヴェイガンの参謀と言う立場ながら、UIEと繋がっていたと言う事だ。
その事が明らかになれば裏切り行為と見なされるが、ヴァニスにとっては大した問題ではない為、今までは見逃していた。
だが、そのヴァレリが戦闘の終了後にある話しを持ちかけて来た。
「お前はアレを何だと思っている。だが、否定はしない」
親衛隊の中でもヴァレリに対しては良い感情を持っている者はいない。
特にシェリーはヴァレリに対しては敵意を隠す事すらしない。
「それで陛下、あの男は一体何をセッティングしたので?」
「何、あの男にしては単純な事だ。単なる縁談だ」
ネオ・ヴェイガンが地球圏の新たな支配者となった事で連邦軍は物資の輸送を行う事も敵に見つからないように隠密行動でしなければならなくなっていた。
今回も輸送艇を1隻に旧式となっているダーウィン級の戦艦が3隻が護衛についている。
4隻の船は視界の悪い特別警戒宙域であるサルガッソーを航海していた。
ネオ・ヴェイガンに見つからないように選んだ航行ルートだがそれが仇となってしまっていた。
航行していた船団に対して宇宙海賊ビシディアンの襲撃を受けていた。
船団からMS隊が射出されるが、ビシディアンのダークハウンドを中心としたビシディアンのMSとレギルスRを中心としたヴェイガンのMSには歯が立たず押され気味になっていた。
「悪いが物資は渡して貰う」
ダークハウンドはドッズランサーでアデルを貫いた。
アデルを撃墜しダークハウンドはストライダー形態に変形して、ダーウィン級に接近してMS形態に変形するとアンカーショットでブリッジを潰す。
その後方ではゼハートのレギルスRがビームバスターで数機のシャルドール改をまとめて撃ち抜く。
相手がヴェイガンの人間でなければゼハートも迷う事なく、撃墜する事が出来る。
視界が悪い事もあり、連邦軍は瞬く間に全滅した。
「終わったようだな」
「アセム、これに例の物が輸送されているんだな?」
「ああ、情報が正しければこの輸送艦にトルディアから輸送された物が搭載されている筈だ」
ビシディアンがこの輸送船団を襲撃したのは単に船団がビシディアンの縄張りを航行していたからではなかった。
とある筋からの情報で輸送船団がある物を輸送すると言う情報を得たからだ。
それを奪う為に、自分達に有利な宙域を航行する時を狙って襲撃した。
護衛のMSと戦艦を壊滅させ、輸送艦をMSが取り囲む。
ダークハウンドは輸送艦のブリッジにドッズランサーを突きつける。
「こちらは宇宙海賊ビシディアンだ。お前達が積んでいる物資をすべて渡して貰う。渡さない場合は輸送艦を撃沈する」
アセムは輸送艦に警告する。
輸送艦の艦長も先ほどまでの戦闘で容赦なく護衛のMSと戦艦を撃破した為、それが脅しでない事は確実だ。
それからほどなくして、輸送艦からコンテナが外に出される。
MSが輸送艦を囲んでいる状態を維持しつつも、アセムとゼハートがコンテナの中身をすべて確かめる。
「情報は正しかったようだな」
「そうだな。お前ら、輸送艦を解放して良いぞ。これをバロノークまで持ち帰る」
中身を確認して、中身が目的の物である事を確認すると輸送艦を解放する。
輸送艦はすぐに宙域から逃げ出す。
輸送艦が逃げ出すとすぐに連邦軍が来るかも知れない為、コンテナを回収してビシディアンは母艦まで帰投する。
トルディアからフリットを連れ出したホワイトファングはマッドーナ工房に停泊していた。
マッドーナ工房の一角でホワイトファングのMSの整備が行われている。
その中でフリットのガンダムAGE-1は武装強化を行っていた。
アデル用の強化プランの一つで高速戦闘は可変機構を持つクランシェに任せてアデルはある程度の機動力を低下させても、火力と装甲を強化するフルアーマーユニットのグランサユニ
ットをAGE-1用に調整して装備する予定だ。
アデルは元々AGE-1の基礎フレームを流用している為、調整すればグランサユニットを付ける事は可能だった。
その上でバックパックにはディアハウンドが装備していたグラストロランチャーを装備してガンダムAGE-1 グランサが完成する。
今は両腕にドッズライフルとシールド、ビームサーベルの機能を併せ持つシールドライフルに追加装甲、グラストロランチャーを装備してグランサとなっており、全身重量が増えた事で機体の微調整を行っている段階だ。
フリットもその作業の指揮を執っており、そこでネオ・ヴェイガンと連邦軍の和平の結果を聞かされていた。
「何だと? キオは無事なのか?」
「そうらしいな。おまけに新型のガンダムのおまけつきだ」
フリットは和平交渉の結果よりもキオがネオ・ヴェイガンから逃げ出したと言う事の方が重要であった。
「それでキオはどこにいる?」
「分からん。ディーヴァがガンダムごと回収したようだが消息は不明だ。だが、ディーヴァは連邦軍から離れたみたいだ」
ウルフ達の方でもディーヴァが連邦軍から離れた事以上の情報は持っていない。
余り情報を回すと漏洩の恐れがある為、ホワイトファングにもキオの奪還作戦が行わる事までは聞いていたが、それ以降のディーヴァの動向までは聞かされる事は無かった。
「ガンダムとディーヴァが合流したって事は、ネオ・ヴェイガンに一泡吹かす事も出来るかもな」
「当然だ」
「俺達はこのまま、クライドの捜索を優先するが構わないな」
「……ああ」
フリットとしては一刻も早くキオを合流したかったが、キオが無事でディーヴァに戻ったのであれば今は言う事は無い。
それよりも今は勢力を拡大しているネオ・ヴェイガンとの戦いに備えなければならない。
このままでは勝ち目がない事はフリットも良く分かっている。
その為、ヴェイガンに高い技術を与えていたEXA-DBを手に入れる事が最優先事項であった。
EXA-DBとAGEシステム、クライドの頭脳に加えてマッドーナ工房の設備があればネオ・ヴェイガンに対抗しうる戦力を集める事も出来る。
ネオ・ヴェイガンの最大の不確定要素のAGEシステムも再び、ディーヴァに戻った事で勝機が少しながら見えて来た。
「何としても兄さんとEXA-DBを見つけ出さねばならん。これ以上、ヴェイガンに地球圏で好き勝手にはさせる訳にはいかんからな」
フリットはそう言いグランサの調整に戻る。
宇宙で和平交渉を行う前から、ロストロウランは何度もネオ・ヴェイガンの襲撃を受けている。
ラ・グラミスのディグマゼノン砲の攻撃でロストロウランは壊滅的な打撃を受けた事で指揮系統はほとんど機能していない。
その上で基地の位置も特定されている事からネオ・ヴェイガンは度々ロストロウランに攻撃を行っている。
指揮系統はほとんど機能していないが、それでも連邦軍は何とかロストロウランを防衛している。
それはネオ・ヴェイガンのMSの大半はダナジンやドラドを初めとした旧式のMSにウロッゾのような水陸両用MS、レガンナーで量産型レギルスは地上の部隊にはまだ配備されていない事もあり、攻撃の規模もゲリラ的である為、さほど多くはない。
そして、今日もまたネオ・ヴェイガンの攻撃が行われている。
今までは数は多くなかったが、今日に限ってはかつてのヴェイガンによるロストロウランに対する攻撃作戦に比べれば少ないが、いつも以上の数がロストロウランに攻め込んでいる。
「ここから先には行かせない!」
地上部隊に配属されたエリアルドは新しい搭乗機であるクランシェカスタムでロストロウランの防衛戦の先陣を切っていた。
ビームバルカンを連射してトーチカを破壊するダナジンをビームサーベルで両断する。
「今回は数が多い!」
ダナジンを切り裂き、すぐに近くのドラドもビームサーベルで切り裂きドッズライフルでウロッゾを撃ち抜き、ドッズライフルとビームバルカンを連射して敵の進撃を食い止める。
「アスノ少佐!」
後方からアデルマークⅡの部隊が駆けつけてドッズライフルを放ち、エリアルドを援護する。
「少佐、司令部よりシャトルの打ち上げの準備が完了したとの事です。すぐに戻ってください!」
「この状況では戻る訳にはいかないだろう!」
ロストロウランでは戦況の悪化に伴いエリアルドを宇宙に上げるように指示が出ている。
その為に打ち上げのシャトルを用意して打ち上げの準備に入っていたが、そのタイミングを狙ったのか単なる偶然なのかネオ・ヴェイガンはロストロウランの守備隊が総動員しなければ守り抜けない程の戦力で攻めて来た。
今、エリアルドが抜ければそれだけ防衛力が低下する事になる。
「司令はそれでも戻って来いと言っていました。ここは我々が命に代えても死守します!」
司令部もその事は十分に把握した上でエリアルドに戻るように伝えろと部隊に通達している。
それこそ、ロストロウランが陥落してもエリアルドを宇宙に上げる気でいた。
「……済まない」
エリアルドは決死の覚悟でここまで来た部隊の決意を無駄にしない為にも基地に戻る為に機体を飛行形態に変形させる。
クランシェカスタムはドッズキャノンでダナジンを撃墜し、数機の飛行形態のクランシェはエリアルドの援護につく。
クランシェの援護もあり、エリアルドは基地まで辿りつくとMS形態に変形して基地に滑り込む。
ここまで援護についていたクランシェもMS形態に変形すると敵がシャトルに近づかないように援護する。
エリアルドはクランシェカスタムから降りる事なく機体ごとシャトルに乗り込む。
シャトルの中にクランシェカスタムを固定すると、エリアルドは一息つく。
後はシャトルの打ち上げを待つだけだった。
「アスノ少佐」
機体のモニターにロストロウランの留守を預かる司令官が写し出される。
「宇宙の事は任せた」
「了解です」
司令官はエリアルドに敬礼をして、エリアルドも敬礼で返す。
司令官は何も言わないが、ロストロウランは直に陥落するだろう。
その為、基地が一体となりエリアルドだけでも宇宙に上げようとしている。
エリアルドにはその覚悟を背負い宇宙に上がるしかない。
ロストロウランの各所で戦闘が続く中、エリアルドを乗せたシャトルは宇宙へと打ち上げられる。
ロストロウランから打ち上げられたシャトルは無事に大気圏を離脱して宇宙に上がる事が出来た。
完全に宇宙に上がったところでシャトルからクランシェカスタムが宇宙に出る。
シャトルは完全にエリアルドをMSごと宇宙に上げる為で無人となっており、宇宙に上がった後は乗り捨てて、近くまで来ている友軍と合流する手筈になっている。
シャトルから出たエリアルドを待っていたのは連邦軍のMSではなかった。
数機の量産型レギルスはクランシェカスタムにビームライフルを放つ。
「こんなところで……」
クランシェカスタムはシールドで攻撃を防ぎながら、ドッズライフルで応戦するも、ドッズライフルにビームが直撃して破壊される。
それでもクランシェカスタムは頭部のビームバルカンを使うもビームバルカンでは効果はない。
基地が一体となり、自分を宇宙に上げてくれた事もあり、エリアルドはこんなところでは死ねないが、状況的にはどうする事も出来ない。
最後まで足掻こうとするも状況が厳しい為、諦めかけていたが、戦場に新たな機影が補足された。
「アスノ少佐、無事だな?」
「アルグレアス提督……何とか無事ですが、提督自らなぜ……」
それはアルグレアスが率いるバロックスを旗艦とした連邦軍の艦隊であった。
和平交渉の失敗でアルグレアスは政府から責任問題を追及されるも、状況が最悪であり誰もアルグレアスの後釜になどなりたくもないと言う事もあり、その地位を脅かされる事もなく提督の地位に居座る事が出来ていた。
和平が決裂した以上はネオ・ヴェイガンと戦うしかなく、政府から文句を言われる事もなく連邦軍はアルグレアスの指揮下で独立して動いている。
今回も、戦力の補強の為にエリアルドを宇宙に上げるように指示を出したのもアルグレアスであった。
基地司令もロストロウランが長くは持たない事を悟りエリアルドを宇宙に上げる決断をしていた。
「エリアルドはバロックスに、ここは私がやる」
「姉さんもいてたのか」
ユーリアのジェノブレイズが先行して、量産型レギルスに向かって行く。
ジェノブレイズはドッズガトリングライフルを連射する。
それにより量産型レギルスは蜂の巣となり撃墜され、ツインドッズキャノンを放って量産型レギルスを破壊する。
量産型レギルスでもジェノブレイズに対応する事は出来ずに時間がかかる事もなく全滅した。
その後、エリアルドのクランシェカスタムはバロックスに収容された。
収容されたエリアルドはクランシェカスタムから降りる。
エリアルドは格納庫に置かれているあるMSを見つける。
「これは……ガンダム」
そこにはエリアルドは地上に転属になる時に降りたガンダムZERO Ⅲが置かれている。
それだけではない、ガンダムZERO Ⅲは四肢のウェアがアデルマークⅡと共通の物に換装されていたが、ここに置かれているのはかつてのガンダムZERO Ⅲαと同じウェアだ。
脚部はβの物に換装されて3つのアーマーを組み合わせたストライカーアーマーが装備されている。
「ストライカーアーマーまで……」
「マッドーナ工房から送られて来たのよ」
ジェノブレイズから降りたユーリアがエリアルドに説明する。
本来は廃棄される筈でトルディアから移送されたガンダムZERO Ⅲだが、その道中で宇宙海賊ビシディアンの襲撃を受けてビシディアンに奪取された。
その後、ガンダムZERO Ⅲはマッドーナ工房に送られ、そこでウェアを換装した上でストライカーアーマーを装備してバロックスに譲渡された。
表向きはバロックスにガンダムタイプのMSは搭載されていない事にはなっている。
「提督はこのガンダムを連邦軍の切り札にするつもり。そのパイロットはエリアルド。つまりエリアルドが連邦軍の切り札」
「俺が切り札……」
すでにフリットが連邦軍を離れてFXを搭載したディーヴァも連邦軍から離れている。
今の連邦軍にはネオ・ヴェイガンと戦えるだけの戦力はないが、アルグレアスはガンダムZERO ⅢSを使って少しでも他の陣営がネオ・ヴェイガンと戦う為に戦力を集める時間を稼ぐ切り札に考えていた。
エリアルドはロストロウランの司令官や兵士達が命を賭けて自分を宇宙に上げてくれた決意を胸に再びガンダムで戦う決意をした。
A.G.101年にヴェイガンの攻撃で破壊されたコロニー「エンジェル」
あれから半世紀以上が経ち、エンジェルは現在はデブリの仲間入りをしている。
それでもコロニーの形状は半壊だが保っており、一部の機能は未だに生きていた。
戦争が始まったコロニーにクライドはいた。
エンジェルの一角にクライドは誰も知らない研究施設を作っており、外部からは廃棄されたコロニーではあるが、クライドの隠れ家の一つとして今も使われている。
クライドは研究所でモニターを見ていた。
地球圏の情報がここにはリアルタイムで集まっている。
「エリアルドは宇宙に上がったか……FXもキオの元に渡りフリットも連邦から離れた。これで役者は揃ったと言うところか……」
エリアルドは地球圏の各地で起きた事を把握している。
和平交渉の場でキオにFXが渡った事、フリットが連邦軍を離れてホワイトファングと行動を共にしていると言う事、アセムが奪取したガンダムZERO Ⅲがマッドーナ工房を経由してエリアルドの元に渡った事。
「アイツもアイツで面白い事になっているな」
クライドはグレート・エデンの映されたモニターを見てそういう。
「アイツが何を考えているかは分からんが、そろそろ俺もジョーカーを使う時が来たか」
クライドの切り札である「ジョーカー」は諸刃の剣であった。
うまく使えばクライドの思った通りに状況を進める事が出来るが使いどころを間違えてしまえばクライドが破滅し兼ねない。
だが、その切り札を今使う時だとクライドは確信している。
これ以上の温存は無意味で使うなら今しかない。
「アリス、皆を起こす」
「了解です。クライド様」
クライドはアリスに指示を出す。
そして、今後の事について頭の中で算段を付ける。
「さて……世界はどう動く」
クライドも本格的に動く用意を始め世界は大きく動き出す。