ドレッドノートを核ミサイルにて陥落させた後、アブディエル改は拠点であるエンジェルに向かっている。
見えざる傘を展開している為、周囲に敵影がない事もあり順調に航海していた。
クライドはアブディエル改の自室で先の戦闘のデータを整理していた。
「ブラッディゼイドラの方のデータは取れたが、バスタークロノスのデータは余り取れていないが……」
戦闘ではブラッドのブラッディゼイドラは十分に戦闘を行っていた為、戦闘データはきちんと取れているが、そのせいでバスタークロノスは殆ど戦闘には参加していない。
クライドはデータを整理しているとあるデータを見て眉を顰めた。
「こいつのデータを取れたのは良かったと言うべきか……」
そのデータはバスタークロノスのアトミックランチャーに搭載されている核ミサイルのデータだ。
たった一発でドレッドノートを陥落させる威力を持つ核ミサイルは確かに優秀な兵器と言える。
だが、その反面強力過ぎるその威力は人が持つには手に余る。
それが分かっただけのも今回の戦闘の意味はあったと言える。
「さて……次はどうするかだな」
クライドはモニターを切り替える。
そこにはガンダムタイプのMSのデータが写し出される。
ガンダムAGE-1 フラット、ガンダムAGE-2 ダークハウンド、ガンダムAGE-FX、ガンダムZERO Ⅱ、ガンダムZERO Ⅲ ストライカー、ガンダムレギルスR、ガンダムレギオンと言った各陣営を代表するガンダム達だ。
「これらをぶつけた時に起こる化学反応も見て見たが……少々面倒だが」
クライドは何かを思いつくと映像を再び切り替えて新たな行動を起こす。
UIEとの会談の決裂から、グレート・エデンに帰還したヴァニスはコーデリアからある報告を受けていた。
「成程な。ヴァレリの奴、やってくれるじゃないか」
「消息不明のMSとパイロットは十数機ですが、その中にヴェイガンギアや解析中のシドも……」
「ヴェイガンギアか……となるとゼラ・ギンスもか?」
コーデリアは頷く。
ヴェイガンギアはヴェイガンが開発したMSだ。
ヴェイガンのMSの中でも最古のMSであり、コロニー国家間戦争時の技術が使われている為、最古のMSでもレギルスやレギオンに匹敵する性能を持っている。
ヴェイガンギアを元に性能を極端に落として量産性と操縦性を優先し、長距離移動の為の可変機構を取り入れたMSがヴェイガンが天使の落日に投入したガフランになる。
そして、ヴェイガンギアの専属パイロットとしてイゼルカントのクローンであるゼラ・ギンスが選ばれている。
そのヴェイガンギアと専属パイロットのゼラの他にもルナベース戦で乱入し、回収したシドの残骸や解析結果のデータも行方知れずとなっている。
「如何なさいますか?」
「構わん」
ヴァレリはいつでもUIEの側につけるように準備をしていたのだろう。
消息不明のMSとパイロットはUIEに流れていると見て間違いない。
そうでなければ、こんなにも早くネオ・ヴェイガンのMSを持ち出す事は出来ない。
コーデリアはそれの対処をヴァニスに尋ねるもヴァニスは気にした様子はなかった。
元より裏切り者が自分に銃を向けるのであれば叩き潰すのみだからだ。
それ以上にヴァニスにとって最強のパイロットとして生み出されたゼラの存在は前から気に入らなかった事もあり、専用機となったヴェイガンギアごとUIEの手に渡ると言う事はいずれはヴァニスの敵として戦場に出て来る可能性が出て来た。
そうなった時にヴァニスが自らの手でゼラとヴェイガンギアを葬る事でヴァニスの力を示すことが出来る。
ヴァニスにとってはゼラとヴェイガンギアの消息不明はネオ・ヴェイガンの戦力の低下になっても好都合であった。
それにすでにヴェイガンギアやシドから得た情報はレギオンにフィードバックされてすでに武装強化の改修作業も終えている。
「敵であれば叩き潰す。それだけだ」
「おっしゃる通りです」
ヴァニスの力を疑う事のないコーデリアはそれで納得する。
するとブリッジから通信が入る。
「何だ?」
「悪いけど、ブリッジに来て貰える? 妙な通信が入っているのよ」
ジラードは通信越しにそういう。
親衛隊の隊長としてジラードはネオ・ヴェイガンの実質的なナンバー2であり、かなりの権限を与えているがそれでもヴァニスを呼び出す程の事であると推測が出来た。
ジラードとコーデリアはすぐにブリッジに上がる。
ブリッジに上がった二人はジラードから説明を受ける。
通信で送られて来たのはとある位置座標だった。
それ自体はただの位置情報で指定されているのは位置だけでなく日時もだ。
そこにヴァニスが一人で来いと言う物だったが、それ以上にその差出人が問題であった。
「差出人は……クライド・アスノだと?」
「確か……あのフリット・アスノの兄でしたよね?」
「彼は死んだ筈よ」
差出人の名前には確かにクライドの名が記されていた。
ジラードもコーデリアもクライドの事は公になっている情報しか知らない為、すでに死んでいると思っているがヴァニスはクライドが生きている事は知っていた。
「偽物でしょうか?」
「本物だろうな」
ヴァニスはそう断言する。
クライドが生きているからと言って通信を送って来た相手が本人であるとは言い切れない。
だが、グレート・エデンに通信を送って来れる相手はそうそういない。
しかし、クライドならその程度は容易に行える事をヴァニスは知っている。
「あの男は生きている。世界の為に自ら命を捨てるような殊勝な男ではない。奴は自分の欲望の為なら手段を選ばない男だ」
ジラードとコーデリアは少し驚いていた。
ヴァニスがクライドを良く知っているような口ぶりである事もあったが、それと同時に今まで感情を表に出さないヴァニスがクライドに対しては感情を剥き出しにしているように見えた。
「陛下の言う通りクライド・アスノが生きていたとして陛下を呼び出す理由とは一体なんでしょうか……まさか、ネオ・ヴェイガンの軍門に下りたいと言う訳ではないでしょうに」
「だろうな。あの男が組織の下に本気でつくとは思えん」
クライドは過去に連邦軍に属していたが、その理由は軍からMSの開発費や研究費を出させる為でしかなく、ネオ・ヴェイガンに本気で下る事はあり得ない。
その上、一方的に呼び出すところからもそれの可能性がないと言う事はうかがえる。
「それでどうするの? クライド・アスノの呼び出しに応じるつもり?」
「陛下、罠である可能性が高いです」
「そうだな……その話しに乗って見るのも一興だ」
「本気?」
クライドが罠を張っている可能性は非常に高く、その事はヴァニスも分からない訳もないが、先ほどからのヴァニスを見る限りでは少なからずクライドとの間に何かあると言う事は分かる。
「当然だ。指定された宙域には私が一人で向かう。だが、お前達も付近で待機させる。クライド・アスノは一人で来いとは言ったが、兵を伏せるなとは言って来てはいないからな」
「了解」
少なくとも、ヴァニスは感情的になり正常な判断が出来ない訳ではない事を確認したジラードはすぐに準備に入る。
その後、グレート・エデンが指定されている宙域に向かう。
クライドからの呼び出しはヴァニスだけではなかった。
旧ヴェイガンのファ・ザードとビシディアンのバロノークにも同様の通信が送られている。
内容的には同じであったが違うところは宛名がアセムとゼハートであった事くらいであった。
「アセム、これは一体どういう事だ?」
「分からん。だが、叔父さんからの物である事は確実だと思う」
アセムに送られて来た通信文の宛名にはアセム・アスノとなっている為、キャプテンアッシュの正体がアセムだと知る人物だと言う事は確実だ。
かつてフォルスがクライドから自分の素性について知っていた事もあり、クライドである可能性は非常に高い。
「通信文を出したとしてアセムはともかく、なぜ俺まで?」
アセムはクライドの甥である為、繋がりはあり呼び出されても不思議はない。
だが、ゼハートはクライドとは面識はない。
「寧ろ、ゼハートの方は呼び出される理由はあると思うわよ」
「どういう事だ? マリィ」
「決まってるって、俺の娘が欲しければ俺を倒して行けってアレだよ」
「あの人に限ってそれはないだろう」
ゼハートとクライドの繋がりはマリィしかない。
だが、マリィの言っているような事はクライドの正確状は考え難い為、アセムが否定する。
クライドならマリィがどこに嫁に行こうが全く気にしない筈だからだ。
「なぁ、キャプテン、お袋。これ送って来たのって俺の爺さんなんだろ?」
「そだよ」
「爺さんってどんな人?」
「変態」
スラッシュは一度もクライドに会った事もなく、ヴェイガンでは名前を聞く事はあったが、まさか自分の祖父である事など思いもしなかった為、スラッシュはクライドの事は何も知らなかった。
そんなスラッシュにマリィは一言で答えるが、スラッシュには意味が分からなかった。
クライドを知るアセムはマリィの答えが間違っている訳ではない事は何となくは理解できるが、余り適切とも言えない為、軽く頭を抱えている。
「うちのパパわね。MS馬鹿。それも重度のね。良く、ママと結婚できたのか分からないくらいにね」
「良く分かんないって」
「パパは三度の飯よりもMSを開発するのが好きな人よ。私もお兄ちゃんも物心ついた時からMSに関する技術を教えようとしていたくらいにね。その事はママに止められてお兄ちゃんは余り興味を示さなかったけど、私はパパからMS開発の基礎を叩きこんだ人よ。技術者としての能力は天才的なセンスを持っていて今でもその才能に匹敵するのは弟のフリット叔父さんかマッドーナ工房の初代工房長くらいよね」
マリィの知る限りクライドに匹敵する技術者はフリットとムクレドくらいで未だにマリィは自分が技術者としてクライドと肩を並べたとはとても言えはしない。
スラッシュはフリットやムクレドとは関わりが無い為、技術者として優秀と言われてもピンとはこない。
「そのパパが本気でMS開発を行えば戦争は数年で終わってたとも言われてるし、今の世界の騒乱の半分はパパのせいとも言われいるわね」
クライドは一時期は連邦軍の技術部に所属していた。
その時は連邦政府に対して蝙蝠退治戦役の真実をネタに開発費を引き出して完全に趣味に走った開発を行っていた。
もしも、趣味に走らずに実用性の高いMS開発を行っていれば、ヴェイガンとの戦争はここまで長引かずに連邦軍は勝利していたと言われている。
そして、今も様々な方面に技術を流している。
それによってヴェイガンのMS開発は大きく発展するだけでなく、クライドが過去に設計、製造したMSがUIEによって運用もされている。
それだけに留まらず一般的には公にならずアセムや一部の人間しか知らない事だが、ネオ・ヴェイガンの女帝、ヴァニス・イゼルカントもまたクライドによって生み出された存在であった。
「まぁ、パパの事はどうでも良いけど、どうすんの? アセム、ゼハート」
今ここで、クライドの人柄について話しても余り意味はない。
アセムにしろ、マリィにしろすでに10年以上もクライドとは会っていない為、今のクライドの事は分かる訳もない。
故に、今はクライドの呼び出しに関してどう対応するかだ。
「叔父さんが俺とゼハートを呼び出す理由は分からない。だが、あの人が何の理由もなく俺達を呼び出すとは考え難い」
「それにEXA-DBを探す手がかりになるかも知れないな」
「そんじゃ、二人はパパの呼び出しに応じるつもり?」
クライドの呼び出される理由には心当たりはないが、クライドがEXA-DBを持っている為、何の手がかりの無い状況ではクライドの呼び出しが唯一の手がかりとも言える。
「罠の可能性があるから、行くのは俺とゼハートだけだ。他はすぐに動けるように待機させておく」
クライドの目的が分からない以上、罠の可能性はあり得る。
その為、呼び出されているアセムとゼハートが指定されたポイントに向かい、最悪の事態に備えて置く必要はあった。
バロノークとファ・ザードはクライドに指定されたポイントへと移動を開始する。
ネオ・ヴェイガンとの和平交渉の決裂の後にエリアルドと合流したバロックスは連邦軍の残存戦力の確保と共にトルディアに滞在している。
残っている戦力は連邦宇宙軍の総戦力の約半数程度だが、数の上ではまだネオ・ヴェイガンやUIEとは戦えるが敗戦ムードが漂い士気は最低と言える。
フリットが連邦を離れている事が更に追い打ちをかける形となりバロックスに搭載されているガンダムZERO ⅢSの存在も士気を回復させるには至らない。
そんな中、バロックスにクライドからの通信文が送られて来る。
「父さんから?」
「通信文にトラップの類はなかったが、本人の物かは分からないから、君達には酷な話しだが確認をして欲しい」
アルグレアスはエリアルドとユーリアをブリッジに呼び出すとクライドから送られて来たと思われる通信文を二人にも見せる。
差出人はクライドだが、差出人の偽装など容易に出来る。
だが、今の連邦軍が戦争に勝利する為には更なる戦力の補強が必要でクライドの持つ技術力は喉から手が出る程欲しい物で死んだとなっているクライドからの通信文はもしかしたら、本人からだと言う事を確かめるべく、クライドの実子と養子であるエリアルドとユーリアに確認をさせようとしている。
「多分、本人からだと思います」
ユーリアは通信文だけでは判断が付かないがエリアルドは確信をもって言えた。
エリアルドはディーヴァにいた事にビシディアンを経由してクライドの生存を聞いていたからだ。
だからと言ってクライド本人からとは言い切れないが、エリアルドはそう確信が出来た。
「父さんは今でも生きています」
「本当?」
「本当だよ。義姉さん。ドクターCと名乗って今でもMS開発をしている」
ユーリアもアルグレアスもドクターCと言う名は耳にした事はある。
そして、クライドを知る二人は今まで一切の情報が公になっていない謎の技術者のドクターCがクライドであると不思議と納得が行った。
「それが本当だとしてアスノ少佐を呼び出す理由に心当たりは?」
「ありません。今の父が何を考えているかは自分には理解できません。ただ、言えるのは父は今でもMSの開発に関わっていると言う事だけです」
エリアルドにはクライドの考えは分からない。
だが、クライドがMSの開発に異常とも言える熱意を持っていると言う事は子供の頃から分かり切っていると言う事だ。
この23年もの間、家族にすら連絡を取る事の無かったクライドが突然連絡を寄越して来たと言う事は少なからずMS開発に関係している事は間違いはない。
「私も同感」
「そこに意を唱える気は無い。問題は何故、アスノ少佐と言う点だな」
クライドがMS開発に関わっているとしてエリアルドを呼び出す理由が問題となる。
単に新型MSのテストパイロットを探しており、機密保持の為に身内をテストパイロットにすると言う事は考えられる。
だが、ユーリアの戦艦であるバロックスにエリアルドを名指しで指名して来たと言う事はここにエリアルドがいると言う事が分かった上での事だ。
ユーリアもパイロットとしてはエリアルドよりも実践経験も長く、Xラウンダー能力も高い。
年齢的にエリアルドの方が若い為、長期に渡ってテストパイロットを務める為だとも考えられるがそれでもエリアルドとて若いとは言い難い。
「どちらにせよ、父さんの手の中にはコロニー国家間戦争時の兵器データの詰まったEXA-DBがある。そこに父さんの頭脳があればまだ巻き返しが図れます」
「本当にEXA-DBなる物が存在すれば連邦軍にも勝機は残されているか……良いだろう。艦隊を編成して接近すればクライド氏に警戒されて接触に失敗する恐れがある。その為、指定された宙域の付近まではバロックスで向かう事にする」
クライドとEXA-DBの情報があれば、この戦争で劣勢を強いられている連邦軍にも再び勝機が戻って来る。
通信文では指定された宙域にはエリアルドが一人で来るように記されている。
その為、大部隊を率いればクライドにいらぬ警戒をさせる可能性を考慮してクライドも差ほど警戒しないと思われるバロックスの単艦で宙域まで向かう事を決める。
その後、すぐにバロックスに可能な限りのMSを搭載してバロックスはトルディアを出航し、クライドに指定された宙域に向かう。
ドレッドノートを失ったUEIは付近の友軍と合流している。
核攻撃によってドレッドノートの付近にいたMSは爆発に巻き込まれて破壊されるも、4機のプロト3とゼイ・ドルグの大半が無事だったのは不幸中の幸いと言える。
だが、核攻撃はコロニー国家間戦争時にも殆ど使われる事の無かった兵器でその兵器が通常の兵器とは桁違いである事は知っていたが、実際に使われるところを見た者はいる訳もなく、戦場にいた兵士の間には動揺が広がっている。
しかし、ナイトルーパー改にはARISUシステムが搭載されている為、恐怖と言う概念はない事もあり今敵襲を受けても十分に対処は可能ではあった。
そして、戦闘中のどさくさに紛れてレギルスMにてドレッドノートから離脱していたヴァレリはヴェイガンギアを初めとした手土産と共にUIEに合流していた。
「今回の一件は私も聞かされていない事でして……」
ヴァレリはフェオドールとアルベリッヒに弁解をしている。
ヴァニスの行動は事前には知らされていない行動で自分は一切関知していない事であると何度も主張している。
「どうだかな」
「アルベリッヒ、止めないか。ヴァレリは我らの理念に賛同してここまで来たんだ」
アルベリッヒはヴァレリの言葉を余り信じてはいないが、フェオドールは疑ってはいないようだった。
「もしも、嘘ならばわざわざここまで来たりはしない筈だ」
「それはそうですが……」
もしも、ヴァレリも知っていた事ならば、ここに来る事は殺されに来るような物だ。
しかし、ヴァレリはヴァニスに切り捨てられたと考えればネオ・ヴェイガンに戻らずUIEに来た事も説明は付く。
だが、そう思わせて内部からUIEを切り崩すネオ・ヴェイガンの策と言う可能性はドレッドノートでの一件からあり得ないとは言い切れない事も事実であった。
「それにヴァレリはゼラ・ギンスと言う最高レベルのXラウンダーを連れて来てくれた。私はそんなヴァレリを信じたい」
フェオドールがヴァレリを信用する一番の理由がそれだった。
ヴァレリはイゼルカントの遺伝子を受け継いで最高レベルのXラウンダー能力を持つゼラをUIEに連れていている。
Xラウンダーを人類が宇宙に適応する為に進化した新人類だと主張するUIEにとっては大きな功績と言える。
「総帥! アルベリッヒ将軍、このような通信文が……」
UIEの戦艦にもクライドからの通信文が送られて来る。
内容はフェオドールに指定された宙域まで来るようにと言う事であった。
「クライド・アスノ……ダグの一族のXラウンダーだったよな」
「そう記憶しています。しかし、総帥を呼び出すとは一体何を考えているのか……」
「行けば分かるだろう」
「罠の可能性があります!」
UIEとクライドの間には直接的な接点は少ない。
過去にスパイをクライドの特研に入り込ませてガンダムZERO Ⅱを初めとするMSや量産型AGEビルダーなどを奪った事がある為、クライドがUIEに敵対心を持っていても不思議はない。
そのクライドが総帥であるフェオドールを呼び出すのだ罠があると考えるのは当然だ。
「アルベリッヒ、彼もまた進化した存在だ。それに我がUIEには彼と同じアスノ家のダグがいる。説得して我がUIEに迎え入れる事も出来る筈だ」
「しかしですな……」
幾ら、アスノ家の人間であるダグがいてクライドがXラウンダーだからと言ってクライドを説得できるとは限らない。
尤も、ダグはアスノ家から追放された存在でその事実はアスノ家が一族の汚点としてアスノ家の歴史上から完全に抹消されている為、フェオドール達がクライドがダグの事を殺す気でいる事は知る良しもない
更にはクライドの両親の仇であるナーガがガンダムTHE ENDの生体ユニットとしている事もダグの一存で行っている為、フェオドールは知らない。
「分かりました。しかし、いざと言う時の為にプロト3を待機させておきます」
「それで構わない」
フェオドールは意見を変える気が無い為、アルベリッヒに出来る事は罠を想定してプロト3を待機させる事くらいだ。
ドレッドノートでの戦闘でアルベリッヒのゼイ・ガルムは損傷しておりすぐには使えない。
日時に指定がなければ、ゼイ・ガルムの修理を終えて万全を期す事が出来るが通信文には日時の指定があり、余りゆっくりとはしてられない。
その為、ゼイ・ガルムの他に戦力をしてすぐに投入できるのは4機のプロト3しかなかった。
ドレッドノートの陥落の知らせはマッドーナ工房まで届いていた。
だが、その後すぐにホワイトファングにクライドからの通信文が届けられる。
「兄さんが私を呼んでいるだと?」
「クライドの名前を使っているだけだけどね」
「だが、指定された宙域がエンジェルと来てる。そんなふざけた事をするのはアイツくらいだ」
指定された宙域はコロニー「エンジェル」である。
ヴェイガンの初めての攻撃で破壊されたコロニーを指定するなどそんなふざけた真似をするのはクライドくらいしか思いつかない事から通信文がクライドから送られていた事だとエリーゼもウルフも判断した。
「問題はフリットを名指しで指定してるって事だ。俺やエリーゼじゃなくてフリットを呼び出したと言う事が引っかかってな」
妻であるエリーゼや友人であるウルフではなく弟のフリットである事は引っかかる。
ホワイトファングに通信文を寄越すと言う事はこの船がウルフの船である事は当然知っていて、フリットがホワイトファングにいると言う事を知っているなら今はエリーゼが艦長をしていると言う事を知っていても不思議ではない。
それでもエリーゼやウルフの事には一切触れずにクライドを呼び出すと言う事はフリットに用があり、後はどうでも良いとも受け取れる。
「だが、兄さんはEXA-DBを持っている。あれがあればヴェイガンの奴らを殲滅する事が出来る!」
「それはまぁ……そうだがな」
それが一番の心配事であった。
クライドを見つける事はUIEの計画の全貌を推測するのに必要な事ではあった。
しかし、クライドはEXA-DBを保有している。
そのEXA-DBの技術をクライドは十分に活かす事は可能な事はエリーゼもウルフも良く分かっている。
そして、フリットはヴェイガンを殲滅しようとしている。
今はネオ・ヴェイガンと名乗っているが元がヴェイガンである為、フリットの憎しみはネオ・ヴェイガンに向けられている。
クライドはネオ・ヴェイガンの殲滅に技術を提供する事は十分にあり得る。
エリーゼもウルフもネオ・ヴェイガンをこのまま野放しにするつもりはないが、フリットのように殲滅する気もない。
「今はそんな事よりもクライドに会う事の方が先決よ」
「そうだな」
ネオ・ヴェイガンをEXA-DBの技術を使った兵器で殲滅するかどうかはクライドを見つけて捕まえてからでも良い。
クライドはヴェイガンに対して強い憎しみを持っている訳ではない。
説得をする事は十分に可能で、フリットも兄の言う事なら少しは耳を貸すかも知れない。
そして、エリーゼはクライドの舵を取れる唯一と言っても良い人間だ。
クライドに繋がる情報がない以上は向こうから接触する機会を与えて来たと言う事の方が重要だった。
今はクライドを見つけ出す事を優先し、ホワイトファングは指定されたエンジェルに向かう為の準備を始める。
コロニー「サマーウォール」に向かう道中でディーヴァにもクライドからの通信文を受けていた。
その分面にはキオを指定された宙域に向かわせるようにとの事でキオはブリッジまで呼び出されている。
「これがクライド氏……アスノ元司令のお兄さんからの通信文だ」
「その人が僕に来いって言って来てるんですね?」
「そういう事になるな。心当たりは?」
キオは首を横にする。
キオはクライドの事はフリットから聞いている。
技術者としては自分以上の技量を持っているとフリットから聞かされており子供心に凄い人だったと言う印象しか持ってはいない。
当然、キオとの面識はない。
「その人がEXA-DBを持ってるんですよね?」
「ああ……理由は分からないが、彼はキオに会いたがっている」
「そこでキオ君はどうしたの?」
今はディーヴァは連邦軍の所属では無い為、キオに対して強く命令を出す事も出来ず、フリットもいない為、キオにどうしたいかを判断させている。
今まではキオは基本的にフリットの指示を聞いて動いていたが、火星圏に連行され出会いと別れを経験したキオはフリットに頼らずとも自分で判断する事が出来る。
「僕は……クライドさんに会ってみたいです」
それがキオの答えであった。
ヴァニスを止めると決意はしたが具体的にはどうすれば良いかは分かってはいない。
その為、今のキオはいろんな事を経験して見識を広める事が重要だと考えている。
クライドに会うのもその為だ。
クライドはフリットが尊敬する人物で真っ先に出る人物である為、ヴァニスを止める答えに繋がる何かを持っているかも知れない。
確証はないがキオはクライドに会えば何かしらの答えが見つかるかも知れないと思っている。
「会えば何かが分かるかも知れません。どうしてかそう思うんです」
「分かった。艦長も依存はないな?」
「はい。私もそれで構いません」
セリックとしてもクライドと接触する事は今後の展開を有利に進める事が出来るかも知れないと考えていた。
キオもその気でナトーラもその意見に賛成を示している。
ディーヴァは進路を変更して指定された宙域に向かう。
こうして、始まりの地であるコロニー「エンジェル」にクライドによって役者が集められた。