機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第11話

「これからこの船に乗艦するシャルル・ラファルグだ」

 

 サザーランドポートを出港し、一息つくころにシャルルはアブディエルのブリッジでパイロットや主だったクルーに自己紹介している。

 前回は連邦軍のパイロットで、偶然回収したに過ぎず情報漏洩の危険性も考慮してクライドとエリーゼ以外とは殆ど顔も合わせていない。

 

「元連邦軍だから、思うところはあるかも知れないが、よろしく頼む」

 

 シャルルがそう言い、ジゼル以外は対して気にしている様子は無いが、連邦に対して良い感情を持っていないジゼルはあまり納得がいかない様子だったがクライドが了承している以上、ジゼルも納得するしかない。

 

「ジゼル……お前も分かってるな」

 

 クライドはその様子を見てそう言う。

 無理やり納得したところでジゼルは考えるよりも行動するため、今の内に強く良い聞かせないとひょんなことでシャルルに切れるか分かった物ではない。

 せっかく、Gレックスのパイロットを得て戦力を補充したのに、内輪もめをしていては意味がない。

 

「分かってる」

 

 ジゼルはそう言ってシャルルを一瞥してブリッジを出て行く。

 

「悪いな。アイツは前に連邦と少し揉めてな……」

「構わないさ……いろいろ事情があるんだろうからね」

 

 シャルルはジゼルの事情は知らないが、ここにいる者達が何かしらの事情を持っていると何となく気づいている。

 真っ当な人間が軍の属することなく独自にMSなどの戦力を有してヴェイガンと戦っていると言う事はそれぞれに何かしらの事情を抱えている。

 

「そう言う事だ。これからよろしく頼むぞ。シャル」

 

 クライドがそう締めて航海は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コロニー「ブライド」……そこは連邦軍が駐留していないため、宇宙海賊や連邦に追われる立場の人間が立ちよったり、潜伏しているコロニーである。

 連邦もある程度はブライドをマークしているが、コロニー全体が連邦の敵の様な物で連邦も迂闊には手が出せない。

 それにより治安が普通のコロニーよりも悪く力が物を言う。

 宇宙海賊のドレイク海賊団と連邦に追われているパラダイスロストが接触するのは打って付けのコロニーと言える。

 

「相変わらずここはガラが悪い奴が多いな。俺達が場違いに見える」

 

 クライドはトレーラーから外を見てそう言う。

 コロニー全体の生活水準は高いとは言えず、コロニー内のあちこちに柄の悪い者も多い。

 

「何言ってんすか。ここにいる連中は所詮はゴロツキですって、連邦やUEと正面切って戦う度胸の無い奴ばかりですよ。師匠」

 

 エミリオがトレーラーを運転しながらそう言う。

 実際、このコロニーの連中はガラが悪いが連邦を完全に敵に回す程の事が出来る力も度胸も無い。

 その大半は自分達よりも強い相手に媚びへつらい自分達の身の安全を確保し、自分達よりも弱い相手に大きな顔をして生きている。

 

「こいつらがなんかしても、アニキのゼロで一捻りだって」

 

 このトレーラーにはクライドのガンダムZEROが積まれている。

 幾ら、ゴロツキばかりでも極たまににコロニー内で生身の喧嘩ではなくMS同士の交戦が開始される場合があり、その時の自衛の手段としてガンダムZEROを持って来ていた。

 トレーラーを走らせているとヘンリーに指定された酒場に到着する。

 

「エミリオはトレーラーを適当な場所に隠して待機しておいてくれ」

「了解です」

 

 クライドはそう言ってジゼルとトレーラーを降りて酒場に入る。

 酒場に入るといかにもガラの悪い連中がクライドとジゼルに視線を向ける。

 

「アタシらは見世物じゃねぇっつうの……」

 

 ジゼルがぼそっとそう言うが、ただでさえゴロツキの集まるコロニーの酒場でクライドは見た目はインテリ系の青年でジゼルは少し派手な格好をした少女でしか無く場違いに見える。

 

「よう……随分と待たせたな」

 

 酒場に入って来た二人にヘンリーが声をかけた。

 ヘンリーはすでにいくつもの酒瓶を開けており、その傍らにはつり目でいかにも気の強そうな少女が座り、酒を飲みながらクライドを睨んでいる。

 

「これだけ待ったんだ。来ないかと思っていたぞ」

 

 ヘンリーがクライドを呼び出して半月以上も経っているため、今この酒場にヘンリーが居たのは偶然で、下手をすれば何日も待つ可能性もあった。

 

「こっちもいろいろと合ったんだよ」

 

 クライドはヘンリーの前に座る。

 そうすると、クライドやジゼルを見ていた視線はすぐに別の方を向く。

 このコロニーでもドレイク海賊団は有名でその船長のヘンリーも同様に有名で、クライドがヘンリーの知人である事が分かると下手に手を出せない。

 

「お前らマーロッソのカジノを潰したそうじゃねぇか」

「話が早いな」

 

 クライド達がマーロッソファミリーの経営している地下闘技場を潰したことはすでにかなり知れ渡っていた。

 

「連中は本気でお前たちを潰しにかかるつもりだぜ?」

「マーロッソはしつこい事で有名だからな。今のところは手を出されてないが、いつ来てもおかしくはないから冷や冷やしてるよ」

 

 クライドはそう言って肩をすくめるが、ヘンリーにもクライドがマーロッソファミリーの報復を対して気にしていないことは分かった。

 向こうから何もしてこなければ、理由がない限りは手は出さないが、向こうから手を出して来るのであれば全力を持って叩き潰すのがクライド達パラダイスロストのやり方である。

 戦力的に見れば、マーロッソファミリーの戦力はヴェイガンに圧倒的に劣る。

 ヴェイガンと戦うつもりであるなら、マーロッソファミリー程度の相手にビビっていてはヴェイガンと戦う事など出来きはしない。

 

「それで?こんなにも俺達を待ったと言う事はそれだけの用事って事だろ?」

 

 クライドは世間話はどうでも良く、すぐに本題にかかろうとした。

 ヘンリーがクライド達を呼びつけてすでに一月近くが経っている。

 その間、二人の間で連絡を取り合っている訳ではなかっため、それだけ待ってでもクライド達と会う必要があったと言う事になる。

 

「まぁな……」

「はん!お前らみたいな素人はお呼びじゃないんだけどな!」

「んだと!」

 

 つり目の少女がクライドにそう言うと、ジゼルがつり目の少女に掴みかかりそうな勢いで返す。

 

「止めねぇか、フラン」

「ジゼルも寄せ」

 

 クライドとヘンリーがそう言いフランと呼ばれたつり目の少女とジゼルは渋々矛を収めた。

 

「すまんな。うちの娘だが、海賊の中で育てられたせいで礼儀を知らねぇもんでな」

「うちのジゼルも似たようなもんだ。それで要件に戻っても良いか?」

「そうだな……単刀直入に言う。クライド、お前たちの力を借りたい」

 

 ヘンリーはそう言ってクライドに頭を下げる。

 海賊の中でも勢力の大きいドレイク海賊団のリーダーがクライドの頭を下げてまで頼むこととなれば相当なことになる。

 

「俺達のね……理由を聞いてから決める」

 

 理由を聞かずに返事を出せば、変に利用される恐れもある。

 クライドとヘンリーの付き合いが長い訳ではないため、クライドにはヘンリーの人柄は殆ど知らないからだ。

 

「近々、俺達はアンバットにたむろっているバッカニアの連中と蹴りを付けるつもりでいる」

 

 ヘンリーの言うバッカニアがドレイク海賊団を勢力を二分しているバッカニア海賊団である事は容易に想像がつく。

 今、その話が出ると言う事はヘンリーはバッカニア海賊団との一騎打ちにクライド達の力を借りたいと言う事になる。

 

「成程ね……でも、俺達はアンタ達の喧嘩には無関係の部外者だぜ?」

 

 ドレイク海賊団とバッカニア海賊団との抗争は戦争と言うよりも喧嘩に近い。

 それ故に二つの海賊団では関係ない第三者への被害を出さないようにするのが暗黙の了解となっている。

 

「確かにな……だが、連中は現在、あのシドウを用心棒に雇っていると聞いている」

「シドウってあのシドウか?」

 

 クライドがそう言うとヘンリーは頷く。

 クライドにもその名前は聞いたことがある。

 フリーのMS乗りで高い技術を持っているとされている。

 その能力を目当てに様々な勢力がシドウを引き入れる為に高い金を用意しているとクライドも耳にしたことがある。

 クライドとしてもそれ程の凄腕のパイロットならパラダイスロストにスカウトしたいと思っていたが、肝心のシドウの連絡先を知らない為、断念していた。

 

「それで俺達を雇いたいって訳か……」

「そう言う訳だ。生憎とうちの連中にシドウとタメを張れる奴が居ない」

 

 シドウの実力は裏社会でもかなり知られている。 

 それを相手にするとなると、ドレイク海賊団もそれなりの戦力を投入する必要がある。

 そこに白羽の矢が立ったのがクライド達だ。

 クライド達にはずば抜けた技量を持つパイロットはいないが、その代わりにずば抜けた性能を持ったガンダムZEROを持っている。

 パイロットの腕で敵わずとも、圧倒的な性能を持つガンダムZEROで凄腕のパイロットのシドウに対抗しようと言う算段だった。

 ヘンリーがそう言うと、フランがあからさまに機嫌を悪くする。

 

「シドウもエドウィンもアタイのグレートパイレーツでぶっ潰してやるよ! 親父!」

「止めとけバッカニアのところのボンならともかく、シドウはお前の手には余る」

 

 ヘンリーがフランをそう一蹴する。

 ヘンリーも直接シドウと会ったことは無いがフランの実力ではシドウには勝てないことだけは分かる。

 だからこそ、恥を忍んでクライドに協力を頼んでいる。

 

「まぁ、うちのアニキならシドウどころか一人でバッカニアを壊滅させられるけどな」

 

 それに対してジゼルは嫌みたらしく勝ち誇りそう言う。

 フランも負けじとジゼルを睨みつけて二人がガンを飛ばし合う。

 そんな二人を見て、クライドとヘンリーは内心ため息をつく。

 ジゼルとフランは根本的に似た者同士らしく、何かと張り合っていると言う事だ。

 

「事情は理解した。肝心の報酬はどうなんだ?俺はアンタと友達と言う訳でもなければ、ただで手を貸す程お人よしでもない」

 

 クライドにとっては海賊同士の争いには興味がない。

 この戦いでバッカニア海賊団が勝利すれば、クライド達はバッカニア海賊団とパイプを持てばそれで良い。

 

「戦いに勝利した暁にはそれ相応の礼はするつもりだ」

「その言葉に嘘偽りはないな」

「海賊の誇りに誓ってだ」

 

 二人の視線はそれることなくぶつかり合う。

 

「OK、交渉成立だ」

 

 しばらく、睨み合うとクライドがそう言う。

 ヘンリーが海賊の誇りに誓った以上、約束を違える可能性は限りなく低く、報酬がクライドの見込みよりも少なくても、ドレイク海賊団に対して借りを作ることが出来る。

 少なくともヘンリー・ドレイクは一度作った借りを蔑ろにする男で無い事はクライドにも分かった。

 それだけでもドレイク海賊団に雇われる価値があると判断した。

 もしも、約束を違えるようならばそれ相応の対応をすれば良い。

 

「それじゃ、俺達は母艦に帰ってこのことを仲間に伝える」

「ああ……お前たちの力、期待しているぞ」

 

 ヘンリーは瓶に残っている酒をクライドに渡す。

 

「お前らと同盟を組んだ祝いの酒だ。飲んでけよ」

「俺はパイロットだぜ?そう簡単に酒なんて飲めるかよ」

 

 クライドはそう言い渡された酒をつっ返す。

 パイロットである以上、いつ戦闘になっても良いようにクライドは酒を飲むことは殆どない。

 いざと言う時にパイロットが酔っていてはまともな操縦は出来ないからだ。

 

「違いない」

「祝いの酒ならアンタとそっちの子の二人でやってくれ」

 

 クライドはそう言って酒場を出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言う訳だ」

 

 アブディエルに戻ったクライドはヘンリーとの会話の内容を皆に話した。

 

「何がと言う訳よ……分かってるの? 相手はバッカニア海賊団にシドウよ」

 

 エリーゼはすでに返事をしてやる気のクライドに呆れている。

 バッカニア海賊団の戦力が連邦軍の一部隊よりも多いことをクライドも知っている上に相手には凄腕のパイロットのシドウまでいると来ている。

 こちらで唯一優位に立てるのはMSの性能くらいだ。

 クライドもその辺りは分かっている筈なのだが、安請け合いをして来た。

 

「確かに……バッカニア海賊団の特徴は戦力の数でドレイク海賊団の特徴は勢力の広さ……今まではそれでバランスを取っていて戦闘も小競り合いが殆どだったがアンバットは要塞だ。かなりの戦力を持っていると見て良いな」

 

 シャルルがバッカニア海賊団の戦力を予想してそう言う。

 アンバットは過去の戦争を使われた宇宙要塞のひとつで老朽化で連邦が破棄したが、拠点としての機能が完全に失われた訳ではなく、廃棄後はバッカニア海賊団の本拠地として使われていた。

 

「前に何度か、ビックリングにアンバットの攻略作戦を出した人もいたけど全て否決されたよ」

 

 過去にも連邦軍はアンバットに対する攻略作戦を提示したが、連邦軍の総司令部のビックリングは何かにつけてその作戦の実行を許可してない。

 その時に決まって言う事はアンバットの戦力が未知数と言う事だ。

 ビックリングが本気でそう思っているかは定かではないが、アンバットのバッカニア海賊団の戦力が未知数である事は間違いない。

 

「連邦の総司令部が投げ出した程の戦力か……僕達の戦力はMSが6機、ドレイク海賊団の戦力を合わせても100も満たない筈だね。それでアンバットを落とすとなると、高性能機を保有している僕達、特にクライドの負担が大きくなるよ」

 

 アルフレッドはアブディエルとドレイク海賊団の戦力からそう予測する。

 MSの質ではドレイク海賊団もバッカニア海賊団も軍などから流出したMSや裏ルートで購入したMSを使っているため、両軍にMSの質で差は無く、数の差を埋めるのは機体性能で秀でているパラダイスロストが頑張るしかない。

 

「それは分かっている。それに今回はグラディエーターを使うつもりだ」

「グラディエーター……ゼロの接近戦用のアーマーね」

 

 グラディエーターアーマーは近接戦闘に特化した装備を持つアーマーで、マッドーナ工房によった際に完成品を納入して、クライドがプロトGエグゼスの改良中にすでに調整を終えて後は実戦で試すだけになっていた。

 

「相手がUEならともかく海賊相手なら、実戦で試すには丁度良いだろ。もし、問題が出ても何とか出来る」

「それはどうだけど……」

 

 それでもエリーゼは渋る。

 確かに相手が海賊ならグラディエーターアーマーを装備したガンダムZEROに不具合が発見してもすぐにアブディエルで別のアーマーに換装して戦闘に戻す時間を稼ぐのはそう難しいことではない。

 だが、エリーゼの不安要素は別にある。

 アブディエルは大軍を相手にしたことがないと言う事だ。

 エリーゼも正規の訓練を受けた訳ではなく、指揮も実戦の中で少しつづ覚えた物で指揮官としては非常に未熟であった。

 ヴェイガンや連邦との交戦でも艦体クラスとの交戦は無いため、そこが不安要素となっている。

 

「エリーゼの不安も分かる。だけど、一度引き受けた以上、大軍を相手にしたことがないから止めますなんて言えないだろ?」

 

 もしそうなればヘンリーからの信頼も失いドレイク海賊団との繋がりも切れてしまう。

 

「それにいざとなれば俺とゼロで何とかする」

 

 結局最後はそこで落ち着く。

 パラダイスロストはガンダムZEROと言う圧倒的な力を有しているが、組織としては非常に未熟な点も多く最後はガンダムZEROの性能頼りになってしまうと言うのが内情である。

 

「ハァ……結局、いつも通り逃げ場はない訳ね」

 

 クライドがその場でOKを出したのも、アブディエルに戻ってから説明してエリーゼやアルフレッドに断られないための事であった事はエリーゼも分かっている。

 

「良いわ。そこ代わり、死んでも守り抜いてよね。クライド」

「はなっからそのつもりだ。エリーゼ」

 

 クライドはそう言い切り、アブディエルはアンバット攻略戦に向けて準備を開始する。

 

 

 

 

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