エンジェルの戦闘から十数日が経った。
その間、世界の情勢は大きく変わる事は無い。
しかし、その間にもネオ・ヴェイガンの制圧下は増えて行った。
不思議な事のUIEは地球圏のどこにも姿を現す事は無かった。
「陛下、レギオンの武装強化は完全に終了しました」
「そうか」
ヴァニスは宇宙要塞ラ・グラミスの司令室でコーデリアからの報告を受ける。
エンジェルでの戦闘後に武装の使用が出来なくなった親衛隊のMSと共にレギオン・イレイザーの修理の際に更なる武装強化を施していた。
「ディグマゼノン砲のチャージはどうなっている」
「すでに完了しています」
ヴァニスはラ・グラミスのディグマゼノン砲のチャージを指示していた。
今までは自身が最強である事を証明する為にはディグマゼノン砲のような大量破壊兵器を使ったところでそれは兵器の威力が高いと言うだけで最強の証明にならない事からロストロウランに致命的な損傷を与えた時にしかディグマゼノン砲は使ってはいない。
あの時は全世界にネオ・ヴェイガンの存在を知らしめる為に使った。
そして、今回もまたディグマゼノン砲を使おうとしている。
「陛下、照準はどこに?」
「そうだな……現在のディグマゼノン砲の射線上にコロニーはあるか?」
「ありますけど……連邦軍の駐留もなく戦略的な価値はありません」
「構わん。そこで良い」
そう言われたネオ・ヴェイガンの士官は首を傾げる。
戦略的には何の価値のないコロニーをディグマゼノン砲で破壊したところで何の意味もない。
ディグマゼノン砲に発射回数の制限はないが、1発撃てば2発目を撃つ為にはチャージに時間がかかる為、その隙を狙われる危険性がある。
しかし、今のネオ・ヴェイガンにヴァニスに逆らう者は誰もいない。
「撃て」
ヴァニスの指示でディグマゼノン砲が放たれる。
放たれたディグマゼノン砲は射線上のコロニーを跡形もなく吹き飛ばす。
そして、全世界のネットワークにコロニーが破壊された映像とラ・グラミスの司令室のヴァニスの姿が流される。
「私はネオ・ヴェイガンのヴァニス・イゼルカントだ。この映像は今さっき、我々がコロニーを破壊した様子である。このコロニーには私に跪く事もなく私に反旗を翻そうとしていた愚
か者がいた為、我が手により神罰を下した。そして、未だにこの地球圏には私に反旗を翻す愚か者達が存在している。故に私の手によって神罰を下す事を決めた。猶予は一月とする。一月後、24時間ごとにネオ・ヴェイガンの制圧下にないコロニー、都市をディグマゼノン砲にて神罰を下す事を今ここに宣言する!」
ヴァニスが言い終わると流されていた映像が終わる。
終わってからしばらくしても、司令室は静まり帰っている。
ヴァニスの宣言はそれ程衝撃的な事であった。
ヴァニスの宣言を要約すると、一か月後にネオ・ヴェイガンに制圧されていないところを1日1回、無差別にディグマゼノン砲で焼き払うと言う事だ。
それは余りにも強引なやり方で流石のネオ・ヴェイガンの兵士たちもすぐには付いて行く事は出来ない。
だが、ヴァニスに逆らう勇気のある兵士もいない為、すぐにいつも通りの司令室に戻る。
「コーデリア、後は任せる」
「はっ」
司令室をコーデリアに任せるとヴァニスは司令室を後にする。
司令室を通路を出て暫く進むとやがて人気がなくなると、ヴァニスは慣性でゆっくりと流れながら壁に軽くぶつかると膝をついて胸を抑え、若干息も荒くなる。
エンジェルの戦闘から確実にヴァニスの体は限界が近づいていると言う事を感じるようになっている。
今まではXラウンダーの能力を使えば発作が起こり易くなっていたが、今ではXラウンダー能力を使わずとも定期的に発作が起き、その間隔も短くなり発作の時間も長くなっているように思える。
「まだだ。まだ終わらん。私は……」
ヴァニスは自分にそう言い聞かせる。
体が限界に近づいている事は自分でも分かっている。
だが、このままでは自身の存在理由である最強である事を証明する事なく死ぬ。
それではヴァニスがここまで来た意味がない。
その為、短期で終わらせる為に今回の事を強行する事にした。
一か月の猶予を与えた事でヴァニスにキオ達は十分な準備を持って自分に向かって来る事が出来る。
そして、1日1回、無差別に破壊すると宣言すれば必ずキオは自分の前に来るだろう。
そこで更なる強化を行ったガンダムレギオンでキオを迎えうち勝利する。
最強の敵と認めたキオとガンダムAGE-FXに勝利する事でヴァニスは自分が最強であった事を証明する事が出来る。
その後に待っているのは死ではあるが、最強を証明した後に自分や世界がどうなるかなど、ヴァニスにとっては些細な問題ですらない。
「私は……最強なんだ。最強でなければならない。キオ・アスノ……私を殺しに来い。そして……私がお前を殺す」
ヴァニスはうわ言のように呟いて発作が治まるのを待つ。
エンジェルで自分に繋がるデータを削除したクライドはクライドの生まれ故郷であるオーヴァンにアブディエル改を隠して身を潜めていた。
オーヴァンもヴェイガンの襲撃の被害からすでに襲撃で生き残った住民は別のコロニーに移住して何十年もの間手つかずになっていたところをクライドが勝手に使っている。
そのオーヴァンの中の旧アスノ邸がクライドの用意した隠れ家の一つだ。
旧アスノ邸でクライドは自室でガンダム同士の戦闘データの解析作業を行っていた。
そこにグルーデックが入って来る。
「聞いたか」
グルーデックは部屋に備え付けられている椅子に座る。
クライドもグルーデックの用件は分かっている。
あれから余り動きの無かったネオ・ヴェイガンがここに来て大胆な行動に出た事だろう。
「ああ……ずいぶんと焦っているようだな」
「焦っている?」
「艦長も知っているが、アイツは俺がEXA-DBの中の技術を応用して最強の能力を持っている。だが、その代償に強すぎる力はアイツの体を蝕んでいる。俺ならそれを抑える事は出来るが、ネオ・ヴェイガンにそれは出来ない。アイツの猶予である一か月はアイツがまともに動ける時間と言う事だ。後一か月しかないんだ焦りもするさ」
クライドはヴァニスが世界に与えた猶予の一か月はヴァニスが戦える時間だと推測している。
ヴァニスがクライドの元を飛び出した時に持ち出した薬の量を考えるとまだ時間はありそうだが、ここまで強引な策を取ると言う事はそれだけヴァニスが焦っていると考えられる。
特にエンジェルであった時に最強のガンダムの存在をキオを持ち上げるような発言をしてヴァニスを挑発している。
「だが、好都合とも言える。この状況ならいずれアイツはキオと戦う事になる」
「キオ・アスノか……フリットの孫だったな。クライド、お前の目から見てどちらが勝つ」
「キオだな」
クライドは即答する。
グルーデックはクライドの性格上、ヴァニスが勝つと言うと思っていたが、即答でキオと答えた事は意外であった。
「昔、MSの性能差が勝敗を分かつ絶対条件ではないと言った者がいる。俺からすればそれは間違っている確かにMSの性能差は勝敗を7割程決める条件だ。幾ら腕の良いパイロットだろうとMSの性能に差があれば勝つ事は出来ない。高性能MSならまともに扱えなくても敵の攻撃を通さない装甲と一撃で敵を落とせる攻撃力があれば簡単には負けはしない。そこにパイロットの腕があればなお勝率が上がるだけの事だ。精々パイロットは1割程度だろう。残りの2割の内の1割が運、最後の1割はパイロットの心だ」
クライドの意見は完全に技術者としての視点からの物言いだが、グルーデックも指揮官の立場としてもある程度は賛同は出来る。
いかに腕の良いパイロットでも機体性能に差があり過ぎればパイロットの腕に差があっても勝てはしない。
それは蝙蝠退治戦役の始めの14年が証明している。
当時の連邦軍の主力MSのジェノアスはヴェイガンの主力MSのガフランと比べても性能が大きく劣る物ではなかった。
それでも14年間も一度も勝利出来なかったのはジェノアスの武装ではガフランの装甲には傷一つつける事は出来ず、ガフランの攻撃をシールドを使ってもほとんど守る事が出来ないあらであった。
パイロットの能力で決して連邦軍が劣る訳ではないが、ガフランの攻撃力と防御力をどうにも出来なかった。
「そして、キオのガンダムAGE-FXは攻撃力、防御力、機動力の全てを高次元で確立させた実に素晴らしいMSだ。大してアイツのMS、ガンダムレギオンは過去の戦闘データから見ればFXに匹敵するMSだったが、この前の戦闘では改修が加えられていた。見た感じ、攻撃力を重視したせいで機体のバランスが崩れつつあった。それでも攻撃重視のMSとしては非常に良い出来ではあるが、これ以上攻撃力を重視すれば確実に機体のバランスが崩れる。そうなればアイツには勝ち目はない」
クライドはレギオンの戦闘データを解析してそう判断する。
レギオンはレギルスをベースに改修したMSでFXの技術を取り入れてFX同様に攻撃力や防御力、機動性能を高い次元で確立させていた。
しかし、エンジェルでのレギオン・イレイザーはレギオンの武装を強化する余り攻撃力は大幅に向上しているがビットを展開する以外はシールドとしても高い機能を持っていたレギオンシールドが二連装拡散ビーム砲を搭載した事でシールドとしての機能が落ちているレギオンシールド改や脚部にビットの発生装置を内蔵したせいで脚部の装甲が脆くなり、左腕は伸縮機構のせいで関節部に掛かる負荷も増えている為、全体的な防御力は落ちている。
また、武装を強化してもスラスター類はレギオンシールド改の補助用の光波推進システムしか追加されていない為、機動力も落ちている。
特に防御力の低下は格下の敵を相手にするなら気にする程ではないが、同性能の相手や長時間による戦闘には向かなくなっている。
その為、クライドはレギオン・イレイザーは攻撃力は上がっても総合的な戦闘力ではレギオンよりも下がっていると判断していた。
唯でさえ、機体のバランスが崩れかけていると言うのに更に武装を強化した場合FXと戦った場合は高確率でヴァニスが敗北すると結論つけだ。
そして、クライドが挑発したせいでヴァニスがレギオン・イレイザーを更に強化しようとする事は明白で、力を追い求めるヴァニスが真っ先に攻撃力を強化する事もすぐに予想が付く。
「まぁ、俺がキオが勝つと言い切れるのはそれだけじゃない。アイツもキオも子供だと言う事だ。アイツの戦いは自分の存在を俺に認めさせるための戦いだ。結局のところはアイツは父親に認めて貰えずに駄々をこねているだけの子供だ。そんな子供はどんなに才能を持っていてもいずれは限界が来る。キオはキオで地球とヴェイガンが分かり合える道を模索するそうだ。大人になればそれが難しいどころか不可能に近いと言う事は理解は出来る。だが、子供が故に本気でそんな事を言える。信じて疑わない。人はいつか分かり合える日が来るとね。それは俺達が大人になる時に捨てた物だ。それを持ってる奴の心は強い。パイロットとしての能力はアイツの方が上だが、MSの性能や心ではキオの方が勝り運は俺が持っている。つまり、今のアイツがキオに勝てる要素はないと言う事になる」
クライドは機体性能意外の要素を考慮してヴァニスはキオには勝てないと結論を付ける。
ヴァニスの戦いは突き詰めれば自身の最強を証明する事は自分の存在をクライドに認めさせると言う物でそれは子供が親に自分を認めさせると言う事でしかない。
だが、キオは地球とヴェイガンが分かり得る世界を目指している。
戦争の歴史を知る者にはそれが限りなく不可能に近い事だと理解しているが、キオはそれでもそれが可能だと信じている。
その為、キオは心でヴァニスに勝っている。
そして、ここまでの展開はクライドの望むところで運はクライドに向いている。
ヴァニスがキオに勝る点はパイロットとしての能力だが、キオもFXを扱えるだけのパイロットである為、その差が決定的になる事もない。
「クライドはそれで良いのか? ヴァニスはお前の作る最強のガンダムのパイロットなのだろう?」
「構わないと言うか、アイツにはここで負けて貰わないと俺が困る」
ヴァニスはクライドが作り出す最強のガンダムのパイロットとなるべく生み出された最強のパイロットだ。
そのパイロットがキオに敗北すると言う事はヴァニスが最強と言う事に矛盾が生じる事になる。
「失敗は成功の基と言う諺があるように今のアイツに必要なのは失敗の経験、アイツにとっての失敗とは敗北する事だ。その敗北の経験が最強のパイロットになる為には必要な要素なんだよ」
今のヴァニスに必要なのは敗北の経験であった。
敗北する事でその敗北から学ぶ事で更なる力を得る事でヴァニスは最強のパイロットとして完成する。
「だが、その失敗ですべてが終わらないように俺らも動くとするか」
ヴァニスとキオの戦いはクライドはキオの勝利と予測するも、どのように決着が付くのかまでは予測は出来ない為、戦いが終わった後の事を考えてクライド達も行動を開始する。
ディーヴァの展望デッキでフリットはぼんやりと宇宙を眺めていた。
エンジェルでキオはヴェイガンと倒すのではなく分かり合う道を選んだ。
フリットはキオやアセムの言い分も理解は出来る。
口ではどんなに言ってもヴェイガンはかつては地球で生まれた人間の子孫であると言う事は。
しかし、今までの戦いでフリットや多くの部下を死なせて来た。
そして、救世主と言う事を託されて来た。
その為、二人の言い分は理解は出来るが納得が行く物ではない。
「フリット、こんなところにいたのか?」
「ウルフか……どうした」
「どうしたって、お前な……聞いてんだろ。ネオ・ヴェイガンが大きく動いた事をな」
フリットもネオ・ヴェイガンが1基のコロニーを破壊して一か月後に無差別破壊をすると言う宣言の事も知っている。
だが、フリットにとってはネオ・ヴェイガンの動きよりもアセムとキオの事の方が大事に思えた。
「何があった?」
ウルフもここ数日のフリットの様子がおかしい事は気づいている。
どこか上の空である事が多い。
フリットがそうなったきっかけはエンジェルでの一件としか思えない。
あの戦闘から帰投した後にある程度の事は聞いたが、すべてを聞き出した訳ではない。
フリットは自分一人で考えていても答えが出そうに無い為、ウルフにエンジェルでの事をすべて話す。
「成程な。アイツらがそんな事をな」
「アセムとキオの言っている事が分からない訳ではない。だが、それを認める訳にもいかんのだ」
「だろうな」
ウルフもフリットがそれを受け入れる事の出来ないと言う事は十分に理解している。
「なぁ、フリット。お前は何がしたい?」
「私は皆を守ると誓ったのだ。その為にヴェイガンを倒すと決めた」
フリットがガンダムを作ったのは皆を守る為だ。
その為、人類を救う救世主としてガンダムと名付けた。
蝙蝠退治戦役の後も、ヴェイガンの脅威から皆を守る為にヴェイガンと戦い続けて来た。
「そうだな。アセムもキオも同じ気持ちなんだろうよ。アイツらだって皆を守りたいと思って戦ってる筈だ」
「そんな事は今更言わなくても分かっている」
「アセムもキオもいい加減な理由で適当に聞こえの良い綺麗事を言うような奴らか?」
「そんな訳がなかろう! アセムもキオもそんないい加減な事をする筈がない!」
フリットは感情的になる。
ウルフもアセムやキオがいい加減な理由で今の道に進んだとは思ってはいない。
アセムもキオも様々な経験から考えて出した答えである事はフリットに言われずとも分かっている。
「ならよ。アイツらを信じて見ても良いんじゃねぇか? 俺らは長く戦い過ぎた。そのせいで敵を撃つ事を優先しちまう。だが、アイツらは戦う以外の道を模索し始めてんだ。俺達が考えなかった道を選んでんだ。どの道、俺もフリットも死にそびれて来たが、後何十年も生きる訳じゃねぇんだ。俺達が死んだ後はアイツらが世界を動かしていく事になる。俺達老兵に出来る事と言えば若い奴らを信じて託す事くらいだろ?」
フリットもウルフももう若くはない。
戦いで死ぬ事は無くてもいずれは寿命が尽きる時が来る事は確実だ。
その為、アセム達にしてやれる事は限られている。
そして、出来る事を言えばアセムやキオが進む道が未来に繋がっていると言う事を信じる事だけだ。
「ウルフ……私は……」
「そう難しく考えんなよ。お前の息子や孫はやってくれる。お前がそうだったようにな。俺からすればアイツらを信じる理由はそれだけ十分だ」
フリットは14歳でガンダムを作り蝙蝠退治戦役では連邦のエースパイロットであるウルフと互角の戦果を挙げている。
そのフリットの血を受け継いでいるアセムとキオもそれだけの可能性を秘めている。
「差し当っての俺達の役目はいろいろと無茶をしやがる暴走娘を止める事だ。猶予は一か月しかねぇんだ。考えている暇はねぇ」
「そうだな」
猶予は一か月しかない為、今は迷う暇もなく少しでもネオ・ヴェイガンとの戦いの準備をしなければならない。
少なくともヴァニスを野放しにすれば一か月後にはディグマゼノン砲による無差別攻撃が開始される。
それだけは阻止しなければならないのは確実であった。
エンジェルでの戦闘を終えたディーヴァは当初の予定通り、コロニー「サマーウォール」に匿われていた。
その中で、クレマン邸にキオ達は滞在していた。
コロニーは夏に設定されている為、気温は高いがクレマン邸は冷房が効いている為、快適に過ごす事が出来る。
その為、クレマン邸に身に交代で滞在しているディーヴァのクルーは自分達が逃亡者である事も忘れてしまいそうになっている。
「数時間前にネオ・ヴェイガンから出された声明の映像が事実である事が確認出来ました」
クレマン邸の主であるレオナールは艦長のナトーラとアビス隊の隊長のセリックとキオをクレマン邸の応接室に呼び出されている。
理由は数時間前にネオ・ヴェイガンが全世界に対して声明にあったコロニーを破壊したと言う事が事実かどうかをレオナールの持つ情報網から真偽を確認し、それが事実であると言う事が判明したからだ。
「つまり、彼女の言っていた事は事実と言う事か……だとしたら妙だな」
「どう言う事ですか? セリック少佐」
「ヴァニス・イゼルカントの今までの行動を見る限りでは彼女は政治的な手を打つよりも軍事的な手を打つ事の方が好みである武人肌と思われる。それも戦略兵器を使うのでなく戦術兵器であるMSを使い自身が戦場に出る事から自分の力に絶対な自身を持っていると言う事が分かる。そんな人が戦略兵器で脅しをかけて反攻勢力を炙り出すとは考えにくい。その証拠にロストロウランを攻撃した時以降には一度も使われてはいない」
セリックは今までの行動からヴァニスの人物像を推理する。
その中でヴァニスは圧力などの政治的な戦いよりもMSや戦艦を使った軍事的な戦い方を好む。
ディグマゼノン砲のような戦略兵器の類よりもにMSのような戦略兵器を好む。
更には自身が自らMSで出撃するところから自分の力に絶対的な自信を持っていると言う事が推理出来た。
そうなると今回のヴァニスの行動は不可解なところがある。
映像を見る限りではヴァニスは参謀の意見だろうと自分の好かないやり方は採用する事は無いとも推理が出来る為、更に分からない。
流石に追い詰められたとすれば形振り構わずにディグマゼノン砲を使うと言う可能性はあるが、戦局は圧倒的にネオ・ヴェイガンに有利である為、追い詰められての使用とも思えない。
「それに一か月と言う猶予を与えると言う事も分からない。何故、こちらに猶予を与える? 彼女の性格上、敵に情けをかけるとは思えない」
ヴァニスは無差別攻撃は一か月後を言っていた。
ディグマゼノン砲のチャージの関係上とも思えたが、その後に24時間置きに使うと言っている以上、24時間あればディグマゼノン砲は使えると言う事になる。
ヴァニスはノートラムを制圧する際に連邦軍の投降を受け入れずに全滅させている。
そんな相手が情けをかけて猶予を与えるとは思えない。
となれば、その一か月に何かしらの意味があると思われるが、セリックには幾ら推理しても答えが見つからない。
「24時間の間隔はあのビーム砲のチャージする時間だと考えても一か月おいてもリスクしかない筈だ」
「どういう事ですか? セリック少佐」
「彼女の本当の狙いはコロニーの破壊ではないと俺は思っている。コロニーを無差別に破壊すると言う理不尽な暴力を受けるとなれば、ネオ・ヴェイガンの制圧下でないコロニーや都市の住民はどう思う?」
「そうですね……私ならいつ自分達のコロニーや町が攻撃を受けるのか怖くなります」
「そうだ。それかその行いに憤るのどちらかだろう。後者の場合、その怒りの矛先は普通はネオ・ヴェイガンに向かうだろう。ネオ・ヴェイガンが敵に容赦がないと言う事はすでに周知の事実だ。その怒りをネオ・ヴェイガンに向けると言う事は自殺行為となる。ならば、やり場のない怒りはどこに向ける事になる? 俺達、ネオ・ヴェイガンに反旗を翻している反抗勢力だ。彼らにとっては連邦やネオ・ヴェイガンのどちらが支配しようと大差はない。だが、俺達のような勢力がいるが為に自分達の命の危険に晒されたとなると中立や連邦側のコロニーも反抗勢力をネオ・ヴェイガンに売り渡す事で自分達の安全を確保しようとするだろう」
それがネオ・ヴェイガンの作戦だとセリックは推理していた。
ディグマゼノン砲と言う理不尽な暴力を見せつけて市民を反抗勢力の敵に回すと言う物だ。
その場合、一か月と言う猶予もジワジワと市民の恐怖を与えると言う事も可能だが、24時間あれば撃てるのであれば撃った方が更に効果的でもあった。
一か月もあれば反ネオ・ヴェイガンの勢力は十分に戦力を集めて策を練ってネオ・ヴェイガンと戦う準備が出来る。
しかし、一か月の猶予を与えなければ、敵はまともに準備をする事もなくネオ・ヴェイガンと戦わなければならない。
もしも、十分な準備をしようものなら、無差別破壊の被害が増えて仮にネオ・ヴェイガンに勝利したところでネオ・ヴェイガンに勝つ為にコロニーを見捨てたとバッシングを受ける事になる。
「多分、僕達に十分な準備をさせる為だと思います」
「どういう事なの? キオ君」
「ヴァニスさんは中途半端な戦力や準備の相手に勝ったところで意味はないと思ってるんです。だから、僕達にネオ・ヴェイガンと戦えるだけの戦力を用意する為の時間を与えているんだと思います」
唯一、ヴァニスと長い時間を共に過ごしていたキオはヴァニスが自分達に戦力を整える猶予を与える為に一か月を待っていると確信していた。
「だが、一か月と言うのもこちらを油断させる罠かも知れない」
「それもありません。あの人はそんな事はしないと思います」
ヴァニスの性格を考えれば搦め手は使わないと言う事はセリックも分かる。
その為、ヴァニスをディーヴァのクルーで一番分かっているキオがそう言い切るのであれば反論をするつもりはない。
「分かった。それが事実であるなら彼女は一か月後に躊躇う事もなく無差別破壊を行うぞ」
「僕はヴァニスさんと戦って止めます。そして、あの人を助けたい」
キオは未だにヴァニスを殺す気は無い。
だが、エンジェルでの話しでヴァニスを止める為には戦うしかないと言う事も思い知らされた。
あの時はAGEドライヴの力で戦いと止める事が出来たが、それでは本当の意味でヴァニスを止めたとは言えない。
そして、クライドと話していたヴァニスはキオの知るヴァニスとは少し違った。
仮面で素顔を隠してもヴァニスは感情を完全に抑える事が出来ないと言う事を感じる事が出来た。
ヴァニスと過ごした時間で何度もヴァニスと言葉を交わし、互いの意見を言い合った事もあるが、そこまで感情を出した事は一度もない。
それだけ、ヴァニスの中でヴァニスを生み出した父親であるクライドへの思いが強いと言う事だ。
そう思ったところでキオは少し安心した。
今まではヴァニスは自分達とは少し違った存在に思える事もあったが、ヴァニスもまた自分達と何も変わらない人間であると思えたからだ。
だからこそ、頑なに敵を滅ぼす事しか考えていないヴァニスを助けたいと思った。
「キオ、お前が彼女を助けたいと思う気持ちは良く分かった。俺達では彼女とはまともに戦う事が出来ない以上、どう戦うかはキオに任せる。だが現実問題として準備をするにしても一般人を敵に回すとなると容易な事ではない」
敵であるヴァニスを助けたいと言うキオをセリックは甘いと思うが、キオを無理やり望まない戦いに駆りだしたとて戦果は期待できず、今のディーヴァにキオと同等に戦う事は出来ない。
どの道、ここまでの事をやったヴァニスは許される筈もなく、この戦いでネオ・ヴェイガンが敗北する事になれば確実にヴァニスの首は飛ぶ事になるだろう。
だが、それをここでキオに言ったところでキオは止まる事もなく、余計な混乱をさせる事になる。
その為、今はネオ・ヴェイガンとの戦いに勝つ事を優先しなければならない。
そこで問題となるのが戦力の増強となる。
ネオ・ヴェイガンの策で一般市民が敵に回るとなれば、ディーヴァがいつまでサマーウォールに隠れている事が出来るのかも分からない。
「それならこちらに任せて欲しい。いろいろと当てがある」
「クレマンさん、お気持ちは嬉しいですがよろしいので? 我々に協力すればコロニーを敵に回すかも知れない。貴方や奥さんにも迷惑をかける事になります」
「構いませんよ。私の娘も連邦軍の軍人でしてね。貴方方が敗北するような事になれば娘も浮かばれない」
レオナールはそう言い、棚に置かれている写真を愛おしそうに見つめる。
そこには連邦軍に入隊した時のレオナールとジゼルの娘であるレオーネの写真が置かれている。
他にもいくつかの写真が飾られている。
レオーネの言葉からセリックとナトーラもレオナールの娘が何らかの形で戦死していると言う事は理解できた。
「それに中途半端に投げ出せば妻も黙ってませんから」
レオナールは少し苦笑いをする。
レオナールの妻であるジゼルはかつての仲間であるアルフレッドからの頼みでディーヴァを匿った以上、何を敵に回しても最後まで支援しなければ許さないと言う事は目に見えている。
「私達にはネオ・ヴェイガンと戦うだけの力はありませんが、ガンダムとディーヴァなら出来る。50年前がそうだったように……」
今のレオナールやジゼルにネオ・ヴェイガンと戦うだけの力はないが、AGEシステムを搭載したガンダムとディーヴァの力があれば戦いに勝つ事が出来るを思っていた。
50年前のアンバット攻防戦も戦力差は絶望的とも言えたが、勝つ事が出来たのはディーヴァと2機のガンダムの戦果が大きい。
「だから、私も最後までディーヴァを支援し続けます。その代わり必ず戦いに勝って欲しい」
「分かりました。私達に出来るかどうか分かりませんが、最前を尽くします!」
ナトーラは改めて自分達の役目が地球圏の未来を左右する重さを認識して少し硬くなる。
「そう気負うな艦長。俺やキオもいるし、艦長も成長しているんだ」
「そうですね……」
セリックの言葉も気休め程度だが、落ち着く事は出来る。
ナトーラもフリットやセリックのサポートを受けつつもここまで戦う事は出来ている。
フリットは今はディーヴァにはいないが、自分も成長していると自分に言い聞かせる。
「こちらの独自のルートを当たって戦力を集めます」
「頼みます」
「では、私達はディーヴァに戻って準備に入ります」
戦力を集める事はレオナールに任せてナトーラ達はディーヴァへと戻りネオ・ヴェイガンとの戦いに備える。
一か月後、ヴァニス・イゼルカントの最後の戦いが始まる。