機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第107話

 

 

 

 

 ネオ・ヴェイガンの宇宙要塞ラ・グラミス攻防戦から5年、A.G.169年。

 ヴァニス・イゼルカントと言う絶対的な支配者を失ったネオ・ヴェイガンはすでに軍としての機能を維持できなくなっている。

 連邦軍はネオ・ヴェイガンとの戦いで大打撃を受けるも、連邦を離れていた者達が戻って来た事で体勢を整えつつあった。

 この5年で連邦軍は連邦政府の腐敗の浄化、地球圏の治安の回復などに力を入れて失った信頼を回復しつつある。

 そして、現在の連邦軍はヴェイガンの地球への移住計画を推し進めていた。

 長きに渡る戦闘で地球圏の人口は激減した事もあり、皮肉にも戦争によってヴェイガンの住民を地球圏で完全に受け入れる事が出来るようになっていた。

 その中でも一部のヴェイガンの人間は地球に移住する事も可能となり、世界は平和へと進んでいるのだった。

 

「アスノ司令、L3方面に偵察に出ていたゼハート少佐の部隊より定期連絡がありました。L3宙域にてUIEのMSと接触、交戦しこれを撃破したとの事です」

「そうか」

 

 連邦軍の宇宙での拠点の大半を失った事で今はかつてネオ・ヴェイガンが使っていた宇宙要塞ラ・グラミスが新たな連邦軍の総司令部として運用されている。

 5年前にエリスが破壊したエネルギーコアは未だに破壊されたままだが、ディグマゼノン砲を使わないのであれば破壊されたままでも十分に使えた。

 現在ラ・グラミスの司令に再び連邦軍に戻ったフリットが務めている。

 連邦軍に戻ったフリットはヴェイガンとの和平協定に力を入れている。

 それを補佐しているのがフリットが現役時代に長年フリットの右腕として補佐して来ていたアルグレアスだ。 

 フリットはヴェイガンとの融和政策の一環として、旧ヴェイガンを連邦軍に加入させている。

 それにより連邦軍内部は混乱もあったが、戦力を増強する事に成功している。

 それと同時進行でヴェイガンと地球の人間の両方の血を引いているスラッシュを相互理解の為の使節団としてヴェイガンや地球の人間の間に立って現在もコロニーや地球の都市を行き来している。

 当初は反ヴェイガンや反連邦の過激派やネオ・ヴェイガンの襲撃を受けると言う事も少なくはなく、今はティアナを護衛につけて少しづつ襲撃の回数も減っており、それが成果の現れであると思いたい。

 

「ですが、やはりナイトルーパー系の無人機だけのようですね」

 

 ゼハートからの報告にはUIEのMSはナイトルーパー改のみで戦闘後に回収した破片から戦闘を行ったナイトルーパー改ARISUシステムで動いていた無人機である事が判明した。

 回収される事を考えてかARISUシステムには一定の行動パターン以外の一切の情報が無かった為、回収したところで情報を得ると言う事はない。

 

「一体、奴らはどこに潜んでいると言うのだ……」

 

 ここ数年でようやく地球圏も落ち着き始めた事で、姿を見せないUIEの捜索で各ラグランジュポイントに軍を派遣し、地球でも可能な限り捜索をしているが、今回のように小規模な戦闘は報告されているが、UIEの動きを掴む事は出来ていない。

 

「地球圏でここまで探して尻尾が掴めないとなると地球圏にUIEの本隊はいないと考えた方が良いかも知れませんね」

「そうだな。連中の本拠地と思われるノアを隠せるところはそう多くはないからな」

 

 現在、UIEの本拠地を思われているのはかつてクライドが設計した超ド級戦艦ノアだ。

 そのノアは巨大が故に隠す事は困難でこれだけ探してもノアが見つからないと言う事は地球圏にノアはいないと考えた方が自然と言える。

 

「となれば火星圏か……」

「すでにセカンドムーンに滞在しているアスノ博士にはその旨を伝えております」

 

 アルグレアスもその可能性を考慮に入れて火星圏のセカンドムーンにいるクライドに火星圏にノアがいるか調査の依頼を出している。

 ラ・グラミスでネオ・ヴェイガンが敗北して連邦軍が再建しようと言う矢先にクライドは何気ない顔で軍に復帰している。

 20年以上も死んだ事になっていた事もあり、クライドが戻って来た事には波紋を呼ぶもクライドの頭脳を必要とした連邦はクライドに特に何を言う事なく受け入れた。

 そして、今は火星圏のヴェイガンの拠点でもあったコロニー、セカンドムーンに滞在してヴェイガンを長年苦しめて来たマーズレイの研究を進めている。

 

「アスノ博士と言えば流石ですね。ヴェイガンを長年苦しめて来たマーズレイによる死病を死病で無くしてしまったんですからね。博士の専門分野とは違いますから苦戦するとは思ってましたが僅か数年で形にしてしまうとは……」

 

 クライドがマーズレイを研究して数年が経つがすでに研究が結果として出始めている。

 今までは罹れば助からなかったマーズレイによる死病に対する新薬の完成である。

 それにより初期段階であれば高確率で完治すると言う事例がすでに報告されている。

 初期段階を過ぎても末期でなければ完治は出来ないが、薬で症状を抑える事が可能となり治らずとも死病で死ぬと言う事は無くなっている。

 クライドの専門分野はMS開発でエリスを生み出す時に医学の分野も少しかじっていると言う程度で研究は難航すると思われていたが、クライドは数年で結果を出しつつある。

 クライドを知る者の間ではクライドが大人しくMS開発以外の研究に精を出している事を不気味に思い、マーズレイをMSの兵器に転用しようと考えているなどと言う噂まで流れているが真実を知るのはクライドのみであるが、クライドの思惑はともかく、今までヴェイガンの民を恐怖させていた死病からヴェイガンの移住者が解放された事は大きな成果と言える。

 

「そうだな。AGEシステムを失った今、兄さんの頭脳は連邦軍の大きな財産だからな」

 

 5年前にラ・グラミスのエネルギーコアの爆発でAGEシステムを搭載したFXは失われている。

 AGEシステムのメインユニットの再製造は可能でディーヴァのAGEビルダーも健在ではあるが、AGEシステムの中で唯一複製が不可能であるAGEデバイスがFXと共に失われている。

 AGEデバイスをFXにセットしたままで退避したアセムやキオを責める事は無いが、AGEデバイスをクライドがAGEドライヴと共に回収していると言う事はフリット達は知らない為、フリット達はAGEデバイスが失われた事で連邦軍はAGEシステムを失ったと思い込んでいた。

 

「兄さんのおかげで多くの命が助かっている。私達も負けてはいられんな」

「そうですね。すでに新型MSの配備は進んでおります」

「今はそのくらいしか軍に出来る事は無いか……」

 

 UIEの捜索も大事ではあるが、UIEの目的が不明瞭な部分が多い為、有事に備えて軍備を増強している。

 ヴェイガンの戦力を取り入れるだけではなく、連邦軍はヴェイガンの技術者の協力の元新型MSの開発と配備を進めていた。

 現在はクランシェカスタムを一般のパイロット用に調整したクランシェⅡが重力下での航空戦力となっている。

 それ以外でもアデルマークⅡにAGE-1 グランサのアーマーユニットを追加して汎用型MSとしてアデルマークⅢ、AGE-3をベースにした砲戦用MS、Gブラスター、Gバウンサーを母体にAGE-FXのデータを反映させたXラウンダー専用機のFXバウンサーが開発されて配備が進んでいる。

 これらのMS開発にクライドが一切関知しない事がクライドの黒い噂を加速させる原因ともなっていた。

 その他にも新人パイロットや前線指揮官の育成にも力を入れている。

 ヴェイガンとの戦いに区切りがついても、連邦軍は戦いの為の準備をしなければいけないと言うのが実情でもあった。

 

「確か……お孫さんはそろそろ訓練校を出て配属が決定する次期でしたね」

「ああ……そうだったな」

 

 フリットは余り興味が無いように答えるも、アルグレアスはフリットが孫であるキオの配属先に自分が一番信頼を置いている部隊に配備されるように手を回していると言う事を知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火星圏でかつてはヴェイガンの本拠地のコロニーであったセカンドムーンは現在は連邦軍の管理下にある。

 すでに住民は地球圏に移住している為、セカンドムーンに住人は住んではおらず、今はマーズレイの研究チームが滞在している。

 そのセカンドムーンの宇宙港にディーヴァが入る。

 すでに老朽艦となり、量産化されてるディーヴァは火星圏に派遣されて調査チームの旗艦となっている。

 

「ご苦労さまです。グルーデック艦長」

「今回のデータはすでにまとめてそちらに送っておいた」

「ええ、届いています。ディーヴァはセカンドムーンに入港後、クルーの健康チェックに入ってください」

 

 ラ・グラミスでの戦いの後連邦軍に復帰したディーヴァのクルーは総入れ替えが行われて現在はグルーデックが再びディーヴァの艦長となり日々、火星圏でマーズレイのデータ収集の任務に就いている。

 

「了解した。それで首尾はどうなっている」

「アスノ博士が開発した新薬は地球圏で結果を出しつつあると言う事が報告されています」

 

 すでに地球圏でクライドが開発した新薬の成果はセカンドムーンにも届いている。

 結果が出ていると言う事はディーヴァのクルーが命を賭けた意味もあると言う物だ。

 ディーヴァはヴェイガンからの情報でマーズレイの対策はある程度はしてあるが、データ収集の為にマーズレイの影響の強い場所に向かう事も多い為、クルーがいつマーズレイの影響で病に倒れるかは分からない。

 それでもディーヴァのクルーの大半はヴェイガンから志願した者達でマーズレイから同胞を助ける為に危険な任務に就いている。

 成果が出ていると言う事はそれが報われていると言う確かな証拠であった。

 ディーヴァはセカンドムーンの宇宙港に入港して、クルーはマーズレイの影響を受けていないかの健康チェックに入る。

 ディーヴァがセカンドムーンに帰還した事など気にも留める事も無く、クライドはセカンドムーンの工業施設にいた。

 

「ここは使われていないはずだけど、どこに行くつもり?」

 

 クライドの進路を塞ぐようにエリーゼが立ちはだかる。

 エリーゼはブランシャール運送の事を後進に任せてグルーデックがディーヴァの艦長に戻った事でアブディエル改の艦長となり、セカンドムーンでクライドが真面目に仕事をしているかの監視の為にセカンドムーンに滞在している。

 クライドはエリーゼの顔を見た瞬間にあからさまに視線を泳がす。

 明らかに何かを隠している為、エリーゼはクライドに詰め寄る。

 

「これを見てくれる? 政府からの研究資金の計算が合わないの。責任者としてきちんと説明をして貰える?」

 

 エリーゼはマーズレイに関する連邦政府からの研究資金が実際に使われてた経費の食い違いをクライドに見せる。

 

「記憶にないな……俺も歳を取ったな」

 

 クライドは誤魔化そうとするも、エリーゼは全く信じてはいない為、意味がない。

 エリーゼが白状するまでクライドを逃がす気がない事を悟ったクライドは諦めてため息をついた。

 

「仕方がないな……ついて来い」

 

 エリーゼはクライドに連れられて工業施設を奥まで進む。

 その奥はかつてはヴェイガンのMSの開発施設がありMSの格納庫があった。

 そこにエリーゼは案内された。

 その格納庫には2機のガンダムが置かれていた。

 1機はガンダムAGE-FXに酷似したガンダムでもう1機は見た事もない白いガンダムだ。

 

「パパって……げっ、何でママもいんの?」

「悪い。ばれた」

 

 そのガンダムに取りついて作業をしていたマリィはエリーゼを見て顔をしかめる。

 マリィはヴェイガンにいた経験を買われ、クライドと共にセカンドムーンに滞在している。

 名目上はマーズレイを研究するに当たりマーズレイの影響を軽減、もしくは無効化をする為の装置を開発する必要が出て来た場合に技術者が必要となる為となっているが、今の段階ではディーヴァとアブディエル改やそれに搭載されているMSの整備やセカンドムーンの保守作業以外に技術者は特に必要ではないのにマリィを連れて来た一番の理由はここに置かれている2機のガンダムの製造を手伝わせると言う事である事は明らかであった。

 

「アンタ達ね……」

「そういうなよ。マリィの手伝いもあってようやく完成したんだ」

「これがクライドの作ろうとしていた最強のガンダム?」

「そういう事。ガンダムZERO Z(ゼータ)、横の青い方はAGEシステムが新たに考案したガンダムAGE-FX コレクトストライクだ」

 

 格納庫に置かれている2機のガンダムの内、白いガンダムこそがクライドが長年開発を続けて来た最強のガンダムであるガンダムZERO Zだ。

 ガンダムZERO Zは過去にAGEシステムが生み出した技術である質量装甲に疑似斥力システム、EXA-DBの中の技術である光波推進システム、FXに搭載されたサイコフォローシステムと言った技術の全てを一つに集約している。

 ガンダムレギオン・アブソリュート・イレイザーのデータを初めとした過去のデータからガンダムZERO Zには内蔵火器は頭部に装備されているビームバルカンのみで他には内蔵火器が搭載されていない。

 これは長年の研究からクライドがごちゃごちゃとした装備は必要はないと判断したからだ。

 その為、ガンダムZERO Zの装備は頭部のビームバルカン以外にはバックパックのビームセイバーが2基に右手の専用のスタングルライフル、左腕のシールドのみとMSの武装としては最低限の物を装備しただけの非常にシンプルな物になっている。

 その分を機体の基本性能を追及している。

 装甲には質量装甲が採用され、フレームは全てXフレームになっている。

 バックパックにはガンダムレギオンで使われていた翼の形状の大型光波推進システムが搭載されているがCファンネルが付いていない為、完全に推進装置となりCファンネルが付いていない分、推力を増している。

 コックピットにはXラウンダー専用機の開発技術の進んでいるヴェイガンのMSのコックピットをベースとしつつも座席をコックピットからアームで浮かせる事でパイロットへの衝撃を少なくする新型の物になっている。

 そして、武装も専用の物が開発されている。

 スタングルライフルはFXに搭載されていた物を改良して内部にMSを動かす事も可能な出力を持った小型ジェネレーターが内蔵されている為、最大出力ではダイダルバズーカにも匹敵する威力を持っているが通常時は重MSを撃破するのに十分な威力を維持しつつも連射速度もある程度は確保されている。

 バックパックのビームセイバーはビームサーベルよりも高い出力のビーム刃を形成する事が出来る。

 これも内部に超小型のジェネレーターが内蔵されており、柄がビームサーベルよりも若干大型になっているが長時間の間もビーム刃を形成する事が可能となっている。

 シールドは表面は電磁装甲、その下には質量装甲に2重装甲となっている。

 シールドにもスタングルライフルと同様に小型のジェネレーターが内蔵されている為、質量装甲の強度は戦艦の主砲ですら防ぐ事が出来る。

 更にシールドにはビーム拡散フィールドを展開する事が可能で理論上はディーヴァのフォトンリング・レイの直撃も耐える事の出来る鉄壁の防御力を持つ。

 今までのクライドの開発するMSの装備には1つの装備で複数の武器として使える複合兵器が使われる事が多かったが、1つの武器で1つの役割しか出来ない代わりにその役割を突き詰められている為、一つ一つの武器は従来のMSの装備よりも圧倒的な性能を持つ。

 本体にはAGEドライヴが搭載され、リミッターを解除して機体性能をフルに発揮できる「モードZERO」も用意されていた。

 Xラウンダー専用機に多く装備されているビットやファンネルは使用時に操作にパイロットの集中力が使われ、本体の操縦が少なからず疎かになる傾向がある為、ガンダムZERO Zには搭載されず、パイロットは機体の操縦に専念できるようになっている。

 カラーリングは戦場で目立つ為に白一色となっている。

 クライドが長年に渡って集めたデータに回収したAGEデバイスの中に蓄積された戦闘データやアスノ家の過去の研究データ、クライドが保有するEXA-DBのデータの全てを集約してガンダムZERO Zはクライドの満足の行く最強のガンダムとして完成した。

 機体の名前には過去のクライドが開発したガンダムには順に数字が付けられる事が多かったが、このガンダムにはクライドが目指す最強のガンダムとしての到達点であると言う意味も込めて「Z」が付けられた。

 

「CSはAGEシステムがキオの戦闘データを元に設計したガンダムでキオの敵を殺さないように戦う戦い方を活かす設計になってる。面白い事に設計思想は正反対でも設計の方向性は同じに

 

向いてんだ。面白いだろ?」

 

 AGEシステムがキオのFXの戦闘データを元に導き出したガンダムだ。

 見た目はFXと大差はないが、中身は全くの別物と言っても良い。

 Cファンネルは数や大きさには代わりは無いが、機動性能と操作性能が格段に向上している。

 見た目で大きく変化のある両腕にはビームシールドの発生装置が内蔵されており、それはビームニードルガンとしても使える。

 掌にはビームサーベルが内蔵されており、FXの物よりも出力が向上し、ヴェイガンのMSの技術も使われておりビームサーベルを鞭のように使う事も可能になっている。

 ビームニードルガンにはシグマシスロングライフルの技術が使われている為、パイロットのXラウンダー能力を標準補正に加えてビームを湾曲させる事が出来る。

 威力は小さい代わりに連射速度と命中精度が高い。

 機体の至るところのスラスターも強化されている事もあり機動性能も向上した。

 AGEシステムは搭載されていない代わりに機体にAGEデバイスをセットする事でAGEデバイスに蓄積した戦闘データを引き出す事でガンダムが過去に戦闘を行ったMSのデータから敵の次の動きを計算してXラウンダーが能力を使う時に発せられる特殊な脳波に感応する事でパイロットのXラウンダー能力による先読み能力を通常よりも先を読ませる事が出来る。

 FX-CSはキオの敵を殺さずに戦うと言う戦い方に合わせて正確な攻撃を重視している。

 FXとの最大の相違点は手持ちの火器を装備していないと言う事だ。

 FXが装備していたスタングルライフルやダイダルバズーカはMSの火器としては最強クラスではあったが、それ故に威力が高すぎる為、敵を殺す危険が非常に高い事もあり、キオはほとんど使わなかった事もありFX-CSには必要なしと判断された。

 その為、機体の基本スペックを限界まで向上させる事で敵との性能差で少しでも開かせる事で戦闘を優位に進める事が目的とされている事もあり、基本的なスペックは従来のMSを圧倒的に凌駕している。

 クライドのガンダムZERO Zはいかに効率良く敵を撃破出来るかと目的に開発されているのに対してFX-CSは逆にいかに敵を殺さずに戦うかと目的に開発されている設計思想は対局にあると言えるが、どちらもその為に機体の基本性能を極限まで向上させていると言うところは同じである。

 

「呆れたわ。火星圏まで来てコソコソとこんな物を作っていたなんてね」

 

「まぁな。火星圏は地球圏よりも静かだし、資源を手に入れるのも容易だからな」

「資源って……研究費だけじゃなかったのね。勝手に着服したのは」

 

 クライドが火星圏に来たのはマーズレイの研究の為だけではない。

 火星圏は地球圏に比べて騒乱も無い為、開発に専念できる上に火星圏にはヴェイガンの戦争を支えていた豊富な資源があるからだ。

 長年の戦争で火星圏の豊富な資源は枯渇仕掛けていたが、MSを2機製造するには十分な量の資源がある。

 その資源も今は連邦の管理下ではあるが、クライドは勝手に使っていた。

 クライドはセリアとの約束もあったが、それ以上に静かに研究できる環境と火星圏の資源を目当てで火星圏まで来ていたのだった。

 火星圏は未だにマーズレイの影響を完全に無効化する研究は途中である為、火星圏に滞在すると言う事はいつ、マーズレイによる死病で倒れるか分からないがクライドはそれを承知の上で来ている。

 マーズレイの研究そのものはガンダムの開発の片手間で行っていた。

 ある程度の研究はヴェイガンも行っており、クライドが火星圏で用意したAGEシステムとEXA-DBの情報があれば5年で十分にマーズレイの死病に対する薬を開発する事は難しい事ではなかった。

 

「まぁな。その甲斐もあって5年もかけて完成した」

 

 クライドは悪びれる事もないどころか、満足そうに答える。

 クライドは学生だった時から構想し、何十年もかけてガンダムZERO Zを完成させたのだ。

 ガンダムZERO Zこそがクライドの人生の結晶とも言えるガンダムであった。

 

「で? クライドの事だから完成させて終わりって訳じゃないんでしょ?」

「当然だ。最強のガンダムは完成した。次はこいつをMS史や歴史に載せる」

 

 最強のガンダムは完成した。

 だが、このままでは完成したと言う事だけで歴史に残す事は出来ない。

 クライドの次の目的は完成したガンダムZERO Zを世界に見せつけて歴史に残す事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 オリバーノーツ基地の戦艦のドックにバロノークが入港する。

 5年前の戦いの後、宇宙海賊ビシディアンは解散した。

 それにより、かつてのビシディアンのメンバーは表向きは連邦軍に逮捕された事になっているが連邦軍に入った者もいれば、そのまま故郷に帰った者やフリーのMSパイロットになった者もいる。

 ビシディアンの母艦であったバロノークは連邦軍の所属となり、艦体に書かれていたビシディアンのエンブレムは消されて連邦軍の戦艦である事が分かり易くマーキングされている。

 黒かった塗装も薄い青で塗装しなおされている。

 バロノークのクルーも代わり、今は艦長席には連邦軍に戻りラ・グラミスを陥落させた功績で中佐に昇進したナトーラ・エイナスが座っている。

 

「艦長、ラ・グラミスから補充要因の情報が来たと聞いたが」

「アスノ少佐。こちらになります」

 

 ナトーラはブリッジに入って来たアセムに端末を渡す。

 アセムもあの戦いの後、連邦軍に戻っている。

 海賊として連邦軍と戦っていたアセムだが、フリットの計らいでアセムは軍内部に蔓延るヴェイガンへの内通者を叩く為に当時連邦軍の総司令官であったフリットの特命により海賊に扮して内通者と叩いていたと言う事になっていた。

 実際にビシディアンが叩いていた部隊はヴェイガンに内通していた為、アセムが連邦軍に復帰する事に文句が出る事は無かった。

 そして、10年以上もの間、敵と内通していた部隊を叩いた功績が認められ現在は少佐となりバロノークのMS隊の隊長を任されている。

 現在、バロノークのMS隊はアセムのガンダムAGE-2を含めて2機しか配備されてはいない。

 パイロットの育成の為に連邦軍のトップクラスのパイロットであるアセムの下に配属させる事で新人の生存率を上げつつも実戦経験を積ませてある程度の経験を積ませたところで別の部隊に転属させると言う事を繰り返して連邦軍のパイロットの技量を底上げをしようとしている。

 それにより、今はバロノークにはアセムとアセムの副官のMSしか配備されていない。

 次の任務の指示と共にバロノークに新しいパイロットの情報が送られて来たと言う知らせを聞いてアセムはブリッジまで来ていた。

 アセムは受け取った端末に出ている新人の情報に目を通す。

 

「確かに即戦力になる新人を送って欲しいと言ったが……父さんの仕業か」

「何か問題でも?」

「いや、問題は無い。即戦力としては十分過ぎる」

 

 アセムは情報に目を通してため息をつく。

 今回は任務がすぐに迫っている為、いつものように少しの訓練を受けさせる事なく、実戦をさせる事になる。

 その為、アセムは次の新人は始めからある程度の実力者にして欲しいと上層部に頼んでいる。

 情報に記されている新人は3人だった。

 3人ともそれぞれの出身の訓練校では主席で卒業をしている為、十分に即戦力と言える。

 そして、3人の新人の1人の名前はキオ・アスノであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリバーノーツの郊外の高台に二つの墓が作られていた。

 その二つの中にはそれぞれ、ルウ・アノンとエリス・アスノの名が刻まれていた。

 その墓の前にキオ・アスノは墓に手を合わせていた。

 あれから5年が経ち、当時は13歳の少年だったキオも今では18歳の青年に成長していた。

 この5年で幼さも無くなってはいるが、母親譲りの髪や父親譲りの瞳から少年時代の面影が残っている。

 

「エリスさん、世界は相変わらず小規模の戦闘が続いています」

 

 キオはエリスの墓の前で現在の世界の情勢を報告している。

 ここにルウとエリスの墓を立ててからキオは時間を見つけては墓の前で自身の近況や世界の事を報告している。

 

「爺ちゃんも父さんも戦いを終わらせて平和な世界の為に戦っているけど戦いは終わりません。僕も今日から戦いを終わらせる為に戦います。僕の戦いを」

 

 キオは単にエリスに報告している訳ではない。

 ここで報告する為にキオは自分の戦いを思い出す。

 戦いの後、キオは学校に通い様々な事を学んだ。

 人の歴史は戦いの繰り返しでコロニー国家間戦争よりも前に戦場にMSが現れる以前にも戦争は起こり、大昔には馬に乗り剣や槍を持って戦争をしていた時代すらもあった。

 それらを学んだ事でかつて、キオの父のアセムが至ったように人は戦いからは逃れられないと思う時もあった。

 そんな時にエリスの墓の前でエリスが最後に言った言葉を思い出す。

 エリスは最後にキオに変わってくれるなと言った。

 あの時のキオはまだ子供で人は分かり合えると本気で信じていた。

 人の歴史を知っても尚、キオはエリスの最後の言葉を支えに信じて来た。

 いつか人は分かり合う事が出来て戦いがなくなる世界になると言う事を。

 その為にキオは戦う道を選んだ。

 敵を倒す為に戦うのではない。

 人を守る為の戦いをだ。

 

「見ていて下さい。エリスさん」

 

 キオは学校を卒業した後に連邦軍の訓練校に進学した。

 始めは訓練校のMSではキオの反応速度に追いつく事が出来ずに苦労をさせられた。

 その為、訓練校の3年間はXラウンダー能力を使う事は無く訓練に励みキオは訓練校を主席で卒業するに成長した。

 そして、今日から連邦軍の軍人として戦う事になる。

 

「キオ! こんなところにいたのか!」

 

 キオがエリスに報告を終える事にディーンがキオを呼びに来る。

 ディーンは今はオリバーノーツで働きながら生活している。

 オリバーノーツはヴェイガンの襲撃で一度は大打撃を受けたが今は復旧が殆ど終わっている。

 復旧後はヴェイガンからの移住者も少なからずおり、オリバーノーツをヴェイガンが破壊した事もあり住民の間では簡単にヴェイガンの人間を受け入れる事は出来なかった。

 ヴェイガンの人間も今まで安全な地球で過ごしていた相手に対する嫉妬や積み重なった憎しみもあり、住民の間で抗争にまで発展しかけていた。

 それはオリバーノーツに限らず、ヴェイガンが移住した都市で起きている事でスラッシュが間に立って収めようとしているが、スラッシュ一人では限界もある。

 オリバーノーツではディーンもヴェイガンからの移住者やオリバーノーツの人間も宥めていた。

 初めは上手く行く事は無かったが、キオやウェンディなどと協力してオリバーノーツは他の都市に比べて比較的早く落ち着きを取り戻して力を合わせて復旧作業が進められている。

 

「お前、今日から軍に配属されるんだろ? ウェンディが基地で待ってるぞ。早くしないとウェンディに小言を貰うかも知れない」

「分かってるよ。ディーン」

 

 キオは基地で待っているウェンディの事を思い苦笑いをする。

 ウェンディはキオよりも1つ年上である為、去年医療系の学校を卒業して今はキオの叔母のユノアについて世界中を飛び回っている。

 キオの方からは特に用事がなければ連絡を取る事もなかったが、定期的にウェンディから連絡があり話していたが直接は会う機会はほとんどなかった。

 そんなウェンディもキオが軍人となる門出の日と言う事もあり、ユノアと共にオリバーノーツに帰って来ている。

 

「ルウとエリスさんの墓の事は俺に任せとけ」

「うん。お願いするよ」

「キオ……たまには帰って来いよ」

「うん」

 

 キオは二人の墓に背を向けて新たな戦場に向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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