機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第113話

 

 

 

 

 UIEがノアを地球にぶつける作戦に対して連邦軍も戦力の確保が大詰めに入り、阻止作戦の為の準備に入っている。

 アブディエル改にはガンダムAGE-1 グランサとF-ZEROが運び込まれている。

 

「俺は納得した訳じゃないからな」

 

 アブディエル改のパイロットの待機室でクライドはフリットに愚痴っている。

 今回の作戦の第一作戦はフリットとクライドが要だった。

 しかし、クライドはその作戦を納得した訳ではない。

 UIEに戦力では圧倒的に劣るものの大量のMSや戦艦を確保する事に成功している為、技術者であるクライドが最前線にMSで出撃すると言う事には到底納得が行かない。

 

「仕方がないだろう。兄さん。ノアを止める為にまずは内部のシステムを掌握する必要がある。ノアの内部に侵入する事ができ、システムを掌握できる者など連邦軍には私と兄さんしかいないだろう」

 

 第一作戦はノアのシステムの掌握だ。

 ノアの移動速度はすでに自分では止める事の出来ない速度まで達しているが、システムを掌握してノアのエネルギー炉をを自爆させればノアを破壊する事は可能だ。

 それが出来ずともシステムを掌握すればUIEのARISUシステムの停止やノアの武装を封じる事は可能でそれだけでも戦局は大きく変わる。

 その為に戦線を突破してノアの内部に侵入する事と侵入後にシステムを掌握する事の二つをこなせる人物が必要となる。

 そして、それが可能なのがクライドとフリットの二人だけだ。

 クライドとてそれは理解している。

 しかし、理解できるからと言って納得できるかと言えば別問題だ。

 

「兄さん。分かってくれ」

 

 クライドはノアの設計者である為、フリットよりもノアの内部構造には詳しい事から作戦の本命はクライドでフリットはもしもの時の為の予備でしかない。

 

「フリット、ガンダムの最終調整に付き合ってくれ」

 

 クライドが中々納得しない中、ガンダムの整備担当としてアブディエル改に配属されたディケがフリットを呼びに来る。

 F-ZEROはアリスの人格データが搭載されている為、整備の際に不具合や整備の必要のある個所はある程度は自己申告してエミリオが対応しているが、フリットのグランサはそうはいかない。

 作戦の要であるグランサには元連邦軍でAGE-1やAGE-2の整備をしていた経験やグランサのパイロットであるフリットに対して物怖じする事なく対等に接する事の出来る数少ない人物であるディケが抜擢された。

 

「ああ、今行く」

 

 フリットはクライドの説得も重要だが、自身のガンダムの調整も戦局を左右する為、ディケと共にグランサの最終調整に向かう。

 

「まぁ良い。ノアの中にはアイツもいるだろうからな」

 

 クライドは納得はいかないが、アブディエル改を抜け出す事はまず不可能である為、頭を切り替える。

 UIEは総力を挙げて決戦に臨むだろう。

 そうなると、ノアにはアスノ家の汚点であるダグ・アスノもいる筈だ。

 アスノ家の人間として一族の汚点であるダグを始末する事は両親の仇であるナーガの存在の消滅と同じくらいクライドにとっては重要な事だ。

 故にクライドは文句を言いつつも頭は決戦に備えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦の為にホワイトファングは発進準備に入っている。

 ホワイトファングはアブディエル改の護衛につく事になっている。

 格納庫にウルフはホワイトファングのMSパイロットを招集している。

 ホワイトファングに搭載されているMSパイロットはウルフの他にクリフォード、キース、ライルの3人意外にも民間から配属されたパイロットが集められている。

 

「揃ったな。お前ら、俺達はこれより作戦行動に入る。俺達に任務は単純明快だ。敵戦艦に乗り込むフリットとクライドの護衛だ」

 

 ウルフ隊の任務はノアの内部に侵入する二人の護衛だ。

 ウルフは単純明快と言うが、その為には膨大なMSを相手にしなければならない。

 護衛艦の戦力があるにしても簡単ではない。

 

「二人が敵戦艦に侵入出来るか否かがこの戦いの戦況を左右すると言っても良い。死んでも守り抜くぞ。だが、死んじまったら意味がねぇ。死に遅れた俺達よりも先に逝く事はお前らの隊長として許さねぇ。つまり、お前らはこの戦いで死ぬなって事だ。分かったな!」

「はい!」

「各自作戦が開始されるまで艦内で好きに過ごせ」

 

 ウルフの話しは終わりウルフ隊の面々は解散する。

 解散してすぐにウルフはクリフォードの元に向かう。

 

「クリフォード、余り肩肘を張るなよ」

「艦長……」

「親父さんの事で気負うのも分かる。だが、気にすんな」

 

 クリフォードの父、ジェラールはUIEにCMCの戦力を提供している。

 この5年で見つかったと言う話しを聞かない以上はUIEと共にノアにいると思われる。

 直接戦場で会うと言う可能性は限りなくゼロに近いが、それでも地球を破壊しようとしているUIEと不仲とは言え父親が行動を共にしていると言うのは複雑な心境だった。

 

「けど……俺」

「親父は親父でお前はお前だ。それでも親父を許せないってんなら、一発ぶん殴って来い」

 

 あくまでもクリフォードはクリフォードで父のジェラールとは違う。

 だが、それでも意識してしまうのが親子だ。

 だから、無理に父の事を考えないようにする必要はない。

 父が気に入らないのであれば次に会う機会があれば一発殴るくらいに思っておけば良い。

 クリフォードはウルフの言葉で完全に吹っ切れた訳ではないが、少しだけ心が軽くなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連邦軍の決戦の準備が進む中、マッドーナ工房に運ばれたAGE-2もバロノークに搬送されている。

 今回の戦闘では大乱戦になる事が予想される為、AGE-2は修理の際にダークハウンドの装備に換装されている。

 アセムは装備をダークハウンドの物にするだけかと思いきや、カラーリングは黒で塗装され、頭部や胸部もダークハウンドに戻されていた。

 

「叔父さんの仕業か……それにダブルバレットまで用意してくれたのか」

 

 わざわざ手間をかけてまでダークハウンドに戻す事をするのはクライドくらいしかいないだろう。

 搬入されたのはダークハウンドだけではなくMSも何機も配備されているが、その中にはAGE-2用のウェアであるダブルバレットも搬入されている。

 ご丁寧にダブルバレットのウェアはダークハウンドに合わせて黒く塗装されている。

 

「あのアデル……」

 

 その中に2機のアデルマークⅡが目に付いた。

 アデル系のMSはアデルマークⅢがバロノークに配備されている。

 マークⅡもマークⅢよりも装甲が軽い分、運動性能は高い為、戦力としては十分だがそれ以上に宇宙用のアデルマークⅡだが、本来のカラーは濃いグレーだが、2機のアデルマークⅡは青と白のツートンで胸部に1と2の数字が書かれている。

 アセムにはそれに見覚えが会った。

 

「よっ、久しぶりじゃんか。アセム」

 

 格納庫にMSが搬入されている様子を見ていたアセムの背後から声をかけられると同時に尻を叩かれる。

 

「アリーサ? それにマックスさんなのか?」

「まさか、生きてたなんてね」

 

 アセムは一瞬、誰だか分からなかったがすぐに思い出す。

 アセムが連邦軍に入隊してディーヴァに配属されていた時の同僚のアリーサとマックスがそこにいた。

 2機のアデルマークⅡはアリーサとマックスがディーヴァに配属されていた時の搭乗機のアデルと同じカラーだ。

 バロノークのMS隊はキオが抜けた事で大きく戦力ダウンした。

 その為、戦力の補強としてMSを何機か配備させたが、キオの抜けた穴を埋めるのは簡単ではない。

 そこで隊長であるアセムとディーヴァで共に戦ったアリーサとマックスをバロノークに配属させた。

 二人ならアセムと連携する事もさほど難しい事ではなく、ノートラム防衛戦を生き抜いた実績もある。

 

「あのアデルは二人の機体だったのか。でも、どうしてアリーサ達が?」

 

 アセムはアリーサとマックスは当にMSを降りたと聞いていた。

 だが、ディーヴァに配備されていたアデルと同じカラーのアデルマークⅡに二人がいる事からあのアデルマークⅡは二人の搭乗機である事はすぐに予想が付く。

 

「世界が危機でアタシ等の息子が最前線で戦うんだ。じっとしてられなくてさ」

「そうか……」

 

 アセムもアリーサにウットビットと言う息子がいると言う事は知っている。

 そのウットビットがディーヴァで整備士をしており、自分の息子のキオと友人である事を知った時には父の代から続く奇妙な縁を感じた事は今でも覚えている。

 ウットビットはディーヴァに配属され、決戦では最前線に向かう事になっている。

 息子が最前線で戦う事になり、いても経ってもいられずのパイロットとして戦う事を選ぶところはアリーサも相変わらずと言ったところだ。

 

「僕は成り行きだよ」

 

 一方のマックスの方は好き好んでパイロットに戻った訳ではないらしい。

 政府からパイロットの募集の告知が行われた際に退役した軍人達や民間の作業用MSを動かした経験のいある者はすぐに志願して行った。

 そんな中、元連邦軍のパイロットが志願しないと言うのはバツが悪い。

 そんな状況に流されてマックスもパイロットに志願した。

 

「そんな事言って、内心じゃやる気は十分みたいじゃないですか」

「まぁね。若いパイロットに負けたくはないし、死にたくもないからね」

 

 口では余り気が進まないようなマックスでも元軍人として実戦経験の少ないパイロットには負けたくないと言う思いや志願した以上は逃げ出すのはみっともなく、戦場で死ぬのも嫌な為、生き残る気は十分だ。

 懐かしい仲間がバロノークに配属された事は新型MSが配備されるよりも心強い物があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファ・ザードに配備されたギラーガ改でスラッシュは最終調整と共にコックピットの感覚を思い出している。

 この5年でスラッシュは地球や地球圏を回り地球の人間とヴェイガンの人間の架け橋になる為に奔走していた。

 その為、MSに乗る事はない。

 だが、再びMSに乗る事を決めて使われていなかったギラーガ改を持ち出してゼハートの指揮下に入っている。

 

「スラッシュ様、調子は戻りましたか?」

「まだ何とも言えないな」

 

 ティアナがコックピットに座るスラッシュの元を訪れる。

 ティアナもファ・ザードに配属されている。

 キオが新型機に乗り換えた事でパイロットが不在になったFXバウンサーのパイロットで、ティアナもこの5年でMSにはほとんど乗る事は無かった為、感覚を取り戻していた。

 ティアナはスラッシュとは違い連邦軍の軍人としてスラッシュの護衛についていた。

 当初はスラッシュの存在を疎ましく思う者達かたの襲撃の度にMSで応戦していたが、最近では襲撃される事も減り、あっても数人が銃で武装する程度でMSに乗る機会も減っていた。

 

「決戦の前です。余り無理を成させないようにお願いします。もしもの時は私が守ります」

「大丈夫だ。俺は親父みたいにはなれないけど、キャプテンみたいにはなれる筈だ」

 

 スラッシュにはゼハートやティアナのようなXラウンダー能力はない。

 その為、ゼハートのようなパイロットになる事は出来ないだろう。

 だが、アセムはXラウンダー能力は持たないが、ゼハートと対等のパイロットだ。

 

「それに……俺だっていつまでもティアナに守られているだけじゃないんだ」

「スラッシュ様……」

 

 今まではティアナに守られる事も多かったが、スラッシュはいつまでもティアナに守られるだけでは嫌だった。

 

「俺の部下は俺が守る。そのくらい出来ないで親父やキャプテンを超える事は出来ない」

「出過ぎた真似を……スラッシュ様、私の背中は任せました。その代わり私がスラッシュ様の背中を守ります」

「ああ、頼んだ。ティアナ」

 

 ティアナもこの5年でスラッシュを守る事が当たり前になっていた事に気が付く。

 護衛としてはそれが当然の事だが、今はスラッシュは護衛対象ではなく共に戦う仲間だ。

 ティアナはギラーガ改から離れ、スラッシュは時間が許す限りパイロットとしての感覚を取り戻そうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファ・ザードに搬入されたガンダムレギルスRを見てゼハートは安心していた。

 マリィはクライドにレギルスRのフルアーマープランを渡していたようだが、クライドはレギルスRをフルアーマー仕様にする事は無かった。

 そのせいでマリィの機嫌はすこぶる悪いが、背に腹は代えられない。

 

「ゼハート様、MSの搬送を完了しました」

「分かった。すぐに出航準備に入れ。バロノークの準備はどうなっている」

 

 MSの搬送を終えたをフラムがゼハートに伝える。

 ファ・ザードはバロノークと共にディーヴァの後方支援を予定している。

 ディーヴァには連邦軍の保有するMSの中でも最強のMSであるガンダムZERO ZとガンダムAGE-FX-CSの2機が配備されている為、ディーヴァはUIEの部隊と正面からぶつかる事になる。

 その為、ディーヴァの後方支援にはバロノークとファ・ザードの2隻を中心とした艦隊が付く事になった。

 ヴェイガン製の戦艦やMSは連邦製の物よりも装甲は強固に出来ている為、ファ・ザードは後方支援の要になる。

 だから、ファ・ザードにはダナジンを始めとしてヴェイガン製MSの中でも高性能機を優先的に多く配備されている。

 

「バロノークの方もMSの搬入が完了し、ディーヴァの準備ができ次第、発進するとの事です」

「そうか……アレは……ゼイドラか」

 

 ゼハートは格納庫の片隅で懐かしいMSを見つける。

 ゼハートの専用機として開発されたMSゼイドラだ。

 ゼイドラはギラーガが開発された為、ゼハートは使う事は無くスラッシュが使っていた。

 だが、ビシディアンとの戦闘中にヴァレリによってスラッシュが切り捨てられた時にビシディアンが回収し、マッドーナ工房に渡った物がヴェイガンの技術者の手によって修理されていた。

 すでに連邦軍ではXラウンダー専用機であるFXバウンサーは完成している上にマッドーナ工房製のXラウンダー専用機のティエルヴァなど、Xラウンダー専用機でゼイドラ以上のMSがある事もあり、ゼイドラはパイロットは不在となっている。

 その為、ゼイドラはファ・ザードに予備機として配備された。

 

「一応は戦闘でも使えると報告にはありますが……」

 

 修理されてるとはいえ、ゼイドラの性能はすでに旧式と化している為、高くはない。

 投入したところでどれほどの戦果を挙げられるのか分かった物ではない。

 フラムは本音を言えばゼイドラよりもダナジンの方を配備して欲しいが、状況が状況だけに予備機が配備されるだけマシと思うしかない。

 これが後方の部隊ならば、予備機どころか配備されているMSはジェノアスやガフランと言った戦争の初期に投入された超旧式のMSが配備されているからだ。

 

「だが、使えるMSがあるのは有難い」

「分かっています」

 

 ゼイドラはXラウンダー専用機で非Xラウンダーでは扱うのは難しい。

 その為、ゼイドラを使えるパイロットは限られているが、いざという時に使える予備のMSがあると言う事だけでも心強い。

 ゼハートはゼイドラを横目にブリッジへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アブディエル改の護衛を行うバロックスにファムのゼイ・ドルグが着艦する。

 ゼイ・ドルグはUIEも正規採用をしている為、戦場で敵だと誤認される可能性があったが、カラーリングと右肩とシールドに連邦軍のエンブレムを入れて連邦軍の所属である事をアピールしている。

 それでも乱戦になれば外見で敵と誤認される危険性はあるが、戦力不足の連邦軍ではゼイ・ドルグも貴重な戦力だ。

 ゼイ・ドルグがバロックスのハンガーに収容されるとコックピットが開閉する。

 

「ファム!」

「エリアルド」

 

 機体から降りたファムにエリアルドが近づく

 

「どうして君が?」

「司令部からここに来るように言われたの」

「そうじゃなくて」

 

 ファムは司令部からの指示でバロックスに乗艦した。

 バロックスはホワイトファングの後方に配備され、ホワイトファングの後方支援が決まっている。

 バロックスの主力はエリアルドのガンダムとユーリアのジェノブレイズの2機でそこにファムのゼイ・ドルグを加えて戦力を補強した。

 だが、エリアルドが聞きたい事はそんな事じゃない。

 

「君のお母さんの事は俺も聞いている。なのに……」

「分かってるわ。エリアルド、母さんはきっと後悔はしてないと思う。だから私も戦うのよ」

 

 セリアは故郷である火星圏で戦死した。

 だが、故郷の為に戦って来た事をセリアは後悔はしていない筈だ。

 ファムもそれを理解しているからこそ、MSで戦う事を決めた。

 セリアが望んでいた火星圏の再建をする為にはこの戦いに勝たなくてはいけない。

 

「大丈夫。私は大丈夫だから」

「分かった。君は俺が守る」

 

 恐らくはファムは止めても聞かないだろう。

 連邦軍としても少しでも戦力は欲しい。

 エリアルドはそう自分に言い聞かせるように覚悟を決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディーヴァの格納庫で決戦の切り札である2機のガンダムの実戦で得られたデータを元に調整が進められている。

 ディーヴァにはアビス隊が再び配属されている。

 セリックのクランシェカスタム以外にオブライトのジェノアスOカスタムにデレクとジョナサンのクランシェⅡがディーヴァのハンガーに置かれており整備班によって整備がされている。

 ガンダムZERO Zのパイロットであるエリスは連続して使ったモードZEROの反動で寝込んでおり日々精密検査で決戦に備えている。

 ガンダムAGE-FX-CSのパイロットであるキオは機体の調整と共に機体特性の把握を行っている。

 

「なぁ、良いのかよ。キオ」

「何が?」

 

 コックピットで調整しているキオにウットビットがそういう。

 かつてディーヴァの整備主任であったロディはマッドーナ工房の方で技術者の指揮を取りながら仕事をする為、この5年でロディから可能な限りの知識と技術を叩き込まれたウットビットがガンダムの整備を担当している。

 キオは調整をしながら、ウットビットの言葉に耳を傾ける。

 

「だから、ウェンディに連絡しなくても良いって事だよ」

「どうしてさ? ウェンディも忙しいだろうし、戦いが終わってからゆっくりやるよ」

 

 ウットビットは作業の手を止める事は無いが、ため息をつく。

 確かにウェンディも医療スタッフとして決戦の準備に忙しいだろう。

 それでもキオと少し話す時間を作る事は出来る筈だ。

 ガンダムの調整を万全にして決戦に備える事は重要だ。

 ガンダムがこの戦いを左右する切り札である事は確認するまでの事は無い。

 だから、ガンダムの調整を優先するキオの判断は間違ってはいない。

 ウットビットもそれは分かっている。

 しかし、それとこれとは別問題だ。

 幼馴染と言う事を差し引いても自分の事に関しては比較的いい加減なところのあるキオと年上でなんだかんだで面倒見の良いウェンディはお似合いだと思っている。

 キオもウェンディのお節介なところは口では少し鬱陶しいとも思う時もあるが、本気で嫌ならば本気で拒絶するだろう。

 ウェンディの方はそもそもどうでも良い相手なら今でも何かと世話を焼いたりはしない。

 この戦いでキオはエリスと共に連邦軍の切り札として戦う事になる。

 少しくらい調整をサボってウェンディと話しをしてもバチは当たらない。

 ウェンディの方もこっちもこっちで忙しい事を察しているのか連絡は一切ないが、キオが連絡をしても嫌な気分にはならない筈だ。

 当のキオは一切、サボる気は無いようだ。

 それがキオらしいとも言えるが、もう子供ではないのだからもう少し女心と言う物を理解しても良いと思う。

 

「それで良い」

 

 キオに呆れていると安静にしていなければならない筈のエリスがやって来る。

 

「この戦いは人類の存亡をかけた最終戦争だ。必ず勝つ。生き残る。大切な者を守る。そんな覚悟がなければ勝つ事も生き残る事も出来ん。女といちゃつくなど戦後に幾らでもやってろ」

「エリスさん! 体の方は良いですか?」

「生憎と私の体は質量装甲よりも頑丈に出来ているのでな」

 

 元々、エリスの体は普通の人間よりも頑丈に出来ている。

 そうでなければモードZEROのGで死んでいる。

 それに加えて普通の人間よりも体の回復力は高い。

 しかし、5年前の無茶の影響で今のエリスの体は頑丈ではあるが、回復力は普通の人間と同等がそれ以下でしかない。

 その為、ガンダムを動かす事は出来るが本調子と言う訳ではない。

 

「今までは少し寝過ぎた。キオ、この戦いが終わったら私は死ぬほど寝させて貰うさ。それこそ何十年とな。だが、それも人類を救わねば出来ない事だ。だから、今は戦わねばならん」

「エリスさん……」

 

 キオはエリスが長くないと言う事は知っている。

 だが、エリスの言葉はこの戦いを生き抜いて自分が生きられるだけ生き抜くと言うエリスの生きる覚悟の表れだと解釈する。

 

「何、人類を超越し最強無敵絶対王者にして神をも凌駕し天使も悪魔も足元に這いつくばして唯一無二にして絶対無敵の究極の存在だる私がいるのだ。この戦いに連邦軍の敗北はあり得ない。今、考えるべきはいかにして戦いの勝利を演出し、戦後、銀河系を救った英雄たるこの私を称える言葉を考える事が一番重要な事だな」

 

 決戦を前に相変わらず自分の能力に絶対的な自信を持ち、臆する事なくそう言うエリスを見てキオは自分が少なからず決戦を前に気負っていた事に気づく。

 エリスは気負う事は無く、自分の能力を信じているからこそ出せる言葉だ。

 言っている事は無茶苦茶だが自分の力を疑わない事がエリスの得た本当の強さなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 UIEがノアを地球に落とす計画が判明してからの一か月で連邦軍は打てるだけの手を打った。

 ノアを破壊する策を練り、敵の侵攻を防ぐ策を練り、戦いに勝利して地球を守る策を練って来た。

 MSや戦艦も予想されるUIEの戦力と比べると劣るが、それでもヴェイガンとの戦争時以上の戦力は集まっている。

 最終防衛ラインには連邦軍の総司令部ラ・グラミスが配置されている。

 ラ・グラミスはこの一か月で突貫作業にて5年前に破壊されてそのままにしていた要塞砲「ディグマゼノン砲」を修理している。

 突貫作業だった為、ディグマゼノン砲はチャージ時間こそ変わらないが出力は大きく低下し、撃てて1発か2発しか撃てないが、それでも連邦軍にとっては貴重な戦力だ。

 ラ・グラミスの後ろにはマッドーナ工房のファクトリーシップが配置されている。

 その前に幾重にも防衛線が形成されている。

 司令室にはフリットより今回の戦いにおいて全体指揮を任されたアルグレアスがいる。

 アルグレアス自身自分がフリットの代わりになるとは思ってはいないが、フリットの参謀として長年フリットと共に戦って来たアルグレアス以外に自分の不在の司令部を任せられる人物はいないと言うフリットの強い推薦にてアルグレアスは全体指揮を任された。

 

「諸君、これより我々は地球に対して超ド級戦艦ノアをぶつけ地球を破壊しようとするUIEに対して防衛行動を取る!」

 

 司令室からは戦場に展開している全艦隊に対して通信が繋がれている。

 アルグレアスの言葉は戦艦のブリッジだけでなく、各戦艦が艦内放送で全兵士に伝わっている。

 

「この防衛作戦は地球の存亡を賭けた戦いである事は今更説明する必要はないだろう。我々は長年、ヴェイガンと戦争をして来た。それにより連邦政府も軍も腐敗した事もある。それを遺恨に思う者もいるだろう。しかし、ヴェイガンとの戦争も収束に向かい、新たな一歩を踏み出そうとしている矢先にこれだけの事が起きている! 我らは何としても地球を守り抜かなくてはならない。この戦いに敗北すると言う事はヴェイガンとの戦争で犠牲を無駄にする事だ。例え、最後の一兵になろうとも地球を守る為に諸君の働きに期待する!」

 

 アルグレアスが話し終えると司令部は慌ただしく動き出す。

 司令部から各所に指示が飛び各艦は作戦行動に入って行く。

 

「見事だったぞ。アルグレアス」

「司令には敵いませんよ」

 

 一先ず出先で挫ける事がなかった為、アルグレアスは一息つく。

 そして、ホワイトファングからフリットがアルグレアスを労う。

 先ほどの言葉が戦いの最初の山だった。

 もしも、上手く兵士達を鼓舞する事が出来なければ全体の士気に関わりそれだけで勝率は低下していた。

 だが、アルグレアスは何とか兵士を鼓舞する事には成功した。

 

「それに戦いは始まったばかりです」

 

 鼓舞に成功したが、それで戦局が変わる訳でも無く、成功を活かすにはこれからの対応次第となっている。

 それを失敗すればすべてが無意味となる。

 それだけの責任がアルグレアスの肩に掛かっている。

 

「そうだな。だが、アルグレアスが普段通りにやれば問題はない」

 

 それがどんなに難しい事なのかとフリットに言いたいが、言ったところでどうしようもない。

 フリットが出来ないと判断した事を自分に任せる訳がない。

 アルグレアスなら出来ると判断したからこそ、フリットはラ・グラミスでの指揮をアルグレアスに任せた。

 

「分かっています。必ずや勝利して見せます」

 

 アルグレアスは重責を感じながらも、精一杯の強がりで答える。

 

「アスノ司令、ご武運を」

 

 アルグレアスはモニター越しのフリットに敬礼する。

 次期にディーヴァとアブディエル改が作戦行動に入る。

 そうなればフリットと通信が出来る機会は大きく減る事になる。

 最悪、これがフリットとの今生の別れになるかも知れないが、アルグレアスはフリットの戦後の再会を誓う。

 そして、連邦軍とUIEの地球の存亡をかけた決戦が開戦した。

 

 

 

 

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