第117話
A.G.189年、UIEと連邦軍の決戦から20年。
決戦後はヴェイガンのような明確な敵のいなくなった連邦軍は戦後復興に力を入れた。
その甲斐もあり地球圏は平和を取り戻しつつあった。
しかし、戦後の混乱により連邦軍の戦艦やMSの行方が分からなくなると言う事態が多々報告されるようになる頃から地球圏の平和は終わりを告げた。
ヴァニス・イゼルカントの娘を名乗るヴァレンティナ・イゼルカントがネオ・ヴェイガン残党軍をまとめ上げて再び表舞台にネオ・ヴェイガンの台頭を許してしまう。
連邦軍もすぐに対処に当たるも20年前の決戦で多くの兵を失った連邦軍ではネオ・ヴェイガンを打倒するまでの戦力もなかった。
一方のネオ・ヴェイガンも新たな指導者の出現で勢いはあったが、連邦軍以上に戦力不足は深刻で小規模なテロ活動を行うに留まっていた。
連邦軍とネオ・ヴェイガンの戦いは膠着状態が続き、連邦軍は状況を打開すべく、新型ガンダムの開発に着手する事が決定された。
計画の決定から5年、A.G.194年、天使の落日から一世紀が経とうとしている頃、新型ガンダム開発計画は終盤を迎えていた。
学園コロニー「レーアツァイト」に1隻の輸送艦が入港する。
レーアツァイトは数年前に連邦政府によって5年前にコロニーの残骸を再利用して建造されたコロニーだ。
大きさは従来のコロニーの半分以下と非常に小さく住民は1000人程度しかいない。
学園コロニーとも呼ばれるレーアツァイトはその名の通り一つの学園となっている。
高等部と大学部の一貫性の学校で政府が出資し、将来的に連邦軍や政府に入る事が約束され、即戦力を育てる事を目的とされている。
住民の9割以上が学生で教師はほとんど住んではいない。
コロニーのほぼ全てが学生たちによって動かされている事が最大の特徴だ。
教師は緊急時にのみ指示を出し、それ以外は生徒からの相談があるまでは口を出す事は無い。
「ここがレーアツァイトか……」
輸送艦からレーアツァイトに定期的に運び込まれる物資が下ろされる中、輸送艦から一人の老人がコロニーに降り立つ。
アセム・アスノ
25年前のUIEとの決戦でガンダムのパイロットとして連邦軍を勝利に導いた英雄の一人だ。
今では年からMSに乗る事が出来なくなった事もありMSを降りて軍で後進を育てている。
「アセムさん!」
「久しぶりだな。キャロル」
レーアツァイトに到着したアセムをキャロルが出迎える。
キャロルはマッドーナ工房からレーアツァイトに技術科に講師として派遣されている。
キャロルに出迎えられたアセムはレーアツァイト内にある居住エリアの寮に案内された。
「ここなら話しが外に漏れる危険性はありません」
アセムはキャロルにキャロルの自室にいる。
アセムがここに来た理由はキャロルに個人的かつ重要な話しがあるからと呼び出されたからだ。
わざわざ軍の配備されていないレーアツァイトに個人的な用事で呼び出される理由には心当たりがない。
アセムとキャロルは同じアスノ家の血を引く親戚同士だが、接点は余りない。
精々、アセムの父フリットがキャロルに技術を教えた師である事くらいだ。
「それで重要な話しだと聞いているが?」
「少し前にマリィさんとお爺ちゃんの遺品を整理していた時にこれを見つけました」
キャロルはテーブルに一枚のデータディスクを置く。
アセムはそれを手に取ってディスクに書かれている文字を見て驚く。
「EXA-DB……」
驚きにあまり、思わず書いてある事を口にする。
データディスクには確かに「EXA-DB」と書かれている。
EXA-DB……コロニー国家戦争時の兵器データが記録されているデータベース。
クライドの存命時にはクライドが所有していたが、クライドはその所在を生涯口にする事はなかった。
その為、今は再び行方知れずとなっていた。
「まさか、これがEXA-DBと言うのか?」
「いえ、私の方で中身を確認しましたが、ロックがかけられており中身を見る事は出来ませんでした。しかし、記録されている情報量からEXA-DBではないと言う事は確実です」
コロニー国家間戦争時の兵器のデータが全て記録されている為、EXA-DBの情報量は膨大である事が間違いなく、データディスクに記録できる情報量ではこのデータディスクがいくつあっても足りない。
だが、EXA-DBを書かれている以上は何かしらEXA-DBと関係している可能性が高い。
「ここの設備でロックの解除を試みましたが無理でした」
「ここの設備と君でも無理となると……」
レーアツァイトの設備は一般的な工房よりも遥かに充実している。
ここ以上の設備となるとマッドーナ工房を初めとした一部の研究施設しかない。
「すぐに思いつくのはマッドーナ工房です。あそこの設備なら可能です」
「そういう事か。分かった。俺の方でマッドーナ工房に届ける」
アセムもキャロルが極秘裏にアセムに接触して来た理由を理解する。
もしも、このデータディスクにEXA-DBに関する記述、例えばEXA-DBの隠し場所などが記されているのであればデータディスクの価値は非常に高い。
その反面、危険な代物でもあった。
EXA-DBの場所が明らかになれば連邦軍はそれを手に入れようとするだろう。
それにアセムは反対はしない。
だが、問題はその後だ。
現在の連邦政府には穏健派と強硬派の二つの派閥が存在する。
穏健派は政府の議員となったキオを中心として軍備縮小を訴えている。
強硬派はネオ・ヴェイガンの存在を理由に軍備を増強する事を討ったている。
ネオ・ヴェイガンと言う明確な敵がいる為、現在は強硬派の方が政府の主流となり、穏健派は苦境に立たされている。
5年前に新型ガンダムの開発も強硬派が出した案で可決後はネオ・ヴェイガンへの恫喝として全面的に公表した。
新型ガンダム開発の発表でネオ・ヴェイガンを恫喝しようとしていたが、逆にネオ・ヴェイガンの新指導者のヴァレンティナは強硬姿勢を崩さなかった為、強硬派は新型ガンダムとは別に何かしらの手を打ちたいと思っている。
そこにEXA-DBの情報を入手すれば確実にネオ・ヴェイガン討伐を名目に過去の兵器の生産に動く事は目に見えている。
アセムとしてはそれだけは回避しない。
それはキャロルも同じで、故にアセムに極秘裏に接触してデータディスクを託す事にした。
アセムなら政府や軍に顔も効き、情報にも精通している。
その上、宇宙海賊をしていた時に反政府勢力にもある程度はパイプを持っている。
その為、今回の一件を内々に処理するには適任の人物であった。
「それでだ……リックは元気にしているだろうか?」
突然の話題に転換にキャロルも呆気に取られる。
そして、すぐに吹き出しそうになる。
今までは世界に影響を及ばす可能性のある話しであったが、それが終わった途端にアセムの個人的な話しに変わったからだ。
「ええ、生まれが生まれだけに苦労はしていますけど、リック君は元気にしてますよ」
「そうか」
キャロルの答えに安堵の表情を浮かべる。
リック・アスノ
決戦から数年後にキオは幼馴染のウェンディ・ハーツと結婚した。
その間に生まれた息子がリックだ。
アセムにとっては初孫でアセムはリックを溺愛していた。
その様子はかつてのフリットとキオを思い出させる光景だった。
リックは数か月前にレーアツァイトに入学していた。
「心配なら会って行けばどうですか?」
「そういう訳にもいかないだろう。事は一刻を争う」
リックに会う事はいつでもできる。
だが、EXA-DBの使い方を間違えてしまえば再び世界は乱世になるかも知れない。
多くの犠牲の元に今の世界が成り立っている。
その為、世界を再び戦乱の世にしてはいけない。
ようやく、キオに戦争の無い世界を見せる事が出来たのだから。
レーアツァイトから少し離れた宙域にファ・ボーゼ級の戦艦が停泊していた。
今ではファ・ボーゼ級の戦艦は連邦軍では運用されてはいない。
当然、このファ・ボーゼ級は連邦軍の戦艦ではない。
「ヴァネッサ様、出撃準備が整いました」
ファ・ボーゼ級のブリッジでジェレミア・ミルフォードは報告する。
報告を受けたヴァネッサは無言で頷く。
ヴァネッサは10代後半くらいの年の少女で、ジェレミアの言動からジェレミアの上官である事が分かる。
明らかに自分よりも年下であるヴァネッサに下手に出ているジェレミアに対して、ブリッジの誰もが疑問を抱く事も年下に従っているジェレミアを嘲笑う者は誰もない。
それもそのはずだ。
ヴァネッサ……ヴァネッサ・イゼルカントはネオ・ヴェイガンの現総帥ヴァレンティナ・イゼルカントの双子の妹であるからだ。
ヴァネッサはヴァニス・イゼルカント、エリスの娘と自称しているだけあって瓜二つの容姿をしている。
ヴァネッサはエリスとは違い、髪がショートで肩までもないが、エリスの特徴的とも言える目の色、金色の右目と碧色の左目まで同じだ。
これで髪を伸ばせばエリスと見間違ってもおかしくはない。
エリスとの違いが髪の長さ以外にあるとすれば、表情だ。
エリスは常に絶対的な自信を持った表情をする事が多いが、ヴァネッサは表情に乏しいくらいだ。
ヴァニスを名乗っていた時のような無表情と言う訳ではないが、エリスのように感情が豊かと言う訳ではない。
「本当に私が出なくても平気?」
「当然ですとも、ガーディアン5の一員として必ずやガンダムを仕留めて参ります」
ジェレミアは自身を持ってそう断言する。
ジェレミアはネオ・ヴェイガンで5人のXラウンダーで構成された親衛隊「ガーディアン5」の一人だ。
そして、今回レーアツァイトの近くまで来た理由は連邦内部の内通者からの不確定情報でレーアツァイトで5年前に発表された新型ガンダムを建造してると言う情報を得たからだ。
すでに新型ガンダムの内1機はロールアウトして、ネオ・ヴェイガンにとって大きな脅威となっている。
そのガンダムと同スペックのガンダムを複数製造していると言う情報も同時に入って来ていた。
情報が不確定で罠の可能性を考慮しネオ・ヴェイガンの本隊ではなく、ヴァネッサが指揮を執って新型ガンダムの奪取、もしくは破壊をする為にここまで来ていた。
「ヴァネッサ様のお手を煩わせる事はありません」
「分かったわ。ドラドを5機持って言ってまずは様子見、ジェレミアとアビーの判断で戦闘の継続判断はして良いわ。但しガンダムと戦闘になった場合は可能な限り戦闘を行いデータ収集」
「はっ!」
ジェレミアはブリッジを離れる。
ファ・ボーゼ級の格納庫にはヴァネッサ専用機以外にもジェレミア専用機としてギラーガ改を改修したナイトギラーガが置かれている。
基本的に頭部にレギルスで採用されたセンサーバルカンが追加、両腕にはビームシールド、ギラーガスピアを改良したギラーガアックスを装備して近接戦闘での攻撃力を増している。
「ジェレミア、ヴァネッサ様は出撃しないのね」
ナイトギラーガの隣にはフォーンファルシアの改修機であるミラーファルシアが置かれている。
ミラーファルシアは尾のサーベルが廃止された代わりに腰に洋剣が鞘に収められているかのようについている。
左腕には円形状の小型シールドが装備されており、防御重視に改良されている。
その傍らにガーディアン5の紅一点、アビー・ブラットレイがジェレミアを待っていた。
「この程度の戦闘では必要なかろう」
「それもそうね。相手は学生、素人私達が二人とも出る必要もないくらいだわ」
「用心の為だ。最悪、ガンダムが出て来るかも知れないからな」
レーアツァイトには連邦軍の部隊は配備されていない。
自衛用としてパイロット科の学生と旧式のMSを改造したMSが配備されている。
その気になればジェレミアかアビーは一人でレーアツァイトを制圧する自信はある。
だが、新型ガンダムが出て来た場合は話しが違って来る。
すでに実戦に投入された新型ガンダムの性能から考えると素人が乗っていたとしても十分に脅威となる。
その場合に備えてジェレミアとアビーの二人が出撃する。
「ドラドを5機借り受けた」
「まぁ、ダナジンを使う程ではないしそれで十分ね」
格納庫には3人の専用機以外にダナジンも配備されているが、今回の戦闘ではダナジンを使う程ではない。
ジェレミアとアビーはそれぞれに専用機に乗り込み出撃した。
平和な日常が終わりを告げる事を知らないレーアツァイトではいつもの日常が続いていた。
すでに授業が終わり生徒はそれぞれの時間を過ごしている。
授業後に仕事がある者も居れば、今日は仕事もなく友人と遊びに出かける生徒も居る。
レーアツァイトでは娯楽施設も用意されている為、普通の学生となんら変わらない生活を送る事も可能だった。
「だぁ! また負けた!」
ゲームセンターにて少女の叫びが響く。
レーアツァイトには生徒が無料で遊べるゲームセンターがあり、そこにはMSバトルシュミレーターが置かれている。
かつて、キオが幼少期に使っていた物を更に改良した物がマッドーナ工房より提供され、生徒たちは遊びながらMSの操縦の訓練を行える。
「もう、帰って良い?」
MSバトルシュミレーターから降りた少年、アルト・アスノは気怠そうにそういう。
父親譲りの碧色の目に母親譲りの金髪、色白で少し気の弱そうな印象を持った少年だ。
もう1機のMSバトルシュミレーターからはアルトと同年代の少女が出て来る。
少女は明らかに機嫌が悪い。
「駄目! もう一回!」
「これで何度目……エイミーも諦めが悪いよ」
リックは心底うんざりしている。
リックにエイミーと呼ばれた少女は不服そうにリックを睨みつけている。
「だって悔しいじゃない! 技術科のリックに一度も勝てないんだよ!」
エイミーはパイロット科でリックは技術科に属している。
高等部はパイロット科と技術科は同じクラスで殆ど同じ授業を受けている。
エイミーとはリックが入学当初からの友人だ。
リックはアスノ家の人間と言う事で良くも悪くも注目を受けてしまう。
その為、遠回りで見ているだけかアスノ家の名を目当てに近寄って来るのどちらかが多い。
だが、エイミーはどのどちらでもないとリックは感じ取っている。
その為、エイミーはリックにとって学校内での二人目の友人だ。
一人目は共に入学した幼馴染のジン・ガンへイルだ。
ジンとは親同士が幼馴染と言う事で物心ついたときからの一緒にいる。
リックがこの学校に入学したのみジンに強く誘われたからだ。
「そんな事を言われても……」
リックはこうなったエイミーは納得するまで諦めてはくれないと言う事はこの数か月で身を持って経験して来た。
この場にジンがいてくれたなら、上手くエイミーをなだめてくれたかも知れないが今日に限ってジンは授業が終わるとさっさといなくなってしまった。
わざと負けてところでエイミーは納得しない。
しかし、リックが手を抜かずにエイミーが勝つ事は出来ないだろう。
なぜなら、リックは幼少期から家にあったMSバトルシュミレーターをやり込んでいるからだ。
それも、データを更新した事で対戦可能な相手に歴代のガンダムが追加されパイロットデータもそれぞれのパイロットの全盛期のデータが使われている。
リックも父のキオ程ではないが、幼少期からXラウンダー能力に目覚めてはいるが、Xラウンダー能力に加えて天性のセンスに豊富な実戦経験を持つフリット、圧倒的な操縦技術を持つアセム、歴代最強のXラウンダー能力を持つキオと言った歴代のガンダムパイロットを相手に一度も勝利した事はない。
歴代のガンダムパイロットに比べるとエイミーの実力は16歳だと言う事を考慮すれば決して弱い訳ではないが、相手にならないのも当然だ。
エイミーが納得するまで付き合うしかないと考えているとコロニー内に警報が鳴り響いた。
レーアツァイト内に警報が鳴る頃にはミラーファルシアはレーアツァイトに取りついていた。
実際にミラーファルシアがコロニーの管制に捕捉されたのはかなり前だが、ミラーファルシアは連邦軍の識別信号を発信していたせいで気づくのが遅れた。
これが正規軍であればMSが単機で接近していれば不審に思いパイロットに所属や接近目的を確認するところだが、レーアツァイトの管制は識別信号が連邦軍と言う事もあり、大して気にする事もなかった。
「ここまで接近を許してくれるなんてね。私が陽動する必要はなかったようね」
ミラーファルシアは腰の洋剣を鞘ごと手に持つ。
腰の洋剣はビームソードで鞘が付いた状態ではビームライフルとして使う事が出来る。
「あそこね」
ミラーファルシアはレーアツァイトの外部との通信を絶つ為にビームライフルでアンテナを破壊する。
「これで外部との連絡は当分出来ないわ」
アンテナを破壊したところでようやく、レーアツァイトから防衛のMSが出て来る。
レーアツァイトには型落ちしたアデルをベースに改良したアデル・ガーディアが多数配備されている。
アデル・ガーディアは左肩にシールドを装備し、右肩にはアデル・キャノンから流用したドッズキャノンと三連装ミサイルポッドを装備している。
手持ちのドッズライフルは銃身の下部にグレネードランチャーを追加し、上部にはセンサーユニットが増設されている。
脚部は陸戦用のアデルマークⅡの物になっている。
「10機……舐められたものね」
アデル・ガーディアは全部で10機でその内、2機は右肩にもシールドが装備されているダブルシールド仕様の隊長機だ。
ミラーファルシアは5基のミラービットを展開する。
アデル・ガーディアは一斉にドッズライフルでミラーファルシアに攻撃する。
だが、展開されているミラービットの花弁が開き、ビームが反射された。
ミラービットはフォーンファルシアビットを改造し、攻撃端末としてではなく花弁がビームを反射させる事で防御用の装備としての使える。
反射されたビームの直撃を受けてアデル・ガーディアは3機が撃墜される。
友軍機が撃墜された事で他の機体の動きが明らかに鈍くなる。
「所詮は学生ね」
ミラーファルシアはビームライフルを腰につけると鞘を腰につけたまま、ビームソードを抜く。
ミラーファルシアが接近すると、アデル・ガーディアはドッズキャノンを放つ。
「ただの的じゃない」
アデル・ガーディアはドッズキャノンを撃つだけで動かない。
アビーからすれば動かない敵など恰好の的でしかない。
ミラーファルシアは左腕のシールドを回転させてビームを弾く。
左腕の小型シールドは高速で回転させる事でビームを弾く事が可能でミラービットを合わせるとミラーファンネルは鉄壁の防御力を誇る。
アデル・ガーディアは大した抵抗をする事もなく、ビームソードで両断されて爆散する。
1機ではあるが戦闘慣れをしているミラーファルシアに完全に飲まれている。
ドッズライフルを向けるも、ミラービットにビームを反射された時の事を思い出して躊躇していると、拡散ビーム砲を撃ち込まれて撃墜される。
アデル・ガーディアの隊長機が意を決してビームサーベルで近接戦闘を仕掛けようとするも、ミラーファルシアにばかり注意を向けていた為、死角からのミラービットのビームで撃墜される。
それからも一方的な戦闘は続き、数分もしないうちに10機のアデル・ガーディアは全滅した。
ミラーファルシアが陽動をしている間に5機のドラドを引き連れたナイトギラーガがコロニー内に侵入している。
コロニー内に侵入した6機のMSは散開する。
敵に内部に入られた為、内部にも防衛用のアデル・ガーディアが迎撃に出撃して来た。
アデル・ガーディアはナイトギラーガにドッズライフルで応戦するが、ナイトギラーガは簡単に懐に入りギラーガアックスでアデル・ガーディアを破壊する。
そして、そのまま別のアデル・ガーディアをギラーガアックスでシールドごと一刀両断する。
「旧式とはいえ素人が乗るとこの程度か……新兵にも劣る」
ナイトギラーガは腕のビームバルカンを放つ。
散開した5機のドラドもそれぞれの場所で交戦が開始されているが、ドラドもアデル・ガーディアに対して優位に戦っている。
「何で戦闘に……」
「あれってドラドだよね?」
警報のすぐ後に交戦が開始し、リックとエイミーはゲームセンターから避難場所に向かう道中でドラドとアデル・ガーディアの戦闘に遭遇している。
「うん。でも駄目だ。あのアデルのパイロットの動きは素人過ぎるよ」
アデル・ガーディアに乗っているのはパイロット科の大学部の先輩である程度の模擬戦を経験しているはずだ。
それでも実戦は年に1度あれば良い方で一流を知るリックの目にはアデル・ガーディアのパイロットはエイミーと大して変わらないように見える。
ドラドのビームサーベルがアデル・ガーディアに突き刺さり、アデル・ガーディアが爆発する。
「エイミー!」
リックはとっさにエイミーを抱き込んで爆風に飲まれないように建物の影に隠れた。
「これが戦争なのか……」
「嘘……」
爆風が収まるとそこは瓦礫の山となっていた。
エイミーはヨボヨボと歩き座り込む。
「何で……」
目の前には瓦礫に押しつぶされた生徒が見える。
瓦礫からは大量の血が流され、生徒はピクリとも動かない事からすでに死んでいるのだろう。
それを目の当たりにしたエイミーは茫然としている。
エイミーもこの学校に入学したと言う事は将来的には軍人になる気はあった。
だが、人の生き死まで考えて入学した生徒はエイミー以外にもいないだろう。
リックも家族から戦争の話しを聞いて戦争がどういう物か理解している筈だった。
しかし、実際に死体を見て戦場となったコロニーを見て知識として知っている事と体験する事はまるで違うと言う事を思い知る。
(僕は……こんなところで死にたくない!)
死体を目の当たりにした事で吐きそうになるが、それを堪える。
初めての戦場でリックは死にたくないと強く思う。
今までの人生は流されてばかりだった。
アスノ家に生まれた事で回りからは英雄の一族として見られて来た。
父や政府の議員で祖父は軍の高官、曾祖父は地球の英雄だ。
それ以外でもアスノ家にはクライドのようなMS開発史に名を遺した天才などもいる為、今やアスノ家は英雄の一族とも呼ばれている。
そんな一族に生まれ周りからは期待を受け過ぎたせいでリックは言いたい事も言えずに育って来た。
「エイミー!」
リックはエイミーの腕をつかんで強引に立たせて走り出す。
「リック……」
ドラドから離れてリックは地面を触る。
「何してるの?」
「コロニーは大体は地下に入れるようになってるんだ。地下に逃げれば……」
リックもこのコロニーに来て日が浅いが、大体のコロニーにはデブリなどで外壁に穴が開いた時にコロニーの全滅を防ぐ為に内部と外壁との間に空間が作られる事が多い。
その空間を有効活用されている場合も多い。
リックはこのコロニーも同様だ。
「そんな事をしても大丈夫なの?」
「死ぬよりかはマシだよ」
コロニーの地下は基本的に生徒の立ち入りは禁止されている。
入れば軍の方から厳しく処罰を受ける事になると、入学案内にも書かれており入学式の日にも言われている。
一説には地下には軍の機密があると言う噂が流れてはいるが、実際に確信した生徒はいない。
そうこうしている間にハッチを見つけて地下に入る。
「これがコロニーの地下……」
「まるで工廠みたいだ」
地下に降りた二人は戦闘が起きているにも関わらず、地下に圧倒されている。
地下は思っていた以上に広く、リックは幼少期に連れて行って貰った事のあるマッドーナ工房のような工廠に似ていると感じていた。
二人はそのまま安全な場所を探す為に先に進む。
地下は人が通れるようになってはいるが、道を示す物は一切なく、リックもエイミーも自分達が今、コロニーのどのあたりにいるのかも良く分からなくなって来た。
だが、戦闘の音は聞こえる。
「リック、アレ……」
進んでいる二人はMSの格納庫のような場所に出る。
そこに1機のMSが置かれていた。
「ガンダム……AGE-1? 違う……新型のガンダム?」
そのガンダムはAGE-1に酷似しているが、頭部にビームバルカンが増設されているなど微妙に違った。
リックは公表されていた連邦軍の新型ガンダムではないかと思ったがそれは違った。
ガンダムAGE-ZERO
25年前にキャロルがクライドとフリットが設計したガンダムの設計思想を合わせて新設計したガンダムだ。
それをクライドが存命中に手を加えて対Xラウンダー用Xラウンダー専用ガンダムとして完成したガンダムがここに置かれている。
外見はAGE-1とほぼ変わらないが頭部にビームバルカンが増設され、腰にはビームダガーが装備されているだけだ。
ガンダムの進化はFX-CSである種の到達点に達している。
その為、AGE-ZEROは一度、それらをリセットしている。
AGE-1との最大の違いは四肢のウェアを換装する事ではなく、AGEシステムが新しく生み出した装備を次々と外付けする事にある。
それはクライドのガンダムZEROが装甲を換装するところからヒントを得ている。
ウェアを換装する事でAGE-1は全く特性の違いMSとなったが、その反面ウェアの得意な状況では圧倒的な力を発揮するも苦手な状況では手も足も出せない事も多かった。
その点、装備を後付するAGE-ZEROは特出した物はなくとも安定した戦闘能力を発揮できる。
更には作り出すのは武装な為、AGEビルダーで製造する際のインゴットも少量で済む事もあり以前よりも生成する数が増える事になった。
今までのガンダムが量より質ならAGE-ZEROは質より量と言える。
それでもFX-CSから移植されたAGEドライヴにXフレームを初めとした最新の技術が取り入れられている為、質と言う点でも非常に高い。
「これって動くのかな?」
「どうだろう。やってみないと分からない」
ガンダムがあれば何とか出来る。
リックとエイミーはそう考えた。
ガンダムは蝙蝠退治戦役で14年間の敗北続きの戦況を変えたMS。
ネオ・ヴェイガンの女帝、ヴァニス・イゼルカントを破ったMS。
超ド級戦艦ノアの地球への衝突を防ぎ地球を救ったMSなどとガンダムは今や伝説となっていた。
その伝説が目の前にあるのだ何の根拠がなくてもそう思ってしまうのも当然の事だった。
二人はAGE-ZEROのコックピットハッチを開けて中を覗く。
「これってアデルとは違うね」
「これは連邦軍の最新式のコックピットだね。クランシェⅢとかに使われている」
AGE-ZEROのコックピットはアデル・ガーディアのような三面モニター式ではなく、ガンダムZERO Zのコックピットを元に作られている。
ヴェイガン系MSの全方位モニターにシートがコックピット内で独立した設計となり、操縦系は操縦桿とフットペダルと言った従来の連邦系MSの物が採用されている。
リックも実物は見た事はないが、最近ロールアウトした新型MSクランシェⅢに採用されているタイプであると思われた。
リックはシートに座り、エイミーはシートの後ろに乗り込んだ。
「動きそう?」
「起動方法は大体同じだから……」
リックは機体を起動させようとする。
システムが立ち上がったと思うとコンソールにエラーメッセージが出る。
「どうしたの?」
「エラー? 何で……」
幾らコンソールを操作しようとしても操作を受け付けない。
「リック……何か書いてあるよ」
「AGEデバイスをセットして下さい……AGEデバイス?」
コンソールにはAGEデバイスをセットするように指示が出ていた。
AGE-ZEROにはAGEシステムが搭載されている為、機体の起動にはAGEデバイスが必要となっていた。
「どうするの?」
「AGEデバイス……これか」
リックは制服のポケットに常に入れていたAGEデバイスを取り出した。
数か月前に宇宙に上がる時にキオからお守りとして受け継いでいた。
「こいつをセットすればいいんだな」
リックはAGEデバイスをコンソールにセットする。
すると、今までとはまるで違い機体のシステムが正常に立ち上がり、全方位モニターに外の映像が写し出された。
「動いた……」
機体が稼働すると、格納庫の天井が崩れてアデル・ガーディアとドラドがもみ合いになりながら落ちて来た。
アデル・ガーディアの胴体は潰されて動かなくなり、ドラドはAGE-ZEROの存在に気が付いた。
「敵!」
ドラドはビームバルカンを放つ。
リックはとっさに機体の腕でガードする。
「リック!」
「大丈夫! このくらいの攻撃なら!」
ドラドの攻撃はAGE-ZEROの装甲には傷一つつける事は叶わない。
「何か武器はないのか?」
反撃する為にリックは装備している武器を確認する。
「バルカンとビームダガー……これだけか!」
AGE-ZEROは装備を外付けすると言う特性上、初期装備は頭部のビームバルカンと腰のビームダガーのみしかない。
AGE-ZEROはビームダガーを抜いて構える。
「エイミー! しっかり捕まっていて!」
リックはフットペダルを強く踏んでドラドに接近する。
エイミーはリックに言われた通りにシートに強く掴まる。
ドラドはAGE-ZEROに至近距離で拡散ビーム砲を放つが、AGE-ZEROは左腕で防いでビームダガーをドラドの拡散ビーム砲に突き刺す。
AGE-ZEROのビームダガーは間合いこそは極端に短いが、その分ドラドの装甲を貫くには十分過ぎる出力を持っている。
ビームダガーは容易くドラドに突き刺さり、ドラドは破壊された。
「やったのか……僕がガンダムを動かして」
ドラドを倒した事でリックはガンダムを動かして敵を倒したと言う事を実感すると、手が震えていた。
「エイミー、もう少し付き合って貰えるかな?」
「……うん。まだ敵がいるもんね」
エイミーも初めての実戦を目の当たりにして恐怖を思えるも、リックがガンダムで敵と戦う事には反対はしない。
リックは震えを抑えながら操縦桿を握る。
A.G.194年、再び救世主が動き出した。