学園コロニー「レーアツァイト」に対するネオ・ヴェイガンの攻撃はレーアツァイトに大きな混乱を与えている。
管制室で防衛のパイロット科の生徒に指示を生徒会長のエディ・オージェは逃げ出したくなっていた。
外の敵は1機で2個小隊を送り込んだにも関わらず数分で全滅した。
内部に入り込んだ敵も旧式のドラドが殆どだが、1機も撃墜していない。
今は1機が地下に落ちているがそれでも状況を変える策を思いつく事が出来ない。
「どうなってんだよ! 何で奴らはこんなところを攻めて来るんだよぉ……」
「状況はどうなっている」
自暴自棄になりかけていたところにキャロルとアセムが管制室に入って来る。
講師をしているキャロルは皆も知っているがアセムは誰だか分からないがそんな事を考えている余裕はない。
「中に5機、外に1機か……外の敵は退路の確保と言う事は内部の敵を優先させるべきか……」
エディが状況の説明が出来そうに無い為、アセムはモニターに映されている情報で現在の状況を確認する。
内部に入り込んでいるMSはドラドが4機にナイトギラーガが1機、外にはミラーファルシアが1機だ。
ミラーファルシアは攻撃をする素振りも内部に突入する素振りも見られない事から、撤退時の退路の確保をしていると予測できる。
その事から敵は油断していないとも取れる。
連邦軍の部隊も配置されず、守りは学生と旧式MSの改造機しかないレーアツァイトをネオ・ヴェイガンが落とすのは容易な事だ。
しかし、退路の確保をしていると言う事は撃退される可能性も考慮に入れていると言う事だ。
「ドラドは囲めば何とかなりそうだが、ギラーガは厄介だな」
アデル・ガーディアでもドラドならば数で囲めば倒せるだろう。
しかし、ナイトギラーガは数を集めても返り討ちに合う可能性が高い。
「アセムさん……」
「アレを使うか。だが……」
アセムは黙り込む。
この状況を打開できる可能性をアセムは知っている。
だが、それは孫のリックを戦いに巻き込むと言う事になる。
このコロニーにはキャロルとクライドが設計したガンダムAGE-ZEROが隠されている。
そして、AGEシステムの起動キーであるAGEデバイスを持ったリックもコロニーのどこかにいるだろう。
ガンダムならばナイトギラーガを相手に互角以上に戦える。
「生徒会長!」
「今度は何だよ!」
「アレは……ガンダム!」
ドラドの落ちた穴からAGE-ZEROが飛び出て来る。
「まさか、リックが乗っているのか!」
AGE-ZEROを起動させる事が出来るのはリックしかいない。
なぜ、リックがガンダムに乗っているのかは分からない。
しかし、リックがガンダムを動かしていると言う事は確かな事だ。
「ガンダムに通信を繋いでくれ」
「いきなりなんですの?」
アセムの指示にMSに指示を出していたセレナが不服そうにしている。
「アセムさんの指示に従って」
「アセムって……」
キャロルの言葉に生徒達が戦闘中ではあるが、どよめいてく。
外見だけでは何処の誰だか分からなかったが、アセム・アスノの名を知らない生徒は学園にはいないだろう。
そこでようやく、ここにいるのがあのアセム・アスノであると言う事に気が付いた。
「早くするんだ」
「分かりましたわ」
セレナが相手がアセムであると知るとすぐにガンダムと通信を繋ごうとする。
しかし、友軍で登録されているMSならいざ知らずガンダムに通信を繋げと言われても繋ぎようがない。
それを見たキャロルがセレナに代わり通信を繋いだ。
管制室のメインモニターにAGE-ZEROのコックピットの映像が映し出される。
「リック、聞こえるか?」
「この声……お爺ちゃん! どうしてここに?」
「説明は後だ。ガンダムに乗っていると言う事はそれで戦う気があると思っていいのだな?」
リックは頷く。
アセムは一瞬、悲しそうな顔をするがすぐに切り替える。
「内部のMSは全部で5機だ。うち1機がギラーガがいる」
「そいつを倒せばいいんだよね」
「そうだ。ギラーガの位置情報をそちらに送る」
「分かったよ。お爺ちゃん」
すぐに管制室からAGE-ZEROにナイトギラーガの位置情報が送られる。
「ここはハンガーの方か」
ナイトギラーガの現在位置はコロニー内にMSハンガーの辺りだ。
その周囲に別のMSの反応もある為、交戦中だと思われる。
「エイミー、少し揺れるけど我慢して」
「大丈夫」
AGE-ZEROは大きく飛び上がり構造物を飛び越える。
重力下での飛行能力を持たないAGE-ZEROが最短ルートでナイトギラーガの方に向かうにはそれしかない。
構造物を飛び越えて一度、着地する。
「リック!」
「ドラドが2機!」
その近くにはドラドが交戦しており、アデル・ガーディアを撃墜しAGE-ZEROに気が付く。
更に背後にもドラドが出て来る。
「僕たちの邪魔をしなでくれ!」
2機の内の1機が両手にビームサーベルを展開してAGE-ZEROに飛び掛かる。
AGE-ZEROは頭部のビームバルカンを放つ。
ドラドは腕で防ごうとするが、腕がボロボロになりAGE-ZEROは両手にビームダガーを抜いて一閃目でドラドの腕を切り裂き、頭部にビームダガーを突き刺して離れる。
ドラドを1機撃墜していると、もう1機のドラドがビームサーベルを展開して接近していた。
背後かの攻撃をAGE-ZEROはしゃがんで回避する。
そして、左手のビームダガーを逆手に持つと振り向きながらビームダガーをドラドの腹部に突き刺す。
腹部に刺したビームダガーを抜きながらもう片方のビームダガーを振るいドラドを撃墜する。
「すご……」
AGE-ZEROのコックピットでエイミーは一連のリックの操縦にただ驚くしかない。
MSバトルシュミレーターでリックの実力を知っていた気でいたが、シュミレーターではリックの力に対応出来てはいなかったと言う事だ。
だが、それ以上にリック自身に驚いている。
知り合って数か月だが、リックは自己主張を余りしないで自分やジンに合わせている大人しい人間だと思っていた。
それもリックである事には間違いないが、今のリックはこれ程までの操縦を見せている。
その表情はまるで別人のようにも見えた。
2機のドラドとの戦闘は管制室のモニターにも映されていた。
あれだけアデル・ガーディアが押されていたドラドをまともな装備もなくAGE-ZEROは倒した。
その時の動きも誰の目にも凄いとしか言いようがない。
管制室ではAGE-ZEROに希望を見出す中、アセムは内心複雑であった。
動きを見る限りではリックはAGE-ZEROを扱い切れている。
子供の頃からMSバトルシュミレーターで歴代のガンダムパイロットと戦っていた事もあるが、初めての実戦であれだけ動かせれるのは才能と言うしかない。
幼少期からキオ程では無いにしろXラウンダー能力に覚醒しつつあり、パイロットとしての高い素質を見せていたが、明確な敵がいない為、その才能を戦場を活かす事は無いと願いたかったが、リックはガンダムに乗ってしまった。
AGE-ZEROの製造の経緯に最悪の事態に備えての対抗策としてここで製造されていたが、まさかリックの代で使う事になるとはもう、アスノ家の宿命としか考えられない。
それでも今はリックが戦えた事を幸運に思うしかなかった。
リックのAGE-ZEROがナイトギラーガの元に向かっている頃、ナイトギラーガは交戦を続けている。
すでに何機ものアデル・ガーディアを破壊し、今はハーマン・ブラックが率いているMS小隊と交戦している。
ハーマンは大学部の4年でレーアツァイトのエースパイロットだ。
そして、ハーマンのブラック小隊はハーマンを含めてパイロット科大学部4年の上位5人で構成されているレーアツァイトの最強部隊だ。
全機がダブルシールド仕様のアデル・ガーディアに搭乗している。
「囲め! 幾ら奴でも5機で囲んでしまえば倒せる!」
ハーマンのアデル・ガーディアがドッズライフルを放ち、ナイトギラーガはビームシールドで防ぐ。
「少しは骨のある相手か」
ナイトギラーガはハーマン機にビームバルカンを放ち、ハーマン機はシールドで防ぎながら後退して、建物の陰に隠れる。
2機のアデル・ガーディアがビームサーベルを抜いてナイトギラーガの左右から挟み込む。
「こいつで!」
「どうだ!」
ナイトギラーガを左右から挟み込むが片方の攻撃をギラーガアックスで受け止め、それにより背後になったアデル・ガーディアをギラーガテイルで弾く。
「狙いは悪くないが、教科書通りの戦いでこの私と戦えると思うな」
正面のアデル・ガーディアを押し戻して至近距離でビームバスターを撃ち込んで破壊し、ギラーガテイルで弾き飛ばしたアデル・ガーディアをビームバルカンで撃破する。
「ナック! デジー! くそ! この野郎!」
ハーマン機はドッズライフルを撃ちながら、ビームサーベルを抜いてナイトギラーガに突撃する。
「若いな」
ハーマン機の攻撃をかわして、ビームサーベルでハーマン機の左腕を切り落とすと、ギラーガアックスでハーマン機の両足を切断する。
両足を失ったハーマン機は仰向けに倒れるがナイトギラーガにドッズライフルを放つが、ビームシールドで防がれる。
「将来が楽しみではあるがその将来を摘ませて貰う」
ナイトギラーガはギラーガアックスを振り上げる。
だが、2機のアデル・ガーディアが飛び出して来る。
2機のアデル・ガーディアはドッズライフルを放ち、ナイトギラーガは上空に回避しビームバスターで2機を同時に破壊する。
「フォード! バズ!」
「邪魔が入ったが……」
ナイトギラーガは空中でギラーガアックスを構えて急降下する。
動けないハーマン機はドッズライフルを撃つもナイトギラーガは回避してハーマン機止めと刺そうとする。
しかし、その前にAGE-ZEROがナイトギラーガに体当たりとして吹き飛ばす。
「増援か!」
ナイトギラーガは弾き飛ばされるも地面で体勢を立て直す。
「こいつを倒せば……」
「あのMS……ガンダムか!」
AGE-ZEROはビームダガーを抜いてナイトギラーガに向かう。
ナイトギラーガもギラーガアックスを構えて迎え撃つ。
ナイトギラーガはギラーガアックスを振るうが、AGE-ZEROは急制動をかけてギラーガアックスの攻撃をやり過ごすと、急加速をして距離を詰めてビームダガーを振り落す。
ギラーガアックスで受け止めようとすると、ビームダガーは易々とギラーガアックスの柄を切り裂く。
「なんと!」
ジェレミアは驚きを隠せなかった。
相手はガンダムである為、今までの敵とは違うと言う事は理解していたつもりだった。
ギラーガアックスの柄にはアンチビームコーティングがされている為、大抵のビーム兵器の攻撃は受け止める事が出来る筈だった。
しかし、AGE-ZEROのビームダガーは易々とギラーガアックスの柄を切り裂いた。
ビームダガーはその切れ味に反比例して間合いは極端に短い為、柄だけで済んだがこれがビームサーベルくらいの長さもあれば柄ごとナイトギラーガも切り裂かれてジェレミアは死んでいた。
「これがガンダムか!」
ナイトギラーガはギラーガアックスを捨てると両手にビームサーベルを展開する。
「来る!」
ナイトギラーガは一気に距離を詰めてビームサーベルを振るう。
AGE-ZEROはビームサーベルをいなしながらビームダガーで反撃する。
ナイトギラーガは極力ビームダガーの攻撃を回避し、受け止める事は無い。
ギラーガアックスの柄を易々を切り裂くビームダガーの威力ではビームサーベルで受け止める事は困難だからだ。
「攻撃は素人だが……この反応、パイロットはXラウンダーか!」
AGE-ZEROの攻撃はアデル・ガーディアと比べると雲泥の差だ。
ドラドを相手にするには十分な実力ではあるが、ジェレミアから見れば実戦経験の少ない素人の域を出ていない。
だが、こちらの攻撃に対する反応速度は確実にジェレミアよりも早い。
パイロットが実戦経験が少ない素人でここまでの反応速度を持つとなればXラウンダーとしか考えられない。
「攻めきれない……これが実戦経験の差……でも!」
元々、ビームダガーの間合いは短い上に敵はビームダガーの切れ味を警戒している為、中々懐に飛び込ませてはくれない為、AGE-ZEROも攻めきれない。
だが、AGE-ZEROは一気に間合いを詰めようとする。
「お父さんやお爺ちゃん程じゃない!」
相手は自分よりも実践経験は豊富だ。
しかし、それでもMSバトルシュミレーターで戦ったキオやアセムに比べると大した事は無かった。
「思い切りの良い奴だ。しかし!」
ナイトギラーガはAGE-ZEROの動きに合わせてビームサーベルを突き出す。
完全にカウンターが決まるかと思われたがAGE-ZRTOはギリギリのところで機体を少しずらしてナイトギラーガの懐に飛び込んでビームダガーを頭部に向けて突き出す。
「ちぃ!」
ナイトギラーガはビームシールドを展開してビームダガーを受け止める。
AGE-ZEROのビームダガーはビームシールドを突き破りナイトギラーガの左腕に突き刺さる。
「これほどの威力か……これがガンダムの性能……」
ナイトギラーガは左腕を捨てると空中に退避する。
「十分に戦闘データは集まった。一時撤退だ」
ジェレミアは未だに交戦しているドラドのパイロットに撤退の指示を出す。
ガンダムが出て来た以上は一度撤退して体勢を整える必要がある。
この戦闘でナイトギラーガはギラーガアックスと左腕を失ってはいるが、それ以上にガンダムとの戦闘データを収集できた事は損失以上の成果だ。
「ガンダム……今日のところは甘んじて敗走しよう。だが、次は私が勝つ!」
2機のドラドと合流してコロニーから撤退して行く。
入って来たルートから外に離脱したナイトギラーガはミラーファルシアと合流する。
「ジェレミアが腕を失うとは珍しいわね。まさかガンダムでも出たの?」
「そのまさかだ」
アビーは腕を失って来たジェレミアを茶化したが、冗談で言ったガンダムが出た事が事実である為、冗談にしては笑えない。
「武装は貧相だったが、この通りだ。言い訳は出来ん」
交戦したガンダムの装備はライフルもシールドも装備していないが、ジェレミアは腕を失っている。
ギラーガアックスを失った時もそうだったが、間合いの短いビームダガーでなければジェレミアは2度死んでいた。
4機のMSはそのまま撤退し、ファ・ボーゼ級に帰還した。
コロニーから撤退する部隊をAGE-ZEROは追う事は無かった。
目的は敵の殲滅ではなく、撃退だからだ。
戦う意思を持たない敵を追撃する必要はないとアセムが判断した事もあるが、それ以上にまともな装備を持たないAGE-ZEROが追撃して返り討ちに合う可能性を考慮したからだ。
「リック、大丈夫?」
エイミーは恐る恐るリックに声をかける。
戦闘時のリックはいつものリックとは違って見えた為、声をかける事を躊躇った。
「エイミーこそ、怪我はない? 少し派手に動いたから」
「私は大丈夫だよ」
「そっか。良かった」
先ほどの戦闘のどこが少しなのは疑問ではあるが、動きに反してコックピットへの衝撃は少なかった為、何とかシートにしがみつく事が出来てエイミーも怪我はしていない。
それを聞いたリックは安堵の表情を浮かべると共にどっと疲れが出て来る。
今までは戦闘の緊張感から疲れを感じてはいなかったが、初めての実戦でリックも疲れていた。
それが戦闘が終わりエイミーも怪我がない事を知り、疲れが出たのだろう。
「リック、聞こえるか」
「お爺ちゃん」
「敵はコロニーから離脱した。後はこちらに任せるんだ。リックはガンダムをハンガーに入れて休んでくれ」
「分かったよ。お爺ちゃん」
リックは疲れた体を動かしてAGE-ZEROをMS格納庫まで移動させる。
ネオ・ヴェイガンを撃退した事で管制室では生徒達が歓声を上げている。
あの絶望的な状況で敵を撃退して生き残れたのだ当然の反応だ。
しかし、そんな中アセムの表情は優れない。
リックがガンダムに乗って戦ってしまった事以外にもまだ、状況は何一つ好転はしていないからだ。
今回の戦闘で敵を撃退して、窮地を脱する事は出来たが、根本的な解決は出来てはいない。
寧ろ、悪化したとも考えられる。
敵がここを襲撃した目的は分からない。
キャロルがアセムに接触した理由であるEXA-DBに関するデータディスクが目的なのか、将来的に連邦を支える人員を育成するコロニーへの破壊工作なのか、ここで製造していたAGE-ZEROが目的だったのか。
だが、今回の戦闘でガンダムを使った事で敵はガンダムを狙って来る事は確実だ。
今回の戦闘での勝利の代価に更なる危機を招いてしまった事になる。
ネオ・ヴェイガンの襲撃を撃退した学園コロニー「レーアツァイト」の危機的状況は未だに続いていた。