立ち入り禁止区域でヴァネッサと出会ったリックは困り果てていた。
立ち入り禁止区域である為、リックはその事をヴァネッサに話した。
もしかしたら、ヴァネッサも知らずに入って来たのかも知れなかったからだ。
しかし、ヴァネッサから帰って来た言葉は予想外であった。
これでもしも知らなかったら穏便に二人で立ち入り禁止区域から出て行けばよかった。
だが、ヴァネッサは知っていると答えた。
知っていてここに入って来たと言う事は立ち入り禁止だと言う事を口実に二人で出ると言う事が出来なくなり、分かっている以上は出る方向で話しを進めるのは無理だった。
「そういう君はどうなの?」
「えっと……」
リックはヴァネッサも立ち入り禁止区域にいると言うのに自分だけが校則違反をしているような感じになる。
それほど、ヴァネッサが堂々としており校則違反をしているようには見えないからだ。
「僕はぼーっとしていたらいつの間にか……」
「私は散歩」
「そうなんですか……」
なぜ、散歩でここにいるのか、こんな時になぜ散歩をしているのか、そんな疑問が頭をよぎるもそんな事を聞ける雰囲気ではない。
そんな事を考えているとヴァネッサはすたすたと歩きだす。
「どこに?」
「帰るのよ。ぼーっとしていたのなら帰り道は分からないんじゃないの?」
「一緒に歩いて良いんですか?」
「私は構わないわ」
リックにとっては渡りに舟であった。
ヴァネッサの言う通りリックは帰り道を言ってもピンとは来ない。
コロニーの中と言う事もあり、適当に進めばいずれは分かる場所に出るだろうが、道を知っていると思われるヴァネッサについて行けば確実だ。
付いて来ても良いと言う物のリックを待つ気のないヴァネッサにリックは急いでついて行く。
「あの……名前をまだ聞いてませんでしたよね。僕はリックと言います。技術科の高等部の1年です」
「……ネッサよ。普通科の3年」
リックの自己紹介にヴァネッサは最低限の情報だけを話す。
ヴァネッサは現在のネオ・ヴェイガンの指導者のヴァレンティナとは違い余り表に出る事は無い為、本名を名乗っても気づかれる事はないが、万が一の事を考えて本名ではなく、姉からの愛称を名乗った。
ヴァネッサが名乗った事でリックの疑問も少しは晴れた。
レーアツァイトにはパイロットや技術者と言った軍人を育てる為のパイロット科、技術科、通信科と言った学科以外にも普通科も存在している。
他の学科に比べて生徒の人数は少ない。
レーアツァイトの売りはパイロットや技術者と言った人材を育てるに当たり、最新の機器を用意し講師も地球圏に名だたる工房であるマッドーナ工房から派遣されれるなど一流の境域を受けれる事や卒業後は9割以上は連邦軍に就職できると言う事だ。
その反面、普通科は一般的な高校や大学とさほど変わらないレベルの授業である為、わざわざこんなところまで進学している生徒は少ない。
今の状況ではパイロット科や技術科、情報科の生徒は忙しく、余り専門的な知識のない高等部の1年も何かしらの仕事を与えられる可能性がある為、基本的に自室待機を命じられている。
しかし、普通科は今の状況で出来る事は限られている。
忙しい生徒の食事などを作る仕事もあるが、普通科の生徒を全て動員する必要も無い為、普通科の生徒の大半は仕事もなく今後仕事が与えれる事もまずない。
出来る事を言えば忙しい科の邪魔となり足を引っ張らないように大人しくしている事くらいだ。
その為、暇を持て余している普通科の生徒も多く、命賭けで働いている他の科の生徒が不満を募らせているかも知れないと言う話しも聞いている。
「リック、この先が一般区域よ」
「ありがとうございます。ネッサ先輩」
リックはヴァネッサに頭を下げて礼を言うとヴァネッサが指を指す方に進む。
「先輩、また会えますか?」
「縁があればね」
リックは不意にそういう。
ヴァネッサとは初めて会った筈だが、初めて会った気がしなかった。
それはヴァネッサも同様だ。
2人とも気づいてはいないが、2日前の戦闘で2人は戦場で敵同士として出会っていた。
そして、リックはヴァネッサがエイミーや他の生徒とはどこか違う雰囲気を持っている為、少し気になってもいる。
ヴァネッサとしても、自分1人で動くには限界がある。
リックは技術科と言う事もあり、繋がりを持っておけばいずれは有効に利用できるとも考えている。
だが、それを表に出す事はしない。
リックとヴァネッサはその日はそこで別れた。
ネオ・ヴェイガンの襲撃から4日目、リックはエイミーを相手にシュミレーターで訓練をしていた。
心の底ではガンダムは負けないと思っていたが、昨日の戦闘で左腕を損傷した事から、ガンダムの力を引き出し切れていないと思ったからだ。
ここのシュミレーターは古いタイプのコックピットではあるが、何もしないよりかはマシだと言う事で時間を持て余していたエイミーに相手をして貰っている。
「また、リックの勝ちだな」
エイミーとのシュミレーションでの勝負はリックの圧勝で終わった。
すでに何回もやっているが、全てに圧勝している。
「何か、いつもと気合の入り方が違うけど何かあった?」
エイミーも対戦をしている中、リックの動きがいつもとは違うと言う事に気が付いていた。
「だよな。俺もそう思った」
「そうかな?」
傍から見ていたジンもエイミーを同じ感想だ。
リックには自覚がないようだが、今日のリックには鬼気迫る感じがした。
「昨日の損傷がそんなにショックだったか? 先生が言ってたけど、損傷は軽いからすぐに直るみたいだぜ」
「何言ってんのよ。パイロットにとっては愛機が傷物にされただけでショックなのよ」
ガンダムの損傷は腕が一本破壊されただけで他の装甲へダメージは大した事は無い為、修理にはさほど時間がかからない。
損傷は軽微ですぐに直るのだと言うのであれば気にする事は無いとジンは言うがそれはあくまでもメカニックからの視点でパイロットからすれば自分のMSが損傷するだけでショックだとエイミーは主張する。
「そうなのかな?」
だが、リックはそのどちらでもない気がしていた。
確かに腕を破壊された事はショックではあったが、それだけではない気もする。
だからと言って、エイミーに付き合って貰ってまで待機時間中に訓練をするほど悔しいと言う訳でもない。
「いや、こっちが聞いてんだけどな」
「そんな事よりも! 私も負けっぱなしで引く訳にはいかないわ! 次の勝負よ!」
「うん。お願い」
リックとエイミーは再びシュミレーターを始めた。
その頃、コロニーに侵入したヴァネッサは持ち込んだ端末を使いコロニーのデータベースにアクセスをしていた。
コロニー内には学生が自由にアクセスできるネットワークが完備されており、普段はそこから情報を得る事が出来る。
本来ならハッキングの技術が高くはないヴァネッサではすぐに見つかってしまう危険性があったが、このコロニーの大半は学生で今は外にネオ・ヴェイガンがいる為、外に集中している分、内部には余り目が言っていない。
「やはり妙ね」
データベースの中のデータを見ているヴァネッサは呟く。
今見ているのは学外からの定期的に入港する輸送船のデータだ。
輸送船からコロニーに運び込まれた資材は素人が見れば不自然なところはないが、運び込まれた資材の一部の用途に改竄の形跡が見られる。
データの一部が改竄されているのであれば本来運び込まれた資材がデータ通りに使われていないとすれば、どこかで極秘裏に使われたと言う事になる。
「資材の方に改竄の形跡はないわね。消えた資材の量は……」
次に改竄の形跡から消えた資材の量を推測する。
改竄の形跡は学園が開校してから確認でき、消えた資材はMSを10機近く製造できる。
「これだけの資材を生徒に気づかれないように隠せる場所は限られて来るわね」
その量から人目に付かずに隠す事は非常に難しい。
ヴァネッサは資材の搬入記録の閲覧を中断すると、ネットワーク上の生徒同士の情報交換を目的とした掲示板を閲覧する。
人目に付かないようにするのが難しいのであれば生徒が目撃している可能性がある。
掲示板は匿名性が強い為、様々な情報が飛び交っている。
「下らない情報が殆どね」
その大半は生徒や教師への陰口や愚痴が殆どで有益な情報があるとは思えない。
しかし、面白半分に噂話を書き込む生徒も少なくはない。
「立ち入り禁止区域……やはり、あそこが怪しいわね」
噂は何処の学校にもあるような怪談話しなどが殆どではあったが、たまに立ち入り禁止区域で人影を見たなどの噂が多々書き込まれている。
掲示板では面白味に欠ける為、その話題ではイマイチ盛り上がる事は無いが、立ち入り禁止区域は一般にコロニーの構造は公開されているが立ち入り禁止区域に関する事は一切公開されてはいない。
「ここではこれ以上の情報は期待できないわ。直接した方が良いわね」
立ち入り禁止区域に関する情報は不自然なまでに残されていない。
まるで何者かが立ち入り禁止区域に関する情報を削除しているかのようだ。
掲示板などではこれ以上の情報を集める事は困難と判断する。
ネットワーク上に情報がないとすれば直接確かめるか知る人物から聞き出すかしかない。
後者だと騒ぎが大きくなるかも知れない為、今は出来ない。
そうなれば、直接確かめるしかない。
だが、それもやり方を間違えると大事になり、作戦の継続が出来なくなる。
ヴァネッサは今後の事を考えつつも自分の痕跡を一切残す事は無くその場を立ち去る。
ネオ・ヴェイガンの襲撃から5日が経過した。
2日前の襲撃ではコロニーに被害を出す事なく、ネオ・ヴェイガンを撃退した事である程度の余裕が戻っていた。
その日もヴァネッサは会議室に仕掛けた盗聴器から会議室での話しを盗み聞きしていた。
「キャロル、ガンダムの方はどうなっている?」
「2号機は完成しました。後はパイロットをどうするかですね」
(2号機、完成……新型のガンダムがもう1機あったの)
話しの内容からヴァネッサはそう考えた。
今、会議室には2人しかいない。
その片方はキャロルと呼ばれているので技術科の講師として派遣されているキャロル・アスノで間違いはないだろう。
もう片方の声の主は分からないが年を取った男である事は分かる。
話しの内容はガンダムに関する事で完成したと2号機と言う事から何度も自分達を退けたガンダムの2号機であると推測できる。
「生徒の中から志願してくれれば良いんですけどね」
「難しいな」
本来ならば、ガンダムのパイロットはMSのパイロット志願者なら誰もが憧れるが今の状況ではそうもいかない。
「できればリックと組ませて少しでもリックの負担を軽くしたいんだがな。こればかりは強制も出来ない」
(リック? まさか……リックがガンダムのパイロット?)
話しの内容から2号機のガンダムをリックと組ませる事でリックの負担を軽くしたいと言う事だが、そこから導き出される事はリックがガンダムのパイロットであると言う事だ。
ヴァネッサも自分の知るリックがガンダムのパイロットである事は驚きではあった。
リックは技術科と名乗っていたが、それ以上にリック自身がパイロットとして戦場に出るような人間には見えなかった事もある。
「ですね。何ならアセムさんが乗ります? 2号機はアセムさんのAGE-2をベースとした可変機ですから」
「今の俺が乗ったところでリックの足手まといにしかならんさ。俺は父さんや隊長のようにはなれないさ」
(アセム……アセム・アスノ!)
ヴァネッサはキャロルの相手がアセムである事に驚くのと同時に納得した。
一度目の襲撃はガンダムの邪魔で撤退したが、二度目以降の襲撃はガンダム以外のMSもある程度の陣形を保っていた。
三度目の襲撃に至ってはドラドではあったが、十分に対応できている。
コロニー内が落ち着いていると言う事も合わせて誰から適切な指示を出していると考えれば説明も付く。
だが、事前情報ではそんな事が可能な人物はいない筈だった。
なぜ、アセムがここにいるのかは分からないが、アセムならば今の状況でも取り乱す事もなく冷静な判断を下せる。
(アセム・アスノがいたのは予想外だが、ガンダムに乗れないと言うのは好都合だわ)
2号機のガンダムはAGE-2をベースにした可変機ではあるが、AGE-2のパイロットをしていたアセムはすでに年でMSに乗る事は出来ないらしい。
新型ガンダムとアセム・アスノの組み合わせては非常に厄介だったが、アセムがガンダムに乗らないと言うのはネオ・ヴェイガンからすれば好都合だった。
「修理中のガンダムも明後日には修理が終わります。それに合わせて5号機も使えるようにはなります。1号機にはシステムの調整に時間がかかるので後回しですので脱出までには使えないと考えて置いた方が良いです」
「ガンダムが3機か……厳しいな」
(そういう事……今は脱出の為の準備をしていると言う訳ね)
この数日でガンダムを有しているのもかかわらず積極的に攻撃をして来なかったのは脱出の為の時間稼ぎと言うのであればやり方を変える必要がある。
「そうですね。その後はどうします?」
キャロルの言葉にヴァネッサは更に集中する。
脱出後の予定を知っておけば有利に事を運ぶ事も出来る。
「この状況だ。生徒達の協力は必要不可欠だ。そこで俺はこのままマッドーナ工房に向かう」
「アセムさんは本当にこのデータディスクにEXA-DBに関する情報があるとお思いですか?」
「分からないが、あの叔父さんの事だ。何かしらの情報を残している可能性はある」
(EXA-DB……まさか、EXA-DBも絡んでくるなんてね)
ヴァネッサもEXA-DBの事は知っている。
それを手に入れる事が出来るのであれば、ネオ・ヴェイガンの現状を打開する事も可能だ。
(思いがけない情報ね。となればそろそろ頃合いかしらね)
潜入してまだ日が経たないが、思いかけない情報を得た事でヴァネッサは潜入を切り上げると判断する。
ガンダムに関する情報を手に入れる事は出来てはいないが、EXA-DBの情報をキャロルとアセムが握っていると言う事だけも十分な成果と言える。
(だが、その前にやらねばならない事もあるわね)
ヴァネッサは盗み聞きを止めて脱出する為の準備に入る。
損傷したガンダムの修理に思った以上の時間を取られている為、昨日に引き続きリックはエイミーとシュミレーターで訓練をしている。
シュミレーションが終わりやはり、リックの勝利であった。
「何か今日はいつものとは違うけどどうかしたの?」
「確かにな」
今日のリックは昨日に比べて少し反応が遅く動きも荒い気がした。
それは対戦しているエイミーだけでなく、傍から見ていたジンでも気が付ける程だ。
「どうだろう?」
シュミレーターから降りたリックは余り自覚がないが、2人とも同じ意見である為、リックの動きがおかしい事は明らかだ。
「少し疲れてるのかも知れない」
「まぁ、ここのところネオ・ヴェイガンの襲撃もないからな。少し気が抜けて疲れが出たのかも知れないな。てか、休むように言われてるんだろ。訓練に付き合っておいて何だけどさ」
「今日くらいはゆっくりしてもいいんじゃない? どの道ガンダムを扱えるのはリックだけなんだしさ」
「そうはいかないよ。僕がきちんと戦わないと……」
リックはそう言って少し休んですぐにシュミレーターに戻る。
今までとは様子の違いに戸惑いつつも、エイミーもシュミレーターに戻りシュミレーションを再開する。
シュミレーションを再開するが、リックのMSはピクリとも動かない。
それも何かの作戦かと思いエイミーの操作するMSが攻撃し、あっさりと撃墜してその対戦が終わる。
「どうしたんだよ。リック?」
ジンが微動だにしなかった為、シュミレーターを覗き込む。
そこには顔を真っ赤にしてぐったりしているリックがいた。
「おい! リック!」
「どうしたの?」
「わかんねぇ! とにかく医務室に連絡!」
「分かった!」
エイミーがすぐに医務室に連絡を取って、リックは医務室に搬送された。
数十分後にリックは医務室で医者の診察を受けていた。
将来的な即戦力を育成するレーアツァイトには生徒の体調管理や怪我や病気に備えて医者が常時滞在しており設備も整っている。
リックが運び込まれた医務室も一般的な医務室とは規模が違いまるで病院のようだった。
「それでリックの容体は? どうなんですか?」
「過労ですね」
リックが倒れたと言う知らせを聞いてすぐに指示を出して医務室に駆けつけたアセムは重体ではなくて一息ついた。
「2、3日も安静にしていれば良くなるでしょう」
「そうですか……」
医者はそう言って病室から出て行く。
「すいません。俺達がリックの訓練に付き合っておきながら……」
「気にするな。君たちのせいじゃないさ」
リックが倒れた事で責任を感じているジンの肩にアセムは手を置いてそういう。
「リックの体調は気遣っていたつもりだったが、こうなるまで気づけなかった俺の責任でもある」
アセムもリックの体調には気を付けていたが、倒れてしまった以上は同罪と言っても良い。
これが正規軍であったら、部下の体調管理すらまともに出来ていないと言う事だ。
「それにリックは少し焦り過ぎていたのかも知れないな。俺にも経験がある」
リックが倒れるまで追い詰められていた原因の一端は焦りにあるとアセムは考えた。
前回の戦闘でリックは機体の腕を破壊されている。
幸い、大した損傷でもない。
修理が遅れているのは諸事情があるからで損傷のせいではない。
それでも初めての損傷で今の状況はリックが頼りと言う事もあり、機体を損傷させた事で焦っているのだろう。
アセムもかつてゼハートに大敗した事で焦りXラウンダー能力に固執した時期もあった。
今のリックもそれに近い状態なのだろう。
「リックは大丈夫そうだから、君たちも少し体を休めて置いてくれ。リックが目を覚ました後は頼む」
今のリックにアセムが何を言っても無駄だろう。
かつての自分も焦るが故に父の言葉の一つ一つに反発した。
今のリックに必要なのは対等に接してくれる友人や仲間だ。
アセムの場合は対等な立場とは言えないが、自分を必要以上に特別扱いをしなかったウルフのおかげで立ち直る事も出来た。
ジンの事は前々から知ってはいたが余り接する機会はない。
それでもジンはアリーサの孫にあたる為、悪い奴ではない事は分かる。
「リックの事を支えてやってくれ」
アセムはそう言って病室を出て行く。
今のアセムに出来る事はコロニーを守り抜く事しかない。
リックは病室に寝かされている。
すでに運び込まれて数時間が経ち、コロニー内の時間が夜となっていた。
リックが大した事が無い為、一度ジンもエイミーも寮の方に戻っている。
今はリックの眠る病室には誰もいない。
「ここがリックの病室……」
誰もいない病室にヴァネッサが音も立てずに入り込む。
リックはそれに気づく事もなく、ベッドの上で寝ている。
「まさかリックがガンダムのパイロットだったなんてね」
ヴァネッサはそう言いつつ、リックのベットの傍らまで近づく。
「悪いけどガンダムを野放しにする事は出来ないの」
制服のスカートの下、足に隠し持っていた折り畳み式のナイフをヴァネッサは抜く。
すでに母艦の方に暗号通信で脱出する事を伝えている。
次期に母艦の方のジェレミア達が動きだすだろう。
その前に、ガンダムのパイロットであるリックを始末する為にヴァネッサはここまで来た。
幸い、リックが倒れた事はちょっとした騒ぎになっていた為、居場所を特定する事には時間がかからなかった。
だが、リックを始末したとしてジェレミア達が動くまでの間に騒ぎを起こしたくは無い為、始末してもすぐには気が付かれない夜まで待っている。
「ガンダムは母様の仇……」
ヴァネッサにとってガンダムとは母親の仇でリック自身には関係が無い為、恨んでいる訳ではないが、リックがガンダムのパイロットである以上は活かしてはおけない。
ヴァネッサはナイフを振り上げる。
そして、リックの頭部をめがけてヴァネッサはナイフを振り落した。