機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第125話

 

 

 

 コロニー「レーアツァイト」を脱出したディーヴァはすぐにマッドーナ工房に向かうのではなく、一度デブリベルトに潜伏していた。

 過去の大規模戦闘の名残で地球圏は相当数のデブリベルトが形成され、未だに放置されている。

 今、ディーヴァが潜伏しているデブリベルトもその中の一つだ。

 直接向かわなかったのはディーヴァの進路がマッドーナ工房であると言う事も知られている可能性を考慮しての判断だった。

 ディーヴァの主砲の修理の必要もあり、隠れてネオ・ヴェイガンをやり過ごし、マッドーナ工房に先回りしてもマッドーナ工房がネオ・ヴェイガンの接近に気が付いて何かしらの手をい打ってくれる事に期待している。

 それだけでなく、退避した脱出艇が近くのコロニーまで向かいそこで事の次第を連邦軍に報告してくれればディーヴァも動き易くなる。

 それらを考慮して、今はデブリベルトに姿を隠して最低限の体勢を整える事を優先した。

 ディーヴァの格納庫では搭載機の修理と整備に整備班が追われていた。

 

「先生、俺の機体の装備の方はいつごろ使えるようになりますか?」

 

 整備班に指示を出しているキャロルにハーマンは尋ねた。

 ハーマンの3号機は前回はアデル・ガーディアの装備を使ったが、本来の装備を使う事で3号機の能力を最大限に発揮する事が出来る。

 

「悪いけどディーヴァの設備じゃどうにもならないわね。最低でもマッドーナ工房に到着するまでは使えないわ」

「そう、ですか」

 

 3号機の装備を完成させるにはディーヴァの設備では難しい。

 無理をすれば不可能ではないが、その分、他のMSの方に手が回らなくなる。

 そうなれば3号機の装備が使えるようになっても、ディーヴァのMS隊の全体的な戦力の低下を招きかねない。

 そうなるくらいなら、3号機の装備はマッドーナ工房まで手を付けずに現状の戦力の維持を優先している。

 同様の理由で1号機も手つかずの状態で格納庫のハンガーに収容されている。

 

「まぁ、そんなに気を落とさないで、3号機は専用装備がなくてもディーヴァのMS隊の主力の1機に代わりはないから」

「分かっています。俺も今のディーヴァの状況は理解しています」

 

 ハーマンももう子供ではない。

 専用の装備を完成させるよりも、ディーヴァ全体の戦力を維持する方が優先である事は理解している。

 

「それよりも、リック君を呼んで来て貰えないかしら?」

「アスノをですか?」

「ええ、AGEシステムの新装備の説明をしておきたいから」

「AGEシステムの……分かりました」

 

 前にビームシールド発生装置を作り出してから2度の戦闘のデータを使いAGEシステムが新しい装備を作り出していた。

 その装備の事をリックにも説明する必要もある。

 そして、それをハーマンに頼むのはハーマンが3号機のパイロットでゆくゆくはガンダムで小隊を組む時の為にその中心になるであろうリックと少しでも親睦を深めると言う意味もあった。

 ハーマンはキャロルに言われた通り、リックを呼びに行くために格納庫を出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディーヴァの展望デッキでリックは外を眺めていた。

 外はデブリだらけで、眺めはお世辞にも良いとは言えないが、リックは別に宇宙を眺めたい訳ではない。

 脱出時の戦闘でグルドリンカスタムのパイロットがヴァネッサであると知った。

 何とかキオの件で誤解を解こうとしたが、ヴァネッサはリックの話しに耳を傾ける事もなく、リックを殺しにかかって来た。

 

「僕はどうしたら……」

 

 誤解を解きたいが、ヴァネッサは話しを聞く気がない。

 話しさえ出来れば誤解を解く事も出来ると思っていた為、話しすら聞いて貰えないとなると意味がない。

 

「ディーヴァのエースパイロットが何辛気臭い顔してんの」

「エイミー……」

「リックは元々、暗いのに更に暗くなってるよ」

 

 エイミーの言葉にリックも少しは気持ちが和らぐ。

 

「僕ってそんなに暗いかな?」

「まぁ、明るくはないわね」

 

 エイミーはバッサリとリックを切り捨てる。

 リックも自分自身がジンやエイミーのような人間ではないとは分かってはいるが、はっきりと言われると少しへこむ。

 だが、同時に変に気を使わない気遣いに感謝もしている。

 

「ねぇ、エイミー。僕はどうしたら良いんだろう。話しをしたい人がいるんだ。でも、その人は僕の話しを聞こうともしてくれない。大事な話しなんだ……」

「私に聞かれてもね。私達はさ、ガンダムに乗ってるけど状況をどうこう出来る訳でもないよね。結局、私達は状況をどうこう出来る力はなく、ただ流されるしかないじゃん」

「ただ流されるだけしか……」

 

 リックもエイミーもガンダムのパイロットだ。

 しかし、ガンダムに乗って戦っているからと言って状況を動かして来た訳ではない。

 常に状況を動かして来たのは双方の指揮官でリックもエイミーも指揮官が動かした状況に流されるしかなかった。

 

「それでもリックが流されてくれなければ私達は始めの攻撃で死んでたと思う」

 

 リックは状況に流されて死ぬのが嫌でガンダムに乗って戦う事を選んだ。

 だが、それも目の前にガンダムがありリックが起動に必要なAGEデバイスを持って、誰かが戦わないとみんなが死ぬと言う状況に流されたに過ぎない。

 戦わずに状況に流されて死ぬか、状況に流されてガンダムに乗り戦うかの違いはあるが、どちらにせよリックは状況に流されたと言う事は間違いはない。

 

「状況を変える程の力がなくても流される状況を選ぶ事くらいは私にも出来ると思うんだよね」

 

 エイミーもまたガンダムに乗って戦うと言う状況に流される道を選択したリックと同じようにだ。

 状況を変える事は出来なくてもリックもエイミーも自分達が流される状況を選ぶ事は出来る。

 

「つまり、私が何か言いたいと言うとね。リックはどんな状況に流されたいかよ。その人に話しを聞いて欲しいなら聞いて貰える状況に流されればいい。その流れがないなら自分で作っちゃえば良いのよ」

「結局、それって自分で自分の状況を変えるって事だよね」

「ああ、もう! 面倒臭いわね! じゃあ、状況も変えちゃえば良いじゃん! ほら、ガンダムは常に戦争の流れを変えて来たって歴史の授業で習ったし、ガンダムがあれば状況の一つや二つは軽く変えられるって!」

 

 半ば自棄でそういうエイミーを見ていると悩んでいる事が馬鹿らしくなって来る。 

 エイミーは思った通りに動いている。

 だからこそ、リックのように変に悩む事もなく前に突き進む事が出来る。

 リックはそんなエイミーの事を素直に羨ましく思える。

 

「とにかく、リックはリックの好きな流れに流されるれば良いのよ! 文句を言う奴がいればガンダムでぶっ飛ばせば良いの! 分かった!」

「うん、そうだね。エイミーの言う通りだよ」

「よろしい」

 

 エイミーはリックを強引な理論で説き伏せた事で非常に満足げにしている。

 そんなところにキャロルに言われてリックを探していたハーマンが通りかかる。

 

「そこにいたのか、アスノ。バートンも一緒か」

「先輩、どうしたんです?」

「先生が格納庫に来いとさ、お前のガンダムの新装備が出来たらしい」

「マジで! 私も良いですか?」

「ああ、構わんだろう」

 

 ガンダムの新装備にパイロットのエイミーの方が食いついて来た為、リックは苦笑いしている。

 エイミーもガンダムのパイロットである為、新兵器の事は聞いておいて損はないと判断したハーマンはリックだけではなく、エイミーも連れて格納庫に戻る。

 

 

 

 

 格納庫ではAGE-ZEROに整備班が取りついて整備をしている。

 外見に殆ど差異は見られないが右腕が以前とは少し違う。

 左腕にはビームシールドの発生装置が付いているがそれに良く似ている装甲が追加されていた。

 

「新装備ってまたビームシールドですか?」

「俺は詳しい事は聞いてないから何とも言えないが……」

 

 若干の違いはあるが、ビームシールドの発生装置が新装備とは考え難い。

 

「アレはビームブレードの発生装置らしい」

 

 端末を片手に整備をしていたジンがリック達に気が付いて近づき端末にデータを映し出す。

 

「今までの戦闘じゃ接近戦はビームダガーしかなかったろ。ビームダガーは切れ味は抜群だけどリーチが短い」

「確かにそうだったね」

 

 距離を取っての戦闘であればDCドッズライフルがあるが、接近されるとどうしても接近戦用の装備が必要になって来る。

 その時にビームダガーを使っていたが、威力はあっても間合いの短さで苦労させられた。

 

「んで、AGEシステムがそれを補う装備を作ったって訳。単純な切れ味じゃビームダガーには劣るけど間合いはビームサーベルと大して変わらないし、威力もMSの装甲を切断するのには十分なだけはある」

 

 新装備のビームブレードは威力ではビームダガーには劣るがその分、間合いはビームダガー以上ある。

 威力が劣ってもMSの装甲を切断するには十分である為、威力の低下は問題視する程ではない。

 それ以上に間合いがあれば接近戦で苦労させられる事も減る為、ビームダガー以上に使い勝手は良い。

 

「何か地味ね。なんか、こう……ドーン! と凄い装備とかは作れない訳?」

 

 自分の機体と言う訳ではないが、エイミーは余り期待していた程の装備ではない為、不服そうにそういう。

 

「前はそうだったらしいけど、それだと新装備の開発や製造に時間がかかるし、余り特化しすぎても汎用性に欠けるって欠点があるからな」

 

 今までにAGEシステムを搭載していたガンダムはエイミーの言うような当時の技術の遥か上を行く装備を作り出していた。

 その為、装備を一つ作るだけでも多くのデータが必要となり、設計後にAGEビルダーで製造する時間も必要となって来る。

 その上、そうして作り出した装備は確かに高性能だが、使用されている技術が高すぎて一般の技術者では扱い切れない物や性能に偏りが生じ使う場面が限られてしまうと言う事態が発生している。

 そんな中、AGEシステムが初めて生み出した装備であるドッズライフルは半世紀以上経っても改良を重ねて連邦軍のMSの主兵装として活躍している。

 それを踏まえてAGE-ZEROは今までのガンダムのように切り札としてAGEシステムを使うのではなく、戦闘ごとのデータを使い少しづつガンダムの欠点を補い続けると言う今までの劇的な進化ではなく、少しつづの緩やかな進化をさせると言う試みがされている為、エイミーの言うような派手な新装備を作り出す事は少ない。

 

「でも、接近戦で間合いが取り易くなるのは助かるよ。ジン、この装備はすぐに使えるの?」

「多分な。んじゃ、俺は作業に戻るわ」

 

 説明を終えたジンはAGE-ZEROの整備の作業に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディーヴァがデブリベルトに潜伏して数時間が経ち、何とかディーヴァの補修作業にも目途がついて来た。

 その報告を格納庫で受けたアセムはブリッジに上がる。

 始めは四苦八苦していたブリッジクルーも元々は成績の優秀な生徒であったため、何とか様になっている。

 

「状況はどうなっている」

「周囲に敵影は確認できません」

「この辺りにはまだ動力の生きている戦艦も多いですからね。簡単にディーヴァの位置は特定できませんよ」

「だからだ。こっちの位置を特定し辛いのであればこっちも敵の位置を特定し辛いと言う事を忘れるな」

 

 アセムはエディだけではなくブリッジの全員に釘を指す。

 周囲の戦艦の残骸の中には動力炉が生きている残骸も少なくはなく、戦艦クラスの熱源は多く捕捉できる。

 そのせいで敵が接近してもディーヴァの位置を補足するのは難しくなって来る。

 しかし、それはディーヴァも同様だ。

 残骸の熱量と敵戦艦の熱量を誤認してしまえば、MSを展開する暇もなく取り囲まれて一気に沈められると言う危険性もある。

 

「艦長、MS隊が仕掛けたセンサーに反応がありました。MSと思われます」

「カメラに出せるか?」

 

 潜伏してすぐにアセムは周囲の少し離れたところのデブリにセンサーを設置させた。

 そのセンサーで設置したデブリの近くを何かが横切ればディーヴァの方で補足出来るようにしておいた。

 モニターにセンサーと共に設置しておいた小型カメラの映像が映される。

 小型カメラの性能は低い為、余り映像は良くなので分かり辛いが確かにMSの姿が映されている。

 

「ヴェイガン系のMSではないと言う事は友軍機でしょうか?」

「友軍機なら隠れて行動はしないだろう。それにあのMSは……シャルドールのローグタイプか?」

 

 映像はヴェイガン系のMSではないと言う事は一目瞭然ではあるが、機種までは良く分からない。

 だが、マッドーナ工房製のシャルドールに良く似ている。

 それもマッドーナ工房がビシディアンに流していたシャルドール・ローグに良く似ている。

 

(だとするとビシディアンだと言うのか……)

 

 シャルドール・ローグは一般には流れてはいない。

 マッドーナ工房がシャルドール・ローグを売っているのはビシディアンだけだ。

 かつて、アセムがキャプテンアッシュとして宇宙海賊ビシディアンを率いていたが、アセムが連邦軍に復帰した際に解散している。

 だが、数年前に連邦政府の強硬政策に対してビシディアンに縁のあった者達が再結成したと言う事をかつての右腕であったラドックから聞いていた。

 その当時の三代目のキャプテンは信頼のおける人物であるとラドックからも言われていた為、引退した身であるアセムは特に関知はしていなかった。

 

「海賊の恐れがある。リックとエイミーを偵察に出す。アデル隊と3号機もすぐに出せるように準備をさせておけ」

「海賊……」

「この辺りは海賊にとっては最高の狩場だ。俺達はそんな狩場に入り込んだ獲物と言う訳だ」

 

 デブリベルトには回収すれば売れるMSや戦艦の残骸も多い為、海賊からすれば宝の山だ。

 その為、宇宙海賊がこの辺りにいても何も不思議な事ではない。

 あわよくば自分達を追って来たネオ・ヴェイガンと海賊が鉢合わせをしてくれればいいとも思っていたが、ネオ・ヴェイガンは追って来る気配はなく、海賊に見つかったのはディーヴァの方であった。

 

(ビシディアンだとすれば何とも言えない因果だな)

 

 元キャプテンのアセムが乗るディーヴァを新生ビシディアンが襲撃して来る事もそうだが、アセムも過去にフリットが孫であるキオと共にディーヴァに乗艦していた時に一度、仕掛けた事がある。

 それから時が流れてアセムが孫であるリックが乗っている時に襲撃して来るのだ妙な因縁を感じる。

 

「リックとエイミーには向こうが仕掛けて来るまで手を出さない事と決して撃墜をしないようにと言っておけ」

「どういう事ですか?」

 

 向こうから手を出すまで攻撃するなと言う事はビシディアンがディーヴァに攻撃する気がなかった場合の事であるとエディでも分かるが、撃墜はするなと言う事は理解出来ない。

 

「連中に俺達が自分達の手に負えない大物である事を見せつければそれでいい。だが、撃墜をしてしまえば連中は引っ込みが付かなくなる。そうなれば全滅させるまで戦いが終わらない」

 

 ビシディアンも馬鹿ではない。

 ディーヴァの戦力が自分達では仕留めきれないと判断すれば引くだろう。

 ビシディアンに全滅覚悟でディーヴァを落とす理由はないからだ。

 だが、MSを撃墜した死人を出してしまえば話しは別だ。

 ビシディアンは仲間の仇討ちの為に最後の一人になるまで戦いを止める事は無いだろう。

 そうなれば、こちらとしても全滅させなければならない。

 そこまで戦えば無駄に戦力を消費させられる。

 マッドーナ工房に到着するまでは無駄な戦力を消費したくは無い為、ビシディアンは追い払うだけで構わなかった。

 

「後はすぐにでもディーヴァを動かせるようにな」

 

 ビシディアンと思われるMSの接近に対して、ディーヴァからもAGE-ZEROと2号機が射出されて反応のあった方へと向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 ディーヴァから出撃した2機のガンダムはビシディアンのMSを補足した方に向かっている。

 あれから向こうも動いたと想定するといつ遭遇してもおかしくはない。

 

「撃墜するなって言われてもね」

「仕方がないよ。無用な戦闘を避ける為だって事だし」

「分かってるけどさ、手加減って難しいのよ」

 

 エイミーは指示の理由は分かるが性格的に手加減する事が非常に苦手としている。

 

「それでデブリが邪魔で……一気にぶっ飛ばそうかな」

「駄目だって、相手を刺激するのもまずいよ」

 

 2機はデブリにぶつからないように移動をしているが、エイミーからすれば面倒な事で一気にデブリを破壊して進みたい。

 だが、周囲に海賊がいるかも知れないと言う今の状況で大火力の武器を使う事は相手を刺激する危険性がある。

 その為、下手に武器を使えばそれがきっかけで戦闘状態に入りかねない。

 そうやってデブリを避けているとデブリの影からMSが出て来る。

 マッドーナ工房製のMS、シャルドール・ローグ改だ。

 ビシディアンのシャルドール・ローグを改良したMSで右腕のドッズバスターHは改良されてビームサーベルの展開が可能となり、左腕もアタッチメントを換装する事が可能になっている。

 出て来たシャルドール・ローグ改の左腕にはヒットフックHが装備されているタイプのようだ。

 

「何か出て来た!」

「来る!」

 

 デブリから出て来たシャルドール・ローグ改は2機にドッズバスターHを放つ。

 2機はすぐに回避するが、デブリの影から何機ものシャルドール・ローグ改が姿を現す。

 左腕がヒートフックH以外にもヒートソードH、ビームアックスH、ドッズバスターHなどがいる。

 

「僕たちを待ち伏せていたのか!」

「やってくれるわね!」

 

 シャルドール・ローグ改は一斉にドッズバスターHで攻撃を開始する。

 

「エイミー、ここは僕が抑える。エイミーはディーヴァにこの事を!」

「分かったわ!」

 

 エイミーがディーヴァに待ち伏せを受けた事を知らせに戻りリックがビシディアンのMSと対峙する。

 

 

 

 

 

 

 

 エイミーがディーヴァに戻った頃にはディーヴァにも別働隊が接近して交戦状態に入っていた。

 ディーヴァに仕掛けていたのもシャルドール・ローグ改で数が多くないが、デブリの影を使った戦闘に防戦一方になっている。

 

「バートンかアスノはどうした?」

「リックは待ち伏せしていたのを抑えてます」

「分かった。お前も防衛に当たれ」

 

 ハーマンの3号機は今回もドッズライフルとシールドを装備して応戦している。

 アセムからの指示で撃墜はするなと言われているが、デブリを巧みに使って攻めて来ているビシディアンに翻弄されている。

 

「落とすなと言われもな……」

 

 3号機はドッズライフルを放つが、シャルドール・ローグ改はデブリを盾にして防いでデブリの影からドッズバスターHを連射して飛び出して来る。

 

「これではな!」

「ちょこまかとして!」

 

 2号機がドッズライフルを連射するも、シャルドール・ローグ改はデブリの間を進みビームはデブリに当たる。

 2号機の方が機動力はあるが、デブリが邪魔で機動力を活かせずにいる。

 シャルドール・ローグ改の1機がビームアックスHで切りかかり、2号機は回避してドッズライフルで反撃するが、ビームはデブリに当たり届かない。

 そして、デブリを盾に体勢を整えたシャルドール・ローグ改がドッズバスターHで反撃して来た。

 

「何なのよ!」

 

 2号機はシザーシールドで防ぎつつ後退していると後方のデブリにぶつかる。

 

「今度は何なのよ!」

 

 デブリにぶつかり後方のデブリに気を取られていると前方のシャルドール・ローグ改がビームアックスを展開して接近して来る。

 2号機は頭部のビームバルカンを放ち、シャルドール・ローグ改の左腕を破壊した事でシャルドール・ローグ改はドッズバスターHを放ちながら後退する。

 

「何なのよ! もう!」

「迂闊に飛び出し過ぎだ。戻れ」

「分かってますよ!」

 

 このままでは2号機が孤立させられてしまう為、エイミーもすぐにディーヴァの方に戻り防衛に専念する。

 

「艦長、このままじゃまずいですよ!」

「分かっている。発進準備はどうなっている?」

「もう少しです」

「急げよ」

 

 アセムはディーヴァの出航準備を進めながら、戦闘に対して違和感を覚えていた。

 確かにエディの言う通り、このままでは押し切られるのも時間の問題だ。

 しかし、敵の動きを見る限りではビシディアンのMSはデブリベルトでの戦闘に慣れている。

 海賊である事を考えればデブリでの戦闘は何度も経験していてもおかしくはない。

 一方のこちらはデブリ戦の経験は精々、シュミレーションで行った程度で実際には初めての筈だ。

 コロニーに籠城していた時に数回の戦闘を行っていてもデブリ戦の経験のない生徒がここまで粘れると言うのは妙だ。

 

「一体、何を考えている」

 

 その気になればすぐにでもこちらを制圧できるのに制圧をしないで戦う理由として考えられるのは時間稼ぎだ。

 時間を稼いだとして相手にメリットが必ずある筈だ。

 時間をかけ過ぎるとこちらもデブリ戦に慣れて来て次期に機体性能で不利になる事が分からない訳ではない。

 そのリスクを背負ってまでメリットがある筈だ。

 

 

「敵の狙いは……」

 

 アセムは今までの敵の行動から目的を推測する。

 事の発端は周囲に配置したセンサーに反応があり、リックとエイミーを偵察に出した。

 そして、2人が敵を接触してすぐにディーヴァも敵の攻撃を受けて防衛戦に入った。

 そこである事に気が付く。

 リック達が敵と接触してから別働隊が動き出す時間は殆ど代わりはない。

 センサーに反応した時間も考えると接近するまで時間をかけていない事になる。

 そこである仮説が立てられる。

 センサーでMSを捕えるよりも先に別働隊がディーヴァに接近していたと言う事だ。

 そうすれば、別働隊の配置後にセンサーに捉えられれば時間も説明が付く。

 センサー事態、急場凌ぎで設置している為、穴は幾らでも探せる。

 その穴を掻い潜って来たのであればセンサーに見つかる事なく接近する事も可能で、穴が分かっているのであればわざとセンサーに引っかかる事も可能だ。

 

「だとすると……」

 

 そう考えると敵の狙いも自ずと分かって来る。

 センサーにMSが引っかかった場合、偵察に出す事は容易に想像が出来る事だ。

 その時、敵の勢力や目的が分からない以上、偵察に出すMSは限られて来る。

 どんな状況になっても対処が可能なエースパイロットを最低1人は偵察に出すだろう。

 そして、現在リックのガンダムが孤立している状況から考えると答えは1つだ。

 

「連中の狙いはガンダムか」

 

 かつて、アセムがビシディアンに入る前に連邦軍が所有しているガンダムを奪取して独自の改造を加えたMSで連邦軍を腐敗を叩くと言う計画があった事をアセムは聞かされた事はあった。

 その計画は多少狂いはしたが、その結果、アセムの愛機となったガンダムAGE-2 ダークハウンドが製造されている。

 そのダークハウンドもアセムが連邦軍に戻る際に改修されて連邦軍に戻っている。

 新生ビシディアンが再び連邦軍の腐敗を叩く為にガンダムを欲しても不思議ではない。

 どこから嗅ぎつけたのは、分からないがディーヴァにガンダムが搭載されている事を知り、ガンダムを奪取する為に仕掛けて来たと言う事が推測できる。

 

「リックに余り孤立しないように伝えろ」

 

 アセムはそういうが、ビシディアンのパイロットはデブリベルトでの戦闘に慣れているだろう。

 対するリックは初めてだ。

 シャルドール・ローグ改とAGE-ZEROでは圧倒的に性能差があり、パイロットの純粋な技量もリックの方が上だろうが、デブリ戦の経験の差で苦戦する事は必至だろう。

 今は持ち耐えるどころか、押しているがいずれはビシディアンもエースパイロットを投入して来るだろう。

 その時が正念場であった。

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘宙域から少し離れたところにビシディアンの母艦であるバロノークが潜んでいた。

 アセムがキャプテンをしていた時の母艦と同名で外観も同じだが、バロノーク級の戦艦をバロノークに似せて同じ船名を付けたに過ぎない。

 バロノーク級は地上では運用が難しく、長い間運用していた事で運用データの多いディーヴァ系の戦艦や、ヴェイガンの高い技術で作られた戦艦に劣るとされて製造された多くが民間に引き払われている。

 バロノークもその中の1隻をビシディアンが買い取って改装した物だ。

 

「ガンダムはまだ捕獲出来ないのかよ」

「そのようで」

 

 ブリッジの艦長席に座るアンナ・ハーケンは少しイラつき気味にそういう。

 まだ20代前半で若い彼女だが、ビシディアンの4代目キャプテンだ。

 その横には3代目の時から補佐をしている屈強な体格をしているブルーノが控えている。

 

「流石はガンダムと言ったところで……デブリ戦には慣れていないようですがシャルドール・ローグでは相手にならないようですな」

「ちっ、何やってんだ。ディーヴァにガンダムつってもいつまでもご利益があるって訳でもねぇしよ」

「ですがキャプテン、現に手こずっているのは事実ですぞ」

「うっせぇな。ガンダムだからってなにも赤いのみたくアスノ家が乗ってる訳じゃねえんだろ」

 

 あくまでも冷静に事態を把握するブルーノを鬱陶しく睨みつける。

 だが、ブルーノは動じる様子はない。

 

「なら、アタシが出て軽くとっ捕まえて来るぜ」

 

 アンナはそう言って艦長席を離れてブリッジから出て行く。

 

「全く……キャプテンが出るぞ! Gハウンドの用意をさせとけ!」

 

 ブルーノはため息をつくが、止めたところでアンナが止まる事は無い為、格納庫にアンナが出撃する事を知らせる。

 

 

 

 

 

 アンナがパイロットスーツに着替えて格納庫に到着する頃にはアンナの専用機のGハウンドの用意が出来ていた。

 GハウンドはGバウンサーを母体にマッドーナ工房でアンナ専用にカスタムした専用機だ。

 両肩にはAGE-2が装備していた大型の可変翼が2枚づつ、バックパックのテールバインダーは4基に増設されており機動力を大幅に強化している。

 左腕にはAGE-2の小型シールドとダークハウンドのアンカーショットを複合させたアンカーシールドを装備し、右手にはGエグゼス・ジャックエッジ用のドッズライフルⅡBを持っている。

 左腰にはGサイフォス用のスネークソードを手持ちの実体剣にした物が装備されている。

 

「お嬢も出撃するそうで!」

「その呼び方は止めろつってんだろ!」

 

 整備班を軽く怒鳴りながらアンナはGハウンドに乗り込む。

 

「たく……いつまでも子供扱いしやがって」

 

 機体のハッチを締めてアンナは一人愚痴る。

 アンナが新生ビシディアンのキャプテンに就任したのは数年前の事で三代目が父親であった事からバロノークに何度か遊びに来ていた。

 その為、メンバーの大半はアンナの子供の頃を知っている。

 その時の名残で今もアンナをお嬢と呼ぶ者も少なくない。 

 だが、アンナとしてはいつまでも子供扱いをされるのは気に入らない。

 

「けど、ガンダムを捕まえてくりゃ……あのキャプテンアッシュだって実力で認めさせたんだ。アタシだって」

 

 ビシディアンの中でアンナをキャプテンとして認めていない訳ではない。

 それでも子供扱いをする奴を黙らせるには実力を見せる事が一番だとアンナは考えている。

 2代目のキャプテンであるアッシュもビシディアンに入って1年もしないうちにキャプテンとして認められている。

 そして、アッシュは卓越した操縦技術で当時の新型ガンダムを相手に全力を出さずに圧倒していたと言う。

 つまりはそれだけの実力があれば誰もが認めるキャプテンになれると言う事だ。

 

「Gハウンド、出るぞ!」

 

 Gハウンドはバロノークから射出されると一気に加速する。

 デブリを回避しながらAGE-ZEROの方へと向かう。

 その途中で損傷して後退するシャルドール・ローグ改とすれ違う。

 

「見つけたぜ! ガンダム!」

「新手の敵!」

 

 AGE-ZEROを補足したGハウンドはドッズライフルⅡBを放つ。

 AGE-ZEROはビームシールドで防いでいるうちに距離を詰めてドッズライフルⅡBの実体剣を振り下ろし、AGE-ZEROは右腕のビームブレードを展開して受け止める。

 

「悪いがその機体はアタシが貰ってやんよ!」

「くっ!」

 

 AGE-ZEROはGハウンドを押し戻すとDCドッズライフルを向ける。

 Gハウンドはすぐに射線に乗らないようにするが、リックはそれを完全に見切れている。

 だが、引き金をすぐに引かずにワンテンポ遅らせて引いた。

 それによってDCドッズライフルはGハウンドに当たる事は無く射線上のデブリを破壊するだけに留まる。

 

「はっ! 下手くそがどこを狙ってやがる」

「駄目だ。ライフルじゃ威力が強すぎる」

 

 AGE-ZEROはDCドッズライフルを腰につけるとビームブレードの柄をスライドさせて手に持つ。

 ビームブレードは追加された装甲内に収納されている状態でも使えるがスライドさせて手持ちの武器としても使えた。

 リックがワンテンポずらして攻撃したのは普通に撃てば確実にGハウンドに当ててしまう事が分かっていたからだ。

 確かにGハウンドの機動力は高い。

 だが、肝心のパイロットの腕はシュミレーションで戦った歴代のガンダムパイロットはおろか、ヴァネッサにも劣る為、Xラウンダー能力を使えば容易に動きの先を読む事が出来る。

 邪魔なデブリもDCドッズライフルであればデブリごと狙う事も出来る。

 アセムから余計なトラブルを避ける為に敵を撃墜するなと言われている事もあり、わざと当たらないように攻撃した。

 

「白兵戦でアタシとやり合おうってか! 面白れぇ! 受けてやるよ!」

 

 GハウンドもドッズライフルⅡBを腰につけるとスネークソードを抜いてAGE-ZEROを迎え撃つ。

 2機は互いの剣でぶつかり合うがAGE-ZEROがGハウンドを弾き飛ばす。

 

「流石は新型のガンダム……連邦の狗でも少しはやるじゃねぇかよ!」

 

 Gハウンドはアンカーシールドのアンカーを射出する。

 AGE-ZEROはギリギリのところで回避してビームブレードでアンカーのワイヤーを切断する。

 そして、AGE-ZEROはGハウンドに接近してビームブレードを振るいGハウンドはスネークソードで受け止めるが、ビームブレードはじりじりとスネークソードを焼き切り始めていく。

 

「糞ったれ!」

 

 Gハウンドはスネークソードを捨てて距離を取りドッズライフルⅡBを連射する。

 

「もう止めて下さい!」

 

 AGE-ZEROは回避しながら投擲したビームダガーはGハウンドの右腕に突き刺さり、ドッズライフルⅡBごと爆散する。

 

「僕たちに手を出さないで!」

 

 AGE-ZEROはGハウンドの頭部を踏みつけてディーヴァの方に向かう。

 

「あの野郎! アタシを踏み台にしてきやがった!」

 

 何とかスラスターで体勢を整えるが、すでにAGE-ZEROとは距離を離されている。

 それ以前にGハウンドは全ての装備を失っている為、仮に追いついたとしてもまともに戦う事は出来ない。

 

「ふざけやがって!」

 

 アンナは怒りに任せてコンソールを殴りつける。

 Gハウンドが装備を全て失っていた事は向こうも分かっていた筈だ。

 それなのに止めを刺す事もなく母艦の方に戻ったと言う事はアンナは敵に見逃されたと言う事になる。

 始めからアンナの事は眼中になかったのか、殺す気がなかったのかは分からないが、敵に見逃されたと言う事実は屈辱以外の何物でもない。

 

「キャプテン、これ以上はこちらがやられます」

「全機を撤退させろ!」

 

 アンナは最後まで戦いたい衝動を抑えて指示を出す。

 奇襲でディーヴァのMS隊を足止めするのは良いが、時間が経てば足止めが目的と言う事もばれるだけではなく、押し返される危険性もある。

 報告によればガンダムは他に2機もいるのだから押し返されるのも無理はない。

 撤退命令を出したアンナもすぐにバロノークへと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 帰還して早々、アンナはパイロットの待機室に入るとヘルメットを床に叩き付ける。

 そして、鬱憤を晴らすかのように備え付けのベンチを蹴り飛ばす。

 明らかにキレている為、帰投したパイロットも待機室には入る事が出来ない。

 一頻り暴れたアンナはようやく落ち着きを取り戻して、パイロットスーツから着替えてブリッジに上がる。

 

「連中に動きは?」

「MSを帰投させた後にすぐに移動を始めましたな」

「当然の判断だな」

 

 艦長席に座りディーヴァの動向を確認する。

 ディーヴァはMSを全機帰投させてすぐにその場から離れている。

 海賊の襲撃を受けて動けない状況でもない限り動かないのはあり得ない為、ディーヴァが動くのも当然の判断だ。

 

「ブルーノ、連中を追えるよな」

「追えなくはないですが……」

 

 ブルーノは少し渋っている。

 追えるかと聞いた事はアンナは再びディーヴァに仕掛けるつもりがあると言う事だ。

 だが、先の戦闘でディーヴァ自体じゃ大した脅威ではないが、アデル・ガーディアはともかく3機のガンダムは厄介である事が分かっている。

 今回は奇襲作戦だったが、これでディーヴァの奇襲を警戒するだろう。

 

「今回のアタシらの撃墜されたMSはゼロだ。これがどういう意味は分かってるよな?」

「向こうはこちらを本気で相手にしていないと言う事ですな」

 

 戦闘をすれば一方的な戦闘ではない限りは戦死者が出る事は珍しくはない。

 パイロットは皆、それは覚悟している。

 しかし、今回の戦闘に置いて戦死者は誰もいない。

 帰投したMSの大半が損傷で戦闘不能になった機体が大半だ。

 つまり、ディーヴァのMSはビシディアンを本気で相手にしてはいないと言う事になる。

 

「ここまでコケにされて尻尾を巻いて逃げたらキャプテンアングラッゾやキャプテンアッシュに合わせる顔がねぇよ」

 

 アンナは相手に舐められたままで引き下がる事など出来はしなかった。

 だからこそ、追いかけて今度こそ確実に仕留める気だ。

 奇しくもアセムが敵を追い返して自分達の手には終えない大物だと見せつける事で無用な戦いを避けようとして撃墜は避けるように指示を出していたが、逆にアンナを焚き付ける結果となってしまった。

 

「でしたら、一度マッドーナ工房の方で体勢を整えた方が良いかと」

「確かにな。新しい武器も調達したいしな」

 

 どの道、再び仕掛けても勝てる見込みは少ない為、補給が必要であった。

 補給を行きつけのマッドーナ工房でしているうちにアンナの機嫌も直り、ディーヴァに再び仕掛ける気もなくなるかも知れないとブルーノは期待してマッドーナ工房に向かう事を進言した。

 だが、皮肉にもディーヴァの進路もまたマッドーナ工房に向けられている事はこの時のビシディアンに知る良しもなかった。

 

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