コロニー「レーアツァイト」がネオ・ヴェイガンの襲撃を受けて、ディーヴァを使って脱出してから1週間が経過していた。
地球連邦政府首都ブルーシアにて連邦議会は連日緊急会議が開かれている。
議題はレーアツァイトの襲撃の事だ。
すでにコロニーから避難して来た生徒や教師は連邦軍が保護している。
それによりレーアツァイトがネオ・ヴェイガンの襲撃を受けた事がようやく連邦政府の知るところとなった。
脱出艇に乗っていた生徒や教師の身元を確認し、レーアツァイトにいる筈であろう人物と照らし合わせている。
だが、そこでかなりの人数が脱出艇に乗っていない事が判明した。
事情聴取の結果、一部の生徒はディーヴァにて防衛行動を取り、そのまま行方知れずと言う事が分かった。
その中には政府に繋がりのある企業や政府や軍関係者の子息もいる事が判明している為、ディーヴァの消息について政府はすぐに軍に調査を命令してレーアツァイトの跡地を捜索したが、ディーヴァの行方に繋がる物はまるで何者かが意図的に消したかのように見つかる事は無かった。
「そもそも、軍の管轄外で新型のガンダムを作るからこのような事になったのではないですか!」
議員の一人がそう糾弾する。
その議員は穏健派に属する議員で強硬派が極秘裏に開発していた新型ガンダムの件を糾弾している。
だが、糾弾されている強硬派の代表格のオーギュスト・アルダンは大して気にしている様子もなく受け止めている。
「今話し合う事は責任の所在ではないのかな?」
「ですが!」
「アルダン議員の言う通りです。今、我々が話し合うべき議題はそんな事ではないでしょう」
「アスノ議員……ですが」
このままではオーギュストに食ってかかるだけで話しが進みそうにない事からキオが割って入る。
穏健派の代表格であるキオに言われてばその議員も黙るしかない。
「この案件に関しては軍に幅広く顔の効くアルダン議員に任せた方が良いと私は考えますがどうでしょう」
キオの言葉に穏健派だけではなく、強硬派の議員もざわつく。
確かにオーギュストは強硬派と言うだけに軍に顔が効く。
今回の案件では軍との連携が必要となって来る為、キオの意見は正しい。
だが、穏健派の代表格が対立している強硬派の代表格に任せると言うのはどちらから見てもキオの真意は分かり兼ねる。
「しかし、アスノ代表。強行派はネオ・ヴェイガンとの繋がりが噂されています。今回の一件も強硬派が仕組んだ事かも知れません」
「バカバカしい」
議員の一人が反論する。
強硬派とネオ・ヴェイガンとの繋がりの噂は暗黙の了解として議員の中でも知れ渡っている。
だが、誰がどの程度繋がっているのかは分からず本当に繋がっていると言う明確な物証もない。
「仮にそうだとしたら、強硬派の方々にはこの一件を収束する用意があると言う事になりますよね?」
キオの反論に議員は返す言葉もない。
この一件が強硬派による物であるのなら、強硬派は事態を解決して自分達の立場を上げる策を用意している事になる。
つまり、仕組まれていた場合も強硬派にはすぐに解決できる用意があると言う事になってしまう。
「今、私達がすべき事は行方不明となっているディーヴァの捜索と生徒や教師の安否の確認です。それはアルダン議員も分かっている事ですよね」
「当然だ」
言い切るオーギュストに穏健派の議員は疑惑の目を向ける。
「ですが、こちらの用件としては今回の一件は出来るだけ大事にしないで解決して欲しいです。もう、二度と戦争になる事だけは避けなければなりません」
「分かっている。我らとて戦争をしたい訳ではないからな」
キオの言葉に強硬派の議員だけではなく、穏健派の議員からも失笑している議員も出て来る。
その議員の大半はキオよりも年下の若い議員で戦争をしていた時の事は記憶に残っていない世代の議員だ。
それらの議員はネオ・ヴェイガンは単なる戦争に敗北した事を認める事が出来ずに悪あがきをしている程度の認識しかしていない。
だが、キオやオーギュストの認識では今のネオ・ヴェイガンもれっきとした軍隊だ。
数年前に現れたヴァニス・イゼルカントの娘を自称しているヴァレンティナによってまとめ上げられた軍で運用兵器も数は少なく旧式が殆どだが、軽視出来る相手ではない。
故に今回の一件も対処を間違えれば国民感情は反ヴェイガンに傾き、ようやく受け入れつつあるヴェイガンの生まれの人間やその血を引く者達への風当たりが強くなり、最悪再び戦争になる事もあり得る。
そういう意味では未だに地球とヴェイガンとの戦争は終わっていないのかも知れない。
そして、オーギュストとて戦争をしたい訳ではない。
強硬姿勢はあくまでもネオ・ヴェイガンの武力行使に屈しない為の策の一環でしかない。
その辺りはキオとも意見の一致はしている為、信頼は出来る。
双方の代表格の間でこの一件はオーギュストに一任すると言う事が決まった為、穏健派の議員も表だって意見する事は出来ずに会議は終わる。
会議が終了し、議員は各々会議室を出て行く。
会議室から出たオーギュストをマリィが待っていた。
マリィはアスノ家の中でも唯一、強行派についている。
強硬派と言っても単に技術者としてMS開発をアスノ家の資産ではなく公費から行えると言うだけで強硬派の言い分になと全く興味はない。
「会議の結果はどうでした?」
「おおむね予定通りだ」
キオの援護があった事は気に入らないが、会議では自分に今回の一件が任された事は会議が始まる前から予定していたことだ。
「それよりも新型機の方の配備はどうなってる」
「それは閣下のお力添えで何機かはロールアウトしてギルのところに配備が終えている筈です」
マリィは新型ガンダムとは別にオーギュストの後ろ盾の元にアデルに次ぐ次期主力MSの設計も任されていた。
その新型機の先行量産機がすでに完成していた。
「それで軍を動かすのであればうちのギルに任せるのは如何でしょう? 実力は保障できます」
「良かろう」
マリィとしては開発した新型機をぜひとも実戦で使ってデータが欲しいところだ。
今回の一件はネオ・ヴェイガンと交戦する絶好のチャンスと言える。
オーギュストとしても優秀な人材を投入できる事に越した事は無かった。
マリィは今回の一件に自身の開発した新型機が投入される事で気を良くしてさっさと議会から軍の施設の方に足場やに去って行き、オーギュストも指示を出す為に議会を後にした。
議会を終えたキオは廊下に出ると周囲に人がいない事を確認すると端末を取り出してどこかに連絡を取っていた。
会議では揉めない為にオーギュストに一任する方面の提案を出したが、念には念を入れて軍とは別ルートからディーヴァの行方を探ろうとしている。
「久しぶり。ウットビット」
「ほんとだよ」
キオが連絡を取っていたのはウットビットだった。
ウットビットは今は連邦軍を除隊している。
10年程前にウットビットの師であるロディが実家のマッドーナ工房の工房長になった時に引き抜かれている。
今ではロディの右腕としてマッドーナ工房で技術者をしている。
キオとウットビットは軍を止めても尚、公私に渡り親交は続いる。
プライベートでは友人関係が続いているが、マッドーナ工房はキオが進めている軍縮計画で職を失った連邦軍の技術者やパイロットの受け入れ先となって貰ってもいる。
「最近はいろいろとゴタゴタしてたからね。それよりもレーアツァイトの事は聞いてるよね」
「まぁな」
「その中でまだ安否の分かっていない生徒の中にうちのリックとウットビットのところのジン君もいる」
すでに安否不明の生徒や教師のリストは出来上がっている。
その中にはキオとウットビットの息子のリックとジンの名前も挙がっている。
「救助した人の証言だとディーヴァで脱出したみたいだけど、マッドーナ工房の方で行方を調べる事は出来ない?」
マッドーナ工房はその高い技術力から完全な中立を貫いている。
連邦軍に属した訳ではないが、連邦軍に技術者の派遣やMSの売買を行っている他に民間にも作業用のMSなどを売買している。
その為、マッドーナ工房も軍とは違う独自の情報網を持っている。
キオはその情報網で何か分からないかと期待してウットビットに連絡を取った。
「それには及ばないぜ。今、うちのドックで修理してるからな」
「本当? ウットビット」
「お前にこんな嘘をついても仕方がないだろ」
予想外の事態に流石のキオも動揺を隠せない。
ディーヴァが単独で行動しているのであればマッドーナ工房を利用する可能性が高いと言う事もウットビットに連絡を入れた理由の1つであったが、まさに今ディーヴァがマッドーナ工房にあると言う事までは考えてはいなかった。
「それでリックは無事なの?」
「一応はな……成り行きでガンダムのパイロットになっちまったみたいだがな」
「そう……」
リックが無事ではあったが、ガンダムのパイロットになっている為、素直に喜ぶ事は出来ない。
AGEデバイスを渡した時からリックがガンダムのパイロットになる可能性は考えていた。
だが、自分が戦争やテロを無くす事が出来ればリックがガンダムに乗る事がないと思っていた。
しかし、運命の悪戯かリックはガンダムのパイロットとなった。
もはやアスノ家の人間がガンダムのパイロットとなるのは一族の血の宿命なのかも知れない。
「そんなに心配すんなって、ディーヴァの指揮を執っているのはお前の親父さんだし、うちのジンに今ガンダムの整備を叩きこんでるところだ」
「父さんが……」
リックがガンダムのパイロットである事は不安ではあるが、アセムがいると言う事は唯一の救いだ。
アセムもリックがガンダムのパイロットになる事を全面的に歓迎はしていない筈だと思う為、リックに無理はさせないだろう。
「ウットビット、父さん達はディーヴァで一体何をするつもり?」
「悪いけどどこで聞かれてるから分からないからキオでもそれは言えない」
「分かった。そっちは任せた」
それだけ聞ければ十分であった。
キオとウットビットの会話は盗聴されている危険性がある以上、今は話せない。
そして、誰かに知られては不味い事をしようとしていると言う事にもなる。
それが何かは分からないが、アセムがディーヴァの指揮を執っている以上、悪巧みではないと信じる事が出来る。
ならば、下手に追及する必要もない。
「さて……」
ウットビットとの通信を終えたキオは一息つく。
リックがガンダムのパイロットになった事はともかく、アセムが居れば悪いようにはならないだろう。
そして、次の事を考える。
流石にディーヴァがマッドーナ工房にいると言う事はオーギュストに情報を流すのは得策ではない。
ディーヴァが単独で動くにしてもアセムが居ればマッドーナ工房を始め、アスノ家と繋がりを持つ場所は幾らでもある。
そこの協力があればキオが動かずとも何とかなるだろう。
問題はディーヴァが地上に下りて来た時の事だ。
地上にはアスノ家との繋がりを持つ工房などは殆どない。
もしも、地球に降下した場合ディーヴァは地球で孤立する危険性がある。
その為、キオがすべき事はディーヴァが地上に下りて来た時の対応をしておく事だ。
ふと、廊下の窓から外を見ると遠目で一つの銅像が見えた。
クライドが生きていた時にアスノ家の資産を使ってガンダムの姿を後世にまで伝える為に建てられたガンダム記念博物館の前にその銅像が建てられている。
天使の落日の日に生まれ戦争を終結に導いた英雄の像だ。
「フリット爺ちゃん。もう2度と戦争は繰り返させたりはしない」
キオは遠目に見えるフリットの銅像にそう言い、ある人物に連絡をした。
ビシディアンの襲撃を切り抜けたディーヴァは数日前にようやくマッドーナ工房に辿り付いた。
マッドーナ工房は依然は大型のファクトリーシップを工房にしていたが、今では小型のコロニーを買い取り移動型のコロニーへと改造してそこを根城にしている。
コロニーの内部には工房がいくつもあり、多くの技術者が日々仕事に励んでいた。
今、ディーヴァが収容されているドックは余り表沙汰に出来ない訳ありの客の船を収容する為のドックで他には船を収容されていない。
その為、ディーヴァがマッドーナ工房にいると言う事は工房内でも一部の人間しか知らない事だ。
「いきなり押しかけて悪かったな」
「気にしないでくれ。僕もディーヴァには思い入れがあるからね」
ドックを一望できる応接室で現工房長のロディとアセムは会っていた。
数日前に事前に連絡も無しに工房を訪れたディーヴァをロディは詳しい事情も聴かずにドックに収容し、事情を聴くよりも先にディーヴァの修理に入っていた。
「それと頼まれていた物の解析結果が出たよ」
「流石だ」
すでにクライドが残したEXA-DBに関するデータディスクはマッドーナ工房で解析に回していた。
それなりの時間は覚悟していたが、数日で解析を終えたと言うのは流石としか言いようはない。
「結論から言うとこのデータディスクにEXA-DBのデータは入ってなかった」
そこまではアセムも予測はしていた。
ロディはデータディスクを端末に入れて中身を表示する。
解析した時にセキュリティを解除した為、データディスクの中のデータはすぐに表示された。
「座標データか……ここにEXA-DBが?」
「それは行って見ないと何とも言えないね。ただ、これを残したのがあのクライドさんだと言う事を考えると一筋縄ではいかないと思うよ」
「覚悟の上さ」
データの中身はある宙域の座標データが記されているだけだ。
つまり、その場所にEXA-DBかそれの新たな手掛かりがあると言う事だ。
だが、データディスクを残したのがクライドだと言う事を考えるとそう簡単にEXA-DBを手に入れる事が出来るなどとは思っていない。
「この座標には何がある?」
「そう来ると思ってすでに調べて置いたよ」
ロディも座標データが出て来ると次は必然的に座標データの辺りに何があるかと言う事になる為、その前に座標を調べてあった。
「その座標の近くで怪しい場所はここしかないよ」
モニターの映像を切り替える。
そこには破壊されたコロニーの映像が映し出された。
「これは……」
アセムもそのコロニーの残骸に見覚えがある。
コロニーの名はエンジェル。
ヴェイガンが初めて地球圏で作戦行動を起こして破壊したコロニーだ。
「ここは以前にクライドさんが隠れ家にしていたコロニーだからね。EXA-DBを隠すか何かしらの仕掛けを残してあっても不思議じゃないね」
「確かに」
以前にクライドがすべての陣営のガンダムのパイロットをここに集めた事があった。
それはガンダム同士の戦闘データを集める為であったらしいが、過去にクライドがここを拠点の一つとして使っていた。
その為、エンジェルにEXA-DBを隠す事も不可能ではない。
EXA-DBがなくとも何かしらの手がかりが残されている可能性は十分に考えられる。
「次の目的地はエンジェルか」
「気を付けなよ。クライドさんの事だから何が出て来てもおかしくはない」
「分かってるさ。ディーヴァの補給と整備ができ次第、エンジェルに向かう」
エンジェルに向かえば何が出て来ても不思議ではない。
アセムもその事は十分に理解している。
それでもEXA-DBは破壊するにしろ、手に入れるにしろエンジェルに向かわなければいけない。
「工房長、少し良いですか?」
工房の技術者と思われる者が部屋に入って来る。
事前に人払いをしていた為、それを知っても尚ロディに伝えなければならない話しであったのかアセムには聞こえない耳元で用件を聞いたロディは少し険しい顔をする。
「何があった?」
「少し厄介な事になりそうだよ」
アセムもロディの様子から何か起きたと言う事は分かり尋ねる。
ロディは話しを切り上げてアセムもディーヴァへと戻る。
ディーヴァの格納庫では搭載機の整備や修理に整備班がマッドーナ工房の技術者の指導の元行っている。
整備班の大半は学生である為、今までは最低限の修理や整備しか出来なかったが、プロであるマッドーナ工房の技術者が指導をしながらと言う事で生徒達も勉強になっている。
「先生、あれが3号機の装備ですか?」
「そうよ。マリィさん好みの大火力のアームドキャノンとハイパーメガシグマシスバズーカよ」
3号機には今までは使えなかった専用の装備が取り付けられている。
両肩には機体と同じ程の全長の腕が取り付けられている。
それが3号機の火器の一つのアームドキャノンだ。
その名の通り腕を模して造られている火器で先端には拳が付いており指の部分にシグマシスキャノンが内蔵され、掌には高出力のビームシールド発生装置が内蔵されている為、火力だけではなく防御力の強化にもなっている。
もう一つの火器はこれもMSの全長程もある大型の兵器でハイパーメガシグマシスバズーカだ。
その長身から放たれる一撃は戦艦の主砲をも超える威力を持っている。
そのアームドキャノンとハイパーメガシグマシスバズーカを装備して3号機は初めて完成する。
「今は装備して機体の最終調整中でまだ使えないんだけどね」
今では専用の装備の完成を出来ない物と割り切って3号機は使っていた。
専用の装備を単に装備しても機体のシステムなどが装備に対応はしていない。
その為、3号機はハードとソフトの両方を調整しなければならない。
それでも今までに比べたらマッドーナ工房の技術者と設備が使えるのは大きい。
3号機の調整と並行してパイロット不在の1号機の方もシステムの調整が出来る程だ。
「だから何度言ったら分かるんだよ!」
「あっちもだいぶしごかれているわね」
格納庫に怒号が響き渡る。
その怒号の方にはリックのAGE-ZEROがハンガーに収容されている。
AGE-ZEROに取りついてジンがウットビットに怒鳴られていた。
いつまでも工房の技術者を滞在させる訳にもいかない為、整備班だけでガンダムの修理や整備を出来るようにしなくてはいけない。
工房の技術者が生徒を指導するのはそれが理由だ。
ジンはAGE-ZEROの担当を任されている。
そこでかつてガンダムの整備をしていた父親のウットビットが直接指導していた。
実の息子と言うだけあって情け容赦ない怒号とたまに鉄拳も飛んできている。
「分かってるって!」
「だったら文句を言ってないでやって見ろ!」
「放っておいて良いんですか?」
「あっちはウットビット君に任せておけば良いわ。こっちはこっちの仕事をしないとね」
ジンの方はウットビットに任せておけばいい。
キャロルから見てもジンは技術者としての才能はある。
AGE-ZEROのパイロットのリックとも仲がいい為、ジンはAGE-ZEROの整備担当にはクルーの誰よりも適任と言える。
ウットビットの指導は多少厳しいが、技術者の世界であればあの位は特別厳しいとは言えない。
キャロルも覚えがある。
技術者となる為に勉強を始めたころはいざ知らずある程度の知識と技術を習得し、本格的にフリットから指導を受けるようになってからは厳しかった。
だが、それは技術者はパイロットの命を預けるMSを整備をしている為、一切のミスが許されないからだ。
設計段階での血管や整備の時のねじ1本の緩みが必ず大事故に繋がるとは限らない。
しかし、1つのミスがパイロットを死なせるだけではなく、大勢の命を失わせるきっかけになるかも知れない。
そうならない為にも、厳しい指導は必要だと今なら理解できる。
容赦なく怒鳴られるジンには悪いが、それも将来的には必要な事だと割り切り、キャロルも3号機の調整の指示を出す。
ディーヴァで作業が続けられている頃、リックとエイミーはコロニー内にいた。
脱出してからまともに休む時間もなかった事もあり、リックとエイミーはコロニー内で休むように言われていた。
コロニーの中は基本的にマッドーナ工房の製造ラインや開発局ではあるが、居住エリアや商業も存在している。
居住エリアは工房の技術者の家やホテル類が集まっている。
商業エリアではまるで市場のように戦闘用から競技用、作業用と言ったMSの部品を取り扱う店が出ている。
その大半は戦場跡で回収したジャンクパーツが殆どで修理の必要がある物や欠陥品が混ざっている可能性もあるが安価で買える。
「凄いね」
「そうね」
活気の溢れる市場にリックは少し目が輝いているが、一方のエイミーは余り楽しそうではない。
リックは元々は技術者志望であった為、このような場所でも十分に楽しめるがエイミーは余りMSのパーツには興味はないようだ。
「見てよ。エイミー、これ壊れてるけど今は製造されていない部品だよ」
「おっ分かるのかい? 兄ちゃん」
「はい! これって国家間戦争時の確か……ジラの駆動系に使われていた奴ですよね。これの方がゼノに使われていた奴よりもパワーがあるんですよね?」
「良く知ってんな。尤も、今じゃ古くて珍しいだけで工房や連邦軍で開発された物の方が性能は良いんだけどな」
「じゃあ、そっちの方が良いじゃん」
エイミーはぼそりと零す。
リックは見ている部品はかつてコロニー国家間戦争時に使われて、過去にはザラムでも使われていたジラの駆動系に使われていた部品だ。
当時はこれを使っている為、ジラはゼノよりもパワーがあった。
しかし、今ではMSの開発技術が進み、この部品は単に古いだけの部品でコレクション以外に大した価値はない。
「それに無駄に高いって。何でこんなにする訳?」
部品に付けられている値札は作業用MS1機の値段よりかは安いがハーツ1つの値段と考えると高価だった。
「この部品は今は製造されてないんだよ。だから戦場とかで廃棄されたジラを回収して取り出すしかないんだ。そのジラも今は使われてないからね。流通され難いからこの値段はむしろ安いくらいだよ!」
「ふーん」
興奮気味のリックにエイミーは軽く引きながら適当に相槌をする。
すでにパーツの生産は終わっている為、すでに作られたパーツしか存在せず、ジラも性能的に民間でも使っているところはまずない。
そのような事情もありこのパーツは一般には流通される事はない。
エイミーのように興味のない人間からすればガラクタも同然のパーツもMSのコレクターからすればお宝である。
「兄ちゃん、買ってくか?」
「えっと……流石にこの値段は……」
安いと言っても学生であるリックにはとても手が出せる値段ではない。
それにこの先の事を考えれば無駄遣いはするなとも言われている。
仕方がなくパーツを諦めて店を後にしようとすると、リックは人とぶつかる。
「ごめんなさい」
「おいおい。坊主、それが人にぶつかった奴の態度か?」
ぶつかった相手は体格も良く、明らかに堅気の人間には見えなかった。
マッドーナ工房は基本的にネオ・ヴェイガンのような明らかに連邦政府に敵対している者でなければコロニー内に入る事は出来る。
必然的に柄の悪い連中も少なくはない。
特に居住エリアはお世辞にも治安が良いとは言えない。
その対処に為に工房からコロニー内でのMSの使用は工房側以外は禁止し、それを破れば工房が雇った軍備縮小で職をあぶれた元連邦軍のパイロットによって制圧され、MSや船を押収して連邦軍に突き出される仕組みになっている為、コロニー内でMSを使っての揉め事はない。
それでも気性の荒い者達はMSではなく、生身での喧嘩は絶えない。
「おい。ガキ相手に何やってんだ?」
「あ? お前……ビシディアンの!」
柄の悪い男は横やりを入れられて少しイラつくが声の主を知ると明らかに真っ青になる。
その相手は数日前から工房に来ていたビシディアンの現キャプテンのアンナだ。
男がどこの誰かは分からないが、ビシディアンを相手にするのがどれ程危険な事は理解はしていたようだ。
「真昼間からアタシの真ん前でつまんねぇ事、してんじゃねぇよ」
アンナが男に睨みを利かせると男は一目散に逃げ出して人ごみに紛れた。
「ちっ……」
「あの、助かりました」
「別にお前を助けた訳じゃねぇよ。自分達よりも弱い奴しか狙えない奴が弱いもの苛めをすんのが気にいらないだけだ。それにここはお前みたいな坊やが来るところじゃねぇよ。さっさと帰んな」
「ちょっと!」
アンナはぶっきらぼうにそう言うが、今度はエイミーがアンナに食ってかかる。
「助けて貰った事には礼を言いますけど、その態度は無いんじゃないんですか!」
「うっせぇよ。アタシは事実を言ったまでだ。彼氏を馬鹿にされたくらいで騒ぐな」
「リックはそんなじゃないわ! それにリックはガ……」
「エイミー! ストップ!」
先程までの鬱憤を晴らすかのようにヒートアップするエイミーをリックは止める。
リックを弱い者と見ていたアンナに対してエイミーはリックがガンダムのパイロットである事を暴露しそうになったからだ。
商業エリアに行く前にアセムから決してリックがガンダムのパイロットである事を知られないようにと言われていた。
ガンダムは非常に価値のあるMSでビシディアンだけではなく、ガンダムを欲する陣営は幾らでもある。
もしも、リックがガンダムのパイロットだと知れるとその身に危険が降りかかる可能性は格段に上がる。
ガンダムに乗ればエース級の活躍をするリックもMSを降りればただの少年でしかない。
「それじゃ僕達はこれで!」
「リック! まだ言いたい事が!」
このままではエイミーも収まりが付かないと判断したリックはエイミーの手を掴んで走り去る。
商業エリアの外れまで来たところでエイミーはリックの手を振りほどく。
無理やり連れて来たせいでエイミーの怒りは収まらずに今度はリックの方に向いている。
「何で言い返さないのよ! リックは弱くないじゃない!」
「騒ぎは起こすなって言われてるし……」
「だからって!」
エイミーも無用な騒ぎを起こす事が危険であると分かってはいる。
だが、アンナにリックが弱い者と見られた事が許せない。
それと同じくらい、弱い者と言われても気にする事のないリックにも腹を立てている。
「それに僕は強く見られたい訳じゃないよ。強く見られても強くなかったら意味はないからね」
「それはまぁ……そうだけど」
リックの言いたい事も分かるし、リックは自分で自分の強さをアピールするタイプでない事もだ。
それでもリックを馬鹿にされた怒りは消える事はない。
やり場のない怒りをエイミーはその場で地団駄を踏みそうであった。
「でも、ありがとう。僕の為に怒ってくれて」
リックにそう言われると今までの怒りは嘘のように消えていく。
それと同時にリックを馬鹿にされてあそこまで怒っていた事に物凄く恥ずかしくなる。
「まぁ……友達だし」
エイミーは恥ずかしさを誤魔化すようにそっぽを向いてそう言う。
エイミーは恥ずかしさから何も言えず、会話が途切れるとリックの持っていたAGEデバイスにディーヴァから通信が入る。
「分かりました。すぐに戻ります」
「何かあったの?」
「すぐに戻って来いって」
通信の内容は単純ですぐにディーヴァに戻れと言う事だ。
事前に言われていた時間までには十分に余裕がある為、何か起きたと言う事だ。
リックとエイミーはすぐにディーヴァへと戻って行く。
商業エリアからリックとエイミーはディーヴァに戻る。
戻ってすぐに2人は工房にしてすぐに採寸を取って発注した専用のパイロットスーツを渡された。
リックの物もエイミーの物も特注でそれぞれ、リックが白でエイミーは青と自信の搭乗機と同じ色を基調にしてて共通のデザインで作られている。
2人はすぐにパイロットスーツに着替えて格納庫に入る。
「何があったんですか?」
「何でも軍の方が工房の方に何か言って来てるみたい」
「軍って……連邦軍がですか?」
「そうみたい。場合によっては貴方達にも出て貰うかも知れないからガンダムで待機していて貰える」
現在、マッドーナ工房に対して連邦軍から送られて来た部隊が何か言って来ているらしい。
その結果によっては連邦軍と戦う可能性もある。
そうなった場合の為にリックとエイミーを呼び戻してガンダムにて待機させる。
「分かりました」
リックもエイミーも状況を完全につかめてはいないが言われた通りにガンダムにて待機する。
ディーヴァのブリッジでもすぐにでも出航が出来る準備を進めている。
すでにディーヴァの修理はある程度終わっている為、強襲揚陸形態には変形出来ないが、通常形態では全ての機能が回復している。
「艦長! 連邦軍の戦艦よりMSの発進を確認!」
「交渉は決裂か……工房側に通信を繋いでくれ」
攻防の外に停泊している連邦軍の戦艦からMSが射出されたと言う事は工房との交渉が決裂したと言う事だ。
すぐに状況を把握する為に工房側に通信を繋がせる。
通信はすぐに繋がり、ロディが通信に出る。
「済まない。連中は始めからここにディーヴァがいると言う事を分かっていたようだ。強硬策には出ないと高をくくっていたんだけどね。少し甘かったようだ」
「つまり、連中の狙いはこっちと言う事か」
「ああ、それに彼らは粛清委員会のようだよ」
「粛清委員会……ギルバートか、厄介な奴を使って来たな」
軍の目的は工房に停泊中のディーヴァと搭載機の引き渡し要求であった。
マッドーナ工房は中立である為、軍でもそう簡単に入港は出来ない。
工房の技術は連邦政府としても必要である為、強引な策は取れないと考えて知らぬ存ぜぬで通そうとしたが強行策に出て来た。
これで工房にディーヴァがいなければ大問題となっていたが、恐らくは向こうも知った上での行動であるだろう。
粛清委員会はかつて、フリットが敵を通じていたオルフェノアを糾弾した後に軍や政府の中でもヴェイガンとの繋がりを持った者達を粛清する為に組織された。
フリットが軍を退役後は一気に求心力を失い、フリットが和平路線へ変わった事やヴェイガンとの和平が正式に成立し始めた頃からその存在は小さくなって行った。
今は強硬派の元で内部にいると思われるネオ・ヴェイガンに通じている者の捜索と粛清を任務としているはずだ。
そして、今の粛清委員会の前線司令官はギルバート・ガレット少佐。
スラッシュの息子にしてゼハートの孫に当たる。
アセムも何度か面識はあり、パイロットとしては非常に優秀であると聞いている。
ギルバートが来ていると言うのであれば、外の母艦はゼハートも使っていたファ・ザードであるだろう。
相手の司令官が顔見知りであるなら、情に訴えると言う事も可能だが、ギルバートは良くも悪くも祖父であるゼハートに似て融通の利かない性格であった。
その為、上層部からの指示であるならギルバートは任務に私情を挟むと言う事は無いだろう。
「ロディ、ギルバートと話しがしたい。向こうに通信を繋げるようにして欲しい」
「幾らアセムが話しても部隊を引かせてくれるとは思えないけどね」
「分かってるさ」
部隊を引く事は無くとも、話しの中から向こうの狙いを探ると言う事も出来る。
工房を経由してディーヴァとファ・ザードとの通信が繋がれる。
「こちらはディーヴァ艦長のアセム・アスノだ。久しぶりだな。ギルバート」
「ええ、お久しぶりです」
モニターにギルバートが映される。
どことなくゼハートの面影を残している青年だが、その表情は険しい。
「ディーヴァが目的と聞いている?」
「その通りです。ディーヴァはともかく、搭載しているガンダムは連邦軍の機体だ。私的な使用は許可されていない。速やかに武装を解除して投降して貰いたい」
向こうの目的はあくまでも新型のガンダムであってアセム達が握っているEXA-DBの情報まではまだ知れ渡ってはいないらしい。
「俺達にはやらないといけない事があるんでな。その為にガンダムは必要だ」
「それは連邦軍に戻っては出来ない事なのですか?」
「そうだ」
連邦軍に戻ってもEXA-DBの捜索は可能だろう。
その方が確実に手に入れる事は可能だ。
だが、問題はその後だ。
EXA-DBを手に入れた後で連邦軍がどのようにEXA-DBの中のデータを使うかが問題となる。
あくまでも近年研究が余り進んでいないマーズレイの無効化に使えるかを探るのではなく、軍備増強の為に使われる危険性もある。
EXA-DBの使い方で内部抗争に発展する事すらも考えられる。
それを防ぐ為には一部の人間だけで捜索してEXA-DBの存在を秘匿して使うか、破壊するかでなければならない。
「だが、俺達の行いは人類や地球圏、火星圏の未来の為に繋がっているとは断言できる」
「そんな根拠のない言葉を私に信用して部隊を引けと言うのですか?」
「無理だよな」
アセムの言葉には決定的に根拠に欠けている。
その根拠を話す事が出来ない以上はギルバートにアセムの話しを信じらせるのは無理は話しだ。
「だから、俺が撤退する理由くらいは作ってやる」
アセムは通信を切ると待機させておいたリックとエイミーに出撃命令を下した。
アセムの指示でリックとエイミーのガンダムがカタパルトに移動される。
今回、3号機は装備の調整が間に合わず装備を外す訳にはいかない為、出撃が出来ない。
AGE-ZEROと2号機がカタパルトにセットされるとAGE-ZEROに通信が入る。
「リック、久しぶりだな。俺の事は覚えているか?」
「ジンのお父さんですよね」
「そうだ。お前のガンダムのリミッターを解除してある。機動性能は今まで以上に出せるから注意しろよ。それとバーストモードも使えるようにしておいた。使いどころを間違えると大変な事になる。詳しい説明は後でジンにさせるから今回の戦闘では使うなよ」
「分かりました」
今までAGE-ZEROのスラスターにはリミッターがかけられていた。
それはフルパワーで使えばパイロットにかかる負担が大きいからだ。
今まではリックの背丈にあうパイロットスーツが無かった為、制服で乗っていたが今回からは専用のパイロットスーツを着用している。
リックとエイミーが着ているパイロットスーツはただのパイロットスーツではない。
クライドがガンダムZERO Z用に設計したパイロットスーツをベースにしている為、一般的なパイロットスーツよりも対G性能が高い。
その為、リミッターを解除してもパイロットへの負担は今までと大して変わらない。
そして、もう一つのリミッターを解除した事でAGE-ZEROはバーストモードを使う事が可能となった。
AGE-FXから実装されたバーストモードはAGE-ZEROにも搭載されている。
FXのバーストモードは余剰エネルギーを放出しつつ機体性能を格段に上げたが、AGE-ZEROのバーストモードは少し違った。
諸事情から今まで使えなかったバーストモードを使えるようにはなったが、AGE-ZEROのバーストモードは上手く使えば敵に対して圧倒的に優位に立つ事が出来るが。使い方を間違えれば、仲間を危機に晒してしまう諸刃の剣であった。
「リック・アスノ。ガンダム、行きます!」
2機のガンダムがディーヴァより出撃し、すでに戦闘が開始されているコロニーの外へと向かう。
コロニーの外では工房の警備部隊と粛清委員会のMSが交戦している。
工房側のMSはシャルドール改をベースに独自に改造したMS、シャルドールSだ。
右手にはビームマシンガンを装備し、左腕にはシールド、腰にはアンカーショットと攻撃力よりも取り回しや敵MSの無効化を重視した装備を持っている。
対する粛清委員会のMSはマリィが開発したジェネシスだ。
ジェネシスは一見するとジェノアスに見える。
それは開発時に連邦軍が初めて実戦投入したMSであるジェノアスの流れを汲むMSにするように軍の方から指示が出ていた。
外見がジェノアスに似ているのはその為だ。
しかし、外見に反して中身はジェノアスの流れを全くと言って良い程汲んではいない。
頭部のメインカメラはバイザーの下にはヴェイガン系のスリット状のセンサーとなっており小型のビームバルカンを2門搭載されている。
左腕の小型シールドにはビームアックス、バックパックにはビームサーベルが2基、右手にはドッズライフル、肩には5連装カーフミサイル、腰に2連装ビームガンなどジェノアス系の装備は殆ど採用されていない。
その他にも機体の基本設計はアスノ家のガンダムの流れを汲んでおり、スラスター系はGエグゼスの流れを汲むなどジェノアス系であるのは外見だけだ。
「敵はジェノアス? でも速い!」
「ちょっと! ジェノアスの癖に!」
ジェネシスはジェノアス系のMSとは思えない動きでシャルドールSを翻弄している。
向こうも必要以上にマッドーナ工房を敵に回したくはないのか、撃墜はせずに戦闘不能に追い込むだけだ。
「この!」
2号機はドッズライフルを放つもジェネシスは回避してドッズライフルで反撃する。
2号機はシザーシールドで受け止めてAGE-ZEROは回避する。
「僕たちも協力します!」
「助かる! こいつらただのジェノアスじゃない!」
シャルドールSがビームマシンガンを連射するが、ジェネシスには当たらない。
AGE-ZEROがDCドッズライフルを放つ。
ジェネシスは回避しようとするも、足に被弾してバランスを崩す。
「当たった。海賊よりかは狙い易い」
AGE-ZEROはDCドッズライフルを放ち、ジェネシスの左腕をシールドごと吹き飛ばす。
前回の戦闘に比べるとジェネシスの動きは読み易い。
前回のGハウンドは機動力は高いが普通に狙えば当ててしまうのに対してジェネシスのパイロットは精鋭揃いである為、普通に撃っても被弾させるのが精一杯だ。
動きが良い分、タイミングをずらす必要も無い為、リックからすれば戦いやすい相手だ。
ジェネシスの放ったミサイルをビームバルカンで迎撃してビームブレードで右腕を切り捨てて蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたジェネシスにシャルドールSがビームマシンガンで攻撃し、ジェネシスはシールドで守りながら後退して行く。
2機のガンダムの参戦で戦局は動いていた。
当初は機体性能とパイロットの練度で勝る粛清委員会の方が優勢であったが、2機のガンダムの存在は大きい。
エイミーの2号機はジェネシスに苦戦しているがシャルドールSのように被弾して損傷をしない為、戦線の維持は出来ている。
リックのAGE-ZEROはジェネシスを相手に互角以上に戦えている。
「少佐。2号機とデータにないガンダムが……」
「分かっている。ローザの隊を先行させろ。私も出る」
ギルバートはブリッジクルーに指示を出して格納庫へと向かう。
ギルバートが格納庫に到着する頃には増援部隊が出撃している。
格納庫にはギルバートの専用機だけしか残されはいない。
ガンダムAGE-Ⅵ 4号機だ。
4号機は機体全体が赤く塗装されている。
FXをベースにしてXラウンダー用のMSとして開発されている。
右手にスラングルライフルに両腕にはビームシールド発生装置と内蔵式ビームサーベルが搭載されている。
腰には2分割してあるビームランス、機体の装甲の一部には胞子ビットの発生装置が内蔵されている。
バックパックの高出力の光波推進システムによりMS形態の2号機とほぼ互角の機動力を確保している。
7機のゼクスシリーズの中でギルバート専用機として最優先で開発された4号機は7機のゼクスシリーズでも総合性能では最強の機体となっている。
「ギルバート・ガレット。ガンダム、出るぞ」
4号機がファ・ザードから出撃してAGE-ZEROの方へと向かう。
先行して出撃したローザの隊はAGE-ZEROと交戦を開始していた。
「違う奴……隊長機!」
ローザ・ベンジャミンのジェネシスは一般機ではなく指揮官用のジェネシス・カスタムだ。
一般機はピンクと白のツートンカラーではあるが、ジェネシス・カスタムは青と白のツートンで塗装されている。
頭部には通信機能を向上させるブレードアンテナが追加され、バックパックはテールバインダーに換装され機動力が向上し、装備はドッズライフルからハイパードッズライフルに変更されて火力が増して、機体の全体に追加装甲で防御力も向上しているなど総合的に機体性能が向上している。
「各機、ガンダムを包囲し動きを止める。撃墜する必要はない。少佐が来るまでの時間を稼げれば良い」
ジェネシス・カスタムはハイパードッズライフルを放ち、AGE-ZEROは回避してDCドッズライフルで反撃する。
ジェネシス・カスタムは回避して、2機のジェネシスがAGE-ZEROの左右からビームサーベルを抜いて接近する。
左右からの同時攻撃を右側はビームシールドで左側はビームブレードで受け止める。
「やれ!」
AGE-ZEROの動きを止めたところで別のジェネシスがビームサーベルでAGE-ZEROに切りかかる。
だが、2号機がドッズライフルで牽制し、ビームサーベルで右のジェネシスの腕を切り落とすとAGE-ZEROが左のジェネシスを弾き飛ばして正面のジェネシスをビームバルカンで攻撃する。
「2号機か!」
「助かったよ。エイミー」
「言ったでしょ。リックは私が守るって」
2号機はドッズライフルを連射して2機のジェネシスを攻撃し、ジェネシスが回避している間にAGE-ZEROはジェネシスカスタムに向かう。
AGE-ZEROはビームブレードを振るいジェネシス・カスタムは回避してハイパードッズライフルを放つ。
それをAGE-ZEROはビームシールドで防ぐ。
「この感じ……アレのパイロットは女の人!」
AGE-ZEROはジェネシス・カスタムのハイパードッズライフルをビームシールドで受けながら接近してビームブレードでハイパードッズライフルを切り裂いて破壊する。
「まだ!」
ジェネシス・カスタムはシールドのビームアックスを抜くが、AGE-ZEROはビームダガーを投擲してジェネシス・カスタムの左腕にシールドを貫通して突き刺さる。
「くっ!」
すぐに左腕をパージするが、その間にAGE-ZEROの接近を許してしまう。
ビームアックスを振り上げるが。振り下ろすよりも先にビームブレードでジェネシス・カスタムの右腕を切断した。
「もう止めて下さい!」
「何!」
「貴女では僕には勝てません! 撤退して下さい!」
「馬鹿にして!」
ジェネシス・カスタムは腰の2連装ビームガンを放つが、AGE-ZEROは簡単にビームシールドで弾きDCドッズライフルを向ける。
「だったら!」
リックはジェネシス・カスタムの下半身を吹き飛ばして撤退させようとするが、AGE-ZEROの周囲に胞子ビットが展開していた。
胞子ビットは一斉にAGE-ZEROに襲い掛かる。
ビームバルカンとビームシールドで全方位からの胞子ビットの攻撃に対処しながらジェネシス・カスタムから距離を取る。
「援軍!」
「少佐!」
「ローザは下がれ。後は私がやる」
4号機は左腕にビームサーベルを展開してAGE-ZEROに切りかかり、AGE-ZEROはビームブレードを装甲から展開して受け止める。
「赤いガンダム!」
「データに無いガンダム……お前はここで仕留めさせて貰う!」
AGE-ZEROと4号機は距離を取り4号機はスタングルライフルを放ち、AGE-ZEROは回避してDCドッズライフルで反撃する。
4号機はスタングルライフルを腰につけるとビームランスを構える。
胞子ビットを展開しながら、4号機はAGE-ZEROに突撃する。
AGE-ZEROはDCドッズライフルで迎え撃つ。
だが、4号機は攻撃を回避してビームランスを振るう。
回避して距離を取ろうとするが、胞子ビットが襲い掛かる。
「強い!」
胞子ビットをビームバルカンとビームシールドで防ぎ、DCドッズライフルを放つも4号機には掠りもしない。
4号機の機動性能は2号機と大して変わらない。
それでもエイミーの直線的で勢い任せの動きとはまるで違い、緩急をつけた動きはXラウンダー能力で先読みしても向こうも同じように先読みをしているのか読み切る事は難しい。
「なら!」
AGE-ZEROはビームブレードを抜いて4号機を追いかける。
距離を取っての攻撃が当たらないのであれば接近戦に切り替えるだけだ。
「接近戦なら私と戦えると言う判断か。正しい判断だ。しかし!」
接近するAGE-ZEROを4号機はビームランスで迎え撃つ。
2機のガンダムはぶつかり合うがすぐに離れる。
4号機は胞子ビットを使いAGE-ZEROを追撃するが、AGE-ZEROはビームバルカンで胞子ビットを撃ち落し、撃ち落とし切れない物はビームブレードで切り裂く。
「このままじゃ……」
「余り時間はかけられないが……」
どちらも決定的な攻撃を与える事が出来ずにいる為、少し焦りが見えつつある。
リックは単にこのまま戦闘が長引けば不利になりかねないと言う事で、ギルバートは時間をかければ数で勝る工房側の方が有利になると言う事でだ。
「アレを使うしか……」
リックは戦闘の前にウットビットから聞かされたバーストモードの事を思い出す。
バーストモードは使い方を間違えれば大変な事になると言われている。
だが、それを裏返せば使い方さえ間違わなければ切り札となり得ると言う事にもなる。
「でも……」
しかし、バーストモードを使えばどうなるか分からない為、もしも、今使う事で使い方を間違えてしまうと言い事になった時にどうなるかも分からない。
それがリックがバーストモードを使う事を躊躇わせる。
その迷いが操縦に出てしまい、AGE-ZEROは弾き飛ばされる。
「しまっ!」
「仕留める!」
体勢を崩したAGE-ZEROに止めを刺すべく、4号機は突撃するが2号機の横やりが入る。
「ちぃ! 2号機か!」
4号機はビームシールドを展開しながら後退する。
「少佐、こちらの損耗が激しくこれ以上の戦闘は……」
「時間をかけ過ぎたか……」
すでに戦局の流れは完全に工房に向いている。
2機のガンダムが出て来た時点で流れは変わっていた。
「これ以上の戦闘は無意味だ。MS隊には帰投命令を出せ。MS隊を回収後、一度後退する」
「了解です。少佐」
「友軍機に助けられたな」
ファ・ザードにMS隊の帰投命令を出すと4号機もファ・ザードへと撤退して行く。
「撤退?」
「みたいだね」
4号機が撤退し、他のMSも後退して行き油断は出来ないが敵が撤退した事で一息はつける。
「エイミー、また助けられたね」
「まぁね。言ったでしょ。リックは私が守るって」
「うん」
「MS各機は工房まで帰投するように。尚、動けないMSの回収もされたし」
粛清委員会のMS隊が完全にファ・ザードまで後退し、ファ・ザードも工房から離れて行く事を確認したところですぐに攻めて来る事は無いと判断され、工房からも帰投命令が下された。
「帰ろう。エイミー」
「そうね。流石に今回は疲れたわ」
工房のMSもゆっくりと後退を始めた事でリックとエイミーもディーヴァに帰投した。