機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第128話

 

 EXA-DBの手がかりを求めてコロニーエンジェルまで来たディーヴァだが、エンジェルから大量に出て来たシド・スレイヴにより退避を余儀なくされた。

 ある程度距離を取ればシド・スレイヴは追撃はして来ない為、今は安全圏まで退避している。

 シド・スレイヴの数は多く軽く1000機は超えていると予測されている。

 本来ならば、マッドーナ工房まで戻り体勢を立て直して対策を用意した上で再びエンジェルに接近すべきではあるが、大きな問題があった。

 新生ビシディアンのMSと交戦していたリックがエンジェルに退避して現在は連絡が取れない状態となっているからだ。

 リックの状況が分からない以上、マッドーナ工房まで戻っている時間は無い。

 その為、ディーヴァは安全圏でエンジェルを監視して対策を検討していた。

 

「現在、エンジェルの付近に展開している小型のシドの数は不明ですが、一定の距離から離れる事はないですね」

「ネオ・ヴェイガン、ビシディアン、連邦の母艦の動きはどうなっている?」

「ネオ・ヴェイガンはすでに捕捉出来ないところまで離れています。連邦軍はかろうじて捕捉できます。ビシディアンは大して離れてはいません」

 

 シド・スレイヴの動きだけではなく、他の陣営の動きも重要だ。

 動きによっては邪魔になるのか、利用できるのかも対策に練り込む必要があるからだ。

 

「ネオ・ヴェイガンは完全に無視するつもりか……連邦軍がどう出るかは分からんがビシディアンは無視はしないと言ったところか……」

 

 各母艦の動きと位置からアセムはそう判断する。

 ネオ・ヴェイガンはディーヴァのセンサー範囲外と言う事はシド・スレイヴに関しては無視を決め込んでいるのだろう。

 連邦軍の母艦の位置はこちらからギリギリ捕捉できる距離で向こうも同じだろう。

 つまり、場合によっては動きはあるが、今すぐに動くと言う事は無いと言う事になる。

 ビシディアンの母艦とは距離は離れてはいない。

 恐らくはビシディアンも安全圏まで退避しているのだろう。

 この距離で向こうが仕掛けて来ないと言う事はこちらよりもシド・スレイヴの方を相手にすると言う事になる。

 

「連中の1機がリックと交戦していた事を考えるとリックと同様にエンジェルに退避している可能性があるな」

 

 シド・スレイヴが出て来るまでにリックはビシディアンのMSと交戦していた。

 あの状況でリックと共にエンジェルに退避しているとしたら、ビシディアンがここに留まっている理由も説明が付く。

 流石に1機と言えども仲間を見捨てる事は出来ないのは当然の事だ。

 

「動かない事を考えると連中も手をあぐねていると言う事か……」

 

 ビシディアンの母艦であるバロノークは動く気配はない。

 そこから読み取れる事はビシディアンもまたシド・スレイヴを突破して友軍機を回収する方法が無い為、手を出す事が出来ないと言う事だ。

 

「となれば、利害は一致するな」

「艦長?」

「すぐにビシディアンの母艦に連絡を取ってくれ」

 

 向こうも仲間の救出をしなければならない。

 それはこちらも同じで互いに別に動くよりかは協力をした方が確立は上がる。

 ビシディアンは未だにディーヴァを諦めた訳ではないが、仲間の命と天秤にかけた場合仲間の命を取るだろう。

 アセムはビシディアンと共闘する事を考えていた。

 少なくとも向こうは乱戦に慣れている。

 こちらもガンダムを2機投入できる。

 ビシディアンとしてもガンダムが2機あるのは心強いだろう。

 ビシディアン側にもメリットがある以上は共闘の申し出を断る事は無いだろう。

 もしも断って来た時は余り気は進まないが、自分が元ビシディアンのキャプテンであると言う事を明かせば協力を断ると言う事は無いはずだ。

 すぐにディーヴァからバロノークへと通信が送られて接触を試みる。

 ディーヴァからの通信を受けたビシディアンはすぐにディーヴァと合流する事となる。

 多少のトラブルは覚悟していたが、問題なくバロノークはディーヴァの横についている。

 バロノークからはキャプテンが不在である為、ブルーノが一人でディーヴァに乗艦している。

 

「ディーヴァ艦長のアセム・アスノだ」

「アセム・アスノ……まさか、こんなところでお会いできるとは光栄です。現在のビシディアンのキャプテンの補佐をしているブルーノです」

 

 ブルーノは再結成の時からのメンバーであるある為、キャプテンアッシュがアセムであると言う事を知っている。

 そのアセムがディーヴァの艦長になっている事に驚いている。

 

「キャプテンは?」

「申し訳ない。キャプテンはガンダムへの雪辱に躍起になって行方不明となっています」

「そうか。うちのガンダムと交戦していたMSならば恐らくはエンジェルの内部に退避していると思われる」

 

 バロノークの方では距離があった為、アンナのGハウンドの位置を正確に捕捉出来ていなかった事もあり、シド・スレイヴの横やりで位置を見失っていた。

 生死が分からない以上は見捨てる訳も行かずに安全圏で動けなかったと言う事らしい。

 

「こちらのガンダムも1機がエンジェルの内部にいる。恐らくは行動を共にしていると思われる」

「分かりました。それで我々は何をすればよいので?」

「話しが早くて助かる」

 

 ブルーノもアセムがビシディアンに接触した理由は共闘であると気付いている。

 相手が良く知らない相手なら信用出来るか、考える必要がったが良くは知らないがあのキャプテンアッシュであればある程度の信用は出来る。

 その為、今は共闘の申し出を受けるしかない。

 ビシディアンだけでシド・スレイヴをどうこう出来る筈もなくガンダムの力は非常に魅力的だ。

 ブルーノが共闘を受け入れてリックとアンナを回収する為の作戦を練り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エンジェルの外で2人の救出作戦が建てられている頃、リックはアンナと共にコールドスリープで寝ていた少女を対面していた。

 一糸纏わぬ少女にリックは視界を泳がせて対応に困っていた。

 アンナの方に視線で助けと求めるもアンナは何やらコールドスリープ装置の周りを漁っていてリックの視線には気づく事はない。

 

「御機嫌よう。わたくしはエリスと申します。貴方はどちら様ですか?」

「えっ…と……」

 

 少女……エリスは笑みを浮かべてそう言うがリックは少し気が動転している。

 リックも年頃の少年だ、目の前に異性が裸でいるのに意識しない訳もない。

 

「嬢ちゃん。そいつはリックでアタシはアンナ。でだ、こんなもんを見つけたんだ。流石にその恰好はお坊ちゃんには刺激が強すぎる」

 

 先ほどまで何かを漁っていたアンナが白い布のような物を持ってリックに助け舟を出す。

 アンナはコールドスリープ装置の周辺を漁り少女の為に用意していたと思われる下着の一式と白いワンピースを見つけて持って来ていた。

 

「まぁ……わたくしったらはしたない恰好を……」

 

 エリスはようやく自分の恰好に気が付いたのか腕で胸元を隠してアンナから下着とワンピースを受け取る。

 リックはすぐに後ろを向いてエリスは着替え始める。

 

(これは一体、どういう状況だ? 私は確か……キオと共に地球を救ってベストのタイミングで恰好良く逝った筈だが……)

 

 エリスは着替えながら周囲の状況を把握しようとする。

 コールドスリープで寝ていた少女こそ、25年前に行方不明となり死んだとされていたエリス・アスノ本人だった。

 エリスは25年前の戦いでモードZEROの反動などで体を酷使し、最後にはキオと共に地球を救って死ぬ気であった。

 どの道、長く生きられないのであれば恰好良く死にたいと思いあの状況はまさにエリスの最後を飾るに相応しいシュチュエーションであった。

 しかし、エリスは今も生きている。

 あの時は意識を失っていずれ来る死を受け入れるつもりであったが、気が付いたらここにいた。

 目が覚めるとどこかで見覚えのあるような気のする少年と見た事もない女がいた為、とっさに演技を行った。

 2人の内少年の方が気が弱く上手くコントロールし易そうだと瞬時に判断したエリスは少年が好きそうな清楚なお嬢様を演じる事にした。

 

(体には異常は見られない。むしろ健康そのものだ)

 

 体の状態は記憶の最後に比べても健康で少なくともすぐに死ぬと言う事はなさそうだ。

 着替えながらも周囲を見るが目ぼしい情報はない。

 だが、リックとアンナがパイロットスーツを着ている事からここは普通の場所ではなく、MSで来なければいけないような場所と言う事は分かる。

 

(さて……情報が欲しいな。仕方がない古典的な手段を使うとするか)

 

 周囲を見てもこれ以上の情報を得る事が出来ないと判断したエリスは情報を収集する為にある手を使う事を決めた。

 

「あのリックさん……ここは一体どこでしょうか? わたくしは何故このようなところに?」

「こっちが聞きたいんだがな」

「エリスさん、ここにクライドさんがEXA-DBに関する何かを隠したと思うんです。何かご存じではありませんか?」

「EXA-DBですか?(それに父さんか……また、あの人が何かをやらかしたと言う事か。EXA-DBに関する事が……)」

 

 エリスは顔はきょとんとしているが、自分の覚えている情報を片っ端から思い出す。

 だが、EXA-DBに関する事は殆ど覚えがない。

 そして、リックがクライドの名を出した事で今の自分の置かれている状況はクライドの仕業であると推測できる。

 

(散々人の事を振り回しておいで、私の最高の見せ場を見せ場()にしやがって……ここから出たら覚えて置け。一発殴る。それも私の全力でだ。それで死んでも構うものか)

 

 クライドがどこまで関わっているかは分からない。

 だが、クライドが余計な事をしてくれたおかげで恰好良く死ぬと言う事が出来なかった事にエリスは腹を立てる。

 このままひょいっと出て言っては笑い物だ。

 

「申し訳ありません。わたくし、自分の名前以外は何も覚えていませんの」

「本当か? 隠すと為にならねぇぞ。こいつは可愛い顔してるけどよ、これでもガンダムのパイロットで切れると怖ぇからよ」

 

 エリスは古典的な手段である記憶喪失の振りをしてこの場で情報を出さずに情報を引き出そうとする。

 だが、アンナは簡単に信じる事はせずにエリスを脅そうとする。

 

(ちっ。メスガキが粋がって……まぁ良い。面白い情報を教えてくれたから宇宙よりも広い心を持つ私はデブリに流してやろう)

 

 アンナが粋がって来た所で何ともないが、アンナは面白い事を言っていた。

 リックがガンダムのパイロットであると言う事だ。

 見た目は確かにパイロットスーツを着ていてもお世辞にもパイロットとは見えない。

 それでもリックからはXラウンダーの力を感じる。

 キオや自分程ではないが、一般的なXラウンダーよりかは高い力を感じ取る事が出来る為、あながち嘘ではないだろう。

 見た目だけなら始めて会った時のキオもそうだった。

 

「そんな……わたくしが嘘をついていると思っていますの?」

 

 エリスは目を潤ませてアンナにそう言う。

 その様子はまるで自分の事を信じて貰えない事で悲しんでいるように見える。

 

「いや……そういう訳じゃねぇけどよ。ビビらせちまって悪かった。安心しろってこいつは見た目通りの甘ちゃんだからよ」

(計画通り)

 

 アンナは流石にエリスを泣かせたのは悪いと思い謝る。

 だが、これでアンナには自分がか弱い人間だと言う事を認識させた。

 アンナは悪ぶってはいるが、根っからの悪人と言う訳ではない為、これで今後は強くは出られないだろう。

 それはエリスの計算通りの展開だ。

 

(やはり、この手の不良キャラは根は弱者には優しく情に厚いと言うのはテンプレだからな)

 

 エリスは短いやり取りからアンナの性格を分析し、過去にクライドの元で勉強していた資料からアンナに対する対処法を導き出して実戦した。

 

「アンナさん。これ以上は進めないので一度、機体のところまで戻りましょう。エリスさんも一緒に行きましょう」

「つってもアタシはともかくエリスを連れて行くのは無理だ」

 

 ここは空気があるが、2人のMSが置いてあるところは空気がない。

 リックとアンナはパイロットスーツを来ている為、問題はないがエリスは来ていない。

 このまま連れて行く事は出来ない。

 

「しゃぁねぇな。また、何かあるかも知れなねぇ。探すか」

「よろしくお願いしますわ(成程……ここは宇宙と言う事か)」

 

 パイロットスーツかノーマルスーツが必要である事からここが宇宙だと言う事が分かる。

 リックとアンナは再び部屋の中を捜索する。

 ついでに元々の目的でもあったEXA-DBに関する何かは発見できないが、室内からノーマルスーツを1着発見する事が出来た。

 恐らくはここにエリスを寝かせていた者が事前に用意していたのか、サイズもぴったりであった。

 エリスはノーマルスーツに着替えると2人と共に2人が乗って来たMSへと向かう。

 

「これがお二人の乗って来たMSですか?(片方はGバウンサー系の機体か……何か見覚えのある装飾を付けているな。それにあのガンダムはAGE-1? 少し違うな。新型か?)」

 

 エリスは2機のMSを観察する。

 アンナのGハウンドはGバウンサーの改良機である事はすぐに分かる。

 更にGハウンドのところどころの装飾に見覚えがあった。

 エリスもフォルスと名乗っていた時に一時期、ビシディアンにいた事がある為、見覚えがあるのも当然だ。

 リックのAGE-ZEROはAGE-1に良く似ているが細部が違う事と今更AGE-1を改良したところで時代遅れは否めない為、外見の良く似た新型機であると判断した。

 

「取りあえず。外の様子を確認しましょう」

「だな。あれから結構な時間が経ってるから外の連中もアタシらを救出する為に動き出しててもおかしくはねぇからな」

 

 リックとアンナはそれぞれ自分のMSに乗り込む。

 エリスもさも当然のようにAGE-ZEROの方に乗り込んだ。

 

「気を付けて下さい」

「ありがとうございます。リックさん」

 

 機体のハッチに乗りかかったところでリックが手を差し伸べてエリスを機体の中に入れる。

 エリスはリックに微笑むとリックは少し照れて視線を逸らす。

 コックピット内に入ったエリスはシートの後ろに捕まり内部も観察する。

 

(全方位モニターか……私のゼータとは似ているが違うな。コックピットも新型とはこいつはどこで作られたガンダムだ)

 

 コックピットの中の構造はエリスが乗っていたZERO Zの物に良く似ているがシートや操縦桿などが違う。

 リックはAGEデバイスをセットして機体を起動させる。

 それを見たエリスは表情に出る程驚くも、リックは気づいてはいない。

 

(AGEデバイス! こいつにはAGEシステムが搭載されているのか? この小僧は一体、何者だ?)

 

 AGEデバイスはアスノ家が代々受け継いで来た物でキオが持っていたはずだ。

 AGEデバイスはオーバーテクノロジーの塊でクライドですらも全く同じ物を用意する事は面倒だと言って複製はしていなかった。

 そのAGEデバイスをアスノ家の関わりのない人間が持つと言う事は考えられない。

 つまり、リックはアスノ家の関係者と言う事になる。

 だが、エリスはリックの事は知らない。

 流石にリックくらいの年の少年がアスノ家に居れば面識はなくとも知っているはずだ。

 エリスの混乱を余所にリックとアンナは来た道を戻り宇宙港へと戻り外の様子を確かめに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方のエンジェルの外ではリックとアンナの救出作戦が開始されようとしている。

 ディーヴァから2号機と3号機が出撃し、ディーヴァとバロノークの周囲にはディーヴァ所属のアデル・ガーディアが守りについていた。

 バロノークのMS隊はすでに出撃して作戦の配置についている。

 

「バートン。頼んだぞ」

「分かってますけどね……こっちの形態は苦手なんですけどね」

 

 3号機が足を止めて2号機はストライダー形態に変形した。

 可変機構を持つ2号機だが、エイミーはストライダー形態での戦闘は苦手としていた。

 シュミレーションでもクランシェなどの可変機を動かした事はあるが、MS形態と飛行形態を使い分けるのが面倒であった。

 その為、2号機に乗った今でもストライダー形態を戦闘中に使う事は始めて乗った時以来だ。

 だが、今回の作戦は機動力が必要である為、ストライダー形態を使う必要があった。

 ストライダー形態に変形した2号機はエンジェルの周囲を漂っているシド・スレイヴの向かい背部のシグマシスキャノンを放つ。

 射線上のシド・スレイヴを破壊し、シド・スレイヴは接近する2号機の存在に気が付いて迎撃行動に入る。

 

「食いついた!」

 

 2号機はドッズライフルとシグマシスキャノンをシド・スレイヴの群れに打ち込むと旋回する。

 シド・スレイヴはビームを放ちながら、2号機を追撃する。

 2号機はシド・スレイヴの攻撃を機体を左右に振り回避しながら誘い込む。

 2号機がシド・スレイヴを誘いこんだ場所はエンジェルから少し離れたデブリ地帯だ。

 そこにはビシディアンのMSが待ち構えていた。

 

「来たぞ。お前ら下手打つなよ」

 

 ビシディアンのMS隊はブルーノが指揮を執っている。

 いつもはアンナが出撃する事が多い為、バロノークで指揮を執る事が多いが今回はMSで出撃して指揮を執っている。

 ブルーノが乗るMSはGエグゼス・ジャックエッジを改良したGエグゼス・アサルトだ。

 基本的にGエグゼス・ジャックエッジとの差はないが、バックパックがGバウンサーのテールバインダーに換装されており、装備がドッズライフルⅡBからダークハウンドも装備していたドッズランサーに変更になっている。

 バックパックの換装でビームサーベルがなくなった事からシールドの裏側にビームアックスが2基とビームサーベルが1基追加されている。

 シド・スレイヴを十分に誘い込んだところでGエグゼス・アサルトを中心としたシャルドール・ローグ改が一斉にシド・スレイヴに攻撃を仕掛ける。

 真横からの攻撃にシド・スレイヴは成す術もなく撃墜されて行く。

 しかし、シド・スレイヴは2号機の追撃を断念して再びエンジェルの周りに戻って行く。

 

「撤退するか。もう一度、誘い込んでくれ」

「分かってます……」

 

 今の攻撃である程度の数は撃墜したが、シド・スレイヴの全体数から見れば大した数ではない。

 その為、一度で駄目ならば二度三度と繰り返さなくてはならない。

 2号機は再びシド・スレイヴを誘い込む為にエンジェルの方へと向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 外で戦闘が開始される頃、エンジェル内でも外で動きがある事に気が付いていた。

 今まではシド・スレイヴに動きは殆どないが、今は一部が活発に動いているからだ。

 それの理由までは分からない為、リックもアンナも状況を把握している。

 

「外で動きがあるみたいだけど……」

「くそ……あれの数が多すぎて何が起きてんのかわかんねぇぞ」

 

 外で動きがあった事は分かるが、シド・スレイヴが多すぎてレーダーもまともに使えず様子が分からない。

 様子が分からない以上は下手に動く事もままならない。

 

(外で交戦している事は確かなようだ。こいつらの仲間である可能性はあるがこの状況では何とも言えないな……仕方がない)

 

 友軍かどうかが分からない事が動けない理由にある為、エリスは仕方がなくある手段を講じる事にした。

 

「リックさん。声が聞こえます。貴方を呼ぶ声です(こうなったら不思議系美少女の設定も付け加えるか)」

「そう言う事ですか? 声って……」

「声って通信も出来ない状況でか?」

 

 エリスの言葉にリックもアンナも懐疑的だ。

 それも当然だ。

 通信すら出来ない状態で声が聞こえると言われても信じられる訳もない。

 実際、エリスも声が聞こえていると言う訳ではなく、適当にそれらしい事を言って外に出させようとしているに過ぎない。

 

「わたくしを信じて下さい」

 

 エリスはリックをじっと見つめてそう言う。

 

「……分かりました。アンナさん。僕達も外に出ましょう」

「正気かよ!」

「外で動きがある事は事実です。今、動かないと次に動けるのはいつなのか分かりません」

「ちっ……確かにまぁ、敵にビビッてこんなところで引きこもるのはアタシの柄じゃねぇな。一か八かの博打も悪くないか」

 

 リックはエリスの言葉を信じて見ようと思うだけではなく、外で動きがありシド・スレイヴもそれに対応しているのであれば隙があるかも知れないと言う判断もあってだ。

 不確定要素は多いが、動きがあるのとないのとでは上手く脱出できる可能性は変わって来る。

 外に出て外で動いているのは友軍であれば可能性は更に上がる。

 尤も、外で交戦しているのが友軍ではないと言う可能性もあるが、外の様子が良く分からない以上は考えても答えは出ない。

 

「エリスさん。しっかり捕まっていて下さい」

「分かりましたわ。リックさん」

 

 リックとアンナも覚悟を決めてエンジェルの外に飛び出す。

 エンジェルの外に出るとすぐにシド・スレイヴが反応して2機に向かって来る。

 

「さっそく来やがった!」

 

 AGE-ZEROはDCドッズライフルで、GハウンドはドッズライフルⅡBでシド・スレイヴを迎撃する。

 

(ほう……このガキ。以外とやるな。私程ではないがな)

 

 エリスは外の様子に対して気を留める事もなく、リックの操縦を見ていた。

 まだ粗削りなところはあるが悪くはない。

 それがリックの操縦を見たエリスの評価だ。

 当然の事ながら、自分を含めたガンダムのパイロットの実力と比べれば見劣りはするが、場数を踏めばもっとマシになるとも思っている。

 2機が飛び出してシド・スレイヴの相手をしながらシド・スレイヴの群れを突破しようとするが数の差は簡単に覆す事は容易ではなく、次第に押され始めている。

 すでにエンジェルまで戻る事も出来ない程に包囲されている為、今は前に進むしか道は残されてはいない。

 

「畜生! こんなところで死ねるかよ!」

 

 GハウンドがドッズライフルⅡBを連射し、AGE-ZEROがDCドッズライフルを放つ。

 確実にシド・スレイヴを破壊するが、次から次へとシド・スレイヴは2機に襲い掛かって来る。

 数の差に押されているが、戦場に高出力のビームが流れて2機の近くのシド・スレイヴを破壊して行く。

 完全に数の差を覆した訳ではないが、突破口にはなった。

 

「今の砲撃は……」

「リック! 無事だったのか!」

「お爺ちゃん!」

 

 ディーヴァとの通信が繋がる距離まで接近出来たのかディーヴァからの通信が入る。

 先ほどの攻撃はエンジェルの中からリックとアンナが出て来た事を補足したディーヴァがハーマンの3号機に援護射撃の指示を出した事で放たれたハイパーメガシグマシスバズーカの一撃であった。

 作戦は2号機がシド・スレイヴを誘い出してビシディアンが削ると言う事を繰り返して、数を減らした上で外の戦闘に気が付いた2人がエンジェルの中から出て来たところを3号機の長距離砲撃で支援すると言う物だった。

 

「僕達は無事だったよ。それとコロニーの中で女の人を見つけたよ。多分、何か関係していると思う」

「お前……まさか、そんな事は……」

(誰だこのジジィは……どこかで見たような気はするが……)

 

 ノーマルスーツのヘルメット越しだが、アセムはエリスを見て驚いている。

 アセムが知る限りエリスは25年前に死んでいるからだ。

 一時期は地上で捜索をしたが、クライド自身がエリスは死んだと確定させている。

 そのエリスがリックと共にいるのだ驚くのも無理はない。

 一方のエリスはアセムの顔に見覚えがあるが、誰かは思い出せない。

 エリスはあれから25年も経っている事に気が付いてはいない。

 故にアセムが歳を取って老人になっているなど思いもしていない。

 

「とにかく、お前達が戻らないとこちらも引くに引けない。3号機に援護させる。ここまで帰投するんだ」

「分かったよ。爺ちゃん」

 

 後方より3号機がアームドキャノンで砲撃支援をしてくれる為、ずいぶんと楽になったがだからと言って油断も出来ない。

 AGE-ZEROはDCドッズライフルを放ち道を切り開く。

 

「アンナさん! 先に!」

「糞ったれが!」

 

 GハウンドはドッズライフルⅡBを連射してAGE-ZEROの空けた穴に突撃し、AGE-ZEROもそれに続く。

 

「リック!」

「ジン!」

「ガンダムの新装備を用意してある。今から射出するぞ!」

 

 作戦が開始されるまでの間の時間で整備班は搭載機の整備だけでなく、AGE-ZEROから送られ続けて来た戦闘データからAGEシステムを使い新装備を用意していた。

 シド・スレイヴの中を突破して来たAGE-ZEROの今の位置ならばなんとか新装備を射出しても届く距離だ。

 ディーヴァから新装備の入ったコンテナが射出される。

 

「リック! 援護してやる! 受け取って来い!」

「お願いします!」

 

 AGE-ZEROは射出されたコンテナの方に向かう。

 シド・スレイヴが背後から狙うがGハウンドが援護する。

 コンテナが開閉し、中から新装備が出て来てAGE-ZEROはDCドッズライフルの下部に新装備を装着する。

 

「DCガトリング……これがガンダムの新装備……」

(はやり、このガンダムにはAGEシステムが搭載されているのか)

 

 AGEシステムが導き出したガンダムの新装備、DCガトリングはその名の通りガトリング砲だ。

 DCドッズライフルの技術が使われており、ビームを圧縮した上で乱回転させて射出する。

 DCドッズライフルとの差は圧縮するビームの出力が低い事だ。

 出力が低い分、圧縮する速度は上がる為、威力は低下する反面連射速度が大幅に上がっている。

 バレルもDCドッズライフルの下部に取り付けている為、銃身は短く射程も短くなっている。

 AGE-ZEROはDCドッズライフル構える。

 DCガトリングはDCドッズライフルとは比べ物にならない連射速度で放たれた。

 射線上のシド・スレイヴは次々と破壊されて行く。

 

「すげぇ……これがガンダムかよ」

 

 AGE-ZEROはDCガトリングを放ちながら、シド・スレイヴを相当して行く。

 

「リックさん。何か来ます」

「え?」

 

 エリスがそういうと機体の横でシド・スレイヴを大きくしたままのシドが見えざる傘を解除したのか現れていた。

 シドはAGE-ZEROにビームを多数放つ。

 エリスに言われて攻撃前に気が付いた事もあり、ビームシールドを使いつつDCドッズライフルで反撃する。

 だが、シドはその巨体からは想像も出来ない機動性能を発揮して回避する。

 

「あの巨体で!」

(あのシド……私と戦った時よりも速くなってないか?)

 

 リックはその速さに驚くが、エリスは以前にもシドと交戦経験があるが、その時よりも速くなっている事に驚いている。

 

「何だよ! あのデカブツは!」

「アンナさん! アレは僕が抑えます! アンナさんは行って下さい!」

「けどよ……くそ! リック、死ぬなよ!」

 

 アンナもリックと共にシドを相手に出来るとまでは思ってはいない。

 すでに過去の屈辱など宇宙の彼方に忘れ去っている為、リックの援護が出来ない事を悔しく思いながらも、シドの事を友軍に知らせてリックが下がれるように撤退する事が今できる最大のリックへの援護であると自分に言い聞かせてアンナは友軍と合流しようと向かう。

 AGE-ZEROはDCドッズライフルを放ちながら、シドを追いかける。

 

「ごめんなさい。エリスさん。もう少し付き合って貰います」

「わたくしの事はどうか気にしないでください」

 

 AGE-ZEROがシドを追うとシドは狙いをAGE-ZEROに向けるとビームガンを放つ。

 AGE-ZEROは回避しようとするもビームが曲がった為、とっさにビームシールドでビームを防ぐ。

 

「アイツはビームを曲げる事が出来るのか……」

 

 AGE-ZEROはDCドッズライフルを放つも、シドに当たる事は無い。

 

「速すぎる!」

「リックさん……どうか、落ち着いて下さい(このままでは私が不味い)」

 

 攻撃が当たらない事で焦り始めていたリックの手にエリスはそっと手を置いてリックを落ち着かせる。

 

「貴方なら出来ます。わたくしは信じていますわ(やって貰わねば私が死ぬ。流石にこんなところで死ねるか)」

「エリスさん……」

 

 リックは不思議と焦りがなくなり落ち着きを取り戻していく。

 すると今までは速すぎると思っていたシドの動きが見えるようになっていた。

 これはリックがシドの動きに慣れたと言う訳ではなく、エリスが自分のXラウンダー能力とリックのXラウンダー能力を共鳴させた事でリックのXラウンダー能力が一時的に向上した事でシドの動きが見えるようになっている。

 

「見える……そこ!」

 

 AGE-ZEROはDCドッズライフルを放つ。

 その一撃はシドに直撃した。

 直撃を受けたシドは完全に破壊する事は出来ず、装甲が吹き飛んだだけであった。

 DCドッズライフルは従来のドッズライフルとは違いビームを乱回転させる事で破壊力を増しているが、ドリルのように回転させているドッズライフルよりも貫通力は低下していた。

 これが通常のMSなら難なく装甲だけでなくMS自体を破壊する事も可能だが、シドは機動力のみならず装甲も強化されていた為、DCドッズライフルの威力でも装甲を破壊する事しか出来なかった。

 

(装甲も強化されているのか……おいおい、父さんはあの化物を更なる化物に進化させやがったぞ!)

 

 エリスはDCドッズライフルでも装甲しか破壊出来なかった事から装甲も強化されていると判断し、元から化物じみた性能を持つシドをここまで改良する人物に一人しか思い当たらない。

 しかし、改良されたシドはそれだけに留まらない。

 DCドッズライフルで破壊されたシドの装甲がひとりでに直って行く。

 

「そんな! 装甲が直っていくなんて!」

(馬鹿な! シド・スレイヴも使わずに自己修復するだと!)

 

 シドにはAGEシステムと良く似た自己進化能力と自己修復能力を持っている。

 自己修復能力はシド・スレイヴに戦艦やMSの残骸などを利用して修理している為、厳密には自己修復とは言えないが改良されたシドの装甲にはナノマシン技術が使われており周囲の塵などを使いシド・スレイヴを使わずとも自身を修復する事が出来るようになっていた。

 

(あの糞親父が! 今度あったら殴るだけじゃ済まさんぞ! 思いっきり蹴りも入れてやる!)

 

 破壊された装甲が完全に修復し、シドは再びビームガンで攻撃を再開する。

 AGE-ZEROはビームシールドを使いつつ回避するが次第にビームが機体を掠める事が多くなっている。

 

(こいつ……リックの操縦の癖やパターンを解析して攻撃に補正を加えているのか)

 

 リックの動きはまだ戦闘に影響が出る程、落ちてはいない。

 それでも攻撃が当たり始めているのはシドの方がリックの動きに対応して来たと言う事だ。

 戦闘データから自身を強化する事はあったが、戦闘中にここまでこちらの動きに対応して来る程ではなかった。

 つまり、シドが戦闘中に敵の動きを解析して補正して来ると言うのも新しく追加された機能と言う事になる。

 

(流石にまずいな……私が操縦を代わるか? 駄目だ。こいつの素性も分からない以上はこのままの設定で通したい。ゼータがあればこの程度の状況を切り抜けられる事が出来ると言うのに……私をコールドスリープで眠らせておくならゼータも一緒にしとけよな)

 

 追い詰められる中、エリスは自分の愛機であったガンダムZERO Zがあれば今の状況を打開するのも容易であると心の中で愚痴るが無い物は仕方がない。

 操縦をエリスが代わればリックよりは上手く戦えるが、リックの素性を知らない為、下手に動けば後々面倒になって来る。

 

「リック、こちらは撤退は完了した。お前もすぐに撤退するんだ。一度、体勢を整える」

「分かったよ。お爺ちゃん」

 

 リックがシドと交戦している間にアンナが状況を知らせてディーヴァとバロノークのMSは撤退を始めていた。

 後はリックが戻るだけでディーヴァは離脱する事は出来る。

 後方よりディーヴァとバロノークが主砲やミサイルでAGE-ZEROの撤退を回避する。

 シドも必要以上に撤退する敵を追撃しないと始めからプログラムされているかのようにAGE-ZEROへの追撃よりも攻撃の回避を優先していた。 

 AGE-ZEROがエンジェルから離れるとシドはシド・スレイヴと共にエンジェルの方に戻って行く。

 完全に追撃が無かった為、AGE-ZEROは何とかディーヴァへと帰投する事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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