コロニー「エンジェル」から帰還したリックは機体をディーヴァの格納庫のハンガーに固定する。
シドやシド・スレイヴとの思いがけない戦闘ではあったが、何とか帰還する事が出来てようやく一息が付ける。
「リック! 良く帰って来たな!」
機体のハッチを開けるとジンがコックピット内に入るかのような勢いで機体に取りついて来た。
「ただいま。ジン」
「ああ……お帰り。リック」
通信でリックが無事であると言う事は分かっていたが、こうして実際に対面して本当に無事に戻って来たと言う事が実感できる。
リックの無事を実感したジンはようやくコックピットにリック以外の人物がいる事に気が付いた。
「リック。その人は?」
「この人は……」
「リック!」
リックがエリスの事をジンに説明しようとするが、それを遮りエイミーが機体から降りてリックの元にやって来る。
「無事だったの! 怪我はない?」
エイミーはジンを軽く押しのけてリックを質問攻めにする。
「てか、その人誰?」
「それを今聞こうとしてんだよ」
「お初にお目にかかります。わたくし、エリスと申します。以後お見知りおきを」
エリスのあいさつにジンもエイミーも呆気に取られてリックに説明を求める視線を送る。
「この人はエンジェルの中でコールドスリープで寝ていたんだ。あそこに置いて来るのも危険だからディーヴァに連れて来たんだよ」
「あのコロニーは天使の落日で廃棄された筈だろ? 何でそんなところに?」
「さぁ……肝心のエリスさんも記憶がないみたいなんだ」
「申し訳ございません……」
エリスは申し訳なさそうにするとジンもエイミーも余り強く追及する事は出来ない。
エリスもそれが分かっていての行動だ。
「リック。少し良いか」
「お爺ちゃん」
ディーヴァが安全圏まで退避した事でブリッジの事はエディに任せたアセムが格納庫のリックの元までやって来る。
その理由はリックと共にガンダムに乗っていた同乗者の事だ。
ノーマルスーツのヘルメット越しではあったが、その顔に見覚えがありどうしても気になったのだ。
「その君、聞きたい事がある。付いて来てはくれないか?」
「お爺ちゃん。エリスさんは記憶がないんだ。だから、聞いても答えようがないよ」
「エリス……それは君の名前か?」
「そうですが……(この爺さん。私の事を知っているのか?)」
アセムはエリスらしからぬ言動に戸惑うが、エリスと言う名も偶然とは思えなかった。
一方のエリスも相手が自分の事を何かしら知っているのではないかと推測している。
「わたくしで分かる事でしたら何なりと」
「助かる。リックは少し休んでいろ。いろいろとあって疲れただろう」
「分かったよ。お爺ちゃん。エリスさんも後で」
エリスの事は気になるが、アセムがエリスを悪いように扱うとは考えられない為、リックはエリスの事はアセムに任せて自室に戻る。
エリスはアセムに連れられて艦長室に入る。
アセムはエリスと向き合い椅子に座る。
一方のエリスは見た目こそは戸惑う幼気な少女のように見えるが、一切の油断はしていない。
相手は老人ではあるが、唯の老人でない事は気づいている。
「さて……何から話そうか。記憶がないんだってな」
「申し訳ありません」
「いや……構わん。俺はアセム・アスノ。この艦ディーヴァの艦長をしている」
「アセム・アスノ……」
アセムはリックの言うエリスが記憶喪失であると言う事を前提に話しを進めようとする。
だが、アセムの言葉は余りエリスには入ってはこなかった。
アセム・アスノと言う名に覚えがある。
それも当然だ。
アセムにとってはあれから25年も経つが、エリスにとっては25年前の戦いは数時間前の事でしかない。
「アセム・アスノだと! キャプテンか! 幾ら父と息子の板挟みにあっていたとはいえ数時間……いや、数年で老けすぎだぞ!」
エリスは自分で作ったキャラをも忘れて声を上げる。
エリスは自分の体の状態やコールドスリープをしていた事から数年程寝ていたを推測している。
あれから数年でアセムはここまで老けたと考えると驚くのも無理はない。
「エリス? それにキャプテンだと?」
エリスの突然の行動にアセムも呆気に取られる。
だが、エリスはアセムの事をキャプテンを呼んだ。
かつてのエリスもビシディアンにいた時の習慣からアセムの事をキャプテンを呼んでいた。
「……記憶喪失を言うのは嘘だったのか?」
「当たり前だ。そんなテンプレがそうそう転がっているものか」
「お前な……」
あっさりと記憶喪失が嘘である事を自白してあっけらかんとしているエリスに対して呆れるしかない。
「まぁ、良くある事だ。気にするな。それよりもずいぶんと老けたな。キャプテン。キャプテンも苦労したのだな。皆まで言うな。お互い面倒な父親を持ったのだ」
「いろいろ聞きたい事があるが、俺が老けるのも当然だ。あれから25年も経っているんだからな」
「25年だと……」
「そうだ。今はA.G.194年、あの戦いから25年後だ」
「おいおい……つまらない冗談は……」
エリスは流石に衝撃を受けたのかすぐにアセムの言葉を信じる事が出来ない。
しかし、アセムが嘘をついているとも思えない。
AGEデバイスを持ったリック、新しいガンダム。
今がエリスの知る時代の遠い未来である確証を示す物は多い。
エリスはふらふらと歩き艦長室に備え付けられている椅子に座り込む。
「全く……タイムスリップをするとはな」
椅子に座り込んで天井を見上げるエリスにアセムはかける言葉がない。
流石のエリスも気が付いて見れば25年後の世界となれば混乱するのも無理はない。
同じ25年後でも25年の時を歩いて来たアセムといきなり25年の時を飛ばしたエリスとでは見えている物は違うのだろう。
「なぁ……キャプテン、父さんは生き……死んだか?」
「叔父さんは……10年以上も前に亡くなった」
エリスがまず気になったのは父親であるクライドの事だった。
始めは生きているのかと尋ねそうになるが、あれから25年も経っていればクライドがどうなっているかなど、アセムに聞かずとも容易に想像がつく。
それでもエリスは否定して欲しかった。
クライドならば、あるいはと言う願いがあったが、アセムの答えは非情だった。
「そうか……全く。いろいろと面倒事を押し付けて……今度会ったら死ぬほどの勢いで殴り飛ばすつもりだったのにな……その前に逝くとか反則だろ。私は誰を殴れば良い」
エリスは誰に言う事もなく、一人でそういう。
天井を見上げるエリスの目からは涙が零れ落ちる。
クライドにはいろいろと振り回されて、今も尚面倒事を押し付けられている。
それでもエリスにとってはたった一人の父親だ。
その父が自分の寝ている間に死んでいたのだ悲しむのは当然の事だった。
アセムもその気持ちは痛い程理解できた。
アセムもまた父親を亡くしている。
父親であるフリットとは一時期は進む道が違う事から意見は対立した事もあったが、それでも親子の縁は決して切れる事は無かった。
「叔父さんは最後は幸せそうだった」
「だろうな。あれだけ好きに生きたんだ。満足もするさ」
アセムはせめてもの慰めとしてクライドの最後を話す。
クライドは死ぬ直前まで何やらMSの設計をしていたらしい。
そのMSに関してはどうなったのかは未だに分からず、クライドが最後に設計した幻のMSとなった。
「エリス、これからどうするつもりだ?」
「さぁてな……死ぬ死ぬ詐欺も2度目じゃ恰好も付かんしな。表舞台に出来るはおきんな。それに正直やり尽くした感はあるから何かするのも面倒だし働いたら負けと思ってる」
エリスにとっては25年前の戦いで恰好良く死ぬつもりでいた。
それが何の因果が今はピンピンとして生きている。
その為、今のエリスには生きる理由も目的もなかった。
「生きていても仕方がない気もするが、どの道後数年で地獄に逝くんだから自分から逝くのは世界に負けた気がしてそれはそれで気に入らん」
エリスに残された命は後数年だ。
コールドスリープで寝ている間にモードZEROで消耗した体の方は完全に直っているが、人がどんなに足掻いても死と言う運命から逃れる事が出来ないのと同じでエリスの命は後数年で尽きるだろう。
生きる意味もないが、自分で命を絶つのはエリス的には負けた気がする。
「そんな訳だから私の余生の暇つぶしとしてお宝探しに付き合ってやる」
エリスも大体の事情はリックから聞いて把握している。
どの道、残り少ない命をただ使うのではなく少しでも面白そうな事に使いたい。
EXA-DBの捜索と言うのは退屈はしなさそうだった。
「私をパーティに入れるとお得だぞ。私のレベルはカンストを振り切ってチート級だからな。それに私の知らない記憶があってな。恐らくは父さんが私が眠っている間に入れておいたのだろう。EXA-DBを手に入れる為の次なる目的はアンバットだそうだ」
「アンバット……遠いな。ここからだとミンスリーを経由すれば何とか行けるか」
エリスの頭の中にはエリスの知らない記憶がいくつも存在している。
一つはEXA-DBの中のデータの一部だ。
それによりエリスはそのデータの中にある兵器の技術が使われているのであれば完璧に扱う事が出来る。
それとは別に今までにはなかった記憶が2つ存在している。
一つ目はEXA-DBを手に入れる為には次はアンバットに向かえと言う事だ。
アンバットの名はアセムも知っている。
A.G.115年にディーヴァが数隻の戦艦と共に当時のUEが占拠していたアンバットを落としている。
歴史上では連邦軍による物だとされていたが、近年その歴史は間違っているとしてディーヴァやアブディエルなどによって陥落させられたと正しい歴史が刻まれている。
そのアンバットは今では完全に廃棄されている。
場所はラグランジュ2を超えた先にあり、現在のディーヴァはラグランジュ3でアンバットは地球を挟んで反対側に位置している。
ここから向かうにしても地球と月を超えなくてはいけないと言う事だ。
「そこにAGEデバイスを持っていけばEXA-DBの場所と入手法が明らかになる。確か、AGEデバイスはあのリックとか言うガキが持っていたな。アイツは何者だ?」
「リックは俺の孫、キオの息子だ」
「何、だと……」
エリスは思わず立ち上がる。
だが、驚くのと同時に納得も行った。
確かにリックを見た時にどこかで見たような顔だと思った。
それはリックにキオの面影を見ていたからだと言うのであれば納得が行く。
「あのガキがキオの息子とな。キオは元気でやっているのか?」
「今は政府で色々と動いている」
「成程な。アイツが変わっていないと言うのであれば別にいいさ。私もヴァニスに戻らずに済む」
この25年でキオがパイロットでなくなったのは残念だが、キオがあの時から変わらないのでいるのであればそれで良かった。
もしも、変わってしまっていたらエリスは再びヴァニス・イゼルカントとして世界に挑んでいただろう。
「ヴァニスと言えば聞きたいのだが、数年前からネオ・ヴェイガンの指導者としてお前の娘としてヴァレンティナ・イゼルカントが出て来たが、それに関して何か知っているか?」
「知らん。そもそも、私は今までずっと寝ておったのだ娘などいる筈もないだろう。」
エリスははっきりと断言できる。
エリスは25年間の間常にコールドスリープで寝ていた上に異性に対して全く興味は無い為、子供などいる筈もない。
「それに私がヴァニスを名乗っていた時もイゼルカントの娘を騙っていたから、そいつも私の娘を騙っているのだろうな」
エリスに子供がいないとなると、ヴァレンティナは騙っていると言う事になる。
かつてのエリスもヴェイガンの兵を動かし易いように、当時の指導者のフェザール・イゼルカントの娘を名乗っていた。
その時はイゼルカントも認めていたが、別にエリスが認めずとも本人は死んだ事になっている為、どうにでも誤魔化す事は可能だ。
「まぁ、例え偽りであったとしても私の溢れんばかりのカリスマを当てにする奴が出て来ても不思議ではないさ」
エリスの根拠のない自身に呆れるも完全に否定できないのも事実だ。
ヴァニスが女帝として君臨していた時のネオ・ヴェイガンはヴェイガンの民も多かったが、今のネオ・ヴェイガンの構成員の大半がヴェイガンとは大して関係がある訳ではない。
単に今の政府に不満を持つ者以外にはヴァニス・イゼルカントと言う圧倒的な力を持った女帝の後継者たるヴァレンティナ・イゼルカントを新たな世界の支配者として相応しいと思い集まる者が大半だ。
「ニセ娘などの事はどうでも良い。今後の事だ。私も同行する事は決定事項だ。それにこの宝探しゲームの参加者に私も組み込まれているようだしな」
「どういう事だ? 次の目的地を教える以外に何かあると言う事か?」
EXA-DBもしくはそれに繋がる手がかりを求めてやって来たエンジェルでエリスがコールドスリープをしており、次の目的地とEXA-DBの有りかを示す条件を知っている以外にもエリスには役目があるかのような言い方だった。
「どうやら私のジョブはガーディアンらしい」
「ガーディアン? 何を守ると言うんだ」
「EXA-DB……私はシドに代わるEXA-DBのガーディアンとなる為に生かされたみたいだ」
エリスの頭の中にEXA-DBの場所を明らかにする方法の他に知らない記憶として自身がEXA-DBの守護者であると言う事がある。
だが、肝心のEXA-DBはこれから探しに行く為、守護対象のEXA-DBはここにはない。
「どういう事だ?」
「私に聞いてもな。私の頭の中には確かにEXA-DBを守るガーディアンである。よもや、私の頭の中にあるEXA-DBのデータがそうだと言うふざけた事を指している訳でも無いだろうが、あの父さんの事だからな……」
「とにかく、アンバットに行くしかないと言う事か」
クライドが何の意図を持ってエリスをEXA-DBの守護者としたのかは本人がすでに死亡している為、真相は闇の中だ。
それを知る為にもエリスを同行させるしかないだろう。
エリスを適当なコロニーで下してアンバットでEXA-DBの有りかが分かったとしてエリスが必要になって来るのかも知れない。
エリスは何かと面倒事を持ち込みかねないが、本人の意志はともかく戦闘となればエリス程頼りになるパイロットもいない。
面倒事が起こる可能性はあるが、EXA-DBを見つける為にエリスが必要であるのであればエリスの同行を認めざる負えなかった。
エンジェルから一度、マッドーナ工房へと戻るディーヴァをネオ・ヴェイガンは追尾していた。
シド・スレイヴの横やりで撤退した後もディーヴァの動きは常に監視していた。
「ディーヴァは海賊の戦艦と共に宙域より離脱した模様です」
「連中はEXA-DBを入手したと言う事か? ヴァレリ」
「その可能性は低いかと」
母艦の自室でディーヴァに動きがあったとヴァレリよりヴァレンティナは報告を受けていた。
宙域より離脱したと言う事はEXA-DBを手に入れたとも考えられたが、監視をしていた限りではエンジェル内にはガンダムが入っただけでディーヴァは入らずにシド・スレイヴは放置して来たとの事だ。
EXA-DBの中のデータは膨大でMS1機で持ち出せる筈も無い為、ディーヴァはEXA-DBを手に入れている可能性はさほど高くはない。
「では、なぜ奴らは離脱した?」
「不明です。あそこにEXA-DBは無く何かしらの情報を得たのか、彼らだけでは持ち運べないからなのか……現在では判断材料はありません」
離脱した理由はいろいろと考えられる。
エンジェルにはEXA-DBは無く、隠し場所に関する情報を得た事でエンジェルに向かった目的を達成できたからなのか、EXA-DBを発見してもディーヴァだけでは持ち出せなかった為、応援を呼んで来るのか理由は幾らでも考える事は出来るがどれも裏付けする情報はネオ・ヴェイガンには持ち合わせてはいない。
「そうか。では、ヴァレリ。参謀としてどうするべきか言って見ろ」
「そうですね……連中がEXA-DBを手に入れた可能性が低いにしろ、何かしらの情報を掴んだと仮定してここで叩くべきでしょう」
「情報を奴らから聞き出す必要は?」
「彼らが金などで動いてくれれば良いのですが、ヴァネッサ様からの情報によれば彼らを率いているのはあのアセム・アスノのようです。アスノ家の人間が我が身可愛さに情報を売ると言うのは考えられません。それにディーヴァと海賊の戦艦を沈めたとしてエンジェルが健在である以上は我らにもEXA-DBに関する情報を手に入れる事は可能です」
ヴァレリの進言はディーヴァ及びバロノークの撃沈だった。
あの2隻は何かしらの情報を持っているとすればそれを連邦軍が手に入れる前に沈めて闇に葬ってしまえば連邦軍にEXA-DBの情報が持ち込まれると言う事は無くなる。
命の保証や買収などで情報を渡すように勧告したところでヴァネッサから得た情報で指揮をしているのはアセムである以上は例え沈められたとしても情報を売るような事はしないだろう。
無駄に労力を使うくらいなら早く沈めた上でエンジェルで直接情報を手に入れた方が楽だ。
「沈めるのは分かったが、どうする? 持って来た戦力では難しいと思うのだが?」
現在、ヴァレンティナが連れて来た戦力は万全とは言えない。
グレート・エデンから増援を寄越すにしても時間はかかる。
連中はエンジェルで一戦交えた後で疲弊しているだろうが、時間をかけてしまうと体勢を整えさせてしまう。
更にはエンジェルでの戦闘で連邦軍のMSも出て来ていた。
こちらが動けば連邦軍も動くかも知れない。
海賊もディーヴァと行動を共にしている以上、仕掛けるのであれば海賊も相手にしなければならない。
こちらの準備は万全ではない上に敵が多い以上、ディーヴァに仕掛けても勝算は少ない。
「それでしたら、ヴァネッサ様の部隊にも協力して貰いましょう。幸い、ヴァネッサ様の部隊と我らの部隊はディーヴァを挟撃出来る位置に有ります。前後から挟撃すれば敵の戦力も分散できます」
ヴァレンティナの部隊だけでは戦力不足は否めないが、都合よくヴァネッサの部隊はグレート・エデンへの帰投の途中でディーヴァをヴァレンティナの部隊とで挟み込める位置にいる。
ヴァネッサの部隊であればヴァレリの部下であるジェレミアとアビーもいる為、そこにヴァネッサも加えればディーヴァを叩くのには十分な戦力と言える。
「そうだな。策についてはお前に一任する」
「了解しました」
ヴァレンティナの許可を得た為、ヴァレリは作戦の準備に入る。
ディーヴァを追尾しているのはネオ・ヴェイガンだけではなかった。
エンジェルの戦闘から帰投したギルバートのディーヴァの動向を監視していた。
それと同時にネオ・ヴェイガンの動きも監視している為、ネオ・ヴェイガンが動いた事も捕捉している。
「少佐、すでに私の隊は出撃できます。ネオ・ヴェイガンがディーヴァに仕掛けるのでしたら好機です!」
ネオ・ヴェイガンの動きを知ったローザは再び仕掛けるようにギルバートに直接交渉に来ている。
すでにマッドーナ工房への攻撃で受けたMSの修理は終えて出撃は可能だ。
ディーヴァは海賊と行動を共にしているが、ネオ・ヴェイガンとの戦闘中に上手く立ち回ればディーヴァ、海賊、ネオ・ヴェイガンを一網打尽にする事も可能だろう。
「我々の任務はあくまでも連邦政府に対する反乱分子の排除だ。連中が潰し合ってくれると言うのに無駄な浪費は避けるべきだ」
「しかし!」
ギルバート達、粛清委員会の任務は連邦政府に対する反乱分子の粛清だ。
ネオ・ヴェイガンやビシディアンを撃つ事は粛清委員会の仕事の内ではあるが、ディーヴァが連邦政府に対する反逆の意志があるかは確証は得られてはいない。
それはあくまでも表向きの名目だ。
ギルバートはアセムが何を思って連邦軍に頼る事なく動いているのかを知りたかった。
ディーヴァを討つか否かはそれを知ってからでも遅くはないと言う判断だ。
それが本当に地球圏の平和に繋がるのであればギルバートは協力を惜しむ気はないが、アセムの口から出まかせであれば本来の職務に準じて粛清すれば良い。
だが、ローザも簡単に引く気は無いらしい。
ローザとガンダムとの戦闘データはすでにギルバートも見ている。
AGE-ZEROとギルバートも交戦している為、ローザとの戦闘でAGE-ZEROは明らかに本気ではないと言うのが分かった。
AGE-ZEROのパイロットとローザの間には機体性能だけでなく技術的な差があり、相手は意図的にローザを殺さないように手を抜いていたのだろう。
ギルバートとしては貴重な兵を失わなかった事を感謝する気持ちもない訳ではないが、ローザからすれば屈辱的な事だったのだろう。
特にローザは両親の事もあり常に結果を出そうと躍起になっている部分がある。
ローザの両親はネオ・ヴェイガンの兵士であった。
それはまだヴァニスが指導者であった頃で両親は若かったが、ヴァニスの圧倒的な力を指示してネオ・ヴェイガンに入っていたと聞く。
今でもヴァニスの熱狂的な信者でもあるが、幾らヴァニスの娘を名乗っていてもヴァニスではない為、今のネオ・ヴェイガンには否定的と言う事らしい。
ローザ以外でも親や親族が旧ネオ・ヴェイガンに関わっていた兵士が粛清委員会にいると言う事は珍しいケースではない。
数年前から活動が活発になり、粛清委員会の仕事も急激に増えて行った。
そして、旧ネオ・ヴェイガンに関わりのあった者の親族などもネオ・ヴェイガンへの内通を疑われて査問にかけられると言う事は珍しくはない。
そこで自分の身の潔白を証明する為に粛清委員会に入ると言うケースが最近は多い。
尤も、粛清委員会に入ったとてすぐに疑いが晴れる訳ではない。
寧ろ粛清委員会の内情を探る為に入り込んだスパイの疑いもかけられる事も多い為、完全に身の潔白を証明するには結果を出すしかない。
ローザもその口でXラウンダーとしての素質は無かったが、パイロットとしては優秀な才能を発揮して20代でMS隊を一つ任されるまでに出世している。
今更、この程度の事でギルバートや委員会内での信用が落ちる事は無いのだが、ローザとしては相手に舐められて手を抜かれたと言う事は許す事の出来ない事のようだ。
「これが私の決定だ。余りしつこく進言すれば何かあるのではないかと勘繰られても仕方がないぞ」
「そんな事は……私はただ……」
ギルバートは卑怯な手ではあるが、ローザを引き下がらせる。
ギルバート自身はすでにローザの事を信用しているが、しつこく仕掛ける事を進言する事で、ローザに何かしらの思惑があるのではないかと思われると言う。
そうすれば雪辱以外に思惑のないローザは引き下がるしかない。
少なくとも政府に対する反乱分子の疑いをかけられる事と雪辱を晴らす事を天秤にかけて判断する事が出来る冷静さは残されている。
そうでなければ粛清委員会のMS隊の隊長を任せる事は出来ない。
「……失礼します」
ローザはこれ以上、食い下がる事は自分の立場を不利にする為、引き下がる。
その表情はギルバートの判断に納得が言っていないようにも見えるが、勝手な行動を取ると言う事は無いだろう。
「さて……この程度で沈むと言う事はその程度と言う事……本当に人類全体の為であるのなら乗り切って見せて下さい」
ディーヴァがネオ・ヴェイガンの挟撃を受けると言う事は動きから予測できる。
そうなった場合、ディーヴァは窮地に立たされるかも知れない。
それを知りつつもギルバートは監視を続けるだけで警告も援護もする気は無い。
本当にアセムが地球全体の為に動いているのであればこの程度の窮地を自力で突破しなければ所詮は夢物語でしかないのだから。
エリスからEXA-DBの有りかはアンバットに行く事で明らかになると判明したため、マッドーナ工房への帰路の途中だった。
アンバットまでは地球と月を超える必要がある為、それ相応の準備や道中の手配が必要となる。
エンジェルより帰投したリックは自分の部屋で一度体を休めるとエイミーとジンと共に食堂に来ている。
ある程度、体を休めたところでまともに食事を取る余裕が無かった為、食堂で軽く何か食べようと二人に誘われた。
「で、リック。あの子の事を話して貰うぞ」
空いている席に座ってすぐにジンは話しを切り出す。
リックを食事に誘ったのはリックの事を気遣っただけでなく、エリスの事を聞き出す為でもあった。
「ジンってああいう子が好みなの?」
「別に俺だけじゃないって。男ってのはああ言う儚げな深窓の令嬢みたいな女の子にはグッと来るんだよ。何かこう、守ってあげたくなるような感じのさ。なぁリック」
「えっと……そう、だね」
エリスの第一印象からそう言うジンにリックは一応同意する。
確かにジンの言う通り、エリスは守ってあげたくなる。
同意したリックをエイミーはムッとして軽く睨みリックは視線を逸らす。
「リック! こんなところにいやがったのか! 探したんだぞ!」
「アンナさん? ディーヴァに来てたんですか?」
エイミーに睨まれてどうしようかと思っていたところにアンナが食堂に入って来てリックに声をかけて来る。
「まぁな……いろいろとやっちまったからその詫びを入れに来たんだよ。流石にモニター越しで詫びを入れるのは礼儀がなってないからな」
アンナはバロノークに帰投したが、ディーヴァに来ていた。
その理由は知らなかったとはいえ、アセムの乗る船に攻撃した事を謝罪しに来たからだ。
つい先ほど、アセムに頭を下げて元々ビシディアンをどうこうする気のないアセムから許しを得たアンナはディーヴァに来たついでにリックを探していた。
「リック。この人は?」
「この人はアンナさん。海賊のキャプテンをしている人」
まだ不機嫌なままのエイミーにリックはエイミーの機嫌が悪い理由は分からないが、二人にアンナを紹介する。
いきなり海賊のキャプテンと紹介されて二人は少なからず驚いていた。
海賊のキャプテンとアンナはイメージが繋がらないからだ。
「リック、海賊のキャプテンと仲良くなったのかよ」
「まぁな。リックとアタシは死線を乗り越えてマブダチになったんだよな」
「えっと……まぁ」
いつの間にかマブダチにされていた事に軽く戸惑いを感じるが、友達と言われて悪い気はしない為、特に否定する事は無い。
「ふーん」
「暫くアタシらもディーヴァに同行すっからさ。頼りにしてくれ」
「本当ですか!」
アセムへの謝罪と共にアンナはアセムへの協力を申し出ていた。
リックからある程度の事情は聞いており、反政府活動をするよりもEXA-DBを探す事はビシディアンの元々の行動理由にもあるだけでなくディーヴァの艦長をキャプテンアッシュこと、アセムが務めている事もあってビシディアンは全面的に協力を申し出た。
アセムの方もビシディアンの戦力は魅力的である為、協力を断る理由も無いので協力を受け入れた。
リックはアンナの協力に喜びそれを見たエイミーは面白くはない。
「そう言えば、あの子はどうなったんだよ?」
「エリスさんですか? お爺ちゃんを話しをしてしばらくディーヴァにいるみたいです」
すでにリックにはエリスがディーヴァに残ると言う事は聞いている。
その理由はアセムも詳しくは教えてはくれなかったが、EXA-DBを探すのに必要だかららしい。
「そっか。まぁ、記憶もないってのにコロニーの放りだされても行く当てもないだろうしな」
「そうですね……」
記憶のないエリスをディーヴァから下したところで行く当てもない。
しかし、これから何度も戦闘行うディーヴァにエリスを乗せておくのは少し気が引けた。
戦闘になればリック達が守るとはいえ、ディーヴァが一度も被弾しないと言うのはあり得ない。
被弾する場所によってはディーヴァのどこにいようとも絶対に安全とは言えない。
リック達は少し前までは学生で始めては巻き込まれてたとはいえ、今は自分達の意志でディーヴァに乗っている。
だが、エリスは自分で臨んだ訳でも覚悟を決めた訳でも無い。
エリスをこのままディーヴァに乗せて置く事が本当にエリスの為なのかと考えてしまう。
リックはどうした方がエリスの為なのか判断をし兼ねていると艦内に警報が鳴り響く。
「第一種戦闘配備、パイロットは搭乗機にて待機し、各員は所定の位置で待機してください」
「戦闘配備?」
警報と共に艦内に戦闘配備のアナウンスが入る。
それはつまり敵が来たと言う事だ。
アナウンスが入り食堂にいた生徒達もすぐに自分達の持ち場へと急いだ。
戦闘配備が発令され、ディーヴァとバロノークはすぐに戦闘態勢に入る。
アセムもブリッジへと上がりすぐに状況の把握を始める。
「艦長、後方よりネオ・ヴェイガンのMSが接近中です。数は20、内2機はエンジェルで交戦したMSです!」
「前方よりもMSが接近中です!」
「挟み込まれたか……」
モニターには後方から接近するヴァレンティナの部隊と前方のヴァネッサの部隊が写し出される。
「アレは……レーアツァイトを攻撃して来た部隊か。ここまで追って来るとはな」
「アスノ艦長、後方の敵はこちらで引き受ける。前方の敵を任せても良いだろうか」
「そうだな。俺達で突破口を開く」
前方の敵さえ突破してしまえば逃げ切る事も可能だ。
そうなれば3機のガンダムを搭載しているディーヴァが前方の敵を叩くのは妥当なところだ。
「MS隊を発進させろ。Xラウンダー専用機はガンダムに相手をさせてアデル隊はディーヴァとバロノークの護衛に専念させろ」
相手の戦力で厄介なのはXラウンダー専用機だ。
Xラウンダー専用機の相手を出来るのはディーヴァにはガンダムしかいない。
ディーヴァとバロノークからMSが発進して戦闘が開始された。
「野郎ども! アタシのバロノークやディーヴァに指一本触れさせるんじゃねぇぞ!」
ディーヴァから出撃したアンナは部下と合流して後方から迫るヴァレンティナの部隊の迎撃に入る。
アンナのGハウンドを戦闘にシャルドール・ローグ改が一斉に敵部隊に攻撃を開始する。
一斉射撃で何機かは撃墜したが、火線を縫うようにヴァレンティナのガンダムレギーナとヴァレリのキングレギルスがビシディアンの部隊に接近する。
「ガンダムはネッサの方に向かったか。海賊風情が私の道を阻めると思うなよ」
レギーナはビームを回避しながらレギーナライフルでシャルドール・ローグ改を撃ち抜いてレギーナライフルの実体剣で別のシャルドール・ローグ改を切り裂く。
「てめぇ!」
GハウンドがドッズライフルⅡBでレギーナを狙うが、レギーナはビームシールドを使う事なく回避する。
「貴様程度の腕では話しにならんな。後は任せたぞ。ヴァレリ」
「了解です」
レギーナはガンダムのいるヴァネッサの方に向かい、Gハウンドが追いかけようとするも、キングレギルスがビームマシンガンで牽制する。
「邪魔だ!」
Gハウンドはアンカーショットを射出してキングレギルスは回避して、距離を詰めて左手のビームサーベルを振るう。
何とか、GハウンドはドッズライフルⅡBの実体剣で受け止めるも弾き飛ばされる。
キングレギルスはビームマシンガンを向けるが、シャルドール・ローグ改がドッズバスターHでキングレギルスを攻撃し、キングレギルスはビームシールドで防いだ。
ディーヴァの前方でも戦闘は開始されている。
ヴァレンティナの部隊程の数は無いが、3機のXラウンダー専用機と3機のガンダムは互いに抑え合っている為、戦局は硬直しつつある。
「ネッサ先輩!」
「リック・アスノ!」
グルドリンカスタムがシグマシスキャノンを放ち、AGE-ZEROは回避する。
攻撃を回避したAGE-ZEROを囲むようにミラービットが展開している。
ミラービットの攻撃をAGE-ZEROはビームシールドを使いつつ防ぎ、DCドッズライフルでミラービットを破壊しようとするが、ミラービットはビームを完全に回避して破壊する事は出来ない。
ミラービットが一度、散開するがナイトギラーガがギラーガアックスを振るい、AGE-ZEROは回避するが、すでにその先にはグルドリンカスタムがAGE-ZEROを狙っている。
「落ちろ!」
「やらせないっての!」
グルドリンカスタムがシグマシスキャノンを放つ前に2号機が背部のシグマシスキャノンを放ち、グルドリンカスタムは攻撃を中止して回避し、2号機はドッズライフルを連射してナイトギラーガを牽制する。
ナイトギラーガはビームシールドで防ぎつつも、ギラーガビットを展開するが、3号機がアームドキャノンを放ち、ビットを一掃する。
「話しを聞いて下さい! 先輩!」
「貴様だけはここで落とす!」
グルドリンカスタムはビームバルカンを連射して、AGE-ZEROもDCガトリングで応戦する。
「アビー、あのガンダムが一番厄介だ。先に落とすぞ」
「分かっているわよ」
ミラーファルシアは拡散ビーム砲をミラービットで反射させてAGE-ZEROの全方位から攻撃を行い、AGE-ZEROはビームシールドを全方位に張り防ぐが、それによって足を止める事になりナイトギラーガはビームが途切れた瞬間にAGE-ZEROに切りかかる。
だが、2号機はドッズライフルでナイトギラーガを攻撃し、ナイトギラーガはビームシールドで防いでいるとAGE-ZEROもDCドッズライフルでナイトギラーガを狙う。
ナイトギラーガは後退しつつ攻撃を回避し、グルドリンカスタムがシグマシスキャノンを放ち、3号機はハイパーメガシグマシスバズーカを放つ。
3機のガンダムと3機のXラウンダー専用機が交戦している頃、ディーヴァの格納庫も戦場と化している。
3機のXラウンダー専用機はガンダムが抑えているが、他のMSはアデル・ガーディアが抑えている。
交戦中に被弾した機体がディーヴァに帰還し、応急修理を受けている為、整備班のフルで動員している。
その為、格納庫に本来いない筈の人物がいても気にする余裕はなかった。
「こいつらは学生だって話だが、ここまで内部の警備がザルだと流石にむなしいな」
格納庫に置かれていたガンダムAGE-Ⅵ 1号機の中でエリスは呟く。
エリスはノーマルスーツを抜いて機体の外に放り投げる。
戦闘が開始された事で慌ただしくなるディーヴァの中で敵の戦力的に守り抜く事が難しいと判断したエリスはノーマルスーツを1着拝借して来た。
そして、何食わぬ顔で格納庫に入り、使えそうな機体を探して1号機に乗り込んでいた。
その過程でエリスの工作員としての持てる能力を行使して来たが、そこまでする事もなかったと今になって思えて来た。
「まぁ良い。こいつは動きそうだが……リックのガンダムに似ているが少し違うな」
1号機のコックピットも基本的にはリックのAGE-ZEROや他の2号機や3号機と同じではあるが、1号機は指揮官機としての役割がある為、通信機能はセンサー系が強化されている。
その為、コックピットにはモニター類や精密射撃用のスコープなどが増設されている。
「だが、MSの基本動作などいつの時代も大して変わらないもんだ」
エリスはシートに座ると操縦桿を握りコンソールを操作する。
すると、ハッチが閉じて機体のシステムが起動する。
「さて……こいつの性能はいかほどか」
機体のシステムを起動して、すぐに1号機の装備などを確認する。
1号機は主にゼクスシリーズの指揮官機としてAGE-1をベースに開発された汎用型のガンダムだ。
指揮官機と言う役割から全身にはグランサの技術を使い追加装甲が付けられている。
それによって低下した機動力を補う為にバックパックには高出力スラスターと一体化したグラストロランチャーが装備されている。
左腕にはジェネレーターが内蔵され、ビームシールドを出す事も可能な大型シールドを装備し、シールドの先端からはビームシールド、裏側にバズーカのバレルが搭載されている。
右手には強化されたセンサー系と連動して高い精密射撃を可能とするロングドッズライフルが装備されている。
このロングドッズライフルの下部にはシールドの裏側のバズーカのバレルを付ける事が可能となっている。
腰にはビームサーベル、頭部にビームバルカンと基本的な装備も持ち近接戦闘から遠距離攻撃まで一通りの戦闘をこなす事が出来るだけでなく、いくつかのオプション装備も用意されている。
今まではシステムの調整の問題で運用は出来なかった1号機だが、マッドーナ工房でシステムの調整を終えていつでも使えるようにはなっていた。
だが、1号機は複雑な索敵システムを搭載している為、性能を全て引き出す事は非情に困難でだった。
「成程……センサー系を強化した指揮官機か……いろいろと索敵システムを搭載しているようだが、私には不要だ」
機体の性能をチェックしていたエリスは1号機に搭載されている索敵システムの大半を切って必要最低限の物だけを残した。
「さて……」
機体のチェックを終えて後は出撃するだけとなったエリスは操縦桿を握りしめると自然と笑みを浮かべていた。
アセムにはやり尽くしたと言っていたが、実際にMSに乗り操縦桿を握り戦場に戻ろうとするとエリスは理解した。
やはり、自分の居場所は戦場で戦場に出る事に喜びを感じていると言う事だ。
「ブリッジ、ハッチを開けろ。でないとハッチを吹き飛ばす!」
エリスはもはや、自分で作ったキャラを忘れてブリッジに通信を繋いだ。
このままハッチを破壊して勝手に出るのも辞さないが後々の事を考えればハッチを開けて貰った方が良い。
「エリス! 1号機に乗っているのか?」
「そんな事はどうでも良い。私が出て言って敵を皆殺しにしてやるよ」
少なからずエリスの話しを聞いていたブリッジクルーはエリスの態度に凍りつく。
エリスの素を知っているアセムは驚く事は無い。
「行けるのか?」
「愚問だ。私を誰だと思っている」
「良いだろう。発進を許可する」
エリスの力はアセムも良く知っている。
1号機は戦闘能力に置いては他のゼクスシリーズの中間的に位置する為、どの機体の得意分野では敵う事は無い。
それでもエリスの人並外れた実力があれば戦力としては申し分はない。
「良いんですか? 艦長」
「構わない。許可を出さないとハッチを破壊してでも行くだろうしな」
どの道、エリスが出るのであればハッチを壊さないで出撃させた方がマシだ。
下手に出撃を許可しなければハッチを破壊するだけでは済まないかも知れない。
「エリス・アスノ。ガンダム、出るぞ!」
エリスは意気揚々と戦場へと戻って行く。
「この空気、この感じ……これが戦場だ!」
ディーヴァから出撃したエリスは戦場で機体を走らせる。
戦場特有の空気はエリスにとっては心地よい。
「さぁ……私の獲物はどこだ」
1号機はロングドッズライフルを前方に向けて放つ。
1号機の放ったビームは寸分違わぬ正確さでドラドの頭部を撃ち抜いた。
ディーヴァより新たなMSが出て来たところでドラドが1号機にビームライフルを放つ。
「甘い。甘すぎる! その程度で私を殺せると思うなよ!」
1号機は連続でロングドッズライフルを放ち、次々とドラドの頭部を性格に撃ち抜いて行く。
「流石に雑魚狩りはつまらんな……」
記憶的には数時間ぶりの戦闘だが体感的にはずいぶんと久しぶりに感じるが、やはり実力に差があり過ぎると言うのはエリスにとっては退屈でつまらない。
周囲に少しは手ごたえのある敵がいないかをXラウンダー能力を使って捜索するとガンダムと交戦している3機のXラウンダー専用機を感知する。
「ほう、少しは楽しめそうな奴もいるではないか。それにこの感覚は一体?」
感知した気配の中でエリスは一つだけ妙に気になる感覚を見つけた。
その感覚は知らない筈だが、誰よりも知っている感覚だ。
「まぁ良い。私が楽しめればな」
エリスはその感覚の事は一先ずおいておいて、リック達が交戦している宙域の方へと機体を向かわせる。
6機のMSが混戦する中に1号機はグラストロランチャーで横やりを入れた。
ネオ・ヴァイガンの3機は散開して回避する。
「何なの!」
「あれって1号機?」
「誰が乗っている?」
「ド素人は下がってろ!」
「エリスさん!」
1号機はロングドッズライフルを連射する。
通信でエリスはリック達に下がるように警告する。
だが、リックはエリスの変貌に驚いていた。
エンジェルで話した時とは明らかに言動が違う。
それでもモニターに映されているのはエリスで間違いはない。
「エリスってあの子?」
「どうしてエリスさんがガンダムに!」
「うるさい! お前らは邪魔だから下がれと言っている!」
「リック達はディーヴァの防衛に戻ってくれ。Xラウンダー専用機は1号機に任せればいい」
ディーヴァからアセムがそう指示する。
1号機は指揮官機として指揮や後方支援が主な役割ではあるが、エリスなら十分に前線で戦う事も出来ると判断したからだ。
「でも!」
「そいつは大丈夫だ」
「何だか知んないけど、リック!」
「……分かったよ」
リックは納得は行かないが、アセムの指示と言う事もあり、ディーヴァの防衛に戻る。
「逃がすか!」
グルドリンカスタムが後退するAGE-ZEROを追撃しようとするが、1号機はグラストロランチャーで妨害する。
「ヴァネッサ様!」
ナイトギラーガはビームバスターで1号機を狙うが、1号機はビームシールドで防いで、ロングドッズライフルで反撃する。
「新型のガンダムか……」
グルドリンカスタムはシグマシスキャノンを放ち、ミラービットが1号機を襲うが1号機は決して高い機動力を持たないが最低限の動きで回避する。
「3対1か……少し物足りないがウォーミングアップには丁度いいか」
1号機はシールドの裏側に装備されているバズーカのバレルをロングドッズライフルの銃身に取りつけて放つ。
その先にはミラービットがあるが、ミラービットは回避しようとするが回避先にもバズーカは放たれていた。
これがビームであれば反射する事が可能だったが、実弾であるバズーカの弾丸を反射する事は出来ずにミラービットは破壊された。
「さて……次はそこだ」
1号機はバズーカでミラービットを次々と落としていく。
「この!」
ミラーファルシアはビームソードを鞭のように使い振るうが1号機はバズーカのバレルをロングドッズライフルからパージしてバレルがビームで切り裂かれて誘爆する。
そして、爆発でミラーファルシアが1号機を見失っている隙にロングドッズライフルを放ち、ミラーファルシアの左肩を撃ち抜いた。
「まだ、殺しはしないさ。もう少しお前達のは私を楽しませて貰うからな」
「アビー、下がって」
グルドリンカスタムがビームバルカンを連射して、1号機はビームシールドで防いでいると1号機の背後からナイトギラーガがギラーガアックスを振るう。
だが、1号機は後ろを振り向く事なく、機体の低くしてナイトギラーガの一撃をかわすと振り向きざまのナイトギラーガを蹴り飛ばしてロングドッズライフルでナイトギラーガの両腕を撃ち抜いた。
「これで2機目だ。後はお前だけだ」
「何なのアイツ……」
グルドリンカスタムはビームスクレイパーを展開して1号機に突撃する。
1号機はビームシールドで正面から受け止める。
グルドリンカスタムはそのまま前に進み1号機は押されて行く。
「こいつか妙な感覚を放っているのは」
「何……姉様? 違う。誰?」
ぶつかり合う1号機とグルドリンカスタム。
その中でヴァネッサも妙な感覚を感じた。
1号機のパイロットはヴァレンティナと同じ感じがするが、どこか違う感じもする。
「どこの誰だか知らないが……気に入らんな」
1号機はグルドリンカスタムを蹴り飛ばす。
グルドリンカスタムは体勢を整えてシグマシスキャノンを放ちながら1号機へと向かう。
1号機はビームを回避しながら、ビームサーベルを抜いてグルドリンカスタムに突撃するとすれ違いざまにビームサーベルを振るう。
ギリギリのところでグルドリンカスタムは攻撃を回避するが、機体の下部についていたシグマシスキャノンがビームサーベルで切り裂かれる。
「くっ……」
「お前は弄り殺しにしてやるよ」
1号機はグルドリンカスタムの上に位置を取りグラストロランチャーでグルドリンカスタムの左右のアタッチメントを破壊する。
それによりグルドリンカスタムは著しく旋回能力が低下するが、急加速で一度、1号機と距離を取ろうとする。
「ここは一端距離を取るしか……」
「逃がすと思っているのか?」
1号機はロングドッズライフルをグルドリンカスタムに向けると機体後部の推進装置と上部のブースターを撃ち抜いた。
推進力を失ったグルドリンカスタムは破壊された衝撃で体勢を崩すがサブスラスターで何とか体勢を整えるが、1号機の追撃で機体の先端部を正確に撃ち抜かれてしまう。
それによりグルドリンカスタムは推進力を失い、装備も4門のビームバルカンのみと言う状態となってしまった。
「私を弄り殺しにする気?」
「どのように殺してやろうか」
完全に戦闘能力を奪ったグルドリンカスタムをエリスはどうやって中のパイロットを殺すかを考えていた。
いつものエリスであればここまで相手をいたぶると言う事はしないのだが、エリス自身理由は分からないがグルドリンカスタムのパイロットに対しては異常とも言える嫌悪感を抱いていた。
それ故にグルドリンカスタムのパイロットを楽に殺す気は無く、いかに苦しめて殺すかと思っている。
「そうだな。コックピットに穴を空けて宇宙を漂流させるか」
思考の末、エリスはそう決めた。
コックピットに穴を開ければすぐにコックピット内の空気は抜けるだろう。
相手もパイロットスーツを着ている為、すぐに窒息死する事はないだろうが、パイロットスーツの空気などもってもたかが知れている。
その上で宇宙を漂流させればいつ救助されるか分からない中、パイロットスーツの空気が無くなり続けると言うのは精神的に辛いだろう。
1号機は装備している火器ではコックピットを貫いてパイロットも殺してしまう為、直接装甲を剥がさなければいけない事もあり、グルドリンカスタムに接近する。
精神的な圧力をかける為に一気にではなく、ゆっくりと接近する。
1号機がグルドリンカスタムに手を伸ばそうとすると、後方から来たヴァレンティナのガンダムレギーナがレギーナライフルで1号機をグルドリンカスタムから引き離す。
「ネッサ!」
「ちっ……私の邪魔を!」
1号機はレギーナにロングドッズライフルを放ち、レギーナはビームシールドを使いつつレギーナライフルで1号機を牽制し続ける。
「ネッサ! 大丈夫か!」
「何とか……姉様、気を付けて、その新型は今までの3機とはパイロットの次元が違うわ」
「何であろうと!」
レギーナはレギーナビットを展開する。
「母上の名に賭けて私は負けん!」
レギーナビットを1号機に差し向けてレギーナライフルを連射して突撃する。
1号機はビットをビームバルカンで撃ち落してシールドの先端からビームソードを展開してレギーナを迎え撃つ。
「母上が最強である事を証明し続ける為にも!」
「アレは私のレギオンか? 誰の許しを得てそいつに乗る!」
レギーナはレギーナライフルの実体剣を振るい1号機もビームソードを振るう。
2機は互いの剣でぶつかり合い鍔迫り合うが、1号機がレギーナに膝蹴りを入れて更に蹴り飛ばす。
そして、ロングドッズライフルを連射して、レギーナはビームシールドを展開しつつレギーナライフルを向けるがレギーナライフルにビームが直撃した為、レギーナライフルを捨てる。
「こいつ……どういう事だ? グルドリンの奴と同じ気配を感じる」
ロングドッズライフルでレギーナを攻撃しながら、エリスはレギーナからもグルドリンカスタムのパイロットと同じ気配を感じていた。
普通なら、一卵性の双子であってもXラウンダー能力を通じて感じる気配は違うのだが、レギーナとグルドリンカスタムのパイロットはまるで同一人物が乗っているかのように全く同じ気配を感じる。
その2機が同時に同じ戦場にいる為、1人の人間が2機のMSを乗り回していると言う事はあり得ない。
エリスの感覚が正しいのであれば同じ人間がこの場に2人いる事になる。
「そんな事はどうでも良いか。ここで2機とも仕留めさせて貰うからな」
「舐めるな!」
レギーナは両手にビームサーベルを展開して1号機に突っ込み、1号機はビームソードを振るう。
レギーナはビームサーベルを頭の上でクロスさせてビームソードを受け止める。
しかし、1号機はレギーナを蹴り飛ばして頭部のビームバルカンを連射する。
ビームバルカンはレギーナに直撃するが、威力は低い為、装甲を破る事はない。
「ヴァレンティナ様。戦局はすでに傾いています。ここは撤退を」
「……仕方がないか」
1号機により3機のXラウンダー専用機が戦闘不能に持ち込まれている。
1号機以外にもまだ3機のガンダムも健在でヴァレリの方も海賊の相手をしており、ヴァレンティナも完全に1号機に押されている。
すでに当初の優勢は失われて完全に劣勢となっていた。
これ以上戦闘を続けても戦況をひっくり返すのは無理だと言うのがヴァレリの結論だった。
ヴァレンティナもヴァレリの意見に賛同して撤退を決める。
ヴァレンティナはエリスと交戦している間に動けないグルドリンカスタムはすでに部下に回収されている為、後はヴァレンティナが1号機を振り切れば良いだけだ。
レギーナは大量にレギーナビットを展開して1号機へと差し向ける。
「悪足掻きを……」
1号機はビームバルカンを使いつつレギーナビットを落としているが、その隙にレギーナは離脱して行く。
ビットに対処しつつロングドッズライフルを向けるが、ビットの妨害でレギーナを狙う事が出来ない。
「ちっ……逃がしたか」
1号機は高出力スラスターなどで機動力を強化しているが、追加装甲のせいで機動力は大して高くは無い。
ロングドッズライフルの射程から外れてしまえば1号機にレギーナを攻撃する術はなく、追ったところで追いつく事は出来ない。
レギーナが安全圏まで離脱し、ビシディアンが抑えていた部隊も後退を始める。
やがて、ネオ・ヴェイガンは完全に撤退する事となる。
「久々の戦闘だ。まぁ、こんなものか」
エリスは久しぶりの実戦に確かな手ごたえを感じていた。
欲を言えば取りあえず乗った1号機が搭乗機であるガンダムZERO Zと比べると機動力だけでなくあらゆる点で劣るところだが、無い物をねだったところで手に入れられる訳ではない。
1号機も機動力が低い点を除けば何とか及第点を出しても良い性能はあった。
今はそれに満足するしかない。
「さてと、帰るか」
エリスは機体をディーヴァの方に向ける。
A.G.194年、25年の時を超えてかつて地球を救った最強のパイロットが再び戦場へと帰還した。