コロニー「アーヴィン」に向かう事となったアブディエルはその前にMSの部品や弾薬類を調達するために、ファーデーン付近に停泊していたマッドーナ工房を訪れていた。
「どうやったら、こんな壊し方が出来る……」
工房に運ばれたグラディエーターアーマーを見てムクレドがそう言う。
ガンダムZEROの三種類のアーマーの中でも最も厚い装甲を持つグラディエーターアーマーをロールアウトして間もないのに壊して来たから同然の反応と言える。
それもアブディエルにグラディエーターアーマーを搬入したのはほんの数日前で、その数日で壊して工房に持ち込んだのだ、流石に呆れるのも当然の事と言える。
「文句はクライドに言ってやって下さい」
エリーゼはこの場にクライドが居ないためそう言う。
現在、クライドはこっちをエリーゼに任せて小型艇にてファーデーンに行っていた。
クライドも技術者である為、グラディエーターアーマーを工房に持ちこめば何を言われるかは分かっているし、それ以外にもファーデーンには用事もある。
「それと、クライドからこれを用意して欲しいと言っていました」
クライドは工房に来る途中でアンバット戦でのデータを使い、ガンダムZEROのフレーム強化案をまとめたデータディスクをエリーゼに渡していた。
「ほう……成程な……丁度良い」
ムクレドは渡されたデータディスクを見てそう言ってデータディスクをエリーゼに返す。
「それならすぐに用意出来る」
「どういう事ですか?」
「今、製造中のジェノサイドアーマーのハイパービームランチャーを今のゼロで使えば、フレームがもたないのは分かり切っていた事だからな、アーマーの制作と同時にフレームがハイパービームランチャーの威力に耐えうる強化パーツも作ってたんだよ。このデータを見る限りではそいつの強度で十分に耐えることが出来るぞ」
クライドの設計したジェノサイドアーマーのハイパービームランチャーの威力は凄まじく、その威力を想定しての強化案はすでにムクレドに出していた。
その強化パーツを使えばブリーズアーマーもグラディエーターアーマーの負荷にも耐えることが可能だと分かっていたから、クライドはこの場をエリーゼに任ることが出来た。
「すでに殆ど完成しているからジェノサイドアーマーは無理だがそっちだけを先に納入するか?」
「お願いします」
若干、予想外ではあったが、少しでも速くガンダムZEROを強化出来るのであれば断る理由はない。
「だが、グラディエーターの修理には時間がかかるな……ジェノサイドアーマーと同じくらいでなら、予備パーツを含めて納入出来ると思う」
「それでお願いします」
攻撃力の高いグラディエーターアーマーが当分使えないとなるのは痛手だが、世界でも最高クラスの技術を持つマッドーナ工房でそれだけかかるなら、他に持って行ったところでそれ以上かかるか、門前払いが良いところである。
「強化パーツはすぐに持って来る。俺が付けてやりたいところだが、クライドに頼まれている仕事もあるから、そっちも中々手が離せないからな。悪いな」
「いえ……うちのクライドがいつも無茶な注文ばかりお願いして……これだけの無茶を聞いてくれるのはここだけですから……」
大抵のMS鍛冶ではクライドの設計した武器やMSを作る技術力や設備を持ちえないから、マッドーナ工房の設備と技術力はクレマン家の資金同様にパラダイスロストの生命線でもある。
それ故にあまりにも無茶な注文ばかりを頼み、仕事を受けて貰えなくなればパラダイスロストの戦力が大きく限られて来る。
「なに……気にすんな。クライドの仕事は俺も楽しませて貰ってるし、クライドに当てられて創作意欲が湧いて来ちまったからな。本当なら金はいらねぇから俺にも一枚噛ませろ! と言いたいが、うちの嫁が許してくれんからな」
「そうですか……」
エリーゼはムクレドの根っからのメカオタクなところにクライドも将来はこうなるのかと思うのと同時に、妻のララパーリーの苦労が目に浮かび、自分も将来はそんな苦労をするのかと、思いエリーゼは苦笑いをしながら返す。
「あれが試作機のドラーズ……」
アンバットに駐留しているヴェイガンの戦闘艦の一隻にガフランが数機と通常のカラーリングをされているゼダスが一機と紫色のMSが搬入されていた。
紫色のMSがナーガが言っていた試作MSの「ドラーズ」である。
ヴェイガン特有の外見を受け継いでいるが、このドラーズが陸戦を重視した設計を行っている為、飛行形態への可変機構を廃止している。
そして、後の新型機の為のテスト機の役割も担っている。
武装はヴェイガン系のMSと共通して両手にはビームサーベルが展開可能なビームバルカンが内蔵され、胸部には拡散ビーム砲、尾にはロングビームライフルが折り畳まれている。
バックパックにはビームガトリング砲「ドラーズガン」とビームキャノン「ドラーズキャノン」が装備され、砲戦能力に秀でた機体となっている。
また、今までのヴェイガン系のMSにはない手持ちの火器として右手には小型のビームガンと左腕には小型ミサイルが内蔵している小型のシールドが装備され、小型シールドにはバクトの装甲と同様の効果を持つ電磁コーティングがされている。
「へぇ……あれが新型のMSなんだ」
セリアが搬入された機体をチェックしていると、ゼダスのコックピットが開いてパイロットが出て来る。
セリアはそのパイロットを見て一瞬、見間違えかと思ってしまった。
それもその筈である。
ゼダスから降りて来たパイロットはどう見ても幼い子供の体型をしている。
「貴方がデシル・ガレット?」
Xラウンダー専用機のゼダスに乗っているところから、そう尋ねるが内心では外れて欲しいと願った。
ナーガの言い方から若いXラウンダーだと予測していたが、ここまで若いとは流石に予想外であり、幾ら自分達の悲願の為とは言え、幼い子供を戦場で戦わせることに抵抗を感じない訳でもない。
「そうだよ」
しかし、その願いもあっさりと崩れさる。
ヘルメットから見える赤毛が特徴の少年、デシル・ガレットはそう言ってセリアの元に降りて来る。
「僕がデシル・ガレットだよ。よろしくね。お姉ちゃん」
「えっええ……そうね。期待してるわ」
セリアは戸惑いながらも返事をする。
「それにしても……あれが、ギラドにドラーズかぁ……強そうでかっこいいなぁ……まっ僕も活躍すれば、イ
ゼルカント様が新しい強くてかっこいいMSを作ってくれるけどね」
デシルは格納庫に置かれているギラドとドラーズを物欲しそうにそう言うのを見て、セリアは不安に思う。
デシルはブラッドとは違うベクトルで危険だと……
ブラッドは自分の満足する強敵との戦いを楽しむが、デシルは戦いその物を楽しむタイプなのだと。
幼いが故に戦いがどう言う物なのかを理解していない。
戦場では最も厄介な人種と言える。
「そうね……」
セリアはブラッドに続き、厄介な問題児を押しつけられたことに頭を抱えたくなって行く。
一方、マッドーナ工房から小型艇でファーデーンにクライドはジゼルとレオナールを連れて正規の手続きを取ることなく極秘裏に入り込んでいた。
ファーデーンに入りこむとクライドは単独で動き、ジゼルとレオナールは時間を持て余していた。
「ジゼルさん、どうしてわざわざ地下に入るんですか?」
クライドと別れる時にクライドは時間を潰すなら地下に行けと言い残し、二人はファーデーンの地下に来ている。
「そりゃ、あれだろ上じゃいつ戦闘になるか分かったもんじゃねぇからだろ?」
ジゼルがそう言うとレオナールの疑問は更に深まる。
このコロニー「ファーデーン」はサザーランドポートの時の様な連邦軍に対する対抗勢力は無く平和なコロニーの筈だ。
戦闘が起こる可能性があると、するとヴェイガンの襲撃かクライドが揉め事を起こすくらいしか思いつかない。
クライドが揉め事を起こす可能性はガンダムZEROをマッドーナ工房において来ているため、流石のクライドも自重するだろうし、ヴェイガンの襲撃は法則性が殆どなく、地下に潜ったところで安全とは言えない。
「どういう事ですか?ここってそこまで危険なコロニーなんですか?」
「普段はそうでもないけど、ザラムとエウバがたまに戦闘をしているらしいぜ」
ザラムとエウバ、それはレオナールも以前に歴史の授業で習っている。
それは元号はAGになる以前の旧世紀に宇宙移民により増え過ぎたコロニーの数と人口によって起きたコロニー間の戦争の「コロニー国家間戦争」における二大勢力として「ザラム連合」と「エウバ同盟」が存在し、地球圏の覇権を争っていた。
ザラム同盟は小さな政府による自治を求め、エウバ同盟は大きな政府による管理主義を主張し、戦争は数十年も続いたとされている。
「でも、その戦争は100年以上も前に終わっている筈ですよね?」
「知るかよ。そんな事、現にファーデーンではザラムとエウバが戦ってんだ。その理由なんてアタシらには関係ねぇだろ」
確かにレオナールの言う通りコロニー国家間戦争は終結しているが、その戦争ではそちらの勢力が勝った訳でもなく、戦争から100年以上経った今でも、その末裔達はいがみ合い日々戦いに明け暮れているのだった。
「まぁ、そんな事を抜きにしてこじゃれた上よりもアタシは地下の雰囲気の方が懐かしくて落ち着くんだけどな」
「ジゼルさんはこう言うところ育ったんですか?」
レオナールがジゼルに尋ねるとジゼルは驚いくが、すぐに納得が言った風な顔をする。
「お前なぁ……まぁ、お前がうちに来て1年くらいしか経ってないから知らなねぇかも知れねぇけどよ。うちじゃ過去の話を聞くのは御法度だぜ」
パラダイスロストは一般的にテロリストや海賊とされているが、好き好んでテロや海賊行為をしたがる者はいない。
アブディエルのクルーの大半は何らかの理由でヴェイガンに対して恨みを持っていたり、真っ当な道では生きられない者が偶然にクライドに拾われて乗艦することが殆どだ。
そのため、クルー間でも名前以外の素性を知らないどころか、その名前が本名かどうかも分からないこともある。
艦内でクライドとエリーゼくらいしか、クルー全員の境遇を知っている人はいない。
皆が皆、それぞれの理由を抱えているため、クルー同士で無用な争いや傷口を抉りかねない過去の話は本人が自分から話すまでは聞くことも調べることも御法度なのは暗黙の了解となっている。
レオナールはジゼルに対してあっさりとその暗黙の了解を破ったからジゼルが驚くのは無理もない。
「……済みません」
「まぁ、別に良いけどよ。アタシの場合はよ。だけど、あんまり他の奴に効かない方が良いぜ?アタシだってアニキが何でUEと戦うのか知らねぇしな」
「ジゼルさんも知らないんですか?」
今度はレオナールが驚く。
ジゼルはクライドを「アニキ」と言って慕っている。
クライドも何だかんだでジゼルを重宝しているから、かなり信頼しているのはレオナールも良く知っている。
だが、そんなジゼルもクライドがヴェイガンと戦う理由を知らないのは驚くしかない。
「まぁな。UEを恨んでんのは分かるし、アニキは正義感で戦うような人でもないからな……」
「それなのにどうして、クライドさんの従ってるんですか?」
それは純粋な疑問だった。
レオナールとしてもクライドに対して不信を抱いている訳ではないが、クライドの戦う理由も知らずにクライドの為に戦うのも妙な話とも言える。
それが正義感などではないと確信して言えるから更に妙な話だ。
「アニキはアタシの恩人だからな」
「恩人ですか?」
「そっ、さっきも聞かれたが、アタシもこんなところで生まれ育ったんだよ。親の事は何も覚えちゃいねぇ。物心ついた時には親はいなくてよ。似たような奴らが集まって暮らしていた」
人類が宇宙に進出しても貧富の差はそうそう無くならない。
一般的に表沙汰にはならないが、親に捨てられたり何らかの理由で親を失って孤児となりストリートチルドレンになるケースもコロニーによっては少なくない。
その上、コロニー同士の交流も殆どなく、コロニーの住人も他のコロニーに無関心な住人も多いため、そのコロニーで救いの手が差し伸べられることがなければ一生、貧しい暮らしを強いられる者達が殆どだ。
実際にもこのファーデーンも地上と地下の貧富の差は激しいコロニーの一つだ。
「そんな時によ。連邦軍が来てアタシらを連れ去ろうとしやがったんだよ」
「連邦がそんな事を?」
「ああ……アニキが言うのは連邦つっても表で活動している正規の部隊ではなく、非正規の特殊部隊か金で雇った傭兵や海賊の可能性が高くて、アニキ的には特殊部隊の可能性は高くないって話だ」
すでに連邦政府や連邦軍の一部は腐っているが、流石に表だって人攫いなどする訳も無く、ジゼルらを攫おうとしたのは特殊部隊か傭兵や海賊と言った、いざと言う時に無関係を通せる連中を使った可能性が高い。
更に言えば当時はガンダムZEROも完成しておらず、クライドはジゼルを攫おうとした相手を生身でのしている。
不意と突いたとは言え、特殊部隊が若干鍛えているだけ荒事は素人同然のクライドに後れを取るとは考え難いため、後者の可能性が高いとクライドは予測しているがそれ自体に大した意味は無いため、すでに真相を追究はしていない。
「アタシの仲間は連中に殺されたりしてさ……仲間の一人が拉致られて、アタシも逃げ回ったけどよ。数が多過ぎて捕まるって時にアニキに助けられたって訳だ」
「それでパラダイスロストに?」
「そう言うこった。ここなら衣食住を確保してくれるし、コロニーを行き来するから、拉致られたアタシの仲間の居場所を探すことも出来るしよ……まぁ、アタシはそんな事があってここにいんだよ。アタシの話はここまでだ。改まって過去の事を話すとこっぱずかしく手背中がむず痒くてしょうがねぇよ」
ジゼルはそう言って強引に話を終わらす。
そして、二人はジゼルの過去に触れることなく、他愛も無い話をしながらクライドとの合流までの時間を適当に歩いた。
地下でジゼルがレオナールに自分の過去を話している頃、クライドは一人でファーデーン内の豪邸を訪れていた。
その豪邸はファーデーン内で内乱をしている勢力の一つのザラムのリーダーのドン・ボヤージの屋敷だった。
その屋敷の応接室でクライドはボヤージと会っていた。
「最近は顔を出さないからどっかで死んだと思っていたぞ」
クライドの正面のソファーに座っているボヤージは皮肉としてそう言う。
「少し遠出していてな。それよりも……」
クライドはボヤージの皮肉を気にすることなく切り返す。
ボヤージはクライドの事をビジネスパートナーとしてはある程度の信用をしているが、クライド個人はそこまで信用していない。
その為、商談に影響が出ない程度の笑えない皮肉を言う事が多々ある為、クライドも一々目くじらを立てる気はしない。
「弾薬を一式だったな」
クライドがボヤージ邸を訪れていたのはボヤージから弾薬類を買い付けるためだった。
マッドーナ工房でも通常の弾薬を仕入れることは可能だが、クライドとしてもマッドーナ工房の仕事を必要以上に増やすつもりはなく、弾薬類はもっぱらドン・ボヤージから買い付けている。
尤も、特殊な弾頭はマッドーナ工房で製造した物を買うが、ジェノアス改やジェノアス・キャノンのマシンガンの弾薬などはボヤージから買い付けることが多い。
「いつもの手筈で港に送っておく」
「了解した」
クライドはそう言って、足元に置いていたトランクをボヤージの前に差し出し、ボヤージは中を確認することなく、後に控えていた部下に持って行かせる。
「確認しなくて良いのか? 幾らか誤魔化しているかも知れないぜ?」
トランクの中身は弾薬類の代金で金額が金額な為、代金を誤魔化しているかも知れないとクライドは示唆するが、ボヤージはそれを鼻で笑う。
「お前がそんな小さいことをするタマか……」
クライドにとってはボヤージはマッドーナ工房の技術力やクレマン家の資産程重要ではないが、代金をケチって信用を失う程馬鹿ではない。
ボヤージもそこは信用している為、わざわざクライドの目の前で金を数えたりはしない。
そうすることでボヤージの方もクライドを信用していると言う事をアピール出来る為、クライドも代金の誤魔化しをやり難くする狙いもある。
「それよりも、お前らマーロッソのカジノを潰したそうじゃねぇか」
「またその話か……」
以前にもヘンリーに同じ話をされてクライドは内心うんざりしている。
ウィンターガーデンの裏カジノを潰してまだ、そこまで日が経っている訳でもないのに、その話がいろいろなところに渡っているのは非常に面倒なことだ。
「マーロッソとドンは繋がりがあんのか?」
海賊のヘンリーはともかく、兵器の販売をしているボヤージがマーロッソファミリーと兵器を売っていてもおかしくは無い。
マーロッソファミリーのボスのマーロッソは蛇のように執念深いと言われている為、あまり良い状況とは言えない。
「ある訳がないだろ。あいつらは平気で堅気に手を出したり、人身売買や薬物の売買にまで手を出してやがる。そんな奴らが幾ら金を積もうが兵器を売るつもりはねぇよ」
ボヤージはマーロッソのやり口が本気で気にいらないらしく、怒りを隠すことなくそう言う。
ボヤージの商売も褒められたことで無いことはボヤージ自身も自覚はしている。
だからこそ、踏み越えてはいけない一線がある。
マーロッソファミリーはその一線を容易く超えて商売している為、ボヤージは以前からマーロッソファミリーのやり口を快く思っていない。
(兵器の売買をしておいて良く言う)
クライドから見れば人殺しの道具を売っている時点でマーロッソファミリーと何ら変わらないがそれをこの場で言ったところで、ボヤージとの今後の関係が悪くなるだけなので口に出さないでおく。
それと同時にクライドも同じだからでもある。
クライドもヴェイガンに対抗出来るMSを開発しておきながら、その技術を実質的に自分達だけで独占している。
ガンダムZEROの設計データを連邦軍になり渡して、量産や技術の流用を行えばヴェイガンに真っ向から対抗出来うる可能性はあるがそうなった場合、技術者のクライドは前線に出ることは叶わなくなる。
自分の手で故郷や家族の仇を撃ちたいクライドにとってはその状況は非常に好ましくない。
その為、クライドはガンダムZEROやその他の技術を事実上、独占している。
それにより、ヴェイガンの襲撃の被害で犠牲になる者も出て来るだろうが、クライドが自分の手で復讐を果たせなくなることに比べれば、些細なことだと思っている。
それを自覚している為、クライドは兵器を売っているボヤージや、平気で一線を超えるマーロッソファミリーと大差ないと結論付けている。
「エウバとの戦争がなければザラムで潰していたところだ」
「戦争ねぇ……」
ボヤージはラクト・エルファメル率いるエウバとここファーデーンで戦争をしているが、ヴェイガンと戦い続けているクライドからすれば、到底戦争とは程遠いが、サザーランドポートで自分達の利益の為に泳がされていた自称反乱軍に比べれば、相手と戦力が拮抗して戦っているだけ戦争に近いと言える。
クライドとしてもエウバとザラムの戦いが続いてくれた方がボヤージも資金が必要となり、クライドに弾薬を売る為、ファーデーンの市民には悪いがエウバとザラムとの戦いが続いてくれた方が何かと都合が良く、クライド達がどちらかに武力を持って加担すれば容易に決着がつくが自分達の利益の為に何もしないでいる。
尤も、ボヤージもラクトも部外者であるクライドの手を借りることは無いため、クライドがどちらかに加担したくとも加担することは出来ない。
「まぁ、俺のは関係ないから勝手にしてくれ」
「言われなくともエウバに負けるつもりはない」
ボヤージとの商談を終えたクライドはジゼルとレオナールと合流してマッドーナ工房へと戻る。
マッドーナ工房に立ち寄り数日が経過し、その間にガンダムZEROの改良が進められた。
「これで完成なの? 前と何も変わらないけど……」
ガンダムZEROの改良が完了したとの知らせを聞き、エリーゼがガンダムZEROの格納されている格納庫を訪れるがアーマーのついていないガンダムZEROは以前と変わらないように見える。
「何言ってんだよ。エリーゼ、全然違うだろ?」
クライドはそんなエリーゼに「何言ってんだ?」と言わんばかりにそう言う。
「良く見てみろ、関節や胴体、頭部のフレームの材質が違うだろ」
ムクレドがそう言うが、エリーゼには以前との違いが分からない。
「ジゼル、分かる?」
「わかんねぇ……」
エリーゼとともに改良されたガンダムZEROを一目見に来たジゼルにも特に変わったようには見えない。
「あのフレームの材質は見たことがない……師匠、あれはどんな物を使ってるんですか?」
クライドとムクレド以外で唯一、エミリオが違いに気づくがどう違うかまでは分からなかった。
「機体のフレームの関節やコックピット周りを新素材を使ってる。それによって関節の強度が増してるんだよ」
「そう言われてもね……」
クライドの説明があってもイマイチピンと来ない。
「それで、フレーム強度の問題は解決したの?」
ピンと来ないが、重要なのはエリーゼが理解することではなく、以前より出ていたフレームの強度の問題である。
「大方はな。つっても以前よりもノーマル以外のアーマーの稼働時間が増えた程度かな。けど、フレームの素材を変えたから機体の重量が変わったから、OSとかを改良する必要が出て来た」
ガンダムZEROはクライドが数年にもかけて綿密に計算して設計された為、今回のようにフレームの素材を変えただけで重量バランスが変わりOSなどの調整をする必要が出て来る。
MSとはそれだけ繊細な兵器と言う事だ。
特にガンダムZEROの様なワンオフのMSは。
エリーゼは技術的な方面に詳しくはないため、専門家のクライドにその辺りの事は任せようとすると、爆音とともに工房が大きく揺れた。
「何だ!」
「襲撃か? エリーゼ!」
「分かったわ」
爆音が工房の外からしたことから、工房内部の事故よりも外部からの攻撃の可能性が高い為、エリーゼとジゼルはすぐにアブディエルに戻り、クライドはムクレドとともに工房のブリッジに向かう。
「何が起きた!」
クライド達が工房のブリッジに上がると、ブリッジでも状況の確認が行われている。
「多分、外から攻撃を受けたんだろう」
クライドは衝撃の揺れ方からそう予測する。
「クライドの言う通りよ。見て頂戴」
ララパーリーがそう言うと外の映像が出される。
外には5隻のダーウィン級の戦艦と周囲には10機以上のMSが展開している。
「ダーウィン級……連邦軍か?」
マッドーナ工房は独自にMSのカスタムや製造を行っている為、連邦軍が仕掛ける理由はあるが、今までにそんな事は一度も無い。
「違うな。連中のMSはジェノアス以外にもいるから、海賊か何かだろう」
展開しているMSにはジェノアスもいるが、ジラらゼノの様なMSも確認出来る為、連邦軍である可能性は低い。
「それよりも被害はどうなんだ?」
ムクレドにとっては敵の勢力よりも工房の被害の方が重要だった。
工房内には客からカスタムを依頼されて預かったMSや、趣味で作った武器やMSも置かれている為、それらが壊れるのは工房の損害以上の損害を受けることとなる。
「幸い工房の外壁が吹き飛んだだけよ。次の攻撃を受けたら不味いわ」
「そうか……」
取り合えず、被害が外壁だけで済んだことにムクレドは安堵するが、すぐに行き成り攻撃を受けた怒りが湧いて来ていた。
「連邦でないとすると何処の馬鹿だ!」
「そこのファクトリー艦に告げる。お前たちが匿っている戦艦が我らから奪った商売道具を今すぐに返却しろ、さもなければ次はそのファクトリー艦を破壊する」
「成程ね……マーロッソの連中か……」
敵艦からの勧告でクライドは敵の狙いは自分達だと分かる。
そして、目的が自分達がウィンターガーデンで保護したユーリアの奪還である事だ。
「商売道具ね……おやっさん、悪いけどさ……俺は自分の部下を道具呼ばわりされて冷静でいられる程、人間出来てないし部下を道具扱い出来る程冷酷にもなれないんだよな……」
クライドはユーリアを商売道具扱いされたことに腹を立て、内心はらわたが煮えくり返りそうになっている。
クライドは自分の復讐に部下であるアブディエルのクルーを実質的に利用しているが、復讐の道具として使うまでには復讐に取りつかれている訳ではない。
特にユーリアはエリーゼに懐いている為、道具扱いされたことに更に怒りが高まる。
「事情は分からんが行き成り攻撃を受けて工房が破壊されたんだ。遠慮はいらねぇ。連中をぶちのめしてこい!」
「任せろ!」
クライドはそう言ってアブディエルに戻って行く。
クライドがアブディエルに戻るとすでにガンダムZEROにはブリーズアーマーが装備されていた。
クライドは艦に戻るとそのまま、ガンダムZERO Bに乗り込む。
「エリーゼ、敵はマーロッソの一味だ」
「通信はこっちにも届いているわ」
「なら話が速い。連中の目的が俺達なら出て行くまでだ」
エリーゼにはクライドの様子から、止めたところで出撃するのは目に見ているのは考えるまでも無く分かる。
「分かったわ。MSを全機発進後、アブディエルも出港し敵艦の迎撃に向かうわ。それよりもゼロの調整は終わってないんでしょ?」
「その辺りのデータの収集も兼ねる」
ガンダムZEROはフレームの素材を一部変えている為に起きた重量の変化の調整を終えていたが、今のクライドにはそんな事はどうでも良く、重量が少し変化したところで支障が出るほどの戦闘になる訳ではない。
その為クライドは通信を切りアブディエルからMSが射出されて工房の外で戦闘が開始される。
「ジゼルとレオは工房の防衛、シャル、ユーリア、アリスは俺と連中を叩きのめすぞ」
出撃したクライドはそう指示を出して一気に加速する。
ガンダムZERO Bは敵との距離を一気に詰めてロングソードで敵を切り裂いて行く。
「機体が重いな……だが、戦えない程じゃない!」
クライドの予想通り、重量の変化は微量でも実際に戦闘レベルで動かすと機体が重くなっていることが実感できる。
だが、そんな事はお構いなしとガンダムZERO Bは高速で動きまわり、敵を撃破して行く。
「なんか、今日の彼はいつにも増して凄いね」
シャルルはビームライフルで近くの敵を撃墜しながらクライドの戦いを見てそう感じていた。
いつもは冷静な戦いをしているクライドは今日の戦い方はいつもの冷静な戦い方を残しつつも荒々しい。
尤も、それはウィンターガーデン付近でのブラッドのゼダスとの交戦を知らないからそう思える。
「だけど、マーロッソファミリーの評判は聞いているから同情は出来ないけどね」
Gレックスは肩のミサイルポッドのミサイルを一斉掃射して、前方の敵を一掃すると、キャノン方でダーウィン級の一隻に放ち、その一撃でダーウィン級のブリッジに直撃してダーウィン級は撃沈した。
「これも君たちの自業自得だ」
Gレックスは両手にビームサーベルを持ち、両手の小型シールドに装備されているビームガトリング砲を連射しながら、敵に接近して切り裂いて行く。
敵もマシンガンで応戦するも、厚い装甲を持つGレックスには大した効果はない。
「あの様子じゃ、アタシらに出番はなさそうだな……」
「油断は禁物ですよ」
マッドーナ工房の前方に配置されているジゼルは戦闘の様子を見てそうぼやいていた。
シャルルの加入で戦力は増強され、今回はクライドがいつも以上の戦いをしているため、ジゼル達のところまで敵機が来ることはなく、ジゼルがたまにビームキャノンで適当に援護する程度しかやることがない。
「貴女達、邪魔よ。どきなさい」
工房から出て来たアブディエルからエリーゼがそう良い、2機が道を開けると、工房から出航したアブディエルが敵艦目掛けて主砲を放ち、ダーウィン級が轟沈した。
「こりゃ、アタシらの出番はマジで無いかもな……」
更に主砲でダーウィン級を沈めるアブディエルを見てジゼルがそう言った。
「蛇のようにしつこいと言う噂は本当のようですね」
デスドールはビームサイズで敵を薙ぎ払う。
周囲の敵はデスドールに集中砲火を浴びせるがデスドールは火線の隙間の縫うように回避する。
「ですが、幼女一人にここまでするのは些か理解しかねますね」
ビームサイズで敵を切り裂き、片手にビームスプレーガンを持ち、攻撃の隙をついて接近しようとする敵機を落とす。
そして、ダーウィン級の火線を掻い潜り、ブリッジに取りつくとビームサイズでブリッジを破壊し、離れながら両手にビームスプレーガンを持ち、ダーウィン級に止めを刺す。
ダーウィン級が残り一隻となったところで流石に分が悪いと判断したのか、ダーウィン級は反転を開始する。
「逃げる気ですか……良い判断ですが、今日のクライド様は機嫌が悪いらしく逃がしてはくれないようですね」
デスドールのモニターの端で逃げる為に背を向けた敵をガンダムZERO Bは容赦なくロングソードで切り捨てている。
普段なら、ヴェイガンでなければ逃げる敵を後ろから撃つ様な真似はしないが、今日のクライドは虫の居所が悪く、1機たりとも逃がす気はないらしい。
「ユーリア、後は貴女が締めて下さいな」
「分かってる。これは私のせいで起きた戦闘だから……私が終わらせる」
ユーリアのジェノワーズがビームライフルで進行上の敵を撃墜しながらダーウィン級の前に出る。
「私はもう……貴方達の道具じゃない。パラダイスロストの一員。だから……」
ユーリアが引き金を引き、ビームライフルが放たれてダーウィン級のブリッジに撃ち込まれる。
その後も何発ものビームを撃ち込んで最後のダーウィン級が沈む。
全ての戦艦が沈んだことでマーロッソ一味の戦意は完全に削がれて、残ったMSもすぐに殲滅されて戦闘は終結した。
「良いのか? 今回は俺達のせいだから修理費くらいは出すぜ?」
戦闘から数日が経ち、あれ以来マーロッソファミリーからの襲撃も無く、ボヤージから買い付けた弾薬類をファーデーンから工房に持って来てアブディエルの出港準備が完了している。
その間にガンダムZEROの微調整も終えている。
クライド達は先での戦闘で破損した工房の外壁の修理費を出すと言ったがムクレドはそれを必要ないと言う。
「先の戦闘で回収した連中のMSの残骸を売れば、修理費くらいにはなるさ、お前たちはこれから大変なんだろ? 少しでも金はとっておいた方が良いだろ」
「悪いな。おやっさん」
クライドは素直にムクレドの好意に感謝する。
先での戦闘では回収したMSの残骸を売ったところで修理費の足しにすらならないのは分かり切っていたが、これからの航海が大変になることはムクレドも気づいており、そのために修理費をいらないと言うのだから、感謝するしかない。
「グラディエーターだが、ジェノサイドがロールアウトするころには直る予定だ」
「頼みます」
結局、ガンダムZEROの改良で時間を費やしグラディエーターアーマーは工房に逆戻りとなった。
「おう、お前らこそアーマーが完成しても付ける機体がないとか言う事だけは勘弁だからな」
「そのつもりだよ。おやっさん」
「なら良い」
ムクレドがそう言って工房との通信を終えた。
「さてと……出港の準備は出来たわね」
「いよいよ。アーヴィンに向けて出港だね」
アルフレッドがそう言うと、エリーゼはあからさまに嫌な顔をする。
覚悟は決めたが、それでも出来れば行きたくはないようだ。
「今更、無駄な抵抗だぞ。エリーゼ」
「分かってるわ。クライド……」
すでに次の目的地としてコロニー「アーヴィン」に向かう事はアブディエルのクルーに伝わっている以上、艦長のエリーゼが何を言ったところで駄々を捏ねているだけにしかならない。
そのため、エリーゼも改めて覚悟を決めた。
クライドとエリーゼの過去に関わる因縁の地へ向かう事を……
アブディエルはマッドーナ工房を出港すると、2人の因縁の地、アーヴィンへと進路を向けて航海を開始する。