機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第131話

 

 

 

 大気圏に突入したディーヴァはインド洋のど真ん中に降下した。

 幸い、地球に降下した1号機と距離が離れていなかった為、すぐに回収する事は出来た。

 しかし、リックのAGE-ZEROの行方は分からなかった。

 ある程度の降下予測ポイントの計算は出来たが、捜索の為には一度ディーヴァをどこかに着陸させる必要があった。

 近くの無人島にディーヴァを着陸させてようやく、リックの捜索に乗り出す事が出来た。

 ディーヴァからは重力下での飛行能力を持つ2号機が先行し、マッドーナ工房で積み込んでいたウェイボードに乗ったアデル・ガーディアが数機、出撃してリックの捜索に入る。

 ディーヴァの周辺に敵襲に備えてアデル・ガーディアを交代で防衛に付かせてようやく体勢を整える事が出来た。

 格納庫では回収した1号機の修理を始めていた。

 

「1号機の方の修理はどのくらいかかる?」

「装甲の方は総とっかえですけど、まぁ……死ぬ気になれば時間はかかりません。問題が出ると一番厄介な索敵システムは使ってなかったですから損傷は殆どないですからね」

 

 キャロルがアセムに1号機の状態の報告をする。

 1号機は大気圏に突入する際の摩擦熱とインド洋に落ちた時のダメージを受けたが、1号機は元々パイロットは指揮官が乗る事を前提に設計されている為、非常に強固な作りになっている。

 そのお陰で損傷はディーヴァ内で可能なレベルで済んでいる。

 損傷した場合の1番の問題点は複雑な索敵システムだったが、エリスが索敵システムを最低限だけしか使っていない為、索敵システムへの損傷は最小限に留まっており直す事も難しくはない。

 

「でも、こっちの修理が終わってもパイロットの方は大丈夫なんですか?」

「ああ……骨折と打撲だそうだ」

 

 キャロルも1号機からエリスを救出した際にエリスが生きていると言う事は知っていたが、医務室に運ばれた後の事までは聞いてはいない。

 すでにアセムの方に医務室からエリスの容体に関しては報告が行っていた。

 エリスはインド洋に落ちた時の衝撃で腕や足を含めた数か所の骨折と全身の至るところに打撲を受けたと言う診断結果が出ている。

 医療スタッフもあの状況で死なないどころかこれだけの怪我で済むなどあり得ないと言って来ていたが、エリスの出生を知るアセムからすれば大して驚く事ではない。

 

「だが、当分MSには乗れそうにない」

 

 命の危険はないが、エリスの怪我は決して軽い物ではない。

 エリスが再びMSに乗れるようになるまでは最短で1か月はかかる。

 そんな状態でエリスが望もうともMSに乗せる訳にはいかない。

 

「とにかく、修理の方はやっておいてくれ。それとあのMSはどうだった?」

「爆発物や発信機に類は簡単に調べたところでは見つかりませんでした。引き続き調査は続けます」

 

 パイロットのエリスは当分、戦闘に出る事は出来ないが1号機は使えるようにしておいて損はない。

 そして、大気圏突入時に乗り込んで来たローザのジェネシスカスタムの方も調査は続けられている。

 簡単に調べた限りでは爆発物や発信機の類は発見されていないが、簡単に見つからないように仕込んでいる可能性も否定は出来ない。

 乗っていたローザはアセムの方が手を離せない事もあり、独房の方で身柄を拘束させてある。

 

「頼む」

 

 いつまでも独房に入れていたら何をしでかすか分からない為、アセムはローザの真意を問うべく独房へと向かう。

 

 

 

 

 

 大気圏のギリギリのところでディーヴァに仕掛けたネオ・ヴェイガンは作戦を終えてグレート・エデンまで帰投している。

 化物じみた性能を発揮した1号機のパイロットを殺す為に動きを封じた上で地球に叩き落とすと言う作戦は成功したが、戦闘中にヴァネッサの5号機も大気圏に突入してしまっていた。

 5号機も大気圏で燃え尽きる事は無い為、無事に降下出来てはいるが、地上にネオ・ヴェイガンの勢力下は無いに等しい。

 

「まだネッサは見つからないのか?」

「こっちも海中から探してはいるんですがね……」

 

 グレート・エデンに帰投したヴァレンティナは自室から地上にいるカール・バルマーに通信を送り地球に降下したヴァネッサの捜索を命じていた。

 カールはヴァレンティナ直属の親衛隊の一人だ。

 屈強な体格を持つカールは現在はインド洋に部隊を潜ませている。

 ヴァネッサが降下したと思われるポイントからは大して離れてはいないが、未だに発見する事は出来てはいない。

 その背景には余り大規模な部隊を動かせば連邦軍に自分達の事が発見されると言う危険性がある為で捜索には少数で動くしか出来ない。

 

「分かっている。ネッサは私の妹だ。そう簡単に死ぬ筈がない」

「それで捜索の仮定で例の戦艦の位置を特定する事が出来ましたぜ」

「ディーヴァか……」

 

 カールの部隊がヴァネッサを捜索する過程で偶然にも地球に降下したディーヴァの位置を補足する事に成功していた。

 幸いな事に向こうはこちらが位置を掴んでいると言う事には気づいていないと言うのはディーヴァの動きからも分かる。

 

「連中の動きはどうなっている?」

「監視は続けていますが、如何なさいます?」

「そうだな……奴らの動きからAGEシステムを搭載したガンダムはネッサ同様に行方を掴んでいないと言う事が分かるな」

 

 監視映像にはディーヴァから何機かのMSを射出している映像がある。

 恐らくはヴァネッサの5号機と共に地球に降下したガンダムを捜索しているのだろう。

 

「今なら奴らを叩く事も容易だな」

「では」

「ネッサの捜索を続けつつディーヴァを叩け」

 

 AGEシステムを搭載したAGE-ZEROが不在な上に1号機もパイロットは無事ではない為、今のディーヴァにはまともな戦力は残されていない。

 ディーヴァを沈める事が出来ればネオ・ヴェイガンにとって最も厄介とも言えるAGEシステムを封じる事が出来る。

 今がその好機である為、ヴァレンティナはヴァネッサの捜索と同時にディーヴァへの奇襲作戦を指示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アセムが独房に着くまでローザは大人しくしていたらしく特に問題は起きてはいないようだった。

 独房の前で警備をしていた生徒に少しの間席を外すように指示を出してアセムは独房の鍵を開けて中に入る。

 鍵を開けてもローザは特に行動を起こす事もなく、独房の椅子に座っていた。

 ディーヴァに乗艦した時はMSに乗っていた為、パイロットスーツだったが、今は学園の制服を着ていた。

 これは身柄を拘束する際にパイロットスーツに武器や通信機を隠し持っていた時の事を考えて確実に武器が仕込まれていない予備の制服に着替えさせた。

 尤も、着替えの際に保安かかりに生徒も着替えまで監視する訳にはいかず、一人で着替えさせているのでその時点で着替えをさせる意味はない。

 だが、ローザの方も特に武器を隠し持つと言う事はしなかった。

 取りあえず大気圏で燃え尽きて死ぬと言う事は回避し、ディーヴァに乗り込む事には成功した。

 だが、それはあくまでも任務の第一段階をクリアしたに過ぎない。

 次はディーヴァの艦長であるアセムの信用を得る事が第二段階だ。

 ディーヴァへの乗艦はあくまでもあのままではジェネシスカスタムが大気圏で燃え尽きてしまう為の人道的立場から乗艦させたと考えるべきで現在の状況を考えると信用はされていないと見た方が良い。

 ここでアセムの信用を勝ち取る事が出来なければ乗って来たジェネシスカスタムを取り上げられてディーヴァから放り出されるか、次に粛清委員会と交戦する際の人質に使われるかも知れない。

 どちらにせよ、任務の失敗以上の失態となる事だけは確かだ。

 

「こちらもいろいろとばたついていてな。不自由をかけてしまった」

「いえ、当然の処置だと思っています」

 

 今まで何の情報もなく、独房に入れられていた事は当然の事だとは思いつつもやはり良い気はしていないが、それを表に出す事はしない。

 少しでもアセムに良い印象を与えた方が任務の遂行の確立が上がるからだ。

 

「さて、ディーヴァに無理に乗り込んで来た目的を聞かせて貰おうか」

 

 アセムもローザが何かしらの意図を持ってここまで来た事は想像は出来ている。

 MS隊を帰投させて防衛システム以外に防衛力を持たないディーヴァを沈める事は簡単に出来た。

 それをせずに人道的立場を利用してまで乗り込んで来たと言う事は少なくともディーヴァをすぐに沈めると言う事ではない。

 そして、ローザを独房に入れてすでに数時間経過している。

 その気になればアクションを起こす事も出来たはずだ。

 ローザも正規の軍人でこんなところに送られて来た事からも、白兵戦になれば単純な腕っぷしならともかく戦闘技術においては素人に毛の生えた程度のディーヴァの保安要員では相手にはならないだろう。

 だが、ローザは独房に入れられてもアクションを起こさなかった事からも敵意がないと言う事は伺える。

 尤も、アセムにそう思わせようとしていると言う可能性も否定は出来ないが、そこまで考えてしまうと可能性は無限に出て来る。

 どこかで折り合いをつけてローザの行動を判断しなければならないしたところでアセムは敵意がないと考えて直接話す事を決めた。

 

「ガレット少佐より特命を受けました。私をディーヴァに同行し貴方方の行いを見極めろと。場合によっては協力する事も辞さないとも言われています」

「成程……全くこちらの懐事情も踏まえての人選と言う事か」

 

 ローザが乗って来たジェネシスカスタムは指揮官用の機体である事はアセムも知っている。

 今のディーヴァに必要な人材を知った上で送り込んでいると言う事は向こうもこちらの懐事情をある程度は知っていると言う事だ。

 

「それでどうします?」

「どうするも何も断ると言う選択肢はあるのか?」

 

 アセムの言葉にローザは少し反応する。

 一見、返答の選択肢はアセムにあるように思えるが、ローザからは若干の殺気が漏れている。

 もしも、断れば何か行動を起こす目もしている。

 流石のアセムも身体能力は衰えている為、相手が女とはいえローザと取っ組み合いになったら確実に勝ち目はないだろう。

 つまりはアセムに選択肢は始めから用意されていないと言う事だ。

 仮にアセムが護衛を連れて話しを聞いたとしても恐らくは結果は変わらないだろう。

 ローザをディーヴァに乗艦させた時点で向こうの勝ちは確定していた。

 尤も、見捨てると言う選択を取る事は論外である為、勝負にすらなっていない。

 

「本当にこちらに協力する意図はあるんだな?」

「それはそちらの目的次第です」

「そうか……仕方がない」

 

 どの道、断る事が出来ない以上は全てを話しローザとそのバックにいるギルバートの協力を得る事の方が良いと判断し、アセムはこれまでの事をある程度掻い摘んでローザに話した。

 

「EXA-DB……私も聞いた事があります。かつてのヴェイガンの技術力の出所でしたね。しかし、旧ヴェイガンからの技術協力を受けてすでに長い年月が経っています。今更、EXA-DBを手に入れたとて戦局に影響を及ぼすとは思えません」

「ヴェイガンが持っていたEXA-DBの情報はほんの断片に過ぎない。もしも、EXA-DBをネオ・ヴェイガンが手に入れれば蝙蝠退治戦役に逆戻り……嫌、それ以上の状態に戻る事も考えられる」

 

 ヴェイガンからの技術協力によって連邦軍のMS開発は大きく進んでいる為、今更EXA-DBがさほど重要とはローザは思えなかったが、今、連邦が握っているデータなどはEXA-DBの一端に過ぎなかった。

 EXA-DBの本体に眠るデータにはどんな超兵器が眠っているかは分からない。

 その為、下手をすれば蝙蝠退治戦役の二の舞になり兼ねない。

 ローザも蝙蝠退治戦役の事は学生時代に歴史の授業で習っている。

 すべての始まりの天使の落日により連邦軍は組織されたが、そこから14年間は蝙蝠退治戦役の最後の年の数か月までヴェイガンに対してただの一度も勝利する事は無かった。

 それ以上の事が起きると言う事は明確に想像が出来ずとも最悪の状況である事は理解できる。

 

「EXA-DBとはそれ程の物なのですか」

「ああ……今でこそは余り馴染みがないかも知れないがコロニー国家間戦争時の兵器は今の兵器を圧倒的に凌駕していると言う事は俺達の世代では誰もが知る事だ」

 

 今の時代では過去の戦争と言えばヴェイガン、ネオ・ヴェイガン、UIEとの戦争を指しコロニー国家間戦争と言えば大昔の戦争と言う認識でしかない。

 その為、その当時の兵器と言っても技術者以外ではヴェイガンが使っていた技術しか知られていない事が多く、技術者ではないローザがその脅威にピンと来ないのも当然の事ではある。

 

「だからこそ、EXA-DBの扱いには細心の注意が必要だ」

「それは理解出来ました。ならばなおの事、軍や政府の協力を仰ぐべきです」

「確かに軍や政府の力を使えばEXA-DBに辿りつく事はそんなに難しい事ではない。だが、問題はその使い方だ。使い方を間違えれば過去の二の舞になる」

「軍も政府もそこまで愚かではありません。過去の戦争を教訓に同じ間違いを起こす事はあり得ません」

「確かに今の政府の大半はネオ・ヴェイガンに対する危機感は少ない。あのアルダン議員もそこまでの事はしないだろう」

 

 今の連邦政府の大半はネオ・ヴェイガンの事を重要視はしていない。

 強硬派の代表格であるオーギュスト・アルダンも危険視はしていてもEXA-DBを戦力増強に使う事はあっても必要と思われる程度の増強に留めて明らかに過度と思える増強はしない筈だ。

 

「だが、EXA-DBと言う世界をひっくり返す事の出来うる物を連邦が手に入れたと言う事が公になるとそれで世界を自分の好きにしようと思う者達が出て来るかも知れない。ならば、EXA-DBの存在は秘匿され場合によっては破壊した方が世界の為になるかも知れない」

 

 現在でこそはかつてのフリットのように過激な殲滅論や強行的な姿勢は過去の戦争を教訓に自粛する動きが多い。

 オーギュストも強行派ではあるが、戦力の増強はあくまでもネオ・ヴェイガンや反政府勢力に対応が出来る程度に留めている。

 だが、連邦がEXA-DBを手に入れるとその中のデータを使い世界を自分の好きにしようと野心を持つ者が現れないとは誰も言い切れない。

 その可能性が常にある以上はEXA-DBの存在その物が新たなる戦争の火種になり兼ねない。

 再び戦争が起こるくらいならば、EXA-DBの中のデータの恩恵により世界を豊かにするよりもEXA-DBを完全に破壊して葬り去るべきだと言う考えがある為、アセムも公にしたくはない。

 

「成程……分かりました。仮定の域を出ませんが一理あります。こちらとて戦争をしたいと言う訳ではありませんから」

「つまり、君は俺達の行動を認めると言う事か?」

「戦争を回避すると言う事であれば私達粛清委員会の任務の内でもあります。少々やり方は異なりますが」

 

 かつては内通者の粛清が主な仕事ではあったが、今は内通者を早期発見し、早期に粛清する事でネオ・ヴェイガンに物資や情報が漏れる事を防ぐ事でネオ・ヴェイガンの戦力の増強を防ぎ戦争を起こさせないようにする事が粛清委員会の主な仕事となっている。

 その為、アセム達のEXA-DBを極秘裏に抑えて有効活用すると言う事は大きな括りでは粛清委員会の任務から外れているとは言えない。

 

「そう言ってくれて助かる。こっちも今は何かと人手が足りないからな。付いて来てくれ。現状を把握して貰いたい」

「分かりました。艦長」

 

 アセムも少なくとも今はローザは敵ではないと判断した事でディーヴァの戦力として数える事にする。

 アセムの許可も得た事でローザはアセムの後について独房から出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アセムはローザをブリーフィングルームへと連れて行く。

 そこで現在のディーヴァの位置を表示する。

 その場所を確認したローザは顔を少し顰める。

 

「よりにもよってインド洋ですか……」

「ああ、面倒なところに降下したものだ」

 

 ディーヴァが降下したインド洋はローザの言う通り面倒な場所であった。

 この辺りの宙域には数年前から海賊の出没が確認されている。

 ビシディアンのような宇宙海賊ではなく元々の意味で使われる海賊だ。

 連邦軍や民間の輸送船を狙って物資を強奪し、輸送船を完全に破壊している為、ビシディアンの宇宙海賊よりも性質が悪い。

 襲われた輸送船に生存者がいるケースは殆ど無い為、軍でも実体は殆ど掴んではいないが輸送船の破壊具合から海賊は水中戦用のMSを何機か所有していると言う事は分かっている。

 連邦軍は地球での戦闘は戦争の終盤になるまで殆ど無かった為、コロニー内でも使える陸戦用のMSの開発は進んでいても地球の限られた地域でしか運用の出来ない水中用MSの開発は進んではいない。

 ヴェイガンからの技術提供でウロッゾのような水陸両用MSを運用するも元々の技術体系が違う為、余り主力となり得る事は無かった。

 その為、連邦軍は海賊を相手にする事なく、海賊の手の届かない高高度で物資の輸送を行う事で海賊の襲撃から逃れていた。

 しかし、今のディーヴァは余り高度を高くして航行すると地球軌道上の軍に発見される恐れがある為、高度を上げる事は出来ない。

 そうなれば海賊の手の届く高度で進む事になり海賊の恰好の獲物となるだろう。

 幸い、機動力を確保する事を目的にウェイボードを積んでいる為、海上での戦闘は出来なくはないが、水中の敵に対応できる武器は殆どない。

 今、海賊に襲撃されると言う事は非常に面倒な事になる。

 

「今のディーヴァは戦力を大きく欠いている。AGEシステムを搭載したガンダムは現在消息不明で2号機を偵察に出している。1号機はパイロットが負傷で修理してもすぐには使えない。3号機は重力下では砲台としてしか使えん」

「負傷?」

 

 大気圏に突入する際にAGE-ZEROは消息を絶っている。

 ある程度の降下予測ポイントはすでに計算しており、エイミーを向かわせている。

 ハーマンの3号機はその重量が故に重力下では無重力下のように動く事は出来ず今は強力な砲台くらいしか使い道は無い。

 エリスの1号機は修理中だが、それ以上にエリスが負傷している為、使えない。

 搭載している4機のガンダムの全てが使えない状況にあり、今のディーヴァの戦力の要はアンナのGハウンドだ。

 つい先ほどまではアンナも自分のウェイボードを使って捜索に加わると言って聞かなかったが、アンナまで捜索に加わってしまうとディーヴァにはアデル・ガーディアしかまともに使える防衛戦力はなくなる為、何とか言い聞かせた。

 だが、それ以上にローザは1号機のパイロットの負傷と言う事が引っかかった。

 ローザも先の戦闘で1号機が敵の罠に嵌められて地球に降下したと言う事は見ていた。

 あの状況で大気圏に突入し、水面に激突すればパイロットは負傷では済まない。

 しかし、アセムは1号機のパイロットは死亡ではなく負傷と言っている。

 

「ああ、幸い大した怪我ではないが暫くはMSに乗せる事は出来ない状態だ」

「まさか……」

 

 普通の人間にそんな事はあり得ないが、アセムがそう言っている以上それが真実である事は確かだ。

 信じられない事ではあるが、それをここで議論したところで事実を変える事は出来ない以上は考える事は別にある。

 

「艦長、今後のルートの事で進言します」

「何だ」

「本艦の現在位置はここです。ここから南に下ればそう遠くない距離に南極があります。ここは連邦軍の南極基地の防衛圏内ですが、あそこの防衛圏などあってないような物です。ですが、海賊やネオ・ヴェイガンにとっては近づきたくはない場所でもあります。何が出て来るか分かりませんからね。その為、南極を通り南米の旧ロストロウラン基地を目指します。あそこはすでに破棄されていますが、戦艦を1隻宇宙に上げるだけの設備は残っているはずです」

 

 ローザは進言したルートをモニターに表示する。

 現在の位置から南極大陸はさほど遠くない距離にある。

 南極には連邦軍の南極基地がある。

 南極基地は戦略上は何の価値もないが、ここでは新兵器や新技術の実験場がある。

 その為、防衛圏内でも派手に動かなければ向こうも動く事は余りないが、逆に戦闘行為などの派手な行動を起こすと流石に対応せざる負えない。

 その時に実験中の新兵器の実戦テストとして投入されかねないと言う危険がある為、海賊もネオ・ヴェイガンもそう簡単には手を出しては来ないと推測している。

 その後は南米のロストロウラン基地を目指すと言うのがローザの進言だ。

 民間の施設では軍や政府の手が回る危険があるが、ロストロウランはすでに軍は破棄している。

 今では無法地帯として何が出て来るか分からないが、軍や政府を敵に回すと後々で面倒な事になり兼ねないと言う事を考えれば多少のリスクを背負う必要はある。

 ロストロウランに到着し場合によっては制圧すればそこの機材を使ってディーヴァを宇宙に上げる事も可能だ。

 

「成程な。南極基地には俺も顔が効く。やってみる価値はあるか」

 

 更には南極基地の現司令官に対してアセムは個人的に顔が効く為、もしも戦闘になっても何とか出来るかも知れない。

 南極大陸を横断中は水中から敵が襲って来る心配も海上を進むよりかは少ない。

 ある程度の進路が決まるとブリーフィングルームの通信機が鳴り、アセムが出る。

 

「分かった。すぐにブリッジに上がる。MS隊を出撃させてディーヴァの守りにつかせろ」

 

 アセムは指示を出して通信を終える。

 その内容からローザも内容におおよその検討が付いている。

 

「敵襲ですか?」

「分からん。だが、連邦でもネオ・ヴェイガンでもないとすると噂の海賊かも知れん」

 

 ブリッジからの報告は所属不明のMSが海中より接近していると言う事だ。

 敵が海中と言う事もあり機種までは特定出来てはいないが、進行速度から水中用のMSである事は推測出来ている。

 そこから件の海賊が襲撃して来たと言う可能性も出て来る。

 

「私もすぐに出られるように待機します」

「頼む」

 

 アセムはすぐにブリッジへと向かいローザは格納庫へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディーヴァが海中からのMSを補足し防衛体勢を整える前に海中から接近するMSが無人島に上陸して来る。

 海中から現れたMSは2種類のMSだ。

 どちらも水中戦用のMSだがヴェイガンのウロッゾではなく水中型ジェノアスとアデル・ダイバーだ。

 水中型ジェノアスもアデル・ダイバーも水中戦を主眼において開発された機体だ。

 水中型ジェノアスはアデルの開発で一線から退きつつあったジェノアスⅡを母体に開発されている。

 水圧に耐える為に装甲を増強している。

 装備は水中での戦闘を目的としている為、水中では殆ど使えないビーム兵器を装備せずに水陸両用のバズーカ、ミサイルランチャー、マシンガンの3種類の内どれかとシールドにはヒートナイフが装備されている。

 アデル・ダイバーは水中戦用のダイバーウェアを装備したアデルだ。

 両肩にはミサイルが内蔵され、脚部には水中用のスクリューが内蔵されている。

 両腕には小型シールドと3つの刃を持つヒートクローを装備している。

 オプション装備として水中用マシンガン、三つ又のトライデントスピアなどを装備している機体も確認できる。 ディーヴァのMS隊も上陸する水中型ジェノアスとアデル・ダイバーの迎撃に入る。

 無人島の足場は砂地である為、アデル・ガーディアのパイロット達も陸戦には苦労させられている為、多くのアデル・ガーディアはシールドで身を守りつつも動く事なくドッズライフルで応戦している。

 対する海賊のMSは砂地での戦闘に慣れているのか砂地に足を取られる事なく進軍していた。

 

「機体が重い!」

 

 3号機のハーマンは事前に3号機は重力下では殆ど動けないと言う事は聞いていたが、予想以上に機体が動かないと言う事を痛感している。

 3号機はアームドキャノンを放つが、水中型ジェノアスは飛び上がって回避してバズーカを放って来る。

 水中型ジェノアスのバズーカでは3号機の装甲には大した損傷を与える事が出来ないが、それでも直撃を受ければ無傷と言う訳にもいかない。

 

「それにチャージも遅い!」

 

 アームドキャノンも地上では放熱やチャージにいつも以上の時間がかかり、唯でさえ連射の出来ない3号機の砲撃は使う事が出来ずに水中型ジェノアスやアデル・ダイバーの良い的になっている。

 

「3号機は下がって砲撃をぶっ放しとけ!」

 

 アンナのGハウンドがドッズライフルⅡBで水中型ジェノアスを撃ち抜いて破壊する。

 3号機とは違い機動力を重視しているGハウンドは重力下でも十分な機動力を発揮する事が出来る。

 Gハウンドは3号機の前に出るとドッズライフルⅡBを連射する。

 だが、砂地に着地すると砂に足を取られて機体は膝をついてしまう。

 

「くっそ! 何なんだよ!」

 

 膝をつき敵の集中砲火を受けるがシールドで身を守りつつドッズライフルⅡBで応戦する。

 

「パチモンの海賊がエラそうにしやがって!」

 

 Gハウンドは敵の攻撃力が低い為、持ち堪えているが、海中から新たなるMSが飛び出して来る。

 

「まだ出て来るのかよ!」

「ガンダムもどきか!」

 

 飛び出して来たMSはウロッゾだ。

 ウロッゾはウロッゾキャノンを放ち、Gハウンドは大きく飛び退いた。

 

「宇宙海賊が地球で何が出来る!」

 

 ウロッゾはミサイルランチャーを放ち、Gハウンドに直撃して砂地へと撃ち落される。

 

「糞ったれ! 機体が思うように動かせねぇ!」

「所詮はガンダムもどきか。カール様が出るまでもない」

 

 ウロッゾのパイロット、ダリウス・デーニッツは砂地で動けないGハウンドに留めを刺そうとするが、横やりが入り後ろに飛んだ。

 

「増援か」

「下がりなさい。海賊」

「てめぇ!」

 

 Gハウンドの前にローザのジェネシスカスタムがウェイボードから降りて着地する。

 アセムの許可を得てローザも出撃準備に入っていたが、ディーヴァへの着艦時に危険物が搭載されていないかのチェックですぐには使えなかったが、ようやく出撃可能な状態となった為、ローザも出撃して来た。

 ローザに助けられる形となったが、宇宙海賊と言う立場上、軍人であるローザに対しては良い感情を持っていない為、アンナは素直に感謝する事は無い。

 

「貴女は後方に下がってディーヴァの防衛に回りなさい。ここは私が抑える」

「後から出て来て勝手な事を!」

「アンナ、聞こえるな。ここはローザの指示に従え」

「……了解」

 

 軍人であるローザの指示に従う事は気に入らないが、アセムの指示である以上はアンナも聞くしかない。

 ジェネシスカスタムはハイパードッズライフルを放ち、ウロッゾは後退しつつミサイルランチャーを放つ。

 

「ちっ! 連邦の新型がいるなんて聞いてないぞ!」

「まずは雑魚から叩かせて貰うわ」

 

 ジェネシスカスタムは頭部のビームバルカンでミサイルを撃墜するとスラスターを使って一気に加速する。

 水中型ジェノアスをハイパードッズライフルで仕留めるとアデル・ダイバーがヒートクローで遅いかかるが腰のビームガンで頭部を破壊すると大きく飛び上がる。

 その後方にはアデル・ガーディアが数機でドッズライフルを構えていた。

 メインカメラが破壊された上にジェネシスカスタムに注意を向けていたアデル・ダイバーは正面のアデル・ガーディアに気づく事なくドッズライフルを撃ち込まれて撃墜された。

 

「成程。実力は低いけど、ここまで生き残っただけあって連携は悪くないわね」

 

 ジェネシスカスタムはハイパードッズライフルを放ちながら、アデル・ガーディアの動きを観察していた。

 個々の能力は正規の兵と比べると決して高いとは言えないが、ここまでの戦いを生き残って来ただけの事はあり連携においては及第点を出しても良い。

 ジェネシスカスタムは砂地に着地する前にスラスターの出力を調整して機体が砂地のギリギリのところで浮くように使う。

 それによって足場の悪い砂地に着地する事は無い。

 そのまま簡易的なホバー装甲のまま移動をしてハイパードッズライフルで水中型ジェノアスを撃ち抜く。

 

「少しはここでの戦い方を知っているようだけど、その程度の性能では!」

 

 ヒートナイフを抜いて接近して来る水中型ジェノアスの腕をビームアックスで切り落として胸部にビームガンを撃ち込んで水中型ジェノアスを破壊する。

 

「新型1機に何を手こずっている! 囲んでしまえば!」

「ですが……うぁぁぁ!」

 

 ジェネシスカスタムに圧倒され、ジェネシスカスタムに狙いを集中すればアデル・ガーディアの集中砲火を食らい次々と撃墜されるMSの数は増え、気づけば投入したMSの半数を失っている。

 

「くっ! これ以上の戦闘は……撤退する!」

 

 ダリウスも戦況が向こうに傾いたと判断すると撤退の指示を出した。

 未だに交戦中ではあるが、水中型ジェノアスとアデル・ダイバーは緩やかに後退を始めディーヴァのMS隊の攻撃の届かない海中へと潜る。

 

「アイツら!」

「追撃の必要はないわ。MS隊は周囲の警戒を継続しつつ後退。状況の把握をするまで待機」

「だから後から出て仕切ってんな!」

「私は艦長からMS隊の指揮を任されているわ。文句があるなら艦長にどうぞ」

「ちっ」

 

 ローザに仕切られる事は気に入らないが、アセムがローザに許可を出していると言われると言い返す事は出来ない。

 

「3号機の方はどう?」

「多少の損傷はあるが戦闘の継続には問題はない」

「水中の敵に対しては3号機の火力でごり押しするしかないわ。火器のチェックを怠らないように」

「了解」

 

 ディーヴァのMS隊はローザの指揮もあり、陣形を乱す事なくディーヴァの守りに入り、暫くの間は敵を警戒していたが敵が完全に引き上げたと判断された事により防衛は通常シフトに戻して主力であるGハウンド、ジェネシスカスタム、3号機はディーヴァへと帰投した。

 

 

 

 

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