カール率いる水中部隊を退けたディーヴァは無事に南極大陸へと到達していた。
すでに南極大陸の唯一に連邦軍の基地である南極基地の防衛圏ないにギリギリ近づきつつあるが、連邦軍の哨戒の部隊と遭遇する事もなかった。
南極基地は敵の襲撃が殆ど無い為、防衛圏とは名ばかりで南極基地にさえ接近しなければそうそう連邦軍を遭遇する危険性はない。
それでも連邦軍の基地の防衛圏ないである為、ネオ・ヴェイガンも簡単に仕掛けては来れない。
名ばかりの防衛圏と言っても流石にネオ・ヴェイガンが戦闘行為を行えば連邦軍も無視はしないからだ。
そう言う事情もあってディーヴァは連邦軍ともネオ・ヴェイガンとも交戦する事なく宇宙に上がる為に旧ロストロウラン基地を目指す事が出来た。
敵の襲撃の確率が低い事もあってリックはディーヴァの展望デッキから南極に広がる一面の銀世界を眺めていた。
地球で生まれ育ったリックもここまでの銀世界を見る事は余りないが、風景を楽しんでいる余裕はなかった。
落ち着いたところでどうしても無人島でのヴァネッサとの一件を考えてしまう。
リックはヴァネッサの誤解を解きたかった。
だが、ヴァネッサは相変わらずリックの言葉に耳を傾ける事はない。
そして、自分を止めたければ自分を殺すしかないと言った。
ヴァネッサと戦いたい訳ではないが、ヴァネッサは自分を討とうとしている。
ヴァネッサと自分では根本的に見ている物が違う為、幾ら考えても答えなどは出はしなかった。
「せっかく、凄い景色があるのに何沈んでんのよ?」
「エイミー……」
景色を楽しむ訳でなく、ぼうっとしていたリックにエイミーが呆れた様子で近づいて来る。
「ここんところのリックはいつもそうよ。何かあった?」
「ちょっとね」
「一応話しは聞くけど? まぁ、私に何が出来るって訳でもないけどさ」
「うん……」
リックはエイミーに自分の抱えている事を話す。
ヴァネッサがネオ・ヴェイガンのスパイで5号機を持ち出したと言う事などは伏せいたが、何とかエイミーに伝えようとする。
どうしても解きたい誤解があるが、その相手とは根本的に食い違ってしまい上手く行かないと言う事をだ。
エイミーはリックの話しをただ黙って聞いている。
「成程ね」
「僕はどうすれば……」
話しているうちに更にへこむリックを見てエイミーは軽くため息をついた。
そして、勢いよくリックの背中を叩く。
リックはよろめき叩かれた背中を擦りながらエイミーの方を見る。
「鬱陶しい! ウジウジ悩み過ぎ!」
「でも……」
「でもじゃない! リックは相手の事を気にし過ぎなのよ! リックは誤解を解きたいんでしょ? なら、その事を相手に伝えればいいじゃない。相手が聞く気がないってんなら耳を掴んで耳元で大声で叫べばいいじゃない。 たまには相手の事なんかガン無視して言いたい事を言えば良いのよ!」
リックはぽかんとしてエイミーの言葉を聞いていた。
今まではどうやってヴァネッサと話して誤解を解くかを考えていた。
だからこそ、話しを聞こうとしないヴァネッサにどうする事も出来ずに悩んだ。
だが、答えは至極簡単な事だった。
聞く気が無かろうと無理やりにでも聞かせればいいだけの話しだ。
多少強引な手段ではあるが、相手が聞く気が全くないと言うのであれば無理やりにでも聞かせればいい。
それは自分の言いたい事は黙らずに言うエイミーらしい答えではあったが、今のリックには足りない物でもあった。
「エイミー。ありがとう」
「うっ……まぁ、後はリック次第よ」
エイミーの言葉で自分のすべき事が分かりリックは自分の道が少し開けたように感じた。
一方のエイミーもリックに面と向かってお礼を入れて少し照れている。
実際のところ、エイミーも難しく考えてリックに喝を入れた訳ではない。
だからこそ、面と向かってお礼を入れて気恥ずかしい。
「僕もエイミーのように自分の言いたい事を押し付けて見るよ」
「えっと……うん。頑張って?」
リックに感謝されている事は分かるが、余り褒められている気がしない為、先ほどまでとは違い少し引きつった表情でエイミーは答えるが、そんなエイミーにリックは気づく事は無かった。
南極大陸に入り接敵する危険が減ったとは言え、格納庫では整備班が慌ただしく作業をしている。
特にAGE-ZEROは水中戦を行ったため、整備は念入りに行われている。
元々、AGE-ZEROは水中戦を想定していない為、水中戦を行った事でどこに不具合が出るか分からないからだ。
「それで今後も私の1号機をあの女に使わせると言うのがキャプテンの判断だと言うのか?」
「そうみたい。ジェネシスカスタムは予備の部品は無いに等しいし、戦力としては1号機の方が高いしね」
1号機の整備をしながらキャロルはエリスにアセムの判断を伝えていた。
アセムの判断は今後もエリスの傷が治るまでは1号機のパイロットをローザにするという事だ。
ローザが乗って来たジェネシスカスタムは予備の部品がディーヴァには搭載されていない。
多少ならば他のMSの部品もある程度は流用出来るが、それでも損傷すれば修理用の部品は搭載されていない。
その為、部品の少ないジェネシスカスタムよりも部品が充実している1号機を使わせた方が良いと判断した。
「それに彼女の方が1号機を使いこなせると思うしね」
キャロルの言葉にエリスは一瞬ムッとした。
エリスは決して認める事は無いが、それは事実であった。
単純な操縦技術においてはエリスとローザの間には埋めようのない絶対的な差がある。
だが、1号機を乗りこなすと言う一点においてはエリスよりもローザの方が分があった。
エリスは基本的にエースパイロットとして単独で多大な戦果を挙げるタイプのパイロットだ。
対するローザはエース級の腕を持っているが小隊長を任せれば小隊の指揮を執って戦果を挙げるタイプのパイロットである。
1号機は本来は指揮官機として運用する事を念頭に置かれている為、単独で戦う傾向にあるエリスよりも小隊で戦うローザの方がパイロットとして適していると言える。
「好きにすれば良い。別に始めからこいつにそこまで拘る理由はないからな」
その言葉にキャロルは安堵する。
アセムに頼まれてエリスに伝えたがエリスの性格上自分の気に入らない決定に従うと言う事はない。
下手をすればディーヴァ内で更なる面倒事に発展する可能性もあったが、エリスの態度を見る限りではそんな心配もない。
「性能が悪くないんだがな。しかし、何か違う。こいつは私が乗るべきガンダムではない。そんな気がする」
エリスの言葉をキャロルは軽く聞き流していた。
1号機の性能は現在の連邦軍のMS中でも上位に位置する。
それでもエリスの能力では物足りないのだろう。
エースパイロットに良くある事だ。
自分の搭乗機に満足しないと本当に自分の乗るべきMSは他にあるのではないかと思う。
その大半は単なる思い上がりと贅沢でしかない。
キャロルも長い技術者人生の中の同じ事を言ったパイロットを多く見て来た。
今更、気にする事でもない。
「そう言えば……お爺ちゃんは死ぬ直前まで何かMSを設計していたって噂よ」
キャロルは不意にそんな事を思い出す。
キャロルの祖父、つまりは今のディーヴァの状況を作り出した張本人であるクライド・アスノは死ぬ間際までMSの設計をしていたと言う噂だ。
クライドは自身の生涯をかけて作り出した最高傑作であるガンダムZERO Zの完成後もそこで満足する事なく研究を続けていた。
ガンダムZERO Z程のMSを作り出す事は無かったが、クライドが作り出した技術は後のMS開発に大きな影響を与えている。
その最たる例が現在の連邦軍で運用されているクランシェⅢや粛清委員会のジェネシス、ガンダムAGE-ZEROやゼクスシリーズのコックピットの基本設計もクライドによる物なのは技術者なら誰でも知っている事だ。
例えではなく本当に生涯をMS開発に費やしたクライドが死の直前までMSを設計していたと言うのも頷ける。
それでもそれが噂どまりなのは確証がないからだ。
クライドが死ぬ前まで何やら設計していたと言う事は複数の証言からも明らかなのだが、問題はその設計図が全く見つからないと言う事だ。
未完成の設計図どころかその痕跡すら一切見つかる事は無かった。
一説によれば設計は完成する事は無く、自分の死後に未完成の設計図が世に出ることを嫌ったクライド本人が設計の痕跡を完全に消し去ったと言う事もあれば、すでに設計図は完成しておりそれを地球圏のどこかに隠したと言う説まで囁かれている。
本人がこの世にいない以上は噂の真偽を確かめる術はすでに失われている。
「クライド・アスノの幻のMSか……興味はあるな」
「まぁ所詮は噂よ。一時期はいろいろと憶測は流れたけど、お爺ちゃんが死んでから何年も経つのに噂以上にはならなかったし、今では覚えている人も一部の技術者くらいの物ね」
キャロルの言うようにクライドが死亡してからはメディアなどでも取り上げられて一時期話題となった。
弟で連邦軍のトップだったフリットを連邦軍の技術者としてヴェイガンとの戦争を下から支えて来たとされたクライドの死は大きなニュースであったからだ。
しかし、所詮は縁の下にいたに過ぎないクライドの死は弟のフリットの死よりも早く世間から忘れ去られており、今では歴史上の偉人としか一般には認識されていないだろう。
その為、クライドが設計したとされるMSは幻とされ信じているのは一部の技術者位の物でクライドを知る人物からはあり得る事だが、あのクライドが設計した物など禄でも無い物だろうと相手にもされていない。
「それよりも地球に降りてからずっとその調子だけど良いの? みんな結構戸惑っているわよ」
「ん? ああ……飽きた」
地球に降下してからすでに何日も経過している。
その中でエリスはディーヴァに乗った時のお嬢様キャラを演じてはいない。
そのせいもあってエリスの言動に戸惑っているクルーも少なからずいる。
エリスが適当に作った設定を聞いているリック達もだ。
その設定自体、エリスがその場で適当にでっち上げた設定で、地球に降りてからは完全に忘れていた。
キャロルに指摘されて思い出すもすでにお嬢様キャラで通す事に飽きていた。
「まぁ、この怪我を表に気づかれないようにとでもしておこう」
もはや、あのキャラを演じる気が毛頭ないエリスは演じなくても良い新しい設定を適当に考える。
一応は表の人格とされているお嬢様キャラのエリスは自分がMSに乗って戦っていると言う事を知らないと言う事になっている為、自分の知らない間に負った怪我を誤魔化す為に怪我が治るまでの間は裏の人格とされている本来のエリスのままでいると言う事だ。
これでエリスの怪我が治るまでの間はこのままでいても不審に思われる事は無い。
尤も、傷が治った時にはまた新しい設定を考えなければならない。
「そんなどうでも良い話しはそろそろ終いか……敵が来るぞ」
エリスがそう言うとその数分後にディーヴァも接近するMSを捕捉する。
エリスが事前に感知した事もあり、ディーヴァが接近するMSに慌てる事もなく、対応する事が出来た。
すでにパイロットはMSで待機している。
「艦長! 接近するMSの機種の特定出来ました! 地上より前回の攻撃で出て来たクロノスタイプが1機とウロッゾが数機、空中からも前回の奴とドラドが数機います!」
「対MS戦闘用意! 場合によっては連邦軍も出て来る。常に索敵は厳にしておけよ。地上部隊はリックに空中の部隊はローザを指揮官として2号機とGハウンドを中心に迎撃させろ。アデルと3号機はディーヴァの守りに……」
アセムが指示を飛ばしているとディーヴァが大きく揺れた。
「どうした!」
「敵部隊の後方にもう1機います! そのMSに狙撃されたかと!」
「被害報告!」
「メインスラスターの1基が破損! 推力維持できません!」
ディーヴァが揺れた理由は接近するMSよりも後方からの狙撃であった。
接近するMS自体ディーヴァの索敵可能範囲ギリギリのところであったため、その後方のMSはまだ捕捉されてはいなかった。
「MSの出撃前に対ビーム拡散弾を巻いて狙撃に備えろ!」
「後方の敵も捕らえました! モニターに出します!」
モニターにディーヴァを狙撃したと思われるMSが映し出される。
「アレは……ゼイドラか」
モニターに映されたMSはアセムにとっても因縁浅からぬMS、ゼイドラだ。
かつてはアセムのライバルでもあり親友でもあったゼハートの専用機として運用されその後はゼハートの息子であるスラッシュが搭乗し、25年前の戦いではゼハートの予備機としても使われた機体だ。
あの戦いの後、ゼハートが使ったゼイドラの行方も分からなくなっていた。
そのゼイドラを改修したのがディーヴァを狙撃したゼイドラ・ハンターだ。
ゼイドラをベースに射撃能力を強化した機体でメインの装備は長距離狙撃用のライフル、ゼイドラライフルだ。
大幅な改修をされてはいないが頭部にセンサーユニットと両肩にはレドームユニットの増設で射撃制度が格段に向上している。
また、Xトランスミッターの内蔵でゼイドラビットの仕様も可能になっており狙撃だけではなく通常の戦闘もこなす事が可能となっている。
「2号機にゼイドラを抑えさせろ」
ゼイドラ・ハンターとの距離があり、狙撃型MSと言う特性から相手は自分の射程ギリギリのところで必要以上に接近する事は無い為、機動力の高い2号機で抑えるしかない。
「整備班には破損したスラスターの応急修理に向かわせろ!」
ゼイドラ・ハンターの狙撃による被害は致命的ではないが、メインスラスターの損傷でディーヴァの移動速度は低下している。
幸い飛行出来ない程ではないが、敵を振る切るには推力が足りない。
戦闘中に出来る修理などたかが知れているがそれでも何もしないよりかはマシだ。
アセムが指示を出している間にガンダムの出撃準備が完了し、準備が出来た機体から次々と射出されていく。
「聞いての通り敵後方に狙撃手がいるわ。2号機はそいつを抑えて。ディーヴァの守りは私と海賊でやるわ」
「了解」
2号機はストライダー形態に変形してドッズライフルを撃ちながら敵陣に突撃する。
ガフやドラドが2号機にビームバルカンを向けるがウェイボードに乗る1号機とGハウンドが援護を行う。
今回の戦闘で1号機は連射と取り回しの良いドッズガトリングガンとシールドを装備している。
ドッズガトリングガンは威力は小さいがもとより敵の攻撃の直撃を耐える事を想定していないガフには十分でダナジンの装甲を撃ち抜く事が出来る為、ドラドを相手にしても十分な威力を持っている。
1号機がドッズガトリングガンでガフを撃墜し、GハウンドもドッズライフルⅡBでドラドを撃ち抜く。
「糞ったれ! ハエみたいに!」
「前に出過ぎよ!」
「うっせぇ!」
GハウンドはドッズライフルⅡBの実体剣でガフを撃墜する。
1号機もドッズガトリングガンで応戦するが、ガフの数が多く何機かは2機を突破してディーヴァへと向かって行く。
「突破して来たMSを3号機が砲撃で蹴散らして! 残りはアデル隊で掃討!」
1号機はシールドですれ違いざまにガフを破壊する。
装甲の薄いガフにはビームソードを出す必要もなくシールドで殴りつけるだけでも致命傷を与える事が可能だ。
ローザの指示で甲板上の3号機が砲撃を行う。
射線上のガフの大方は掃討したが、無人機で動きが単調とは言っても黙ってやられてくれる訳もなく、何機かは射線上から退避している。
だが、それをウェイボードに乗るアデル・ガーディアの集中砲火によって撃墜されていく。
敵部隊を1号機とGハウンドが抑えている間に敵陣を突破した2号機は後方のゼイドラ・ハンターに接近しドッズライフルを放つ。
ゼイドラ・ハンターは腕に新しく装備されていたビームシールドで防ぐ。
「可変高機動型のガンダムか。AGEシステム搭載機はカールの方か……まぁ良い」
ゼイドラ・ハンターはゼイドラビットを展開する。
そして、2号機に差し向ける。
「また面倒な武器を!」
2号機はMS形態に変形すると頭部のビームバルカンとドッズライフルでゼイドラビットを迎撃する。
その間にゼイドラ・ハンターはゼイドラライフルで2号機に狙いを定めてビームを放つ。
「こんの!」
2号機は無理やり機体をくねらせてゼイドラ・ハンターの狙撃を回避する。
「ちっ」
「そう簡単に落ちる訳にはいかないのよ!」
2号機はストライダー形態に変形してゼイドラ・ハンターに接近して再びMS形態に変形するとビームサーベルを振るう。
ゼイドラ・ハンターもゼイドラソードで迎え撃つ。
「余り相手をしている余裕はないんだがな」
2号機はゼイドラ・ハンターに膝蹴りと入れて距離が出来たところでドッズライフルを放つ。
ゼイドラ・ハンターも2号機のビームを回避しつつゼイドラライフルを構えて放つ。
2号機は回避するも射線上には2号機だけでなくディーヴァもいた。
ゼイドラ・ハンターの狙撃はディーヴァの周囲に展開されていた対ビーム拡散弾によって威力が削がれディーヴァに直撃するも被害は殆どない。
「ディーヴァが! セコイ手使って!」
2号機はビームサーベルを振り下ろし、ゼイドラ・ハンターはゼイドラソードで受け止める。
地上からディーヴァへと接近するカールのマリンクロノスが率いるウロッゾ部隊はリックのAGE-ZEROと交戦を始めている。
AGE-ZEROはDCドッズライフルを放つがマリンクロノスもウロッゾも雪の上をホバーで移動して回避する。
マリンクロノスもウロッゾも陸上ではホバーでの高速移動が可能である為、足場が悪くとも問題なく高い機動力を発揮できるが、AGE-ZEROは雪に足を取られて思うようには動けないでいる。
「雪がこんなに歩きにくいなんて!」
AGE-ZEROはスラスターを使って高く飛び上がり上からDCドッズライフルを放つ。
その一撃はウロッゾを1機破壊するが、ウロッゾが一斉に空中のAGE-ZEROにミサイルを放つ。
AGE-ZEROは頭部のビームバルカンで迎撃しながら雪に着地するが、その瞬間にマリンクロノスが飛び掛かって来る。
「ダリウスの仇だ!」
マリンクロノスはシグルクローの一撃をAGE-ZEROに与える。
着地直後で回避出来なかったAGE-ZEROはマリンクロノスの一撃をまともに喰らう。
損傷こそは無かったが、AGE-ZEROは仰向けで倒れウロッゾが飛び上がりウロッゾキャノンの集中砲火を浴びる。
辛うじてビームシールドで防いでいるが防戦一方で反撃に転じる事が出来ない。
「まともに動く事が出来れば……」
AGE-ZEROが交戦しているウロッゾは普通の足場であるのなら水中とは違って脅威にはならない。
だが、雪でまともに動けない今の戦場では厄介だ。
ウロッゾキャノンは見た目ほどの威力が無い為、集中砲火もビームシールドと装甲で致命傷にはなり得ないが、このまま防戦一方では確実に持たない。
ウロッゾの集中砲火が途切れると上空から新たな敵がAGE-ZEROに襲いかかる。
「5号機! ネッサ先輩!」
「リック・アスノ……今日こそ仕留める!」
上空から降りて来たヴァネッサの5号機はAGE-ZEROにレベルタブレード改で切り込む。
AGE-ZEROはビームブレイドを抜いて迎え撃つ。
「ようやく殺る気になったようだな!」
「今日の僕は今までとは違います!」
AGE-ZEROは5号機を押し戻してビームバルカンを連射しながら5号機に突っ込みビームブレードを振るうが5号機は機体を低くしてビームブレードの一閃をかわすとAGE-ZEROの懐に入り込むとレベルタブレード改をAGE-ZEROの頭部を目掛けて突き上げる。
だが、AGE-ZEROはギリギリのところで5号機の突きをかわして5号機の横っ腹を蹴り飛ばして2機の距離が離れる。
5号機はビームバスターを放ち、AGE-ZEROはビームシールドで防ぐ。
「ヴァネッサ様!」
「邪魔しないで!」
カール達の援護をヴァネッサは止めた。
カール達と連携を取れば容易にAGE-ZEROを仕留める事は可能だろう。
だが、相手が1機である以上こちらが複数で戦うと言う事は1対1では勝てないと言っているような物だ。
その為、ヴァネッサはリックとの一騎打ちを望んでいた。
一方のリックには今までのようにヴァネッサと戦う事に対する迷いは一切なかった。
エイミーの言葉のお陰で多少強引な手段を使ってでもヴァネッサと話す為だ。
ヴァネッサを殺す気は毛頭ないが5号機を完全に戦闘不能にして上で話しをしようと考えている。
AGE-ZEROはビームブレードを構え5号機もレベルタブレード改を接続してツインランスモードで構える。
「ファンネ……っ!」
ヴァネッサは牽制の為にCファンネルを使おうとした。
だが、突如激しい頭痛がヴァネッサを襲う。
地球に降下する際に頭を強く打って負傷していたが、クリストと合流したのちに母艦の医務室でチェックを受けたが問題はなかったからこそ出撃している。
「先輩! どうしたんです!」
対峙していたリックもヴァネッサの様子がおかしい事に気が付いて5号機に接近する。
「来るな!」
5号機は空中に飛び上がりシールドライフルを放つ。
だが、その攻撃は殆ど狙いが定まっておらずAGE-ZEROの足止めには成功しているも有効的な攻撃にはならない。
「ヴァネッサ様! お下がり下さい! ここは俺達が!」
ヴァネッサの様子がおかしい為、マリンクロノスがクロノスキャノンとクロノスガンでAGE-ZEROに攻撃する。
AGE-ZEROは後方に飛んで回避する。
「……任せる」
少し頭痛が収まるもまともに戦える状態ではないヴァネッサは後をカール達に任せて母艦の方まで後退を始める。
「先輩!」
「お前の相手は俺達だ! ガンダム!」
「邪魔をしないで!」
後退する5号機を追おうとするもマリンクロノスやウロッゾのミサイルがAGE-ZEROを襲う。
ミサイルの雨にAGE-ZEROはビームバルカンで迎撃しようとするが、それよりも先に無数の銃弾がミサイルを迎撃する。
そして、AGE-ZEROの前に1機のMSが降下する。
「なんだこいつ!」
「ガンダム?」
AGE-ZEROの前に降下して来たMSは確かにガンダムタイプのMSであった。
黒を基調としたどっしりとしたフォルムのガンダムはマリィが開発したゼクスシリーズの6号機だ。
6号機は陸戦を目的に開発された機体でガンダムAGE-3 フォートレスをベースにされている。
4門のシグマシスキャノンによる圧倒的な火力を持っていたフォートレスとは違い6号機は実弾系を中心に多彩な装備を持っている。
メインの装備はバックパックにマウントされている大型のガトリング砲だ。
両肩には大型のシールドが装備されており、シールドの裏には2門のレールガンが装備されている。
脚部の装甲内にはカーフミサイル、両腕にはグレネードランチャー、胸部には2門のバルカンと充実しか火器が特徴だ。
近接戦闘用の装備に腰のアーマーには高周波ナイフがバックパックに唯一のビーム兵器であるビームサーベルが2本装備されている。
これだけの重装備でありながらフォートレスから受け継いだホバー機能によって陸戦において足場を関係なしに高い機動力も確保されている。
「無事だな! 白いガンダムのパイロット!」
「えっと……はい。何とか」
突然。6号機のパイロットと思われる若い男からの通信が入る。
「うちの爺さんの指示だ。お前は援護を頼む」
6号機はバックパックのガトリング砲を構える。
そして、6号機のガトリング砲が火を噴く。
6号機の装備の殆どが実弾系ではあるが、ビーム兵器よりも多少は威力が劣るがMSの装甲を破壊するのに十分の威力を持っている。
「まだガンダムが出て来るなんて聞いてないぞ!」
マリンクロノスは6号機の攻撃をかわしてクロノスキャノンを放つ。
6号機はホバー装甲でビームをかわして、シールドのレールガンでウロッゾを撃墜する。
地上でAGE-ZEROの前に6号機が降下したが、上空での戦闘は劣勢に立たされていた。
ガフの性能は低くとも数が多い為、ローザの指揮でも数で圧倒されつつあった。
「何だ。あのガンダムは」
「機体識別はガンダムAGE-Ⅵの6号機と出ています!」
「6号機……地上でテストとしていた機体か。ここでやっていたのか」
アセムも6号機が地上でテストをしていると言う話しは知っていたが、どこで行われているかと言う事は極秘情報であったため、知らなかったがどうやら南極基地で行われていたようだった。
そして、6号機が出て来たと言う事は連邦軍がこの戦闘を察知している可能性が非常に高い。
今のところは6号機はAGE-ZEROを守るように戦っているが相手がネオ・ヴェイガンである以上は先にネオ・ヴェイガンと叩こうとしただけかも知れない。
「艦長! 敵MSが防衛戦を突破しました!」
「撃ち落とせ!」
連邦軍が遠からず来るかも知れないが余りゆっくりと考えている時間もないようだ。
数に圧倒されてガフが何機もディーヴァに取りつこうと接近している。
性能の低いガフでも特攻でもすればディーヴァのブリッジを破壊する程度の事は可能だ。
ディーヴァの対空砲火と3号機の砲撃でガフの数を減らすが数が多い為、完全に撃ち落す事は出来ない。
ディーヴァの防衛を掻い潜ったガフがディーヴァのブリッジ目掛けて特攻をかけようとするが、ブリッジにぶつかる前に撃ち落された。
そして、ガフの大軍が次々と撃ち抜かれていく。
「どういう事だ?」
「この識別は……連邦軍のクランシェⅢです!」
ガフの大軍に攻撃をしていたのは連邦軍の主力機であるクランシェⅢであった。
クランシェⅢはクランシェⅡをベースに開発されたアデル系に並ぶ連邦軍の航空戦力の主力機だ。
クランシェは元々ガンダムAGE-2を量産する事を目的に設計されるもプロトタイプクランシェが運用された時の肩の大型可変翼やハイパードッズライフルに様々な問題を抱えた為に正規採用されたクランシェではどちらも採用されなかったが、技術の進歩によりクランシェⅢはAGE-2の量産機として完成したと言っても良い。
AGE-2とは違ってウェアの換装は出来ないが、肩の可変翼とハイパードッズライフルを装備されている。
また、AGE-2 ダークハウンドが装備していたドッズランスを装備したタイプと火力と格闘能力のどちらかを重視した装備を変える事で多少は汎用性も向上はしている。
そのクランシェⅢが編隊を組んで戦闘に介入を始めた。
そして、ディーヴァの前に真紅のMSが降りたつ。
「ディーヴァ。聞こえるな?」
「ゼハート……お前なのか?」
「そうだ。事情はキオの方から少しは聞いている。援護する」
ディーヴァの前に降り立った真紅のMS、ドラグーンに乗っていたのはゼハートであった。
ドラグーンはヴェイガンの技術を取り込みつつもアデルやクランシェと言った連邦軍のMSをベースにしたMSが多いなか頭部のコックピットやスリット状のセンサーなどヴェイガン系のMSが色濃く残されたMSだ。
マリィがゼクスシリーズと並行して設計したXラウンダー用の次期主力MSとなっている。
だが、実際のところはコストを度外視されている為、高い性能を確保したところで量産には向いていない。
ガンダムレギルスをベースにレギルスRやギラーガと言ったゼハート専用機の戦闘データを使ってドラグーンは設計されていた。
メイン武装はレギルスライフルをベースに新設計されたビームライフル、ドラグーンライフルだ。
通常射撃の他、高出力の2種類のビームを撃ち分ける事が可能となっている。
左腕にはレギルスシールドを改良してビットの制御装置ではなくビームシールドの発生装置が内蔵されている。
シールドの裏には二分割されてドラグーンスピアが付けられている。
ドラグーンスピアはギラーガスピアをベースにされている。
ギラーガスピア同様にビーム砲が内蔵されている為、シールドに付いた状態でもビーム刃を使った攻撃やビーム砲による砲撃も可能だ。
胸部には拡散ビーム砲、尾のドラグーンキャノン、両手のビームバルカン兼ビームサーベルとヴェイガン系の基本装備に頭部の小型バルカンとヴェイガン系MSの集大成とも言える完成度を誇っている。
また、バックパックはレギルスと同様に翼のように広げる事で高機動戦用のハイスピードモードによって高速戦闘も可能になっている。
このドラグーンも南極基地でテストをしていた。
そんな時に一連の事件を知ったキオから個人的な要件として連絡を受けていた。
キオも完全に事態を把握していた訳ではないが、ゼハートとしてもアセムの為に動く事に一切の迷いはなく、新型機のテスト中に防衛圏ギリギリのところでディーヴァとネオ・ヴェイガンが交戦していると言う事を知りこうして駆けつけたと言う事だ。
「助かる」
「気にするな。ゼハート隊各機はディーヴァの直上の防衛に入る。地上部隊はロイドに任せる」
「言われなくても! こっちは模擬戦とかデータ収集とかで鬱憤が溜まってんだ!」
「油断するなよ」
ゼハートは6号機のパイロットであるロイドに指示を出すと戦場全体を見渡す。
ゼハートが連れて来たクランシェⅢ部隊によりガフの大軍はディーヴァに近づく事すらできなくなっている。
地上部隊は6号機とAGE-ZEROで対処させる。
「問題は2号機が抑えているゼイドラか……まさか、俺がゼイドラと戦う事になるとはな。それに兄さんのクロノス……余り良い気はしないな」
ネオ・ヴェイガン側のエースはゼイドラ・ハンターにマリンクロノス。
どちらもゼハートにとっては因縁深い機体だった。
自身の専用機として開発されたゼイドラの兄デシルの専用機として開発されたクロノス。
その2機を改造した機体が自分の前に敵として出て来ている。
妙な因縁を感じずにはいられなかった。
しかし、今は感傷に浸っている余裕はない。
ドラグーンは2号機と交戦しているゼイドラ・ハンターにドラグーンライフルを向ける。
そして、高出力モードでドラグーンライフルを放つ。
ドラグーンが放ったビームは射線上のガフを破壊しながらゼイドラ・ハンターへと向かう。
ギリギリのところでゼイドラ・ハンターは回避し、その隙を狙う2号機を牽制する。
「あの距離からこの威力!」
ビームは外れたがゼイドラライフルと同等の射程を持ちゼイドラライフル以上の威力の射撃を行えるドラグーンの存在を見せつける事には成功している。
次にドラグーンはドラグーンキャノンで地上のマリンクロノスを狙う。
ビームはマリンクロノスの前方に着弾してマリンクロノスは後方に飛び退いた。
「ちっ!」
「カール。ここは撤退する」
「けど! 兄貴!」
「連邦軍が出て来た以上こちらの不利だ」
カールは部下の仇を取る気でいたがクリストは連邦軍が出て来た時点で後退を決めていた。
元々、この攻撃は敵が攻撃される危険性が低いと言う油断をついたもので連邦軍が出て来る前に最低でもAGEシステムを搭載しているAGE-ZEROを仕留める筈だった。
しかし、ヴァネッサの予想外の離脱と今までは最低限の連携しかと入れていなかったディーヴァのアデル隊の統率の取れた戦いで時間を掛けすぎた。
それにより連邦軍の増援が到着し、三つ巴どころかディーヴァを援護し始めた事で状況は完全に自分達の劣勢になったと言う判断だ。
「ここで死にたいのなら勝手にしろ」
「ちっ! 分かったよ!」
クリストのゼイドラ・ハンターが追撃を警戒しつつも後退を始めた事でカールも渋々弾幕を張りつつウロッゾと共に後退を開始する。
「ゼハート大佐! 敵が撤退して行きます!」
「構わない。逃げる敵を追撃する必要はない。ディーヴァの安全を確保する事が最優先だ」
今、最も重要なのはディーヴァの防衛であり逃げる敵を追う事でディーヴァの守りを手薄にしてしまっては意味はない。
クランシェⅢ部隊もゼハートの指示通りに撤退するドラドは最低限の応戦に留めて、逃げる時間稼ぎなのか未だに戦闘を続けようとするガフの掃討に専念する。
ゼイドラ・ハンターマリンクロノスの撤退で手の空いたAGE-ZEROと2号機、6号機も掃討に加わりとガフの掃討には時間がかかる事は無かった。