ミンスリーの戦闘で奪われた5号機の奪還に成功し、5号機はディーヴァに収容された。
機体の機能は完全に停止して5号機は沈黙しているが、いつ再起動して暴れ出すか分からない為、エイミーとハーマンは機体で待機させてある。
5号機はハンガーに固定され、コックピットハッチを外から強制的に解除しようと作業が進められている。
作業をしているキャロルの脇に銃で武装をしているローザとロイドが待機していた。
中の状況が分からない為、開けた瞬間に中からパイロットが飛び出して来る可能性がある。
その時に学生上がりの非正規兵でディーヴァのクルーよりも士官学校で訓練を受けている正規兵のローザとロイドの方が冷静に対処できるからだ。
二人の後ろには5号機を収容後に指示された訳ではないが、5号機のパイロットであるヴァネッサを心配して下りて来たリックがいる。
「開けるわ」
コックピットハッチの横で強制解放の作業をしていたキャロルがそう言う。
ローザとロイドは何が起きても対応できるように身構える。
そして、5号機のハッチは強制的に開放される。
ハッチが開きキャロルはコックピットから離れてローザとロイドはハッチに銃を向ける。
だが、5号機からは誰も出ては来ない。
不用意に中を覗きこむ事は危険である為、ゆっくりと中を確認しようとする。
「先輩!」
緊張が張り詰める中、リックはコックピットに取りついて中を覗き込む。
いきなりの行動で止める事が出来ず、リックの行動に誰もが驚く。
もしも、5号機のパイロットが痺れを切らしてコックピットに踏み込んで来たところを見計らって反撃する気があればリックは間違いなく殺されるか脱出の為の人質にされていただろう。
だが、そのどちらも起こる事は無かった。
「先輩! 大丈夫ですか!」
5号機のコックピットの中ではヴァネッサが待ち構えるどころか意識を失いぐったりとしていた。
「大丈夫の様ね」
「ああ……リック。少しどいてろ」
リックが敵の攻撃を受けていない事から踏み込んでも大丈夫であると確認できたが、まだ絶対に大丈夫とは断言できない。
ロイドがリックをコックピットから首の根を掴んで外に出すと警戒しながらコックピットの中を確認する。
コックピットの外ではローザが未だに銃を構えて待機している。
「こいつが5号機のパイロット……」
ロイドはヴァネッサを見て少し驚いている。
いまどき女のパイロットは珍しい訳ではない。
だが、見た感じでは十代後半のヴァネッサがあそこまでの戦いをしていた事は驚かざるおえない。
「気を失っているだけか……医療班の準備をしておいてくれ!」
コックピットに入り込んでヴァネッサの状態を確認する。
少なくとも意識を失っている振りをしている感じはしない。
本来、テロリストであるネオ・ヴェイガンの兵士は犯罪者で捕虜としての扱いをする必要はないが、ネオ・ヴェイガンの情報を得ると言う為にはある程度の扱いをした方が情報を得やすい。
それ以前にパイロットを手荒に扱わないようにと言う指示もアセムから出ている。
その為、まずはヴァネッサの治療は必須の事だった。
医療班の手配をする中、ロイドがヴァネッサを担いで5号機から出る。
5号機からヴァネッサを引きずり出して少しすると医療班が到着してヴァネッサは医務室へと搬送された。
5号機を回収して数時間が経過した。
5号機を鹵獲した事で敵が5号機を奪い返しに来る事を想定していたが、ミンスリーを襲撃した部隊の母艦は完全にミンスリーの近くから撤退していた事もあり敵の襲撃の危険性は当面は無くなったと言える。
それでもいつ襲撃があるか分からない為、ディーヴァは警戒態勢を解いてはいない。
そんな中、襲撃に備えてアセムは一度艦長室で休んでいる。
「回収した5号機のデータになります」
回収した5号機は整備班によって徹底的にチェックがされていた。
それが終わりキャロルがアセムに報告している。
「機体には爆発物や発信機の類は確認できません。ただ……妙な事が一点」
「妙な事だと?」
「制御系に意図的に細工が施された形跡があります。それによって5号機の機能が自動的に停止するようになっています」
キャロルはアセムに渡した5号機のデータの一部を拡大して見せる。
機体には爆発物や発信機の類は一切見つける事が出来なかった。
機体を調べている過程で5号機の制御系に細工がされており、戦闘中に機体のシステムが強制的に停止するようになっていた。
先の戦闘でAGE-ZEROがバーストモードを起動させた後に5号機のシステムが停止していたのはそのせいだった。
整備班で調べたところ、明らかにネオ・ヴェイガンの整備ミスと言う訳ではなく人為的に起こされた事である事が分かった。
「確かに妙だな」
自軍の機体に細工されている事自体は驚く事ではあっても妙ではない。
組織が人の集まりである以上は絶対的な一枚岩である事は難しい。
パイロットの事を気に入らない整備兵が意図的に機体に細工すると言う事はあり得ない話しではないからだ。
特に聞くところによれば5号機のパイロットであるヴァネッサはネオ・ヴェイガンの前指導者であるヴァニスの娘であるらしい。
つまりは現指導者のヴァレンティナとは姉妹と言う事になる。
ヴァニスの娘である事はネオ・ヴェイガンの指導者になり得る存在だ。
前指導者の子供であると言うだけで後継者になれると言う事は兄弟同士でその座を巡り争うと言う事は良く聞く話だ。
余り表ざたにならないだけでネオ・ヴェイガンの中もヴァレンティナ派とヴァネッサ派と言う派閥があるのかも知れない。
そうなれば現在のヴァレンティナの地位を絶対的な物にする為にヴァレンティナ派がヴァネッサを謀殺する為に機体に細工したと言う事は十分に考えられる。
そうなると機体に何もしないと言うのはおかしい。
確かに戦場で機体の機能が停止すると言う事は致命的だ。
大抵は確実に撃墜されるだろう。
しかし、5号機は元々奪った機体だ。
その5号機が機能を停止すれば再び奪い返すと言う事も十分に考えられ、実際こうして奪い返している。
意図的に細工した事は派閥争いであると言う事はネオ・ヴェイガンにとっては公に出来ない事である為、その可能性を示唆する証拠を残すとも考え難い。
「パイロットの方は?」
「ベンジャミン中尉が身体検査を行い。今は士官室で拘束しています。意識はまだ戻っていないみたいですが、身体的には異常は見られません」
機体に細工をしておきながら、爆発物や発信機の類を付けていないと言う事はパイロットを送り込む事が目的とも考えられる。
だが、以前ローザがディーヴァが来た時には不用心にも最低限の身体チェックしか行わなかったが、今は正規兵も乗艦している。
相手が女で意識がない状態でもローザは容赦なくヴァネッサの衣類を下着まで脱がしてチェックを行いその上でチェック漏れがあった時の事も考えてすでにヴァネッサの来ていた衣類は処分済みでヴァネッサは文字通り体一つでディーヴァに収容されている。
5号機をチェックした際に機体の中に歩兵用の装備もないと言う事は確認済みだ。
体内に武器を直接隠していると言う事も想定していたが、身体検査の末その危険性もない。
後は艦内の武器を奪われる危険性くらいで意識のないヴァネッサは士官室で拘束されている状態だ。
医務室では薬品やメスなどの医療用品がある為、幾らでも武器になる物はあり、医務室で暴れられて使い物にならなくされも今後、怪我人や病人が出た場合に対処が出来なくなる事を避けて使われていない士官室に拘束している。
流石に捕虜とはいえ意識のない怪我人を牢に入れると言う事も人道的な面で問題があると言う事もあり、使われていない士官室の中で武器になりそうな物は移動させてベッドに括りつけている。
その上で内部に複数の監視カメラを設置してローザの指揮の元、24時間体制で監視をさせている。
「ただ……身体検査の結果でこれも妙どころの話しではない結果が出ました」
キャロルはヴァネッサの身体検査のデータとは別のデータも合わせてアセムに見せる。
そのデータの両方を見比べてキャロルの言っている意味を理解したアセムは顔をしかめる。
「どういう事だ。これは?」
「私は医療関係は専門外ですので何とも言えませんが……ヴァネッサ・イゼルカントとエリス・アスノは遺伝子上は同一人物である可能性が高いと言う事です」
キャロルが見せたのは以前、エリスが地球に降下した際に負傷して医務室で精密検査を受けている。
その時のデータを今回のヴァネッサのデータの中で二人は遺伝子レベルで同一人物である可能性が高いと言う事を示している。
ヴァネッサはヴァニス、つまりはエリスの娘を名乗っている。
ヴァネッサがヴァニスのようにエリスが扮した人物であるのなら説明が付くが現実にエリスとヴァネッサは別人である事は疑いようもない。
「多分、お爺ちゃんなら何か分かるとは思うんですけど……」
「また、叔父さんか……」
エリスの生みの親であるクライドならばこの謎を解く事も出来ただろう。
だが、当のクライドはこの世にはいない。
「死してなお問題を残すか……疫病神なのか。叔父さんは」
アセムは思わずそう漏らす。
孫で技術者として尊敬しているキャロルとしては否定した気持ちもあるが、今の状況でそれを否定する事も出来ない。
EXA-DBをどこかに隠したのは悪用されない為だと一応の理由付けで納得は出来るが少なくとも宝探しのように情報を小出しにせずに始めの時点でEXA-DBの隠し場所を教えてくれればここまでの苦労もなかった。
「それよりも戦力不足の方が少し心配です。Gハウンドをディーヴァで修理するには時間がかかり過ぎます」
「余りミンスリーで長いをする訳にもいかんからな。Gハウンドとアンナはミンスリーに残してビシディアンと合流して向こうで機体の修理をさせた方が良いな」
6号機を新しく加えたが本来6号機は陸戦用のガンダムで宇宙戦用の調整をしているが、戦力としてはアデル・ガーディア以上ではあるがGハウンド程ではない。
Gハウンドが先ほどの戦闘で中破しており、それをディーヴァで直すには余りにも時間がかかり過ぎる。
敵の行動に妙な部分がある為、ミンスリーに長いするのは自分達もコロニーも危険に晒してしまう事になる。
それを避ける為にも速いところ出航する必要がある。
ビシディアンのバロノークもじきに到着する。
元々、ミンスリーにはビシディアンに繋がりを持つ者も居る為、アンナを残しても問題はないだろう。
「幸いエリスが復帰してくれたからそれで何とかするしかないだろう。最悪5号機も投入する」
「メカニックとしては5号機は当分の間は出す事は許可できません。ネオ・ヴェイガンが5号機に何をしたのか分かった物じゃありませんから」
今まで負傷で戦列を離れていたエリスが復帰している。
手綱を握るのは不可能に近いが戦力としては申し分ない。
アンバットで何があるのかは分からないがエンジェルではシドと大量のシド・スレイブが出て来た今回もそれなりの物が出て来る事は確実だ。
場合によっては鹵獲した5号機を使う事も辞さなかったが、それはキャロルが許可する事は無かった。
5号機の損傷は軽微でアンバットまでの航海中に修理する事は十分に可能だ。
しかし、一度は敵の手に落ちて細工された形跡まで発見している。
他にもどこを弄られているか分からない以上は5号機を実戦で使うなど危険過ぎる。
「分かっているさ。あの叔父さんがタダで次の情報を渡してくれるとは思えないからな。それ程の危険を冒す必要もあると言うだけの事だ」
アセムとて5号機を使う危険性は十分に承知している。
だが、クライドがアンバットに何も用意していない訳がない。
そして、クライドが用意するものは並半端な物ではない事は確実だ。
それこそ、使える物は全て使わなければ道を切り開く事が出来ないかも知れない。
「一応は修理はしますけど、5号機は最後の手段ですからね」
キャロルはアセムに念を押す。
キャロルも5号機を使う危険性を理解しているが、同時にクライドが何かを用意しているのならそれがどれだけ危険な物なのかも理解している。
ディーヴァのメカニックとしてパイロットを危険に晒すMSに乗せる事も反対だが、出来る事を何もしないでディーヴァ全体を危険に晒す訳にもいかない。
その為、それが最大限の譲歩であった。
速やかに出航準備を終えたディーヴァはアンバットへと接近していた。
ミンスリーを出てアンバットに向かう道中でネオ・ヴェイガンとの戦闘は覚悟していたが、ネオ・ヴェイガンは影も形もなく呆気ない程楽にアンバットに接近する事が出来た。
現在のディーヴァの位置はアンバットに接近しつつもかなりの距離を保っている。
アンバットの周囲には蝙蝠退治戦役の最後の戦場になった事もあり、撃墜されたMSや戦艦の残骸が今も漂っている。
「なぜ私がパイロットスーツを着なければならん。窮屈だ」
すでにパイロットには機体での待機命令が出ており、各MSにはパイロットが搭乗して待機している。
そんな中、エリスは不満を漏らしていた。
今回はエリスもパイロットスーツの着用がアセムより指示されていた。
エリスの1号機は索敵能力が高い為、アンバット内部に侵入して内部の捜索を任されている。
その際にパイロットが機体から降りなければならない場面も想定される為、エリスもパイロットスーツを着るようにと言われている。
当初は渋っていたが、アセムもパイロットスーツを着なければ出撃は認められないと譲らなかった事もあり最後は渋々従った。
「それに辛気臭い」
「ごめんなさい」
愚痴を言うエリスにリックが謝る。
出撃前ではあるがリックが沈み空気が少し重くなっている。
今から数時間前にリックはヴァネッサと話しをしようと試みた。
しかし、ヴァネッサの意識が戻っていない事とローザが艦長の許可なく勝手に合わせる訳にはいかないと言って門前払いされていた。
アンバットに近づきMSで待機命令が出てMSで待機しているが、Xラウンダー能力を暴走させたヴァネッサの事は気がかりだった。
「あの女があの程度で死ぬものか。私も聞きたい事があるしな。それを聞き出すまでは死なれては困る」
エリスはヴァネッサが生きようと死のうと今更興味はない。
だが、Xラウンダー能力が共鳴した時に見たヴァネッサの記憶の中の自分には興味を持っている。
それを知ったところで自分に何かが変わると言う訳ではないが、自分の知らない自分が存在している事はすっきりしない。
「とにかく、今は目の前の事に集中しろ。お前にも死なれては困るのだからな」
AGE-ZEROが破壊されてはEXA-DBへの手がかりが完全に潰えてしまう。
エリスはEXA-DBがどうなろうと知った事ではないが、クライドが何を思ってEXA-DBへの道しるべの一つに自分を組み込んだのかを知る為にEXA-DBを追うのも悪くはない。
今のエリスにとってはそれくらいしか生きてやる事もない。
「分かっています。僕はこんなところでやられる訳にはいかないんです……」
リックは自分に言い聞かせるように呟く。
ここで死んでしまってはヴァネッサの誤解を解く事が出来ない。
ようやく、話しを出来る距離まで来たのだ、こんなところで死んでしまっては意味がない。
そうこうしているうちに出撃の用意が整う。
1号機には今回は左腕にドッズガトリングガンが付いたシールドと肩に担いでいる大型のビーム砲のドッズランチャーを装備している。
1号機は用意されたウェイボードに乗りカタパルトに移動する。
今回は何が出て来てもガンダムがディーヴァを守る事で動きを制限されないようにガンダム各機がアンバットに先行し、アデル隊がガンダムとディーヴァの中継を行いつつも守りに配置すると言う陣形を取っている。
速やかに行動し、アンバットに辿りつくまでに少しでも機体の推進剤の節約を行う為にウェイボードで向かう事になっている。
「エリス・アスノ。出るぞ」
カタパルトにセットされた1号機と同じくウェイボードに乗ったローザのジェネシスカスタムが射出され、6号機もウェイボードに乗って射出される。
今回は1号機がアンバットの捜索を行い護衛にジェネシスカスタムと6号機が付けられた。
捜索隊は場合によってはディーヴァとの通信や友軍機との連携の出来ない状況に陥る可能性を考慮して正規軍であるローザとロイドが付けられている。
正規軍の2人なら不測の事態となっても慌てる事なく状況を判断して行動が出来ると考えたからだ。
捜索部隊が出撃すると今度はリック達の陽動班の出撃準備に入る。
リック達の役目はクライドがアンバットに素直に入らせてはくれない事を想定して、捜索班がアンバットに入れるようにする事が役目だ。
「リック・アスノ。ガンダム、行きます」
AGE-ZEROが射出され、続いて2号機、3号機と射出される。
ディーヴァから射出されたMS隊は捜索班と陽動班の二手に分かれてアンバットへと向かうのだった。
捜索隊の3機は迂回してアンバットに接近し、陽動組は真っ直ぐアンバットを目指している。
極力敵に気づかれないように接近する為にアンバットの正面から2組は進んでいる。
アンバットの前方には蝙蝠退治戦役でディーヴァがアンバットに仕掛けた時の戦闘で破壊されたMSや戦艦の残骸でデブリベルトとなっている為、見つかり難い。
陽動組の3機のガンダムはデブリを回避しながらアンバットに接近する。
「アスノ。お前の方は何か感じないか?」
「特には……いえ、何かいます」
レーダーにはデブリが多い為、余り当てには出来ない。
その為、リックのXラウンダー能力の方が役に立つ。
「来ます!」
リックの声で3機のガンダムはウェイボードを乗り捨てて散開する。
すると、強力なビームが横切る。
「戦艦でもいるのか!」
「違います! アレは……シド!」
アンバットの前に立ちはだかっていたのはその強力なビームから戦艦かと思われていたが違った。
そこにはエンジェルでも交戦したシドがいる。
エンジェルとは違うのは機体の下部に大型のビーム砲が付いている事だ。
「また出た!」
「エンジェルにいた奴か!」
シドは下部のビーム砲をパージすると3機の方に向かって来る。
「エンジェルの時よりも速い!」
シドは周囲の残骸を気にする事なく直進して来る。
そのスピードは以前にエンジェルで交戦したシドよりもかなり速い。
「相手は1機だ! 集中砲火で倒すぞ!」
「了解!」
エンジェルでは大量のシド・スレイブもいたが今回はシドが単機だ。
3機のガンダムは一斉にシドに銃口を向けて集中砲火を浴びせる。
しかし、残骸が邪魔で攻撃がシドまで殆ど届かず、届いてもシドの高い機動力にかわされる。
「僕が前に出ます!」
「頼む。俺とバートンで援護する!」
AGE-ZEROがDCドッズライフルを放ちシドに向かう。
2号機と3号機は少し離れたところからAGE-ZEROを援護する。
「速い!」
地上で武装強化されて機動力も向上したAGE-ZEROだが、シドの機動力の前では引き離されないように食らいつくのが精一杯だ。
その上、デブリを無視して移動しているシドに対してシドがぶつかり動いているデブリを回避しているAGE-ZEROでは差が開いて行く一方だった。
「見失った!」
「リック! 下!」
デブリで視界が悪い為、シドを一瞬見失い次の瞬間には下からシドの無数のビームが放たれていた。
シドを見失って隙が生まれていたが、エイミーの声に反応して回避した為、直撃は避けられたが回避したビームは曲がってAGE-ZEROに向かって来る。
AGE-ZEROはDCガトリング砲でビームを迎撃する。
「何て奴だ!」
「こんの!」
2号機はドッズライフルで3号機はアームドキャノンでシドを狙う。
AGE-ZEROを狙い足を止めていた事もあり攻撃を回避する事なく直撃した。
「やったか!」
爆発の煙が収まる。
そこには周囲をビームで囲んだシドがいた。
「ビームフィールド!」
「あの機動力に曲がるビーム、ビームフィールドとか反則だって!」
シドのビームフィールドはやがて胞子状となり、3機のガンダムに襲い掛かる。
「胞子ビット!」
「少しは自重しなさいって!」
3機のガンダムは胞子ビットの迎撃を行う。
AGE-ZEROはDCガトリング砲で胞子ビットを撃墜してシドに向かいDCドッズライフルを放つ。
その攻撃はシドに直撃するもシドの装甲を破壊するにとどまり、破壊された装甲は修復を始める。
「このシドも装甲が自動的に修復するのか」
続けてDCドッズライフルを放つも、シドはビームフィールドを展開する。
AGE-ZEROの攻撃はビームフィールドに穴を空けるもすぐに塞がってしまう。
そのままシドはAGE-ZEROに突撃する。
ビームフィールドを展開している為、進路上のデブリはビームフィールドで破壊されてAGE-ZEROに一直線だ。
「くっ!」
AGE-ZEROは脚部のマイクロミサイルを一斉掃射してシドから離れようとする。
マイクロミサイルを完全にシドは無視して突撃して来る。
「リック!」
「化け物が!」
AGE-ZEROを狙うシドに2号機と3号機も援護射撃を行うがシドを止める事は出来ない。
ついに逃げ切れなくなったAGE-ZEROはビームシールドでシドの体当たりを受け止めるが元々大型のシドの質量と速度に合わさった体当たりにAGE-ZEROは弾き飛ばされる。
「うぁぁぁぁ!」
弾き飛ばされたAGE-ZEROを追撃するかのようにシドは大量のミサイルを発射する。
2号機と3号機が迎撃するがミサイルの数が多く完全に迎撃できずにミサイルがAGE-ZEROに直撃した。
シドと3機のガンダムの交戦は別ルートから接近している捜索班の方でも確認できた。
「向こうは戦闘が始まったようね」
「向こうの方が面白そうだな」
「分かっていると思うけど、私達はアンバット内部の捜索が任務よ」
「分かっている。おかんか」
エリスの言葉をローザは聞き流す。
任務の最中である為、一々エリスの言葉に反応している暇はない。
「向こうは何かやばそうだ。さっさと捜索して援護に向かうぞ」
爆発の数から敵は相当な力を持っていると言う事は想像できる。
捜索班には捜索班の任務がある為、強敵である事が分かっていても援護には向かえないが、捜索を追えれば報告に向かう1機とその護衛の1機がディーヴァに向かえば良いので最低でも1機は援護に向かう事は出来る。
「そうね。急ぐわよ」
捜索班の3機は陽動班の身を案じつつもアンバットを目指す。
陽動班と交戦中のシド以外にクライドがここに配置した物はないのか、捜索班はすんなりとアンバットに到達する事が出来た。
アンバットに到達すると3機はウェイボードを乗り捨てて内部に侵入する。
「ご丁寧にシャッターは空いているな。折角持って来たランチャーを使う機会がないではないか」
アンバットの内部に通じる道を遮る筈のシャッターは何かに強引にこじ開けられたのかMSはおろか戦艦が通る事も出来る程に歪んでいる。
これはアンバット攻防戦の時にフリットのガンダムAGE-1 タイタスが強引にこじ開けた為で未だにその時のままに空いたままだ。
迎撃システムも機能していないのか3機は迎撃される事なく内部に入り込む。
「俺が先行する」
「頼むわ」
内部に入り6号機が前衛を務めて前に出る。
3機の中で6号機が最も高い火力と多彩な装備を持っているその6号機が一番前に出なければ狭い通路で敵と遭遇した時に6号機の火力は使えない。
その上、3機の中で防御力も高い為、壁役にはもってこいだ。
「1号機の方で何か反応は見つけられない?」
「いんや。要塞の機能は完全に沈黙しているな」
1号機の索敵システムをもってしても何の反応も捉える事は出来ない。
アンバット攻防戦の時に当時のアンバット司令官のギーラ・ゾイによりアンバットは自爆させられている。
今も辛うじて形状を留めているが要塞としての機能は完全に死んでいる。
1号機の索敵システムで何の反応もないと言う事は要塞の機能は完全に死んでいると見て間違いはないだろう。
「何も見つからないってんなら。一度戻った方が良くないか?」
何かあると踏んで侵入したアンバットに何もないと言うのは肩透かしではあるが、捜索の結果が何もないと言うにも立派な捜索の結果だ。
それをアセムに報告するのも捜索班の任務の範疇である。
「そうね。一度、アンバットから離脱してディーヴァに報告した方がよさそうね」
「ここまで来て無駄足か。報告はお前達で勝手にしろ。私は陽動班の方に向かう」
「好きにしなさい」
内部の情報を掴んだ以上、エリスの1号機が報告に向かう必要もない。
戦力的には3人の中でエリスが一番である事は疑いようもない。
その上でエリスは行く気満々で止めても無駄だろう。
無駄に時間を使う訳にもいかない為、ローザもエリスを止める事はしない。
捜索班の3機は捜索を切り上げてディーヴァへと報告に戻る。
陽動組とシドが交戦になったと言う情報は捜索班だけでなく中継のアデル・ガーディアからディーヴァに報告が入り戦闘の様子がモニターに映されている。
アンバットのシドはエンジェルの時よりも性能が格段に向上している。
3機がかりでもシドの戦闘能力に圧倒されている。
「艦長、本艦も前進して陽動班の援護に向かわなくても良いんですか?」
「駄目だ」
アセムはそう言い切る。
確かに陽動班は圧倒されている。
ディーヴァの援護が必要なのかも知れない。
だが、戦場にはデブリが多い為、戦艦の動きは大きく制限される。
主砲はデブリの影響でシドに届くまでに威力は削られフォトンブラスターキャノンは射程が短い為、高速で動き続けるシドを射程に収めて撃つのは難しい。
その上で動きが制限される為、MSの防衛が必要不可欠になる。
アデル・ガーディアではシドの攻撃に対応できずに撃墜されてしまう為、必然的に防衛の要はガンダムと言う事になる。
そうなれば3機のガンダムはシドからディーヴァを守りつつ戦う事になり、まともに戦えないディーヴァは足手まといにしかならない。
今の現状でディーヴァの出来る最大限の援護はここで大人しくして何もしないと言う事だけだ。
「艦長!」
「どうした?」
何もしない事しかリック達の援護が出来ない事を歯がゆく思っていると格納庫からの通信が入る。
「少し時間がかかりましたが、ゼロの新装備が完成しました!」
「すぐに出せ」
格納庫ではAGE-ZEROからの戦闘データが送られて来ており、そこからAGEシステムに新しいAGE-ZEROの装備を作らせていた。
思いのほか時間がかかったようだが完成したようだ。
アセムは新装備の概要を聞くよりも早くそれを出すように指示を出す。
今は少しでも早く新装備をリックに届ける事が最優先だ。
AGEシステムがこの戦闘のデータから作り出した装備である以上はこの状況を打破できるだけの装備である事はAGEシステムを搭載したガンダムに乗っていたアセムは良く分かっている。
「手の空いているアデルに装備を持って行かせる」
「それには及びません。出撃準備が整い次第出させます。艦の下部のハッチを使わせて貰います」
「分かった。そっちに任せる」
アセムはディーヴァと戦場が離れている為、アデル・ガーディアに装備を届けさせようとするが、どうやらその必要はないらしい。
どういう事かは分からないが、新装備の事を知っているキャロルがそう言うなら間違いはないだろう。
キャロルの要望通り、カタパルトが付いていない為、普段は使わない艦体の下部、2基のカタパルトの間のハッチが開閉する。
そこにはAGEシステムが生み出した新装備「Gブラスター」が出撃の準備を終えていた。
そして、Gブラスターはディーヴァから出ると真っ直ぐ戦場の方へと向かう。
「アレが新装備なのか」
「そうです、Gブラスター。AGE-3のウェアシステムを発展させた無人攻撃機です。アレの推力はアデル・ガーディアの比ではないですから自力で飛んで行った方が断然速いです」
「そのようだな」
新装備のGブラスターはAGE-3のウェアから発展した装備だ。
AGE-3が戦場でウェアを換装する為にウェア自身がある程度の戦闘が可能になっていたが、Gブラスターは前方に高出力のビーム砲を2基装備し、高出力のスラスターによりアデル・ガーディアとは比べものにならない機動力を持っている。
それ故にアデル・ガーディアに運ばせるよりもGブラスターが単独で向かった方が断然速かった。
瞬く間に戦場に到着したGブラスターは戦場を横切る。
「何かまた出た!」
「新手か!」
「ちょっと待った! アレはリックのガンダムの新装備! 撃墜しないように!」
アデル・ガーディアを経由してディーヴァからジンの通信が3機のガンダムに入る。
少し遅れてAGE-ZEROにもGブラスターの武器コードが転送されて来る。
「Gブラスター……」
「そう! Gブラスターはリックのガンダムとドッキングする事が可能だ! そいつでシドをぶっ飛ばしてこい!」
「先輩! エイミー! 援護を頼みます!」
「任せろ」
ディーヴァから送られて来たGブラスターの情報にはGブラスターはAGE-ZEROとドッキングする事が可能となっている。
AGE-ZEROはGブラスターの方に向かいGブラスターもドッキングシークエンスに入る。
2号機と3号機はシドに攻撃して時間を稼ぎAGE-ZEROはGブラスターとドッキングに入る。
GブラスターはAGE-ZEROのバックパックと接続して背部にドッキングする。
二門のビーム砲を背中に背負う形となり主翼は中央から2分されてX字となる。
「これが僕のガンダムの新装備……これなら!」
リックはスラスターを一気に使う。
すると、AGE-ZEROの加速時のGには慣れていたつもりではあったが、一瞬意識が飛びかけた。
GブラスターとドッキングしたAGE-ZEROの機動性能はドッキング前よりも遥かに向上している。
機動力が向上した事でシドの機動力に遅れを取る事は無くなった。
AGE-ZEROはDCドッズライフルを撃ちながらシドを追う。
だが、DCドッズライフルではシドの装甲を破壊する事は出来ても内部の破壊には至らない為、シドに致命傷を与える事が出来ない。
「ライフルがダメなら!」
AGE-ZEROはGブラスターのビーム砲を前方に構える。
シドはビームフィールドを展開するが、AGE-ZEROの放ったビームはビームフィールドを貫いてシドに直撃する。
DCドッズライフルでは装甲を破壊する事しか出来なかったが今度はシドを完全に貫いている。
直撃した場所はシドの下半身の端でシドを破壊する事は出来ないが、今までの攻撃に比べれば効果的な攻撃だった。
Gブラスターのビーム砲、ドッズブラスターキャノンはDCドッズライフルがビームを乱回転させる事で破壊力を増した装備であるのに対して従来のドッズライフルの延長上の装備で極限まで回転数を上げる事で貫通力を向上させている。
回転数を上げる為にMSの身丈程の大きな銃身となり連射も聞かないが、貫通力はシドのビームフィールドを貫いてシドの装甲を易々とぶち抜ける程だ。
「効いた! こいつなら!」
AGE-ZEROは再びドッズブラスターキャノンを構えて放つが、シドは防ぐ事なく回避する。
そして、曲がるビームで反撃する。
ドッズブラスターキャノンはその銃身が長いが故に安定して使うには機体の足を止める必要がある為、攻撃を回避しながらでは狙いをつける事が出来ない。
「新装備ならシドにダメージを与える事が出来るのに……」
幾らシドを破壊出来る新装備を得たところで当てなければ意味がない。
攻撃を回避しながらではまともに狙う事が出来ない為、折角の新装備も宝の持ち腐れでしかない。
その上で機動力が向上している分、機体の操縦も難しくなっている為、攻撃を回避しながらドッズブラスターキャノンをシドに当てる事は不可能に近い。
「こっちで援護する!」
「リックはおもっきりぶっ放して!」
2号機がシグマシスキャノンで3号機はアームドキャノンでシドを牽制する。
それによってAGE-ZEROがドッズブラスターキャノンで狙いをつけるだけの余裕が生まれた。
「これで!」
AGE-ZEROのドッズブラスターキャノンの一撃はシドの翼を撃ち抜いた。
「まだ!」
その一撃ではシドに致命傷を与える事が出来ない為、再度ドッズブラスターキャノンを撃ち込んだ。
今後はシドの胴体に直撃してシドに穴を空ける。
だが、それでもシドの機能は停止することなく動き続ける。
更に胴体に空いた穴や翼が再生を始める。
「しつこいのよ!」
「とにかく今がチャンスだ。撃ち込むぞ!」
シドに致命傷を与えてはいないが、シドは完全に動きを止めてビームフィールドを張っても居ない。
周囲にはシドが派手に暴れてくれたおかげで邪魔なデブリもない。
2号機と3号機はシドに集中砲火を浴びせる。
シドの装甲の前に2機の攻撃は大した損傷を与える事が出来ない。
だが、アンバットの方向からのビームがシドの再生中の穴を撃ち抜く。
その攻撃で完全に内部を破壊されて致命傷となったのかシドの装甲は再生する事なく内部から爆発を起こしていく。
それで攻撃の手を休める事なく2号機と3号機は攻撃を続ける。
内部の爆発で装甲が脆くなっているのか今度は攻撃でシドは破壊されていく。
止めにAGE-ZEROがドッズブラスターキャノンを撃ち込んでシドは爆散して破壊された。
「今度こそ、倒したんだよね」
「そうだと思うけど……」
何とかシドを撃墜する事には成功したが、これで終わったとは限らない。
「敵はこいつだけか?」
「エリスさん! 内部の方はどうでした?」
「知らん。何もなかった。そんな事よりもさっきの奴で最後か?」
先ほどのアンバットの方からの攻撃はエリスの1号機のドッズランチャーの物であった。
アンバットから離脱してあの場面に出くわしたため、エリスが一撃を入れたのだった。
しかし、戦場に到着した時にはシドは破壊され、周囲に敵の影も形もない。
「まさか……さっきので終わりだと言うのか。まだ何機か残っても居ないというのか」
「アレがまだいるとか勘弁してよ」
周囲に敵がいないと言う事にエリスは明らかに落胆している。
元々、陽動班と交戦している強敵と戦う為にこっちに来たような物だった為、当然の反応でもある。
「だが、どういう事だ? 本当に何もなかったのか?」
「私に聞くな。こいつの索敵システムでも要塞のシステムは完全に死んでいた。あそこに何かあるとは思えん」
「じゃぁ私達は無駄足だったって訳?」
アンバットが次の目的地と示されておりそこに何も収穫を得られなかったと言う事は完全に無駄足であったと言う事だ。
「そんな……」
あれだけの強敵を倒して結果を得られなかったと言う事でリックもエイミーも気落ちするが、AGE-ZEROのモニターに何かが映される。
「これって……」
「どうした? アスノ」
「僕のガンダムにメッセージデータが転送されて来て……ロックが掛かっていて開く事は出来ないんですけど……」
AGE-ZEROに送られて来たのは発信源は不明だがメッセージデータだ。
内容を確認しようにもデータにはロックがかけられており、開く事は出来ない。
「メッセージデータ……成程な。あのシドは中ボスと言ったところか。恐らくはシドを倒す事でそのメッセージデータがAGEデバイスをセットされているMSに届く仕組みなのだろうな。発信源はこれだけの残骸があるんだ。どこにだって仕掛け放題だ」
エリスの仮定ではここに配置されたシドはEXA-DBの次のヒントへと行く資格があるかと見定める試験官と言う所だろう。
シドを倒した事でこのデブリベルトのどこか、一つか複数かは分からないがこの辺りのどこからかAGEデバイスに対してメッセージデータが送信されるように予めセットしていたのだろう。
その出所を探すと言う事に意味は無い為、探すと言う事はしないがAGEデバイスがEXA-DBを見つける為に必須と言うのはこの仕掛けの為なのだろう。
「じゃぁ、リックのガンダムに次の目的地の事が書かれてるって事?」
「だろうな。私は疲れた先に戻っているぞ」
無駄足かと思われたが、次の目的地の情報を得られたかも知れない事でリックとエイミーも少しは気を持ち直している。
エリスはメッセージデータの中身にさほど興味が無い為、さっさとディーヴァに戻って行く。
残りの3機もAGE-ZEROが撃墜されては意味が無い為、AGE-ZEROを守るようにディーヴァへと帰投して行くのだった。