平和の訪れた筈の地球圏だったが、突如その平和は崩れ去った。
連邦軍総司令部ラ・グラミスが一瞬の光と共に消滅した。
「ラ・グラミスを一瞬で消滅させたと言うのか……一体どこから攻撃して来たと言うのだ」
エリスの言葉に司令室の兵たちはハッとした。
総司令部が一瞬にして消滅した事で思考が停止し考えなかったが、これは明らかに何者かによる攻撃だ。
そして、どのような方法でどこから誰が攻撃して来たのかは分かっていない。
その為、司令室の兵たちは目に見えて狼狽し浮足立っている。
「浮足立つな! すぐに政府に回線を繋げ! 情報を集める!」
オーギュストが声を上げ少しは落ち着きを取り戻すが、次の瞬間にはモニターが切り替わった。
モニターを切り替えたのは兵ではなかった。
そこには仮面を人物が映されていた。
兵の大半はモニターが切りかわり謎の人物が映された事に驚くがエリスとオーギュストは違った。
二人はその人物の事を知っていた。
「ヴァニス……イゼルカントだと」
オーギュストは呟く。
モニターに映されている仮面の人物、それはかつてネオ・ヴェイガンを率いていたヴァニス・イゼルカントであった。
だが、その正体はエリスでここにいる以上、仮面の人物は別の人物か過去の映像データ、意図的に編集された映像で本人である事はあり得ない。
「連邦政府に告げる。私はヴァニス・イゼルカントの子。ヴァレンティナ・イゼルカントである」
仮面の人物はそう告げる。
エリスも薄々は気が付いていた。
ヴァレンティナがエリスが付けていた仮面のレプリカを付けて再び表舞台に姿を現した。
何故、ヴァレンティナがエリスが付けていた物を同じデザインの仮面をつけたのかは分からない。
しかし、この映像を流すタイミングとラ・グラミスが消滅させられた事が無関係だと考える事は出来ない。
寧ろ、ネオ・ヴェイガンがラ・グラミスを消滅させて何かしらの声明を出したと考える方が自然だ。
恐らくはこの基地だけでなく地球圏全土にこの映像が流されているのであろう。
「ラ・グラミスはかつて母がネオ・ヴェイガンの拠点としていた要塞。今は連邦軍の押収され総司令部として利用されている体たらくに見かねて消滅させた」
ある程度は予測していた事だが、ラ・グラミスを消滅させたのはネオ・ヴェイガンの仕業で間違いはない。
消滅させた相手が分かったところで方法が分からねば意味はない。
「次はブルーシアを狙う。だが、我らとて鬼ではない。猶予をやろう。一か月だ。一か月後に無条件降伏をするのであればブルーシアを狙う事は許してやろう。これが受け入れられない場合、ブルーシアを破壊し24時間ごとにコロニー、地球上の都市を無差別に破壊する。以後の降伏勧告は一切受け入れない。我らは貴様ら地球種とそれに与する裏切り者達を一人残らず殲滅する事を宣言する!」
ヴァレンティナがそう宣言したところで映像は終わった。
映像が終わっても誰も何もしない。
「ティナ……お前は私にでもなろうと言うのか?」
エリスは誰にも聞こえない程小さい声を呟いた。
自分が付けていた仮面をつけている事と言い今の宣言と言いそう思える。
宣言の目的はともかく、わざと一か月の猶予を与えることやその後の対応はかつてエリスがヴァニスと名乗っていた時に行った事を同じだ。
これは偶然と考えることは出来ない。
しかし、そんな事を考えたところで答えは出ることはない。
分かっている事は天使の落日から100年が経った節目の年にヴェイガンとの最後の戦いは避けることは出来ないと言う事だけだ。
全世界への宣戦布告を終えたヴァレンティナの前にヴァレリがやって来る。
ヴァレリの様子は少し慌てているかのように見えた。
それもその筈だ。
今回の宣戦布告はヴァレリの指示で行った物ではなく、完全にヴァレンティナの独断だからだ。
「どういう事ですか? わざわざ連邦を挑発するような真似を……いずれはここを嗅ぎつけられますよ」
「それがどうした? 返り討ちにすれば良かろう。母上ならばそうした筈だ。母とネッサの仇である地球種など生かす価値もない」
ヴァレンティナの宣戦布告は上からに目線で挑発的だった。
あれでは逆に煽る結果となるだろう。
だが、ヴァレンティナはそれが狙いだった。
連邦政府は降伏する事なく軍を動かすだろう。
そうなれば宣言通りに地球の人間とそこに暮らすヴェイガンの血を引く者達を根絶やしにする事が出来る。
それはネオ・ヴェイガンの大義の為ではなく個人的な復讐だ。
ヴァレリが連邦政府への恨みを募らせるように仕組んだ事でヴァレンティナは連邦政府に完全に勝利してかつてのヴェイガンのように地球に住む者達を根絶やしにしないと母と妹を殺された憎しみを晴らす事が出来なくなっていた。
「しかしですな……」
「それともお前は私が負けるとでも?」
「そのような事は……」
ヴァレンティナは連邦軍が来たところで負ける気は全くない。
ヴァレリとしてはリスクは少しでも減らしておきたいと言うのが本音だ。
わざわざ連邦軍と決戦を行わずともこのままラ・グラミスを消滅させたように一方的に攻撃出来る方法をネオ・ヴェイガンは持っている。
それを最大限に使えば連邦軍との戦いは確実に勝利する事が出来るからだ。
「奴らに与えた一か月でここの防衛用の機体の数を揃えることを最優先にさせろ」
「はっ……」
内心は不服ではあるが、表向きはヴァレンティナがネオ・ヴェイガンの指導者である為、ヴァレンティナの命令には従わざる負えない。
ここでヴァレンティナの言葉を変えさせることは差ほど難しい事ではない。
だが、問題は宣戦布告の事は他の兵士にまで知れ渡っていると言う事だ。
一か月の猶予を与えながらもそれを待たずに攻撃する事は可能で敵に与えた猶予をわざわざ守らずとも猶予自体が相手を油断させる罠と言う事にすればいいだけの話だ。
しかし、兵士の大半はヴァレンティナやヴァニスを信奉している。
かつてのヴァニスも同じことを宣言し、一か月間の猶予は守った。
その前例がある為、ここで猶予を待たずに攻撃すればヴァレンティナの言動がおかしいと思われかねない。
その上、ヴァニスと同じことを言いながらもそれを破った事でヴァレンティナの求心力も落ちかねない。
「全く……面倒な事をしてくれた物だ」
ヴァレリは一人愚痴を漏らす。
ヴァレリの中の予定では後数回の攻撃で連邦政府に力の差を見せつけてある程度、相手に利のある条件で降伏させる予定だった。
連邦政府にも利があれば多少は不利益があろうとも命には代えられない為、降伏する事は予想が出来た。
「まぁ良い。どの道、ここの防衛は完璧だ。連邦軍が攻めて来ようとも負けることはない」
最悪の事態を想定して守りの為のMSは用意してある。
予定よりも時間はかかるが一か月後には勝つ事が出来る。
ここまで来るのにコールドスリープを使いながら何年もの年月をかけて来た。
今更、一か月延びたところで焦る必要はない。
それだけの用意をネオ・ヴェイガンはして来たのだった。
ラ・グラミスの消滅からヴァレンティナの宣戦布告から1日が経ち連邦政府も連邦軍も大慌てだった。
7年前に奪い返したロストロウランにキオやオーギュストを初めとした政府の官僚や軍の士官が集められていた。
政府関係者はともかく軍の上層部はその多くがラ・グラミスで戦死している為、集まった者達の立場は大して高くはないが、いないよりかはマシである。
その場に自身の権限を利用しエリスも会議に参加し、1日で事態の解析を任されたキャロルが皆の前に立っている。
「昨日の攻撃はこれによる物だと思われます」
キャロルはメインモニターにある兵器の情報を映し出す。
その映像を見てそれが何かすぐに理解できる者はいない為、キャロルは説明を始める。
「これはコロニー国家間戦争時に設計された超長距離用コロニーレーザーです」
流石にコロニーレーザーと言われてピンと来ない者はいない為、会議室はざわつく。
「最大射程は木星圏からでも地球圏を狙えます。攻撃の角度や出力などから計算しても攻撃は木星圏から行われたと見て間違いありません」
攻撃からたったの一日だがそこまでの事が分かったのには理由があった。
謎の攻撃である為、まずキャロル達は過去の戦争のデータが記されているEXA-DBの中のデータを虱潰しに探した。
その中にもいくつか状況と一致する兵器を見つけることが出来たが、それを特定する最大の要因はその中のコロニーレーザーのデータの中にクライドがUIEが所持していたと残していた事だ。
クライドはかつてのUIEとの決戦時にノアの管制にアクセスして内部の情報を見ていた。
その際にUIEが木星圏からも地球圏を狙えるコロニーレーザーを建造していた事を知った。
クライド自身はその事に興味は無い為、特に誰かに話すと言う事はしなかったが一応データには残しておいたのだろう。
当時は建造途中で建造が止まっていたが、時間をかけてネオ・ヴェイガンが完成させたと言う事だろう。
UIEにとっては地球を破壊して人類を宇宙に進出させる事が目的である為、コロニーレーザーよりも月規模のノアを地球にぶつけた方が確実だと判断された事がコロニーレーザーの建造を途中で中断していた理由だが今はその理由について考える必要もない。
「木星圏か……政府と軍は何をしていた?」
エリスがため息をついてそう言う。
木星圏から地球圏を狙える程の出力のビームが撃てるコロニーレーザーの大きさは相当な物だろう。
それを木星圏で作るにしても隠し通すのは不可能に近い。
UIEが行動を起こす前なら可能だったかも知れないが過去にUIEはノアを木星圏に隠していた事がある。
その為、エリスはUIEとの決戦後に木星圏に他にUIEが何かを隠していないか調査をしていたと思っていたが、こんな物が残されていた事を考えると連邦政府は調査を怠っていたと言う事だ。
「今更かも知れないけど当時は木星圏の調査も予定だったけど、戦後の復興を優先させていつの間にか調査自体なくなってたんですよ」
「それがコレか」
キオが弁解するもエリスは一蹴する。
エリスの言い分も尤もだが、ある意味では仕方がない事だった。
UIEとの決戦で多くの兵が失われた上にノアの残骸の撤去などで多くの時間と労力、金が必要で何かあるのか分からない木星圏の調査を後回しにした事を誰が責めることが出来よう。
しかし、ある程度の落ち着きを取り戻した時には政府関係者も世代交代が始まり木星圏の事を覚えている者は殆どいなかった。
キオ自身もこんなことになるまで忘れていた為、言い訳も出来ない。
「起きてしまった事はどうしようもありません。今はこの状況をどうするかと考える方が先決です。キャロルさん。あのコロニーレーザーに対する対処方法は何かありますか?」
「正直なところ技術者としては有効策を提示する事が出来ないと言うのが現状です」
キオの質問に対してキャロルは申し訳なさそうに答える。
キャロルが技術者として来ている以上は技術者の立場から何かしらの助言を与えたいのだが、何も言えることがないのが現状だ。
これがマリィならば少しはマシな回答があったのかも知れないが、マリィはここ数か月は連絡が取れずにいる。
「この手の兵器の破壊方法のセオリーは大きく分けて3つです。一つ目はエネルギーコアを破壊すると言う事です。これにより攻撃の為のエネルギーの確保を防ぎその為のエネルギーを暴走させて自爆させると言う方法が取れるからです。しかし、このコロニーレーザーにはエネルギーコアが約100基程あり、最低でも30基を破壊しなければ発射を阻止する事が出来ません。その上でエネルギーコアが不調となった場合、誘爆を防ぐ為に速やかにコアの駆動が停止する為、破壊したところで誘爆による二次破壊を行う事も出来ません」
キャロルはモニターの情報を切り替えながら説明する。
過去に何度も行われているエネルギーコアの破壊による誘爆で破壊すると言う策は今回は出来ないようだった。
「二つ目は管制を制圧するもしくは破壊すると言う事ですが、これもエネルギーコア同様に10の管制室があり、場所は完全に秘匿されている為、正確に制圧するには時間がかかり過ぎます」
管制を抑えるか破壊すればコロニーレーザー自体の発射命令が出ない。
これもこの手の作戦のセオリーだが、場所が分からない上にコロニーレーザーは通常のコロニーよりも大型であると予測できる為、手当り次第に探すと言う事は時間がかかりすぎる為、実行はま不可能だ。
「三つ目は外部や内部から直接攻撃による破壊工作です。ですが、このコロニーレーザーを最低限使用不能に追い込むまで破壊するにはそれ相応の戦力の投入が必要になります。その上性質の悪い事にこのコロニーレーザーにはMSの生産施設も備わっています。ここでMSを生産しているのであれば防衛の戦力を突破する必要があります」
三つ目の方法は可能性が一番高い方法でもある。
単純に攻撃によってコロニーレーザーを使えない程に破壊すると言う物だ。
しかし、今の連邦軍は軍縮傾向にあるうえに先日のグレート・エデンに派遣した部隊が受けた大打撃やラ・グラミスに常駐していた部隊もラ・グラミスと運命を共にしていた。
地上や火星圏に派遣している戦力と宇宙に残された戦力を集めれば何とかなるが、相手の戦力が不明瞭である以上は勝ち目があるかは分からない。
「連中はUIEが持っていたARISUシステムを持っているかも知れん。引きこもっていた7年でMSを作りまくれば防衛の戦力は相当な物だろうな」
UIEのコロニーレーザーがネオ・ヴェイガンの手に渡っていると言う事はMSを無人で運用できるARISUシステムのデータを持っていると考えた方が良い。
資材もUIEがコロニーレーザーに残してあった物や木星圏で集めることも可能だろう。
なにせUIEもかつては木星圏で力を蓄えていたのだから。
「残り1か月でアレを落とせる戦力を用意してコロニーレーザーを叩くしかないと言う事か……」
「あの女の一方的な言い分を鵜呑みにするのか? それよりもすぐに戦力を整えて木星圏に向かうべきだ」
オーギュストがそう言う。
残りが1か月と言うのはヴァレンティナが一方的に言っている事で守られるかは分かった物ではい。
「待つさ」
エリスは確信を持ってそう言えた。
ヴァレンティナが自分になろうとしているのなら確実に待つだろう。
余りにも自信満々に言う為、誰も反論出来ない。
「どの道、こうなった以上は腹を括って1か月後にアレを叩くしかないだろう? 安心しろ。私も前線で戦う」
「エリスさんが……」
エリスの言葉にキオはポツリとつぶやく。
その表情は暗いが誰もそんな事に気が付く余裕はなかった。
「アレを容易に破壊出来る兵器はEXA-DBの中にはないのか?」
「探せば幾らでもあるとは思います。しかし、1か月で運用できるようにするのは技術者として不可能と言わざる負えません」
オーギュストに対しても臆する事なくキャロルは言う。
EXA-DBの中の兵器情報を探せば幾らでもコロニーレーザーを確実に破壊出来る兵器を見つけることは可能かも知れない。
だが、残りの期限が1か月以内と言うのは無理だ。
当然過去のオーバーテクノロジーに手を出す為、データを解析して再現するまでには数年は必要だろう。
クライドかフリットが入れば少しは時間を短縮する事も可能だったかも知れないが、どちらもすでにこの世にはいない。
「とにかく残っている時間は僅かしかありません。今は世界が一致団結してこの事態を乗り越えないといけません。折角、多くの血が流れた戦争が終わり世界は平和になろうとしてるんですから」
キオの言葉に皆が賛同する。
この後は細かい打ち合わせが滞りなく終わり会議は終了し、皆が慌ただしく行動を始める。
「エリスさん!」
「キオか……」
会議が終わりキオはエリスを呼び止めていた。
呼び止められたエリスは面倒そうに立ち止まる。
「エリスさんも木星圏に行くつもりですか?」
「そのつもりだ。私が現時点でも軍の最高戦力だ。私が最前線で戦う事は当然だろう」
エリスはそう言って歩き出すがキオはエリスの腕を掴んで止める。
更に面倒そうな顔をするがエリスはキオの腕を振りほどこうとはしない。
「その体でですか?」
「私はまだ戦える」
「一度、ウェンディに見て貰った方が良いです」
「必要ない。私の体の事は私が一番分かっている」
「なら、分かってるんでしょ。貴女の体はもう……」
「大丈夫だと言っている!」
エリスは思わず声を上げてしまう。
だが、キオも一歩も引く気は無かった。
キオが心配しているのはエリスの体の事だ。
元々、エリスはかつての無理が祟り数年しか生きることが出来ない。
それから数度に渡るコールドスリープで今まで生きていたが、その7年でエリスは一度もコールドスリープは行っていない。
その為、すでにエリスの体は限界を迎えている。
今は薬で持たせてはいるが、病気の類と言う訳ではない為、人が寿命で死ぬことが回避出来ないように治す事は出来ない。
左目の眼帯も恰好つけやヴァネッサと見分けを付けると言うのは立て前に過ぎずすでにエリスの左目は殆ど見えていない。
少しでも左目の負担を抑える為に普段は眼帯を付けていたのだった。
いずれは左目だけではなく五感の感覚も失われて遠くなくエリスは死ぬだろう。
残された時間は1か月が良いところだ。
キオもある程度はエリスの状態を知っている為、最後くらいは戦場ではないところでと思っていたが、エリスは戦場を転々としている事もあってまともに話す機会は無かった。
エリスよりも連絡が付けやすいヴァネッサに連絡を入れると言う方法もあったが、何年も一緒にいることの出来なかった母親と再会して共に時間を過ごす事の出来るようになったヴァネッサにエリスの命が僅かしかないとキオは自分も同じ経験がある為とても言えなかった。
「安心しろ……私はまだ死なん。ティナが馬鹿な事をしでかした以上は母親である私が止めねばならん。お前も父となったのなら分かるだろう? この戦いが終わったら休暇を取ってネッサと買い物をする予定もある。ティナも取り戻して三人で行くのも良いだろうな。それが終わればお前の言う通りに大人しく医者にかかって余生を楽しむさ……私を信じろ」
「……本当ですよ?」
キオは渋々手を放した。
納得した訳ではない。
しかし、エリスを止めることが出来ないと言う事が分かってしまった。
「当たり前だ。私は死神に嫌われているらしいからな。今回も死にそびれるさ」
エリスはそう言って再び歩き出した。
エリスの後ろ姿はとても儚げでここで止めなければ二度と会えない気すらしていた。
それでもエリスは2度も死の運命を背負いながらも生き残って来た。
今はそれを信じるしかなかった。
ロストロウランで会議が行われている頃、宇宙のとある資源衛星にエイミー達とギルバートを除くかつてのゼクスシリーズのパイロット達がマリィの指示で集められていた。
グレート・エデンの一件で命からがら帰投したエイミーやハーマンも説明すらなくここまで連れて来られていた。
「それで俺らを集めた用件は何だよ。婆ちゃん」
再会を喜んでいる余裕はある訳がない。
すでにラ・グラミスの消滅の件は連邦軍全体に知れ渡っている事でどこの部隊も政府や軍の上層部からの命令が出ていないがいつでも動けるように準備を進めている。
「こんなこともあろうかた良いものを用意してたんだよね」
こんな状況でもいつも通りのマリィは皆を案内する。
そして、格納庫に到着する。
「これは……」
「マジかよ」
「何でこれが残ってんのさ」
「ガンダム……」
「説明して貰えるんですよね。場合によっては重大な軍機違反になりますよ」
そこには5機のMSがあった。
どれも4人にとっては馴染み深い機体だった。
本来なら破棄されていた筈のゼクスシリーズ。
その面影を持つ5機のガンダムがそこにあった。
「いやね。廃棄するのは勿体なくてさ。改造しちゃった」
7年前の一件で廃棄が決定した4号機を除く6機のゼクスシリーズのガンダムだったが、廃棄されたのは表向きの話しでマリィが独自に回収していた。
それをアスノ家の個人資産で独自に改造していた。
「でもさ。コレあった方が良くない?」
「それは……」
本来ならば政府の決定で破棄する筈のガンダムを勝手に回収する事は違法行為と見なされない行為ではあったが、マリィの言う通り今の状況では戦力になり得る。
「まずは1号機改は既存の装備を全部載せした豪華仕様に改造してあるのよね。重量が増した分、動きはトロイけど火力は増してるから問題ないよね」
ローザの1号機は元々多くのオプション装備が用意されている。
それを全て乗せたのが1号機改だ。
両手にはドッズランチャーとリニアバズーカを持ち、左腕のシールドにはドッズガンとドッズガトリングガンが付けられ腰にはバズーカの砲身の付いたロングドッズライフル、脚部にはミサイルコンテナ、バックパックには高周波ソード2本とグラストロランチャーが追加されまさに全部載せだった。
「2号機はゼロのGブラスターと同じ物を装備して、シールドは廃止して両手のライフルは結合させれば更に強力なロングライフルになる。シールドがない分多少は防御力が落ちてるけど火力が増してるから問題ないよね」
2号機改はバックパックが換装されていた。
シグマシスキャノン2門と可変翼だったバックパックがAGE-ZEROが装備するGブラスターを複製した物になっている。
これにより機動力が大幅に増して火力も若干だが向上している。
シールドを廃止して両手に新型のドッズライフルが装備され単体での威力が増しただけでなく2つを結合させる事でストライダー形態の機首ともなるロングドッズライフルとして使う事が出来る。
「3号機は元々火力が強いところに腕にシグマシスキャノンを追加して、バックパックにはツインハイパーメガダイダルキャノンを追加して見ました。燃費がすこぶる悪いけど火力が上がったから問題ないよね」
3号機改は大幅に改造されていないが、両腕に腕を囲むように3基のシグマシスキャノンを増設し、バックパックには一門でハイパーメガシグマシスバズーカの威力をも凌ぐ二連装のビーム砲ツインハイパーメガダイダルキャノンが追加されていた。
「5号機は脚部にミサイルポッドとシグルブレイド付きのドッズバスターライフルが2基とちと地味だけど火力が上がったから問題ないよね」
5機改は元々が格闘戦重視である為3号機以上に改造点が少なかった。
脚部のCファンネルはパイロットであったヴァネッサがXラウンダー能力を使い過ぎれば暴走する危険性と言う爆弾を抱えている為、Xラウンダー能力がなくても使えるミサイルポッドに変更され、手持ちの火器としてライフルの下部に大型のシグルブレイドのついたドッズバスターライフルを両手に持たされている。
「6号機は7号機の部品を流用して宇宙戦用に対応させてたの。実弾兵器主体からビーム兵器主体となってロマンが減ったけど火力が上がったから問題ないよね」
6号機改は他のガンダムとは違い宇宙戦用に特化した7号機の部品をばらして改造していた。
これはロイドが5号機に慣れているからと言う事で7号機の実戦データが殆どない為、改造がやりにくいからであった。
主兵装のガトリング砲はドッズガトリング砲となり、左手には本来は6号機が装備している筈のシグマシスロングライフルが装備されている。
両肩レールガンは片方のレールガンがシグマシスキャノンに変更されている。
他はスラスターの改良などで他のガンダムとは違い前の6号機よりもバランスが良く使い易くなっていた。
「本当は4号機とゼロの方も改造したかったんだけどね。4号機は改造する暇はないし、火星圏のゼロは調査とかでもこっちに回してくれなし、パパのゼロは完成度が高すぎて改造の余地がないしさ……」
マリィは年甲斐もなくいじける。
本当は他のガンダムも改造したかったのだが、ギルバートの4号機は粛清委員会で運用されている為、独自で改造する時間を取る事は出来なかった。
リックのAGE-ZEROも実戦での運用はないが火星圏でマーズレイの調査に使われている為、改造が出来ずエリスのAGE-ZEROはクライドが設計しただけの事はあり、マリィでは改造の余地がない程に完成されていた。
それを別の方向に改造するくらいなら新しくその方面に特化したMSを開発した方が早い程にだ。
「つか完全に趣味に走ってるよな。全部火力を優先的に上げてるし」
「どちらにせよ。これは軍の方で運用しても良いんですね」
「まぁ、その為にこの子たちのパイロットだった君たちを呼んだんだしさ」
元から軍に渡す気がなければ見せることもなかっただろう。
すぐにローザが5機のガンダムの移送の手筈を整える。
ロストロウランの会議が終わるころには資源衛星から5機のガンダムが運びだされた。
ヴァレンティナの宣戦布告から数日が経過した。
木星圏まで部隊を派遣する為には余り時間は残されていなかった。
その為、連邦軍も部隊編成に躍起になっている。
戦力確保の中心にはヴェイガンとの戦争の時から連邦にMSを提供していたマッドーナ工房が中心となっている。
軍の戦力がズタボロの今、民間と強い繋がりを持つマッドーナ工房に頼るしかない。
マッドーナ工房にMSや戦艦が集まる中、ディーヴァも工房のドックに停泊し改修作業が進められている。
ディーヴァが天使の落日の慰問典の後に廃艦する事が決まっていた。
ディーヴァはガンダムの母艦と言うイメージが強く、ガンダムはヴェイガンとの戦争を連邦を勝利に導いた英雄と言うイメージも持っている。
そこで100年目でマーズレイを無効化するイヴァースシステムの発表と共に戦争が終結し世界が平和になった事を示す為にガンダムと言う英雄は必要なくなったと言う事を見せる為に廃艦の様子を全世界に公開する事で戦争の終結を意味させようとしていた。
だが、ここに来てネオ・ヴェイガンが動き出した事でディーヴァは連邦艦隊の旗艦として最後の任務に就こうとしていた。
元々何十年も前に製造された戦艦で旧式も良いところである為、どうしても改修作業が必要となっていた。
ディーヴァの戦線復帰に伴い艦長にアセムが就く事になっている。
あの戦いからアセムも隠居して残りの余生をロマリーと共にキオが政治家として世界を平和に導く様子を見ているつもりであったが、状況が状況である為、再び戦場へと戻る事を決めていた。
「集めることの出来そうな戦力は戦艦が35、MSが280程度か……予測されるネオ・ヴェイガンの戦力には遠く及ばないか……最後までガンダム便りと言う訳か……」
アセムは艦長室で連邦軍の集めることが可能な予測戦力とコロニーレーザーの生産工場での生産力から割り出して予測した戦力を見比べていた。
グレート・エデンの一件と戦場が木星圏である事が響き集めることの可能な戦力は大して多くない。
軍の主力部隊は壊滅的な被害を受けている為、現在の主力機のクランシェⅢやアデルマークⅢなどは全部で20機程度で大半は旧式となり民間に払い下げられたジェノアスⅡやシャルドール改、アデルマークⅡ、ヴェイガンから押収したドラドやダナジン、レガンナーと言った戦力としては厳しい。
それに対して向こうの戦力は充実していると推測されている。
機体的には向こうもこちらと似たり寄ったりだが、無人機による数では圧倒的な不利は否めない。
その為、勝つ為にはガンダムの力を頼るしかない。
「アセム。入るぞ」
「ゼハート? 来ていたのか」
限られた戦力でどう戦うかを考えているとゼハートが艦長室に入って来る。
「お前がディーヴァの艦長として総指揮をすると聞いた」
「状況が状況だからな。最後くらいは戦いとは無縁な場所で隠居したかったんだがな。フリット・アスノの息子と言う肩書も昔は重荷でしかなかったが、今は必要だと思えるからな」
アセムが今回総指揮を任された理由の一つにフリット・アスノの息子と言う事がある。
フリットはかつて連邦軍の総司令として数々の戦いで勝利して来た。
その中には絶望的とも言える戦力差を覆した事も少なくない。
それだけの事をやったフリットはすでにいない。
その為、その息子であるアセムが総指揮に任せることで兵の士気を上げようと言う事だ。
アセムも青年期はフリット・アスノの息子として周りから期待される事を重荷に思う事もあったが、今となってはフリットの息子である自分が指揮を執る事で兵の士気を高めて少しでも勝算を高めることが出来るのであれば老体に鞭を打っても戦場に出る意味はあると思っている。
「ゼハートも木星圏に行くんだろう?」
「ああ。俺の部隊はグレート・エデンの攻撃からは外されていたからな」
グレート・エデンに仕掛けるにあたりゼハートの部隊は編制から外されていた。
未だに7年前のディーヴァを宇宙に上げる時の独断行動を根に持たれているのだろう。
皮肉にもそのお陰で部隊に被害を出す事は無く、今回のコロニーレーザー攻略作戦においてガンダムと共に主力となっている。
「ギルバートもロイドもガンダムで戦うからな。だが、お前は良いのか? ロマリーを地球に残して」
「どうだろうな。地球にはキオも残るし、リックも戦場に出ると言っているからな」
「そうか……」
コールドスリープをしていた時期のあるゼハートとは違いアセムもロマリーも普通に年を重ねている。
若い頃は多少年上と言うだけで特に意識していなかったが、ここ数年ではアセムもロマリーも歳老いているのが目に見えて露わとなって来ている。
口にこそしないが二人とも老い先は短いだろう。
だからこそ、ゼハートはアセムには地球に残りロマリーと余生を全うして欲しいとも思うがアセムは最後まで戦うつもりでいる。
「ならせめてロマリーを安心させる為にメッセージでも残したらどうだ? お前の事だ、禄に説明もしないで来ただろうからな」
「まぁ……な。だが、今更何を伝えろと言うんだ。愛を伝えるなんでこの歳じゃ恥ずかしくて出来んぞ」
アセムは少し困った顔をする。
実際、ロマリーには少し家を空けると言う程度の事しか言ってはいない。
ロマリーの事だからアセムが戦いに言ったと言う事は言わずとも察しているだろう。
察した上で止めても行くと言う事が分かっている為、アセムに余計な心配をかけないように気づかないふりをしているのだろう。
ゼハートの言うようにロマリーに充ててメッセージを残すと言う事も出来るが、今更何を残せば良いのか思いつかない。
「それに言いたい事は直接ロマリーに伝えるさ。この戦いが終わった後にな」
「そうか……そうした方が良いな」
「その時はお前やマリィ、シャーウィーやマシル達も誘ってMSクラブの同窓会でもするか」
「それも良いな」
これから向かう戦場は勝算のほとんどない戦いになるだろう。
生きて帰って来れる保障はどこにも無い。
それでも戦いの終わった後の事を考えることで必ず生き延びると言う覚悟を決めることにもなる。
「俺はこれから部隊編成の最終確認を行う。次にまともに話せるのは戦いの後だろう。アセム。死ぬなよ」
「お前もな。ゼハート」
互いに生き残る覚悟を決めたアセムとゼハートは多くを語る事はせずに艦長室を後にした。
多くを語るのは戦いが終わった後だからだ。
マッドーナ工房でディーヴァが運び込まれディーヴァに搭載するガンダムも運び込まれている。
搭載されるガンダムはゼクスシリーズの6機に加えAGE-ZEROとZERO-EXAも含めた8機で機体共々パイロットもマッドーナ工房に向かっている。
火星圏からAGE-ZEROを乗せた輸送艇が工房に到着してリックも輸送艇から降りて来る。
工房に到着し一足先に到着していたエイミーがリックを迎える。
「久しぶり」
「うん。久しぶりの地球圏なのに大変な事になってるね」
「ここじゃ何だからさ、もう少し落ち着けるところに行こ?」
「そうだね」
リックもある程度の事はここまで来る道中に情報を得ることが出来た。
その上でガンダムで再び戦うと言う事も軍の方に伝えてある。
リックとエイミーは落ち着いて話す為にディーヴァの方に移動する。
「ここも変わらないな」
「まぁ、あれから使ってないしね」
二人はかつてリックが使っていた士官室で話す事にした。
7年が経つが士官室はリックが使っていた当時のままだ。
状況が状況だった為、私物は無いに等しい状態だったので当然と言えば当然だ。
そこで二人は近況の報告をした。
どちらも他愛の無い話しで近況報告も大した話しをする事もない。
「そっか……ジンも大変だね」
「技術者にとっては今は戦場だしね」
ここにジンがいないのはガンダムのところにいるからだ。
本来はジンも含めた3人で会う筈だったが、ジンはメカニックである為、今はガンダムの整備に駆り出されている。
「リックも戦うんだよね」
「うん。戦わないと何かを守れないと言うなら僕は戦う。例え絶望的な戦いであっても……多分、それがガンダムを託されたアスノ家の役目なんだと思う」
リック自身戦いたいと言う訳ではない。
それでも今は誰かが戦わないといけない。
だからリックは再び戦う事を選んだ。
かつて、ヴァネッサを説得する為に戦う事を選んだように。
「そっか……」
「エイミーも戦うんでしょ?」
「まぁね。2号機が残ってたみたいだし、私のクランシェは当分使えそうにないからさ」
「なら、エイミーは僕が守るよ」
リックはそう言い切る。
数年前のリックからは想像が出来ない程、自身を持ってそう言っている。
そんなリックにエイミーは呆気に取られている。
「リックの癖に生意気。言ったでしょ。リックを守るのは私の役目だって」
「僕だって守られてるだけじゃないよ」
少しムキになって反論する。
流石にいつまでも女に守られているのは恰好がつかないとリックも感じている。
それが気になる相手なら尚の事だ。
「嫌よ。私が守るの」
エイミーはそう言い自分の口でリックの口を塞いだ。
突然の出来事にリックは唖然として動く事が出来ない。
数秒後、エイミーはリックを解放する。
未だにリックは膠着し、エイミーも心なしか顔を赤らめている。
「私、初めてなの。責任とってよね」
「エイミー?」
「だから責任を取りなさいって事! 取りあえずこの件については戦いが終わった後にけりをつけるから覚悟しなさい!」
エイミーはそう言ってリックの返事を待たずに飛び出していく。
エイミーが部屋を出てようやくリックも頭が回り始めた。
「戦いが終わった後の方が怖いな……」
リックはそうつぶやき少しエイミーにキスをされた唇に触れてエイミーの出て行った扉を眺めた。
ネオ・ヴェイガンのコロニーレーザーは木星圏にある為、落とす為には期限の一か月よりも先に地球圏を出る必要があった。
30隻以上の戦艦による艦隊である為、一か月の半分は木星圏への移動に費やした。
その甲斐もあって期限のギリギリに木星圏に到着する事が出来た。
ネオ・ヴェイガンももはやコロニーレーザーの存在を隠す気がないのかコロニーレーザーを見つけることはすぐに出来た。
連邦軍艦隊はコロニーレーザーで一掃されない為にコロニーレーザーの横っ腹から侵攻を開始した。
「艦長。コロニーレーザーの付近に戦艦、及びMSの反応を多数確認」
「機種特定……UIEのゼイ・ドゥ、及びゼイ・ドルグです!」
「奴らUIEのMSを……」
コロニーレーザーの防衛部隊と思われるMS隊や戦艦の数は今更驚く事は無い。
だが、ネオ・ヴェイガンは予測ではドラドやダナジンと言ったヴェイガンのMSを運用していると想定していた。
しかし、報告されたMSはUIEが運用していたMSであった。
ゼイ・ドゥはコロニー国家間戦争時にも使用された機体でゼイ・ドルグはプロトタイプのAGE-3のデータやドッズライフルなどのヴェイガンとの戦争でAGEシステムが生み出した物のデータが反映されて開発されている。
どちらも現在のMSを相手にも十分に通用する性能を持ちゼイ・ドルグに至ってはクランシェⅢでも厳しいと言わざる負えない。
かつてのUIEとの決戦ではゼイ・ドルグは先行試作機が奪取された事により量産が遅れた事で投入された数は総戦力の中でも少なかったが、今回はゼイ・ドゥと共に大量に製造され配備されている。
MSの性能では互角だと踏んでいたが、戦いを前に大き誤算となった。
「機体のデータはすでにある筈だ。各艦にデータの更新をさせろ。すぐに敵の主力部隊が出て来るぞ」
今、コロニーレーザーの周囲に配備されている部隊は最低限の戦力と考えるのが妥当だ。
そうなれば敵の主力部隊もすぐに出て来るだろう。
そうなる前に少しでも有利な状況を作っておきたい。
「ガンダム各機の出撃用意。その後、すぐにフォトンブラスターキャノンをチャージをさせろ」
アセムが指示を出し、次々と連邦艦隊は戦闘の準備に入る。
格納庫ではガンダムの発進準備と共にパイロットが自分の機体に乗り込んでいる。
「これ……」
ハンガーに置かれているAGE-ZEROは単に武装をした状態ではなかった。
バックパックのGブラスター以外の至るところに金色の装甲が取り付けられている。
右肩にはシグマシスロングキャノン、左肩には高出力の拡散ビーム砲が取り付けられている。
右手にはDCドッズガトリングが付いたDCドッズライフルとビームブレード、左腕にはビームシールドの発生装置の上に大型のシールドが装備されている。
脚部の膝の部分にも小型の拡散ビーム砲が追加され、足の横にはミサイルポッドと大幅に火力が増している。
「AGEシステムが生み出した新装備を装備したフルアーマー形態だ。こいつの装甲には粒子状の耐ビームコーティング剤が仕込まれてるからビームに対する耐久度は段違いに向上してんだ。この火力と合わせればこの乱戦には心強いだろ?」
AGE-ZEROの整備を担当していたジンが機体の説明をする。
木星圏までの道中でこの7年で得たデータからAGEシステムに新しい装備を作らせた。
その結果がフルアーマーAGE-ZEROと言う訳だ。
全身の金色の追加装甲の中には耐ビームコーティング剤が内蔵されており、それを常に装甲に定着させ続けることでビームに対する防御力を継続的に向上させる事が出来る。
これはこの7年で火星圏のマーズレイの情報を得る為に常にマーズレイに晒されていたところから常にビームの攻撃を受けたと言う事を想定しての防御重視の装備だ。
また左腕のシールドは100を超える薄い質量装甲の層でできており被弾時に何枚かの装甲を破壊する事で本体へのダメージを遮るチョバムシールドだ。
そこにマリィが自分の趣味全開の火器を追加した事で火力と防御力を重視したフルアーマーAGE-ZEROとなった。
今回のように大軍を相手にする乱戦では高い火力と防御力は非常に心強い。
重装備により多少の機動力は低下するが、元々Gブラスターによるずば抜けた機動力を持つ上に機体の各部に小型のスラスターを追加した事で機動力の低下は最低限に抑えられている。
「装甲の効果がなくなったらすぐに捨てろよ。シールドもだ。シールドは装甲の層でできてるから使い捨てにするには高価過ぎるが、気にするな」
「うん。分かった。ありがとう。ジン」
「おう。死ぬんじゃないぞ。エイミーと必ず帰って来い」
ジンはそう言ってAGE-ZEROのコックピットから離れていく。
リックは機体に乗り込むとハッチを締めてAGEデバイスをセットして機体を起動させる。
すでに他のガンダムにもパイロットが乗り込み発信準備が進められている。
戦闘態勢が整いディーヴァのカタパルトが開閉する。
左右のカタパルトに1号機改と2号機改が移動する。
「戦力差は絶望的……私達の動きで戦局を変える」
ローザはディーヴァから送られて来た現在の敵の戦力データをギリギリまで目を通している。
指揮官機としての性能を重視している1号機改は今回はガンダム部隊の指揮を任されている。
状況が当初の予想よりも悪い中でローザの指揮が戦局を左右すると言っても過言ではない。
部隊の中には直属の上官であるギルバートもいるが、今回は指揮能力の高い1号機改が指揮を執る事でギルバートも納得済みだ。
自分の指揮次第で戦いの行方を左右する為、ローザも今まで以上に緊張している。
「ローザ・ベンジャミン。1号機改。出撃します」
1号機改が射出され、次の3号機改がカタパルトに移動する準備が始まる。
「まずは敵陣に切り込む……後はなるようになるしかないって」
エイミーは深呼吸して自分を落ち着かせる。
2号機改は機動力が高い為、真っ先に敵陣に切り込んで後続のガンダムが戦い易いように場を混乱させる事が仕事だ。
前に出て戦う事が得意なエイミーも今回ばかりは平常心を保つのは難しく無意識の内に操縦桿を強く握り占めている。
「エイミー・バートン。2号機改。出ます!」
2号機が射出され今後は4号機の発進準備に入る。
その間に3号機改がカタパルトにセットされていた。
「お前達の仇は取ってやるからな」
ハーマンはコックピット内に張られている写真を見る。
それはまだ学生だった頃に仲間と共に取った写真だった。
その中の友人の大半はネオ・ヴェイガンがレーアツァイトを襲撃した際に戦死している。
ハーマンの3号機は火力を活かした後方支援だが、仲間の仇を取る覚悟を持って自分の役目を全うするつもりだ。
「ハーマン・ブラック。3号機改。出撃する!」
3号機が射出され、5号機が準備を始める。
次に4号機が出撃を開始する。
「奴らを排除し戦いを終わらせる。ヴェイガンの民の為に……」
ギルバートの4号機は改造がされていない為、両手にダイダルバズーカを持った状態で出撃する。
4号機の役目はバランスが取れている為、状況に合わせて戦う遊撃だ。
ギルバートはこの戦いに勝利してネオ・ヴェイガンを撃つ事でヴェイガンの民やその血を引く者達が後ろ指を指される事なく安心して過ごす事が出来る為に戦おうとしている。
それが祖父の代からの夢でそれが実現しようしている。
「ギルバート・ガレット。4号機。出る」
4号機が射出され、6号機改が準備を開始した。
「姉様……母様」
5号機改は格闘性能を活かして2号機改が混乱させた場に切り込んで更に混乱させる事が役目だ。
その後は2号機改と共に前線で暴れ続ける。
ヴァネッサは姉のヴァレンティナの事を考えていた。
ヴァレリに良いように使われている事を知らずこれだけの事を始めた。
もはや、止めることも止めたとして許されるのかも分からない。
しかし、エリスならそれも可能だと信じている。
だからこそ、自分は自分の役目を全うすればいい。
「ヴァネッサ・アスノ。5号機改。行くわ」
5号機が射出され、新装備を装備したAGE-ZEROがカタパルトにセットされる。
「爺さんも兄貴も気合入れ過ぎなんだよ。まぁその気持ちは分からんでもないから俺も気合入れないとな」
ロイドは誰に言っている訳でも無く一人そう言う。
今までは真面目な兄ギルバートは祖父ゼハートに対して皮肉や斜に構えて自分はパイロットとして好き放題にしていたが今回ばかりは二人同様に気合を入れていた。
7号機の部品を流用した6号機改は7年前とは違い宇宙でも十分に戦う事が出来る。
あの時は不甲斐なくまともに戦う事が出来なかったが、今は違う。
6号機の火力により多くの敵を撃墜する事が出来る。
「ロイド・ガレット。6号機改。出るぜ!」
6号機改が射出され、最後のガンダムZERO-EXAがカタパルトに移動させられた。
「お父さん、お爺ちゃん……僕はやるよ。アスノ家の男として世界を守る為に戦う」
すでにフルアーマー形態のAGE-ZEROの装備や通常時の違いなどは頭に入れている。
後は動かしながら感覚を掴めばいい。
一息ついたリックはカタパルトから広がる宇宙を見る。
いつもの気の弱いリックはそこにはいない。
何かを守る為に戦う覚悟を持った目をしている。
「リック・アスノ。フルアーマーガンダムAGE-ZERO。行きます!」
フルアーマーAGE-ZEROが射出されようやくエリスのガンダムZERO-EXAの番が回って来る。
「戦力差は絶望。勝たなければ終わり。燃えるシュチュではないか。尤もその前に馬鹿娘を叱りつける仕事があるか」
エリスは決戦を前にしてもいつも通りの自信に溢れた表情をしている。
UIEの決戦を経験しているエリスにとっては今回の決戦においてもいつも通りでいることが出来ている。
体に不安は残るも気にしたところでしょうがない。
「私の体がどこまで持つか……まぁ良い。エリス・アスノ。ガンダムZERO-EXA。出るぞ!」
ガンダムZERO-EXAが射出され、これでディーヴァの搭載機は全て出撃した事になる。
ディーヴァから出撃した8機のガンダムはコロニーレーザーの防衛部隊の方に向かう。
他の連邦軍の戦艦からも次々と搭載機が出撃を始める。
そして、遂に連邦とネオ・ヴェイガンの最後の戦いの火蓋が切って落とされた。