機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第18話

 

「と言う事がったんだよ」

 

 クライドは5年前にエリーゼと初めて会った時の出来ごとを話すが、それを聞いていたブリッジクルーやジゼル達の反応が薄い。

 それどころか、まともに信じていないと言う雰囲気だ。

 

「なぁ……アニキ。その話本当の事なのか?」

 

 ジゼルは疑いの眼差しをクライドに向ける。

 クライドの話の中の二人がジゼルや他のクルーの持つ二人のイメージとはかけ離れていた。

 話の中のクライドはMS馬鹿なところは変わってないが、他人と必要以上に絡もうとしないところは今のクライドとは異なる。

 エリーゼもジゼル達の中では落ち着いた大人の女とイメージがあり、クライドの話の中のエリーゼのようにクライドを巻き込んで家出をするようにはとても思えなかった。

 寧ろ、クライドが適当に話をでっち上げたようにさえ思えて来る。

 その辺りが普段の行いの差なのかも知れない。

 

「本当の事だよ」

「でも、エリーゼを拉致して傭兵はともかくとしてさ……連邦の特殊部隊がどうして、クライドの前に来るのさ?」

 

 アルフレッドの疑問も尤もな事だ。

 今ではクライドは連邦とも事を構えたこともあり、追われる立場である以上特殊部隊がクライドを狙う理由はあるが、当時のクライドは只の学生に過ぎなかった。

 そんなクライドを連邦に加盟していないコロニー内でMSを使ってまで特殊部隊がクライドを狙う理由は考え難いため、現実味が薄くなる。

 

「知るかよ。あれから一度も狙われてないしな。けど、俺がエリーゼの家出に巻き込まれたそうだよな。エリーゼ」

「さて……どうだったかしらね。私はクライドに『つき合ってくれるな』って言われて……それで私にはその時にはもう、婚約者がいたから……」

 

 クライドは当事者だったエリーゼに助けを求めるが逆に状況が悪くなることを言う。

 

「その部分だけを抜粋するな!」

 

 確かにクライドはエリーゼに「つき合ってくれるな」と言う事を言ったが、その部分だけを言えば確かにクライドがエリーゼに告白しているように聞こえるが実際は、クライドとエリーゼがシャルドールに同乗し、ゲルマンとの交戦で一か八かの賭けにつき合ってくれるなと言っている。

 婚約者に関してもエリーゼは相手の事を名前しか知らず、そのことをクライドに散々文句を言っていた。

 

「でも、君たちを見ていればそんな風には見えないな」

 

 クライドとエリーゼの関係は公然の物で、誰の目にも家出に巻き込んだ加害者と巻き込まれた被害者には見えない。

 

「いろいろとあったんだよ……お前たちと出会うまでによ……」

 

 クライドからすれば、エリーゼと今の関係になったことは後悔はしていないが、たまにその時の事を思い出すとどうしてこうなったと叫びたいことがある。

 

「ぶっちゃけ、アニキが姐御に一目惚れして、告って駆け落ちした方が説得力があるぜ」

 

 ジゼルの発言にブリッジの一同が納得し、クライドは自分がどう思われているのかを思い知るが、それに対する反論をしようとが偵察に出ていたシャルルとアリスからの報告が入る。

 

「何かあったか?」

 

 状況が悪い為、クライドは話しの方向を変えようとする。

 

「敵らしいのはいなかったけど……少し気になることがあった」

「映像を取って来ていますので送ります」

 

 アリスがそう言い、少しするとデスドールのメインカメラで撮られた映像が映し出される。

 映像は偵察コースの近くのデブリベルトが映されている。

 

「これがどうしたの……」

「何かいるな……」

 

 映像ではかなり見難いが確かにデブリの間を縫うように何かが通っているのが辛うじて分かる。

 

「拡大します」

 

 そのままでは非常に見づらかった為、「何か」を拡大する。

 拡大されるとそこには黒いMSが映されている。

 頭部はジェノアスだが、胴体はジェノアスよりも重厚感がある。

 そして、黒いMSはデブリベルトを速度を落とすことなく移動している。

 速度は見た感じではガンダムZERO Nよりも少し遅いくらいだが、MSの機動力としては十分に早い方になる。

 その速度を維持しつつ黒いMSはデブリに当たることなく動いているところから、動かしているパイロットの技量の高さが窺える。

 

「あのMS……どこかで……」

 

 エリーゼはその黒いMSを見て率直にそう思うが、どこで見たかまでは思い出せない。

 他のクルーもどこかで見たような気はするが、それが何処でなのかまでは分からないがただ一人クライドだけは心当たりがあった。

 

「どう言う事だ……」

「どうしたんだい? クライド、あのMSの事が何か分かったのかい?」

「ああ……あれはゼロだよ」

 

 クライドがそう言いクルーは改めて黒いMSを良く見ると確かにクライドの搭乗機のガンダムZEROの胴体に似ていないことも無い。

 

「確かにそうだけど……」

「それも初期の方のだ」

 

 ガンダムZEROは製造に入るまでに幾度も細かいところの設計を見直している。

 黒いMSはその中でもアブディエルに搭載されているガンダムZEROの初期の設計に良く似ている。

 

「あのデザインからするに5年程前の奴だな」

「そう言えば……あの時のに似ていないことも無いわね」

 

 クライドに言われて見ると確かにエリーゼが5年前にクライドと初めて会った時に見せて貰ったデータに似ていないことも無い。

 

「問題は何処でゼロのデータが漏れたかだ……」

 

 可能性があるとすれば、クライドがガンダムZEROの製造の為にデータを持ちこんだマッドーナ工房だが、クライドはその線はすぐに消去した。

 ムクレドもガンダムZEROのデータを見てそれを流用はするが、盗用をすることも無ければ無断で第三者にデータを売る様な真似は絶対にしない。

 それに黒いMSは5年も前の設計図から作られていると思われる。

 その次期から考えるにクライドが一度だけ課題で提出したデータが使われている可能性が高い。

 当時の担当教師が売ったか、製造に関わっているか、学校のデータベースにハッキングされて盗まれたかは分からないが、設計図が漏れたとするとその辺りで間違いがない。

 

「気に入らないな……」

 

 クライドからすれば、昔の設計図を勝手に使われたこととなり、技術者としては面白くはない。

 技術の世界では新しい技術は公開されると、様々な技術者がそれを自分なりに理解して使う事があるが、この黒いMSは動きや外観を見る限りではクライドが設計した物を自分なりのアレンジすらなく使われていることになる。

 

「デブリの位置と使った推進剤からコイツが戻るところを計算出来ないか?」

「出来ますけど……」

「やってくれ」

 

 オペレーターはすぐに計算を開始する。

 

「どうするつもりなの?」

「コイツを作った奴を確かめる」

 

 クライドはこの黒いMSを作った奴の事が気に入らなく、見つけてそれなりの対処をする気でいた。

 アブディエルの現在の目的地はコロニー「アーヴィン」だが、アーヴィンは逃げることも無ければ見失う事も無いため先にこの黒いMSを追う方を優先した。

 突然の進路変更にクルーは少しうんざりするが、クライドがMS鍛冶として非常にプライドが高いことも知っている為、自分が昔に設計したMSを無断で作られていたと言う事実で相当頭に来ている為、反論もすることなく黒いMSの捜索を優先した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一回行って見ろ」

 

 アンバットで戦力を補充して、アブディエルの捜索に出たブラッドはセリアから次の目的地を聞いてブラッドはセリアを睨みつける。

 戦闘艦のブリッジには次の目的地に興味のないデシルは艦内の探索に出かけ、他のクルーはXラウンダーであるブラッドとセリアに意見する権限を持っていない為、二人の様子を見ているしかない。

 

「次の目的地はルカインと言ったのよ」

 

 セリアはブラッドに臆することなくもう一度同じことを言う。

 アンバットを出てすぐにファ・ボーゼから通信が入り、アブディエルの捜索がてらルカインに向かうように指示を受けていた。

 だが、ブラッドからしてみれば、そんな事よりも自由にクライドを探したい。

 

「そこで研究しているサイコメット・ミューセルの試作品のデータを受け取りに行くのよ。私達は」

「知るか。んなもん……俺はクライドと戦う事以外に興味はない」

 

 今となって見れば、ブラッドにはヴェイガンの悲願などどうでも良くなっていた。

 ブラッドに取っては全力で戦える相手が居れば満足だからだ。

 

「それ以外の事なんか、俺には関係ないことだ」

「そうね……でも、情報ではガンダムの母艦はファーデーン付近からアーヴィン方面に向かい、ルカインはその近くの宙域にあるわ。運が良ければ出くわす可能性はゼロではないわ」

 

 ブラッドにからして見ればゼロではないでは満足できない。

 確実に出会える可能性がなければ意味がない。

 だが、クライドの行き先の当てがない以上、その情報に頼るしかないのが現状だ。

 ブラッドは血の気が多いが、自分に取って何が一番特なのかは心得ている。

 

「ちっ……好きにしろ」

 

 結局、自分が折れなければクライドの再戦の可能性が薄れる為、そうするしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれがルカインか……」

 

 偵察に出ていた二人を回収し数時間後には黒いMSが帰投出来るコロニーや要塞、母艦の可能性はコロニー「ルカイン」のみである事が判明し、アブディエルは進路をアーヴィンからルカインに変更していた。

 ルカインの位置はアブディエルの位置から遠くなく数時間の航海で視認出来る位置まで来ることが出来た。

 

「後は俺とシャルルでやるから、MSを待機させておいてくれ」

「頼んだわよ」

 

 ルカインにはクライドとシャルルが情報を収集する手筈となっている。

 クライドは後をエリーゼに任せて、ブリッジを出て行く。

 

「アニキ! アタシも連れてってくれ!」

 

 ブリッジを出て格納庫に向かう途中でジゼルがクライドを呼びとめる。

 今回はジゼルはアブディエルで待機となっていたが、ジゼルは潜入組に入ることを希望していたが、クライドが却下した。

 

「駄目だ」

 

 クライドは取りつく島もなくそう言う。

 

「何でだよ! あそこにアレクがいるかも知れねぇんだ! アニキだって分かってんだろ?」

 

 ジゼルは珍しくクライドに喰ってかかっている。

 ジゼルにとってはそれだけ重要なことだと言えるが、クライドは冷ややかに対処する。

 

「だから駄目と言っている。今のお前では冷静な対処が出来ない」

 

 元からジゼルに冷静な対処など無理に近いが今回ばかりは話しが別である。

 このコロニーには「脳科学研究所」がある。

 それは非公式だが連邦軍が出資しXラウンダーの研究をしている施設である。

 以前にもジゼルはXラウンダーの素質を持つが故に拉致されかけている。

 その時にジゼルの友人のアレクが拉致された。

 ジゼルがアブディエルに乗艦し戦っている理由の一つがそのアレクの捜索だ。

 アレクが拉致された理由が自分と同じなら、この研究所に送られている可能性もある為、潜入班に志願したが、クライドがそれを良しとしなかった。

 

「話しはこれまでだ。お前と議論している暇はない」

 

 クライドは敢えて冷たく接して、格納庫に向かう。

 

「アニキ……」

「ジゼルさん、僕達もMSで待機していましょうよ」

 

 クライドには止められたが、ジゼルはそれで納得出来る訳もなく、初めてクライドの意に背くことを決めた。

 

「レオ……行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、ミスターアスノ」

 

 コロニー内でMSを収容出来るスペースを持っているのは脳科学研究所が一番怪しいと踏んでクライドは正面から堂々と研究所を訪れていた。

 この研究所ではMSを製造するだけの施設も揃っており、コロニー内では最も怪しい場所だ。

 黒いMSを作った者ならば、クライド・アスノの名前を出せば何らかの反応やアクションが起こると思ったが、以外にも研究所からは歓迎されているようだ。

 クライドを出迎えたのは40代くらいの男で典型的な研究者に見える。

 

「これは随分な歓迎ですね。プロフェッサーアドルフ」

 

 クライドは周囲を警戒しつつも、アドフルに友好的な態度でそう言う。

 

「あのアスノ家の跡取りが来てくれたんですよ。歓迎もしますよ。それで御用件は?」

「ここでMSの開発をしていると聞いた。個人的に興味があるから来てみたんだが……」

 

 クライドは敢えて直球でそう言う。

 周りくどい言い方をするよりも、直球で言う事で相手の反応を見るが、アドルフは驚いているが後ろめたい様子は見せない。

 

「ほう! 良く御存じで!」

「失礼でなければそのMSを見せて貰いたいんだが……」

「アスノ家の方にそう言って貰えると我々も鼻が高い」

 

 機密などを盾に拒むと思われたが、以外にも素直に応じられて、クライドは不審に思いつつも良い機会なのでアドルフに続いて研究所を案内された。

 その道中では研究所の施設の説明も入るが、どれも一般的に公開されている情報と違いはない。

 

「ここから先は本来なら部外者は立ちいることは出来ないんですが、特別ですよ」

 

 アドルフはそう言い更に研究所の奥に連れられる。

 奥にはMSの格納庫が連なり、特殊部隊用のジェノアスが並んでいる。

 

「これは凄いですね」

「そうでしょう。そうでしょう」

 

 クライドのお世辞にアドルフは機嫌良く案内していると、格納庫の中に目的の黒いMSを見つける

 

「プロフェッサー、あのジェノアスは一体?」

 

 クライドは湧きあがる怒りを抑えつつも、アドルフに問う。

 

「ああ……あれはサイコ・ジェノアスですね。我々が製造した新型のMSですよ。あなたにお見せしたい物は別の物ですよ。付いて来て下さい」

 

 黒いMS「サイコ・ジェノアス」を作ったのがこの研究所である事は疑いようがないが、クライドはアドルフについて行く。

 そして、クライドが案内された場所は研究所のデータルームだった。

 

「ここには研究所で開発している兵器のデータがあります」

「ここは脳科学研究所だろ? いつからMS開発研究所に鞍替えしたんだ?」

「尤もな質問ですな。この研究所で開発してる機体はここの研究対象の能力を最大限に発揮出来る機体なのですよ」

 

 つまりはこの研究所ではXラウンダーが搭乗することが前提の兵器を開発していることになる。

 クライドにとってはXラウンダーは専門外の分野な為、Xラウンダー専用機を開発するノウハウは持っていない。

 その為、今後の為にもここで出来うる限り、Xラウンダー専用機のノウハウを盗むことに決めた。

 向こうも勝手に自分のデータを使っている為、おあいこである。

 

「これがわが研究所の誇る最高傑作「アラクネー」です。ミスターアスノ」

 

 アドルフは玩具を自慢するようにデータルームの一番大きなモニターにデータを映してクライドに見せる。

 クライドはそのデータを隅から隅まで見て、そのデータを寸分違わずに頭に叩き込む。

 

(見た感じだと図体はでかいが、アンチビームフィールドを展開出来るからビームに対しては絶対的な防御力を持つな……尤もこのフィールドだとメガ粒子のビームは防げるが、ヴェイガンのMSのビームもメガ粒子とは限らないな……まぁ、俺のゼロのビームライフルはメガ粒子だから防げるけどな。実弾系の攻撃もこれだけ厚い装甲を持ってれば多少の攻撃じゃビクともないだろうな。それに……おいおい、ハイメガも搭載してんのかよ。それ以外にもビーム砲が多数にレールキャノンが2基、それに広域殲滅用のスプレッドミサイルに格闘戦用の大型ヒートクローアームが6本って……てか、このMS……すでに人の形すら取ってねぇよ……化け物かよ)

 

 クライドは大型MS「アラクネー」のデータを見てそう思う。

 このMSは全身に武器を搭載し、機動兵器と言うよりも戦艦や移動要塞に近いように思えた。

 

「如何でしょうか?」

「そうだな……(だが、これだけのMSを一体どうやって動かす……)」

 

 クライドは更に目を凝らして、アラクネーのデータの隅から隅を見て、その謎に迫る。

 

(これか……)

 

 そして、ようやくそれを見つけた。

 

「ふざけんなよ……」

 

 それを見つけたクライドが呟いたのはそれだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クライドが正面から研究所に入っている頃、シャルルは別のルートから研究所に潜入していた。

 この任務にシャルルが選ばれたのは、シャルルが元連邦軍人だからだ。

 この研究所は表向きは民間の研究所だが、裏では連邦軍が出資しているため、内部には連邦軍人も出入りしている。

 その為、連邦軍に籍を置いているシャルルが適任と言う訳だ。

 

「上手く潜入出来たけど……専門外なんだよな」

 

 シャルルは連邦軍人だったとは言え、MS隊の所属だった。

 その為、MSの操縦や部隊の指揮を執ることは出来るがスパイ紛いの事は得意と言う訳ではない。

 その方面なら確実にアリスの方が得意だが、研究所ないでメイド服は悪戯に目立つ。

 

「さて……どうしたものかな。手ぶらで帰る訳にも行かないしな……」

 

 熱烈に潜入班に志願していたジゼルがクライドの命令で強制的にアブディエルで待機させられて、自分が潜入した以上何かしらの成果を出さなければジゼルに申し訳が立たない。

 

「シャルル?」

 

 突如、背後から声をかけられてシャルルは一瞬身構えるが、声の主を見て警戒を解いた。

 

「デューク? なのか……」

 

 それはシャルルの士官学校時代の友人のデュークだった。

 

「ああ……と言うか、何でお前がここに?」

「それはお前だって……」

 

 デュークの疑問もシャルルの疑問も尤もだ。

 お互いが知る限りではお互いがこのような場所に居る訳がないからだ。

 

「取り合えず、ここで立ち話はなんだ。俺の部屋にでも来いよ」

 

 デュークはそう言い、下手に騒ぎを起こしたくないシャルルは大人しく付いて行く。

 研究所の内部には職員用の寮も完備しており、シャルルはその中のデュークの自室に案内された。

 

「それで、何でシャルルがここに? 戦死したって風の噂で聞いた気がするんだが……」

「まぁね……死にそうだったのは事実だよ。そこを通りがかりに助けられてね。いろいろあって彼らの仲間になった訳だ」

 

 シャルルはその時の事を思い出す。

 いつ思い出しても自分が運が良かった。

 

「いろいろね……それでどうしてこんなところに?」

 

 シャルルの経緯は分かったが、それがここにいることには繋がらないどころか連邦軍を離れた云わば脱走兵のシャルルが連邦軍の関わっている研究所にいるのはおかしい。

 

「うちのリーダーが昔に設計したMSのデータが勝手に使われたらしくてね。そのMSが居そうな場所でココが一番怪しいと踏んで俺が潜入したって訳だよ」

 

 ここまで話している以上、隠す訳にも行かず、シャルルは素直に話す。

 シャルル個人としてはデュークは信頼が置ける為、場合によっては手伝って貰えるかも知れないとの希望もあった。

 

「MSか……多分、サイコ・ジェノアスの事かも知れないな……」

「知っているのか?」

「ああ……だが、悪いがそれに関しては言う事は出来ない。あれは危険過ぎる」

 

 デュークはそう言いそれ以上は話すことがないのはシャルルにも分かる。

 こうなったからにはデュークは決して話すことはないだろう。

 

「そうか……どうしてデュークがこんなところに?」

 

 その為シャルルは話題を変える。

 

「確か特殊部隊に配属されたと聞いたが? その任務関連か?」

 

 もしそうならば、デュークも答えないと踏んでいたが、以外な事にデュークは頷いた。

 

「まぁ、そんなところだ。5年程前に俺が指揮を執った作戦でミスってな。それでこんなところに左遷さ」

「とてもミスをして飛ばされた人間の顔には見えないが?」

 

 デュークは作戦でミスを犯して、左遷された者特有の悲観した様な様子はなく、寧ろ少し晴れ晴れとしている。

 

「こう言っては何だが、俺はあの作戦を失敗して正解だったと思っている」

「差支えなければ内容を聞いても?」

 

 流石に作戦の内容までは教えて貰えないだろうと思っていたが、デュークは少し考えて話しだす。

 

「とある学生を強制連行……いや、拉致と言った方が良いな。そうしろと言う命令が出てね」

「学生? 一体どういう学生なんだ?」

 

 普通に考えて学生を特殊部隊が拉致するようなことは信じがたい。

 だが、この状況でデュークが適当な事を言っているようにも見えない。

 

「とある高名なMS鍛冶の家系の跡取りでね。UEに対抗するための兵器開発に協力して貰う為だと聞いている」

 

 その協力とは強制や強要に置き換えることが出来ることはシャルルでも理解出来る。

 

「だが、幾らUEに対抗するためとは言え、まだ当時は16歳の少年を戦いに巻き込むことは正しいとは思えない。手を汚すのは俺達大人だけで十分だ」

 

 デュークはそう吐き捨てる。

 それはシャルルにも理解出来る。

 もうじき父親になるシャルルとしては、自分の子供にも戦いに関わって欲しい訳がない。

 だが、二人は知らない。

 その少年こそが、シャルルの仲間のリーダーをしているクライド・アスノだと言う事を。

 そして、その任務を完遂することは実は非常に容易だったことも

 当時のクライドは今のように資金面でも技術面のバックアップもなく条件次第では連邦軍に協力していたかも知れない。

 

「そうか……」

 

 そのことを知らないシャルルは名も知らない少年が戦いに巻き込まれなかったことに安堵している。

 

「だが、どうして俺にその話を?」

 

 先ほどはサイコ・ジェノアスなるMSの事は決して話すことはなかったが、特殊部隊の任務の内容を話したことがシャルルには疑問でしょうがない。

 

「そうだな……きっと、誰かに懺悔しなかったのかもな……大人が背負うべきことを子供に背負わせようとしたことを……」

 

 そう言うデュークはどこか遠くを見ているようでシャルルはデュークの様子がおかしいと思う。

 

「らしくないな。どこか悪いのか?」

 

 人は体調を壊すと弱気になると聞く。

 デュークもその類かと思い、尋ねるが以外な答えが帰って来る。

 

「そうだな……俺は多分、長くない」

「どう言う事だよ」

「さっき話したサイコ・ジェノアスの事だ。この際お前に話しても構わないよな……あのMSが危険だと言う理由を……」

 

 先程は頑なに話すことを拒否したことを話すと知り、シャルルは次第に緊張して行く。

 

「俺が長くないのはそのサイコ・ジェノアスに搭載されているシステムのせいだ。あのMSにはパイロットの能力を限界以上に引きだすことが出来る。その代償として脳に負荷がかかりパイロットはそれに乗り続ければ遠くなく脳が壊れて死ぬ」

「そんなバカなことが……」

 

 シャルルは信じがたいが、映像で見たサイコ・ジェノアスの動きは一流のパイロットの物でシステムによって引き出しているとしてもあり得ない話でもない。

 

「俺は仲間がそうやって死んで行ったところを何度も見ている」

「だったらどうして……」

 

 死ぬと分かっていれば逃げるなりすれば良い。

 デュークは特殊部隊の隊長に任命される程の実力者だ。

 シャルルが潜入出来るくらいのセキュリティならデュークなら楽に逃げることが出来る。

 見た限りでは人質などで脅されているようには見えない。

 

「どうしてだろうな……俺が犠牲になれば、俺の部下が犠牲にならないで済むかも知れないからかな……」

「でも……誰かが犠牲になるのはおかしい」

「だろうな……だが、世の中はそこまで上手くは行かないものだ」

 

 それでも誰かが犠牲になることをシャルルは容認できない。

 そんなパイロットを殺すシステムがなくとも自分達はUEと戦えている。

 その犠牲に意味があるようには到底思えない。

 

「けど……お前はその方がいいかもな……なぁ、シャルル。お前たちのリーダーは良い奴か?」

 

 デュークに聞かれてシャルルはクライドの事を思い出して考える。

 

「とても良い奴とは言い難いね……」

 

 シャルルから見たクライドは情がない訳でもないが損得で動くことが多くとても良い人とは言えない。

 

「だけど、彼は俺に希望をくれたよ。UEを倒せるかも知れないと言う希望をね。だから、俺は連邦を抜けても彼とともに戦う道を選んだ」

 

 性格に多少の難はあるが、クライドが本気でUEを倒す気でいることとそれを成し得るだけの力を持っているかも知れないと言う事は確かだ。

 だからシャルルは軍よりもパラダイスロストを選んだ。

「そうか……お前がそこまで言うのなら大丈夫だろうな」

 

 デュークは机の引き出しの中からデータディスクを出してシャルルに渡す。

 

「これは?」

「サイコ・ジェノアスの設計図と運用記録のコピーだ」

「そんな物をどうして俺に?」

 

 シャルルとしてはこれ以上ない成果だが、今までの話とはレベルの違う情報の漏洩だ。

 

「どの道、俺は長くないんだ。俺が死んだあとにまた誰かが犠牲になる位なら、そのデータを信頼出来るお前に託したくなった。筋金入りの頑固なお前を変えた相手にな……」

「デューク……」

「行けよ……お前の居場所はここじゃない」

「分かった。だけど、俺はお前の友達としてデュークには少しでも生きていて欲しい。だから、出来ればそのMSには乗って欲しくない」

 

 シャルルはそれだけ言い残して部屋を出て行く。

 

「それが出来れば苦労はないんだけどな……」

 

 シャルルの出て行った部屋で一人デュークが呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入れなねぇな……」

 

 研究所の周辺をジゼルはうろうろしている。

 クライドからは待機の命令が出ていたが、ジゼルはそれを無視して研究所に忍びこもうとしていた。

 だが、研究所の警備は厳重でジゼルが忍びこむ隙は見当たらずにいた。

 

「もう止めましょうよ。クライドさんやシャルさんが何か情報を持って来るまで待った方が良いですよ」

 

 ジゼルの後でレオナールがそう言う。

 レオナールもジゼルの独断行動に同行してた。

 ジゼルは止めたところで止める気がなく、が一人で動くよりも自分がついて行った方がいざと言う時に少しでも役に立てるの判断だった。

 

「うっせえよ。ここにアレクが居る可能性があんだ。幾らアニキの命令でも素直に引きさがれるかよ……」

 

 レオナールはジゼルの言うアレクの事は知らないが、ジゼルにとってクライドの命令に背く程重要なことである事は理解出来る。

 だが、それとクライド達の潜入の邪魔をするのは別の話である。

 今のところ、潜入したクライドとシャルルからの連絡が入って無い為、目立ったトラブルがないか連絡出来ない状況のどちらかだが、研究所を遠巻きで監視しているアリスから特に動きがあるとの報告がない為、前者である可能性が高い。

 その為、ジゼルが下手に動くと研究所側に察知される恐れが出て来るので早急に持ち場に戻りたい。

 レオナールが何とかしてジゼルを持ち場に戻らせようと考えていると、急にジゼルが立ち止まる。

 

「どうしたんですか?」

「レオ、今何か聞こえなかったか?」

 

 ジゼルがそう言いレオナールが耳を澄ますがコロニーの生活音以外は聞こえない。

 

「いえ……特には……」

 

 

―――――ジゼル――――

 

 

「アレク……」

 

 ジゼルには確かにそう聞こえた。

 そして、その声はジゼルの探している相手のアレクの物であった。

 それが、ジゼルのこの研究所にアレクが居て欲しいと思うあまりの幻聴なのかは分からないが、ジゼルには不思議と確信があった。

 この研究所にアレクが居ると。

 そう確信したジゼルはすぐに行動に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クライドかシャルルからの連絡はまだ?」

 

 アブディエルでは二人が潜入し、いざと言う時の為に二人の機体とジゼルとレオナールとその機体をコロニー内に隠し、アリスが研究所

 

の監視に配置し、後は連絡を待つだけになっている。

 

「少し落ち着きなよ」

 

 いつも以上にそわそわしているエリーゼにアフルレッドがそう言う。

 今回はクライドが過去に設計したMSのデータが関わっている以上、クライドがいつ暴走してもおかしくはない。

 このコロニーに何かが隠されているよりも目に見えて面倒なクライドの暴走の事がエリーゼは気懸りだ。

 

「分かってるわ」

 

 エリーゼも頭では分かっているのだが、そうそう割り切ることは出来ない。

 

「あの二人ならなんだかんだで上手くやると思うけどな……」

「そうであってくれないと困るわ」

 

 エリーゼがそう言いながら、何とか落ち着こうとしているとセンサーに反応が出る。

 

「どうしたの!」

「センサーに反応! これは……UEです!」

「数は不明です! いつものドラゴン型が多数に……黒い可変タイプが1……見確認の新型が1……それにアンバットで出て来た赤い奴もいます!」

 

 その報告にブリッジクルーは凍りつきそうになる。

 敵の中に赤いMS……ギラドがいる。

 アンバットで圧倒的な攻撃力を見せつけた奴が再び現れたと言うのだ、何も感じない方がどうかしている。

 

「最悪ね……すぐにユーリアを出して! アリスにも外のUEの相手をさせるように連絡を! ジゼルとレオはクライドとシャルを回収させて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「MSの反応……以外に対応が早いわね……でも数が2機……」

 

 戦闘艦を出てルカインに接近していたブラッド達の方でもアブディエルから出撃して来たMSを補足していた。

 

「ええ~だった2機? つまんないなぁ……」

 

 MSの反応が2機だけだったため、ゼダスに搭乗しているデシルはつまらなそうにする。

 

「けど……あのMSは……ガンダムの母艦に搭載されていた機体だわ」

 

 すでに2機を視認出来る距離まで接近しており、その2機がジェノワーズとデスドールである事が確認出来る。

 

「と言う事は……アイツもいるって事かぁ!」

 

 ジェノワーズとデスドールが居ると言う事は同じ母艦に搭載されているガンダムZEROもいると言う事になり、ブラッドは歓喜の声を上げる。

 

「行き成りガンダムと遭遇出来るとはね……まぁ良いわ。ガンダムが出てきたら、ブラッドが相手をしてね。デシル、行くわよ」

「しょうがないなぁ」

 

 セリアのドラーズとデシルのゼダスはルカインの方に向かいガフランも全てが2機に続いて行く。

 そして、デスドールがセリア達を追い、ジェノワーズがブラッドのギラドを迎え撃つ。

 

「はっ! お前も少しは持ってるみたいだが、前座が務まるのかぁ!」

 

 ジェノワーズはビームライフルでギラドを攻撃し戦闘が開始される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるなよ……」

 

 アラクネーの設計図を全て見たクライドの感想はその一言に尽きる。

 

「はて……どう言う事ですかな?」

 

 アドルフはクライドが何を怒っているのかを本気で理解していない様子でそう言う。

 

「アンタ! このMSがどう言う物か分かってんだよな!」

「当然ですよ。我々が設計したんですからね」

 

 アドルフのその物言いにクライドの怒りは収まるどころが増していく。

 

「このMSはパイロットを只のパーツにする! そんな物を俺は認めない!」

 

 アラクネーは確かに高い戦闘能力を持っている事はクライドも認めている。

 だが、クライドはどうしても認める事が出来ない事がある。

 それはこのアラクネーはXラウンダーの能力を最大限に引き出すシステムが搭載され、それにより搭乗しているXラウンダーは戦場で敵の動きを先読みし、それを機体の方で情報処理をして尤も有効な動きを取ると言うものだった。

 つまり、この機体においてパイロットは敵の動きを先読みするだけのパーツでしかない。

 それ以外の処理は全て機体のOSで処理されている。

 

 クライドにとってMSとは道具だ。

 道具は人が使ってこそ、意味を成す物だと考えている。

 だが、このアラクネーはMSが……即ち道具が人を使う物だ。

 それはクライドのMS鍛冶としての全てを賭けて否定すべきものである。

「MSにおいて尤も不確定なのはパイロットが人間と言うところですよ。アラクネーはその人間性を極力排除した理想の兵器といえます」

 

 確かにMSの操縦でパイロットの技量は大きく関わり、パイロットの精神状態や技量によってはMSの性能を発揮出来ない事はクライドもウィンターガーデンでの戦闘において十分に理解している。

 だが、だからと言ってパイロットをMSのパーツにするこのアラクネーが理想のMSとは到底思えない。

 

「だからって……」

 

 そこまで言いかけると不意にクライドはブラッドの感覚を感じる。

 

「この感じ……アイツか……」

 

 それと同時にコロニー全体が大きく揺れる。

 

「敵襲か?」

「アニキ!」

 

 外からジゼルの声が聞こえる。

 研究所内に居ても聞こえる事から、ジェノアス・キャノンの外部スピーカーを使って呼びかけていると思われる。

 MSを出した事から事態は急を要している事が分かる為、アドルフにはまだ言いたい事は山ほどあるが、それを堪えてジゼルの声の方に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジゼルに回収されたクライドはコロニー内に搬送されていたガンダムZERO Nに乗り込む。

 別ルートから潜入していたシャルルもレオナールに回収されGレックスに乗り込んでいる。

 

「俺の方は一応は収穫はあった。後でデータを送るよ」

「ああ」

 

 クライドはアドルフへの怒りを鎮めながら、短く答える。

 

「UEが来ますよ!」

 

 レオナールがそう言い、コロニー内に数機のガフランが侵入してくる。

 

「外に赤い奴が来てる。俺はそいつを抑える。シャル達は適当にUEを相手しつつ、コロニーから離脱しろ」

「クライド! 地下に凄い熱量がある!」

 

 シャルルがそう言うとコロニー全体が振動するとともに研究所の下からリフトで上がって来る物がある。

 

「あれが……アラクネーか……」

 

 その巨体から先程クライドが研究所内で見せて貰った大型MS「アラクネー」であると推測した。

 アラクネーは巨大な胴体に移動用の脚部が数本生えており、胴体の先端にはハイパーメガ粒子砲が内蔵され、大型のヒートクローが機体の周囲の付いている。

 胴体には大型のビーム砲の内蔵した突起物が6基、レールキャノンが2基付いている。

 そのおおよそ人型から離れた異形のMSは研究所の地下から出て来る。

 

「冗談だろ……地下にあんな物を隠していたのか……」

 

 だが、隠されていたのはそれだけではない。

 更に研究所の格納庫から黒い特殊部隊用のジェノアスにデュークが乗っているだろうサイコ・ジェノアスも出て来る。

 

「どうする? クライド、UEだけじゃなくていろいろと出て来たけど……」

「邪魔をするなら全て叩き潰すだけだ」

 

 そして、パラダイスロスト、ヴェイガン、連邦軍の三つ巴の戦闘が開始される。

 

 

 

 

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