機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第20話

「ギラド帰還します」

 

 戦闘宙域から離れた宙域にヴェイガンの戦闘艦が三隻停泊しており、クライドとの戦闘を終えたブラッドが帰還していた。

 

「ギラド回収後、機関最大で発進して、進路はアーヴィン」

「了解です」

 

 セリアが指示を出し、戦闘艦は航行を開始する。

 戦闘艦が動きだし、少しするとブラッドがブリッジに上がって来る。

 その様子は晴れ晴れしており、機嫌が良いように取れる為、セリアは一息つく。

 

「何処に向かってる?」

「アーヴィンよ」

「アーヴィン?」

「ええ……ルカインから出たガンダムの母艦をトレースしているわ。その進路を計算するとその先にはアーヴィンがあるわ。恐らくだけど、ガンダムの母艦の進路はアーヴィンである可能性が高いわ」

 

 セリアの言葉にブラッドの口元が緩む。

 先の戦闘ではサイコ・ジェノアスの邪魔で逃げられて追おうにもすでに逃げられた後だったので、追撃を断念し次の戦いに期待してたが、それがそう遠くない可能性が出て来たのだ、ブラッドにとってはこれ以上無い吉報だ。

 

「その辺りは任せる。俺はアイツと戦えればそれで良い」

「そう……それと、ブラッドが戻る前に連絡があって、デシルがこの艦から離脱することになったわ。尤も、次の作戦を終えてからになるでしょうけどね」

 

 ブラッドが帰還する少し前にファ・ボーゼから通信が入りギーラ・ゾイからデシルに別の任務が与えられると言われている。

 だが、セリアとしては先の戦闘でもガフランが何機が落とされている為、戦力を手放したく無く次の補給までデシルを確保出来るように頼んだ。

 幸い、デシルに与えられる任務の重要度はアブディエルの追撃よりも低いと見なされ、次の作戦後の補給まで待って貰える事になった。

 

「デシルはノーラで開発中の連邦の新兵器の……って何処に行くの?」

 

 セリアがデシルの今後を話しているが、ブラッドにはデシルの事など興味の欠片すら無い為、ブリッジを出て行こうとする。

 

「あのガキの事はどうでも良い。俺のギラドの修理を早く済ませろ」

 

 ブラッドは自分の言いたい事だけ言いブリッジを出て行く。

 セリアはため息をつくが最大に機嫌が悪い時の癇癪に比べたら随分とマシである為、それで良しとする。

 

「ギラドの修理を最優先にお願い」

 

 アブディエルを捕捉した時にギラドの修理が終わらずに居れば、折角機嫌の良いブラッドの機嫌を損ねる事になる。

 それを避ける為にギラドの修理は最優先となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腕はユニットごと取り替えろ! ノーマルアーマーは最低限の補修で構わない!」

 

 アブディエルに帰還したクライドは休む間も無くガンダムZEROの修理の指示を出している。

 ルカインの戦闘でアブディエルの搭載機の大半が損傷している為、今戦闘になれば海賊相手でも勝てるかは分からない。

 

「ジゼルのキャノンは後回しで良い! 先にゼロの修理を優先させろ!」 

 

 全機が何かしらの損傷をしている為、その修理で格納庫は戦場と化している。

 

「クライド」

「シャルか……ジゼルの様子は?」

「部屋に閉じこもってる。今はレオがついてる」

「そうか……」

 

 レオナールに回収されたジゼルは今まで自分が探していた仲間のアレクの事で塞ぎこんでいた。

 クライドもアラクネーの停止を優先させた為、アラクネーに乗っていたとされるアレクの安否には気を付けていない。

 あの後でギラドの荷電粒子砲の発射とルカインの崩壊が確認されている為、アレクの生存は絶望的だ。

 

「アイツにとって戦う意味を失ったんだ。ここからどうするかはアイツ次第って事だな」

「意外と冷たいんだな。ジゼルはクライドの事を兄のように慕っているのに……」

「だったら、俺がこれからもUEと戦えと言えば良いのか? アイツは言えば戦うだろうさ……それこそ死ぬまでな。だけど……自分の意思で戦えない奴は俺はいらない。アイツが戦う意思を失うって言うなら、次のアーヴィンで降りて貰う」

 

 クライドの言っている事は冷たいが、シャルルも言いたい事は分かる。

 ヴェイガンとの戦いは誰かに言われて戦える程生易しいものではない。

 結局、クライドがジゼルに言える事は何も無いのだ。

 ジゼルはクライドを慕うが故にクライドの言う事にはまず従う。

 その為、クライドが立ち直れと言えば、ジゼルは例え立ち直って無くても立ち直ったと言って戦場に出るだろう。

 そうなれば、ジゼルは確実に死ぬだろう。

 だから、クライドはジゼルに何も言わない。

 

「俺達は遊びでUEと戦っている訳じゃない。これは戦争だ。例え、何を失おうとも俺達は立ち止まる事は出来ない。誰かが立ち止まってしまえば置いて行くしかない」

「辛いな……」

「だが、自分で選んだ道だ。後悔はない」

 

 シャルルはそこにクライドがヴェイガンと戦う強い決意を感じる。

 自分よりも年下のクライドが何故、ここまでヴェイガンと戦うのかはシャルルは知らないが、自分がクライドにしてやれることは共に戦い抜く事くらいしかない。

 

「俺も後悔してない……そうだ。後悔はしない」

 

 シャルルは自分に言い聞かせるようにそう言う。

 今までは覚悟をしていたつもりだった。

 クライドとともに行けば連邦軍と自分の属していた軍と戦う事になる可能性があり、その中に自分の知る人物と戦う事になると言う事を。

 だが、実際、デュークと会ってその覚悟が足りない事が分かった。

 デュークは例え、死ぬと分かっていてもサイコ・ジェノアスで戦い続けた。

 その理由は結局分からなかったが、強い決意を持っていた事はシャルルも分かった。

 その決意を目の当たりにしてシャルルも改めて決意を決めた。

 パラダイスロストでヴェイガンと戦うと、そして、生まれて来る子供の為に戦う事を。

 

「それと、これは例のMSのデータだ。そいつのパイロットが俺の知り合いでね。データを預かってる」

「そうか……後で確認する」

 

 クライドにサイコ・ジェノアスのデータの入っているデータディスクを受け取ると、すぐに修理の指示に戻る。

 シャルルはこれ以上、格納庫にいたところで整備班の邪魔になる為、格納庫を出て行き、戦闘に備えて自室で休むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、こんな形で故郷に帰郷するなんて思って無かったわ」

「お前のせいだけどな」

 

 クライドとエリーゼはガンダムZERO Nに乗りコロニー「アーヴィン」に接近していた。

 ガンダムZERO Nは最優先で修理された為、完全に直っているように見えるが、実際はノーマルアーマーはアラクネーとの戦闘で装甲のダメージが蓄積していたので応急的な修理しかされていない。

 その為、装甲の強度は見た目以上に低い。

 アーヴィンのコロニー付近の警備や監視網は以前にコロニーを脱出する際にアリスが入手していた物を使っているが、すでに5年も前な上にエリーゼの行方不明事件が起きている為、すでに強化、或いは変更されている可能性が高く、臨機応変に監視網をすり抜けてようやくアーヴィンに取りつく事が出来ていた。

 

「ここまでは何とかこれたけど、この後どうする?」

「流石にアーヴィンに見つからずに侵入するのは無理だよな……」

 

 ここまでは上手い具合に見つかることなくここまで来ることが出来たがアーヴィンの中にアーヴィン側に見つかることなく入り込むのは特殊部隊でなければ難しい。

 これ以上は運よりも技能が物を言う

 当然、クライドとエリーゼにそれだけの技能は持ち合わせてはいない。

 

「しゃぁないか……エリーゼ、少し捕まってろ」

 

 クライドはそう言うと機体を加速させる。

 特殊部隊の様な技量がないとすれば、今のクライド達の技量で出来る方法を取るしかない。

 

「どうするつもりなの?クライド」

 

 エリーゼはクライドにしがみ付きながら、尋ねるがクライドが答えるよりも先にZERO Nの先にはアーヴィンの港が見えて来た。

 

「クライド……まさか……」

「そのまさかだよ」

 

 エリーゼもクライドの意図に気付きクライドは機体を港からアーヴィンの中に入って行く。

 そして、港に入るとコロニー内に入り込んだ。

 

「侵入は出来たが、ここからが面倒だ」

 

 ガンダムZERO Nが港に突入した為港に警報が鳴り響いている。

 

「そうね。すぐに警備のMSが出て来るわ」

 

 クライド達は港から無許可かつ、武装したMSで堂々とアーヴィン内に入った為、アーヴィンの港の管理局でもすぐに不法侵入である事が知れ、警備局に連絡が行くだろう。

 MSで侵入した以上、コロニー側もMSで対応して来る事は目に見えている。

 

「言ってるそばからだ。この短時間でスクランブルをかけて来るとは優秀だ」

 

 クライド達がアーヴィンに侵入して物の数分で警備の為に配備されているジェノアスがZERO Nに向かって来ている。

 ガンダムZERO Nはビームライフルからビームサーベルに持ち替える。

 

「これも社長令嬢が誘拐された教訓ってことかね」

 

 エリーゼは軽く言うが、装甲がいつも以上に脆い今のガンダムZERO Nではジェノアスの武装でも当たりどころが悪いと損傷しかねない為、クライドはエリーゼの軽口につき合っている暇はない。

 ガンダムZERO Nはジェノアスのビームスプレーガンをシールドで防ぎながら、接近するとビームサーベルでジェノアスの腕を切り落とした。

 

「クライド! 分かってるとは思うけど!」

「分かってる! 殺さないよ!」

 

 クライドはそう言いつつ、左手にもビームサーベルを持たせて二機目のジェノアスを一撃目で腕を切り裂き、二撃目で両足を切断してジェノアスは仰向けに倒れる。

 

「だが……やり難い!」

 

 いつも通りに戦えば余裕だが、今回の目的を考えれば敵機のパイロットを殺さないようにした方が何かと都合が良い。

 ガンダムZERO Nはジェノアスの両腕を切り落とした。

 

「これで一先ず最後か……」

 

 スクランブルで出撃して来たジェノアスは全部で三機で、すでに三機とも無力化されていた。

 そして、その三機共が戦闘能力のみを奪われている。

 

「でも、すぐに増援が来るわ。すぐに行きましょう」

「だな」

 

 流石に侵入者に対して三機のMSを出して次の手を打っていないと考えるのは楽観的過ぎる。

 恐らく、すぐに次のMS隊が出て来る筈だ。

 クライドは短く返して、機体をアーヴィン内のある場所に向かわせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「賊の方はどうなっている」

 

 アーヴィンの中でも学校と同じくらいに目立つ豪邸で、パトリック・ブランシャールが先程入った、アーヴィンへ侵入者が入ったとの報告の続報を待っていた。

 すでに侵入の報告とスクランブルから数十分が経過し、未だにどうなっているかの状況報告が来ていない。

 

「落ち着いて下さい。社長、相手は未確認のMSですが所詮は一機です。私のMS隊ならすぐにカタが付きますよ。それにいざとなれば私がアレで出ますよ」

 

 パトリックとは対象的に落ち着いている金髪の青年、ドミニク・プラドンがそう言う。

 

「だが……未だに報告がないとなると……」

 

 パトリックが厳しい表情をしていると、警備兵の一人が飛び込んでくる。

 

「社長!隊長!」

「何事だ」

 

 尋常じゃない警備兵の態度に只ならぬ事態を予測するが、次の瞬間にはそれ以上の事態が起こる。

 

「案内御苦労さん。アンタにようは無いから消えてくれ……出ないと分かるな?」

 

 警備兵が入って来た扉からクライドがそう言って入って来る。

 そして、パトリックとドミニクは状況は理解出来てはいないが、自分達の想像を遥かに上回ることだけは理解出来ている。

 二人はクライドの顔にどこかで見覚えがあると引っかかるが、今はそれを考えている暇はない。

 なぜなら、クライドはエリーゼが逃げられないように自分に引き寄せた状態で、エリーゼの頭に銃を突き付けている。

 ブランシャール邸に到着すると、クライドはガンダムZERO Nから降りるとエリーゼを人質に取りこの部屋まで来た。

 無論、クライドは本気でエリーゼを殺すこともないがクライドとエリーゼの関係を知らない警備兵は下手をすればクライドがエリーゼを殺すと思い、ここまで手を出せずにクライドの道を開けた。

 クライドがそう言うと警備兵は慌てて部屋を出て行く。

 警備兵が出て行くと部屋の中には静寂が流れる。

 

「お前は……クライド・アスノ……」

 

 ドミニクはようやく、クライドの事を思い出すがクライドはドミニクの事を気にすることなく、パトリックを見据えパトリックもクライドを見据えている。

 

「久しぶりだな。エリーゼ、まさかこんな形で戻って来るとは予想外だったな」

 

 パトリックは以外な程、落ち着いた様子でそう言う。

 クライドはその様子の違和感を覚えるがエリーゼを解放する。

 

「そうね……私もこんな形で戻って来るとは思って無かったわ。お父さん」

 

 解放されたエリーゼも先程まで人質にされていたとは思えない程、落ち着いてそう言う。

 

「今日、ここに来たのはアンタに頼みがあるからだ」

「ほう……」

 

 パトリックは鋭い眼差しで二人を見る。

 

「俺の指名手配を解いてくれ」

「私達の仲を認めて欲しいのよ」

 

 二人は示し合わせたように同時に言うが内容は全く合っていない。

 

「は?」

「どう言う事よ」

 

 全く違う事を言った二人は互いの方を向く。

 

「お前、何を言ってんだよ」

「何って私達の事をお父さんに認めて貰うのよ。そのために来たんでしょ?」

「ちげぇよ。俺はお前のせいで被せられた濡れ衣を解きたいだけだ」

「何よそれ! 私達の事の方が先決でしょ」

「知るか。そんな事はどうでも良い。誰に認めて貰う必要はないね」

 

 クライドとエリーゼの二人は空気を読むことなく、口論を始めるがパトリックが咳払いをして二人は再びパトリックの方を向く。

 その様子にドミニクは訳も分からず、話について行けない。

 

「良いだろう。どちらの要件も受け入れよう」

 

 パトリックがそう言うと他の三人が驚く。

 クライドとエリーゼは受け入れて貰うにはそれなりの条件を覚悟してし、ドミニクは一方的に受け入れたことを驚いている。

 

「ちょっと待って下さい!社長!アスノの方は一先ずおいて置いて、エリーゼの要求を受け入れると言うのはどう言う事ですか!」

 

 ドミニクはパトリックに抗議すると、クライドはようやくドミニクの存在に気がつく。

 

「アイツ、誰だよ。エリーゼ」

「知らないわよ」

 

 クライドとエリーゼはこっそりと話すが、それはドミニクにも聞こえていた。

 

「ドミニクだ! ドミニク・プラドン! アスノ、君のクラスメイトでエリーゼの婚約者だ!」

「そうだっけ?」

「そう言えばいたわね……今まで忘れてたわ」

 

 二人のあまりの扱いに、ドミニクは切れそうになるが何とか堪える。

 今はそれよりも言わなければならない事があるからだ。

 

「社長も何処の馬の骨か分からない男にエリーゼを渡すと仰るんですか!」

「確かに何処の馬の骨に愛娘を渡す気はないが、相手があのアスノ家だと話は別だ。アスノ家はコロニー国家間戦争時代からある血筋だ。エリーゼの婿としては申し分も無い」

 

 パトリックがそう言う。

 彼にとってエリーゼの婿の基準は血筋だ。

 そう言う意味ではアスノ家の血筋を引いているクライドはエリーゼの婿としては申し分ない。

 

「クライドの家ってそんなに凄いの?」

「さぁ?古い家でそれなりの金持ちだったのは確かだけど」

 

 エリーゼもクライドの家のアスノ家の事はある程度は聞いていたが、そこまで古い家柄だとは知らなかった。

 コロニー国家間戦争の時代と言えば100年以上も前から続いていることになる。

 血筋に拘る父としては100年以上も続く家の出であるクライドとの関係をあっさりと認めたのは意外でも何でも無かった。

 

「エリーゼが男子生徒に拉致された時に男子生徒のリストを見た時に気づくべきだったがな。まさか、生きているとは思って無かったのでな」

「その物言いだと俺の事を以前から知っているように取れるが?」

「そうだな。知っていたさ、君の父親から何度も仕事を受けていたからな」

 

 パトリックの言葉にエリーゼは驚くがクライドは差ほど驚くことはない。

 少し考えればおかしいことはない。

 クライドのアスノ家はMS鍛冶では非常に高名な家系だ。

 MSを製造する時に必要な部品や材料を取り寄せることも少なくない。

 そんな時に運送業の中でもトップの信頼度を誇るブランシャール運送を利用していても不思議はない。

 そこからアスノ家とブランシャール運送の繋がりがあり得ない訳ではない。

 

「君が覚えていないのも無理はない。私が君と会った時は君はまだ幼かったからね」

「そんなことはどうでも良い。それよりも、まずは俺の指名手配の件だ」

 

 クライドにとって、過去にパトリックと会っていたこともアスノ家と仕事で繋がっていたこともどうでも良かった。

 言われの無い罪で指名手配され、この辺りの宙域ではまともに公開することもままならない。

 それを解消するためにクライドはアーヴィンに戻って来た。

 

「ああ……そう言えば、君は指名手配されていたね」

「そう言えばってな……」

 

 クライドにとって、重要な事だったが、パトリックにとっては差ほど重要で無いような物言いにクライドはイラっと来るが、感情に任せて良く考えずに行動した結果で指名手配に至った為、必死に堪える。

 

「構わんさ。どうせ、エリーゼが勝手について来たってところだろう」

「分かってたのかよ」

 

 パトリックは全てを知った上だった様子にクライドは驚きを隠せない。

 

「当然だ。私はエリーゼの父親だぞ。娘の事が分からない訳がないだろう」

 

 自信満々にそう言うパトリックをクライドは本気で殴りたくなったが、話が上手い方に進んでいる為何とか堪えた。

 ここで切れてしまっては意味がない。

 

「だが、君を速く見つける必要があったから、少し強引な手を使わせて貰った。安心して良い。君の事は生け捕りにしろと厳命を出していたからね」

 

 全く安心出来る訳がないが敢えて言わない。

 すでに何があっても流せるだけの心の余裕は出来ている。

 

「まぁ、そのことは後で話をしておくから置いておこう」

「置くなよ……」

「それよりも、君とエリーゼの婚約の件だな」

「いや……そこまでの話じゃなかったが……」

 

 それはエリーゼの要件でクライドはどうでも良く更に婚約とは言っていない。

 それを主張するも、パトリックはそれを無視して話を進める。

 

「私としてもアスノ家の出である君になら娘を嫁に出しても構わないと思っている」

「だから……話を聞けって……」

 

 クライドの言い分を無視して話を進めるパトリックを見てクライドは確信した。

 間違いなくこの人はエリーゼの父親だと言う事を……

 エリーゼも今では大人びた性格だが、出会った当時はクライドの話を殆どスルーしていた。

 それは今でもたまにある。

 そして、今パトリックもクライドを完全にスルーして話を進めている。

 

「だが、ここ数年の働きでドミニクの事も高く評価している。そこで提案だ。二人で何かしらで勝負して勝った方がエリーゼと結婚すると言う事でどうだろうか?」

 

 クライドはいつの間にか婚約が結婚に変わっていることに突っ込みたいが、今更無駄である事を学習し突っ込まない。

 取り合えずこの場を切り抜けて指名手配が解除されるのであれば、その他はどうでも良くなっていた。

 

「良いでしょう。私は構いませんよ」

 

 ドミニクがそい言いクライドを見る。

 その目は自分が負ける事など微塵も思っていない目だ。

 

「嫌だね」

 

 クライドは迷く事なくそう言う。

 

「何で、俺がそんな事をしないといけない」

「負けるのが怖いのか?」

 

 ドミニクの見え見えな挑発にクライドはため息をついた。

 

「あのな。俺がこの勝負を受けても何の利益もないだろ」

 

 この勝負で勝った方がエリーゼと結婚するとパトリックは言っているが、クライドにとっては今、エリーゼと結婚するかは心底どうでも良い。

 だが、負けた場合はドミニクがエリーゼと結婚することとなり、その場合はクライドとエリーゼの関係は終わる。

 クライドにとって、この勝負は勝ったところで得る物は無く負けた時には失う物がある。

 その上、勝負自体クライドが受けざる負えない訳でもない。

 つまりクライドが勝負を受ける理由はない。

 

「成程……利益の無い勝負は受けないか……懸命な判断だ。だが、それではドミニクのメンツにも関わる。ならば、ドミニクはアレを賭け

 

てはどうかな?」

「アレ?」

 

 クライドはパトリックの言うアレに興味を持つ。

 パトリックの良いようから、エリーゼを賭けるに値するだけの価値のあるものだろう。

 

「ついて来なさい」

 

 パトリックはそう言って、立ち上がりクライド達を連れて部屋を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつは……」

 

 パトリックに連れられて来たのは、ブランシャール邸の一画にある警備隊のMS格納庫だった。

 そこにはジェノアスやシャルドールが置かれているが、その中で一機だけ明らかに違うMSが置かれていた。

 頭部がモノアイと採用しているが、ジラやゼノとは明らかに開発系統が違う。

 機体全体を黒系の色で統一し、一般的なMSよりも厚い装甲で重鈍な印象を受けるが脚部やスカートアーマーにスラスターノズルが見え、それが機動力を補っているように見える。

 見た目から相当厚い装甲を持ち、高い機動力を持ったMSだとクライドは予測した。

 武装に関してはバックパックに一本、ビームサーベルの様な物がついているが、それ以外の固定武装は見られない。

 

 

「どうかね。我が警備隊の切り札のナイトルーパーは」

 

「凄いな……外観を少し見ただけだがコイツは相当な性能だ」

 

 クライドはナイトルーパーと見てそう評価する。

 少なくとも、これほどのMSはそうそうお目にかかれるものではない。

 

「どこの誰が作ったんだ……」

 

 これだけのMSを設計出来るMS鍛冶はそうそういない筈だ。

 

「それは君の父親が数年前に製造したものだ」

「父さんが……」

 

 クライドはそう呟いてナイトルーパーを見上げる。

 確かに自分の父親ならこれほどのMSを設計してもおかしくはない。

 

「君が勝った時はこのMSを君に譲ろう」

「マジか!」

 

 クライドはパトリックの言葉に分かりやすく喰いついた。

 クライドのMS鍛冶としての血が騒ぎ、ナイトルーパーの性能を確かめて隅から隅まで調べ尽くしたくなっている。

 

「無論だ」

「やる! どんな勝負でも受ける! 今、すぐにやるぞ!」

「ちょ! クライド!」

 

 あっさりと先程までの態度を変えたクライドの腕をエリーゼが掴んで引く。

 クライドの様子が明らかにおかしいのはエリーゼにはすぐに分かる。

 大方、未知のMSを目の前にしてそのMSの事しか頭にないことは長年の付き合いから容易に想像がつく。

 

「何考えてるのよ」

「だって、あのMS欲しいし……」

「だからってね……私とあのMSどっちが大事なのよ」

「そんな酷な質問をするのかよ」

 

 本気でそう言うクライドにエリーゼは頭を抱えたくなる。

 聞かなくても、今の状況では間違いなくナイトルーパーだとクライドは即答するだろう。

 

「勝算はあるの?」

「勝負によるが勝敗は関係ない」

「どう言う事よ?」

 

 勝負によってエリーゼとナイトルーパーを賭けていると言うのに勝敗が関係ないと言うのは可笑しな話だ。

 勝たなければナイトルーパーは貰えずエリーゼを失う事になると言うのにクライドはあまり勝敗は気にしていない。

 

「簡単な事だよ。勝負を受けるのはあの機体を揉めることなく手に入れる為の手段に過ぎない。負けた時はお前とあの機体を奪って逃げる。どの道、俺達はお尋ね者だしな」

「それが嫌で戻って来たんじゃないの?」

「俺は濡れ衣を晴らしたいが、追われたくないって訳でもない。単に言われのない罪で追われるのは嫌なだけだ。それに……あの機体を奪って追われるなら別に構わない」

 

 クライドがMS馬鹿なのは出会った時に知っているが、ここまでだと呆れるしかない。

 そして、こうなったクライドは何があっても自分の意見を曲げることはしないだろう。

 

「……もう好きにして……」

「はなっからそのつもりだよ」

 

 クライドはそう言いパトリック達の元に戻る。

 

「話は纏まったかな?」

「ああ……その勝負受ける」

「それで、勝負の方法は? せめてものハンデだ。君に決めさせてあげるよ」

 

 ドミニクは明らかにクライドを見下した態度を取るがクライドからすれば都合が良い。

 自分で勝負の内容が決める事が出来るなら、クライドは遠慮なく自分の圧倒的に有利な勝負にする。

 

「そうだな……丁度、俺も自前のMSを持って来てるしMSによる模擬戦はどうだ?」

 

 クライドは考えられる最も勝算の高い勝負を選択した。

 ナイトルーパーは見たところ、相当の性能だがその性能も使いこなせなければ宝の持ち腐れとなるし、この格納庫の中でクライドとガンダムZERO Nとまともに戦える機体はナイトルーパー以外にはない。

 そして、クライドは自分のガンダムZEROに絶対の自信を持っている。

 このナイトルーパーがギラド並みの性能でドミニクがブラッド並みの腕前がない限り、クライドは自分が負ける可能性はあり得ないと考えている。

 

「このアーヴィンの警備隊長のこの僕に模擬戦で挑むとは身の程を思い知らせてあげるよ」

「ああ……お前の程度の低さを身を持って教えて貰うぞ」

 

 クライドは挑発に挑発で返す。

 こうしてエリーゼとナイトルーパーを賭けたクライドとドミニクとの模擬戦が開始された。

 

 

 

 

 

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