機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第23話

コロニー「アーヴィン」での戦闘が終結し、数週間が経っていた。

 その間のクライドはアーヴィンの施設でAGEドライヴを徹底的に解析を行ったが、なぜ戦闘時にAGEドライヴが起動しなかったのか、なぜあのタイミングで起動したのかと言う事は未だに分からない。

 だが、今はAGEドライヴは正常に起動している。

 試しに別のAGEドライヴに変えて試してみても結果は問題なく起動した。

 

「AGEドライヴが起動した理由は恐らく気合だ」

 

 クライドはエリーゼ達に真顔でそう言うが微妙な空気が流れる。

 クライドも本気で言っている訳でもないが、状況を考えるにそう考えるのが一番楽だからだ。

 

「本気?」

「少しな……AGEドライヴのコアの解析が出来ないんだ。絶対にあり得ない話ではない……と思う」

 

 AGEドライヴの核とも言えるコア部分は始めから組み上がった状態でクライドもどう言う理論が使われているかまでは分からない。

 その為、クライドの言う気合が何らかの形で関わっていると言う事を全否定することも出来ないが、パイロットの感情で左右するシステムなど非科学過ぎてエリーゼ達もイマイチ信用出来ない。

 実際、クライドも自分で言っていて半信半疑だ。

 

「ここの設備じゃ限度がある。一度、おやっさんのところに持ち込んだ方がいいかもな」

「その事だけど、少し前にマッドーナ工房から連絡があって、ようやく完成したらしいわよ。ゼロの新アーマー」

「本当か?」

 

 AGEドライヴの搭載でガンダムZEROの戦闘能力は飛躍的に向上したが、火力特化型のアーマーが完成すれば戦術の幅も広がる。

 

「となれば、さっさと工房に行った方が良いな」

「クライド君、エリーゼ」

 

 話がマッドーナ工房にジェノサイドアーマーの受け取りで纏まりかけていたが、パトリックからの通信で話が途切れる。

 

「どうしたの? お父さん」

「気になる情報が入ったから君たちにも知らせておいた方が良いと思ってな」

 

 クライドがアーヴィンに来た理由は何も誤解を解く為だけではなく、ブランシャール運送の持つ独自の情報網だ。

 ブランシャール運送もドレイク海賊団同様に独自のルートで情報網を持ち、それは海賊とは別方面の情報も入って来る。

 

「数日前にコロニー『ノーラ』がUEの攻撃を受けて崩壊したらしい」

「コロニーが崩壊? 珍しいですね」

 

 アルフレッドが知る限り、ヴェイガンの攻撃で破壊されたコロニーは有名なところで『天使の落日』で崩壊したコロニー『エンジェル』を始めとしたごぐ限られたコロニーでそこまで多くない。

 

「ノーラ……それで生存者は? どのくらいいた?」

 

 エリーゼはクライドのその質問に少し違和感を覚えた。

 ヴェイガンの襲撃を受けて崩壊した場合だとエンジェルの時のように生存者は絶望的だ。

 クライドもその事は知っている筈なのに、始めに出た質問が生存者の確認だった。

 エリーゼが知る限りではノーラにはパラダイスロストの協力者はいない筈だ。

 

「その事だが、どうやら、ノーラは崩壊こそしたがUEを撃退したらしい」

「UEをですか?」

「そうらしい。ノーラで開発されていた連邦軍の新型のMSがUEのMS型を撃破したと言う事だ」

「連邦にそれだけのMSを開発出来たのか……」

 

 連邦軍は天使の落日から14年間も一度もヴェイガンに勝利していない。

 その情報が確かなら連邦軍は初めてヴェイガン相手に勝利した事になる。

 だが、クライドにとってはどうでも良い事だ。

 

「それで生存者の事だが、崩壊前にコロニーコアを抜いたとかで住人のほぼ全員が無事らしい」

「コロニーコアを抜いた? 大胆な事をするわね」

「そうですか……」

 

 クライドは生存者の可能性が絶望的でない事で顔には出さないが、安堵している。

 

「それがどうかしたのかい?」

「何でも無い(フリットは無事であると良いが……)」

 

 クライドが気にしていた事は弟のフリットの事だった。

 オーヴァンの襲撃後、クライドはアリスに指示してフリットがあの後どうなったのかを調べさせた。

 その結果、ノーラの連邦軍アリンストン基地のヘンドリック・ブルーザー大佐が引き取った事が分かった。

 更に調べてブルーザー司令に黒い噂がない事が分かるとそれ以上は何もしなかったが、それでもクライドにとってたった一人の肉親である為、気にはしていた。

 

「それにしてもどうしてノーラがUEに襲われたんだろうね」

「そのUEを撃退したって新型のMSを狙ったんじゃないのか? 俺のゼロも連中にやたらと狙われているっぽいし」

「UEにも自分達の脅威になる相手を優先して狙うだけの知性はあるって事か……」

 

 クライドやエリーゼはヴェイガンが人に近い知性を持っていると言う事は知っているが、アルフレッド達は知らない。

 だが、敵の行動を見る限りではその可能性が窺える。

 

「となると一度、その新型機を拝むのも悪くない」

 

 クライドのその一言はでアルフレッドは嫌な予感がよぎる。

 こう言う場合のクライドは面倒な事を言いだす可能性が高い。

 

「どう言う事だい?」

「その新型機のデータを収集する。場合によってはその新型機を奪取、設計した技術者をこちらに引きこむ」

「正気かい? クライド」

 

 アルフレッドも流石にクライドの正気を疑う。

 連邦軍にもヴェイガンに対抗しうるMSの開発に成功したとなれば、人類側の反撃の一歩になるだろう。

 だが、事もあろうかクライドはその可能性を奪おうと言っている。

 

「正気だよ。まぁ、奪取とかは場合によってはだ。俺もそこまでするつもりはないさ。最低でも新型機のデータは手に入れるがな」

 

 クライドはそう言うが、その場合になればクライドは迷う事なくその新型機を奪いにかかるだろう。

 特に技術的な事が絡むとクライドはとんでもない行動に出やすい。

 エリーゼから聞いた事でもナイトルーパーを賭けた賭けで負けても実力行使で奪う気だったらしい。

 

「とにかく、まずはおやっさんのところでAGEドライヴの解析とグラディエーター、ジェノサイド両アーマーの受け取りを行い、その後は連邦軍の新型MSのデータ収集で良いな」

 

 エリーゼもアルフレッドも異論はなく、アブディエルはアーヴィンを出てマッドーナ工房に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーヴィンを出港したアブディエルはヴェイガンや海賊などとも出くわすこともなく無事に航海を続け、マッドーナ工房のあるファーデーン付近まで戻って来ていた。

 

「戦闘の反応だと?」

 

 後少しでマッドーナ工房につくと言う時に工房の付近で戦闘の反応がある為、クライドとエリーゼはブリッジに呼び出されていた。

 

「はい。戦闘事体は小規模ですが、目的地の近くですので……」

 

 オペレーターはメインモニターに戦闘の様子を映す。

 

「UEの可変機と交戦しているのか……一機はシャルドールだが……もう一機は……あれは」

 

 戦闘を行っているMSでヴェイガンのXラウンダー専用機のゼダスで交戦している機体の一機は武装のしていないシャルドールだが、もう一機のMSにはクライドも見覚えがない。

 そのMSが拡大されると、ブリッジクルーは少なからず驚く。

 その機体は四肢の形状こそ大きく違うが、頭部はクライドのガンダムZEROに酷似していた。

 

「あれはガンダム……なの?」

「みたいだな。俺のゼロとはだいぶ違うがな……」

 

 その見確認のガンダムの両腕と両足は赤い装甲でがっちりとした体型をしている。

 手持ちの武器は持っていないが、あの手足の形状を見る限りでは武器を使って戦うと言うよりも直接殴ったり蹴ったりと言った肉弾戦を想定した設計をしているように見える。

 

「どうする? クライド」

「俺がゼロで出る。あのガンダムに興味があるからな」

 

 エリーゼもある程度は予測はしていた。

 

「分かったわ。くれぐれも無茶な事はしないでよ」

「分かってる」

 

 実際はどこまで分かっているか不安だが、止めても無駄な為、エリーゼはクライドを行かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クライドがアブディエルを出る頃、マッドーナ工房付近での戦闘が続いている。

 ノーラを脱出した連邦軍の戦艦「ディーヴァ」はファーデーンに入港し、偶然にもファーデーンの内紛に巻き込まれたクライドの弟のフリット・アスノの介入とUEとの戦いを経て内紛が一応の停戦となった。

 その際の戦闘時にディーヴァ所属のMSパイロット、ウルフ・エニアクルがマッドーナ工房で手に入れた新型MS「Gエグゼス」を製造したマッドーナ工房の工房長のムクレド・マッドーナに呼び出されたウルフ達はそこでヤーク・ドレと名乗る人物によって運びこまれたゼダスを見せられた。

 ムクレドはそれを連邦軍に属しているウルフに引き渡そうとするが、突如無人だった筈のゼダスが暴れ出した。

 それを止める為にフリットとウルフはマッドーナ工房に置かれていたシャルドールにて応戦を開始。

 だが、ゼダスの戦闘能力の前に押されるが、ディーヴァからフリットが設計したガンダムAGE-1が射出され、フリットがそれに乗り換えた。 

 しかし、ガンダムAGE-1は前の戦闘で対バクト用のウェアのタイタスを付けた状態であった為、ゼダスを相手に苦戦することになった。

 ガンダムAGE-1 T(タイタス)はバクトとの戦闘データを元にフリットが開発したAGEシステムによって導き出された装備だ。

 バクトのパワーに対抗しうるパワー、バクトの装甲を一撃で粉砕出来る攻撃力、敵の攻撃をもろともしない頑丈な装甲を持つ。

 その半面、機体重量が増し俊敏さに欠ける。

 その為、機動力の高いゼダスのスピードに対応出来ずにいる。

 

「こんのぉ!」

 

 ガンダムAGE-1Tは膝のビームニーキックを繰り出すがゼダスはそれをかわす。

 

「相手のスピードについて行けない!」

 

 ゼダスは両手のビームバルカンを放ち、ガンダムAGE-1Tとシャルドールを翻弄して行く。

 

「後ろを取られるな……」

「だけど……このままじゃアイツは倒せない」

 

 ウルフのシャルドールとフリットのガンダムAGE-1Tはゼダスに背後を取られないように互いの背中を合わせるが、ゼダスの攻撃に防戦一方になるだけだ。

 

「流石にやべぇな……」

 

 幾らガンダムAGE-1Tの装甲が強固でも限界はあり、ウルフのシャルドールの限界はガンダムAGE-1Tよりも速い。

 ゼダスはゼダスソードを付けて二機に切りかかるが、その間にビームが割り込みゼダスは回避するために距離を取る。

 

「何だ!」

「援軍?」

 

 そのビームはゼダスを狙っている事から、味方である可能性が高いがそのビームを放つMSを見てフリットとウルフは驚く。

 

「おいおい……マジかよ」

「ガンダム!」

 

 その機体はフリットの開発したガンダムに似ている。

 更に言えば、ウルフの愛機となったGエグゼスにも何処となく似ている。

 

「近くで見れば本当に俺のゼロに似ているな……コイツもガンダムってか?」

 

 クライドはガンダムAGE-1Tを近くで見てそう感想を言うが、ゼダスへの注意を解いていない。

 

「敵はコイツだけか……あのガンダムの前に邪魔者にはお引き取り願おうか」

 

 ガンダムZERO Nはビームライフルでゼダスを攻撃する。

 ゼダスは飛行形態に変形してビームバルカンで応戦する。

 ガンダムZERO Nはシールドで防ぎながら、ビームライフルを連射する。

 そのビームをゼダスは回避するが、確実にゼダスを追い詰めて行く。

 

「あのMSのパイロット……アイツの動きが読めているのか……」

「凄い……」

 

 そして、ガンダムZERO Nの放ったビームはゼダスの右足を貫く。

 

「当たった!」

 

 フリットは以前にもノーラでゼダスと交戦しているが、その時はその機動力に圧倒されて攻撃を掠らせるので精一杯だったため、ゼダスに簡単に攻撃を当てた事に驚く。

 右足が破壊されたゼダスは飛行形態に変形すると撤退する。

 

「逃げたか……問題はあの白い奴だな」

 

 ゼダスが撤退して、フリットは一息つきかけるが、ウルフは助けられたとは言え、目的の分からない相手に警戒を解く事を忘れない。

 ガンダムZERO Nは二機の方を向くとフリットとウルフは相手の出方を窺い緊張が走る。

 

「クライド! 良いタイミングで来てくれた!」

 

 その緊張を打ち破ったのが、マッドーナ工房で戦闘を見ていたムクレドだった。

 

「おやっさん、頼んでいた奴が完成したって聞いて来たんだけど、また工房が壊れてるな……」

「まぁな……」

「おやっさん……このMSのパイロットの事知ってるのか?」

 

 ウルフはムクレドとの会話から互いに顔見しりであると推測出来るが、フリットはそれどころではなかった。

 ムクレドが呼んだ名前は7年前に死んだかも知れない実の兄の名前と同じでこれほどのMSを作ったとしたら、この機体に乗っている相手が兄だと信じたくなっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で……どう言う事なんだよ」

 

 戦闘後、クライドはガンダムZERO Nをマッドーナ工房に入れるとムクレドに事情の説明を求めた。

 ムクレドも隠すつもりはない為、クライドに事情を説明する。

 

「成程ね……」

「まさか、持ちこまれたのがUEのMSだっとは不覚だった」

「そんなことよりも、おやっさん……」

 

 クライドはムクレドの不覚はどうでも良く、それ以上に聞きたい事があった。

 

「皆まで言うな……言われずともあのUEのデータは取ってある」

「流石だ。おやっさん、転んでもただでは起きないな。俺も見たいんだが……」

「仕方がない……」

 

 ムクレドは工房に運びこまれた時に取ったゼダスのデータをクライドに見せる。

 ムクレドも、あまりにも高い技術で作られているゼダスのデータを許可なく勝手にとっていた。

 

「ほぉ……凄いな。位相転換装甲に高周波ブレード、光波推進システムまで実装しているのか……」

「それに良く分からん、マン・マシン・インターフェースまで実装してやがる。コイツを作った奴は相当な技術者だな」

 

 クライドとムクレドはゼダスのデータを見てその技術力の高さを感心する。

 世界でもトップクラスの技術者が二人でもゼダスの構造を完全に把握することは出来ない。

 ヴェイガンの技術はそれ程地球側の技術力を上回っている事になる。

 

「俺が分かるのは殆どないが使えるのか?」

「まぁ……すぐには無理だが……このデータのコピーは貰えるか?」

「それは構わんが……」

 

 クライドは将来的にこのデータもガンダムZEROに反映させる気である事はムクレドにも分かる。

 クライドはヴェイガンに対しては憎しみを持っているがヴェイガンが運用しているMSにまで憎しみを持っている訳ではない。

 ガフランなどが自我を持った生物ならともかく、MSであるなら故郷を襲った罪はそのMSを使った者にあり人の道具たるMSにまで罪はないと考えている。

 だからこそ、自分達よりも高い技術力を持つヴェイガンのMSの技術は積極的に取り入れようとしている。

 

「助かる。それでゼロのアーマーだが……」

「二つとも出来てる。ついて来い」

「兄さん!」

 

 ムクレドにガンダムZEROのアーマーが補完されている場所に案内されると言うところでフリットがクライドを呼ぶ。

 あの戦闘後、クライドはすぐにムクレドのところに向かったが、フリットはガンダムZERO Nのパイロットを探していた。

 もしかしたら、自分と同じようにクライドも生き残っているかも知れないと言う一分の可能性を信じて探したが、ムクレドと話しているクライドを見て確信した。

 ガンダムZERO Nに乗っていたのは自分の兄、クライド・アスノと言う事を……

 

「フリット……」

 

 一方のクライドも驚いている。

 ノーラの事を聞き無事である可能性が高い事は分かっていたが、まさかこんなにもすぐに出会うとは思ってなかった。

 

「兄さん? フリットはお前の弟なのか?」

 

 ムクレドも少し前にフリットに会っており、その際にクライドと同じアスノ家の人間だとは知っていたが、まさか兄弟だったとは思っていなかった。

 

「まぁな……おやっさん、アーマーの方はエリーゼが直に来るからその時に頼むわ」

「分かった」

 

 ムクレドはその場の空気を呼んでクライドとフリットを二人きりにさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このガンダムはお前が?」

 

 ムクレドの計らいで二人きりになったクライドとフリットは格納庫に置かれている二機のガンダムを見ている。

 

「うん」

「そっか……」

「あのガンダムは兄さんが?」

「まぁな……」

 

 7年ぶりの再会である為、二人は何を話せば良いのか良く分からずに会話が続かない。

 

「見た感じだと、パワーと装甲は凄そうだが、さっき見たいに機動力の高い相手だと対応出来ないだろ?」

 

 クライドはガンダムAGE-1Tを見てそう言う。

 クライドも先程の戦闘とタイタスを見てタイタスの特性と弱点を見抜いている。

 

「これはタイタスって言ってUEの重装甲タイプの装甲を破壊するためにAGEシステムが導きだしたガンダムなんだ」

「AGEシステム?」

「うん。AGEシステムってのはガンダムの戦闘データを元にガンダムを進化させるシステムなんだ」

「そいつは興味深いな……」

 

 クライドはフリットの開発したAGEシステムに食いついてフリットも懸命にAGEシステムやガンダムAGE-1についてクライドに説明し、そこから二人の会話が弾むが、内容は普通の兄弟が話す内容とは程遠い技術的な話しかしていない。

 だが、二人にとってはこの7年間を埋めるには十分な会話でもあった。

 

「成程な……アスノ家の研究を元に生物の進化を数値化しているのか……面白い発想だな。フリット」

 

 クライドにそう言われて14歳と言う歳相応にフリットは照れる。

 フリットの開発したAGEシステムはアスノ家が研究してきた生物の進化の謎を数値化したデータをフリットが独自の計算で算出した自己成長の数値を合わせたシステムでガンダムの戦闘で蓄積したデータを使い発展して行くシステムらしい。

 クライドもアスノ家の研究は知っていたが、当時は生物の進化にあまり興味もなく、MS開発に必要とも思ってなかった為、アスノ家の研究成果はガンダムZEROの設計には組み込まれていない。

 自分が興味がなく、MS開発にそこまで重要でないと判断した研究をフリットはここまでの物にした事をクライドは素直に関心している。

 だが、先ほどまで兄に褒められて照れていたフリットだが不意に沈んだ顔をする。

 

「……兄さん。これ……」

 

 フリットがクライドに差し出したのは7年前に母に託されたAGEデバイスだ。

 

「これは……AGEデバイス……フリットが持っていたのか」

「うん……7年前のあの時に母さんに託されたんだ」

 

 本来、AGEデバイスはアスノ家を継ぐクライドが受け継ぐ筈だったが、オーヴァンの襲撃の際にフリットに渡っていた。

 そして、兄と生きて再会した事でフリットはAGEデバイスを本来の持ち主に返そうとしている。

 だが、AGEデバイスはガンダムAGE-1の起動には必須である為、それをクライドに返すと言う事はもう二度と自分はガンダムAGE-1に乗る事は出来ないと言う事になる。

 フリットは自分の開発したガンダムAGE-1に強い思い入れがあるが、自分よりクライドの方がガンダムAGE-1を上手く扱えるかも知れないと思い苦渋の選択でクライドにAGEデバイスを返す事にした。

 

「そいつはお前が持ってろよ」

「え?」

 

 だがクライドから返って来た言葉はフリットの予想外な言葉だった。

 

「だって、AGEデバイスはアスノ家の……」

「お前もそうだろ。それに母さんはお前に託したんだ。アスノ家はお前が継げば良い」

 

 予想もしていない展開にフリットは混乱して行く。

 クライドにとってはアスノ家を継ぐ事には大した意味はない。

 クライドが継いでいきたいのはアスノ家が代々受け継いで来た技術だけだ。

 

「俺は父さんから良いもんを貰った。だから、お前は母さんからそいつを貰った。これで相子だろ」

 

 すでにクライドは父からAGEドライヴに過去の戦争の兵器のデータを貰っている。

 だが、フリットが親から貰ったのはこのAGEデバイスだけだ。 

 

「でも……」

「お前は一人でこれだけのMSを作った。アスノ家の人間として胸を張れ。フリット」

 

 それはクライドがフリットを一人前の技術者として認めたと言う事だ。

 フリットは技術者としてクライドに認められた事で嬉しさのあまり泣きそうになるが、俯いて堪える。

 

「アンタがあの白いMSのパイロットか?」

「ウルフさん……」

 

 二人が話しているとウルフがガンダムZERO Nを見ながらやって来る。

 

「アンタは……ウルフ・エニアクルか……」

「兄さんはウルフさんを知ってるの?」

「そりゃ、MSレースのチャンピオンだからな」

 

 ウルフは軍に入る前にMSレースのチャンピオンだった。

 優秀なパイロットを探す上でMSレースのチャンピオンであるウルフはスカウトの候補に挙がっていた。

 だが、接触する前に引退して軍に入ってしまった為に断念した事があった。

 

「俺も有名になったもんだ。それで……アンタが白いMSのパイロットなのか?」

「そうだ。クライド・アスノ。フリットの兄貴だ」

「ウルフ・エニアクルだ。中々活かす機体じゃないか」

 

 ウルフはガンダムZERO Nを見てそう言う。

 ウルフは連邦軍では白い狼の異名を持つエースパイロットでウルフの乗る機体はレーサー時代から白一色で統一されている。

 そして、ガンダムZERO Nの装甲も白で統一されている為、ウルフの好みと一致している。

 

「ウルフさん! あの機体は!」

「分かってるよ。俺には俺専用のスーパーMSのGエグゼスがあるからな」

 

 フリットはウルフと初めて会った時に白いMSは俺の物だと言いだしてガンダムAGE-1を寄こせと言いガンダムAGE-1のパイロットの座を賭けて模擬戦をした事を思い出し、白いMSのガンダムZERO Nにも同じ事を言いだすかも知れないと思ったが、ウルフにも新しい愛機がある為杞憂に終わった。

 

(Gエグゼスね……おやっさん完成させたのか。だったら、Gレックスのデータは要らなくね?)

 

「それで、それだけか?」

「いや、うちの艦長が白いMSのパイロットに話があるから来て欲しいって言われてな」

「グルーデック艦長が?」

 

 ウルフの乗っている戦艦の艦長と言う事は連邦軍と言う事になる為、あまり気は進まないが、フリットも知っていると言う事はフリットの乗っている戦艦の艦長と言う事にもなる。

 

「取り合えず、俺の船が来てからにさせて貰う」

 

 最悪の場合は戦闘になる可能性もあり、クライドはアブディエルが工房に到着し、戦える状況になってからフリットの母艦のディーヴァに向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

「お前が白い二つ目のMSのパイロットだな」

 

 数時間後にはアブディエルもマッドーナ工房に到着し、後をエリーゼに任せた後、クライドはディーヴァを訪れていた。

 ディーヴァの艦長室でクライドはディーヴァ艦長グルーデック・エイノアと対峙している。

 クライドは艦長室にグルーデックしかいない事を確認する。

 

「そうだけど。アンタが艦長?」

「そうだ。グルーデック・エイノアだ」

「クライド・アスノ」

 

 クライドは油断することなく相手の出方を窺う。

 

「フリットから話は聞いている。まさか、噂は聞いていたが、噂のMSのパイロットがフリットの生き別れになった兄だったとは奇妙な縁だな」

「つまらない腹の探り合いは良いから要件は?」

 

 連邦軍から見ればテロリストであるクライドを護衛もなく招き入れたと言う事は何かしらクライドに用事があると言う事だ。

 弟のフリットを同伴させないと言う事はフリットとは関係のない話と言う事になる。

 

「そうだな……短答直入に言おう。我々と手を組んで欲しい」

「手を組む? 連邦軍とか?」

「違うな。お前と組むのは私個人とだ」

「どう言う事だ?」

 

 連邦軍と組むと言うのなら話は分かる。

 パラダイスロストは単艦とは言え、単艦単位では破格の戦力を持っていると言っても良い。

 その戦力はヴェイガンと戦う上で十分に有効な戦力だ。

 その為、その力を連邦軍が欲してもおかしい事ではない。

 

「私はこれから、UEの巣に仕掛ける。その為にエウバとザラムの協力も取り付けた」

「ザラムとエウバの……」

 

 クライドは少し信じられない。

 ザラムとエウバと言えばファーデーンで内戦をしている。

 片方ならともかく、両方が同時に協力することなど考えられないが、グルーデックが嘘をついているようには見えない。

 

「だが、奴らの戦力ではUEに対しては決定的な打撃を与える事は出来ない。だが、お前のところの戦力ならばそれも可能だ」

 

 ザラムとエウバのMSは連邦軍のジェノアスに比べれば性能は高いがそれでもヴェイガン相手ではあまり意味があるとは言えない。

 だからこそ、自分達と組もうと言う事だとクライドは解釈する。

 

「それはそうだが、聞きたい……アンタは何でそんな事を? 俺達と組めばアンタの軍内部での立場は危うくなる」

「そんなことはどうでも良い。私はすでに軍から反逆者として追われている身だからな」

 

 クライドは知らないが、ディーヴァの本来の艦長はグルーデックではなくディアン・フォンロイドであるが、ノーラでノーラを見捨てようとしたフォンロイドをグルーデックは殺害し、データを書き換えて自分をディーヴァの艦長にと偽っていた。

 すでに軍にもその事は明らかになっている為、グルーデックは反逆者として追われている。

 その為、同じく軍に追われているクライドと手を組んでも痛くも痒くもない。

 

「成程……そっちの事情は理解した。だが、アンタは何でそこまでしてUEと戦う?」

「……復讐の為だ。私は妻と娘を天使の落日で奴らに殺されている」

「俺と同じか……」

 

 クライドはグルーデックの戦う理由を聞き、自分と重なる。

 自分もまた、両親の復讐の為にヴェイガンと戦っている。

 

「そうだ。お前も両親をオーヴァンで殺されている。お前も私と同じなのだろう?」

「良く知ってるな……その通りだよ。それでフリットも復讐の為に戦っているのか?」

 

 本来は技術者である筈のクライドがガンダムAGE-1で戦っている事は先程フリットと話した時に聞いている。

 もしも、フリットが自分と同じ理由で戦っているのであれば、クライドはフリットを自分と同じ道に進ませる訳にはいかない。

 

「フリットは自分の様な人を作らないように戦っていると聞いている。少なくとも、私やお前のように憎しみだけで戦っている訳ではない。フリットは良くも悪くも純粋に人類の為に戦っている」

「そうか……なら良い」

 

 クライドはフリットが自分と同じ道に堕ちていない事を知って安心する。

 フリットには自分の様な行き方はして欲しくはない。

 

「止めないのか?」

「止めないさ……UEと戦う事を選んだのはフリット自身だ。アイツもいつまでも子供じゃないんだ。自分で決めたのなら、俺は止めない」

「そうか……それでどうする? 私と組むか否か……」

 

 クライドはグルーデックと組んだ時のメリットを考える。

 ディーヴァには来た時に見た格納庫にはガンダムAGE-1意外にはGエグゼスとジェノアスが一機だけしかなかった。

 ガンダムAGE-1は戦力として十分に数える事が出来、AGEシステムにも興味がある。

 Gエグゼスとウルフも戦力としては数えても問題はない。

 ジェノアスはパイロットによるが居ても邪魔にはならないだろう。

 それ以上に戦艦が増える事はありがたい。

 これからの戦いで単艦で戦い続ける事は難しい。

 出来れば艦隊を組みたいが、戦艦の指揮をとれる人物はアブディエルにはエリーゼと辛うじてアルフレッドが居るくらいだ。

 グルーデックは軍でも艦長についてもすぐにはばれないだけの地位を持ち、不満の出ないだけの能力は持っていると見て良い。

 そして、戦う理由が自分と同じ復讐だとすれば利害の一致もして、下手に正義感ぶっている相手よりも信頼は置ける。

 

「OKだ。組もう」

 

 だとすれば断る理由もない。

 

「そうか……助かる」

 

 グルーデックはそう言って手を差し出し、クライドも手を握り返す。

 

「そんで、これからの事だが……」

 

 クライドがそこまで言うと呼び出し音が鳴り、グルーデックが出る。

 

「どうした?」

「艦長、ファーデーンにUEと思しき大軍が接近しています」

「分かった。すぐにブリッジに上がる」

 

 グルーデックはそう言って通信機を戻す。

 

「聞いての通りだ」

「ああ……俺達も出る」

 

 クライドはグルーデックと組むことになったがゆっくりとしている暇もなく新たな戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

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