「師匠、どうすか?」
サマーウォールを出港し、ウィンターガーデンに向かう道中でノーマルアーマーと同時に搬入されていた青い装甲のブリーズアーマーの実装テストを行っていた。
ブリーズアーマーは青を基調した装甲に背部にはノーマルアーマーのスラスター以上の出力のスラスターを4基、両肩にはビームキャノンを内蔵した大型のウイングスラスター、腰と脚部にも追加のスラスターを装備した超高機動戦闘に特化したアーマーである。
武装は両肩のウイングスラスターに内蔵されてるビームキャノンに両手にロングソード、頭部のビームバルカンのみである。
「OKだ。接続に問題ない」
クライドはZEROのコックピットの内部でアーマーの接続状況を確認している。
このブリーズアーマーはノーマルアーマーに比べて非常に扱いが難しく、機体のチェックも入念にしなければ、いざ実戦に投入してどんな不備があるか分からない。
「そう言えば、このブリーズアーマーを装備したゼロって高機動モードに変形出来るんですよね。そっちのテストは艦内じゃ出来ないですけど、どうします?」
「ああ、それ無理だから」
エミリオが以前にクライドに見せて貰ったブリーズアーマーのデータにはガンダムZERO
「高機動モードになると、コイツのフレームがいかれるんだよね」
ブリーズアーマーのスラスターは背部の以外は装甲に直接、ついている訳ではなく稼働アームによってついているため、スラスターの向きを変えることが可能でそれを活かした高機動モードへの変形機能が設計されていた。
高機動モードはMSが開発される以前の主力兵器の一つだった戦闘機をモデルにしている。
戦闘機は人型のMSよりもコロニー内の様な空気のある場所では空気抵抗を殆ど受けずに高い機動力を確保出来る計算だった。
設計中は勢いで設計していたが、完成後にマッドーナ工房に発注した後に良く良く考えれば、戦闘機の形態に変形する為にはZERO自身も変形しなければならないが、本体の設計に可変機構は全く組みこんでいないことを思い出した。
その場合で変形は可能だが、元のMS形態に戻る為には母艦でフレームから修理をする必要があり、可変MSとしては致命的とも言える欠陥だ。
「それでもおやっさんのお陰で十分過ぎる程の出力が出せる」
クライドは受け取り時にムクレドが若干弄って、出力が上がっていると聞いていたため、その出力を正確に把握すると、ブリーズアーマー装備時のガンダムZEROの機動力は驚異的な物となっている。
「まぁ……十分どころか、スペック上の数値ですと、フル加速じゃうちのジェノアス改やキャノンじゃ一瞬でおいてきぼりになるっすね……」
ジェノアス改やジェノアス・キャノンも通常のジェノアスよりも機動力は向上しているが、それでもガンダムZERO Bの機動力には到底及ばない。
「まぁな……もう少し調整が必要だが、もうすぐウィンターガーデンに到着する。調整は後回しだな。すぐにノーマルに換装しておてくれ」
すでに大まかな調整を終えているが、コロニー内で戦闘になれば、スタンダードなノーマルアーマーの方が使い勝手が良い。
ブリーズアーマーは機動力はノーマルアーマーとは段違いではあるが、その半面機動力に重点を置いている為、防御力や火力はノーマルアーマーの方が勝る。
その上、最終調整を終えていない状況で使うのはクライドはあまり好きではないので、今回戦闘になるとすれば、ノーマルアーマーを使うつもりでいる。
「了解」
コロニー「ウインターガーデン」
サマーウォール同様のリゾートコロニーでコロニー内部は一面が雪で銀世界なコロニーである。
内部には幾つもの雪山やペンション風のステーションが作られ、コロニーのサイズも通常のコロニーよりも大型に作られている。
コロニー内の内壁部は金持ちがウィンタースポーツを楽しんでいるが、内壁と外壁の間の地下には賭博場が秘密裏に作られている。
コロニー内は地球の雪山を忠実に再現しているので、内部の殆どが殆どが人工の雪に覆われて、おいそれと一般の客が入れない場所も多い為、表沙汰に出来ない違法賭博場を隠すにはうってつけのコロニーとされている。
その中でも一際目立っているのが闇バトルである。
銀の聖杯条約でMSの様な戦闘兵器を所有することが禁止されている為、軍や海賊などの一部を除いては戦闘用のMSが戦っているところを見る機会が少なく、表舞台のMSバトルの様なスポーツとは違い限りなく実戦に近い戦いを日夜繰り広げられているこの賭博場では、そのスリルを味わう為の多くの金持ちが賭けに参加している。
ウィンターガーデンに入港したアブディエルは偵察も兼ねて、クライドが賭博場に入っていた。
「違法賭博をしているから、陰気臭いところだと思っていたが、随分と洒落てるな」
賭博場はバーの様な雰囲気を醸し出しており、あちらこちらで様々な賭けごとが行われ、中央の大型モニターでは闇バトルが中継されている。
そこで賭けに興じている彼らは違法行為をしていると言う罪悪感は無く、純粋に殺し合いを見て楽しんでいる連中が多い。
「バトルはここでやっている訳ではないんだな。場所の方はアリスが見つけてくれるか……」
アリスもまた、クライドとは別行動で情報収集を行っている。
オーヴァンに居た頃は無愛想だが、メイドとしての仕事は完璧にこなせる優秀なメイドと言う認識だったが、オーヴァンを脱出後には家事意外でも様々な分野でも非常に優秀な事が判明している。
アブディエルの初期の活動資金の調達に連邦軍の新造艦のデータの入手や、今回のように情報収集の為の潜入工作もそつなくこなせる。
「おっ……ようやくお出ましか……」
クライドが闇バトルを観戦し幾つもの試合が終わるとモニターに次の試合の組み合わせが出される。
モニターには次の対戦カードが映されており、その片方にはクライドの目的の人物、リトルエンジェルの名前が書かれている。
普通のメイドにそこまでの出来る訳がない筈だが、それをやってのけるアリスは普通ではないのは分かるが、それを追求したところで答えるかは分からない。
下手に追求にパラダイスロストから離反されても困る為、クライドはアリスの素性は味方である内は気にしないでいる。
「てか……何だ。あの機体……」
闘技場に二機のMSが出て来る。
一機はエウバ同盟で使用されていたMS「ゼノ」だがもう一機のMSを見てクライドは思わずそう呟く。
そのMSはザラム連合で使用されていたMS「ジラ」だったが通常のジラのこげ茶色ではなく、そのジラはピンクで統一されていた。
一般的にパイロットが自分の搭乗機の色を自分の好きな色で塗装したり、パーソナルマークを入れたりすることは珍しくはない。
ジラのピンク色もパイロットの趣味であろうが、武骨なMSにピンク色と言う組み合わせはクライドにはとても良い趣味には思えなかった。
「……色はどうでも良いんだ。問題はアイツがXラウンダーかどうかだ。だが……モニター越しじゃわかんねぇよ」
MSの趣味と実力が比例している訳でもないため、この際、リトルエンジェルのMSの趣味は置いておく。
リトルエンジェルがクライドの求めている「Xラウンダー」かどうかはMS越しでも直接見れば分かったが、最悪な事にモニター越しで離れているため、判断がつかない。
「だが、この試合で実力を図ることは出来る。さぁ……噂の天使の実力を見させてもらうか」
クライドとしては例え、Xラウンダーで無くとも高い実力を持ったパイロットなら接触してスカウトする価値は十分にある。
この試合でパイロットとしての実力を見ることは出来る。
そして、試合開始のゴングと共に戦闘が開始される。
試合開始と同時にゼノがマシンガンを乱射する。
「へぇ……」
それが始まる直前にジラは大きく飛び上がり回避すると、闘技場の障害物として配置されている壁の影に隠れる。
ゼノは壁が死角で姿が見えないジラに対して、マシンガンを闇雲に動かして壁をマシンガンで破壊しながらジラを狙う。
相手の隠れて見えない以上、隠れている場所を破壊しあぶり出しながらいる可能性のある場所を片っ端から攻撃するほかない。
一方のジラはまるで、ゼノが何処にマシンガンを動かすのかが前もって分かっているかの様な動きで回避している。
ジラの方からもゼノは見えないので、分かって避けているとすれば相当な判断力か直感力を持っている可能性が高い。
「あれを分かってやっているなら、素質はジゼル以上だな」
そして、ゼノのマシンガンの弾が尽きると当たらしいマガジンを装填する隙をつき、ジラはゼノに接近すると胴体にヒートホークを振るう。
ゼノは完全に隙をつかれた為、反応する前に距離を詰められている。
「終わりだな」
胴体にヒートホークの突き刺さったゼノの機能が停止すると、ゴングがなる。
試合終了の合図である。
試合が終了すると、あまりにもあっさりと試合が終了してしまい鎮まり返るが、すぐに歓声が上がる。
「相手がしょぼくて、あまり参考にはならないが、直接会う価値はあるな……となると作戦は続行だ」
今回のリトルエンジェルの相手は、大した実力は無くリトルエンジェルの実力を全て把握するには至らないが、それでも接触するに値する実力を持っていると判断出来る。
クライドは試合の熱気が冷める前に賭博場から出て行く。
賭博場を出たクライドはステーションに戻るのではなく、コロニー内のスキーコースから大きく外れた森林に向かっていた。
ウィンターガーデンでは地球の環境をそのままに再現していると言う歌い文句で、脇に森林を作ってるが実際は裏の顔を知らない一般人に見つからなようにコロニー内を移動するために森林地帯が作られている。
港から内部に直通しているダストもあり、そこからMSを積んだトレーラーを内部に持ち込んでいる。
そこにはガンダムZEROと始めとし、デスドール、ジゼルの新しい機体のジェノアス・キャノン、レオナールに与えられたジェノアス改の4機のMSにコンテナトレーラーが隠れている。
ジゼルの新しい搭乗機のジェノアス・キャノンはガンダムZEROが完成するまではクライドの搭乗機として運用されていたMSである。
基本的にはジェノアス改と変わらないが武装強化でノーマルアーマーに先んじて完成していたビームライフルを改造したビームキャノンを右肩に装備し、ヒートランスの代わりにノーマルアーマーのビームサーベルの柄が使われているビームランスを装備し攻撃力が強化されている。
「おいおい……」
コンテナに戻って来たクライドは呆れた。
クライドとアリスが偵察にしている間はジゼルとレオナールは待機の筈だったが、ジゼルはMSから降りており、尚且つ雪の上を走り回っていた。
「なにやってんの?」
「おっ、アニキ戻ったのか?てか、何だよその格好は?」
「お前に言われたくはないがな」
クライドの格好は何枚ものコートを着込み、手袋、マフラー、帽子などの防寒具の完全装備で身を固めているの対し、ジゼルはいつもの格好だった。
気温の高いサマーウォールではジゼルの露出度の高い格好でも問題がないが、雪で覆われ気温の低いウィンターガーデンではあり得ない格好だが、当のジゼルはしゃいでおり気にしてる様子はない。
「それに何でテンションが高いんだよ……」
「何でって、一面が雪だし吐く息が白いしなんかテンション上がんない?」
「上がんない」
クライドからすれば、寒いと手が悴み細かい作業に支障が出るし、手袋をはめても細かい作業は出来ない。
雪もMSの足が取られる為、MSを運用する環境としてはあまり良いとは言い難い。
クライドはこのやり取りを以前にもサマーウォールで同じだと思いながら、クライドはコンテナトレーラーに向かう。
「アリスが戻り次第、作戦会議を行う。レオもMSから降りて構わないぞ」
クライドの言いつけを守りMSで待機していたレオナールがジェノアス改から降り、しばらくするとアリスも戻って来た。
コンテナトレーラーには運転席やコンテナ以外でも小さいながらも、会議室としても使える小部屋がある。
そこにクライドを始めとしたパイロット4人をトレーラーに同乗して来たアルフレッドが集まっている。
トレーラーを運転して来たエミリオは現在、コンテナ内の必要な武器の整備をしている。
「それでリトルエンジェルをスカウトするのかい?」
アルフレッドは賭博場に偵察に出ていたクライドに聞く。
その返答次第では作戦を中止し、コロニーから出て行くことになる。
「半々と言ったところだが、直接会う価値はあると思う。アリス、闘技場とかのデータは?」
「ある程度は」
アリスは収拾して来た情報から闘技場関連の情報を映す。
そこにはコロニーの全体図が映されている。
それも、コロニーのパンフレットに乗っていない裏の顔も克明に描かれている。
「闘技場の位置は賭博場からそう遠くはありません。そこにはバトル用のMSの他にも戦闘用のMSが約30機程が配備されています」
「30機……警備のMSにしては多過ぎやしなかい?」
通常、警備用のMSとしてもそこまでの数は連邦軍の基地ですらそうそうない。
それだけの数のMSを配置出来ると言う事はこの賭博場のバックには相当な大物が控えている可能性が非常に高いことの裏付けになる。
「あの賭博場はマーロッソファミリーが仕切ってるようです」
「マーロッソか……これまた面倒な相手になるな」
クライドもマーロッソファミリーの名前くらいは聞いたことがある。
「知ってんのか?アニキ」
「マーロッソファミリーはマフィアだよ。その規模は相当な物らしい」
「それに、噂だと臓器売買や兵器の密売だけでなく人身売買にまで手を付けているらしいね」
「そんな事まで……」
裏世界を殆ど知らない、レオナールはマーロッソファミリーの実体の噂を聞き少し動揺する。
マーロッソファミリーは裏社会では相当名の通ったマフィアである。
MSの様な兵器の売買を始めとし、臓器売買、人身売買、麻薬の売買など商売内容は多岐に渡っている。
「その噂はあながち間違いではないと思われます。バトルに参加している闘士が待機していると思われる控室の警備が厳重でしたので強行的な行為は控えましたが、運良く闘士の一人が連行されている場面を見ることが出来ました。あの様子だと本人の意思で戦いに参加しているようには見えませんでした」
「成程ね……ここの闘士の大半はどっかのコロニーで拉致られたか、借金のカタで売られて来た奴らって事か。連中からしてみればファイトマネーを出す必要もないし、元がタダも同然で連れて来たから死んでも損失は殆どないが、儲けは全部自分の懐に入る。随分とボロイ商売だな」
どこからか拉致して来たパイロットを使えば人件費は殆どかからない。
闇バトルの欠点は一回の勝負につき、ほぼ確実に闘士の最低一人が死ぬことである。
下手をすれば相打ちで両者が死亡することや、勝ってもパイロットとして再起不能になることも多々起こり得る。
その為、闘士を集める為にどこかのコロニーから拉致して来た住人を使う事は十分に考えられる。
拉致られて来た方もある程度勝利すれば、解放すると言われ命を賭けた戦いをさせられれば生き残る為に必死になって戦うしかない。
尤も、その約束が果たされたケースは皆無だろうが……
「連邦はなにもしないんですか?人身売買とかは明らかに犯罪ですよ」
この時代においても人身売買は如何なる場合でも違法とされている。
「しないだろうな。元々連邦は13年前に天使の落日後にUEに対抗すべく、設立された組織だ。マフィアが何しようと、自分達に被害が出ないとそう簡単には動かないのが現状だ。被害がなくても動くのは一部の正義感の強い奴くらいで、連邦の上層部はその辺りは無視を決め込んでるのさ。尤も、そのUEに対してもこの13年間、まともな反撃すら出来てない体たらくだ。UEが本気で人類を根絶やしにするつもり
で攻撃して来たらとっくに人類は全滅しているね」
地球連邦軍はUEが初めて姿を現した『天使の落日』以降にUEに対抗すべく発足された軍隊である。
その目的はあくまでもUEと戦う事で必ずしも違法行為を取り締まることではない。
連邦軍は暴動の鎮圧やテロ行為の撲滅の為に軍を動かすこともあるが、それはあくまでも連邦軍や連邦政府に不利益が生じる場合が殆どで、不利益が発生しない場合ではいかに非人道的な行為が行われようとも、動くのは一部の正義感あふれる軍人だけで、動かずとも軍としては問題は何らない。
「だから、アタシらが連邦の代わってUEをぶっ飛ばすんだろ」
「そんな遠い未来の事よりも、今僕達がどうするのかの方が先決だよ」
UEを倒すと言っても、相手の戦力や目的が分からない以上は自分達の戦力を増強するしかなく、今は未来の事よりも今の方が重要な問題である。
何せ、敵の総戦力が分からないので、戦力は集めるに越したことはない。
「どうするって、決まってんだろ。下種野郎どもをぶちのめす。そうだろ?アニキ」
「それは無茶だ。ジゼル、ゼロが使えるようになったと言ってもこっちの戦力はMSが4機しかいないんだ。戦力差があり過ぎる」
アルフレッドは賭博場を潰す気でいるジゼルを嗜める。
幾ら、ガンダムZEROの性能が高くても稼働時間が無限ではなく、パイロットのクライドの体力も無限ではない。
正面から仕掛けて持久戦になれば、数で劣るクライド達の勝機は薄くなる。
「だったら、この下種どもを見逃せってのかよ!」
ジゼルは今にもアフルレッドに掴みかかりそうな勢いでそう言う。
「そうは言ってないよ。だけど……無策では無謀だって言ってるんだ。長期戦に持ち込まれたら僕達の方が圧倒的に不利なんだよ」
「だったら、その策とやらをアルフが考えてくれよ」
クライドは簡単にそう言い、アルフレッドが頭を抱えたくなる。
アルフレッドはアブディエルの副長を任されているが、戦術に関しては独学で軍の士官学校などで本格的に学んでいる訳ではない。
「……はぁ……やっぱりそうなるんだね」
策を考えることが当然のように言われてアルフレッドがため息をつくが、それでクライドの決定が覆ることもない。
「分かったよ。でも……僕の策には従ってよね」
「善処するが、戦況は変わって行くものだからな」
クライドのその物言い場合によっては独自の判断で勝手に動くことが予想され、アルフレッドは更に頭を悩ませる。
戦術を立てるに当たり戦力の要のクライドが勝手に動かれると言うのは強力な敵が出て来るよりも厄介な事だ。
「アルフはアブディエルに連絡を取っていつでも出港の準備をさせておいて、策を考えろ、ジゼル達はいつでも出られるようにしておけよ」
「任せとけ!」
「分かりました」
「さぁて……小さい天使を確保して連中に一泡吹かせてやるか」
そして、ウィンターガーデンでクライド達が水面下で行動を開始する。