アンバット攻防戦はアンバットの陥落によってヴェイガンの敗北で終わった。
その戦いから一週間が経ち、陥落したアンバットの周辺には未だに戦闘で破壊された戦艦やMSの残骸が漂っている。
「これがアンバットの成れの果てか……」
そのアンバット宙域に5機もMSが辺りを探索している。
そのMSはエウバのジラに酷似しているが、カラーリングはモスグリーンをしており、細部に違いが見える。
5機のMSの内、1機は頭部にブレードアンテナが装備され、隊長機であることが窺える。
「連邦政府は相変わらずってところですかね」
別のMSのパイロットがそう言う。
その口ぶりから以前の連邦政府の事を知っている口ぶりだ。
「そうだな……それで、連邦と戦っていたのは何処だ? エウバか? それともザラムか?」
「いえ……戦場に両軍のMSもいましたが、戦闘を見る限りでは共闘していたようです」
「共闘だと? エウバとザラムがか?」
隊長機のパイロットは少なからず驚いている。
だが、戦闘記録を見る限りではエウバとザラムのMSは敵対しているところか、互いにフォローをしあっているようにしか見えない。
「交戦していた敵は情報部の連中が言うのは火星圏に移住した連中らしいですよ」
「奴らが生きていたのか……となれば見捨てられた事への報復戦争ってところか……変わらないな……人間も」
「それと、戦場にガンダムがいたらしいです。隊長」
ガンダムと言う単語を聞き、隊長機のパイロットは目つきが変わる。
「本当なのか? ガンダムがいたと言うのは?」
「はい。それにガンダムはあの力を使ったみたいです」
「まさか……アスノ家の末裔か……呪われた一族が……また、世界を破滅に向かわせるつもりか……」
隊長機のパイロットの目には明らかな敵意と憎しみが籠る。
「ですが、そのガンダムは巨大な爆発に巻き込まれたとの報告もあります」
「それで消えれば苦労はない。お前は知らんだろう。ガンダムの力と言う物を……あれは化け物だ」
そう言う隊長機のパイロットには敵意と憎しみだけでなく恐怖心も見て取れる。
「それだけの力を……」
「そうだ」
「やはり、あの方に動いて貰いますか?」
「いや……あの方に動いて貰うのはまだ先だ……今は見極める時だ。だが……いずれガンダムは蘇る。その時は我らの手でガンダムを葬り世界を破滅から救う。今度こそな……」
隊長機のパイロットはそう良い、散っていた他のMSも隊長機の周りに集まって来る。
「隊長、こんなもんを拾いましたよ」
そう言う所属不明機の手には赤いガフランの頭部を持っている。
「生体反応があるんで、パイロットは生きていますけどどうします?」
「例の計画に使えるかも知れん、一応確保しておこう。火星圏の詳細な情報も手に入るかも知れないからな」
「了解です」
所属不明機の一団は赤いガフランの頭部を回収し、連邦軍が事後処理に来る前に自分達が訪れた痕跡を完全に抹消するとアンバットから姿を消す。
「……何処だ?」
クライドは目を覚ますと顔だけを動かして周囲を確認する。
右半分が見えてないが、ここが病室であることは完全に覚醒していない頭でも分かる。
「クライド……」
病室であることを理解すると、自分を呼ぶ声が聞こえる。
それは考えるまでもない、エリーゼの物だ。
「エリーゼ……」
「起きたのね……」
エリーゼはクライドの寝かされているベッドの横に座る。
「俺は……」
「ここはアーヴィンの病院よ。クライドは一カ月も寝ていたのよ」
「AGEドライヴは……ゼロはどうなった?」
エリーゼは真っ先に気にしたのが戦いの結末ではなくガンダムZEROとAGEドライヴであることが実にクライドらしいと思い、自然を笑みが零れる。
「ゼロは大破……エミリオが言うには直すのは無理だって……AGEドライヴは外装は駄目みたいだけど、コア部分は無事だからクライドなら直せるって言っていたわ」
「そうか……」
取り合えず、AGEドライヴが修理可能な範囲の損傷で済んだ事にクライドは安心する。
ガンダムZEROの方は設計図がクライドの頭の中にある為、再建することは不可能ではない。
「戦いはどうなった?」
「私達の勝利で終わったわ」
最終局面の状況を考えれば勝算が高い事は分かっていたため、戦いに勝利した事は驚く事ではない。
そして、勝ったからとは言え、喜べる状況ではない。
あの戦いでクライド達はシャルルを失っている。
シャルルは故郷に妻を残し少し前には娘も生まれている。
戦いが終わったら、娘に会いに行くとパイロット同士で話していた事をクライドも知っている。
「それでね。レオとジゼルは今ね。サマーウォールに行ってるの。リゼットさんにジゼルを紹介するんだって、あの二人は正反対だけど何かと良いコンビだったわね」
エリーゼは唐突に話題を変える。
戦いに勝っても素直に喜べない事を知っている為、明るい話題に変える。
「それと、ユーリアも今はアーヴィンの学校に通ってるわ。私達の後輩って訳ね。ああ……クライドは高等部からだったわよね」
「エリーゼ」
エリーゼは必死に明るい話題を探してはクライドに捲し立てるように言うがクライドが止める。
「俺の右手と左足……」
「気づいてたの……」
エリーゼが必死に明るい話題を話していた理由、それはクライドにあることを気付かせたくはなかったからだ。
「まぁな。始めは麻酔が効いているからだと思ったが、違うようだ……左手を右足の感覚はある」
クライドがそう言うとエリーゼの表情が暗くなる。
エリーゼは気づかせたくはなかったが、ベットに横たわるクライドの布団の下の右手と左足がなくなっている。
「別に気にするような事でも気を使う必要もない……流石に最後のアレは死んだと思ったし」
アンバット攻略戦で最後にクライドはナーガの自爆をゼロ距離で受けた。
その威力からクライドは完全に死を確信した程だ。
だが、あの後、撤退前に偶然にもガンダムZEROの残骸を発見された。
その時は爆発でガンダムZEROは胴体を残して、完全に破壊された状態だった。
その胴体も損害が大きく、クライドの生存は絶望的に思えたが、奇跡的に虫の息で生きていた。
クライドを治療するためにはコックピットからクライドを引きずり出す必要があったが、コックピットは完全に爆発の威力で変形し、無理やりハッチを破壊してこじ開けた。
コックピットの中のクライドは完全に意識が無く地力で出る事は出来なかった。
外から引きづり出そうとした時に変形したコックピットがクライドの右手と左足を押しつぶすように変形していたので、クライドを外に
引きづり出すためにはクライドの右手と左足は切断しなければならなかった。
「胴体だけ……ゼロは胴体だけ残されていたんだな?」
クライドはその時の様子をエリーゼに聞くと始めに聞いたのはその事だった。
「そうだけど……」
その答えを聞いてクライドは黙りむ。
あの状況で胴体だけが残る事はあり得ない。
ナーガのガフランはガンダムZEROの胴体に取りついていた。
あの位置で自爆すれば一番被害の出るのは間違いなく胴体部だ。
それなのに自分は手足が一本づつ失うだけで済んでいる。
以前にマッドーナ工房で機体の一部を補強したが、それだけでは説明が付かない。
(それに……あの時の力は一体……)
それだけでなく、ガンダムZEROはゼファーラとの戦闘中に不可思議な現象が起きている。
ガンダムZEROにあのような武器を搭載している訳でなくAGEシステムが設計したアサルトアーマーにもそんな武器のデータは記されていなかった。
(まさか……AGEドライヴか?)
ガンダムZEROでもアサルトアーマーでも無ければAGEドライヴが関わっている可能性が非常に高い。
元よりコア部分の技術は完全なオーバーテクノロジーで解析が出来ない。
搭載後の初期起動での事も未だに分からない。
となれば、自分の知らない武器が隠されていても不思議ではない。
その現象が起きた後にAGEドライヴの出力が低下していたことも関係があるだろう。
そうと仮定すればAGEドライヴの搭載されている胴体部が無事だった事もあの時のオーラが何らかの形で胴体を守ったと推測される。
AGEドライヴの出力が低下していたから、完全に防御が出来なかったのだろう。
そこまで推測するが、それ以上はデータが不足している為、今は考えない事にした。
「まぁ良いか……それよりもグルーデック艦長達は?」
「グルーデック艦長は連邦に投降したわ。今は軍法会議にかけられているわ。多分、判決は良い方にはいかないと思う。艦長は罪を全部被る気でいるから……」
戦いが終わった後、グルーデックはグアバランに投降している。
その際、グルーデックはディーヴァのクルーは自分が脅して強制させたと証言している。
無論、グアバランはミンスリーでの戦闘時にクルーが自分達の意思で戦った事を知っていたが、グルーデックの意思を汲んでそれを上層部に報告した。
それによりグルーデックはアンバット攻略戦を指揮して落とした英雄ではなく戦艦を私物化して復讐をしようとした反逆者として裁かれようとしている。
「そっか……」
「それよりも、私達はこれからどうする?」
「そうだな……ゼロも壊れたし、俺の戦いも終わったんだよな……」
クライドの戦う理由である復讐はナーガの自爆を持って幕を閉じた。
自分の手で直接、仇を討つ事が出来なかったのは心残りだが、終わった以上いつまでも引きづっていても仕方がない。
「取り合えず、パラダイスロストは解散だな」
復讐を終えた時点でクライドにとってパラダイスロストには何の意味も無くなっている。
「そう言う事になるわね。もう他のクルーは結構アーヴィンを出てそれぞれの道に進んでいるわ」
クライドの重傷にガンダムZEROの完全な破壊を機にパラダイスロストに見切りを付けたクルーも少なくない。
元より絆などで繋がれていた訳でも無く、殆どのクルーがガンダムZEROとクライドの高い能力を当てにしていたクルーが殆どであったため、こうなるのも当然の結果だ。
今、アーヴィンに滞在している元クルーはレオナールやエミリオ、ユーリアくらいでサマーウォールに向かった二人やフリットに付いているアリスを除けば殆どのクルーは残っていない。
「そう言えば聞こえがいいが、ようは俺が身切られたって事だろ? まぁ、パラダイスロストを存続させる気も無いから勝手に去ってくれた方が都合が良いけどな」
「だから、組織の事はクライドが気にすることはないわ。でも……クライドもいろいろと大変でしょ? やっぱり誰かがいつも付いていないといけないと思うのよね」
「そうでもないさ。右目が使えなくても左目があるから問題はないし、右手がないのは少し面倒だが、左手が全く使えない訳じゃないからな」
エリーゼは遠回しに自分が傍にいると言いたかったが、クライドは冷静に自分の状況から自分が出来る事を把握している。
それに対してエリーゼは少し機嫌が悪くなっていく。
「だがまぁ……俺がこれから歩いて行く道を進むには片足では歩けないんだよな……だからさ、エリーゼ……お前には俺の左足になって欲しい」
クライドは真顔でそう言うが、エリーゼは機嫌が悪くなっていた事もあり、一瞬言っている事が理解出来なかったが、少し考えて理解する。
手や目は片方がなくても使う分には不便だが、出来ない事もない。
だが、歩く為には片足では歩く事が出来ない。
だから、クライドはエリーゼには自分の左足となってこれからも自分と歩いて行って欲しいと言っている。
要するにクライドはエリーゼにある種のプロポーズをしているのだが、正直微妙だ。
何の脈絡も無く、雰囲気も無いこの状況で言われてもとは思ったが、自分の乙女心を殆ど理解していないクライドにしては及第点だと妥当する。
「本当に仕方がないわね……」
技術馬鹿のクライドのこれ以上を求めるのも酷な話だ。
エリーゼはその話を受け入れる。
家族と故郷の仇を討つために戦う道を選んだクライドの戦いは終わった。
一つの戦いが終わるが、地球とヴェイガンの戦いは未だに続いている。
そして、戦いは新たな世代へと受け継がれていく。