機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第二部エリアルド編
第31話


天使の落日より14年は連邦軍の敗北続きではあったが、二機のガンダムによって戦況は覆された。

 その後、宇宙要塞アンバット攻防戦の終結を持って蝙蝠退治戦役が終結した。

 蝙蝠退治から25年……火星圏の独立国家「ヴェイガン」と地球連邦軍との戦争は未だに続いている。

 当初は地球圏に多くの拠点を持つ連邦政府の有利に思われたが、MSの性能差や技術力の差もあり、ヴェイガンが次第に勢力を広げつつあった。

 

 

 

 

 コロニー「オーヴァン」

 

 かつてヴェイガンの襲撃を受けたコロニーと同じ名を持ったコロニーがある。

 大きさは通常のコロニーよりも大幅に小さく、コロニーと言うよりも巨大な要塞に近い。

 オーヴァンは地球連邦軍の特別技術開発研究所、通称「特研」の研究所、実験場、工房などで占められている。

 そのどれもが世界最高峰の設備を揃えられている。

 

「取り合えず、アデルのテスト結果は良好だったからそいつを技術部の方で量産させておけば上も納得するだろう」

 

 オーヴァンの研究所の所長室で、クライド・アスノはそう言う。

 あれから25年経ち、青年だったクライドも歳を取っている。

 顔の右目にはアンバット攻防戦で受けた傷が未だに残されており、その後の戦闘時に失った右手と左足は義手と義足で補っているが、クライドの座る椅子の横には杖が置いてある。

 クライドは蝙蝠退治戦役後、連邦軍で技術者として働いている。

 蝙蝠退治戦役後にクライドは連邦政府と接触し、連邦軍が指揮を執ったと偽りの報道を行った事に対して、真実を世界にばらすと脅し、その口止めとして自分に連邦軍でそれ相応の地位を用意することとMS開発に適した環境を用意することを要求した。

 連邦軍としてもクライドの持つアスノ家の技術はMS開発で後れを取っている為、非情に魅力的だったため、その要求を受け入れた。

 それがオーヴァンと特別技術研究所だ。

 クライドの所長室は生活感がまるでなく、部屋内の至るところに資料が散乱し、モニターがいくつも置かれており、MSや武器のデータが映されている。

 

「数年かけた研究成果がそれだけで上層部は納得するでしょうか? アデルの設計の大半はアスノ司令が設計した物を所長が手を少し加えた程度ですし」

「良いんじゃないか? クラリッサ、研究成果を出したんだ文句は言えないだろ」

 

 クライドは悪びれる事なく、クライドの秘書であるクラリッサ・ルエーガーにそう言う。

 元は民間の研究所で宇宙船の推進機関の研究をしていたが、学会で光波推進システムの基礎理論を発表したところをクライドが目を付けて特研に引き抜いて、今は特研の副所長の地位に付いている。

 

「屁理屈ですよ。それ……」

 

 アデルの設計の殆どはフリットが行っている。

 特研はそれを少し修正しただけで、その修正箇所をここ数年の特研の研究成果として上に報告しようとしている。

 それを報告すれば一応の仕事をしている証明になるが、軍の上層部がクライドに望んでいる仕事とは程遠い。

 だが、上層部はあまりクライドに対して強く出る訳にも行かない。

 それ故に最低限ギリギリの仕事をしていれば上はそうそう何も言えない。

 

「なら、クラリッサが代案を考えてくれ?」

「いっその事大罪シリーズの設計図を上に出してみれば如何ですか?」

 

 クラリッサの言う大罪シリーズとは数年前にクライドが暇つぶしで考えたMS群の通称である。

 宗教用語の七つの大罪をモチーフにしているが、設計するだけしてクライドが満足して後は製造すらされていない。

 

「本気で言っているのなら、クラリッサがプレゼンして来てくれよ。通して来たら昇給してやるからさ……無論、通して来れなかったら減給な。安心しろ。ミスってもクビにはしないし、辞表も受け付けないから」

 

 それはクラリッサをただでさえ、多くない特研の給料を更に減らして扱き使うと言っている様な物だ。 

 

「冗談ですよ。アレは性能はともかく、軍では使えませんよ。独特過ぎて」

「そうだよな。そう言う訳だ。アデルの件は任せた。上に適当に言っておいて予算を取って来てくれよ」

 

 自分はオーヴァンから動き気のゼロなクライドにクラリッサは文句の一つも言いたいが、言ったところでクライドが聞く気の無い事は配

 

属されて数年経つが良く分からされた。

 

「嫌だったら、マルガリータに頼むけど? 無論、問題が起きた責任はお前持ちね」

「いえ、私が行かせて貰います」

 

 マルガリータは手先が器用だが、それ以上にドジだ。

 ここに転属になってからも度々、問題を起こすがクライドが面白がって未だに特研に居る。

 更にそんなドジなところが他の技術者のツボにハマったのか、今ではマルガリータは特研のマスコットとなっている。

 そんな彼女に任せて責任を負わされたのでは堪ったものではない。

 

「局長ぉわ!」

 

 マルガリータの本人が登場するが、部屋に入るとすぐにコードに躓いて転び、資料が更に散乱する。

 その惨劇にクラリッサは頭を抱えたくなる。

 一方のいつもの事なのでクライドは大して気にしていない。

 ここにある資料はすでにクライドの頭の中に入っている為、ごっちゃ混ぜになったところで大したことはないからだ。

 

「それで? 俺に用か?」

「そうなんですよ。ビッグリングからアスノ司令から通信が入ってます」

「フリットから?」

「また、何かやらかしたんですか?」

 

 連邦軍の総司令部からの通信で、クラリッサはまた、クライドが問題を起こしたのかと疑う。

 クライドは度々、他の部隊をトラブルを起こす事が多々ある。 

 その度に特研の軍内部での肩身が狭くなる。

 今では特研の存在自体を疑問視する声もあるが、ビッグリングの司令のフリットが庇い、連邦政府や軍上層部も弱みを握られている為、何とか存続していると言う状況だ。

 その為、余り問題を起こし過ぎるとフリットでも庇い切れなくなり、上層部も何かしらの手段を講じて特研が解散になる危険もある。

 だが、当のクライドは周りの評価など全く気にすること無く、好き勝手にMS開発を行っている。

 実質的に特研はクライドが私物化して、クライドのやりたい研究や作りたいMSや武器を最優先とし、興味の無い研究には殆ど予算も人員も殆ど回していない。

 その上自分は研究所に引きこもり面倒なことは全てクラリッサに押し付ける。

 それが、特別技術開発研究所の日常である。

 

「さぁ? でも総司令殿の機嫌を取って来るから、片づけはよろしく」

 

 クライドはそう言い残して、所長室を出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後始末を二人に押し付けたクライドが研究所内の自室に戻っている。

 オーヴァン内でもっとの情報の漏えいの確立が低いのがクライドの自室となっている。

 

「久しぶりだな。フリット」

 

 自室で通信を受けると、モニターにフリットの姿が映される。

 フリットも25年の時であの時は少年だったが、今では大人へと成長している。

 そのフリットも今では地球連邦軍の総司令部『ビッグリング』の司令となっている。

 

「それよりも、兄さん……ツヴァイは本当に実戦投入しないつもりなのか?」

 

 久しぶりに話す兄にフリットは行き成り本題に入り、クライドは内心苦笑いしている。

 

「ああ……あれは駄目だ。あれは使い方を間違えると世界を滅ぼしかねない」

 

 フリットの言うツヴァイとはクライドがガンダムZEROをベースに開発した新型のガンダムだ。

 だが、クライドが蝙蝠退治戦役時に受け継いだ過去の戦争時の兵器のデータをかなり流用して作ったため、今でも破格の性能を持つだけでなく、使い方次第では冗談を抜きに世界を滅ぼしかねない力を持っている。

 

「フリット……俺はお前がヴェイガンを殲滅しようとどうでも良い。けどな、それは戦争でやれ……戦争と虐殺は違う。ツヴァイはな……使い方を間違えれば虐殺で済めば儲けもんだ」

 

 フリットはヴェイガンの殲滅を戦争の最終的な目標にしている。

 クライドもそれを否定するつもりはない。

 下手に情けをかけて戦争を泥沼にするくらいなら、情けも容赦もなく敵を全て殲滅した方が遺恨も残らず結果として戦争の犠牲者も減る。

 フリットも連邦軍の総司令部の司令官と言う立ち場である為、甘い考えでは結果として多くの犠牲を出しかねない。

 だが、クライドの開発した新型のガンダムは敵だけじゃない、味方すらも殺す危険なガンダムだ。

 それを実戦投入することはクライドの技術者としてのプライドと矜持が許さない。 

 

「だが……兄さんも知っての通り、戦局はヴェイガンに傾きつつある」

 

 クライドも世界の情勢に興味はないが、最低限の情勢は知っている。

 戦局がヴェイガンに傾きつつあることも無論知っている。

 

「知ってるさ、アデルが配備されればある程度は持ちなおせる。あれは量産機にしてはなかなかのMSだからな」

「兄さんのRGシリーズには叶わないけどね」

 

 フリットの言うRGシリーズとはRefineGundamシリーズの略称である。

 アデルがガンダムAGE-1の量産機ならRGシリーズはガンダムZEROの量産機だ。

 ガンダムZEROのノーマルを除く4種のアーマーをベースとして製造されている。

 

「アレが量産前提なんてのは建前だからな……量産時のコストは度外視しているから高性能なのは当然だ」

 

 RGシリーズは開発時には次期主力MSとして上層部に提出しているが、実際は量産など考えてはいない。

 その為、個々の性能はベースとなったアーマーの特性に片寄っているが、総合的な性能は非常に高い。

 すでにRGシリーズは数年前に全機ロールアウトしているが、今でも実戦テスト中を理由に量産の目処は全く建てていない。

 

「それにツヴァイは駄目だが、ドライの製造は順調だ」

 

 クライドはツヴァイの失敗からすでに新たなガンダムの製造に取りかかっている。

 今度はツヴァイの様な失敗も無く、新型ガンダムの製造は順調に進んでいる。

 

「αの製造は少し遅れているが、問題はない。βは殆ど完成している。βに搭載する新型の動力炉も完成しているしな。γはいろいろと詰め過ぎたせいで設計の段階だ。それで、例の計画にはβとαを使うつもりだ」

「例の計画か……」

 

 例の計画とはクライドが現在極秘裏で進めている作戦である事はフリットも予想が付く。

 その作戦は総司令のフリットですら、必要最低限の概要しか聞かされていない。

 

「本当に信用出来るのか?」

 

 その計画の要はクライドが外部から用意した協力者だ。

 その協力者が裏切れば作戦は失敗するどころか、連邦軍に打撃を与えかねない。

 

「まぁ、心配ないだろ。裏切った時はそれ相応の対応をすれば良い。γはその時の保険も兼ねてるしな……そこは俺を信用してくれとしか言えない」

「分かった。それは兄さんに任せる。だが……作戦の開始場所はトルディア以外では出来ないのか?」

 

 フリットのもう一つの不安要素はその作戦はコロニー『トルディア』で開始されると言うところだ。

 トルディアにはフリットの家族が住んでいる。

 今は平和なコロニーだが、その作戦次第では戦場になる可能性が高い。

 

「出来なくもないが、状況的にトルディアが一番やり易い。計画を始めるにはどうしてもヴェイガンを利用しないといけないからな。それ

 

にヴェイガンがトルディアのアレを狙っていると言う情報も入っている」

「まさか……情報の秘匿は完璧な筈だ」

「世の中に完璧なんて物はないさ、人間が関わっている限りはね。それで今回はそれを逆に利用する」

 

 クライドの方にはトルディアに隠されているある物をヴェイガンが狙っていると言う情報が来ている。

 今回の計画ではそれを利用して計画を始めようとしている。

 

「最悪の事を考えて置いて、アレをアセムに渡しておいた方が良いんじゃないか?」

「だが、まだアセムは子供だ。学校でMSを弄っていると言っても所詮は学生レベル。士官学校で学ぶ前に実戦は危険過ぎる」

 

 作戦を立案する際には敵には一切の容赦も情けもかけない総司令も当然の事ながら、まだ学生である息子を戦争に巻き込むのは抵抗があるらしい。

 

「子供って言ってももうすぐ17だろ? うちのユーリアもエリアルドもそのくらいの歳には軍人になるって言って高校を出てすぐに軍人になっているしアセムと同い年のマリィも軍で技術関係に行くって決めてる。子供は俺達が思っている以上に成長してるって事だ。それに戦いに巻き込まれるかどうかは別にして、アレを早いところアセムに渡した方が良いのは事実だ。力が必要になった時に力がない悔しさは俺達は良く知っている」

 

 フリットも完全に納得がいかないが、力が足りずに何かを失う気持ちは痛い程理解も出来る。

 

「それにアレの力をどう使うかはアセムが決める事だ。アセムだっていつまでも守られているだけの子供じゃないんだ。俺達が出来る事は新しい世代を信じて託す事くらいだよ。フリット」

「そうだな……兄さんがトルディアで計画を始動させる以上、アセムにAGEデバイスを託すのが最善の選択か……」

 

 フリットもクライドが止まらない以上はそうするしかないと判断する。

 クライドがやろうとしている事を絶対にやめない以上、アセムにAGEデバイスを託す他ない。

 

「後は俺の方でやっておくから、フリットは今まで通りに仕事をすれば良い」

「そうさせて貰うよ」

 

 只でさえ、戦局はヴェイガンに傾きつつあると言うのに総司令が全貌も聞かされていない非公式の作戦にかかりきりになる訳にも行かな

 

い。

 多少の不安はあるが、クライドに任せておいた方が良いとフリットは判断せざる負えない。

 

「そんじゃ、必要な物があればこちらから連絡する」

 

 クライドはそう言って、通信を閉じる。

 

「……この作戦が始まったら、後戻りは出来なくなるな……」

 

 クライドの計画は戦況を変える可能性もあるが、下手をすると最悪連邦とヴェイガンの両方を敵に回す可能性もあり得る。

 その為、失敗は身の破滅を意味している。

 

「後はお前次第か……」

 

 クライドは自室の机に置かれている写真を見る。

 そこにはユーリアの高校の入学式の写真が飾られている。

 その写真にはかつて、クライドとエリーゼの通っていた学校の制服を着ているユーリアが映されている。

 心なしか、以前の様な無表情ではなく、少し表情が柔らかくなった様に見える。

 他にもクライドとエリーゼ、そして、幼い少年、エリアルドとエリーゼに抱かれている赤ん坊のマリィが映されている。

 この計画に置いて、クライドは状況を作るだけで、それ以外は傍観しか出来ない。

 

「さて……世界がどう動くのか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ゼハート・ガレット入ります」

 

 ヴェイガンの移動要塞『ダウネス』の指令室に長い銀髪の美少年、ゼハートがコールドスリープから目覚めて指令室に呼び出されていた。

 そこにはダウネスの司令官で地球方面軍の司令官も任されているマリアン・イーヴィルが出迎える。

 その脇には彼女の補佐兼、Xラウンダー部隊の一つを指揮しているエルピディオ・レグレンツィが直立している。

 

「来たかゼハート・ガレット」

「私に用があるとか?」

「そうだ。貴官に任務を任せたい」

「任務ですか?」

 

 自分をコールドスリープから目覚めさせた以上、何かしらの任務があると言うところまではゼハートの予想の範囲内だ。

 問題はその任務と言う事になる。

 Xラウンダーである自分を目覚めさせて司令官が直々に言い渡す以上、重要な任務である事は間違いはない。

 

「貴様にはあるコロニーに潜入して貰う」

 

 マリアンの脇に立っていたエルピディオがそう言う。

 その物言いには明らかにゼハートを見下している様に見える。

 ヴェイガンに置いてXラウンダーは特権を与えられている。

 同じXラウンダーとして司令官の補佐を任されている自分とわざわざコールドスリープから目覚めさせられて潜入任務を与えられるゼハートを比べて優越感に浸っているのだろう。

 

「コロニーにですか?」

「潜入先はコロニー『トルディア』だ」

「そこに何があるのですか?」

「ガンダムだ」

 

 ガンダム……その名前はゼハートも知っている。

 彼にとっても少なからず因縁のあるMSの名前だからだ。

 

「ガンダムですか……」

「25年前に私の兄、ブラッド……そして、貴官の兄、デシルを破ったMSだ。そして、我々はトルディアにフリット・アスノが作ったガンダムが隠されていると言う情報を得た。貴官にはトルディアに潜入しガンダムの鹵獲、それが叶わぬなら破壊の任務を命じる」

 

 ゼハートは自分の任務が予想以上に重い事を知らされる。

 ガンダムは25年前に優勢だったヴェイガンに大打撃を与えたきっかけとなったMSだ。

 二機のガンダムの内、クライド・アスノの作ったガンダムはヴェイガンでは差ほど脅威とは認識されていない。

 機体性能はヴェイガンのMSを圧倒するだけの物を持っている。

 ヴェイガン内のXラウンダーの中でも最強クラスの能力を持っていたブラッドを降したガンダムZEROの強さは機体性能だけでなく、機体を熟知しそれを活かせ、ブラッドに匹敵するXラウンダーのクライドがパイロットだったからだ。

 だが、唯一ガンダムZEROを乗りこなす事が出来たクライドも今では負傷によりパイロットを引退して後方に下がっている。

 そして、現在の連邦軍のXラウンダーで最も高い能力を持っているのがクライドの義理の娘のユーリア・アスノだが、彼女の能力も平均値よりは高いがクライドには一歩劣る。

 その為、ガンダムZEROは戦場に出て来てもヴェイガンの戦力なら十分に対処出来ると断定されている。

 それに対してフリット・アスノの作ったガンダムAGE-1はヴェイガンにとっては脅威になりうる。

 自己進化をするガンダムAGE-1に搭載しているAGEシステムはMS開発で優位に立っているヴェイガンでも製造する事が出来ないとされている。

 それ故に今の内に叩いて置かなければ、いずれはガンダムの進化に対応出来なくなった時にヴェイガンは敗北が濃厚となる。

 

「貴官の搭乗機としてゼダスRを用意してある。ドラドも数機の使用を許可する」

「了解しました」

「貴官の働きによってはヴェイガンの未来を左右することを忘れるなよ」

「ハッ!」

 

 ゼハートは任務を言い渡されると、任務を遂行すべく準備を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とか間に合いそうだな……」

 

 エリアルド・アスノは時計を見ながらそう言う。

 軍に勤めている彼は新しく配備されたMSの試乗に付き合わされていた。

 今日は彼の従兄妹に当たるアセムの17歳の誕生日でなるべく早く帰宅したかったが、どうしてもと頼みこむ同僚の頼みを断り切れずに結局、試乗の相手を引き受けてしまった。

 相手もその事を知っていたため、早めに切り上げさせて貰ったが予定よりも遅くなった事は確かだ。

 エリアルドは少し急ぎつつ速足で歩いていると不意に何かを感じて足を止めてしまう。

 エリアルドは辺りを見渡すと、ある物が目に留まる。

 その先には腰まで伸びた長い金髪に透き通るように白い肌の美人と一言で済ますには勿体ない様な美人が立っている。

 その美人は何やら地図らしき物を持っており、辺りを見回している。

 エリアルドは思わず、立ち止まると彼女に見入ってしまう。

 

「……何か?」

 

 少しの間、彼女に見入ってしまっていると、その彼女を視線が合う。

 向こうもエリアルドと視線が合うとそう尋ねる。

 突然の事でエリアルドは激しく動揺する。

 

「えっと……何か困った事でもあったんですか?」

 

 エリアルドはとっさにそう切り返す。

 地図を見て辺りを見回していたと言う事は道に迷っている可能性が高い。

 

「良かったら……俺が相談に乗りますよ。あっ……俺、軍人なので、安心して下さい!」

 

 エリアルドはそう言うが、行き成りそう言いだすのは明らかにナンパ目的に思われそうだったので、自分が軍人である事を明かすが、だ

 

からと言ってそれが直接安心することに繋がらない事に気づくがすでに遅い。

 だが、彼女は一瞬、呆気にとられるもクスりと笑う。

 

「そうね……お願いしようかしら?」

 

 そう言われた事でエリアルドは内心ほっとする。

 

「君はこのコロニーは初めてなのかい?」

 

 道中、エリアルドは何か話題をと思うが、余り女性と合う様な話題など見つかる訳もなく無難な話題を切り出す。

 

「ええ……そうよ。仕事の関係でね」

「そうなんだ」

 

 彼女はそう言い、話題は終わる。

 エリアルドは外面は冷静さを装いながらも必死に次の話題を下がすが、地図に書かれている目的地は以外と近くだったため、すぐに付いてしまう。

 

「地図の場所はここだね」

 

 その場所はトルディアでは一般的なマンションだ。

 

「その様ね。案内してくれてありがとう。助かったわ」

「ああ……そうだ。これ、俺の連絡先……何か、困った事があったら、連絡してくれ」

 

 エリアルドは連絡先を渡すが、出してすぐにこれでは親切を装ったナンパと何も変わらない事に気がつく。

 

「えっと……俺は軍人だから、市民の困った事を解決することも仕事の内だからさ……」

 

 そもまで言うが、実際はそこまでは軍の仕事でない。

 焦り墓穴を掘りまくりのエリアルドに彼女は余り気にした様子はない。

 

「そうさせて貰うわね……ええっと……」

 

 そこで初めてお互いの名前すら知らない事に気がついた。

 

「俺……エリアルド……エリアルド・アスノ。君は?」

「私はファムよ。よろしく。エリアルド……で良いかしら?」

「構わないよ。俺もファムって呼んでも?」

「ええ。良いわ」

 

 エリアルドは名前で呼ぶ事が許可され、内心でガッツポーズを決める。

 

「これは私の連絡先、暫くトルディアにはいる筈だから、たまに連絡してね」

「分かった」

 

 お互いの連絡先を交換し合い、エリアルドは用事もあるため、その場は解散となる。

 

「彼がエリアルド・アスノね……人は良さそうだけど、あの人の見込み通りかは分からないわね」

 

 エリアルドを見送ったファムはそう言いながら、マンションに入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅っそい!」

 

 ファムと別れて帰宅した、エリアルドへの第一声が妹のマリィからの罵声だった。

 

「余り怒鳴らないのエリアルドにだって、いろいろとあるのよ」

 

 それを宥めたのがエリアルドの叔母のエミリーだ。

 エリアルドは学生時代からクライドとエリーゼが家を開けがちな為、弟夫婦の家に預けられている。

 高校を出た後は軍人となり、殆どを軍の基地で過ごしているが、たまに夕食を食べに帰って来る。

 

「いろいろって何よ? 女とか?」

 

 マリィがそう言うとあながち間違いではないため、エリアルドは一瞬ドキリとする。

 そして、それをマリィが見逃す訳もない。

 

「え……まさか、本当に彼女なの!」

 

 兄の予想外の反応に流石にマリィも驚く。

 マリィの知る限り、エリアルドに彼女が出来た事など一度もない。

 

「エリアルドお兄ちゃんに彼女が出来たの!」

 

 マリィの大声に反応して来たのはエリアルドの従兄妹のユノアだ。

 

「ねぇねぇ。エリアルドお兄ちゃんの彼女ってどんな人?」

「お兄ちゃんって異性経験がないから騙されてるんじゃないの?」

 

 浮いた話の無かったエリアルドに彼女疑惑が浮き上がり、マリィとユノアに玄関で問い詰められる事になるが、それを見ているエミリー

 

もある程度は興味があるのか、止める気配はない。

 

「何やってんだよ。兄さんが帰って来たんだろ?」

 

 エリアルドの助けに入ったのは玄関で騒ぎになり、収まる気配がなかったため様子を見に来ていたアセムだ。

 エリアルドはアセムの介入で話が途切れた事を幸いとし、さっさと上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリアルドが帰宅することで全員が揃い、夕食が始まっている。

 

「でも珍しいよね。父さんが帰って来られるなんてね」

 

 アセムは珍しく家に帰宅しているフリットにそう言う。

 ビッグリングの司令官であるフリットが家に帰って来る自体が最近では殆ど無い。

 その為、自分の誕生日に合わせて帰宅してくれた事がアセムには嬉しかった。

 

「フリットは今や、連邦軍の司令官じゃ。軍をほっぽって家族サービスとはいかんじゃろ」

「うちのパパはそんな事は全然だけどね」

 

 息子の誕生日に帰って来るフリットに対して、最近では研究所に籠り殆ど帰って来ないクライドにマリィは不満を漏らす。

 

「仕方がないだろ。父さんは技術で戦いを支えてるんだ。技術者を目指すマリィなら、その重要性を知らない訳はないだろう」

 

 半ば冗談で父を避難するも、エリアルドは真面目に返し、マリィはバツの悪そうにする。

 

「分かってるって……お兄ちゃんは冗談が通じないなぁ……」

 

 マリィは真面目過ぎる兄にぼそっとそう言う。

 

「アセムは17だったな……」

 

 フリットはそう言いながら、AGEデバイスをテーブルの上に置く。

 

「これは?」

「アセム……お前やる。アスノの家に伝わる大切な物だ」

 

 AGEデバイスは代々、アスノ家が受け継いで来た物だ。

 本来はクライドが受け継ぐ筈だった物をいろいろ合ってフリットが受け継いでいた。

 それを今度は息子のアセムに託そうとしている。

 

「アスノ家に伝わる……」

 

 アセムはそのAGEデバイスを手に取る。

 アスノ家が昔は有名なMS鍛冶の家系で合った事はアセムは聞いてはいるが、イマイチ実感を持ってないが、手に取ったAGEデバイスが何処

 

となく重く感じる。

 

「アセムが受け取らなくてはならない……そろそろ良いだろう」

 

 その本当の意味を知るエミリーとバルガスは少し暗くなる。

 

「何なの? これ?」

「今に分かる……お前やお前の大切な物を守ってくれる物だ。どんな時でも肌に離さずに持っているんだ」

「父さん……ありがとう! 大切にする」

 

 父の言っている事はまだ、良く分からないがただ、このAGEデバイスがアスノ家にとって大切な物である事は分かった。

 それを譲り受けたと言う事はフリットに少しでも認めて貰えたのだとアセムは素直に喜ぶ。

 

「良いか……何かがあった時はお前がみんなを守るんだ。それがアスノ家を継ぐ者の務めだ。分かるな?」

「うん……」

 

 その時のアセムは軍人で殆ど家にいないエリアルドがいない時に唯一の男手の自分が家族を守ると言う程度にしか思って無かかった。

 

「それよりもさ、来週MSコンテストをやるんだよ。お兄ちゃん達も2連覇を目指してるの。お父さんも一緒に行こうよ」

 

 話は唐突に別の事に変わる。

 MSコンテストはアセムやマリィが高校で所属しているMSクラブが出場する大会だ。

 以前にはエリアルドも所属していた。

 エリアルドが所属していた時は大会を3連覇をする快挙を成し遂げたが、卒業後の数年は目立った成績も無かったが、アセムやマリィの世代では再び好成績を残している。

 

「すまんな……休暇は1日だけだ。また、明日から出る」

 

 MSコンテストの大会にフリットが身に来てくれない事を知るとアセムは落胆する。

 少しだけフリットに認めて貰えたが大会に来てくれないと言うのは少しさびしい物がある。

 

「俺はその日は休暇を貰えるから、後輩の活躍を見させて貰うよ」

 

 エリアルドがアセムを気遣ってそう言うが、アセムの気は晴れる事はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、どうだったんだよ? 例の物はアセムに渡したのか?」

 

 翌日、トルディア基地でエリアルドはアルベルトからそう言われる。

 アルベルトはエリアルドとは軍に入り前からの付き合いがある。

 その為、アセムとも顔なじみだ。

 

「渡すかよ。あんな物」

 

 エリアルドの言うあんな物とは昨日、アルベルトがアセムの誕生日に渡してくれと頼まれた物だ。

 だが、アルベルトが用意した事に一抹の不安を覚えたエリアルドは一応中身を確認すると案の定、いかがわしい本が数冊だった。

 

「あんなもんって酷いな。アセムも17だろ? ああ言う本に興味を持ち始める歳ごろだって」

「だからってな……」

 

 だからと言って誕生日にエロ本を送る事はどうなのかと言いかけるが、コロニー全体に警報が鳴り響く。

 

「警報?」

「行くぞ。アルベルト」

 

 これだけの規模の警報だと言う事は自体は急を要していると言う事だ。

 エリアルドとアルベルトは話を中断して、自分のMSの元に向かう。

 

「指令、状況は?」

 

 エリアルドは自分のMSに乗り込んで基地の司令部に連絡を取る。

 エリアルドの乗っているMSはかつて蝙蝠退治戦役時にウルフ・エニアクルが乗っていたGエグゼスだ。

 Gエグゼスは当時でも高性能を誇り今でも十分に現役で使う事が出来る。

 ウルフが新しいMSを受領したため、使わなくなってたGエグゼスをクライド経由で面識のあったエリアルドの入隊祝いも兼ねて譲渡されて

 

いる。

 装甲や内部のパーツは最新の物を使われているが、武装はビームライフルからドッズライフルに変更された以外には変更がされていない

 

 そして、今や、トルディア基地の名実ともにエースパイロットのエリアルドの愛機となっていた。

 

「コロニー内部にヴェイガンのMSが何機か入られた。エリアルドはアルベルトを連れてすぐに迎撃に出てくれ。先遣隊はすでに全滅している」

 

 基地司令のアルフレッドがそう言う。

 パラダイスロスト解散後にアルフレッドもクライド同様に軍人となり、今ではトルディア基地の司令に付いている。

 

「了解しました。聞いてたな? アルベルト」

「聞いてたよ。親父も人使いが荒いな……アデルは昨日配備されたばかりだぜ?」

 

 アルベルトは父親でもあるアルフレッドに愚痴をこぼす。

 アルベルトの搭乗機はアデルだ。

 少し前にテストを終えて正式に配備されているが、配備は前線を優先されているがその内の一機をアルフレッドのコネでトルディアにも配備されてそれをアルベルトが搭乗している。

 

「文句はヴェイガンに行ってくれ」

「そりゃそうだ」

「Gエグゼス、エリアルド・アスノ……行きます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、コロニー内部にまで……」

 

 エリアルドとアルフレッドはヴェイガンの新型量産機ドラドを発見し交戦に入る。

 なぜ、ヴェイガンのMSがトルディアの警戒宙域に入り込むだけでなく、コロニー内部にまで入り込むまで気づかなかったのかと言う疑問はあるが、今は考えている暇はない。

 

「おいおい……新型かよ……」

「訓練通りにやれば良い」

 

 エリアルドはそう言ってドラドに向かっていく。

 トルディアは戦場になった事はなく、当然トルディア基地所属の二人はまともに実戦経験はない。

 

「それが出来れば苦労はねぇよ!」

 

 アルベルトも文句を言いつつも敵は待ってはくれない。

 三機のドラドの内一機が、アルベルトのアデルにビームバルカンを放つ。

 

「いきなりかよ!」

 

 アデルはシールドを構えて攻撃を防ぎつつ、ドッズライフルで反撃する。

 ドラドはドッズライフルを回避しながら、ビームサーベルを展開して接近する。

 

「こっちだって新型なんだよ!」

 

 ドラドはアデルのビームをかわして、接近するとビームサーベルを振るう。

 アデルは後方に引いてドッズライフルを連射する。

 ドラドは高く飛び上がり、ビームを回避して効果の勢いを利用して遅いかかるがエリアルドのGエグゼスのドッズライフルで撃ち抜かれる。

 

「助かった! エリアルド!」

「まだ、二機いる! 油断するな」

 

 Gエグゼスはビームバルカンを連射するドラドに攻撃をシールドで防ぎながら、接近してビームサーベルを抜いてドラドを切り裂く。

 二機目を撃墜すると、ビームサーベルを展開したドラドがビームサーベルを振り下ろす。

 Gエグゼスはドラドの一撃をビームサーベルで受け止める。

 ドラドはもう片方のビームサーベルを振るうが、Gエグゼスは高く飛んで攻撃をかわす。

 そして、ドラドの攻撃が空ぶりに終わるとGエグゼスの後方から突っ込んでいたアデルがビームサーベルをドラドに突き刺した。

 

「これで終わりか?」

「だが……敵の狙いは……」

 

 敵を全滅させたが、敵の狙いがイマイチ分からない。

 トルディアは戦略的に需要な拠点とは言えない。

 精々、ビッグリングの司令官のフリットの自宅があるくらいだ。

 そこが狙いなら、フリットが帰宅していた昨日を狙った方が良い。

 流石にフリットの滞在日を間違えたなどとは考え難い。

 

「アスノ中尉、居住区の方にもヴェイガンのMSが三機入り込んでいます。至急向かって下さい。派遣したMS隊も持ちません!」

「こっちは陽動か!」

「どうすんの? 俺達の位置から距離は結構あるぜ?」

「決まっている。すぐに向かう!」

 

 Gエグゼスはスラスターを全開にして居住区の方へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でこんな……」

 

 アセムはバイクを走らせながら、戦場となるトルディアを見て呟く。

 後ろには途中で拾った同級生のロマリーも乗っている。

 今日もいつもと同じ一日の筈だった。

 変わった事と言えばクラスに転校生が来たくらいで、授業を終えた後にMSクラブで来週に迫っている大会の為にMSを弄っていた。

 マリィが学校をサボってクラブに顔を出さないのもいつもの事で特に誰も気にも留めてはいない。

 だが、緊急避難警報と共にヴェイガンのMSがトルディアに入り込んでトルディアが戦場になってしまった。

 その上、家族とも連絡が取れず、アセムは家に向かって急いでいる。

 

「みんなは……」

「アセム! こっちじゃ!」

 

 家に戻るとすぐに家族の安否を確認しようとするが、バルガスが馬小屋から出て来てアセムを呼ぶ。

 

「バルガス! ユノア達は!」

 

 一先ず、バルガスの無事を確認するがその他の家族の安否が分からない以上、安心は出来ない。

 

「心配いらん! エミリーと一緒に屋敷の地下に避難しとる」

 

 アセムはロマリーに肩を貸して、馬小屋まで歩く

 

「何! 外が騒がしいけど! なんかあったの?」

「マリィ? 何でこんなところに?」

 

 家族の中で唯一、安否の分からなかったマリィの声が馬小屋の中から聞こえて来る。

 馬小屋とマリィの組み合わせに疑問を持ちながらもアセムはロマリーを連れて馬小屋の中に入る。

 

「緊急時じゃと言っただろう!」

「知らないって」

 

 マリィはトルディアの状態が分かっていないのかいつもと変わらない。

 歳相応の色気とは無縁の作業着に体中や短く切り揃えているが手入れなどを殆どしていない父親譲りの茶髪にも大量に付いていたり、メガネもずれているが、本人は気にした様子はない。

 

「これって……まさか……」

「見て分かんない? ガンダムよ。ガンダム」

 

 馬小屋の藁に隠れていたのはかつて蝙蝠退治戦役で多大な戦果を上げたガンダムAGE-1だった。

 製造されたのは25年も前だが、いざと言う時に改良されている為、見た目は当時のままだが性能は格段に向上している。

 

「父さんが作ったガンダム……」

「フリットはこのコロニーにガンダムを隠しておいたのじゃ。コロニーを守るためにな」

「これで戦えって事?」

「それはお前次第じゃ」

 

 最後に決めるのはアセム自身だ。

 その為にフリットはAGEデバイスをアセムに託したのだから。

 アセムは父が残したガンダムを見ながら道中の様子を思い出す。 

 昨日までは戦場とは無縁の平和なコロニーだった。

 そのコロニーを一瞬の内にヴェイガンは戦場に変えてしまった。

 今もコロニー内での戦闘は続いている。

 かつては父の故郷のオーヴァンや両親が育ったノーラもヴェイガンの襲撃で壊滅している。

 このトルディアも同じ事になるかも知れない。

 そう考えたら、アセムのやることは決まっていた。

 

「やるよ……俺」

 

 アセムは戦う道を選んだ。

 ヴェイガンからトルディアを守るためにと

 アセムが決意すると、ガンダムAGE-1に乗り込む。

 

「でも、これを動かすと馬小屋が壊れるんじゃない?」

「その心配はないんだよね」

 

 マリィがそう言うと馬小屋の天井が開いて行く。

 

「こんな事もあろうかと、馬小屋は改造済みなんだよね!」

 

 マリィはしたり顔でアセムにそう言う。

 マリィは技術者として一度は言って見たかったセリフである「こんなこともあろうかと」と言えて非常に満足げだ。

 

「AGEデバイスがキーじゃ」

「これが……」

 

 アセムは昨日の誕生日にフリットから譲りうけたAGEデバイスを取り出す。

 フリットに言われていた通りにアセムはきちんと持っていた。

 もしも、言われた通りに持っていなかったら、今頃はガンダムを動かす事が出来なかっただろう。

 

「MSの基本操作は覚えている……やれるさ……」

 

 アセムは自分に言い聞かせるように呟く。

 ガンダムで戦うと決めたが、アセムは実戦経験もなく本物のMSでの戦闘は初めてだ。

 アセムはAGEデバイスをコンソールに差し込んでガンダムAGE-1を起動させる。

 

「メインモニター点灯、パワーユニット異常なし、AGEシステム起動……さぁ……立て! ガンダム!」

 

 ガンダムAGE-1の全システムが異常なく起動し、ガンダムAGE-1は再び戦場に赴く為に立ちあがった。

 

「気を付けるんじゃよ」

「私が弄ったガンダムを傷物にしたらただじゃおかないからね!」 

 

 アセムはガンダムAGE-1を動かして戦場へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アセムが戦場に到着すると、すでに交戦していたMS隊は全滅していた。

 

「連邦軍はやられたのか……」

 

 辺りには破壊されたシャルドール改の残骸や中破し、戦闘は出来ないジェノアスⅡが転がっている。

 

「俺がやるんだ……俺がみんなを守るんだ!」

 

 ガンダムAGE-1はビームサーベルを抜いて二機のドラドに向かう。

 ガンダムAGE-1は勢いを付けてドラドに切りかかるが、ドラドは回避してガンダムAGE-1は勢い余り転倒してしまう。

 

「くそ! 絶対に倒す!」

 

 ガンダムAGE-1はすぐに立ちあがるともう一本のビームサーベルも抜いて二本のビームサーベルを構える。

 ガンダムAGE-1は二本のビームサーベルを使いドラドと戦うとするもドラドは二機である事と運動性能を上手く使いガンダムAGE-1を翻弄に遂にはうつ伏せに倒される。

 ドラドはビームサーベルで止めを刺そうとするも、ガンダムAGE-1は勢い良く両腕で胴体を持ちあげて機体の後頭部をドラドにぶつけてその隙に立ちあがり距離を取ってビームサーベルを構える。

 

「ハァハァ……落ち着け……落ち着け……アセム」

 

 アセムが自分を落ち着かせて勝機を探しているとドラドはビームサーベルを展開して突っ込んでくる。

 ガンダムAGE-1はビームサーベルを逆手に持ってビームサーベルを受け止める。

 

「いっけぇ!」

 

 そして、もう片方のビームサーベルも逆手に持ってドラドを切り付ける。

 ドラドは腕の電磁装甲で防ぐが、勢いが強く尻もちを付く。

 ガンダムAGE-1がドラドに止めを刺そうとするも、もう一機のドラドがガンダムAGE-1にタックルして防ぐ。

 ガンダムAGE-1はドラドのタックルで弾き飛ばされるが、倒さそうになったところをスラスターをフルに使う。

 それによって土煙が起こり、ドラドの視界を奪う。

 ガンダムAGE-1は片方のビームライフルをドラドに投げつける。

 ドラドはそれを叩き落とすが、ガンダムAGE-1はその隙に接近して、残りのビームサーベルでドラドの腕を切り落とす。

 ドラドの腕を切り落とすとそのままドラドの頭部にビームサーベルを突き刺してドラドを破壊した。

 アセムは何とかドラドを一機撃墜するが、ドラドはもう一機残っている。

 だが、すでにガンダムAGE-1は装備していた二本のビームサーベルを失っている為、武器は残されていない。

 残っていたドラドはガンダムAGE-1に襲いかかろうとするが、中破していたジェノアスⅡがドラドの足を掴んでいた。

 それにより、ドラドの出だしが一歩遅れた。

 その隙が決定的となり、ガンダムAGE-1は先ほど倒したドラドの切り落とした腕を掴んだ。

 その腕には未だにビームサーベルが形勢している為、それをとっさに使おうをしている。

 

「後一機!」

 

 ガンダムAGE-1は掴んでいたドラドの腕のビームサーベルで最後のドラドを両断して破壊する。

 

「ハァハァ……やった……勝ったのか?」

 

 アセムは息を乱しながらも周囲に敵がいないため、ようやく一息をついた。

 だが、その戦闘の一部始終を遠くからゼハート・ガレットが監視していた。

 ゼハートは偶然にもアセムのクラスに転校生として潜入していた。

 そして、その後にトルディアに5機のドラドを侵入させて、トルディアに隠されているであろうガンダムを炙りだした。

 

「2機のドラドがやられるだと……アレがガンダムの性能か……」

 

 決してガンダムの性能を侮っていた訳ではない。

 だが、襲撃はかつてのガンダムのパイロットだったフリット・アスノがトルディアを離れてから襲撃を決行している為、今乗っているのはフリットではない事は確かだ。

 フリットがXラウンダーである事はヴェイガンでも調べが付いている。

 だからこそ、フリットのいない時を狙った。

 ガンダムAGE-1は25年も前に作られたMSだが、ヴェイガンの主力MSのドラドが2機掛かりでも仕留める事が出来なかった。

 ゼハートがガンダムの戦闘を分析していると、周囲に霧が発生する。

 

「この霧は……」

 

 その霧はガンダムAGE-1を覆い隠していくため、すぐにガンダムの機影を見失う。

 

「こちらゼハート……ターゲットが視界から消えた」

 

 ゼハートはガンダムAGE-1の姿が完全に消えるとその場から立ち去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう言う事だ?」

 

 エリアルドが報告のあった場所に付いた頃にはすでに戦闘が終わっていた。

 周囲にドラドの残骸がある事からドラドは破壊されたと言う事になる。

 

「一体、何があった?」

 

 エリアルドは倒れているジェノアスⅡに通信を繋ぐ。

 

「アスノ中尉ですか……分かりません。白いMSがヴェイガンと交戦していましたので……てっきりアスノ中尉かと思いまして、援護はした

 

んですが……」

 

 ジェノアスⅡのパイロットは機体のメインカメラが破壊されていたため、周囲の状況が良く分かっていなかったが、サブカメラからの映像でガンダムAGE-1とエリアルドのGエグゼスを誤認して援護したらしい。

 

「エリアルド! もう終わってんのかよ。早すぎだっての」

 

 遅れてアルベルトのアデルも到着する。

 

「いや……」

 

 敵を全滅出来てコロニーを守り切った事は喜ぶべき事だが、所属不明のMSがコロニー内に残っているため、素直に喜ぶ事も出来ない

 

「アスノ中尉、トルディアに侵入したヴェイガンのMSの全機の排除を確認しました。一度基地に帰投して下さい」

「了解した。アルベルト、戻るぞ」

「だな……」

 

 エリアルドは中破したジェノアスⅡを回収し基地に帰投する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがガンダムAGE-1の性能ね……」

 

 コロニー内がヴェイガンの襲撃で慌ただしくなっているが、トルディア内のマンションの一室でファムはPCに移されている先ほどのアセムの戦闘を見ていた。

 その部屋の中には未だにダンボールが部屋の隅に詰まれており、必要最低限の荷物のみが開けられている。

 生活用品の前にPC類を先に設置しているようだ。

 すると、PCの脇に置いていた通信機が鳴る。

 

「私です……ええ、予想通りヴェイガンはトルディアを襲撃しました。ええ……ガンダムが撃退しました。そうですね……戦闘を見る限りではガンダムに性能に助けられたと言う面もありますが、ドラド二機を撃墜した事は事実です。それとですね……ヴェイガンがトルディア内に侵入する手際が良過ぎます。恐らくはトルディアにヴェイガンと繋がる内通者か、工作員が入り込んでいる可能性が高いが如何しますか?……分かりました。私は計画通りに市民に紛れて気を窺います。それでは次は定時にまた……」

 

 ファムは通信を追えると一息つく。

 彼女の与えられた任務は世界を動かす程の物だ。 

 失敗すれば大きな被害が世界に出るかも知れない。

 それだけの任務を与えられる事にプレッシャーも感じるが、それをこなす能力があると判断されて自分がこの役目に抜擢されている。

 

「これからが私の本当の仕事の始まりね」

 

 AG140年……ガンダムは新たな世代へと受け継がれて再び世界が大きく動きだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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