機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

35 / 155
第33話

「さて、諸君に集まって貰ったのは他でもない……」

 

 大会が終わり、夏も過ぎトルディアでは秋の季節に入っていた。

 夏も終わり過ごしやすい季節に入るとマリィは放課後にMSクラブの面々を強制招集している。

 いつもは自由参加で時間があればガレージに来ているロマリーも今日はマリィが強制連行された。

 マリィはガレージのホワイトボードの前に行ったり来たりし、腕を後ろ手に組んで無駄に偉そうな態度を取っている。

 アセムやシャーウィー達はこう言う時のマリィは決まって面倒な事を言い出す事を身を持って知っているため、今日も面倒な事を言い出すのだと確信しており、出来るだけ早く終わってくれる事を願っている。

 ロマリーとゼハートは初めての事なので、何が起こるのか健闘も付かないため、マリィの次の言葉を待っている。

 そして、十分に勿体を付けたマリィはホワイトボードにやたら大きなリアクションで文字を書き始める。

 リアクションは大きいがホワイトボードには「文化祭」としか書かれていない。

 

「文化祭?」

「そうよ! 来週我が校は2日間の文化祭が行われるのよ!」

 

 マリィはそう言うが、今更そんな事を宣言されずとも皆も分かっている。

 アセム達の学校は毎年、この時期に2日間の文化祭が行われている。

 1日目は生徒と生徒が招待した人限定で行われて2日目は一般の住人にも参加することが出来る。

 コロニーの中と言う事で娯楽が少ないため、毎年2日目はMSバトルコンテスト以上大盛況となる。

 その文化祭が来週に迫っている事もあり、学校では毎日のように生徒が放課後も残り作業をしている姿は学校のあちらこちらで身受けられる。

 それは数カ月前に転校して来たゼハートでも把握している事だ。

 問題はマリィが宣言する理由だ。

 

「そんな事は分かってるけどさ。それがどうしたんだよ?」

 

 余り聞きたくはないが、先延ばしにしていても意味がないため、アセムが決死の覚悟を持って尋ねる。

 アセムが尋ねた事でマリィは待ってましたと言わんばかりに答える。

 

「決まっているわ! 私達MSクラブも文化祭に参加するのよ!」

 

 恐らくは誰かが尋ねる事を待っていたのか、マリィは高らかに宣言した。

 

「参加するって、今から?」

「それに今からじゃ学校側に提出する書類とか間に合わないんじゃないのか?」

 

 すでに来週に文化祭が迫っているため、学校側のクラスや部活が出店する物の締め切りは当に過ぎている。

 当日に無許可で行えば何らかの処罰は間逃れない。

 

「問題ないわ。すでに申請して許可は取ってあるわ」

 

 マリィは学校側の許可証を出して、見せつける。

 そこには学校側がMSクラブが模擬店を出店することを許可する旨の事がきちんと記されている。

 

「いつの間に……」

 

 興味の無い事に関しては自分からは殆ど動こうとしないマリィだが、自分のやりたい事に関しては無駄に行動力が高い。

 その辺りは政府を脅してまで、自分の城を作ったクライドの娘と言ったところだ。

 

「ここには喫茶店って書いてあるね」

「マリィは経験があるのか?」

「ないわ」

 

 自分で独断で申請をしたと言う事はある程度は経験があるのかとゼハートは考えていたが、マリィはあっさりと否定する。

 

「だったら、なぜ喫茶店なんだ?」

「それにやけに動くけど……去年は文化祭に出てすらなかっただろ?」

 

 マリィは去年、文化祭をめんどくさいの一言で2日とも参加せずにガレージでMSを弄っていた。

 アセム達もてっきり今年もめんどくさいと言って出ない気だと思っていた。

 

「まぁね。でも今年は違うわ。そもそも、私が喫茶店を出す目的はただ一つ! 今年はロマリーとゼハートがいるからよ!」

 

 マリィがそう言うと行き成り名前を呼ばれたロマリーはビクっとし、ゼハートは嫌な予感しかしない。

 

「えっと……私とゼハートがいるからって?」

「決まっているわ。ロマリーとゼハートが接客すれば馬鹿な客がわんさか入って来る。賞味期限ギリギリで安く仕入れたインスタントのまっずいコーヒーや紅茶をぼったくりな値段で出しても客は馬鹿見たいに注文するのよ」

 

 マリィはそう言いながら、その時の様子を思い浮かべて笑うが、その光景はあまりにも不気味でさながら悪だくみをしている悪代官のようだ。

 

「俺とロマリーが接客するとなぜ客が増えるんだ? 味の悪い物を出せば店の評判も悪くなり売上は上がらない筈だが?」

「甘いわね。ゼハート……ロマリーもゼハートも異性には人気がある。そんな二人がそれ相応の格好をして接客すればそれを目当ての客はわんさか来るのよ。例え、不味い物を高い値で出されてもね」

「そんな筈が……」

「あるな」

「あるよね」

 

 ゼハートはマリィの言葉を否定しようとするも、シャーウィーとマシルはロマリーのウェイトレス姿を思い浮かべるとそう呟く。

 

「でしょ? 女子もまた然り。ゼハートは知らないかも知れないけど、ゼハートは意外と女子に人気があるのよ?」

 

 マリィはさも当たり前かのように言っているが、実際はクラスの女子の話を盗み聞きしたりした情報を繋ぎ合わせた結果の判断で、マリィ自身はなぜ、ゼハートが女子に人気があるのかは分かっていないが、どうでも良かった。

 

「つまりはロマリーとゼハートの二枚看板で喫茶店を出して、がっぽがっぽと来年の為の活動資金を集めるのが今回のミッションよ」

 

 マリィがここまで動く最大の理由はそこだ。

 MSクラブは正式に学校側からも部活として認定されているため、部費は支給されている。

 去年は大会で優勝すると言う成績を残している為、部費は多少は優遇され今年も結果を出しているので部費は優遇されるだろう。

 だが、競技用とは言えMSの維持費やパーツ代は決して安くはない。

 部費で足りないのなら、足りる範囲でやりくりするか部員が自腹を切るしかない。

 その為、MSクラブで使える資金が多い方がより高質なパーツの購入も可能で来年の大会にも大きく関わって来る。

 

「そう言う事なら俺達も協力はするけど、喫茶店で出す物や場所の確保とかはどうするつもりだ?」

「場所はガレージを掃除すれば問題はないわ。寧ろ、その辺りのMSを置いておいた方がMSクラブの喫茶店って感じもするしね。その他の必要な物は全て手配済みよ。後はロマリーとゼハートが覚悟を決めるだけだけど、流石に今からプランを変える事は出来ないわよ」

 

 マリィがギリギリまで出店を伏せていたのはそのためだ。

 早く言い過ぎると修正が効くが、必要な物の手配が完了した以上今更修正を加える事は時間的に難しい。

 

「てな訳だから、二人とも良いわね?」

 

 今更、断る事も出来ずにロマリーとゼハートは頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 文化祭1日目の当日、トルディアに連邦軍の輸送艦が港に到着していた。

 輸送艦が港に接舷すると、輸送艦からはクライドが降りて来た。

 その後ろには連邦軍の軍服を着たユーリアが付いて来ている。

 蝙蝠退治戦役から25年が経ち、当時は幼い子供だったユーリアも立派な大人に成長している。

 ユーリアは戦後にクライドとエリーゼの養女となりアスノ姓になっている。

 アーヴィンの学校を卒業した後は軍の士官学校を経て連邦軍人になっている。

 幼い時は無感情だったユーリアも感情を表に出してはいないが、感情が豊かになっている様な気がする。

 銀色の髪を後ろで括っているユーリアは黙ってクライドの後に続いて輸送艦から降りる。

 

「トルディアも久しぶりだな……」

「少し前はヴェイガンの襲撃を受けた見たいだけど、復旧も終わっているみたい」

 

 ユーリアは町の活気を見てそう言う。

 すでにヴェイガンの攻撃の爪後は残っておらず、あれからヴェイガンの攻撃もなく、トルディアは以前の活気を取り戻している。

 

「今日はマリィの学校で文化祭があるらしい」

 

 クライドはそう言い、白衣のポケットに入っていたチケットをユーリアに見せる。

 そのチケットは生徒が家族や他校の生徒で1日目に招きたい相手に渡すチケットで1日目に入場するためには必須の物だ。

 

「みたいね。父さん」

「お前も行ってきたらどうだ?」

「でも、私には父さんの護衛の任務があるから」

 

 ユーリアがクライドについて来た理由はクライドの護衛だ。

 クライドもトルディアにわざわざ娘や甥の通う学校の文化祭の為にトルディアに来た訳ではない。

 特研で開発した新型機のテストの為にトルディアを訪れていた。

 数か月前にヴぇイガンの襲撃があった以上、クライドに護衛を付ける事なくトルディアに来るのは危険と判断し、ユーリアを護衛に付けた。

 

「どうせ何も起きやしないさ、それに基地にはエリアルドもいると思うしな。お前もたまにはゆっくりと休暇を取れば良い」

「でも……」

 

 ユーリアも今までずっと軍艦に乗っていたため、コロニーで休暇を取ってはいないが、流石に護衛の任務中に護衛対象を放っておいて、休暇を取る訳にも行かない。

 それ以上にユーリアをクライドの護衛に付ける理由はクライドがトルディアで面倒事を起こさないように見張る意味合いが大きい。

 

「お前のジェノバースもトルディアに搬送されてないんだし、MS戦になってもお前は役に立たんだろ?」

 

 ユーリアの専用機として運用されているジェノバースは明日に到着する予定なので、トルディアにはユーリアのMSはないため、正論に聞こえるが、襲撃=MS戦になるとは限らない。

 

「そうだけど……分かった。でも、基地までは私が護衛するから。基地に付いた後も誰かに護衛を任せるからね」

 

 クライドが一度言い出したら、何を言っても無駄である事は重々知っているため、それが最大限の譲歩だ。

 

「まぁそれで良いか」

 

 クライドもそれで納得し、二人は基地からの向かえの車でトルディア基地に向かう。

 

 

 

 

 

 トルディア基地に到着すると、まともにアルフレッドに挨拶をすることなくクライドは基地の格納庫に向かう。

 そこにはMSが置かれていない。

 本来はMSが何機か置かれていたが、クライドの指示で別の格納庫に移されている。

 只でさえ、格納庫の一つをガンダムAGE-1を隠すために使っている為、トルディア基地からすればいい迷惑である。

 すでにユーリアはクライドの護衛を引き継がせて、学園祭に向かった。

 

「そいつは繊細なんだ気を付けろよ」

 

 クライドは輸送艦でトルディアに持ち込んだ新型機を搬入に指示を出している。

 格納庫に搬入されているのは純粋なMSではなかった。

 今、運ばれているのは紫色をした戦闘機だ。

 機首に二門の小型ビームバルカンと機体上部にはビームガンが二基装備されている。

 コアファイターと名づけられた戦闘機がクライドの開発した新型機である。

 だが、コアファイターの戦力はたがが知れている為、このまま運用する訳ではない。

 コアファイター以外にもコアファイターと同じ紫色をしたパーツが格納庫に搬入されている。

 これらを合わせて一つのMSとして運用される。

 

「運び込んだらすぐに組み立てるぞ。明日には稼働テストをやるからな!」

 

 クライドに急かされてトルディア基地の技術班は組み立てを急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この格好でお客さんの前に出るの?」

 

 ロマリーはマリィが用意した衣装を着てそう言う。

 ロマリーがウエイトレスとして接客することは先週には聞かされていたが、それがメイド服とまでは聞かされていなかった。

 その為、直前に着る服を見せられて、マリィに半ば無理やり着せられると恥ずかしさが出て来る。

 

「マリィは恥ずかしくないの?」

「別に?」

 

 マリィもロマリーと同じデザインのメイド服を着ている。

 あの後、多くの客が来る事が予測されるのならば、ロマリーとゼハートの二人では二人が休む時間を取らなくても手が足りなくなる事が

 

容易に予想され、急遽マリィも接客に参加することとなった。

 

「マリィ、これで良いのか?」

 

 別の場所で着替えていたゼハートが着替えを終えて出て来る。

 ゼハートは執事服をマリィに渡されてマリィは執事服姿のゼハートを値踏みするかのように頭からつま先まで確認する。

 

「まぁ、良いんじゃない」

「適当だな」

 

 ゼハートの後からアセムも出て来る。

 アセムもまた、マリィ同様の理由で接客に駆り出された。

 シャーウィーとマシルが裏方に回る事になっている。

 

「良いじゃない。それよりも、カモの前に出た時は笑顔よ。それで大抵の事は乗り切れるから」

「アセム達は何とかなりそうだけど、マリィはどうなんだ?」

「マリィって接客向きの性格してないよね」

 

 シャーウィー達の心配は尤もだ。

 マリィは機械を弄っている時が一番良い表情をしているが、それ以外の時では相手を選ぶ。

 興味の無い相手だととことん愛想がなくなる時も少なくない。

 幾ら外見が良かろうと態度が悪ければ意味がなくなる。

 

「良いわ……見てなさい。お帰りなさいませ。ご主人様」

 

 マリィは特上の笑顔でそう言う。

 その笑顔は中身を知るシャーウィー達も危うく騙される程だ。

 

「こんなもんよ」

 

 マリィは得意げにしている。

 取り合えずはマリィも本気である為、最悪の事態は避けられそうだ。

 

「さて……馬鹿な連中をカモって活動資金を稼ぐわよ!」

 

 マリィが高らかに宣言して学園祭が開幕する。

 

 

 

 

 

 

 

 学園祭が開始され、学校は多くの人で賑わっている。

 1日目は生徒と生徒に招待された客のみだが、それでも例年通りの賑わいを見せている。

 エリアルドはアセムに頼み、二枚分のチケットを用意して貰っていた。

 マリィに頼むと後でいろいろと要求が来そうだったので、無償で貰えるであろうアセムに頼んでいた。

 そして、決死の思いでファムを学園祭に誘った。

 エリアルドは2日目は警備の任務があったため、誘えるのは1日目しかなくファムの仕事の都合もあるので確実に誘えるとは限らなかったが、年に一度の行事で来年は誘えるか分からない事もあり何度も頭の中でシミュレーションしてようやく誘う事が出来た。

 シミュレーションでは様々なパターンの受け答えを想像して連絡したが、拍子抜けな程あっさりとOKを貰う事が出来た。

 ファムの方も2日目はどうしても休むことの出来ない仕事があり1日目しか学園祭を回る時間はなかったと聞かされた時はエリアルドはこの時ばかりは神に感謝した。

 

「待たせたかしら?」

「いや……俺もさっき来たところだよ」

 

 待ち合わせの場所でエリアルドはそう言う。

 実際は一時間くらい前に来ていた。

 エリアルドは自分の性格を熟知していると自負している。

 もしも、道中でトラブルや困っている人を見つけた場合、軍人として見過ごせる筈もなく、首を突っ込む事は目に見えている。

 待ち合わせの時間よりもだいぶ早く出かけたが、時間がない時に限ってはトラブルなどを発見するが、時間がある時には何故が順調に目的地につく事が出来る。

 その為、待ち合わせの時間よりもだいぶ早く到着してしまった。

 時間が余っていたが、下手に動いてその間にファムが到着して待たせる訳にも行かないため、エリアルドは一時間近くもここで待ってい

 

た事になる。

 

「それじゃ行こうか」

 

 エリアルドは内心は出撃前や警戒体制の時よりも緊張していたが、それを表に出さないようにファムをアセム達の学校まで案内する。

 そして、学校に到着すると受付で二人分のチケットを見せて入場する。

 

「へぇ……これが学園祭ね……」

 

 ファムは辺りを珍しそうに見ている。

 その様子からエリアルドも他の学校の学園祭を余り知らないため、他も同じ様な物なのだと思っているのでファムが珍しそうにしているのが気になったが、物珍しそうにしているファムにその事を聞く必要もないと思う。

 

 「取り合えず適当に回ろうか」

 「そうね」

 

 エリアルドはファムを共に学園祭を周り始める。

 折角ファムをデートに誘えた為、エリアルドはここぞとばかりにアピールをしようとする。

 エリアルドは周っている途中で射的の店を見つけた。

 エリアルドはMSパイロットだが、白兵戦になった時を想定して毎日射撃の訓練を欠かさないため、一回で渡される弾を全て命中させた。

 エリアルド的にはファムに良いところを見せる事が出来たと思っている。

 その後も模擬店やアトラクションを二人で回る。

 

「そろそろ、一度休憩するかい?」

「そうね。そうしましょう」

「それなら良いところがある」

 

 エリアルドはそう言いファムを連れてアセム達の喫茶店に向かう。

 

「お帰りなさいませ。ご主人様」

 

 エリアルドとファムがMSクラブの喫茶店に入るとロマリーがそう言う。

 エリアルドとロマリーは顔を合わせると固まる。

 

「お兄さん……」

「やぁ……ロマリー」

 

 MSクラブでマリィとある程度仲が良くなったロマリーはエリアルドと何度か面識がある。

 エリアルドもロマリーの事はマリィの友達と認識している。

 学園祭が始まり、接客にも慣れて来たが、流石に知り合いを前にすると恥ずかしいらしく、ロマリーは顔を赤らめならがエリアルドを開いている席に案内するが、その動きはぎこちない。

 エリアルドもメイド事体は幼少期からアリスで見慣れてはいるが妹の友達のメイド服姿には呆気と取られいる為、ロマリーに案内されるがままに席に着いた。

 一方のファムは対して気にした様子はなく席につく。

 

「俺はコーヒーでファムは?」

「私も同じで良いわ」

「コーヒー二つですね。少々お待ち下さい」

 

 ロマリーは要件を済ませるとすぐに仕切りの向こうの二人に注文を伝えに行く。

 

「あの娘知り合い?」

「妹の友達だよ。ここは前に話した妹と従兄妹の所属している部活の模擬店なんだよ。妹が顔を出して欲しいような事を言っていたからね」

「仲が良いのね」

「どうだろう……」

 

 エリアルドの話だけを聞くとマリィはエリアルドに顔を出して欲しいようにも思えるが、実際はMSクラブの活動資金を少しでも集めるためにエリアルドに来るように言っていただけで、エリアルドもマリィが父のクライドにならともかく、自分に甘える理由はないと思っているので言葉を濁す。

 

「お待たせしました……って兄さん?」

 

 少し雑談しているとアセムが二人分のコーヒーを持って来る。

 

「アセム……お前まで……」

「まぁ……ね」

「マリィか……悪いな。あんな妹で……」

「もう慣れたよ……」

 

 アセムまで執事服の格好をしているところから考えるにマリィがまた暴走しているのだとエリアルドは過去の経験から気づき、謝る。

 アセムも殆ど物心付いた時からマリィとは一緒にいるため、慣れたと言うが明らかに疲れた目をしている。

 

「それではごゆっくり……」

 

 アセムはコーヒーをテーブルに置くと下がる。

 エリアルドはこれからもアセムがマリィに振りまわされると思うと、心の中で健闘を祈った。

 

「それじゃ頂こうか」

 

 エリアルドは出て来たコーヒーを一口付ける。

 

「……アイツ……」

 

 一口付けただけでもコーヒーが不味い事は分かる。

 メニューには一杯のコーヒーの値段としては法外な値段である上に味がこれでは詐欺に近い。

 これでは基地で無料で飲める大して上手くないコーヒーの方が何倍もマシだ。

 エリアルドはちらっとファムの方を見る。

 不味いコーヒーを出された事でファムの機嫌が悪くならないのか心配だったが、その必要はなかったようだ。

 

「どうしたの? エリアルド」

「いや……このコーヒーの味……」

「ああ……私はこう言う味は好きよ」

 

 明らかに安物で不味いコーヒーの味がファムは好みだったようでエリアルドは一安心し、この時ばかりは安いコーヒーを高値で出した妹

 

に感謝した。

 それから二人はコーヒーを飲みつつ他愛の無い話をし、その後は再び学園祭を周る。

 

 

 

 

 

 

「ここがMSクラブね」

 

 エリアルドとファムが喫茶店を出て少しすると、クライドの護衛を引き継がせて来たユーリアが喫茶店に訪れていた。

 

「お帰りなさいませ。お嬢様」

 

 喫茶店に入るとゼハートがユーリアを迎える。

 営業スマイルをするゼハートに大抵の女性なら顔を赤くするが、ユーリアは顔色一つ変えない。

 

「君……」

 

 ユーリアはゼハートを見るとゼハートに何かを感じ取り既視感を覚えるが、ゼハートと会った事など一度もない筈なので気のせいだと流

 

す。

 

「ここはMSクラブの模擬店?」

「そうですけど」

「アセム・アスノは今いる?」

 

 ユーリアがここを訪ねたのは何も喫茶店で休みに来た訳ではなく、久しぶりにアセムの顔を見に来ただけだ。

 マリィも同じ部活に入っている事は知っているが、マリィはこの手の行事には興味がないため、来ていないと思っている。

 

「少しお待ちください。今確認して来ます」

 

 店内にはいないため、裏で休憩しているかも知れないため、ゼハートは裏に確認に向かう。

 

「それにしてもマリィの読みが当たったね」

「まぁな……素直に喜べないけどな」

 

 シャーウィーとマシルは裏から喫茶店の繁盛具合を見て雑談している。

 裏方と行ってもメニューはコーヒーと紅茶の二種類でどちらもインスタントであるため、ピークを過ぎている今は仕事は殆ど無い。

 喫茶店が繁盛しているのは喜ぶべき事だが、その理由がゼハートやロマリーの外見だけで客を集めているのは明白で素直には喜べない。

 

「シャーウィー、マシル、アセムはいるか?」

「アセム?」

「さっき、マリィに連れて行かれて客引きに行っているよ」

「そうか……」

 

 アセムがいないと分かるとゼハートは考え込む。

 

「何かトラブルか?」

 

 その様子からシャーウィーは何かアセム絡みでトラブルが起こったのかと思う。

 マリィは年中問題を起こし、問題が服を着て歩いている様な物だが、アセムはアセムで争いは好まないが直情的な性格な為、逆恨みを買う事が多々ある。

 学園祭ともなると、アセムにお礼参りに来たのかも知れない。

 

「いや……アセムに客が来たんだが」

「アセムに?」

「ユノアや小母さんじゃなくて?」

「違う。俺達よりも年上の女の人だ」

 

 ゼハートがそう言うとシャーウィーとマシルはアセムを訪ねて来た相手に興味を持ち、店内を覗く。

 

「どの人だよ? ゼハート」

「あの銀色の髪を後ろで束ねている人だよ」

 

 ゼハートは少し呆れながらも、ユーリアの事を教える。

 

「すげぇ綺麗な人じゃん!」

「アセムとはどういう関係なんどうね」

「ロマリーだけでなく、あんな綺麗な人まで……これはMSクラブの仲間としては放っておけないな」

「そうだね」

「お前たちな……」

 

 明らかに別の目的が見え隠れする二人に呆れて注意をしようとするもすでに二人はそこにはおらず、ユーリアのところにいた。

 そして、暫くするとユーリアを裏まで連れて来る。

 

「アセムはその内、帰って来ると思いますのでここで待っていてください」

「良いの?」

「良いんですよ。気にしないでください」

 

 すっかり、シャーウィーとマシルはユーリアに鼻の下を伸ばしてデレデレしている。

 そんな二人を見てゼハートはため息をつきたくなると同時に、ユーリアに何かを感じている。

 ユーリア自体どこかで見た様な気がするが、後少しで思いだせそうだが思いだせない。

 だが、下手に聞く訳にはいかない。

 ゼハートがトルディアに潜入しているヴェイガンの工作員である以上、下手な事を言えば自分の素性がばれる危険性がある。

 ユーリアの方も会った時は少しゼハートに反応したが、今はこちらに注意を向けている様子もない。

 その為、ゼハートは警戒を怠る事はないが、積極的にユーリアに関わる事も避ける事にした。

 

「このMS……貴方達が?」

「そうなんですよ」

 

 シャーウィーとマシルはユーリアに付きっきりでまともに仕事になりそうもない。

 今は注文も入っていないため、表はロマリー一人で事足りている。

 

「少し乗っても良い?」

「どうぞ! どうぞ!」

「危ないので起きおつけて!」

 

 ユーリアを見た目通りの相手だと思っていたが、競技用のMSに軽々乗り込むユーリアに少し驚いている。

 一方のゼハートはその動きからユーリアが素人ではないと見抜いたため、警戒を強める。

 

「良い機体ね……愛情を感じるわ」

「分かるんですか?」

 

 ユーリアはそのMSを少し動かしてそう感じる。

 

「うん。MSは作り手がどれだけ愛情を与えるかでその良さが変わるもの。この機体からは愛情を感じる」

 

 ユーリアはそう言ってMSのコンソールを撫でる。

 少し動かしただけでそこまで分かるユーリアをシャーウィーとマシルはようやくユーリアが只者でないと気付き、ゼハートも警戒を強くする。

 

「貴女は何者ですか?」

 

 様子を見ていても埒がないと判断したゼハートは危険を承知で尋ねる。

 

「私? 私は……」

「お姉ちゃん!」

 

 ユーリアの言葉を遮り、帰って来たマリィが叫ぶ。

 

「お姉ちゃん?」

「マリィもいたのね」

 

 ユーリアはMSから降りて帰って来たマリィとアセムのところに歩いて来る。

 

「久しぶり、アセム」

「ユーリア姉さん……いつトルディアに?」

「今日よ」

「お姉ちゃんって……」

 

 シャーウィー達はユーリアとマリィを交互に見比べる。

 

「この人、私のお姉ちゃんよ」

「ユーリア・アスノ。妹と従姉弟がいつもお世話になっているわね」

(ユーリア・アスノ……そう言う事か、道理で……)

 

 ゼハートの中で疑問が解消される。

 Xラウンダーが重要視されるヴェイガンでは連邦軍の中でもトップクラスのXラウンダー能力を持っているユーリアは警戒人物でゼハートも顔を名前は知っていた。

 寧ろ、今までどうして気付かなかったのかをゼハートは内心で攻める。

 

「それで、何でここにいるのよ?」

「久しぶりにアセムのところに顔を出しに来ただけよ」

「何でそこは妹の私じゃない訳?」

「マリィは父さんと一緒でこう言うのに興味はないでしょ」

 

 そう言われれば反論の余地はない。

 マリィも活動資金を得ると言う理由がなければ学園祭に興味は持つ事もなかった。

 その為、いる筈の無い自分に会いに来る理由などある訳もない。

 

「まぁ良いわ。そろそろ、私とゼハートは休憩時間よね。行くわよ! ゼハート」

 

 マリィはゼハートの返事を待つ前にゼハートを掴んで出て行く。

 

「あの娘は相変わらずなのね」

「あれで、異性に少しは興味を持ちだしたから少しは成長したと思うよ」

 

 前に来た時は学生時代のクライド同様に他人に興味を示さなかった時に比べたら、少しはマシになったマリィを見てユーリアは少し嬉しく思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が傾く頃には学園祭も明日の2日目の準備に取り掛かっている。

 明日の2日目は1日目以上に人が来る事が予想されているため、安全の為に軍も警備に駆り出される予定となっている。

 今年は特にヴェイガンの襲撃もあったため、警備は去年以上に厳重な物になる予定だ。

 

「今日は楽しかったわ」

 

 学校を後にしたエリアルドはファムをマンションまで送っている。

 あの後に学園祭を周り、エリアルド的にはかなり手ごたえがあったと思っている。

 

「俺もだよ」

「それじゃまた誘ってね」

 

 ファムはそう言いながらマンションに入っていく。

 その反応からエリアルドは成功を確信する。

 

「良し……」

 

 デートが上手く行ったため、舞い上がるが明日は学園祭の警備の任務があるので気を引き締める。

 折角、今日のデートで上手く行っても明日の任務でヘマをする訳にも行かない。

 エリアルドは頭を切り替えて明日の任務で起こり得る可能性を考えつつも基地に帰っていく。

 

「ふぅ」

 

 エリアルドと別れたファムはマンションの自宅に帰ると椅子に座り一息つく。

 生まれた環境が環境だったため、ファムはこの手の行事に参加する機会はなく、知識としてしか知らなかったが、思いの他楽しめた。

 ファムはすぐにPCを起動させると、メールが届いていた。

 

「明日決行……予定通りか……」

 

 メールには事前に出ていたファムへの指示を予定通りに決行する旨の事が書かれている。

 その内容を確認したファムはすぐにメールを削除する。

 

「分かっていたけど……もう、後戻りは出来ないわね」

 

 ファムがトルディアに来てすでに数カ月が経っている。

 その間にエリアルドや近所である程度の人間関係が構築されている。

 明日の任務によってはそれらが全て崩れる可能性がある。

 それは分かっていた事だが、いざ前日になって見ると寂しさを感じている自分に気がつく。

 

「私にもそう言う感情があったのね」

 

 だが、それに気づいたところでファムは止まる事をしない。

 今、止まってしまえば今までの事が全て無駄になってしまうからだ。

 ファムは寂しさを自分の心の底に抑え込み明日の任務の流れを何度も確認して明日に臨む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「間にあったな……」

 

 学園祭1日目が無事に終わりトルディアは夜となっている。

 すでに夜更けに近いが、トルディア基地の技術者は殆ど休むことなくクライドが持ち込んだ新型機を組み立てた。

 

 

 ASN-002β 『ガンダムZERO (ドライ )β(ベータ)

 

 クライドがガンダムZEROをベースに開発した新型MSである。

 ガンダムZEROとの大きな違いは胴体を小型の戦闘機のコアファイターとして運用することが可能でフリットが開発したガンダムAGE-1と互換性を持っているウェア換装システムを採用したところだ。

 全体的に紫で塗装されたガンダムZERO Ⅲβの武装は両手の掌にビームサーベルとしても使えるビームバルカンを内蔵し、腰には長剣型のシグルブレイドが一基つづ装備されている。

 腰にはまるで尾のように大型のドッズライフル「バスタードッズライフル」が装備され、両膝にはニードルガンが内蔵されている。

 胴体部のコアファイターの機首の小型ビームバルカンはこの状態では使えないが、頭部に二門のビームバルカン、バックパックにはコアファイターの時にも使えたビームガンとしても使えるビームサーベルが二基装備されている。

 バックパックには高出力のスラスターが一基と普段は折り畳まれているが、翼のように展開することで重力下でも高速で飛行が出来るスタビライザーが付いており、このスタビライザーにはクラリッサが基礎技術を提唱して光波推進システムを採用している。

 両腕には試作段階で出力の低いビームシールド、コックピットには全方位モニターに従来の操縦桿から球状の操縦レバーに変更されたアームレイカー方式を採用し、機体のメインフレームは強度と柔軟性を兼ね備えた新型のフレームを使い、動力炉にはクライドが開発した新型の動力炉を使うなど、従来の連邦軍のMSには使われていない技術を多く使っている。

 その外見や武装の位置や特徴からガンダムZERO Ⅲβは連邦軍のジェノアスⅡやシャルドール改、アデルとは大きく違いヴェイガン系のMSに近くなっている。

 事実、このガンダムZERO ⅢβはガンダムZEROにクライドが独自のルートで得たヴェイガンのMSの技術を流用している。

 

「ガンダムZERO Ⅲβ……ここからが本番だ」

 

 クライドはそう言い格納庫を後にし誰もいない格納庫にはガンダムZERO Ⅲβだけが佇んでいた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。