機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第39話

『ブリッシュ公国』

 

 地球圏でも珍しい独立国家だ。

 コロニー国家間戦争の後半に建国された旧式のコロニー「ブリッシュ」を中心として複数のコロニーの集合体

 どのコロニーも中世のヨーロッパを思わせる町並みと公国騎士団と呼ばれる独自の軍隊を保有していた。

 地球連邦軍とヴェイガンの戦争に対してもどちらに加担することも敵対することもなく中立を保っている。

 3年前に前国王のグレアム・ブリッシュが急病で死去して一時期は混乱が起きていたが、グレアムの一人娘のヒルデガード・ブリッシュが国王となり、騎士団の力もあって今は平穏な時が流れていた。

 だが、その平穏な時は簡単に崩れ去った。

 ある日の夜にブリッシュ公国の首都とも言えるブリッシュの象徴ともいえる王宮に何者かの襲撃を受けた。

 その時に王宮を警備に当たっていた騎士長の一人にしてヒルデガードの護衛のルイーズ・レミントンはすぐにヒルデガードの寝室に飛び込み王の安否を確認する。

 幸い、ヒルデガードは襲撃に気づかずに熟睡していたが、襲撃があった以上、一刻も早くヒルデガードを安全なところに避難させて、賊を撃退しなければならない。

 その為、ルイーズはヒルデガードを起こして、避難の準備をさせた。

 準備が出来次第、ルイーズはヒルデガードを王宮の地下のシェルターへと誘導する。

 その道中で銃撃の音が聞こえた事から、すでに賊は王宮に侵入していると分かるが、幾ら何でも賊が王宮に侵入するのは早すぎるとルイーザは違和感を覚える。

 王宮の周りには騎士団のMSが配置されており、襲撃のタイミングから考えると警備のMSがやられて王宮に賊が侵入するまでには早すぎるが、それを考えるよりも先にヒルデガードの安全が最優先な為、シェルターに急いだ。

 シェルターにつくと、騎士長の一人のメルヴィン・バグウェルが脱出用の小型艇の準備をしていた。

 ルイーズはなぜ、脱出の準備をしているのかとメルヴィンに問い、メルヴィンは準備をしながら、現状で掴めている情報を話す。

 その内容はルイーズには信じがたい事だった。

 襲撃して来たMSはヴェイガンのドラドが数機だったが、その先頭には先代の国王専用MSに乗るルイーズの父、ローレンス・レミントンであり、他のコロニーでも同様に騎士団やヴェイガンのMSが騎士団の拠点を制圧しているとの事だった。

 ルイーズは騎士として父、ローレンスと師として尊敬していた、そんな父がクーデターに加担するだけでなく、先頭に立ち先代国王の専用MSまで持ち出した事はとても信じられない事だったが、メルヴィンはルイーズの幼い時からの友人で戦友であり、騎士団随一の切れ者でもある為、そうそう確定していない情報を言う訳もなく、事実である可能性が非常に高かった。

 そうこうしている内に小型艇の発進準備が終わる。

 その小型艇にはルイーズとヒルデガードが乗る。

 小型艇には十分な水と食料も積まれ、メルヴィンも乗る事が出来たが、メルヴィンはブリッシュに残り、ルイーズや自分のMSやクーデターに加担していない騎士を集めて反撃の準備をすると言い、ブリッシュに残った。

 シェルターには最悪の場合、コロニーの外に出るためのハッチが付いているため、そこから小型艇はブリッシュを脱出する。

 幸い、コロニーの外にはクーデター派のMSやヴェイガンのMSはいなかったため、無事にルイーズはヒルデガードをコロニーの外に出す事に成功する。

 そして、そのままブリッシュを離れて行く。

 こうして、100年以上も続いた独立国家は一夜にして陥落した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 グノーシスがヴェイガンのファ・ボーゼ級に強襲をかけて数日が経っている。

 その間にファ・ボーゼ級は見失っており、他にガンダムZERO Ⅲβの足取りが掴めずに、完全にお手上げになっていた。

 最後の手段として、オーヴァンのクライドに何か情報が入っていないかを確認をしようとするが、この数日で向こうから連絡が入ってない事から、それも望み薄だ。

 

「艦長、センサーに反応が……」

 

 センサー類を確認しているオペレーターがセンサーの反応を見つけるが、都合よくガンダムZERO Ⅲβの反応を捉える事が出来る訳もないため、期待はしていないが、センサーに反応がある以上、確認する必要がある。

 

「何なの?」

「今、確認しています……反応は小型艇のようですね」

「……何処の奴?」

 

 エリーゼは嫌な予感を感じた。

 それはクライドが面倒な事を言いだす前触れの時のようだ。

 

「小型艇からブリッシュ公国の物だと思います」

「はぁ……」

 

 はやり、面倒な事に巻き込まれかねない物を見つけてしまったと、エリーゼはグノーシスの優れたセンサー類を恨みたくなる。

 確かに、現在のグノーシスの位置はブリッシュ公国に近いが、まさか、ブリッシュ公国の小型艇を見つける事になるとは自分の運の無さを嘆きたくなる。

 ブリッシュ公国は数年前にも公国の防衛圏に入った連邦国籍の船を問答無用で撃沈して国際問題になりかけている。

 調査の結果、撃沈された船は擬装船で連邦国籍の船で無かったために連邦政府も必要以上に事を荒立てずにこの問題は決着がついている。

 公国側も船が擬装船だったから撃沈したのではなく、無許可で接近して来た船を撃沈しているため、小型艇を回収し小型艇の乗組員を救助しても公国の防衛圏内には近づきたくはないのが本音だ。

 

「見なかった事にしてもかまわないかしら……」

 

 幸いにも小型艇の大きさは小さく、通常の戦艦のセンサーでは見つけられないかも知れないため、無視したい。

 

「それがばれたら、今度こそ国際問題になりますよ。あのコロニーは同族意識が高いと聞いていますからね」

「言って見ただけよ……」

 

 ブリッシュ公国は他国に対しては恫喝とも取れる程、強行的な姿勢を崩さないが、その半面同胞に対しては非常に強い同族意識を持ち、小型艇を見捨てたと知れば確実に連邦政府に対し、報復を行う事は目に見えている。

 最悪、戦争にだってなりかねない。

 映像を見る限りでは小型艇は慣性で動いているだけだ。

 推進剤が切れたのか推進システムに異常が出たのか、理由は分からないが自力では動けない状態にある可能性が高い。

 

「ウルフ隊を出して、小型艇に生命反応があれば回収、なければそのまま放置で帰投させて」

 

 エリーゼの指示でウルフ隊は発見した小型艇の確認作業へと向かう。

 小型艇に接近すると三機は散開して三方から小型艇を取り囲みそれぞれの手持ちの火器を向ける。

 

「攻撃はないな……」

 

 小型艇はMSに対しては効果がないが機銃が装備されているため、攻撃をされる危険性もあるが、小型艇に動きはない。

 そして、アデル改が小型艇をガンダムZERO Ⅲαが周囲を警戒しつつ、Gバウンサーがゆっくりと小型艇に接近して行く。

 Gバウンサーは小型艇に取りつくと内部をスキャンする。

 

「生体反応があるな……他に危険物の反応はないみたいだな」

 

 例え、生体反応があろうとも、危険物があれば回収する訳にはいかない。

 その危険物が爆発物であれば回収した後に爆発させればグノーシスを沈めるのは容易い。

 

「どうします。隊長」

「見つけちまったんだ。このまま捨てて置く訳にもいかんだろ」

 

 Gバウンサーは小型艇を抱える。

 そして、アデル改とガンダムZERO Ⅲαの護衛の元小型艇をグノーシスに持って帰る。

 

 

 

 

 

 

「救助していただき感謝する」

 

 小型艇に乗っていた一人のルイーザ・レミントンはグノーシスの応接室でエリーゼにそう言う。

 回収された小型艇をグノーシスに運び、小型艇にはルイーザとヒルデガードが乗っており、ルイーザが身分を明かし、現在に至る。

 ルイーザの身分が事実かどうかを確かめる術はないが、ヒルデガードがブリッシュ公国の王女だと言う以上、無下に扱う事は出来ない。

 只でさえ面倒な国の小型艇を回収した上に乗っていたのが女王とされば想定していたケースでも最悪の分類に入るだろう。

 

「グノーシス艦長、エリーゼ・アスノ大佐です」

「アスノ……」

 

 ルイーズは名乗るエリーゼのアスノと言う性に少し反応するが、アスノと言う性は高名なMS鍛冶の家系や現在の地球連邦軍の総司令部の指令のフリットなど広く名が知れているため、対して気にすることはない。

 

「それで、レミントンさん、貴女方はなぜ小型艇で漂流していたのですか?」

「そうだな……余り話したくはないが、助けて貰った以上言わない訳にもいかんか……」

 

 ルイーズはブリッシュ公国で起きた事を簡潔に説明した。

 エリーゼは顔にこそ出さないが、確実に面倒な物を拾ったと後悔する。

 

「これがブリッシュ公国で起きた事だ」

「そうですか……」

「そこで恥を忍んで貴官に頼みたい。我々に力を貸してほしい」

 

 ルイーズはそう言いエリーゼに頭を下げる。

 状況から考えるとヴェイガンがクーデターに協力し、ブリッシュ公国の大半がクーデターに加担している。

 それに対して加担していない兵の数をルイーズは把握していない。

 恐らくは殆ど残っていないだろう。

 ルイーズもその事を敢えて伏せている。

 だからこそ、余所者の自分達の力を必要としている。

 

「そう言われましても……流石にこの件に関しましてはビッグリングの指示を仰ぎませんと……」

 

 グノーシスの指揮系統は特研の直属であるが、ビッグリングの方が知名度が高いため、敢えてビッグリングの方を持ちだす。

 クーデターを沈めると言う事は余り時間をかける訳にも行かないため、ビッグリングの指示を待たねばならないとすれば、ルイーズ達も諦めがつくとの判断だ。

 

「良いんじゃね」

 

 これ以上面倒事に関わる事を避けたいエリーゼだったが、エリーゼも良く知る声がエリーゼをその面倒事に付き飛ばす。

 応接室の大型モニターにクライドの姿が映される。

 

「どうして、クライドが?」

「さっきから話は聞かせて貰ってたからな」

 

 クライドはグノーシスに状況を聞く為に通信を入れてたが、丁度エリーゼがルイーズの対応をしていたために通信に出れないとオペレーターに言われたため、面白半分で応接室の会話の内容を応接室の通信機を通じて聞いていた。

 

「お前……」

「久しぶりだな。ルイーズ、こうして会うのは何十年ぶりか?」

「クライド・アスノか?」

 

 クライドとルイーズはお互いの事を知っているらしいが、エリーゼはクライドの交友関係にルイーズがいる事を知らないため、話につい

 

て行けない。

 

「二人は知り合いなの?」

「エリーゼには話てなかったっけ? 俺はガキの頃、父さんの仕事に付いて行ってブリッシュ公国に行った事があるんだよ」

「聞いてないわよ。そんな話」

 

 クライドは幼い頃、まだアスノ家が高名なMS鍛冶の家系として有名だった頃に父の仕事に付いて行きブリッシュ公国を訪れた事がある。

 その時に知り合いになったのがルイーズだ。

 父の仕事が終わりブリッシュ公国を離れた後は連絡を取って無かったが、滞在時のとある事から数十年経った今でもクライドはルイーズの事を覚えていた。

 

「そうか? 後から知ったんだが、その時にジゼルが乗っていたナイトルーパーを設計したらしいんだよな」

 

 ジゼルが蝙蝠退治戦役時の終盤に乗っていたMS『ナイトルーパー』はクライドの父が設計したMSなのはエリーゼも知っている。

 そのナイトルーパーは元々、ブリッシュ公国の次期主力MSとして設計された物だった。

 それが数年後に改良機の開発により旧式となった機体の一機がアーヴィンの警備部隊に流れて来たらしい。

 

「二人は同じアスノ性だが、親戚か何かか?」

「そいつは俺の嫁だよ」

「……何?」

 

 クライドの発言にルイーズは少なからず驚く。

 ルイーズの中のクライドが結婚しているなど、思いもよらなかったからだ。

 

「信じられん……」

「未だに嫁の貰い手もないお前に言われたくはない」

 

 ルイーズは一瞬、ムッとなるが、クライドの言う通り今まで一度も浮いた話の無いため、反論の余地がない。

 

「そんな事はどうでも良い。話はクーデターの事だろ?」

「ああ……」

「お前の親父さんも加担しているってのは本当か? にわかに信じられんが」

 

 クライドもローレンスとは数回ではあるが、顔を合わせている。

 その為、ある程度はローレンスの事は知っているつもりだ。

 そのローレンスが国や民を裏切るなど考えられない。

 

「……事実だ。メルヴィンからの情報だからな」

「メルヴィンか……」

 

 ルイーズと幼馴染のメルヴィンの事はクライドも面識がある。

 

「なら、その情報が正しいと過程して話を進める」

「クライドは私達にクーデターの鎮圧の手助けとしろって言うの?」

 

 クライドが登場した一言からすればそうなる。

 

「下手をすれば国際問題になるわ」

 

 クーデターが起きたと言う事はすでに政権も交代し、ヒルデガードは王女でな無くなるどころか、反逆者になっているかも知れない。

 そうなれば、ヒルデガードに協力する自分達の立場も危うくなる。

 ここはブリッシュ公国の新体制の出方を見た方が良いとエリーゼは思っている。

 

「一応、こっちには姫様がいるんだろ? 勝てば問題ない」

 

 確かに勝てばヒルデガードは王女に戻る為、ブリッシュ公国の大きな借りを作る事が出来る。

 だが、敵の戦力も分かっていない。

 少なくともヴェイガンと戦い事になる事は間違いはない。

 

「それに、クーデターにはヴェイガンも関わっているんだろ?」

「恐らくはな」

「だったら、ベータの情報が得られるかも知れない」

 

 かなり無理やりなこじ付けだ。

 ヴェイガンがいるから、ガンダムZERO Ⅲβの情報が見つかるなら、地球圏の戦場を渡る必要がある事になる。

 

「ベータの足取りが分からない以上、地道に近くから当たっていくしかないだろ?」

 

 それを言われてしまえば、エリーゼに返す言葉はない。

 グノーシスの任務はヴェイガンに奪われたガンダムZERO Ⅲβの奪還、もしくは破壊だ。

 その為の情報が得られる可能性があれば行くしかない。

 

「分かったわ」

「そんじゃ後は任せた」

 

 クライドはそう言いさっさと通信を閉じる。

 それと当時にエリーゼはため息を付きたくなる。

 結局、クライドはグノーシスを面倒事に巻き込んだだけだ。

 

「全く……そう言う訳ですので、我々も協力します」

「助かる」

 

 そして、今後の行動に付いてエリーゼとルイーズは話し合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで本当に乗ったのは女王様だった訳?」

 

 グノーシスのブリーフィングルームでエリアルドはシャルロットらと駄弁っている。

 最近ではグノーシスのパイロットの中でも若いエリアルド、アルベルト、シャルロット、レオーネは良く一緒にいる事が多い。

 

「そうなんですよ。持って帰る途中に某国のお姫様が乗ってたりとか話してたんですけどね。まさか本物の女王様が乗ってるとは予想外で

 

すよ」

 

 アルベルトが若干興奮気味にそう言う。

 

「なんか凄いですね。女王様なんて雲の上の人みたいです」

「別に凄くないでしょ。結局はコロニーのリーダーみたいなもんでしょ。言うなればうちの局長みたいなもんよ」

 

 ヒルデガードの立場は女王だが、その権威もブリッシュにいてこその物だ。

 王政の中にいないシャルロット達からすれば王を名乗っていようと関係ない。

 

「父さんとね……」

 

 エリアルドはオーヴァンにいるであろうクライドの事を思い出すが、確かにクライドもオーヴァンの主だが、王と言うイメージはない。

 

「まっ私達には関係ないでしょ」

「何が関係ないんですの?」

「何って……」

 

 シャルロットがそこまで言うとその声の主が話している三人の誰でもない事に気づくと同時に四人の視線は声の方向を向く。

 そこには長い髪をなびかせ、軍艦には似つかないドレスを来た少女が立っている。

 

「……誰?」

「今、話していたブリッシュ王女だよ」

 

 シャルロットがエリアルドに耳打ちして、エリアルドも小さな声で教える。

 エリアルドは小型艇からヒルデガードが出て来るところを念の為に機体で待機していたため、見ている。

 

「申し遅れました。私はヒルデガード・ブリッシュと申します。以後お見知りおきを」

 

 ヒルデガードはドレスのスカートを少し上げてそう言う。

 その一連の動作は妙に様になっており、ヒルデガードの育ちの良さを窺わせて彼女が王女である事も納得してしまう。

「ところでつかぬ事をお聞きしますけど、この中にガンダムのパイロットの方はいますでしょうか?」

「俺ですけど……」

 

 エリアルドが名乗り出ると、ヒルデガードは目を輝かせてエリアルドのところに歩いて来る。

 

「まぁ! 貴方でしたか! お話はお父様から聞いていますわ! 何でも人類で初めてヴェイガンのMSを倒してその後もヴェイガンのMSを千切っては投げて蝙蝠退治戦役を連邦軍の勝利に導いた救世主と言うのは!」

「はぁ……」

 

 エリアルドはヒルデガードの勢いに押されている。

 だが、ヒルデガードの言う『ガンダム』は恐らくはエリアルドのガンダムZERO Ⅲαではなく、父クライドのガンダムZEROか叔父のフリットのガンダムAGE-1のどちらかの事か、両方の戦果が混同しているのだろう。

 そもそも、エリアルドは蝙蝠退治戦役時にはまだ生まれてはいないため、蝙蝠退治戦役で戦果を上げる事は不可能だ。

 しかし、それをヒルデガードに伝える事の出来る雰囲気ではない。

 すでにシャルロットとアルベルトは事態を理解し、面白がりながら静観しており、レオーネは突然の事態に付いて行けなていない。

 

「ところで王女様はなぜ、ここに?」

 

 エリアルドはグノーシスで保護され、空いている個室で休んでいると聞いている。

 その上、グノーシスは最新の技術をふんだんに使った戦艦だ。

 機密保持のために主要なクルーは全てクライドの身内や個人的な知り合いで、他のクルーも厳しい審査の元情報を漏洩させる可能性が低いと判断された者が乗艦している。

 幾ら、王女とは言え勝手にうろちょろ出来る訳もない。

 

「なぜでしょうか?」

 

 ヒルデガードはキョトンとして首を傾げる。

 

「多分、道でも迷ったんでしょう。そうに決まってますよ。エリアルド、王女様をお部屋に案内して来なさい」

 

 ヒルデガードが天然の入った面倒な相手だと悟ったシャルロットはエリアルドを生贄にしてこの場を収めようとする。

 

「まぁ、そうでしたの? それではエリアルドさん、お願い出来ますか?」

「俺ですか……」

 

 突然の事でエリアルドは戸惑うが、シャルロットが目で逝って来いと明確に語っている。

 ここで断れば、後でいろいろと言われるのは目に見えている。

 

「……分かりました。俺に付いて来て下さいよ」

 

 結局、エリアルドはヒルデガードを部屋に連れて行く事にした。

 その後、部屋に付くまでエリアルドはヒルデガードの質問攻めに合い、何とか部屋まで送り届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クーデターか……」

 

 クライドはグノーシスとの通信を終えると呟く。

 

「あそこは情報が入り難いですからね。少し前にグレアム王が死去なされたと言う情報が入って来たばかりですからね」

 

 クラリッサがコーヒーの入ったカップをクライドに渡してクライドはコーヒーをすすり一息つく。

 

「まぁな」

「それにしてもクーデターですか……あの国は王家に対する忠誠が強い国家だった筈ですが……」

「まぁ、王家ってだけで無条件で尊敬を集めるからな」

 

 ブリッシュ公国の特徴の一つが王家が神聖化されている事だ。

 

「けどな。先代が優秀過ぎた。グレアムは国民を愛し、国民と国の為なら何処までも冷徹になる事が出来た。娘の方は冷徹になる事が出来なかったんだよ。まぁ……当時13やそこらの小娘にそこまで求めても仕方がないんだけどな。王が頼りないから、騎士達はヒルデガードに国を任せては国が滅びると思ったんだろうな……今はほら、連邦とヴェイガンが戦争してるしな」

 

 連邦とヴェイガンの戦争の火種がいつブリッシュ公国に飛んできてもおかしくはない状況では国民も不安になる。

 グレアムが王だった時は連邦に対してもヴェイガンに対しても毅然な態度を崩さなかったため、国民もいざとなればグレアムが守ってくれると言う安心感を持っていた。

 事実、グレアムは政治だけでなく軍事でも自らが専用のMSに乗り戦う事も多々あった。

 だが、ヒルデガードは王女となった時はまだ幼く、政治や軍事には騎士達が中心となり国の方針を決めて半ばヒルデガードは事後承諾になる事が多かった。

 国の象徴たる王がそんな体たらくでは騎士の心も離れて行くと言うものだ。

 尤も、若いヒルデガードにグレアムや歴代の王と同じようにしろと言うのも酷な話だが。

 

「随分と詳しいんですね」

 

 クライドの物言いは、状況から予測したものではなく実際に知っている事を話しているように聞こえる。

 

「まぁね。その辺りの事はローレンスから良く聞かされたものだ」

「ローレンス……確か、クーデターの主導者と目されている人ですか……」

「そっ俺はローレンスからナイトルーパーⅣの騎士長用のカスタマイズを依頼されてたからな。その時にいろいろとね」

 

 その話しはクラリッサも初耳だった。

 それが本当なら、クライドもクーデターに加担している事になる。

 

「つっても、最近はナイトルーパーⅣのデータも送って来ないし、連絡もないからおかしいとは思ってたんだよな……まさか、ヴェイガンと組んでクーデターを起こすとはね」

 

 クライドはローレンスからブリッシュ公国の主力MS『ナイトルーパーⅣ』の改良の依頼の報酬としてナイトルーパーⅣのデータを定期的に受け取っていた。

 だが、それも最近はぱったりと途絶え、そろそろ催促するつもりだった。 

 

「まぁ良い。それなら、こっちにも考えがある。クラリッサ、すぐにビッグリングのフリットに連絡を取れるように手配してくれ」

「それは構いませんが、ジェラールの事ですが……」

「アイツか……」

 

 クライドはジェラールの名前と聞いてあからさまにめんどくさそうにする。

 ジェラール・プラトン

 特研の技術者の一人で問題児だ。

 ジェラールはクライドとエリーゼの元同級生のドミニクの息子だ。

 元はクラリッサ同様に民間の研究所で天才と謳われていた青年だ。

 だが、天才ともてはやされているため、天狗になっていたところをドミニクがクライドに特研で面倒を見て欲しいと頼んで来た。

 本人は自分の才能を買われていると思っているが、特研にはジェラールクラスの天才は大勢いる。

 実際はドミニクがジェラールがいかに自分が井の中蛙である事を教えるために恥を忍んでクライドに頼み込んだのだった。

 クライドもジェラールの才能に全く期待はしていないが、適当な雑用を押しつけるのには丁度良いと判断した。

 ドミニクもその事を知りながらも社会の厳しさを教えるために丁度良いと思いそれで了承している。

 転属後は殆ど研究に関わらせて貰えずに雑用ばかりを押しつけられている。

 人一倍、自分の才能に自信を持ちプライドの高いジェラールにはそれは耐えがたい屈辱だろう。

 そして、そろそろそれも限界に来ている頃だろう。

 

「まぁ、適当に研究に回してやれ。ああ……でも、アイツがミスっても良い様にうちには被害の無い研究だからな」

「分かりました」

 

 クラリッサはそう言って、ジェラールに回す適当な研究がなかったかと考えつつもクライドに頼まれたフリットに連絡を付けに行く。

 その数時間後にクライドはビッグリングのフリットと連絡を取る事が出来た。

 

「それで、兄さん、私に急用があると聞いたが」

「まぁね。フリット、少し兵を貸して欲しい」

「兵を? 兄さんには義姉さんのグノーシスがあるじゃないか。今はウルフもグノーシスに配属されてた筈だが?」

 

 フリットが疑問に思うのも無理はない。

 今までなら、クライドの私兵とも言えるグノーシスを使っていた。

 

「今はグノーシスはブリッシュ公国に向かっているからな。それとは別で俺も動くからさ、その為に兵がいる」

「ブリッシュ公国? どうしてまた」

 

 クライドは簡単にブリッシュ公国でクーデターが起きた事や偶然にも脱出したヒルデガードをグノーシスで保護した事を話す。

 

「成程……それで兄さんはどうするつもりなんだ?」

「それは後のお楽しみって奴だ。だが、これは連邦軍に対しても有益な事は間違いない。上手く事が運べばヴェイガンとの戦闘も少しは楽になるかも知れない」

「……分かった。それでどれだけ必要なんだ?」

 

 フリットも戦争が楽になるかも知れないと言われれば無視することも出来ない。

 

「そうだな……取り合えず、艦隊が一つ。MSも最低でも20機は欲しいな。半分はアデルを回してくれるとありがたい。後はその艦隊の指

 

揮官は信用が出来て俺の指示に文句を言わずに従ってくれる奴が好ましい。ついでにその功績はそいつに行くと思うから、フリットが出世をさせても良いと思う奴を選んでくれ」

「兄さんも無茶を言う……」

 

 クライドの言う条件は軽くはない。

 特に今は戦争中だ。

 そう簡単に用意出来る訳がない。

 それも用途を殆ど明かしていない事には尚更だ。

 

「取り合えず、その指揮官にはアルグレアスを向かわせる」

「アルグレアス……あぁお前の参謀か。良いのか?」

 

 アルグレアスはフリットの参謀で若いがフリットの信頼も厚い。

 

「兄さんの言う条件に当てはまり、尚且つすぐに向かわせる事が可能なのはアルグレアスくらいしかいない」

「まぁ、お前が言うなら良いさ。取り合えず艦隊は2日で揃えてくれ」

「また、無茶を言ってくれるな」

「その無茶を何とかするのが総司令官の腕の見せ所だろ」

 

 クライドはかなりの無茶をフリットに要求しているが、クライドの頼みとあればフリットも無下には出来ない。

 幼少期から憧れていた兄の頼みごととあれば叶えたくなってしまう。

 

「分かったよ。兄さん」

「期待してるからな。フリット」

 

 クライドは通信を閉じて一息つく。

 

「これで、俺の方の準備は整う。後はセリアに指示を出せば良いか……ブリッシュ公国か……まさか、こんな展開になるなんてな……なぁ、グレアム、お前は俺がこれからすることを知ればどう思うだろうな。まぁ、これもお前との約束の為だ。俺なんかにあんな事を頼んだお前が悪い。これから起こる事をお前はあの世でしっかりと見ておけよ」

 

 クライドは誰もいない部屋で一人呟く。

 こうして、ブリッシュ公国に役者が集まり、ブリッシュ公国が次の戦いの舞台となる。

 

 

 

 

 

 

 

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