機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第50話

 連邦軍によるヴェイガンの一大拠点「ドラゴンファクトリー」に対する侵攻作戦は要塞の陥落をヴェイガンの指揮官、マリオン・イーヴィルの戦死で連邦軍の勝利で終わった。

 しかし、ヴェイガンは早々にドラゴンファクトリーを破棄し、連邦軍に破壊された時には要塞はもぬけの殻となっており、大した打撃を与える事は出来なかった。

 一方の連邦軍はマリオンの駆るデウストによって艦隊の大半を沈められ、多くのMSが撃墜された。

 その為、連邦軍は勝利こそしたが、ヴェイガンに打撃を与える事に成功したが、逆に大打撃を受けてしまった事になる。

 戦闘が終了した連邦軍は撤退した敵に戻られると今度は殲滅戦に発展する危険性があるため、すでに安全宙域まで後退し、戦闘宙域はドラゴンファクトリーの残骸や戦闘で破壊されたMSや戦艦の残骸によりデブリベルトと化している。

 そんな宙域にアブディエルに搭載されているリカルドとセラフィナのゼダスが残骸をかき分けている。

 

「この辺りの筈なんだがな……」

 

 二人はこの宙域である物を探している。

 彼らは連邦軍からもヴェイガンからも身を隠さねばならない立場で居るため、戦闘が終了し連邦軍が撤退して数時間が経ち、両軍が戻る気配がない事を確認して探しに来ている。

 

「さっさと探さないと面倒な事になってのによ……」

 

 連邦軍とヴェイガンのどちらも戻る気配はないが、その内、この辺りに破壊されたMSや戦艦の残骸を漁りに海賊やジャンク屋などがやって来る。

 自分達の存在を極力知られる訳にはいかない以上、遭遇した場合は口を塞ぐ他ない。

 

「リカルド君、アレじゃない?」

「多分そうだな」

 

 セラフィナが見つけたのは黒い球状の物体だ。

 それこそが、クライドがファムにも教えずに仕込んだ奥の手だ。

 ガンダムZERO ⅢβにはガンダムZERO Ⅲαには搭載していない隠し機能が備わっている。

 それが緊急脱出ポッドだ。

 ガンダムZERO Ⅲβにはαとは違いAGEドライヴが搭載されていない。

 αのように緊急時にコアファイターでパイロットとAGEドライヴを回収する必要がない。

 その為、コアファイターのコックピット部は独立して最後の手段としてパイロットのみを脱出させる事が可能となっている。

 デウストとの戦闘で被弾して行くβのコントロールが効かなくなったのもこれが起動したからだ。

 戦闘時に戦闘不能レベルでダメージを負ったと判断された時にオートで作動し、機体を自爆させて敵にβが撃墜したと誤認させた上で緊急脱出ポットを爆発に紛れて射出するように仕掛けられている。

 この時に起こる爆発は通常の撃墜時の爆発よりも大きく爆発するようにセットされている為、その勢いでより遠くに脱出ポットを飛ばせつようにもしてある。

 だが、この緊急脱出ポッドの欠点はコアファイターのように最低限の戦闘能力と推進力を持たないと言う事だ。

 そのせいで緊急脱出ポットで脱出した後に敵機と遭遇した場合、戦う事も逃げる事も出来ない。

 だからこそ、後で友軍機に回収して貰う必要がある。

 更には緊急脱出ポッドはその爆発でポッドが破損しないように頑丈に出来ているが、頑丈である以外には何もないため、射出時には爆発の衝撃でコックピット内に強い衝撃がパイロットを襲うので今のファムは重傷こそは負っていない筈だが、その衝撃で少なからず負傷しているのは間違いない。

 その後もパイロットの生命維持装置しか起動していないので、モニターやレーダー類で外の様子を確認したり、友軍に通信で救助を要請する事も出来ず、生命維持装置以外では唯一、自分の居場所を友軍に知らせる発信機だけが動いていると言う状態だ。

 

「ファムも回収したんだ。さっさと帰るぞ」

「そうだね」

 

 ファムの緊急脱出ポッドを回収したゼダスは宙域から離脱する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘宙域から離脱した連邦軍は安全宙域まで離脱している。

 ドラゴンファクトリー攻略作戦で艦隊の半数を失い、MSも大半を失っている。

 グノーシスは今回の戦闘でガンダムZERO Ⅲαを大破させるが、落とされた機体はなかった。

 戦闘終了後にエリーゼは作戦の報告をクライドに行っている。

 何処にいるのか分からなかった以前とは違い、今回はマッドーナ工房からのプライベート回線である事は分かっている。

 何故、クライドがマッドーナ工房にいるのかは聞いたところで答える事がない事は目に見えている為、エリーゼは聞かない。

 

「分かった。取り合えず、エリーゼ達はオーヴァンに帰投してくれ。そこでゼロの修理をさせる」

 

 マリオンとの戦闘でのガンダムZERO Ⅲαの損傷は深刻でグノーシスの設備では時間がかかり過ぎる。

 その為、一度ガンダムZERO Ⅲαはオーヴァンでオーバーホールを行う事が決定している。

 

「ベータの一件もこれで落着か……」

「そうね。最後、どう言う訳がエリアルドと共闘していたかの謎は残るけどね」

「その辺りはベータのパイロットに聞かんと分からんが、敵の大型MSに撃墜されたんだ。知りようがない」

 

 エリーゼもガンダムZERO Ⅲβの最後の行動を不審に思うが、ガンダムZERO Ⅲβが撃墜されパイロットが死亡となっている以上、それを知る術はない。

 

「分かってるわ。私達はオーヴァンに戻ってゼロの補修をするけど、クライドはどうするつもりなのよ?」

「俺はここで少しやる事がある。その後はオーヴァンに戻る予定だよ。そろそろ、三号機の製造も大詰めだし、今までの戦闘データからアルファの新装備も開発したいしフリットに頼まれていた新型機の方も本腰を入れたい。やりたい事が多過ぎて困るよ全く」

「新型機?」

 

 エリーゼもクライドがガンダムZERO Ⅲをαとβに続く三号機の製造を行っている事は知っているが、更なる新型機の設計に関わっている事までは知らされていない。

 

「そっ、フリットが25年前に製造したAGEシステムを搭載したガンダムの戦闘データを元に開発される新型機だ。便宜上その新型機をガンダムAGE-2とでも呼ぼうか。そのAGE-2の製造をフリットに頼まれている。すでにAGEシステムがその設計データを出しているけど、俺がそこにシャルロットのRGライダーの設計データと実戦データを反映させる予定だ」

 

 表向きはRGシリーズは量産前提の試作機とされているが、実際はクライドはその気はなかった。

 だが、シャルロットの戦死をきっかけにクライドはシャルロットが実戦で得たデータを後のMS開発に反映させる気になっていた。

 そんな中、フリットから新たなガンダムの製造の依頼が来たのだ。

 その設計データにRGライダーの可変機構を組み込んで現在、オーヴァンではガンダムAGE-1の後継機の製造が開始されている。

 

「新型機ね……作るのは良いけど、自重はしなさいよね」

「約束はできんな」

 

 以前にもガンダムZEROの後継機として開発されたガンダムZERO Ⅱでクライドは自重せずにとんでもないMSを生み出したと言う前科があるため、エリーゼは注意するが、クライドは全く気にする様子はない。

 そして、それはエリーゼも十分理解している。

 

「とにかく、私達はオーヴァンに帰るから、早くクライドも帰って来なさいよね」

「善処する」

 

 クライドはそう言い通信を終える。

 

「さて……そろそろ戻って来る頃か……」

 

 クライドは通信を終えると、マッドーナ工房の格納庫に向かう。

 マッドーナ工房の格納庫の一つは現在ではクライドが個人的に工房長のムクレド・マッドーナから借り受けている。

 そこにはクライドが個人的に特研の研究費から製造した試作機や試作の武器などが置かれている。

 

「通信は終わったのか」

「まぁね。それよりもアイツらは帰って来たか?」

「さっき戻って来たぞ。回収して来たポッドに乗っていたパイロットは医務室に連れて行ったようだな」

 

 格納庫で帰投したゼダスの整備の指揮を取っていたムクレドはそう言う。

 

「それよりも、ゼダスの調子はどうだ?」

「まずまずってところかな」

 

 リカルドとセラフィナの乗るゼダスはマッドーナ工房で作られていた。

 25年前に一度だけ、機体のデータを取る事に成功したマッドーナ工房ではゼダスを再現するために研究を進めていた。

 その中で完成したのが二人の乗る2機のゼダスだ。

 見かけこそはゼダスその物だが、中身は既存のMSの技術を多く流用した所が多く、特にヴェイガンのMSの技術の検証の為に開発されたガンダムZERO Ⅲβに使われている技術を多く流用している為、このゼダスはガンダムZERO Ⅲβの簡易量産仕様と言っても良い。

 だが、ムクレドやマッドーナ工房の技術力を持ってしても、ゼダスのXラウンダーに対応したシステムの再現は不可能であった為、このゼダスは非Xラウンダーでも使用が可能となりガンダムZERO Ⅲβの技術流用で当時のゼダスと大差ない性能を確保に成功している。

 

「そうか。それよりも何だありゃ? 随分と古いフレームを持ちこんだようだが」

「出所は言えないが、随分とコロニー国家間戦争時に使用されたMSのフレームだと思う。ここで解析して使いたい」

「俺は構わないが、ぱっと見でも状態が悪いな」

「だよな……相当な時間、銅像の中に隠してあったからな……」

 

 ファムがブリッシュ公国で持ち返ったフレームは銅像の中に隠してあっただけあり、状態が悪い事は解析するまでもなく見ただけで分かるほどだ。

 

「それでも解析する価値はあると俺は思う」

「そいつに反対する理由はないな」

 

 ムクレドもクライドもコロニー国家間戦争時に使用されたMSはガラやジラと言った旧式のMSしか直接見た事はない。

 その為、機種は分からず、状態が悪かろうと当時のフレームには大変価値のある物だと言うのは共通の認識だ。

 

「そんな訳だ。解析を頼む。俺はオーヴァンに戻って新型機の設計やら製造やらで忙しい。解析が終わったらデータをオーヴァンに送ってくれ、その後でこのフレームを使ったMSの設計するから、製造を頼んでも良いか?」

「当然だ。こんな面白そうな仕事を他に任せられるか」

 

 ムクレドとしてもこのフレームを組み込んだMSには非情に興味がある。

 だからこそ、その製造はマッドーナ工房で行う事に文句はない。

 

「おやっさんならそう言うと思っていたよ。後は任せる」

 

 クライドはゼダスの整備をムクレドに任せて格納庫を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 回収されたファムはマッドーナ工房の医務室で目を覚ます。

 目を覚ましたファムは起き上がろうとすると、体に激痛が走った為、寝たままで辺りを見渡す。

 

「小父さま?」

「起きたか」

 

 医務室にはクライドがファムが起きるのを待っていた。

 

「私は……」

 

 クライドがいると言う事は自分がまだ死んでいない事を確認すると、あの時起きた事を思い出す。

 ドラゴンファクトリー攻略作戦に乱入し、エリアルドと共に危険な感覚を感じたヴェイガンのMSと交戦した。

 自分とエリアルドのガンダムでの装備ではそのMSを倒す事が出来ないと思ったファムはエリアルドに以前、交戦した時の装備に換装するように言い、自分が時間稼ぎを行った。

 そして、自分は敵の圧倒的な火力を避けきる事が出来ずに被弾して行った。

 その時に突然、機体のコントロールが出来なくなり、モニターがブラックアウトして機体に強い衝撃を受けた。

 その際に自分はここで死ぬのかと確認したが、どうやら生還しているようだ。

 手足を動かそうとすると、痛む事から無傷とは言えないが五体満足である事が確認出来る。

 

「思ったよりも怪我酷い。無理をするな」

「御免なさい……小父さまから預かった大切な機体を……」

 

 自分が生きている事を確認した後から湧いて来たのはガンダムZERO Ⅲβを破壊したクライドへの罪悪感だった。

 ガンダムZERO Ⅲβの性能が高性能なのは実際に乗っていた自分が一番良く分かっている。

 その機体を壊してしまったのは、自分が扱い切れなかったからだ。

 

「気にするな。元々、あの機体は試作機の域を出ていないからな。破壊されたとて、実戦データが取れればそれで良い」

 

 クライドにとってガンダムZERO Ⅲは到達点ではなく、通過点に過ぎない。

 αとβで得たデータは次世代のガンダムZEROへと受け継がれていく為、戦闘データが取れれば破壊されても構わない。

 それ以上に自分の製造したMSの性能を引き出せるパイロットの喪失の方がクライドにとっては痛手だ。

 その為、今回はガンダムZERO Ⅲβが破壊された損失よりもファムの生還の方が利益としては高い。

 

「ファムの怪我も直らないほどでは無かったしな。今はゆっくりと休め。休んだ後はその気があるのなら、製造予定の新型機のパイロットにお前を使いたい」

 

 その言葉は未だにクライドがファムの事をテストパイロットとして高く評価している証拠に他ならない。

 ファムは嬉しさの余り、涙を浮かべる。

 

「はい……」

 

 ファムは震える声で返事をする。

 

 

 

 

 

 

 

「くそ……」

 

 エリアルドはグノーシスの展望デッキで一人でぼやっと宇宙を見て呟く。

 反抗作戦には勝利したが、その時の戦闘でファムと共闘した。

 その時は敵であったファムと共闘出来た事を素直に喜んだが、その戦闘でファムのガンダムZERO Ⅲβの撃墜を確認した。

 フリーダムポートではファムを探して単独で行動した結果、シャルロットを死なせたと言うのにファムをヴェイガンから取り戻す事なく、ファムのMSは撃墜された。

 エリアルドはその時に自分が何も出来なかった事にも腹立たしいが、それ以上にファムが死んでも驚くほど、悲しむ事がない自分に腹を立てている。

 シャルロットの時はあれほどシャルロットの死を悲しんだと言うのにファムの時は何も感じない。

 それは、エリアルドのXラウンダー能力でファムがあの時に死んでいない事を感じ取っている為ではあるが、ファムの事を死んだと思っているエリアルドには自分は自分で思っているほど、ファムの事を想っていなかったのかと自分の気持ちを疑ってしまう。

 それが更にエリアルドを苛立たせる。

 

「また、辛気臭い顔してんな」

「隊長」

 

 先の戦闘でガンダムZERO Ⅲβの撃墜を確認した事でガンダムZERO Ⅲβの奪還の任務が解かれた事をエリーゼに聞いたウルフがそのパイロットに好意を持っていたエリアルドを探していた。

 一方のエリアルドはウルフを話す気分ではない。

 

「隊長……これも割り切れって言うんですか?」

 

 以前にシャルロットが死んだ時にもエリアルドはウルフに同じ事を言われた割り切れと。

 

「ああ……相手のパイロットとお前の関係は知っているが、同じ事を俺は言うぜ。割り切れよ」

 

 そうでなければ今度はエリアルドは死ぬ。

 だからこそ、エリアルドに何と思われようが同じ事をウルフは言う。

 

「分かってますよ。これは戦争でファムは敵なんです。ファムをヴェイガンから取り戻すと覚悟を決めた以上、この結果だってあり得たんです……でも、こんなの認める事は出来ませんよ」

「それで良いんだよ。俺は割り切れとは言った。だけど、受け入れろとは言わない。戦争してたって大事な奴が死ねば誰でも悲しいんだよ。それを受け入れる事なんで出来る訳がない」

 

 そして、それを受け入れて大切な人の死に対して何も感じ無くなってしまえば、それは人間として狂っていると言う事になる。

 

「戦争がなければファムが死ぬ事もなかったんですかね?」

「さぁな」

「俺は戦争を許せません……ヴェイガンが戦争を仕掛けて来なければファムが死ぬ事もなかった」

 

 ヴェイガンが地球に戦争を仕掛けなければ、エリアルドとファムが出会う事もなかったかも知れないが、戦争がなければファムが死ぬ事もなかった。

 エリアルドはファムの死とそれに何も感じる事の出来ない憤りを戦争に対して向けている。

 そう言うエリアルドの目をウルフは知っている。

 不器用ながらも父として、連邦軍の司令官としてヴェイガンとの戦闘に勝利することを考えて戦うフリットがヴェイガンが絡む時に見せる目と同じだ。

 フリットがヴェイガンに対して憎しみを向けるように、エリアルドも戦争に対して憎しみを向けている。

 そして、それは戦争を仕掛けて来たヴェイガンに向かっている。

 

「隊長……俺は戦争を終わらせます。ヴェイガンを倒して、こんな戦いを終わりにして見せますよ」

「そうか……俺はもうすぐ、ここでの任期を終えて別の部隊に転属してお前の隊長じゃ無くなる」

 

 元々、ウルフは1年程度の任期であるため、もうじき別の隊への転属となる。

 これまでの戦闘で疲弊して一時の休息に入るグノーシスに実戦経験の豊富なエースパイロットを留めておく事は上もしないだろう。

 

「だから、その前に言っておく。エリアルド……絶対に死ぬなよ。お前はシャルロットの死で仲間の死ぬ悲しみを知った。ファムの死で大切な女が死ぬ悲しみを知った。お前が死ねば、同じ悲しみをお前の家族やお前を大切に思う仲間が味わう事になる。そんな悲しみを家族や仲間に味あわせるんじゃねぇぞ」

 

 ウルフにエリアルドが憎しみを持って戦う事を止める事は出来ない。

 憎しみだろうと正義感だろうと、戦う原動力は必要となって来る。

 だが、エリアルドが死ねば、家族や仲間が自分の味わった悲しみを更に味わう事になる。

 その悲しみを知ればこそ、エリアルドは大切な人達にその悲しみを味あわせさせる訳にはいかない。

 それだけは決してあってはならない。

 

「それが出来ないってんのなら、戦場から消えた方がお前の為でも周りの為でもある」

「分かりました……俺は絶対に死にません。最後まで生き延びてヴェイガンを倒します」

 

 ファムを失った事で戦争やヴェイガンに対して憤りをぶつける道を選んだエリアルドは決意と共にウルフにそう言う。

 A.G.140年……ドラゴンファクトリー攻防戦において連邦とヴェイガンはそれぞれ打撃を受け、戦いは膠着状態へとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

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