A.G.141年、連邦軍とヴェイガンとのドラゴンファクトリーでの戦闘から数カ月が経っている。
その戦闘で両軍は大打撃を受けた。
連邦軍は要塞を陥落させたが、自軍に受けた被害も相当で各戦線の部隊を再編し、民間からもパイロットや戦艦のクルーを軍への転属を募り、特研を除く技術部や連邦軍と繋がりを持つ一般のMSの製造を行っている工房は軍のMSや戦艦の製造を多数発注して戦力を整えている。
一方のヴェイガンもマリアンの判断でドラゴンファクトリーを早い段階で破棄した為、戦力の損失は最低限で抑える事が出来たが、その戦いで地球制圧軍の総司令官のマリアンが戦死している。
総司令であるマリアンが戦死した事で、軍全体の士気は低下するか、マリアンの敵討ちの為に必要以上に戦意を増すかの両端で、後任を決めなくてはならないが、一指揮官ならともなく、総司令を現場の判断で決める事は出来ない為、火星圏の指導者イゼルカントに指示を仰ぎ、副司令のメデルが戦線の維持をしている。
どちらも、下手に攻める事が出来ない状態にあるため、戦線はどちらも大規模な作戦を取る事なく、膠着状態が数カ月も続いている。
そんな中、他の技術部とは違い、特研は通常運行だ。
ドラゴンファクトリーで大破したガンダムZERO Ⅲαはオーヴァンで修理と共に各アーマー共々オーバーホールと戦闘データの解析や微調整などでオーヴァンで日夜作業が続いている。
そして、グノーシスは数週間前にオーバーホールを終えて、新型機のテストの日々を送っている。
グノーシスはオーヴァンから少し離れたデブリベルトの付近に停泊している。
そのデブリベルトのデブリの合間を縫うように航行している機体がグノーシスのモニターに映されている。
その機体は通常のMSの様な人型ではなく、RGライダーのストライダー形態に酷似している。
RGライダーとの相違点はRGライダーの大型可変翼が2枚から4枚に増設され、水平になっていた翼がXのようになっている。
機首のソードライフルは特研でスーパードッズライフルをベースとして更に威力が向上しているハイパードッズライフルに変更され、バックパックのビームガンが廃止され、機銃としてビームバルカンが二門装備されている。
その機体はデブリベルトを進み、そしてMS形態と変形する。
MS形態は大型可変翼が両肩に移動し、ハイパードッズライフルは右手にマウントされ、左腕にはストライダー形態への変形時に邪魔にならないように小型シールドが装備されている。
頭部はRGライダーとは違い明らかにガンダムタイプの頭部となっている。
腰にはビームサーベルが二基装備されている。
胸の装甲にはAと書かれたセンサーがついている。
『AGE-2 ガンダムAGE-2』
25年前にフリットが開発したガンダムの後継機として開発された新型のガンダムだ。
クライドはこの機体をフリットに製造を依頼されて、RGライダーの可変機構を取り入れて再設計して完成させた。
このAGE-2にも現在トルディアに隠してあるAGE-1同様にAGEシステムが搭載してあるが、AGEシステムを使う為にはAGEデバイスが必要不可欠であるため、現在はAGEシステムを使えない状態でのテストが続いている。
MS形態に変形したAGE-2の前に3機のガラが現れる。
今はデブリベルトで敵と遭遇したと言う状況を想定しての実戦テストだ。
ガラは無人機ではあるが、クライドが開発した無人操縦システムが導入されいる為、実戦さながらのテストとなっている。
ガラはドッズガンをAGE-2に連射する。
AGE-2はデブリを盾にしてかわして、ハイパードッズライフルを放つ。
ハイパードッズライフルから放たれたビームは射線のデブリをもろともせずにジラを撃ち抜く。
1機目が撃墜されると、AGE-2の後方のガラがビームサーベルを振り下ろし、AGE-2はシールドで受け止め、ビームサーベルでジラを切り裂く。
2機目を撃墜すると、最後のジラはグノーシスの方へと向かう。
これはAGE-2を前にした敵がAGE-2の戦闘能力では勝てないと踏んで直接母艦を狙うと言う状況となっている。
位置的にハイパードッズライフルを使えば母艦に当たる危険性があるため、AGE-2はストライダー形態に変形するとジラを追う。
MS形態の時に比べると約3倍もの推力となっているストライダー形態はあっさりとジラを追いこして、MS形態に変形するとビームサーベルを抜いて接近するジラをハイパードッズライフルで撃ち抜く。
「テストは終了よ。アスノ中尉」
「了解」
エリアルドはテストを終えて一息つきながら機体をグノーシスに戻す。
グノーシスに帰還したAGE-2は格納庫のハンガーに固定されると、四肢のウェアを取り外される。
そして、各ウェアと本体の整備に取りかかり、エリアルドは機体から降りる。
「お疲れ様」
「ああ」
機体を降りて、パイロットの待機室に入るとレオーネとアルベルトが待っていた。
「一先ずテストは終わりだな」
「この機体は何処に配備されるのかな」
「ディーヴァだと思う」
アルベルトとレオーネが話を振るがすぐに終わってしまう。
あれから数カ月、エリアルドはずっとこんな感じだ。
ガンダムAGE-2のテストパイロットにも自分から志願し、ガンダムZERO Ⅲαの改修作業が終わっていないため、エリアルドがAGE-2のテストパイロットに任命されたが、通常のテストの日程よりも早いペースでテストを繰り返し、テスト以外の時間も訓練に当てていた。
トルディア基地に配属されていた時からそんな感じではあったが、ここ数カ月のエリアルドはそれまでと雰囲気がまるで違う。
「あのガンダムはディーヴァに配備されてこそ意味があるからな」
ガンダムAGE-2にはAGEシステムが搭載されている。
今はAGEデバイスがないため、AGEシステムは稼働していないが、現在AGEデバイスを保有しているアセムがもうじき高校を卒業し、連邦軍に入隊する事が決まっている。
その時にアセムの専用機として運用されるだろう。
「整備が終わればディーヴァへの搬送の準備に入るから、先に休ませて貰う」
エリアルドはそう言い待機室を出て行き、アルべルトとレオーネはそれを見送るしかなかった。
その日、トルディアの各学校では卒業式を執り行うところが多い。
それはアセムやマリィの通う高校も例外ではない。
卒業式を前にアセム達は高校生活の三年間の思い出の詰まったMSクラブのガレージを見収めとして訪れている。
そこには大会で使った競技用の小型MSが置かれているが、前に来た時とは違い、MSに飾り付けがされており、MSには「ご卒業おめでとうございます」と書かれた垂れ幕を持っている。
「何だよこれ」
「1年生のサプライズじゃないのか?」
「まぁ、そうでしょ」
アセム達が2年生の時は後輩はいなかったが、3年生になった時に1年生がかなりの数、MSクラブに入部した。
尤も、その大半がマネージャーのロマリーか、マリィ目当てで女子もゼハート目当てにマネージャーで入部した。
だが、MSクラブの活動内容はそれで付いて行けるほど、甘い物ではなく大抵は一ヶ月以内に辞めて行った。
しかし、その中でも数人は本当にMSが好きで入部した後輩もいた為、そんな後輩はこの1年間、必死について来る事が出来た。
その間に先輩であるアセム達は後輩に自分達が卒業してもやっていけるように出来るだけ鍛え、少し前に自分達が卒業してもMSクラブの活動をやって行ける事を告げて引退して、後輩にMSクラブを引き継がせた。
そして、この状況は恐らくは卒業生であるアセム達がいない内に飾り付けて、卒業式の後に後輩達が自分達を招いて卒業を祝うつもりで居たのだろう。
「そう言えば、式に後にガレージに来て欲しいって言ってたな」
「だったら式の前に来る? 普通そう言われたら、サプライズをするって分かり切ってるでしょ。私達の時もしたし」
「仕方がないだろ。今日で卒業だと思うと最後に見ておきたかったんだよ」
アセム達も入学した時はMSクラブに3年生しかいなかったが、その3年生が卒業する時に同じようにサプライズをしていた。
だが、卒業式と言う特別な日であるため、アセムは完全にその可能性を失念していた。
「アセムの気持ちも分からなくはないな。ここはいろんな事があったからな」
ゼハートもアセムに同調する。
ゼハートにとっては初めはアセムに近づく為にMSクラブに入ったが、ここでの1年半はゼハートにとっても忘れる事の出来ない思い出をなっていた。
「ここにある写真、貰って良いかな?」
ロマリーがガレージのホワイトボードに張ってある写真の一枚を剥がす。
ホワイトボードにはMSクラブの活動の時に何気なく取った写真が何枚も張られている。
それらは、確かにアセム達がここにいたと言う証明だ。
「データは送っただろ?」
「ここにあるのが良いの」
ホワイトボードに張られている写真は取った物をプリントアウトした物でデータは別にあり、それらはMSクラブの部員で共有している。
だが、ロマリーにとってはここに貼られている写真である事が重要で大切な思い出だ。
「ロマリーは進学するんだろ?」
アセムは卒業式と言う事もあり、何気なくそう尋ねる。
すでにMSクラブの卒業生はそれぞれに進路が確定している。
アセムとマリィは軍に入隊、ロマリーは大学への進学、シャーウィーとマシルもロマリーとは別で高校の近くの大学に進学、ゼハートも表向きは別のコロニーの大学に進学することになっている。
「そのつもりだったんだけどね……」
「どしたの?」
「考えたい事があって……暫くはうちにいる事にしたの」
ロマリーは自分の明確な目的を持っている考えているマリィを見ていて、その内自分の本当にやりたい事は何だったんだろうと考えるようになっていた。
その為、進学は一時的に保留として自分のやりたい事を見つめなおす事にしていた。
「アセムとマリィは軍に入隊するんでしょ? いつから」
「休みが終わってからかな」
「戦争中だから、場合によっては休み中に召集がかけられるかもだけどね」
「お前……軍に入るのか?」
3人の話を聞いていてゼハートがそう言う。
マリィがMS開発の関係の仕事につく為に軍に入る事は知っていたが、アセムが軍に入る事は初耳だった。
ゼハートはてっきり士官学校に進学するとばかり思っていた。
「言って無かったっけ?」
「ああ……」
「こんな状況だからな。士官学校に入るよりは良いと思ってな。父さんも認めてくれてる」
1年半前まではそんな事は全く思わず、士官学校に入って軍人になる道を進めるフリットを煩わしいとも思った事もあるが、実際にガンダムに乗ってヴェイガンと戦ってアセムは戦わなければ何も守る事は出来ないと知った。
そして、自分には戦うだけの力を持っている。
「また、父さんか……言いなりだな、お前は」
ゼハートは少し苛立ち棘のある言い方をしてしまう。
「そんな事は無いさ。軍に入るのは俺が自分で考えて決めた事だ」
確かにきっかけはフリットが士官学校に進学する事だったのかも知れないが、アセムはアセムなりに考えて軍に入隊すると言う事を選んだ。
「俺でも多くの人を助ける事が出来ると思ってさ」
「兵士になる以外にも方法は沢山ある。医者にだって人は助ける事は出来る。政治家にだってだ。戦うって事は慈善事業じゃない」
もしも軍人になると言う事は遠からず、ゼハートと敵対して戦場で出会う事になる。
ゼハートはそれを認める事が出来ない。
「分かってるさ。今は戦争だろ。戦う事が一番の近道だ」
実にアセムらしい答えだと思う。
アセムは誰かを助ける事が出来るのならば、自分の命を平気で危険に晒せる。
そして、戦う事が誰かを救う一番の近道である事はヴェイガンの兵士であるゼハートも十分に理解している。
ゼハートもまた、故郷の為に戦う道を選んだのだから。
「アセムは自立するんだ。偉いなぁ」
「組織のトップは父親だけどね」
「自分に出来る事があるって分かった気がするんだ……カッコつけ過ぎかな」
「つけ過ぎ」
マリィはアセムにちゃちゃを入れるが、ロマリーには何か思うところがあるようだ。
そして、ゼハートも内心は複雑だ。
そうこうしている内に卒業式の時間が迫り、4人は会場に向かう。
卒業式が始まり、式は順調に進んでいる。
卒業証書の授与が始まり、卒業生達は壇上で証書を受け取る。
生徒の他には保護者も式に出席し、子供達を見守る。
中には卒業式の独特の雰囲気に当てられてすすり泣く声もちらほら聞こえる。
そして、卒業式も終盤になり、校長がいつものきまぐれを起こして、アセムとゼハートは壇上に上がる事になっている。
壇上に上がったアセムに校長がマイクを渡すとアセムは卒業生の前を向く。
「俺は……あの……その……」
本来は壇上に上がって卒業生の前で話す予定は無かった為、アセムは言い淀む。
そして、頭の中で考えるよりも自分の今の気持ちを話す事にする。
「俺はここで過ごした3年間を多分……一生忘れないと思う。だから友達に……みんなにお礼を言いたい! ありがとう!」
アセムがそう言うと卒業生の声援が上がる。
恐らくは、卒業生も皆同じ思いなのだろう。
これから、皆はそれぞれの道を進む事になるだろうが、高校3年間の事はいつまで経っても忘れる事は無く、心に残っていくだろう。
そして、何も考えずに思うままに言ったが、自分で言った事を思い出すと物凄く恥ずかしい事を言っていた事に気づき、アセムは真っ赤になる。
恥ずかしさで自分と同じように壇上に登っているゼハートの方を向くとゼハートも頷く。
恐らくはゼハートも同じなのだろう。
そう思うと少しは恥ずかしくは無くなる。
「なに今更かしこまってるんだよ!」
「二人ともただのMS馬鹿じゃないか!」
シャーウィーとマシルが壇上の二人にそう言う。
「何がありがとうだ! ずっと振りまわされてたこっちの身にもなって見ろ!」
「全くよ」
「シャーウィー! てか、マリィが一番俺達を振りまわしてたろ!」
アセムも負けじと言い返す。
この3年間で一番振りまわしていたのは確かにマリィだ。
アセムの場合はそれ以上の時間を振りまわされて来た。
学生時代だけでも、勝手に競技用のMSを弄ってバランスを悪くしたり、初対面のゼハートにプロポーズをしたり、学園祭では勝手に模擬転の出店を生徒会に提出し、アセムとゼハートは執事服を着て接客をさせられた。
その他にも数えれば切りがない。
「お前らのお陰で楽しかったじゃないかよ!」
シャーウィーはそう言って被っていた帽子を壇上に投げる。
それを皮切りに卒業生は壇上に帽子を投げる。
すでに式は滅茶苦茶ではあるが、この卒業式は皆の心に残る一生の宝になるであろう。
だが、そんな時間も長くは続かなかった。
式場のドアが大きな音と共に開き、先ほどまでの騒動と打って変わり、式場はしんと静まり返る。
ドアを開いたのはトルディアの憲兵隊だった。
憲兵隊は式場に入るとゆっくりと壇上に上がる。
卒業生やその家族は何が起きているのか理解出来ないが、憲兵達はゼハートの前で止まる。
「ゼハート・ガレットだな。軍機密法違反……即ちスパイ容疑で身柄を拘束する」
憲兵のその一言で式場は先ほどとは違う意味で騒然とする。
憲兵達の目的はゼハートでゼハートがスパイであると言うのだ当然の反応だ。
「どう言う事ですか!」
アセムが我に帰り、憲兵に噛みつく。
ゼハートがスパイなどアセムには到底信じられないからだ。
「スパイ容疑と言っただろう。それどころか、コイツ自体がヴェイガンかも知れん」
「ゼハートは違いますよ! 俺の友達なんだ!」
「貴様……大人しくしておいた方が身のためだぞ。幾ら、父親がビッグリングの司令官だろうと、スパイを庇って無事では済まない。無論、その父親もな」
憲兵はアセムにそう言う。
アセムもフリットの事を出されれば、反論は出来ない。
「1年半前、貴様がコロニーに来てから、すぐにヴェイガンの襲撃を受けた。その上、それ以降不審な暗号通信を頻繁に傍受している。攻撃の前後にはその数が増えている。言い逃れは出来んな。弁明があるのなら基地で聞いてやる。聞きたい事も山ほどある事だしな」
「待って下さい!」
アセムはゼハートの前に出る。
確かに憲兵の言っている事は強引だが、ゼハートを疑う理由としては十分だ。
だが、だからと言って黙っている訳にはいかない。
例え、その結果としてフリットに迷惑をかけようとも友達を見捨てるよりはマシだ。
「時期が同じだった。たったそれだけでゼハートを疑うんですか?」
「少しでも嫌疑があれば取り調べる。それが任務だ」
すでに疑わしい人物はゼハート以外にも調べているが殆どが白と断定している。
そして、ゼハートの疑いは完全に晴れた訳ではない。
その為、憲兵はゼハートを連行して取り調べとしようとしている。
「ヴェイガンな訳ないでしょ! ずっと俺達は一緒にやって来たんだ!」
「アセム……」
一緒にやって来たとは言え、常に一緒にいた訳ではないため、アセムの証言でゼハートの疑いが晴れる訳ではないが、アセムは憲兵に証言する。
そんなアセムの事をゼハートは信じられない物を見ているかのように見る。
憲兵の話を聞けば少なからず、ゼハートに疑念を持つのは当然の流れだが、アセムは自分に対して一切の疑念を持っていない。
アセムは話が理解出来ないほどの馬鹿ではないと言うのにゼハートの事を疑おうとはしていない。
「捜査の邪魔をするな。お前も一緒に連行されたいか?」
憲兵がそう言うと流石に横暴に感じたのか生徒達が騒ぎ始める。
「ゼハートが俺達を騙してたって言うのか! 馬鹿にするなよ! ゼハートはそんな奴じゃない!」
あくまでもゼハートを信じるアセムを前にゼハートも覚悟を決めようとするが、銃声が会場に鳴り響く。
その銃声で会場の人達は皆、その場に伏せるとして、会場にはダズが憲兵に銃を向けている。
ダズは潜入しているとは言え、折角のゼハートの卒業式であるため、保護者に紛れて見に来ていたが、憲兵の登場でゼハートが逃る事が出来そうに無くなっているので、憲兵の注意をゼハートから自分に反らすために騒ぎを起こした。
憲兵はダズに銃を向けるがダズは一番近くにいたロマリーを盾にした為、憲兵も撃つに撃てない。
そして、ロマリーを人質に取ったまま、ダズはゆっくりと出口まで下がる。
出口まで来るとダズはロマリーを解放して逃走を図る。
ダズが逃走した事で憲兵もダズを追って会場を後にする。
「ロマリー!」
憲兵がダズを追い会場からいなくなるとアセムとゼハートは解放されたロマリーの元に駆け寄る。
「大丈夫?」
「うん……」
マリィも駆け寄り、ロマリーの無事を確認するが流石に敵兵に人質に使われた為、恐怖の余り腰を抜かしている。
「アセム……お前は俺を疑う気持ちは無かったのか? どうして俺をそこまで信じられる」
ゼハートは先ほどの疑問を口にする。
ゼハートを疑う要素はあった、だがアセムはゼハートがスパイだと微塵も思ってはいなかった。
ゼハートにはそれが不思議で仕方がない。
「だって友達だろ」
アセムは考える事も躊躇う事もなくそう言う。
友達、アセムにはゼハートを信じるのにそれ以上の理由は必要はなかった。
アセムはそれだけ言うと腰を抜かして立てないロマリーを抱き上げて保健室に向かう。
「アイツはそう言う奴なんだよ」
マリィもそう言ってアセムを追いかける。
ゼハートはそんな三人の背中を見ながら、会場から去っていく。
卒業式の会場を脱出したゼハートはダズと合流していた。
ゼハートはゼダスRに乗り込む。
「ダズ、騒ぎを起こしてくれて助かった」
もしも、ダズが騒ぎを越さねば、ゼハートは憲兵隊に拘束されていた。
「すでに待機させておいた、ドラド隊には連絡を入れて起きました。我々はこのままトルディア制圧任務に」
「分かった。指揮は私が取る」
ゼハートは制服の首元を緩めると共に在校生によって卒業式の前に胸に付けられた紙の花を取る。
そして、トルディアでの学生生活が頭を過ぎる。
MSクラブでアセム達を他愛もない普通の生活は今日で終わりとなる。
これからはヴェイガンのゼハート・ガレットとして故郷の為に戦う事になる。
「思い出か……長く留まり過ぎたか」
その思い出はこれからの戦いには邪魔でしかない。
ゼハートはその紙の花をここでの生活を決別するために握り潰す。
「ゼハート・ガレット、ゼダスR……出る」
ゼハートはヴェイガンの兵士として戦場へと向かう。
ゼハート達がMSを使った事で連邦軍のMSも出撃している。
1年半前まではアルベルトの機体しか配備されていなかったアデルも度重なるヴェイガンの襲撃の為に数機配備されている。
アデルはゼダスRにドッズライフルを放つが、ゼダスRはかわしてビームバルカンで応戦する。
ビームバルカンで砂塵が上がり、ゼダスRを見失ったアデルをゼダスRはビームサーベルで両断する。
「あそこには……」
アデルを撃破し、飛び上がるとモニターの端に高校が見える。
「私の欲しかった物があったのかも知れない」
アセムやマリィ、MSクラブの仲間との時間はゼハートにとっては今までは欲しても手に入れる事の出来なかった掛け替えの無い時間だった。
「だが、私は故郷の惨状を忘れる訳にはいかない。仮初めの休息など!」
ゼハートはあの場所での仮初めではあったが、掛け替えの無い時間の事を振り払おうと戦う。
ゼハートは自分の意思で故郷の為に戦う道を選んだ戦士だ。
戦士である以上、仮初めの平和など必要はない。
ゼダスRはアデルにビームサーベルで切りかかるが、ヴェイガンの襲撃を知ったアセムの乗るガンダムAGE-1のドッズライフルで横槍を入れられる。
「ヴェイガンは出て行け!」
AGE-1はゼダスRにドッズライフルを放ち接近する。
ゼダスRはかわしながら、ビームサーベルでドッズライフルを切り裂く。
だが、AGE-1はドッズライフルのバレルをパージしてハンドガンモードでゼダスRに至近距離でビームを撃ち込むが、ハンドガンモードの威力ではゼダスRの装甲に損傷を与える事は出来ずにドッズライフルを捨ててビームサーベルを抜いて切りかかる。
「ガンダム……アセムか!」
AGE-1とゼダスRは何度もビームサーベルで切り結ぶがゼダスRはゼダスソードを抜いてAGE-1のシールドを両断する。
AGE-1はシールドを切り裂かれつつも、ビームサーベルを振るいゼダスRを攻撃するが、ゼダスRはまるでAGE-1の動きを見切っているかのようにビームサーベルをギリギリのところでかわす。
「コイツ……全部見切っているのか」
AGE-1はシールドをゼダスRに投げつけてゼダスRはシールドを腕で払いのけた隙にもう一本のビームサーベルを抜いてゼダスRに突っ込む。
「反応が遅い」
その攻撃をゼハートは見切る事が出来るが、肝心のゼダスRはゼハートの反応速度には付いて来てはいない。
その為、その一撃はゼダスRを掠りゼダスRはAGE-1と大きく距離を取る。
「ガンダム相手では誤魔化しは聞かないようだな」
今まではゼダスRの反応速度が自分に付いてこなくても何とか誤魔化せて来たが、相手がガンダムがならばそう簡単にはいかない。
パイロットのアセムもこの1年半の間に実力をつけている為、連邦軍の一般の兵よりも強い。
「やれる!」
アセムはこれまでの訓練で確実にゼダスRと戦える事を確信し、一気に攻勢に出る。
「戦闘が近くなってるわね。何やってんのよ。あの馬鹿は」
保健室では戦いに出たアセムの代わりにマリィがロマリーに付いているが、戦闘が高校の近くまで迫っている事が外の戦闘の音から推測出来る。
「アセムは戦っているの?」
ロマリーはベットから起き上がる。
少し休んだ事で落ち着いて、起き上がる事くらいは出来るようになっている。
「ええ……だけど、ここも安全じゃ無くなって来たわ。ロマリーも動けるなら安全なところに避難するわよ」
「うん」
マリィはロマリーに肩を貸して、保健室を出て行く。
その道中、高校の中庭を通っている時にゼダスRと揉み合いになったAGE-1が中庭にまでもつれ込む。
「何やってんのよ!」
マリィはロマリーを抱えて近くの木の影に隠れる。
AGE-1はゼダスRに押し倒されて、喉元にゼダスソードを突き付けられている。
「終わりだ。アセム」
「俺の名前を知っている……」
ゼハートはAGE-1に通信を繋ぐとそう言う。
アセムも敵のパイロットが自分の名前を知っている事に困惑し、その声を自分の知る相手である事までは気がつかない。
「お前は戦いに出て来るような奴じゃない」
「ゼハート……ゼハートなのか!」
アセムはようやく、敵のパイロットの声がゼハートの声に似ていると気づく。
その事を否定したかったが、そうはいかなかった。
ゼダスRのコックピットが開き、そこからはゼハートが出て来る。
流石にこの状況ではゼハートがヴェイガンである事を否定する事は出来ない。
「どうして……」
アセムは茫然としながら、AGE-1から降りる。
「どうしてゼハートがそのMSに乗ってんだよ! お前は本当にヴェイガンだったのか!」
それでもアセムはゼハート自身にヴェイガンである事を否定して欲しくて叫ぶ。
だが、現実は非常だった。
ゼハートの口からはアセムが尤も聞きたくない言葉が出て来る。
「そうだ。俺はヴェイガンの人間だ」
「どうしてなんだよ!」
「生まれて来る世界が違ったんだ」
「俺達を騙していたのか!」
アセムは叫び、ゼハートは戦士である覚悟を決めたが心が痛む。
「アセム……俺はあのままお前と友達でいたかった。だが、俺には戦士として背負う物があるんだ。それは決して譲る事は出来ない」
アセムと友達でいたかった事はゼハートの嘘偽りの無い本心だ。
しかし、ゼハートにはヴェイガンの兵士として背負っている物があった。
それを捨てる事はゼハートには出来ない。
だからこそ、ここでの仮初めの平和を振り払った。
「アセム、お前にはあるのか? それだけの理由が……覚悟が! 俺だと知ってお前は俺を撃てるのか!」
アセムはゼハートの問いに答える事が出来ない。
だが、ゼハートにはアセムが撃てない事は分かっていた。
それはアセムに理由や覚悟がないからではない。
アセム・アスノはそう言う人間だからだ。
命の危険に晒されれば相手が自分やその周りを不快にさせた相手での迷う事なく手を差し伸べられる。
そう言う優しさを持った人間だからだ。
だからこそ、敵であるゼハートを撃つ事は出来ない。
「お前は優し過ぎる。戦うべきじゃない」
ゼハートはアセムとは戦いたくない、それ故にアセムを何とか戦場から遠ざけたい。
「けど!」
アセムは何とか反論しようとするが、二人は木の影にマリィとロマリーの姿を見つける。
二人の位置的にゼハートも見えているだろう。
ゼハートはアセムの言葉を聞く前にゼダスRに乗り込む離脱して行く。
「ゼハートォォォォ!」
アセムは叫ぶが、ゼハートのゼダスRは止まる事なく、上昇して行く。
「アセム……」
ゼハートも地上で倒れているAGE-1のコックピットハッチでこちらを見上げているアセムへの情を振り払うかのようにトルディアを離脱して行く。