ヴェイガンの二度に渡る襲撃を何とか退いたディーヴァは目的地のビッグリングに到着することが出来た。
それ以外の連邦軍の戦艦もビッグリングに集結している。
その中に特研所属の戦艦『グノーシス』の姿もある。
「凄い数ですね」
「近々、ヴェイガンの大規模攻撃があるって噂の影響ね」
ブリッジからも通常時よりも多くの戦艦がビッグリングに集まっている事が分かる。
前々から軍内部で情報部がヴェイガンのビックリングへの大規模攻撃作戦の噂があり、それに備えてであり、その噂がただの噂ではなく、信憑性の高いものであると窺える。
「艦長、ビッグリングより入電です。本艦のドックへの入港許可が出ました」
「意外ですね。うちはもう少し待たされると思ったんですけどね」
副長席のアーノルドがそう呟く。
グノーシスは通常の指揮系統から外れ、クライドの思惑で作戦に強制介入することもあって、ビッグリングでは煙たがられている。
今回もこれだけの数の戦艦がビッグリングに集結している為、グノーシスがビッグリングに入港出来るのは相当待たされると思っていたが、以外にも早く入港許可が出ている。
「指令部もうちに嫌がらせをしている暇がないって事でしょうね」
余裕があれば嫌がらせで長時間待たされることもあるが、その余裕もなく早いところグノーシスをビッグリングに入港させて、グノーシ
スがビッグリングに持ち込む予定の新型機を実戦投入したいのだろうとエリーゼは予測する。
「何にせよ。こっちも準備しないといけないから、都合が良いわ」
グノーシスはビッグリングへの入港許可待ちの戦艦の横を抜けてビッグリングに入港する。
「もう許可が出たのか?」
グノーシスの格納庫でクライドはグノーシスに搭載してビッグリングに搬入予定の新型機「ガンダムZERO Ⅲγ」の最終調整を行っていた。
α、βに続くガンダムZERO Ⅲの三号機のγは砲戦特化型のMSとなっている。
胴体のコアファイターはα、βと共通でウェア換装システムと採用し、二機とは違い全周囲モニターを採用しておらず、従来の連邦軍のMS同様の操縦系統が採用されている。
両腕のウェアは両肩の小型フォトンキャノンを装備し、腕には肘から下には従来のMSの様なマニュピレーターではなく、大型のフォトンランチャーとなっている為、バックパックのビームサーベルを使う事は出来ず、ビームガンとしてしか使えないようになっている。
脚部のウェアには膝の部分に小型フォトンキャノンを装備している。
γの装備している火器はビームガンとビームバルカンを除いてはディーヴァに搭載されたフォトンブラスターキャノンを応用した火器のMSへの搭載の検証機となっている。
これだけの火器は同様にフォトンブラスターライフルを装備出来るガンダムZERO Ⅲαでも出力不足だが、γにもα同様にAGEドライヴがコアファイターに搭載され、リミッターで出力を抑えているα以上の出力を出せるようにAGEドライヴの出力をリミッターで調整している。
その為、MSの火力としてはブラスターアーマー以上の火力を持つが、その半面、近接戦闘用の武器がビームサーベル以外の装備しておらず、そのビームサーベルもマニュピレーターがない為使用出来ない為格闘戦が全くと言って良いほど出来ず、ウェアの重量が重く、スラスターの強化もされていないので機動性能も恐ろしく低い。
その他にも格納庫には改修されたガンダムZERO Ⅲαやアデル・ストライダーも置かれている。
改修されたガンダムZERO Ⅲαは見た目こそ変化はないが、内部の部品も特研で開発された最新の物を使い、AGEドライヴのリミッターの調整で以前よりも出力が上がっている。
そして、武装はスーパードッズライフルをAGE-2に実装されたハイパードッズライフルに変更されており攻撃力が強化されている。
アデル・ストライダーは特研でAGE-2を開発の際に試作で製造されたAGE-2の通常ウェアをアデルに装備した形態だ。
AGE-2のようにストライダー形態に変形することは出来ないが、アデル改よりも高い機動力を持つのでRGライダーの穴を埋める為にそのウェアに換装されている。
だが、ハイパードッズライフルはアデルのジェネレーターでは数発しか使えない為、ライフルはGバウンサー用のドッズライフルを装備している。
「見たいです」
「なら、俺もここで遊んではられないな」
クライドはグノーシスの整備班にガンダムZERO Ⅲγの最終調整を任せるとビッグリングに降りる準備を行う。
グノーシスが入港し、グノーシスに搭載されていた新型機のガンダムZERO Ⅲγはディーヴァに運ばれていた。
新型機である次世代のMSの検証機でもあるγのパイロットにディーヴァ所属のマリィが指定されたからだ。
搬入されたγの整備法などは従来のMSとは勝手が違う為、担当の整備士達はその手順を覚えなくてはいけないので大忙しとなっている。
「私の新型のガンダムかぁ……」
「さっきまで、新旧二機のガンダムが揃ってたけど、新型同士が並んでいるのも良いよね」
搬入されたγを見上げてマリィとその隣で、ディーヴァの整備士の一人レミ・ルースがそう言う。
ディーヴァに配属されてから、マリィは度々格納庫に遊びに来ており、年も近いレミとは仲良くなっていた。
「さっき、ディケ中尉に機体のデータを見せて貰ったけど、この新型機の火器はディーヴァのフォトンブラスターキャノンの技術を応用されているみたい」
「ほんと、格闘戦をガン無視した火力特化型ってところが、私好みだよね。パパもその辺りは分かっているよね」
実際はマリィの好みに合わせて設計した訳ではないが、砲撃型のMSが好みのマリィにとっては最高のMSと言えるが好みに反してマリィの射撃の腕は素人並みである事を知っているレミは苦笑いするしかない。
「これが新型のガンダムか……」
ビッグリングから一足先に戻ったオブライトが新型のガンダムがディーヴァに配備された事を知り、見に来ていた。
「もう帰って来たんですか?」
「ああ……マリィは行かなくて良いのか? アスノ局長もビッグリングに来ているらしいぞ」
オブライトはふとマリィの隣のレミに視線を向ける。
ディーヴァには多数の整備士がいて、各機の担当に分けられている為、オブライトはレミの事を自分のジェノアスⅡの担当整備士の一人
と言う認識でまともに話た事は無かったが、こうして直接対峙するとレミに見とれてしまった。
「パパが来てるんですか」
「ああ……」
オブライトはマリィに対して曖昧な返事をする事しか出来なかった。
そんな様子を知る良しもないマリィはレミに分かれを告げてビッグリングへと向かう。
エリアルドはディーヴァがビッグリングの到着して、グノーシスもビッグリングに入港すると、すぐにグノーシスに戻って来た。
そして、格納庫のガンダムZERO Ⅲαに向かう。
事前に改修によって機体の性能が若干向上している事は聞いている為、戦闘になる前に調整しておきたかったからだ。
「今回、パーツを交換した事は大して気にする事は無いが、AGEドライヴの出力が向上してる。そこんとこは頭に入れて動かせよ」
ジゼルが以前との相違点をエリアルドに説明し、エリアルドは機体のシステムを立ちあげて確認する。
「実際に動かせませんか?」
「無理だな。エリアルドも噂くらい聞いてんだろ」
「ビッグリングへの大規模攻撃の事ですか?」
「その噂はどうもまんざら適当って事もないらしい。上は向かえ討つ準備で忙しいみたいだからな。ビッグリングに戦力が集中してんのも
その為らしい。こんな状況で実際にMSを動かす許可はそうそうでないだろうな」
エリアルドとしては実際に機体を動かして感覚を掴みたかったが、状況が状況な為、許可は出ないだろう。
「まっお前なら少し動かせば感覚を掴む事は出来るだろ」
「だと良いんですけどね」
出来ない事で駄々をこねる訳にも行かず、エリアルドは機体のデータを見て頭の中で感覚を修正する。
ビッグリングでアセムは強化訓練プログラムを受けていた。
そのプログラムはフリットが発案し、パイロットの適正を判断し総合的に高い能力を持ったパイロットを育成すると言う物だ。
MSの性能では依然、ヴェイガンの方が上で連邦軍は一部の高性能機や熟練のパイロットで何とか持っていると言うのが現状だ。
その現状を打開するために、訓練プログラムをビッグリングで実施していた。
本来は5年以上のMS搭乗経験者を対象にしているのだが、本人が望めばアセムのように新人でも受ける事が可能だった。
その訓練プログラムは単にパイロット適正を判断するだけでなく、Xラウンダーの適正も判断されると聞いてアセムも父やゼハートのようにXラウンダーの適正があるかどうかを知るべく参加した。
ディーヴァからはアセムとアセムに対抗意識を持つマックスが訓練プログラムを受けている。
一通りの訓練を受けたアセムは後は結果を待つだけになったところでビッグリング内で偶然にもロマリーを出くわし、ディーヴァに配属になってからはまともに話す機会もなかった為にビッグリング内の展望デッキでゆっくりと話している。
久しぶりに話す二人だが、特に意識はしていなかったが、話題にゼハートの名前が出て来た為、二人の空気は重くなる。
「この前の戦闘で出て来た赤いMS……アレにゼハートが乗ってた」
「まさか……ゼハートと話しが出来たの?」
トルディアでゼハートはゼダスRに乗っていたそれとは違うMSに乗っていてそのMSにゼハートが乗っていたと言う事を知っていると言う事はゼハートを話したと言う事になる。
ロマリーにそう言われてアセムは頷く。
「ゼハートは……変わってたよ」
「そっか……」
ゼイドラに乗っていたゼハートはアセムやロマリーの知っていたゼハートではなかった。
アセムもゼハートがヴェイガンだろうと何も変わっていない事を信じたかったが、この前の戦闘でゼハートが自分達の知るゼハートで無くなっていた事を痛感させられた。
「何やってんの? 二人でさ」
ゼハートが変わってしまった事をアセムが口にしたところで更に空気が重くなったところにビッグリング内でクライドを探すマリィがやって来る。
「マリィ……」
「どったの? ああ……ひょっとして私、お邪魔?」
「そんな事はないけど……」
話題が話題なだけにアセムとロマリーは話の内容をマリィに言い辛い。
「アセムの癖に私に隠しごと? だったら、私もロマリーにいろいろとアセムの昔話を暴露するけどどうする?」
マリィなら本気でやるのはアセムが一番良く知っている。
余り、マリィには言いたくない話だが、マリィにも知る権利はあると考えて話す事を決める。
「この前の戦闘でさ、赤いMSが出て来てただろ。アレに乗ってたのはゼハートなんだよ」
「ふーん。赤いMSね……」
マリィが取り乱す光景は思い浮かばないが、以外な程気にした様子は無い。
「そっか……赤いMSにゼハートがね。赤いMSは何かとアスノ家と因縁深いからね」
「どう言う事?」
「私とアセムのお爺ちゃんとお婆ちゃんが殺された時もね。赤いMSが指揮していたみたいでね。パパも蝙蝠退治戦役で赤いMSに追いかけ回されていたらしいんだよね。だから、アスノ家は赤いMSと何かと因縁があるっぽいんだよ。だから、パパもMSの色にメインでは赤を使わないんだよ」
すでに30年以上も前のヴェイガンのオーヴァン襲撃時にナーガは赤いガフランに搭乗し、クライドを執拗にライバル視していたブラッドのMSも赤で塗装されていた。
その為、赤いMSはアセムやマリィの親の代から因縁が多い色のMSと言える。
それもあってクライドは極度に赤いMSを嫌い、アクセントとして赤い色を使う事はあってもメインで赤い色を自分の開発したMSに使う事はないと言う。
「まっそんな事はどうでも良いんだけどさ……今度その赤いMSを見つけたら一発殴る」
マリィはそう言って殴る動作を行う。
「殴るって……良いのかよ。お前……」
「別に良いわよ。ゼハートがヴェイガンかどうかは大した意味は無いのよ。問題は一人で逃げた事よ。こう言う場合はさ『お前も一緒に来い!』とか言うのがセオリーでしょ?」
「どうなんだろ?」
「さぁ……」
ゼハートの事を聞いて落ち込むするなりすると思っていたが、思っても見ない事を言いだしたマリィにアセムとロマリーは対応に困る。
これが強がりで言っているのか、本気で言っているのか判断に困る。
「もしも、マリィはゼハートにそう言われたらどうするつもりなの?」
「勿論ついて行くわよ」
マリィはさも当然かのように言うが、言っている事は相当やばい事だ。
堂々と敵に付いてい来いと言われたらヴェイガンの側に行くと言っているのだ、利敵行為とみなされる危険がある。
その為、アセムとロマリーは周囲を見て誰も今の発言を聞いていないかを確認して、自分達の他の近くに誰もいない事を確認して安堵する。
「ヴェイガンのMS開発の技術は連邦軍よりも上だってパパも言ってたしね。その上ヴェイガンのMSは機密保持が徹底してるから、現物を手に入れるのが大変らしいから、ゼハートについてヴェイガンに行けばヴェイガンのMSを生で見られるじゃない」
マリィはクライド同様戦争に対して興味はない。
マリィが連邦軍に入隊したのは単に戦闘用のMSがあり、親や兄弟もいるからに過ぎず、連邦軍よりMS開発で優位になっているヴェイガンのMSを生で見る機会があるのなら、躊躇いもなくそれに飛びつくと言う事だ。
その辺りは悪い意味で父親の血を受け継いでいる。
「それなにゼハートの奴……そんな根性もないヘタレ野郎が……思いだしただけでも腹が立って来た。やっぱ二発殴る」
マリィはゼハートが自分達を騙していたスパイであった事よりも、ヴェイガンのMSを生で見られるチャンスをふいにした事に対して怒りを感じているが、その怒りの矛先は理不尽である事は間違いない。
実際、ゼハートがマリィをヴェイガンに連れて行く理由は全くない上にヴェイガンに連れて行かれたとしてもヴェイガンのMSを生で見る事が出来る訳もない。
マリィはゼハートに悪態をつきながら嵐のように去っていく。
特別訓練プログラムの結果、アセムはXラウンダー適正がDであった事を知り、自分はXラウンダーになれないと現実を突き付けられていた。
訓練プログラムの結果を見たフリットがアセムに気にすることは無いと言う旨のメッセージを送るも効果は無く、アセムは目的もなくビッグリング内を当てもなく歩いていた。
「アセム? こんなところで何やってんだ?」
「叔父さん……」
適当に歩いているとクライドと遭遇する。
クライドはアセムの様子がおかしい事にすぐに気付く。
「何かあったか?」
「そんな事は……」
アセムはそう言うが、クライドは大かたの事は知っている。
Xラウンダー適正がDだと判明した時点でフリットはクライドに相談を持ちかけていた。
戦場でXラウンダーと言うアドバンテージは非常に大きく、それの適正がないと分かればアセムもショックを受ける事は目に見えており、フリットはどうするべきか、相談したところクライドがアセムのケアを勝手出た。
「Xラウンダーになれなくてフリットに追いつけない事が相当ショックらしいな」
クライドに言い当てられてアセムは俯く。
「まぁ、俺にも似たような経験があるからアセムの気持ちも分からんでもないな」
「え?」
アセムは以外そうにクライドを見る。
アセムから見て完璧に見えるフリットも実の兄のクライドの事を尊敬している。
そのクライドが自分と同じ経験があるのは以外としか言いようは無い。
「俺達の父さん。アセムの爺さんの事は聞いてるよな」
「優秀な技術者だって……」
「元々、アスノ家はMS鍛冶としてその名を知らない奴はモグリだってくらい有名な家系だった。俺はそこの跡取りで物心付いた時から、アスノ家の後継者としての教育を受けて来た。俺にとってはそれが当たり前で、MSを弄る事は好きだったから、アスノ家を継ぐ事に苦は無かった」
クライドは幼少期から技術者としての英才教育を受けている。
幼少期に同年代の子供と外で駆けまわる事よりもMSの技術者になる為の勉強の方が好きだったと言う変わった幼少期を過ごしている。
「俺はアスノ家の後継者として相応しい技術者になる為に勉強したよ。その上、俺にはフリットがいた」
「父さんが?」
「アニキってのは見栄を張りたがる生き物なんだよな。俺はフリットの前では完璧な兄でなけれなならなかった」
クライドは常にフリットの前では完璧な兄を演じて来た。
それは兄としての見栄だ。
「フリットは紛れもない天才だよ。だからこそ、俺はフリットに追いつかれないようにしないといけなかった」
まだ、幼かったフリットは自分のように本格的な勉強をしていた訳ではなかったが、フリットもアスノ家の人間である以上、MS鍛冶としての道を父からは望まれてその為の教育を受けていた。
当時は基礎の基礎を少し習っていた程度であったが、その時からフリットはMS鍛冶としての才能の片鱗を見せていた。
クライドはフリットの兄として常にフリットより上にいる為に更に勉強に励んでいた。
弟に抜かされる事だけは兄の意地として絶対に避けたい事だったからだ。
「そこで俺も父親って壁にぶち当たった。俺の父さんは超一流の技術者で俺の目標でいつかは超えたい相手だった」
それはアセムも同様だ。
アセムにとってはフリットは自分の目標でいつかは追いついて超えたいと思っている。
「けど、その父さんもヴェイガンの襲撃で殺されている。その時の俺はまだガキで父さんを超えたなんて冗談でも言えなかった。父さんが死んだ事で俺はどこで父さんを超えたと判断すれば良い? その答えを出す事は永遠に出来はしない」
すでにクライドの父親はこの世にはいない。
その為、クライドはどこで父を超えたかを判断する事が出来ない。
父の開発したMSを超える性能のMSを開発すれば良いかと言えば、そう単純な物でもない。
この世に出回っている父の開発したMSを超えるMSを開発しても父がそれ以上のMSを開発出来ないと言う保障は何処にもない。
その可能性がある以上はクライドはどこまで行っても父を超えたとは思えない。
父から受け継いだAGEドライヴを完全に解析してそれ以上の動力炉を開発して量産してもクライドは納得しないだろう。
それはどこかで折り合いをつける事ではあるが、興味の無い事は何処までも適当なクライドだが、技術開発の点においては一切の妥協はしない。
「その点、アセムは幸せだよ。アセムには超えるべき父の壁が見えているのだからな」
父を超える事が永遠にない、クライドに比べればアセムは超えるべき父が目の前に存在している。
「けど、諦めて足を止めればフリットを超える事は一生ないと言う事は断言出来る。アイツは未だに前に進み続けているからな」
「でも……Xラウンダーにはなれない。なれないなら父さんを超える事なんて無理だよ」
アセムにとってはXラウンダーになれないと言う事はそう思わせるだけの事だ。
「Xラウンダー能力なんてのは、所詮は一つのファクターに過ぎない。例えば、アセムの隊の隊長のウルフもXラウンダー能力を持たない。けど、Xラウンダー能力を持つ俺よりも強い。結局、Xラウンダー能力なんてのは大した問題じゃないんだよ」
確かにウルフの実力はアセムも知っている。
だが、フリットやゼハートがXラウンダー能力を持っている以上、それを持っていない自分に劣等感を持たざる負えない。
「まぁ、俺が言ったところでどうこうなる問題でもないけどな。これはアセムの気持ちの問題だ。だけど自分の限界を自分で決めたらそこが本当に限界になってしまう。逆を言えば自分の限界は自分で決められるって事だ。だったら、その限界は誰よりも上だって自分で決めればそいつは誰よりも上に行けるって事だ」
クライドが常に自分の才能を信じて来たがそれは才能ある者の理屈だ。
才能や実力の無い者が同じ事をしてもそれは単に驕りでしかない。
「技術の世界でも絶対に不可能と言う事は存在する。けど、別の視点から別のやり方をすれば出来るって事は以外と多いもんだ。アセムもXラウンダー能力でフリットを超える事が出来ないと思うんなら別の方法で別の道でフリットを超えれば良い」
「そんな事言われたって……俺には……」
クライドの言っている事も分かる。
だけど、アセムのはその道が分からない。
フリットの背中を見て、それを追って来たアセムにとってはフリットと同じ道以外にフリットを超える道は見えない。
「今はそれでも良いさ。悩むのも迷うのも若者の特権だ。その結果、決めた事が間違っていたのならまた、悩んで迷って別の道を模索すれば良い。それが出来るのも若いうちだけだ。俺らくらいの年になるとそんな事は出来なくなって来る。だから、今は死ぬ程悩め。アセム」
クライドは言いたい事を全て言った為、アセムの肩を叩いて去っていく。
「こう言う役目はキャラじゃないんだけどな」
アセムと別れたクライドはビッグリング内の格納庫に来ている。
そこにはディーヴァから移送されたガンダムAGE-1が置かれている。
「兄さん。アセムは?」
「さぁな。俺はやれるだけの事はやったさ」
すでに格納庫で待っていたフリットにクライドはそう言う。
「本当なら、こう言うのは父親の役目だぞ」
「済まない。こう言う時はどうしたらいいかイマイチ分からないものでな」
「無理もないけどさ」
フリットは一番、難しい時期にはすでに両親を亡くしている。
そのせいでこう言う時に息子にどう接すれば良いかが良く分からない。
「後はアセム次第だよ。このまま潰れるか一皮剥けるのかはな」
「そうか……」
それならば、フリットに出来る事はアセムが一皮剥けて成長する事を信じるだけだ。
「それで兄さん。このAGE-1を頼んでいたようには?」
「誰に言ってんだ。完璧に仕上げて見せるさ」
ここにAGE-1を持ちこんだ理由はAGE-1に搭載しているAGEシステムを取り外すためだ。
今はAGEシステムは凍結されているが、使わないシステムをいつまでも搭載いても意味がない。
元からAGE-1に備わっている情報収集能力や通信機能は指揮官用のMSとしては最適と言っても良い。
それを利用する為にAGEシステムを取り外して指揮官用MSとして生まれ変わらせると言う事だ。
その為の作業の為にクライドはわざわざオーヴァンからビッグリングにまで出て来ている。
「兄さんも分かってると思うが敵もそう待ってはくれない筈だ」
「分かってる。やって見るさ」
すでに敵がビッグリングに大規模な攻撃を開始すると言う情報は掴んでいる。
その戦いに敗北することは許されない。
防衛の為に地球に下すつもりだったディーヴァをビッグリングに止め、グノーシスにも来て貰った。
守りを盤石にする為には、AGEシステムを取り外したAGE-1も必要となって来る。
「頼む」
この場はクライドに任せるしかない。
それぞれ、立場がありその立場からやるべき事もある。
ビッグリングの司令官であるフリットが今、すべきことはここでクライドの手伝いをする事ではない。
司令官として考えられる状況を予測し、その状況に合わせた策を練り対策を行う事だ。
フリットはAGE-1の改良をクライドに任せて格納庫を出て行く。