ヴェイガンのビッグリングへの侵攻作戦は連邦軍がビッグリングを守り切り失敗に終わった。
その戦闘で両軍に大きな被害をもたらし、戦場となったビッグリングの周辺には破壊された両軍のMSの残骸が今も漂っている。
「アスノ局長。解析結果が出ました」
「ご苦労さん」
クライドは戦闘で破壊されたヴェイガンのMSやファ・ボーゼ級の残骸の回収を指示し、回収された残骸の解析作業を行っていた。
ヴェイガンのMSは戦闘中で破損した部分を切り離して自爆させる事で機密保持を図る為、残骸から情報を得る事は難しいが、今回は大規模な戦闘であったので回収した残骸は多くその中から少しでもヴェイガンのMSの技術を盗もうとしている。
「ファ・ボーゼ級の残骸を手に入れる事が出来た事は大きいな。上手く行けば連中のステルスシステムの情報も入る」
ファ・ボーゼ級の戦艦は通常の戦闘艦以上に強固な装甲を持つ為、撃沈する事も少なく、情報が少ない。
その為、今回の戦闘で破壊されてたファ・ボーゼ級の残骸はヴェイガンの持つステルスシステム『見えざる傘』の情報を得るのはうってつけだ。
上手く行けば見えざる傘を連邦軍でも再現し、対策を立てる事も可能になるかも知れない。
「局長。これ見て下さい」
MSの残骸の解析をしていたスタッフの一人がクライドに端末を見せる。
そこには戦闘で撃破されたドラドの残骸の解析情報が記されている。
単に解析情報だけならば、後で纏めて報告書を提出すれば問題は無いのだが、それを見せたスタッフはクライドに直接判断を仰ぐ必要があると判断していた。
「コイツは……」
「どうします? これって……」
「コイツは俺からアスノ司令に言っておく。お前は引き続き解析をやっておいてくれ」
スタッフの見せた解析情報はすぐにでもフリットに報告をしなければならない程の重要な物であった為、クライドは解析作業をスタッフに任せて指令部へと向かう。
戦闘を終えたアセム達は帰投し、ビッグリング内の通路を歩きながら、あれだけの規模の戦闘から無事に生還した事を分かち合いながら、歩いていると前方からアルグレアスと共に戦場から帰還したフリットが歩いて来る。
先ほどまで雑談をしていたが、流石に総司令の前で雑談をする訳にも行かず、雑談を止めてフリットに敬礼する。
「皆、先の戦闘御苦労だった」
フリットは立ち止まりそう言う、そして視線はアセムの方に向く。
「アセム、先の戦闘でもっと効率良く戦えば更に多くの敵を撃てた。これからは更に戦場を良く見るんだ」
「え……」
フリットからすれば、アセムへのアドバイスだったのだが、アセムからすれば必死に戦って戻ってきたら、父にその事を称賛して貰うどころか駄目だしを受けたと受け取った。
アセムにその事を伝えるとフリットはアルグレアスを司令部へと戻っていく。
「うぁ……駄目だし貰ったね。アセム」
(父さんに……俺の気持ちなんて……)
アセムは複雑な思いと共にフリットの背中を見つめる。
「これがうちで解析されたドラドの解析結果」
クライドは指令室でフリットとアルグレアスに解析したデータを見せている。
「それが何か?」
データを見る限りでは特に不信な点は無く、技術方面には最低限の知識しか持たないアルグレアスは首を傾げる。
「これに使われている技術は地球産の技術が使われている事が判明した」
「そんな事が……」
「それでアスノ局長。その技術の出所は分かっているのか?」
解析したドラドの部品には地球圏の技術が使われていた事が回収した破片から判明した。
問題はそれが何処で作られたかと言う事だ。
それにより出所はヴェイガンに通じている可能性があるからだ。
そして、クライドが直接、フリットのところまでその情報を持って来たと言う事は大かた、出所は分かっていると言う事になる。
「ソロンシティにある民間企業のテクノソロン社。この技術は地球圏ではそこでしか扱っていない。うちでもマッドーナ工房もこの技術を用いる時はそこから部品を買い付けている」
「つまり、テクノソロン社はヴェイガンと繋がっている可能性があると?」
「何処まで繋がっているかは知らんが、黒に近いと俺は思う」
ドラドにテクノソロン社でしか地球圏では扱っていない技術を使った部品が使われていた以上、テクノソロン社がヴェイガンと繋がっている可能性はある。
偶然、ヴェイガンも同じ技術を生み出した可能性もゼロではないが、可能性がある以上、白黒付けなければらなない。
「本当は俺が直接出向ければいいんだがな。そうすればテクノソロン社の内情を丸裸にした上で、この技術をうちで独占する事だって可能だ。けど、俺はグノーシスよりも一足先にオーヴァンに戻らないといけないんだよな。ブリッシュで出て来た黒いガンダムタイプのMSの尻尾が掴めそうなところまで来てるし、ガンマとAGE-2のロールアウトが終わっても仕事は山積みだからな……俺、その内過労で死ぬかも知んない」
クライドはそう言うが、その顔は水を得た魚のように輝いている。
仕事と言っても軍の仕事と言うよりも趣味の領域なのだろう。
「黒いガンダムタイプ……あの時の奴ですか」
「そっ。俺も独自に調べててさ。ようやく、あれが何なのかは掴めそうなところまで来てんだよな」
ブリッシュ公国での戦闘中に乱入して来た謎の一団の中でも異常なMSであった黒いガンダム。
クライドは仕事の傍らで、その黒いガンダムの事を独自に調査し、ある程度は何なのかは掴みかけている。
「分かった。アスノ局長はオーヴァンに戻り次第。黒いガンダムに関する調査を進めてくれ。ソロンシティには私が行く」
「そうしてくれ。そっちはフリットに任せる」
クライドとしてはテクノソロン社がヴェイガンと繋がっているか否かは差して興味は無い。
だが、黒いガンダムに関しては目下のところ最も興味を持っている事だ。
その為、クライドはテクノソロン社がヴェイガンと繋がっているかの調査はフリットに任せる。
テクノソロン社がヴェイガンに通じている可能性をクライドに指摘されたフリットはすぐにテクノソロン社への調査の為にディーヴァを派遣する。
テクノソロン社は民間企業である為、問題は非常にデリケートだ。
その為、余計な手間をかけないようにフリットの信頼も厚いディーヴァを派遣する事となった。
ソロンシティに入港したディーヴァは大人しくコロニー側の管制の指示に従い、コロニーに入港する。
そして、テクノソロン社に対して調査を行う為、ディーヴァ艦長のミレースがテクノソロン社に向かう。
フリットが直接行かないのは、ビッグリングの司令官が自ら調査に向かえば、テクノソロン社に必要以上に警戒させる事を防ぐ為だ。
ミレースがテクノソロン社で資料を確認したところでテクノソロン社も正直にヴェイガンと繋がりを示唆する資料を見せる事は無い事はすでに分かり切っている為、ミレースは囮で少しでもテクノソロン社の注意を引きつつ時間を稼ぐ事は目的だ。
その裏ではMS隊を待機させて、有事の時はすぐに戦闘に出撃出来るように準備をさせて、ウルフが単独で証拠を集めにテクノソロン社に潜入する手筈になっている。
無論、この方法は限りなく違法に近いやり方ではあるが、テクノソロン社がヴェイガンと繋がっていると言う証拠さえ確保できれば後でどうとでも出来る。
ウルフとミレースがテクノソロン社に調査に向かい、ディーヴァではウルフからの証拠発見の合図を待っていた。
すると、ブリッジにアセムが入って来る。
「アセム。待機中は自由時間ではないぞ」
「分かってます!」
アセムは開いた時間で少し、ロマリーと話しをしようとしていたが、フリットがそう言い感情的になってしまう。
「アスノ司令! ウルフ少佐から証拠発見のシグナルを確認!」
「連邦軍の権限に基づきテクノソロン社をヴェイガンに通じる敵対行為と判断し、該当施設制圧作戦を開始する。待機中のウルフ隊は出撃準備。アデルとガンマはタイタスを装備させろ。隊の指揮はオブライト中尉に任せる」
ウルフから証拠を発見した時のシグナルを確認したと言う事はウルフが何らかの証拠を掴んだと言う事になる。
つまりはテクノソロン社は黒と言う事になる。
その為、フリットはテクノソロン社のMSでの武力制圧にのりかかる。
「ちょっと待って下さい! コロニー内で戦闘なんて! そんな事をすれば市民に被害が出ます!」
フリットの指示にアセムが意を唱える。
コロニー内でMSを使えばコロニー内でMS戦になる。
そうなれば、コロニーの市民にも被害が出るかも知れない。
「アスノ伍長の意見は聞いていない。お前も出撃するんだ」
「でも!」
「敵を殲滅しなければ被害は拡大する」
「犠牲をゼロにする手段を考えるのか指揮官の仕事じゃないんですか!」
いつものアセムからは考えられないくらいにアセムはフリットに立てつく。
フリットは速やかに敵を殲滅する事で被害を最小限に抑えようとしている。
だが、最小限に抑えるだけで、被害が出ないと言う訳ではなかった。
アセムとてそれは理解できなくはない。
だが、完璧な父ならば被害を出さずして戦いを終わらせる事も可能ではないかと思ってしまい、それを考える事なく最小限の被害ならば良しとするフリットに反感を覚えての事でもあった。
「それを決めるのはお前ではない」
だが、そんなアセムをフリットは一蹴する。
「……市民を犠牲にしてもかまわないなんて! 俺は従わない!」
アセムは父に対する反感と失望から飛び出していく。
「アセム!」
明らかに出撃する為にブリッジを出て行った雰囲気でない為、ロマリーはアセムを追いかけるが、それに対してフリットは何も言わない。
今は聞き訳の無い息子の事を気にかけるよりもいかにしてこの戦闘で被害を最小限に留めるかの方が重要だからだ。
フリットの出撃命令によって待機中のMS隊が発進準備に取り掛かっている。
コロニー内での戦闘である事を考慮して、ウェア換装システムが採用されているアリーサとマックスのアデルとマリィのガンダムZERO Ⅲγはタイタスを装備している。
「タイタスかぁ……重装甲は好きだとけど、火力がねぇ……」
「文句を言うな。ガンマがいつものウェアでコロニー内で戦闘をすれば市街地への被害では済まないぞ」
マリィはフリットの指示である以上、タイタスで出撃しなければならないが、タイタスは肉弾戦に特化したウェアである為、好みではないらしい。
だが、γ専用のウェアは火力に特化しているせいでコロニー内での戦闘ではコロニーに甚大な被害を与えかねない。
アセムがディーヴァを飛び出して不在である為、ガンダムAGE-2以外の全機が出撃する。
出撃したMS隊はすぐにテクノソロン社の工場へと向かう。
すでにウルフの潜入はヴェイガンの知るところとなり、工場内に隠されていたヴェイガンのMSが起動している。
ウルフは工場内の車両を奪い、ミレースを回収してヴェイガンのMSから逃走しているが、車両ではMSから逃げ切る事は不可能で、ドラドのビームバルカンがウルフとミレースの乗る車両を襲うが、オブライトのジェノアスⅡが間に割って入り車両を守る。
その後から、二機のアデルとガンダムZERO Ⅲγが工場に到着し、戦闘が開始される。
ディーヴァから飛び出したアセムはそのまま市街地を歩いていると工場での戦闘の余波が市街地にまで広がっていた。
アセムはその様子を茫然と見上げているとアセムを追って来たロマリーが追いつく。
「ロマリー!」
感情的になり過ぎて、ロマリーが追って来た事にも気が付かなかったアセムは驚くが、戦闘の流れ弾が飛んで来てとっさにロマリーを庇う。
爆風が晴れるとそこには流れ弾で破壊された街が見える。
その光景は自分が初めてガンダムで戦ったあの日のトルディアに似ていた。
「この光景を見ても父さんは……同じ事を言えるのか……仕方がないって……」
アセムはこの光景を見ればフリットも同じ事は言えないと思うが、フリットならば言えるだろう。
なぜならば、30年以上も前に起きたオーヴァン襲撃の時はこれ以上の被害を受けた。
それに比べれば、この光景はマシと言える。
フリットにとってはヴェイガンはオーヴァンの時の事を平気で行える連中だ。
あの時に比べたら、この程度の被害はマシだと言い切るだろう。
オーヴァンの時の被害を知るからこそ、フリットはこの程度の被害なら容認出来る。
下手に被害をなくそうとしてオーヴァンのようになるくらいならだ。
だが、オーヴァンの光景を知らないアセムにはこの被害も十分酷く見える。
「貴方の言っている事は正しいわ。でも……戦争なのよ」
「そんなの分かってる……」
アセムもこれは戦争でフリットの言い分が正しい事も理解は出来る。
だが、納得は出来ない。
「みんな、悲しくても戦ってる。指令もゼハートもアセムと戦う事になってきっと……」
「アイツは違う! 悲しんでなんかない!」
ロマリーがゼハートの名を口にすると、冷静になりかけたアセムは再び、感情的になる。
すでにゼハートはヴェイガンの兵士として戦う決意を固めている。
アセムは戦闘中にそれを思い知らされている。
「アイツは……ゼハートは敵なんだよ。ヴェイガンなんだよ!」
アセムは吐きだす様に叫ぶ。
それは自分自身がゼハートは敵である事を良い聞かせるようだったが、その事実はロマリーをも傷付ける結果となってしまう。
ゼハートは敵である事実を突き付けられたロマリーは涙を流し、それを見たアセムは冷静さを取り戻し後悔する。
だが、そんなアセムを状況は待ってはくれない。
戦闘の流れ弾が飛んで来て戦闘の激しさを物語っている。
「……こちらの位置情報を送ります。ガンダムの発進をお願いします!」
アセムはフリットのやり方を認める訳ではないが、フリットの言う通り敵を倒さなければこの戦闘を終わらせる事は出来ず、被害が更に拡大する。
それを防ぐには戦うしかない。
その為、戦う決意を固める。
AGEデバイスを取りだし、ディーヴァのディケに連絡を取り、自分の位置情報をディーヴァに送ると、少ししてストライダー形態のガンダムAGE-2がアセムの元に飛んで来る。
「ロマリー……俺は君を傷付けるつもりは無かったんだ。ごめん……」
AGE-2が降りて来るとアセムはAGE-2に乗り込む。
「今は……君を守るよ。その為に俺は戦う」
アセムは覚悟と共に戦場へと飛翔する。
「三つ目!」
ガンダムZERO Ⅲγがビームラリアットでバクトを破壊する。
工場に隠してあったヴェイガンのMSの内すでにマリィは3機も撃墜している。
癖の強く慣れないタイタスを装備している為、アリーサとマックスは思うように戦えず苦戦し、オブライトもウルフとミレースを守るので精一杯だ。
タイタスは肉弾戦に特化している為、癖が強く扱い難い装備だが、マリィの元々持つ操縦技術は射撃や砲撃は素人以下だが、MSを動かす事に関してはエース級である。
バックパックのビームガン以外の火器は今のガンダムZERO Ⅲγには装備されていない為、必然的に肉弾戦となるので、マリィの独壇場となっていた。
「すご……」
「まるで別人みたいだ」
その光景を見てアリーサとマックスはそう漏らす。
今までは射撃が全然当たらずに敵機を落とす事は殆ど無かったが、機体特性が変われば戦果が大きく変わったのだ当然と言える。
すると、ストライダー形態のガンダムAGE-2が戦場に降り立つ。
「アセム。今は私のターンだから、アンタの出番は……」
マリィが言い終わる前にガンダムAGE-2はビームサーベルを抜いてバクトに突っ込み、バクトの頭部を切り裂くと胴体を蹴りあげる。
するとバクトの胴体は空中で爆発を起こす。
「遅刻して人の見せ場を奪わないでよ」
残っていたガフランとバクトはガンダムAGE-2へと向かう。
マリィはアセムに文句を言うが、アセムはマリィとの通信を閉じる。
そして、ガフランとドラドの二機は大きく飛び上がる。
ガフランはビームバルカンを連射して、AGE-2はシールドで防ぎながら、ガフランをビームサーベルで胴体から一刀両断にして、ガフランの爆風を利用し、更に加速しドラドを二本のビームサーベルで両断して破壊する。
「ハァハァ……」
ドラドが破壊された事で工場に隠してあったヴェイガンのMSは全滅する。
だが、工場から爆発が起こり、次々とテクノソロン社の施設が破壊されていく。
すでにヴェイガンのMSが隠してある事が判明した以上、テクノソロン社とヴェイガンの繋がりは隠す事は出来なくなったが、会社や工場などの施設を破壊する事で、テクノソロン社で製造していたヴェイガンのMSの情報やヴェイガンと繋がりに関する詳細な情報を連邦軍に渡る事を防ぐために何者かが情報を隠匿する為に施設を破棄したのだろう。
テクノソロン社の自爆によって全てが隠匿された。