機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第57話

ビックリングからクライドは単独でオーヴァンに戻って来ていた。

 ヴェイガンのビックリング侵攻作戦によって連邦軍は防衛に成功こそしたが、被害も多くその為、グノーシスも当分は正規軍として運用するように連邦政府から指示が出ている。

 連邦政府の弱みを握っているクライドなら、それを使って指示を撤回させる事も可能だったが、クライドはその指示を受諾した。

 その為、ビッグリング攻略に失敗したヴェイガンが次に狙うとしたら、地球軌道上のコロニー「ノートラム」である可能性が高いと司令部は判断している。

 ノートラムは連邦のコロニーの中でも最も地球に近いコロニーでそこを制圧されると、地球への侵攻を許してしまう為、戦局が安定するまでの期間、グノーシスを守備隊として配置する事になっている。

 それ故にクライドは高速艇でオーヴァンに帰って来た。

 オーヴァンの港に高速艇で入ると、クライドの帰りを待っていた特研の研究員がクライドに詰め寄る。

 

「局長。この実験のデータですが……」

「適当に纏めとけ」

「この資材の件ですが……」

「それはそっちで勝手に発注しておけ」

 

 クライドは指示を仰ぐ、研究員をぞんさいに扱い、研究所へと向かう。

 港に残された研究員は余りにも適当な扱いを受けて不満そうにするが、クライドは無視している。

 

「局長。お帰りなさい」

 

 港を出るとクラリッサが車を用意して待機しており、クライドは車の助手席に座り、クラリッサが研究所へと車を走らせる。

 

「ジェラートとマルガリータは?」

「まだ、ブリッシュ公国で調査中です」

「だったら、当分帰って来るなと伝えとけ」

「はぁ……」

 

 クラリッサは車を運転しながら、横目でクライドを見る。

 クライドは傍から見ても不機嫌なのが丸分かりでつまらなそうに頬杖をついて車の外を眺めている。

 

「所長、何かあったんですか?」

「何かって?」

「最近の所長は少しおかしいです。前から研究の進捗によっては機嫌が悪い時もありましたが、最近ではAGE-2やγをロールアウトしてますし、今までは思いつきで動く事はあっても理不尽な事はありませんでした。そのせいで局長に対して不満を貯めている局員も少なくはありません」

 

 ここ数カ月のクライドは明らかに様子がおかしかった。

 今までも思いつきや気分で新しい技術の研究をしだす事は珍しい事ではない。

 だが、この数カ月はすでに確立している技術の再検証をするように指示を出したり、現状では不可能とされている技術を研究させて成果が出ないと言う理由で研究員を一方的に解雇する事も多々ある。

 特研の技術者は一流の技術者も多く、ここに来るまでは天才と呼ばれていた者も少なくない。

 その為、ここに来るまでは自分の才能を信じている為、非常にプライドが高い。

 だからこそ、若くして特研の所長に就任したクライドの事を疎ましく思い、隙あれば所長の座を奪おうとしている研究員もいない訳ではない。

 その大半が、クライドの持つアスノ家の技術の前に敗北を認めて大人しくなるが、最近のクライドの態度によってクライドへの反抗心を再び覚える研究員も出て来ている。

 

「知るか」

 

 下手をすればクーデターの起きかねない状況になりつつある事をクラリッサはクライドに忠告するが、当のクライドは全く気にしている様子は見られない。

 クラリッサは今のクライドに何を言っても無駄であると判断して、事務的な確認事項をクライドに聞きながら、車を研究所へと走らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 研究所についたクライドは研究所の仕事の一切をクラリッサに押し付けると、研究所内でクライドのみが入る事が出来るクライド専用の研究室に入る。

 この研究室は執務室とは違い、完全にクライドの私的な研究にのみ使われる場所だ。

 その為、クライド以外では副所長のクラリッサすらも入る事が許されていない。

 研究室にはクライドがAGEデバイスを解析して作りだした大型の量子コンピュータが置かれている。

 AGEデバイスには一歩劣るが演算処理能力は地球圏では最高クラスで尚且つ、それだけの演算処理速度を持ちながら、大きさは1メートル強しかない。

 クライドがコンピュータを立ちあげると、直通通信が入る。

 

「アリスか……首尾はどうだ?」

 

 通信の相手はアスノ家に仕えるメイドのアリスだ。

 通信は音声のみなので、向こうの様子は一切分からない。

 

「クライド様の予測通りでした」

「やっぱりか……」

 

 アリスは今までは特研に入り込んでいたヴェイガンのスパイの監視の任務についていたが、今はクライドの指示で別の任務に当たっていた。

 

「はい。グルーデック・エイノアが釈放されてすぐにアラベル・ゾイを差し向けて消す予定だったようです」

「アラベル・ゾイ……」

「彼はアンバットの指揮官のギーラ・ゾイの息子です。アラベル・ゾイは26年前にアンバットにて父を殺してグルーデック・エイノアを恨み収監施設から釈放された事を知り、父の復讐の為にグルーデック・エイノアを襲撃し、殺害……その後逃亡中に不注意で事故にあって死亡と言うのが筋書きだと思われます」

「ベタだな」

 

 クライドがアリスに与えた任務はブリッシュ公国の一件で収監施設にて接触した元ディーヴァ艦長、グルーデック・エイノアの周辺調査だった。

 グルーデックは連邦軍の内部にヴェイガンのスパイが入りこんでいると言う情報を掴んでいた。

 そのスパイはその事を公にされる事を恐れてグルーデックの口を塞いでしまおうと言うのは容易に想像がついた。

 それを防ぐために特研内部のスパイの監視よりも優先させた。

 

「ヴェイガンの人間と使ったと言う事は黒幕は政府の上の方にいるって事か」

「同感です。グルーデック・エイノアに恨みを持つアラベル・ゾイを使えば単なる怨恨で方を付ける事が可能です」

「だろうな。政府が良く使う手だよ」

 

 連邦政府はヴェイガンが作られるきっかけとなった計画「マーズバースデイ」の調査不足の過失すら隠蔽してのけた。

 クライドもその政府の隠蔽体質は良く知っている。

 クライドの研究も稀に非合法な研究に発展する事もあり、マスコミ関係でそれを突き止めようとされた事は一度や二度ではない。

 その度に、クライドを切る事の出来ない政府は極秘裏に処分している。

 ヴェイガンの人間を使ったのは、グルーデック殺害の捜査を早々に終わらせる為だ。

 父をグルーデックに殺されているアラベルならば、グルーデックを殺害する動機は十分で26年も待った事で仇を取った事で精神状態が不安定となり注意力が散漫となって事故に合う危険があっても不思議ではないとこじ付けも出来る。

 そうやって、早々に捜査を終わらせたいと言う事は捜査を長引かせたくない人物の仕業と考えられる。

 捜査が長引けばグルーデックが連邦にヴェイガンと繋がっている人物がいる事が知れる可能性もあり、下手に圧力をかけるとそれが事実である事の裏付けになってしまう。

 そうなって来るとその事実を隠蔽するのは相当に手間がかかる。

 それを防ぐためにグルーデックに恨みを持つアラベルを使えば、グルーデック殺害後にアラベルの口を事故に見せかけて塞げば済む。

 

「となると、アラベル・ゾイから尻尾を掴むのは無理だな」

「無理と言う訳ではありませんが、相応に時間を要します」

 

 アリスの能力を持ってすれば、黒幕を掴む事は不可能ではないだろう。

 だが、アリスを持ってしても相当の時間を要する。

 

「別に良いさ。それよりもきちんと始末はしたんだろうな」

「すでに始末済みです。無論、その事が明るみになる事の無い様にしています」

「結構だ」

 

 クライドにとっては黒幕は誰であると興味は無い。

 それよりも自分の仲間に引き入れようとするグルーデックの身の安全の方が優先である。

 アリスもその事は十分に理解している為、黒幕の事よりもアラベルの始末を優先した。

 

「それと、例の計画をそろそろ実行に移したい。こっちは下準備は整っているからな」

「例の計画ですか……」

 

 クライドはガンダムZERO Ⅲβを狂言奪取させて、それの奪還を名目にグノーシスでガンダムZERO Ⅲαの実戦データの収集やガンダムZERO Ⅲ同士の戦闘データを収集した。

 それはガンダムZERO Ⅲβの撃墜によって終幕した。

 それとは別にクライドはある計画を進めていた。

 

「よろしいので? その計画を実行に移せばクライド様は全てを失う事になります」

「構わないさ。知ってるだろ? 俺にとって地位や名声も価値は無いって事をさ……まぁ、あいつらには悪いとは思ってる。けど、エリアルド達には父親として最低限の事はして来たつもりだ。後は自分達の親父は碌でもない奴だったと諦めて貰うしかないな。フリットはすでに俺以外の家族がいるんだ。もう、守られるだけの餓鬼じゃなくて十分に守る方の人間だ。エリーゼはこの宇宙で誰よりも俺の事を理解している女だ。文句は言うが分かってくれるさ」

 

 これからクライドのやろうとしている計画はクライドが今まで積み上げて来た地位や名声、家族すら捨てなければならない。

 だが、それらを捨ててもやるだけの価値はあるとクライドは考えている。

 

「そうですか……計画の実行を止める権利は私にはありません。ですが、一つだけ質問をお許しください。クライド様がその気になればこの戦争を終わらせる事も可能です。ですが、クライド様はそれをなさいません。何故ですか?」

 

 クライドには過去の戦争の兵器データの入った端末を父より受け継いでいる。

 そのデータがあればヴェイガンとの戦争に勝利する事は難しくは無い。

 

「戦争を終わらせるか……どうして、俺がそんな勿体ない事をしないといけない。戦争が終わればMS開発は衰退を辿るだろう。そんな事が分かり切っているなら、俺の生きているうちは戦争を終わらせる気は毛頭ないな」

 

 戦争が終わればMSの様な兵器は不要となって来る。

 完全に不要になる事はないが、今のように研究が出来なくなるのは間違いない。

 クライドはそうならないように積極的に戦争を終わらせようとはしない。

 

「まぁ、戦場の主役がMSのうちは終わらせる気はないが、戦場に大量破壊兵器なんて無粋な物で戦争をしだしたら全力で終わらせるつもりでいるさ」

 

 ブリッシュ公国が使ったコロニーレーザーの様な大量破壊兵器はクライドは嫌っている。

 その兵器に使われている技術に興味はあっても、そんな物を使う戦場は認める気は毛頭ない。

 幾ら高度な技術を使っていても大量破壊兵器は強引過ぎて好きにはなれない。

 あくまでもクライドは戦場の主役はMSでなければならないと考えている。

 

「成程……分かりました。実にアスノ家らしい考えです」

「納得したら、頼んでおいた事はどうだ?」

 

 MS鍛冶で高名だったアスノ家の人間らしい答えだとアリスは納得する。

 アリスが納得したところでクライドはアリスに調査させていたもう一つの事を聞く。

 

「クライド様が出した条件で一番利用価値がある宇宙海賊はビシディアンですね」

「ビシディアン……確か、連邦の輸送艦とかを襲っている海賊だな。うちは被害にあってないけどな」

「ビシディアンの襲った輸送艦は皆、ヴェイガンと繋がりを持っていると思われる部隊が関わっています」

「偶然じゃないよな」

 

 宇宙海賊ビシディアンが襲撃した輸送艦や部隊を調べた結果、ヴェイガンと通じている疑いが出て来た。

 それらを偶然と考えるには出来過ぎている。

 

「ビシディアンは狙って襲撃しているのは間違いない。どう言う連中だ?」

「首領はアングラッゾ。数年前までは軍の特殊部隊にいた男です」

「特殊部隊ね……それなら、嫌って程、連邦の暗部を見ていてもおかしくはないか……それで変な正義感が出て連邦の不正を正すために海賊になったってところか……美談としては面白いが無駄な事を……海賊が一つ動いたとこで世界は変わらないと言うのにな……だからこそのEXA-DBか」

 

 クライドがアリスの頼んでおいたのは、クライドが流したEXA-DBの噂を聞いてEXA-DBを探している海賊の中で使えそうな海賊がどこであるかと言う事だ。

 その中でも有力株なのがビシディアンと言う事だ。

 

「ビシディアンはファーデーンやマッドーナ工房とも繋がりを持っています」

「おやっさんのところにもか……そいつは使えそうだな。元特殊部隊って事は能力的にも及第点だ。アリス、そのアングロッゾに俺を売りこむ手筈を整えて置いてくれ」

「了解しました」

 

 EXA-DBを手に入れたら、確実にその情報を活用出来る技術者が必要となって来る。

 元特殊部隊とは言っても海賊にそこまでの知識を持った技術者はいないだろう。

 マッドーナ工房でならば、可能かも知れないが情報が情報なだけに部外者に関わり合いにさせたくはないだろう。

 EXA-DBの内容までの情報は流してはいない為、ビシディアンもEXA-DBが何なのかは分からないが、どちらにしても優秀な技術者は欲しいだろう。

 ならば、クライドを売りこむ事は十分に可能だ。

 

「フリットには悪いが、連邦はこの辺りで切りどきだ」

 

 すでにクライドにとっては連邦には何の価値も無くなっている。

 以前からフリットがAGEシステムの有用性を主張しているが、連邦はアスノ家に技術が劣っている事を認めたくないらしく、それを認めようとはしない。

 散々、クライドの技術を利用しておきながら、今更アスノ家の技術レベルを認めないなどクライドからすれば滑稽だが、それ以上に優秀な技術を優秀と認めない事は何よりも許せない事であった。

 その事がきっかけとなり、クライドにとっては連邦の価値は低くなり、遂には価値がなくなったのだ。

 軍からの研究費を少しつづ着服したり、アスノ家の財産によって十分な資金を持ち、別の場所には極秘裏に研究施設を作っている為、すでに連邦に留まる理由は無い。

 その為、自分にとって面倒なしがらみの全てを断ち切り、行動を起こすために水面下で準備を進めて来ている。

 

「それと、マッドーナ工房で例の機体が完成したとの事です」

「フィーアか……まぁ、Xフレームを実装しただけだからな」

 

 フィーアとはクライドがマッドーナ工房で製造していた新型のガンダムの事だ。

 ファムがブリッシュ公国から持ち帰った古いフレームをマッドーナ工房で解析した結果、特殊なフレームである事が判明した。

 その性質はXラウンダーが放つ特殊な脳波に反応すると言うもので計算上はMSのフレームに組みこむ事でMSの反応速度が従来のXラウンダー専用機よりも向上する可能性がある。

 これは過去の戦争でもXラウンダーの能力が軍事的に利用されていたと言う証拠であるが、クライドはそんな事はどうでも良かった。

 クライドはそのフレームのデータ収集の為に機体の一部にXフレームを実装したガンダムZERO Ⅲβをベースに新型のガンダムを設計した。

 それがマッドーナ工房で作られた第4世代のガンダムZERO、ガンダムZERO Ⅳ(フィーア)だ。

 

「丁度良い。計画にフィーアを使う事も組みこむか……アリス、マッドーナ工房に連絡して、ファムとフィーアをスタンバらおいてくれ。それと、セリアにグルーデックさんと接触させてくれ。グルーデックさんは例の場所に案内させて欲しい」

「例の場所ですか?」

「ああ……グルーデックさんには悪いけど、今はグルーデックさんを使う場面じゃないからな。アイツと一緒に少しの間、世界から消えて貰う。最悪の事態に備える為にな」

 

 最悪の事態、それはクライドが嫌悪している大量破壊兵器を戦場で使うようになる事だ。

 そこまで行けば、クライドも戦争を終わらせる為に動かざる負えない。

 その為に世界を相手に戦えるだけの力を集めてはいる。

 グルーデックもそのアンバットを落とした指揮官としての手腕をクライドは買っている。

 グルーデックを誘う時とは明らかに違うが、その辺りは事後承諾になってしまうが、地球とヴェイガンとの戦争の始まりの日である「天使の落日」で家族を失っているグルーデックならば、戦争を終わらせる為にと言うならば納得してくれるとクライドは勝手に思っている。

 

「分かりました。全て私の方で手配します」

「頼む。それを速攻で終わらせてオーヴァンに戻って来い。この計画の第一段階は下手をすれば俺は死ぬ」

 

 クライドの計画の第一段階ではクライド自身に危険が及ぶ事は確定し、最悪の場合はクライドは命を落としかねない。

 落とさないように用意はしてあるが、何事も完璧など存在しない事をクライドは知っている。

 その為、少しでも自身の危険を減らすためにはアリスを呼び戻しておいた方が良い。

 

「了解です。クライド様、速やかに任務を遂行しクライド様の身は私が守ります」

「そうしてくれ」

 

 クライドは通信を閉じると、黒いガンダムについての調査を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディーヴァがソロンシティに入港し、テクノソロン社への調査はテクノソロン社がヴェイガンと通じている事を掴む事は出来たが、同時にテクノソロン社の自爆によって証拠を隠滅された。

 ヴェイガンと通じている事が判明した為、連邦軍は堂々とテクノソロン社の跡地を調査が出来る事になったが、跡地からヴェイガンの情報が掴めるかは望み薄だ。

 それでも何か掴めるか少しの可能性に賭けて、テクノソロン社の跡地を捜索している。

 そんな中、フリットはソロンシティ内のとあるバーに来ていた。

 フリットは任務でソロンシティに来ているので酒を飲む為はない。

 

「お久しぶりです。グルーデック艦長」

 

 フリットがバーに来た理由は元ディーヴァ艦長のグルーデックに呼び出されたからだ。

 任務中である為、本来は呼び出しに応じる事はないが、相手がかつての自分の乗っていた船の艦長で呼び出しの理由が戦争におおいに関わり合いがあると言われれば応じるほかない。

 

「艦長は止せ。今の私は艦長ではないからな」

 

 26年ぶりに艦長と呼ばれてグルーデックは少しこそばゆい。

 収監施設に入っていたが、外の情報はある程度は掴む事は出来ていた為、フリットが連邦軍の総司令部ビックリングの司令官になった事はグルーデックの耳にも入っている。

 だが、実際にフリットに会ってアンバット攻略作戦から26年もの時が経った事を実感している。

 以前にクライドに会った時はクライドは老けただけであったが、当時は14歳の少年だったフリットは今やエミリーと結婚して二人の子供がおり、かつての自分と同じ父親になっているのだ時間が経っている事を感じずにはいられない。

 一方のフリットもかつての母艦の艦長との再会に懐かしさを感じている為、グルーデックの事を艦長と呼んだ。

 フリットがグルーデックの横に座ると酒が運ばれて来る。

 任務の途中である以上、酒を飲む事は許される事ではないのだが、今回ばかりはフリットもそんな事を言うつもりはなく、グルーデックと酒を飲みかわす。

 

「真の英雄に……」

「私は英雄などではないさ……」

 

 フリットはグルーデックにグラスを掲げる。

 グルーデックはそう言うが、フリットにとってはグルーデックは英雄だ。

 蝙蝠退治戦役の時にグルーデックは軍を離れてアンバットを叩く決意を固めた、フリットはそれについて行き、結果アンバットを陥落させた。

 その後は、グルーデックは反逆者として軍に拘束されたが、フリットはグルーデックこそ称賛されるべき英雄であると思っている。

 

「そんな事はありません。貴方のお陰で我々はこうしてヴェイガンと戦えている」

 

 本来なら、グルーデックに従って軍を離れて戦ったフリットやディーヴァのクルーは皆、反逆者とされる筈だったが、グルーデックは一人でその罪を背負った。

 そのお陰でグルーデック以外は皆、軍に復帰してヴェイガンと戦って来た。

 

「フリット。お前は何故戦い続ける。今はお前にも新しい家族がいるだろう」

「大切なものを守る為です。奴らは大切なものを容赦なく奪う。大切なものを守る為にはヴェイガンを地球圏から一掃するしかない」

 

 グルーデックもフリットの気持ちは痛い程分かる。

 グルーデックもまた、ヴェイガンに家族を殺されている。

 

「そうか……フリット。復讐を止める権利は私にはない。それが正しいかも分からん。だが、お前が大切なものを守る為に戦うと言う理由は忘れるな。憎しみを捨てろとは言わん憎しみに支配されてそれを忘れれば大切なものを守る事も出来ず、その果てには何も残らん」

 

 グルーデックは天使の落日で全てを失っているが、今のフリットはそうではない。

 その為、ヴェイガンを殲滅したとしても、その後に何も残っていなければ意味がない。

 

「肝に銘じておきます」

「それで良い」

 

 グルーデックはフリットにデータディスクを差し出す。

 

「この中に私が収監施設で集めた情報が入っている」

「何の情報です?」

 

 フリットは差し出されたデータディスクを手に取りグルーデックに尋ねる。

 

「軍内部にヴェイガンと繋がっている者がいる」

 

 フリットは少し驚くが、テクノソロン社がヴェイガンに協力していたと言う事実が発覚した以上、軍内部にヴェイガンのスパイや内通者が居ても不思議ではない。

 フリットも、戦況が落ち着いたら軍内部などに巣くうヴェイガンへの内通者を探し出して一掃するつもりではいた。

 

「収監施設で集めた情報かこの中に入っている。これをどう使うかはお前次第だ」

 

 フリットは話しを聞きながらデータディスクを懐にしまう。

 

「助かります。それでグルーデックさんはこれから?」

「少しやる事があってな。少し姿を隠す」

 

 フリットがどこまでクライドから聞いているのか分からない以上、下手に話す訳にはいかない。

 

「そうですか」

「話しはそれだけだ。達者でな」

 

 グルーデックは席を立つと、フリットの肩をポンと叩いてバーを後にする。

 フリットも暫くは考え込み、グラスが空になるとバーを後にした。

 その後、グルーデックはセリアの接触を受けて表舞台から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

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