ディーヴァがソロンシティに向かったと言う情報はヴェイガンにも届いていた。
テクノソロン社はヴェイガンにとっても、重要な生産拠点である為、ゼハートもソロンシティに向かっていたが、連邦軍はゼハートの到着よりも早くテクノソロン社を壊滅させた。
本来ならば、次の作戦が控えている為、ダウネスに帰投すべきだが、ゼハートはそのまま搭乗艦とソロンシティに向けていた。
「ここに来たのはお友達に会う為だろ?」
これ以上はソロンシティに防衛圏内に侵入する為、ゼハートはゼイドラでソロンシティに向かおうとしていると、格納庫にデシルが入って来る。
デシルの言う通り、ゼハートがわざわざここまで来たのはソロンシティに向かった船がディーヴァだったからだ。
ディーヴァを追えばそこにアセムがいる事は間違いはない。
「まぁ俺にはどうでも良いけどな。その間にクロノスの改造をさせるからな」
「どう言う事です。兄さん?」
「今、技術班にクロノスを改造するように指示を出している」
そんな話はゼハートは聞いていない。
恐らくはデシルが独断で指示を出したのだろう。
技術班もデシルは総司令であるゼハートの兄で尚且つ様々な特権を与えられているXラウンダーであるため、断る事が出来なかったのだろ
うとゼハートは思うが、デシルの勝手な行動に眉を潜ませる。
デシルはビッグリング攻略戦において、フリットやユーリアに押された事は機体のせいだと考えていた。
クロノスが自分についてこなかったからだと。
「そうですか」
本来ならば、勝手に技術班を使う事は許される事ではないが、デシルの性格を考えるとここで言ったところで無駄である事はゼハートは良く知っている。
「そう言う事だ。お前は精々、お友達とよろしくして来るんだな」
何も言わないゼハートに満足したのか、デシルは格納庫から出て行く。
「よろしいので?」
デシルが格納庫からいなくなると、ゼハートの横に控えていたダズがそう言う。
実の兄とは言え、好き勝手にやらせておけば兵の士気にも関わって来る。
そうなれば、ゼハートへの信頼にも大きく傷がつくかも知れない。
ダズはそれを心配している。
「構わん。後でお前の方で調整しておいてくれ」
「了解しました」
技術班は次の作戦の為に動いている為、デシルのクロノスの改造に人員を使っている余裕はないだろう。
だが、デシルはそんな事をお構いなしに命令を出している筈だ。
そうなれば、技術班は完全にオーバーワークとなりいざと言う時に使えない可能性がある。
その為、その辺りの調整をダズに任せてゼハートはゼイドラでソロンシティに向かう。
テクノソロン社の壊滅から数日が経ち、ようやくアセムは反省室から出る事が許可された。
アセムはテクノソロン社での戦闘待機中に勝手にディーヴァを離れた為、戦闘後に当然の事ながら、反省室行きが命じられた。
フリットの判断を未だに納得が出来なかったが、軍人である以上待機中に母艦を飛び出した事が間違っていた事は自覚していた為、大人しく反省室に入っていた。
反省室から出て来た後も納得出来ない気持ちは残っていた為、余り虫の居所は良くなかった。
その為、すでにソロンシティへの上陸許可が出ている為、アセムはソロンシティで気分転換でもしようと街まで出て来ていた。
本来なら、感情的になり勢いから言ってしまった事でロマリーを傷付けてしまった為、お詫びも兼ねて街に誘おうとしたが、すでにロマリーはマリィと共に街に向かってディーヴァにはいなかった。
今はアセムも機嫌が悪い為、ロマリーがいないなら他の誰かを誘う気にもなれず結局一人で街に出る事になった。
だが、街に出たのは良いが、特に目的もある訳ではない為、あてもなくただ街を歩いているだけだ。
その道中でソロンシティの住人で自分よりも少し歳は下くらいでまだ、学生だと思われる少年達がじゃれ合っているのが目に入り、ふと自分の学生時代を思い出す。
その時にはすでにガンダムのパイロットであったが、MSクラブで仲間達と共に日々を謳歌していた。
今では自分は軍人となり、ゼハートはヴェイガンであるため、あの時の日々は二度と戻って来る事はない。
そう思うと更に気が重くなる。
アセムはもう二度と来る事の無い日々の事を忘れようとしながら、足を進めているといつの間にか、ソロンシティ内の自然公園にまで足を延ばしていた。
その中の池をアセムはボーっと眺める。
どんなに忘れようとしてもあの時の時間はアセムには忘れる事は出来ない。
それはアセムにとっては掛け替えの無い時間だったからだ。
だが、その時間にはゼハートがいる。
友達だと思っていた。
だが、ゼハートはヴェイガンで今は敵だ。
どんなに戦う覚悟を決めてもゼハートを敵だと割り切ろうとしても簡単に割り切れる事ではない。
「アセム」
そう考えていると後から声をかけられる。
アセムは一瞬、幻聴かと思った。
その声は今では戦場以外で聞く事は無いと思っていたからだ。
「ゼハート!」
アセムは驚きつつも振り向くとそこにはゼハートが立っている。
幻聴でも幻覚でもなく、ゼハートはそこに立っていた。
ゼハートは今は仮面型の制御デバイスを外している。
「どうしてここに……」
「お前に伝える事があって来た」
「俺に?」
アセムは困惑する。
今更、ゼハートが自分に何を伝えに来たのか分からない。
敵である以上、ゼハートも連邦軍の兵士でガンダムのパイロットである自分に戦場では無いところで接触する事は危険な筈だ。
その危険を冒してまで自分に伝える事が分からない。
「俺は戦う宿命を背負っている。だが、お前は違う。お前には戦わない選択も出来る」
「だから何だって言うんだよ!」
自分が戦う事を否定されて、アセムは感情的になるが、一方のゼハートは冷静だ。
「お前はお前でいられる。優しい……俺の好きだった友達のアセムのまま……」
そう言うゼハートは、学生時代の良く自分達を笑い会った時のゼハートだった。
戦場で会った時のヴェイガンの兵士のゼハートとは違う、アセムの友達のゼハートだ。
「そんなの無理だ。俺には何もないんだよ!」
アセムは吐きだす様に叫ぶ。
「俺は戦わなきゃ……戦って戦果を上げないと駄目なんだよ! そうでないと誰も俺を認めてくれない!」
アセムは常にフリット・アスノの息子として見られている。
アセム自身、その事を誇りに思いフリットの息子に恥じないように努力を続けて来た。
だが、それの裏ではフリット・アスノの息子として相応しくないと思われる事への恐怖心もあった。
その為、今戦場から離れる事になれば、誰もがアセムに失望するだろう。
「俺は……お前が羨ましい。『力』を持ったお前が……」
アセムはビッグリングで自分がXラウンダーになれない事を知った。
クライドからは別の道ややり方があると言われてもアセムには戦いで結果を出す以外に道はない。
だからこそ、Xラウンダー能力を持つゼハートにアセムは嫉妬している。
自分が望んでも手に入れる事の出来ない『力』を持ったゼハートの事を。
そして、ゼハートは胸に潜ませていた銃をアセムに向ける。
「お前が戦場に居ては私が私でいられなくなる」
ゼハートが危険を冒してまでアセムに会いに来た理由はそれだった。
ゼハートもアセムの事を敵だと割り切ろうとしたが、結局割り切る事が出来ないでいた。
このままではゼハートはヴェイガンの兵士ではいられなくなる。
そうならない為にもアセムを説得して戦場から離れさせたかった。
アセムが戦場にさえいなければゼハートはヴェイガンの兵士でいられる。
だが、アセムは戦場から離れる事が出来ないと言う。
ならば、ここでアセムを撃たなければならない。
「私は……ヴェイガンだ」
ゼハートは自身に言い聞かせるようにそう言い引き金に力を込める。
「止めて!」
ゼハートが引き金を引く前にロマリーが叫ぶ。
その後ろにはマリィもいる。
二人は街に出たが、街をぶらついている途中でアセムを発見した。
そのアセムの様子がいつもと少し違った為、マリィが面白そうだと言い出して後を付けていた。
そして、自然公園まで後を付けていると、アセムにゼハートが接触して来た。
ロマリーはその時点で飛び出しかけたが、マリィが制止して事の次第を見ていたが、ゼハートがアセムに銃を向けた為、マリィもロマリーを制止しきれずにロマリーは二人の前に出て来た。
それによりマリィも出て来るが、マリィはゼハートの方を見ようともしない。
「ロマリー……」
アセムは先ほど、ゼハートに言っていた事を聞かれたかも知れないと思い視線を反らす。
アセムにとってゼハートに言った事は誰にも知られなく無い事だった。
特にロマリーにはゼハートに嫉妬した自分を知られなくない。
ロマリーはそんなアセムに気づく事なく、ゼハートに近づく。
「ゼハート……どうして。どうして何も言わないで……」
ロマリーはゼハートにそう言う。
あの日、ゼハートは何も言う事なくトルディアから出て行った。
状況を考えれば仕方がなかった事は分かっているが、自分達に何も言わずにいなくなった事が悲しかった。
だからこそ、ロマリーはこうしてゼハートに問い詰めている。
ゼハートも皆に何も言わずにいなくなった事を追い目に感じていたのか、視線を落とす。
視線を落とした事でアセムへの警戒が薄くなり、アセムはゼハートに飛びかかり銃を奪う。
ゼハートはそのまま、後に倒れアセムはゼハートに銃を向ける。
「動くな! ロマリー、ディーヴァに連絡を! 早く!」
アセムはロマリーにそう言うが、ロマリーはアセムの様子のおかしさに戸惑っている。
そして、ロマリーはゼハートの前に立ち、アセムの向けている銃口からゼハートを庇う。
「ちょ! ロマリー!」
今まで我関せずでいたマリィも流石に驚き声を上げるが、一番動揺しているのはロマリーが敵であるゼハートを庇うとは思っていなかったアセムだ。
「アセム……銃を下して」
「何で……何でそんな事……何でそんな事するんだよ! そいつは!」
アセムが言い終わる前にゼハートはロマリーをアセムの方に突き飛ばして池の方に向かう。
そこにはゼハートがソロンシティに来た時に乗って来たゼイドラが隠してあった。
ゼハートにとってはアセムがここに来てくれて幸運だっただろう。
そうでなければこの状況を切り抜ける事は出来なかった。
「ゼハート!」
ゼハートはゼイドラに乗り込むとコックピットにしまっておいた制御デバイスを付ける。
そして、ゼイドラは飛び上がる。
ゼイドラがコロニー内に出るとすでにゼイドラを補足したディーヴァのウルフ隊が待ち構えていた。
まだディーヴァに戻って来ていないアセムとマリィの二機はいないが、それでも4対1であるため、4機は散開してゼイドラを包囲する陣形を取っている。
その後方から、帰投してパイロットスーツに着替える間もなくAGE-2で飛び出して来たアセムのガンダムAGE-2がストライダー形態でウルフのGバウンサーを追いぬいて行く。
更に後方からはマリィのガンダムZERO Ⅲγがノロノロとウルフ隊を追いかけている。
「ゼハート……俺だって! お前を!」
AGE-2はストライダー形態のままでゼイドラにハイパードッズライフルを放つが、ゼイドラは軽く回避する。
AGE-2はMS形態に変形するとビームサーベルを抜いてゼイドラに向かう。
「撃てる!」
「お前は!」
ゼイドラもビームサーベルを展開して向かえ討ち、二機のビームサーベルはぶつかり合う。
「何も分かってはいない! 力だけでは!」
ゼイドラはAGE-2を弾き飛ばして、ビームサーベルで追い打ちをかけるがAGE-2は何とかビームサーベルで受け止める。
「私には勝てはしない!」
ゼイドラはAGE-2を蹴り飛ばす。
「っ! 俺だって!」
「私が私である為に!」
「「お前を落とす!」」
二機はぶつかり合う直前でウルフのGバウンサーが割り込むが、ヴェイガンの増援にゼダスMが四機とドラドが数機参戦する。
「ゼハート指令。ここはお任せ下さい」
ゼダスMの一機からマジシャンズ8のリーダーのドールがそう言い、ゼダスMは散開してウルフ隊を抑える。
ゼハートはその間に離脱しようとするが、更にフリットがガンダムAGE-1 フラットで出て来る。
出て来たAGE-1 フラットはドッズライフルを放つ。
距離はかなり離れていた為にマジシャンズ8は当たらないとタカを潜っていたが、フリットの精密射撃はゼダスMを捉える。
幸い、腕の電磁装甲で防いだが、この距離で当てて来るのは脅威的と言える。
「アセム。お前は仲間の援護に向かえ」
「でも!」
「行け!」
アセムは抗議するが、フリットが一喝する。
それに気おされてアセムは機体をウルフ達の方に向ける。
アセムがウルフ隊の方に向かうとAGE-1 フラットはビームサーベルを抜いてゼイドラを切り合う。
「AGE-1の性能はAGE-2よりも劣るのに……」
フリットのAGE-1 フラットは蝙蝠退治戦役時よりも性能が向上しているが、その性能はアセムのAGE-2よりも低い。
それでゼハートのゼイドラをフリットは互角に戦っている。
つまり、フリットとゼハートの実力の差はAGE-1 フラットとゼイドラの機体性能を埋める程だと言う事だ。
AGE-1 フラットとゼイドラの機体性能の差が少なくない事を考えるとフリットの実力は圧倒的にゼハートを上回っていると言う事になる。
「流石フリット・アスノだ……だが、私とて進化している!」
ゼイドラはビームバルカンで牽制しつつ、ビームサーベルを振るいAGE-1フラットは何とかかわし、ゼイドラはAGE-1 フラットの頭部を掴む。
そして、そのまま掌からビームサーベルを展開してAGE-1 フラットのメインカメラを潰そうとするが、AGE-1 フラットはゼイドラを蹴り飛ばす。
「ちぃ!」
「貰った!」
ゼイドラがバランスを崩したところにAGE-1 フラットは止めを刺そうとするが、二機のゼダスMがビームバルカンを放ちながら、AGE-1 フラットに接近して来る。
「邪魔を……」
ゼダスMの一機がビームサーベルで切りかかるが、AGE-1 フラットはかわしてゼダスMの頭部を踏み台にして、飛び上がり、加速しつつも踏み台にしたゼダスMをドッズライフルで撃ち抜き破壊すると、もう一機のゼダスMをビームサーベルで胴体から両断する。
「これ以上の戦闘は無意味だ。撤退する」
「ふざけんな! グリンとゼルがやられたんだ! ここで仇を取る!」
現状ではドラドも何機も落とされており、後方からはガンダムZERO Ⅲγも合流しつつある。
この状況で戦闘を継続すれば更に被害が増えるのは明白だ。
すでにゼダスMが二機落とされている以上、Xラウンダーを失う事は次の作戦に影響する。
この戦闘自体当初の予定にはないイレギュラーな自体であるため、戦力を消費する事はゼハートも避けたい。
だが、仲間をやられたゼダスMの一機のミンクは仇を撃つつもりでいる。
「これ以上、友軍を失う訳にはいかない!」
「ミンク、ここは一旦撤退するぞ。仇を撃つ機会はまだある」
「ちっ……」
隊長のドールに諭されてミンクも少しは落ち着きを取り戻して残っていたドラド共々ヴェイガンは撤退して行く。
ディーヴァのMS隊もすでにゼイドラが包囲網を突破した以上、下手に深追いをするのは危険であるため、追撃は行わなかった。
ヴェイガンのMSが完全に撤退して、戻って来る事がない事を確認したディーヴァのMS隊はディーヴァに帰還して行く。
「これは……」
帰投しようとしたフリットは偶然、戦闘宙域を漂うドラドの頭部を見つけた。
今の戦闘で偶然にも頭部が切り離されて偶然にも自爆しなかった物が漂っていたのだろう。
ドラドのパイロットが友軍に回収されずに残っているのはパイロットがすでに死んでいるからであるだろう。
フリットは何かに使えないか解析する為にドラドの頭部を簡単にスキャンしてすぐに爆発の危険がない事を確かめた上で回収しディーヴァへと帰還して行く。