「良くもまぁ。頭部をここまでの状態で確保できたな」
戦闘が終了し、ディーヴァの格納庫にフリットが回収したドラドの頭部が置かされている。
すでに整備班の方で頭部に爆発の危険がないかを調査し、安全は確認されている。
ドラドの頭部は戦闘中に偶然にも切り離されて、その際にパイロットは死亡を自爆装置の不具合によって爆発する事なく戦闘宙域を漂っていたと推測されるが、非常に幸運だったと言える。
「それで分析の方はどうなっている?」
フリットは自分の横にいるディケに尋ねる。
今までは撃墜したMSの破片を回収はしていたが、ビックリング防衛戦で回収した破片でようやく、テクノソロン社がヴェイガンのMS開発に関わっている事を突き止めた程度で殆どが装甲の材質くらいしか解析出来ては無い。
だが、今回は頭部が殆ど無事な形で回収出来ている。
機体のコックピットからヴェイガンのMSの操縦系統やモニターの技術、システム関連、上手く行けばOSから敵の作戦までも分かる可能性がある。
「詳しい事はここの設備では何とも言えん。出来れば特研に持って行って詳しく調べた方が良いな」
今のディーヴァにはMSの整備の為に機器は揃っていてもMSを解析する為に機器は殆ど無い。
その為、ディーヴァでは最低限の解析しか出来ない。
だからこそ、ディケはクライドの特研で解析をする事を進めている。
クライドの特研が新技術の研究だけでなく、ヴェイガンのMSの解析をしている事は技術職についていれば誰でも知っている事だ。
それは無論、フリットもクライドから積極的に敵MSの残骸を回収するように頼まれている為知っている。
「だが、コイツがとんでもない物だって事は分かった。こっちも蝙蝠退治戦役から20年余りは遊んでた訳じゃないが、MSの性能では劣っている。実際にこの頭部から分かるだけでもコイツは戦うマシンとしては完璧だ」
ヴェイガンは常に連邦軍の上を行くMSを実戦に投入している。
連邦軍では一部の高性能機とエースパイロットの働きで戦線を維持して来たような物だ。
実際にドラドの頭部を解析して見て、ディケもヴェイガンの技術力の高さには驚かされる。
ドラドはヴェイガンの主力量産機でありながら、非情に高い性能を維持している。
連邦軍でそれだけの性能を維持する為にはパイロットの技量も必要となり、専用機や少数の生産になってしまう。
「それで、フリットの方は何か分かったのか?」
ディケ達がドラドの頭部を解析している間にフリットはドラドの頭部の中で死亡していたパイロットが付けていたヘルメットの解析をしていた。
見た目は連邦軍で使用されているノーマルスーツやパイロットスーツのヘルメットとは形状が大きく違う事は製造元の違いがある為、当然だが直感的に気になった為、簡単に解析した。
「どうもこれは脳内のX領域を微弱なパルス波で刺激して疑似的にXラウンダーに近い能力を引き出す事が可能らしい」
解析の結果、詳しい事までは分からないが、ヘルメットにはパイロットにXラウンダーに近い能力を引き出す事を可能にするシステムが組み込まれている事が分かった。
ドラドの高性能を支えていたのは機体性能だけでなく、このヘルメットによりパイロットにXラウンダーの能力を疑似的に与えたからであった。
「だけど、そんな事をしたら……」
「ああ。そんな事をしたらパイロットの脳に何らかの悪影響を及ぼす可能性が高い。最悪、パイロットは脳を破壊される死ぬ」
本来、X領域が活性化していない人間にそんな事をすれば脳にかかる負荷は計り知れない。
その結果、脳が破壊されて体に障害が出たり、最悪パイロットが死ぬ事もある。
当然、ヴェイガンの技術者もそんな事が分からない事は考え難い為、ヴェイガンはその事実を知った上でMSに搭載している事になる。
「高度なMSにXラウンダー能力を与えるヘルメットか……道理で苦戦する訳だ」
「ディケはこのまま出来る限りの解析を続けてくれ。私はオーヴァンに連絡を入れておく」
「分かった」
フリットは後の事をディケに任せて、格納庫から出て行く。
フリットが格納庫から出て行き、ドラドの頭部の解析は続いている。
その解析班に交じってマリィもドラドの頭部のコックピットに座っている。
名目はパイロットからの視点からの検証ではあるが、実際はマリィがヴェイガンのMSに乗って見たいだけであった。
「ふんふん。凄……」
「アスノ伍長。乗った感想は?」
「凄いわよ。これ……でも乗りなれない感じはするわね」
マリィは率直に感想を述べる。
ヴェイガンのMSと連邦軍のMSでは操縦系統が大きく違う為、クライドの試作機は皆、コックピットや操縦系統は連邦軍の物に統一されていた為、それに慣れているマリィでは操縦系統の違いに慣れない。
「でも、これ量産機でしょ? なのに全方位モニターとか進んでるって」
連邦軍のMSのコックピットは前方とその左右の三面のモニターが主流で全包囲モニターはユーリアのジェノバースやエリアルドのガンダムZERO Ⅲαや奪取されたガンダムZERO Ⅲβに試験的に導入され、マリィのガンダムZERO Ⅲγでは従来の連邦軍のMSのコックピットが使用されている。
「それにシートの座り心地も良いわ」
ヴェイガンは蝙蝠退治戦役時には自分達の素性を隠す為に、母艦の運用を極力避けていた事もあり、MS単体での長距離移動を行う事が多かった。
その為、パイロットはMSのコックピットの中で数時間座りっぱなしでいる事も多く、攻撃目標に到達してもパイロットの体力が限界になってまともに戦えない状況を避ける為にコックピットのシートにも工夫がされている。
地球圏に拠点が増え、素性がしれた事で母艦の運用も積極的に行われる今となってはMSの長距離移動の必要性が薄れてドラドにはガフランのように可変機構は廃止されたが、わざわざシートの座り心地を悪くする理由もない為、そのまま使われている。
解析班はマリィの感想を元に特研に引き継ぐ為の資料を作成しつつ、解析を続け、マリィもヴェイガンのMSのコックピットに乗れる滅多にない機会を堪能している。
「俺と……結婚してくれないか!」
すると、格納庫内にそんな声が響き渡る。
「何?」
マリィはドラドのコックピットから身を乗り出して辺りを窺う。
すると、オブライトのジェノアスⅡの方から顔を真っ赤にしたレミがジェノアスⅡから離れて行くのが見えた。
「何があったの?」
自体が飲み込めないマリィは近くの整備班に状況を確認する。
「オブライト中尉が勢い余ってやっちまったんだよ」
「流石に行き成りプロポーズは無いよな」
マリィも格納庫の空気や整備班の言葉から大体の事情は察した。
整備班の間でオブライトがレミに気がある事は本人以外は周知の事実である事はマリィも知っていた。
恐らくは、何らかの話から勢い余ってオブライトがレミに告白をしたのだろう。
それも交際の申し込みではなくプロポーズと言うからには結婚を申し込んだのだろう。
その後のレミの様子や格納庫の空気からオブライトは見事撃沈したのは容易に想像がつく。
「ないわぁ……」
レミが逃げて若干茫然としているオブライトを見て、自分も初対面のゼハートに同じ事をした事を棚に上げてマリィは呟いた。
オーヴァンにドラドの頭部を回収し、その解析の依頼をする為にブリッジに上がるフリットをアセムが呼びとめる。
「あのヘルメットを俺に使わせて下さい」
アセムはフリットとディケがヘルメットの話をしていたところを、偶然にも立ち聞きをしてしまった。
そして、そのヘルメットを付ければパイロットはXラウンダーに近い能力を得る事もだ。
アセムはそのヘルメットを使えばXラウンダーとしての資質の無い自分でもフリットやゼハートのように戦えるのではないかと思い、フリットに直談判に来たのだった。
「アレが本当にXラウンダーの力を与える事が出来るのか実証する必要がありますよね? 俺が実際に試して……」
「駄目だ」
アセムの言葉をフリットは一蹴する。
アセムの言う事も最もだが、実際に試すと言う事は下手をすればパイロットの脳に障害を与える危険性もあり最悪、パイロットを死に至らしめる事になるかも知れないと言う事はすでに判明している。
そんな危険な役目を自分の息子にやらせる事は出来はしない。
「話はそれだけか」
フリットは取りつく島もなく、ブリッジへと向かっていく。
(あのヘルメットがあれば俺だって……ゼハートに……)
だが、そんなフリットの思いを余所にアセムはヘルメットを使う事を諦めきれずにいた。
「オーヴァンですか」
「そうだ。回収したMSを搬送する。その後、ディーヴァには次にヴェイガンが侵攻すると思われるノートラムに向かって貰う」
ブリッジに上がったフリットはミレースにディーヴァの次の目的地を告げて、オーヴァンに連絡を取らせている。
「艦長、アスノ司令。オーヴァンとの通信が出来ません」
「どう言う事だ?」
「不明です。恐らくはオーヴァンの方の通信状態に問題があると思われます」
すでにディーヴァはオーヴァンに向けて出港しており、位置的にオーヴァンに十分に通信は可能なのだが、どのチャンネルでもオーヴァンと連絡が取れない状態になっている。
ディーヴァの通信機器に異常がある訳でも、周囲の電波状態に問題がある訳ではない事はすでに確認してある為、考えられる理由はオーヴァンの方で何か問題が発生していると言う事だ。
「オーヴァンで何かあったのでしょうか?」
「分からん。だが、オーヴァンは我が軍の技術の要だ。ノートラム同様敵に狙われる危険がない訳ではない。何かあったのかも知れん」
オーヴァンには連邦軍の最新の技術が集まる為、そこが落とされれば連邦軍の技術的には大打撃を受ける事になる。
今までは大規模な攻撃を受ける事がなかったが、ビックリングを落とす事を失敗し、生産拠点のテクノソロン社を失ったヴェイガンがオーヴァンを制圧する為に攻撃する事は考えられる事態だった。
フリットもその為、オーヴァンに防衛の部隊を配置する事をクライドに打診するも、ヴェイガンが仕掛けて来た時は試作中の兵器の実戦テストが行えると言われて結局部隊の配置はしていない。
それが仇になったのかも知れない。
「艦長! 本艦に接近するヴェイガンのMSと思しき機影があります。数は4」
「こんな時にか……」
オーヴァンとの通信が出来ない状態であるため、すぐにオーヴァンに向かい状況を確認したいが、そんな事もお構いなしに敵は攻めて来た。
「この感じは……デシルか」
フリットは接近するMSからビッグリングで再び戦ったデシルの気配を感じ取っていた。
デシルの能力は知っている為、急いでいる時に厄介な敵が出て来たが、オーヴァンに向かう為にはデシル達を撃退するしかない。
ディーヴァはすぐにMS隊を出撃させる。
ディーヴァに接近しているヴェイガンのMSは4機だ。
デシルのクロノスにマジシャンズ8のミンク、レッシー、レオのゼダスMが3機の編隊となっている。
本来ならば、ヴェイガンも次の作戦に備えて、集結する為にダウネスで移動していたが、先の戦闘で仲間をやられたマジシャンズ8はこのまま収まりがつかず、フリットと戦う為に邪魔なディーヴァのMSの相手をさせる為に焚きつけてゼハートには無断で出撃して来た。
対するディーヴァはアセムの出撃が遅れている。
今回は敵にゼダスMがいると言う事で対ゼダス用の高速戦闘用ウェアのスパローをアリーサのアデル二号機に装備している。
「お前らに用は無いんだよ!」
デシルのクロノスはウルフ隊の火線を回避して、一目散にディーヴァへと向かっていく。
ウルフ隊もクロノスを追いたいが、後方からゼダスMが3機、ビームバルカンを撃ちながら突っ込んで来ており下手にクロノスを追おうならば、ゼダスMに背を向けてしまう。
「ちぃ……マリィ! そいつを抑えとけ!」
その為ウルフは機動力の問題で後方にいるマリィにクロノスを任せる。
「フリットの乗って無いガンダムに用はねぇんだよぉぉぉ!」
クロノスはクロノスキャノンをガンダムZERO Ⅲγに放つ。
ガンダムZERO Ⅲγは肩と膝のフォトンキャノンで応戦するが当たらない。
「そんな下手糞な攻撃が当たるかよ!」
クロノスはクロノスガンの先端からビームサーベルを展開して、ガンダムZERO Ⅲγに切りかかるが、ガンダムZERO Ⅲγはかわしてビームガンを放つ。
クロノスはかわしてディーヴァに向かおうとするが、ディーヴァが主砲を放つ。
その砲撃をクロノスは一射目をかわすが、二射目はかわす事が出来ずに電磁装甲で何とか防ぐ。
「フリットォォォ!」
デシルはそれが自分の動きをXラウンダー能力で先読みしたフリットの指示である事に気づいて叫ぶが、後方からガンダムZERO Ⅲγがクロノスに体当たりをまともに受ける。
「邪魔だっつってんだろ!」
「当たりなさいっての!」
ガンダムZERO Ⅲγは腕のフォトンランチャーを放つがクロノスにかわされて、クロノスはビームバスターで反撃しようとするが、ディーヴァの放ったミサイルが背中を直撃する。
「てめぇ!」
デシルはディーヴァをガンダムZERO Ⅲγの挟撃に苛立ちならも交戦する。
デシルがディーヴァに向かい、ウルフ隊は3機のゼダスMの相手を余儀なくされたが、数の上では有利だがXラウンダーを相手に苦戦を強いられている。
ウルフは十分に相手を出来ているが、他の3機は苦戦し、特に実戦経験が少ないマックスとアリーサは敵に狙いを絞られている。
すでにアデルは2機とも被弾して、互いに背中を守りつつ何とか凌いでいるがゼダスMが1機、マックスの一号機のドッズライフルをかわしてビームサーベルを振り上げる。
だが、そのゼダスMの腕を出撃して来たアセムのガンダムAGE-2のハイパードッズライフルが吹き飛ばす。
「隊長! 遅くなりました」
「お前……」
Gバウンサーのコックピットにアセムが映されるが、そこにはドラドのパイロットが付けていたヘルメットを付けているアセムが映されていた。
アセムが出撃に遅れた理由はこれだった。
出撃の前に敵がXラウンダーだと言う事を知り、アセムは独断でヘルメットを持ちだそうとしたが、一度はディケに見つかって使用を禁止されたが、それでもXラウンダーの力が必要だと思ったアセムはこのヘルメットを勝手に持ち出して付けている。
それはブリッジでも確認出来たが、フリットがこの状況でアセムを戻す訳にも行かず、帰投命令は出なかった。
被弾したゼダスMは飛行形態となり、AGE-2もストライダー形態となる。
Gバウンサーも援護に向かいたいが、別のゼダスMが邪魔をする。
ゼダスMはストライダー形態のAGE-2にビームバルカンを撃ちながら追いかける。
アセムはそのゼダスMの動きが今までとはまるで違い明確に先の動きまで見えていた。
(これが……Xラウンダー!)
アセムは敵の動きを先読みをする事の出来るXラウンダー能力を自身で感じながら、機体をMS形態に向けた。
ゼダスMは残っている方の掌のビームサーベルを展開して突っ込んで来るが、アセムにはそうする事が見えていた。
その為、ギリギリまでゼダスMを引きつけて、最低限の動きでかわすと、攻撃を回避されて、隙の出来たゼダスMにハイパードッズライフルを向ける。
AGE-2はハイパードッズライフルを放ち、その一撃は正確にゼダスMを撃ち抜いてゼダスMは爆散する。
ゼダスMが落とされた事でオブライトのジェノアスⅡと交戦していた、ゼダスMがジェノアスⅡの両腕を肩から破壊すると、両手にビームサーベルを展開してAGE-2に向かって来る。
AGE-2はハイパードッズライフルで迎撃する。
ゼダスMはビームキャノンで牽制して、AGE-2の背後を取るがそれもアセムには見えていた。
AGE-2はビームサーベルを抜いて振り向きざまにゼダスMの右腕にビームサーベルを突き出す。
そして、ハイパードッズライフルをゼダスMに向けて放つ。
ゼダスMは至近距離であった為、かわし切る事が出来ずに左腕をハイパードッズライフルで撃ち抜かれた。
「逃がさない!」
ゼダスMはビームキャノンでAGE-2を牽制し、後退しようとするが、AGE-2は追撃する。
その様子を見てたウルフと交戦していたゼダスMが援護に向かおうとするが、今後はGバウンサーがゼダスMに立ちはだかる。
「悪いな。俺の相手もして貰うぞ」
GバウンサーはゼダスMにドッズライフルを放つ。
ゼダスMは最初の数発をかわす事は出来たが、遂にはかわしきれずに腕の電磁装甲で防ぐ。
ゼダスMは飛行形態になりビームサーベルを展開してGバウンサーに突撃するが、Gバウンサーはビームサーベルをシールドで受け流してドッズライフルを放ち、ゼダスMはかわし切れずに被弾する。
その後も、Gバウンサーはドッズライフルを放ち、ゼダスMは被弾して行く。
Gバウンサーは一気にゼダスMに接近して、シールドのシグルブレイドで切りかかるが、ゼダスMはかわして背後を取りビームキャノンを放つもGバウンサーはテールバインダーのスラスターを最大出力で使い回避する。
「幾ら先を読んだってな……」
Gバウンサーはシールドとドッズライフルを捨てて両手にビームサーベルを持つ。
「最後に勝敗を決めんのはパイロットの技量なんだよ!」
ゼダスMはビームキャノンで迎撃するが、Gバウンサーは加速しながらもビームをかわす。
ゼダスMの攻撃をかわしたGバウンサーはゼダスMとの距離を詰めると両手のビームサーベルを振るう。
その攻撃にゼダスMは完全に対応しきれずに胴体をX字に切り裂かれる。
そしてゼダスMは爆発を起こして撃破された。
「一丁上がりだ」
ゼダスMが2機撃墜されたところで、戦局が不利になった為、残っているミンクのゼダスMは撤退する。
アセムはそれを追撃しようとするが、突如、視界が歪む。
「何だこれ……」
そして、アセムに激しい頭痛が襲いアセムは絶叫して意識を失う。
ディーヴァとガンダムZERO Ⅲγの挟撃を受けていたデシルもミンクが撤退した事で、孤立し撤退する。
ウルフ隊も追撃する必要がある訳ではない為、アセムのAGE-2を回収してディーヴァに帰投し戦闘は終了する。
戦闘中に意識を失ったアセムはディーヴァの医務室で目を覚ます。
「起きたか」
「隊長……」
医務室には壁にもたれ掛かり腕を組んでいるウルフがいた。
「たく……お前、自分の仕出かした事は分かってんだろうな?」
「俺は……」
アセムも勝手な事をしたと言う自覚は持っていた為、顔を俯かせる。
「そんなにXラウンダー能力が欲しいのか?」
「そうでもしないと俺は父さんを超える事なんて……」
「良いじゃねぇかそれでもよ。Xラウンダー能力なんてなくても強くはなれる。俺はこの戦闘で技量だけでXラウンダーを倒した」
ウルフはXラウンダー能力を持たない事はアセムも知っている。
そのウルフがXラウンダーを倒した事にアセムは驚く。
それはXラウンダー能力がなくともXラウンダーを倒す事が出来ると言う何よりの証明である。
「お前もXラウンダー能力がなければ俺のようになれば良い。フリットとは違い、俺様みたいなスーパーパイロットによ」
「スーパーパイロット……」
「そうだ。例えXラウンダー能力がなくともXラウンダーや誰にも負けないだけの技量を持ったスーパーなパイロットの事だ」
それはアセムにとってはそれは衝撃的な事だった。
今まではXラウンダーを相手にする為には自身もXラウンダーでなければいけないと思っていたが、ウルフはXラウンダー以上の技量を持ってXラウンダーを倒せば良いと言う。
単純な事ではあったが、Xラウンダー能力に固執していたアセムには考えつかない事だった。
「隊長……ありがとうございます!」
「おいおい……止してくれ。背中が痒いじゃねぇか」
ストレートにアセムに感謝されて、ウルフは少し照れている。
「まぁ、そのスーパーパイロットになれるかはお前次第だ。だが、俺はお前なら出来ると信じている。お前はあのフリット・アスノの息子だ。いつの時代も息子は父親を超えるもんだ。フリットを超えるお前がスーパーパイロットになれない訳がねぇ」
「はい!」
アセムの返事を聞いてウルフはアセムはもう大丈夫であると確信する。
アセムは自分の進むべき道を見出した。
これからも道に迷う事もあるが、今のアセムなら迷っても自分で何とか出来る。
後はアセムを戦場で鍛えておけばいずれは自分をも超えるスーパーパイロットに成長するだろう。
ウルフはアセムの成長を楽しみにしつつ医務室を出て行く。
ウルフが医務室を出るとフリットが待っていた。
「たく……アセムが心配なら、会って行けばいいじゃねぇか」
「今、私が何を言ったところでアセムには無駄だからな」
フリットも戦闘中に意識を失ったアセムの事が心配ではあったが、今のアセムに自分が何を言っても駄目である事は分かっていた。
アセムの一連の行動はXラウンダーの力に固執しての事だ。
その原因はビッグリングで行われた特別訓練プログラムでXラウンダーになれない可能性が高いと言う結果が出たからであろう。
フリットはXラウンダー能力を持つ自分ではアセムに何を言ってもアセムには嫌みにしかならず届かないと判断した。
その点、ウルフはXラウンダーを持っていない上に連邦軍内部でもトップクラスのパイロットだ。
ウルフが自分で思っている以上に面倒見が良いのは20年以上の付き合いのあるフリットは良く知っている。
だからこそ、息子の上官にする為にわざわざウルフを再びディーヴァに配属もした。
それは全てはアセムが大切な物を失わないように大切な物を守る力を得る為だ。
フリットは蝙蝠退治戦役のアンバット攻防戦で大切な人を自分の無力さが故に守る事が出来なかった。
アセムにはそんな思いをして欲しくは無くガンダムを託して、強くなる為の道を示した。
医務室から出て来たウルフの様子を見る限りではアセムは大丈夫なのだろう。
「兄さんのいるオーヴァンと連絡が取れない。何かあったのかも知れない」
「アセムの次はクライドか……アスノ家ってのは良く良く俺に面倒をかけさせるな」
ウルフはそのアスノ家に入るフリットに冗談交じりでそう言う。
クライドが行方が分からなかったり、連絡が取れない事は珍しくは無い。
フリットもその事は分かっているが、実の兄と連絡が途絶えた以上、心配なのはウルフも分かる。
だが、ウルフからしてみればクライドは殺してもひょっこりと何気ない顔で出てきそうだと本気で思っている。
「アイツの事だ。何だかんだで上手くやるさ」
「そうだな……」
フリットもクライドが無事である事を信じて、今はディーヴァがオーヴァンに到着する事を待つ。
ディーヴァがオーヴァンに向かっている頃、クライドは相変わらず、自分の研究室に籠っていた。
ブリッシュに現れた黒いガンダムの事で心当たりがあり、それは蝙蝠退治戦役時にAGEドライヴと共に受け継いだ過去の戦争の兵器データを洗い出している。
「見つけた……成程な。だったらあの異常な性能も頷ける」
その中から、クライドは目当ての情報を見つけて、その詳細な情報を出す。
「おいおい……マジかよ。これが事実ならとんでもない事だぞ……」
「でしたら、是非私にも教えてくれませんか」
クライドの後でそう言う事が聞こえた。
本来ならここに入る事を許されない相手だったが、クライドは驚く事なく、コンピュータに移されている情報を消して振り向く。
「ここに入る許可は出して無かった筈だが、クラリッサ?」
そこにはクライドに銃を向けている特研の副局長のクラリッサ・ルエーガーがそこにいる。
「少しは驚いたらどうですか?」
「以外と驚いて今にもちびりそうかもよ?」
クライドは銃を向けられていても気にした様子は無く、いつものままだ。
「一応、聞いた方が良いか? 何でここにいる?」
「そうですね。ならお答えしましょう。イゼルカント様は貴方の技術者としての腕を高く評価しています。私と共にヴェイガンに来る気はないですか?」
それは明らかにヴェイガンの人間である事を裏付けるものであった。
以前にグルーデックに忠告された特研の裏切り者とはクラリッサの事だった。
「俺に拒否権は?」
「あるとでも? 貴方の選択肢は二つ。イゼルカント様の下でMS開発を行うか。ここで死ぬかです。ご家族の事が心配でしたら、ご心配なく、イゼルカント様はご寛大なお方です。奥様や娘さんや息子さんも受け入れてくれますよ」
「逃げると言う選択肢はないのかよ?」
「ありませんね。すでにオーヴァンにいる研究員はヴェイガンでの立場を約束して私の側に付いています」
「約束ね……全く。女を知らない童貞どもは……」
どうせ、約束など守る気の無い事はクライドは良く分かっている。
今、オーヴァンにいる技術者は地球圏でもそれなりに優秀だが、地球圏よりもMS開発で進んでいるヴェイガンは欲する人材ではない。
優秀な人材はクライドの指示で当分、オーヴァンに戻れない仕事に出すが、無理やりミスをさせてクビにされているかのどちらかで、今オーヴァンに残っている技術者は地球圏にとっては大した価値の無い才能を持っている者達だけだ。
恐らくはこの一件が終わったら、全員が始末されるだろう。
クラリッサに協力している技術者は才能が中途半端な割りにプライドだけは一流と来ている。
だが、技術者と言うのは異性と知り合うきっかけが乏しい。
技術者と言うだけで油臭いや機会オタクだと言う偏見を持たれる事さえ少なくない。
その上、技術者にも女はいない事もないが、性格が変わっている事が多い。
そのせいもあってか、特研で所帯を持っている研究員は殆どいないだろう。
だから、見た目は美人であるクラリッサに甘い言葉で褒められて一度か二度抱かれるで籠絡するのも簡単だっただろう。
そんな連中は自分に都合が悪くなれば簡単に裏切る事をクラリッサも十分に理解している筈だ。
「こんな状況でも上から目線ですか」
「まぁな。仕方がない。俺にとってあいつらは格下だ。格上の俺が格下の事を話せば上から目線になる事は当然の事だ」
「そんな事は私には関係ないですね。返事をそろそろ聞かせてくれませんか?」
クライドがあからさまに時間を稼いでいる事が見え見えであるため、クラリッサは返答を急がせる。
「そうだな……条件がある」
「なんですか?」
「そのイゼルカント様だっけか? そいつをトップの座から引き下ろして俺に渡せ」
クライドがそう言った瞬間にクラリッサは銃の引き金を引く。
銃が放たれてクライドは右腕で防ぐ。
「おいおい……俺じゃなかったら冗談じゃ済まない事になってたぞ」
クライドの右手はアンバット攻略作戦で失っており義手だ。
その義手に使われているのは銃弾程度ではビクともしない金属を使っている為、銃弾を受けても問題は無い。
そして、クライドのXラウンダー能力でどこを撃つかを分かっていれば避けるのは出来ずとも義手で防ぐ事は可能だ。
「そうですね。冗談はやめて欲しいです」
そう言うクラリッサの目は次にそんな冗談を言えば容赦は無い事を物語っている。
そんなクラリッサの様子を見てこれ以上、粘っても無駄であるとクライドは判断する。
「答えはノーだ」
「理由を聞いても?」
「俺にとってこの戦闘で連邦が勝とうとヴェイガンが勝とうと興味は無い。俺はMS開発が続ける事が出来ればそれでいい。その点ではヴェイガンについても問題は無い。だけど、そうなった場合は俺に作ったMSの相手は技術で劣る連邦と言う事になる。技術で劣る相手を幾ら倒しても俺のMSの有用性は認められないだろ」
クライドにとってはそれは重要な事だ。
すでにヴェイガンの方がMS開発は進んでいる為、技術力で劣る連邦で技術力で勝るヴェイガンに勝つ事が自分の開発したMSの性能を実証する何よりの事だ。
「そうですか……残念です」
クラリッサはそう言い、引き金に力を込める。
「その前に一つ良いか?」
「なんです」
「技術者として一生の内に一度は言ってみたいセリフがある……こんな事もあろうかと用意していたものがある!」
クライドがそう言い、隠し持っていたボタンを押すとクライドの座っている椅子の下が開き、クライドは椅子ごと、その穴に下りて行った。
クラリッサもすぐに銃を撃つがそれよりも早く、クライドは穴の中に消えて穴は閉じる。
「逃げられたか……まさか、こんな物を用意していたとは……まぁ良い。どの道、オーヴァンから出る事は叶わない。袋のねずみよ」
クライドには逃げられたが、その時の対策もすでに打っている為、クラリッサは慌てる事なく次の手を撃つ。
クラリッサから逃げ遂せたクライドだが、すでにオーヴァン内はクラリッサに掌握されていた。
すぐに警報と共に特研で開発した対人用の小型戦車が徘徊している。
大きさは通路の半分程でしかないが、主砲のガトリング砲はMSに対してはジェノアスの装甲程度なら破壊出来る為、人間を殺すには十分の威力を持っており、その装甲にはジェノアスの装甲と同じ素材が使われている事もあり人間サイズの銃ではどうしようもない装甲を持っている。
「全く……自分の作った兵器に追い回されるのは貴重な体験だが、二度と御免だ」
クライドは銃を片手に慎重に研究室の通路を進んでいる。
研究室の緊急脱出口は研究所の外にまでは通じていない為、後は自力で逃げるしかない。
「まずは地下に行かないとな……地上ルートはクラリッサとその僕どもに抑えられている筈だ」
裏切った研究者なら武装したところで、実戦経験などある訳もないから問題は無いが、問題は小型戦車だ。
小型戦車は無人であるため、命令を忠実に実行する。
本来は研究所内に忍び込んだ敵を捕縛する為に使おうとして開発したが、最悪の自体に備えてキルモードにすれば対人戦闘においては恐ろしい兵器と化す。
今はその兵器を自分に対して使われているのは皮肉としか言いようがない。
「となれば、港も駄目となれば直接外に出るしかないか……」
地上のルートが抑えられているとなれば、確実にオーヴァンの宇宙港も抑えられている。
そうなれば、脱出出来る場所は限られて来る。
クラリッサも宇宙港以外にオーヴァンの外に出る事の出来る場所は抑えている事は予想が出来るが、このオーヴァンには建設時にクライドが勝手に付けたした物が多数隠されている。
クライドが研究室から逃げだした仕掛けもその中の一つだ。
そして、それはオーヴァンの見取り図には記されていない為、クラリッサも見逃している可能性が高い。
「その為にはまず、ゼロツーのところに向かわないといけないが、今の位置的にはツヴァイの確保は難しいな」
クライドは自分の現在位置とこの付近の仕掛けから逃げる為のルートを考える。
出来れば、オーヴァンに隠してあるガンダムZERO Ⅱは確保したかったが、位置的にそれは難しい。
クライドは通路で座り込んでルートを考えているとそれに集中していたせいで小型戦車が通路を曲がり、自分のいる通路に来ている事に気がつくのが遅れてしまう。
「流石にこれは……」
クライドは瞬時に小型戦車が自分を捕捉して、ガトリング砲を放ち、弾丸が自分に到達するまでの時間と自分が立ちあがり、通路を走り曲がり角に飛び込んで攻撃をかわすだけの時間を計算したが、クライドの運動能力では到達する事は不可能で、右手と左足の義手と義足でガトリング砲を受け止めたところで生身の部分に当たる可能性を計算したが、確実にアウトであると結果が出る。
小型戦車がガトリング砲を放ち、その弾丸がクライドの到達するよりも早く、クライドの前に人影が覆いかぶさる。
それはクライドの指示でオーヴァンに戻ったアリスだ。
アリスは蝙蝠退治戦役の時と何一つ変わらない容姿で相変わらずの無表情でメイド服を着ている。
クライドを庇ったアリスの背中にガトリング砲の弾丸は命中するが、アリスはその弾丸を受けても平然としていた。
そして、小型戦車のガトリング砲の弾が切れると、アリスは手榴弾を小型戦車に投げて、クライドを爆風から庇う。
手榴弾の爆発をまともに受けた小型戦車は完全に破壊される事は無かったが、ガトリング砲の砲身は破壊され、まともに行動が出来ない
状態になっていた。
爆風が止むとアリスはクライドの持っていた銃を手に取ると小型戦車に近づいて手榴弾の爆風で露わになった内部機器に銃弾を撃ち込ん
で小型戦車を完全に破壊した。
「ご無事ですか? クライド様」
「お陰さまでな」
アリスは小型戦車のガトリング砲の直撃を受けた事がまるでなかったかのように無表情でそう言う。
クライドもアリスがあれしきでは何ともないと分かっていたかのように対応している。
「それに相変わらずの頑丈さだな」
「当然です」
「損傷部を見せて見ろ」
クライドがそう言うとアリスはクライドに背中を見せてひざまづく。
アリスの背中はガトリング砲のよってメイド服はズタズタになり皮膚もメイド服同様だが、皮膚の下からは血の一滴も流れる事はなく、鉄板が見えている。
「装甲がへこんだ程度か……さっきのあれはジェノアスの装甲なら破壊出来るんだがな……」
クライドは呆れつつそう言う。
ジェノアスの装甲は今のMSの装甲とは比べものにならないくらいに脆いが、それでも対人兵器の攻撃を防ぐ程の強度は持っている。
それを破壊出来るガトリング砲の直撃でも耐える事が出来るのだ、呆れるしかない。
「あの程度では私は破壊出来ませんよ。その様に作られていますから」
「だよな。たく……クラークって奴はどんな化け物なんだよ」
クライドはそうぼやく。
クラーク・アスノ。
それがアリスを作った技術者だ。
クラークは歴史の教科書にも載っている歴史上の偉人だ。
アスノ姓である事から分かるようにクラークはクライドの遠い御先祖に当たり、MS開発の神とまで言われている。
コロニー国家戦争が始まる前、人類が宇宙の進出してすぐに宇宙空間での船外作業の為の人の形を模した作業機械をクラークは開発した。
それが後に戦闘用や様々な用途に活用される事となり、後のMSの基礎となった。
アリスはそんな時代のクラークによって開発された自立型AIを搭載した超高性能アンドロイドだ。
アリスには従来のAIチップとは比べ物にならない演算速度のAIを搭載し、まるで人間のように自己判断する事が可能になっている。
それだけの演算速度を維持しながら、人間の頭部に収まるサイズになっているのだ、それを開発したクラークと言う技術者は天才を通り越して化物としか言いようがない。
肉体は見た目こそは普通の人間と変わらないが、数百年経っても最低限のパーツ交換で今まで稼働しており、クライドでもアリスの体の構造は把握出来ないオーバーテクノロジーの塊だ。
アリスは人間のよう肉体の成長がない為にクライドが物心付いた時から今に至るまで全く容姿が変わっていない。
今まではある周期でアスノ家のメイドを止めた後、十数年後に名前を変えて止めたメイドの娘としてアスノ家に仕えて来た。
その事実を知るのはアスノ家の当主を含めて数人しか知らない事でクライドもいずれはその事を父より聞かされる筈だったが、その前にオーヴァン襲撃によって聞かされる事なく成長したが、十数年前にアリスにその事実を聞かされた。
それ以降はクライドの裏方として暗躍して来たんだった。
「そんな事はどうでも良いか……問題はこれからだ。幾らお前が居ても俺がいる以上、逃げ回るのにも限界がある」
アリスの戦闘能力は小型戦車でも十分に対応出来るが、クライドを護衛する為、クライドが足手まといになる。
その為、アリスの能力を持っての力押しでは何とも出来ないが、アリスが合流した事でクライドの選択肢は広がる。
「それに小型戦車のガトリング砲では私を仕留める事が出来ないと言う事はすでに向こうにも知れています」
小型戦車にはもしも敵が小型戦車を破壊する事が可能だった時の為に備えて、小型戦車同士のAIがリンクしており、破壊された状況は他の小型戦車からクラリッサの側に知れ渡っている筈だ。
そして、そんな時の為に小型戦車の換装ユニットとしてドッズライフルの技術を応用した小型のビーム砲も数基だが生産していた。
ガトリング方からそのビーム砲に主砲を換装して来る事は明白だ。
その事は開発者のクライドは当然知っており、調子に乗って小型戦車にビーム兵器を搭載させる事を可能にした事を軽く後悔する。
「クライド様。敵としては頭脳とXラウンダー能力以外に何の取り柄を持たないクライド様よりも、小型戦車を破壊出来る私の方が現状では脅威だと考えます」
「だろうな。お前を破壊すれば俺の手札は今は無いからな」
「となれば、敵は私を優先的に狙って来る筈です」
「つまり、アリスが囮になると?」
クライドの言葉にアリスは頷く。
クラリッサの側からすれば、アリスの戦闘能力は厄介だ。
対するクライドは高ランクのXラウンダー能力を持っていようとMSに乗っていないクライドは恐れるに足りない。
先にアリスを始末した上でクライドを追い詰める方が確実だ。
だが、裏を返せばアリスが無事である内はクライドへの追撃の手は緩まると言う事だ。
「その意味は話かったるんだよな」
「当然です。私はアスノ家を守る為の存在です」
アリスが囮になると言う事は、クライドがオーヴァンを離脱するまで敵を引きつけると言う事になる。
クライドが離脱した後は、当然アリスはオーヴァンから離脱する術がなければ確実に破壊される事は目に見えている。
「けどな……」
クライドにとってアリスは例え、アンドロイドであろうと家族も同然でアリスの体には今では再現不可能な技術が詰まっている。
その為、自身の命と天秤にかけたところで簡単に決断する事は出来ない。
「クライド様。私は機械です。言わばMSと同じ人間の道具です。でしたら、クライド様の命と私とではその重みが違います」
アリスはそう言うが、クライドは決心が付かず、頭の中ではアリスを囮にしないで現状を打破する可能性を模索するが、考えれば考える程、アリスを囮にする事が最も確実な方法であると言う結論になってしまう。
「クライド様。私は歴代のアスノ家当主様に仕えて来ました。その中でもクライド様はクラーク様に匹敵する頭脳を持っていると確信しています。そして、いずれはクラーク様を超える事も可能だとも思っています。その才能をここで死なすのには勿体ないと考えています」
アリスはクライドに決断を迫るが、その物言いはまるで人間のようにクライドには見える。
MS同様、扱う人間が居なければただの鉄屑に過ぎないであれば、クライドも決心が出来る。
「……分かった。それで行く」
クライドは一生分も悩み決断した。
「それでこそです」
「俺はゼロツーのところに向かう。お前はそれをクラリッサに気づかれないように囮になってくれ」
「了解です」
「アリス……また会おう」
クライドはそう言って立ち上がると行動に移す。
「また会おうですか……無茶を言いますね」
アリスもまた行動を起こした。
アリスは敢えて、監視カメラに見つかるように移動して、クラリッサの注意と小型戦車を引きつけていた。
二人の予想通り、小型戦車はビーム砲に換装されていた。
アリスは非常用に研究所内に隠してあった武器庫から対戦車ライフルなどを一式持ちだして、それを駆使してまずは通信施設を潰した。
それにより、クライドに外に救援を呼ばれないように一時的に使えなくしていた通信施設を完全に破壊した事でオーヴァンは外との通信が完全に取れなくなった。
その後、アリスは宇宙港を目指す。
その道中で小型戦車を破壊しつつ進むがビーム砲以外にも小型戦車の換装ユニットは存在して多勢に無勢もあり、対戦車ライフルや持ちだした火器の残弾もすぐに底をついた。
だが、何とか宇宙港に辿りつく事が出来たが、武器はナイフくらいで小型戦車にはナイフでの戦闘は効果的ではなく、面白いくらいに小型戦車を引きつける事には成功し、アリスは小型戦車に囲まれていた。
「数えるのも面倒ですね。最後に宇宙港を潰しておきたかったんですが……」
通信施設を破壊した事で修復するまで、クラリッサは特研の技術の情報をすぐに外に流す事は出来なくなった。
次に宇宙港を潰す事で情報を知る人をオーヴァンに足止めをしようとしたが、宇宙港に辿りついても宇宙港を潰す為の武器がない。
「ですが……ここだけは潰させて貰います」
すでに火器むなく、ここに来るまでに被弾して人工皮膚から機械の部分が見えている箇所も少なくない。
そんな状態のアリスだがアリスには最後の手段が残されている。
「申し訳ありません。クライド様……クライド様の『また会おう』と言う命令は実行出来ないようです」
アリスは体内に仕掛けられていた自爆プログラムを起動させた。
クラーク・アスノはアリスに使われている技術を流出させない為に機密保持の為に自爆プログラムを設置していた。
その威力は調整が可能で、最低限アリスの情報が漏れないようにアリスを完全に破壊する程度だが、最大の威力で自爆すればオーヴァンの宇宙港を潰すだけの威力を持っている。
「私はここでさようならです。クライド様」
そう言うアリスは今までの無表情ではなく、穏やかな笑みを浮かべていた。
アリスには感情と呼ばれる機能は搭載していない。
それ故にアリスは常に無表情でいる。
だが、自爆プログラムを作動させたアリスは穏やかに笑っている。
もしも、クライドが居れば何故アリスがこんな表情を浮かべているのか、詳しく調べたいと言い出すなとアリスは思っている。
そして、アリス自身も何故自分が笑えているかは理解出来てはいない。
自身が笑みを浮かべている事すら理解していないだろう。
それはアリスの開発者のクラークですら分からない事かも知れない。
本来あり得ない事が起きていると言う事実は誰にも知られる事もなく、アリスに内蔵されている自爆プログラムによりアリスは周囲の小型戦車と共に宇宙港を巻き込んで自爆した。
アリスの陽動とクラリッサの知らない隠し通路を駆使して、クライドはオーヴァンの地下まで逃げる事に成功した。
地下にはMSの格納庫の他にクライドが独自に用意した物が幾つか隠されている。
その中に、ガンダムZEROが隠されていた。
ブリッシュ公国の戦闘で黒いガンダムによって大破したガンダムZEROをここの施設を使い改良も兼ねて改修した。
ガンダムZEROの特徴でもあったアーマー換装システムは完全に廃止し、アーマーは固定となっている。
ノーマルアーマーをベースに両肩にはガンダムZERO Ⅲαに装備されているシールドをアームで固定されている。
バックパックには高出力の可変スラスターが装備され、可変スラスターには腰のアーマーに固定して構えるフォトンキャノンが二基装備され、両腕にはグレネードランチャーが内蔵され、腰にはビームサーベルが二基付いている。
掌と腕の内部機関はガンダムZERO Ⅲβの物に換装されており、掌にはビームサーベルの展開可能なビームバルカンが内蔵されている。
そして、胸部の追加装甲には拡散ビーム砲が内蔵され、全体的に火力を重視している。
すでにAGEドライヴはエリアルドのガンダムZERO Ⅲαに移されている為、この機体にはファムのガンダムZERO Ⅲγに搭載した新型の動力炉を搭載している。
更にはコックピットは全方位モニターになっており、新型のOSを搭載する事で歳と共に衰えたクライドの操縦技術を補っている。
こうして、生まれ変わったガンダムZERO2(ゼロツー)にクライドはパイロットスーツに着替えて乗り込む。
「後はアリスが上手く陽動してタイミングを見計らうだけだ」
例え、オーヴァンの外に逃げてもMS戦闘は避けたい。
その為、外に出るタイミングを見計らう必要がある。
そのタイミングを待っているとオーヴァンが強く揺れる。
クライドは知るよしもないが、この時にアリスは宇宙港を潰す為に自爆した。
だが、この揺れが爆発による物だとクライドはすぐに理解する。
コロニー内で爆発が起きれば二次災害などでコロニーの外壁に穴が開くなどと言う最悪の事態を防ぐ為にクラリッサもそっちに気が取られるだろう。
クライドはそう確信して、バックパックに装備されているフォトンキャノンを腰のアーマーに固定して放つ。
それにより、格納庫の外壁は破壊される。
「アリス……」
クライドは自分を生かす為に囮となったアリスの事を頭から振り払い、今はオーヴァンから離脱する事を最優先とする。
「クライド・アスノ。ガンダムZERO2……出る」
クライドは開けた穴からオーヴァンの外へと逃亡し、オーヴァンから離脱する。