ソロンシティを出港したディーヴァはデシルの襲撃を受けるもそれを撃退し、それ以降はヴェイガンの襲撃もなく、デシルのクロノスの帰投ルートから敵母艦の位置を大まかに割り出して、ヴェイガンが次に狙うのはノートラムである可能性が高い事をつき止めていた。
その部隊が大部隊である可能性がある為、フリットはアルグレアスにアマデウスで指揮を取らせて一足先にノートラムの防衛に向かわせた。
本来ならば、ディーヴァもノートラムに急行させて防衛に当たらせたいが、以前としてオーヴァンの詳細な情報がないので、無視は出来ずにオーヴァンへと急いでいる。
「まだ、連絡は付かないのか?」
「先ほどから繰り返しているのですが……」
オーヴァンとの距離が縮まっても連絡が取れないと言う事は本格的にオーヴァンで何かが起きた可能性が高くなる。
「艦長! レーダーに反応です……数は1……この識別は……特別技術開発研究所所属のガンダムZEROです!」
「何だと!」
その報告にフリットは思わず、席を立ちあがる。
そして、モニターにはオーヴァンを脱出して来たガンダムZERO2が映されている。
「通信は繋げる?」
「やってみます」
ミレースの指示で接近中のガンダムZERO2に通信を繋ぐとコックピットのクライドが映される。
「兄さん!」
「フリットか……丁度良い。面倒な事になったから説明がてらディーヴァに乗艦したい」
一先ず、クライドが無事である事を確認は出来たが、面倒な事になったと言うクライドから事情を聞くべく、ガンダムZERO2をディーヴァは回収する。
ガンダムZERO2を回収したディーヴァはクライドから事情を聞くべくクライドを艦長室に案内した。
そこには艦長のミレースの他、フリットとウルフも集まっている。
そこでクライドはオーヴァンで起きた事を噛み砕いて説明する。
「まさか、副局長がヴェイガンだったとはな……」
フリットもクラリッサとは何度も面識があり、印象としては真面目で興味の無い事にはやる気がまるでないクライドを補佐する右腕で自分にとってのアルグレアスの様な部下だったと認識していたが、まさかヴェイガンの人間だったとは少し信じられないが、クライドがクラリッサを嵌める為の嘘であればもっとうまいやり方をする筈であるため、真実であると確信は出来る。
それと同時に特研のナンバー2にまでヴェイガンのスパイがいると言う事は軍内部の末端だけでなく、上層部や政府関係者にもスパイがいる可能性を示唆する事でもあった。
「あの姉ちゃんがな……そんで誑かされたって言っても結構な数が裏切ったってお前、どんだけ人望がねぇんだよ」
「ほっとけ」
一組織の長として、部下の多くが裏切ったと言う事はそれだけクライドが研究所で人望がなかったと言う証明にもなる。
尤も、クライドからすれば自分の研究の為の研究所であり完全に実力主義だった為、自身の人望など大した問題ではなかった。
「それで現在のオーヴァンの状況はどうなっている?」
「オーヴァンは完全に掌握されてる。だけど、アリスが情報を外に漏らさないようにした。尤も、それも時間の問題だ。いずれは通信機能が回復するか、ヴェイガンの増援が来るかで特研の情報はヴェイガンに渡るだろうな。まぁ俺もある程度の細工はしてあるからある程度は制限出来るとは思っている」
特研の情報がヴェイガンに渡ればそこから更なる新兵器が実戦に投入される事は明白で最悪、こちらの兵器の情報も流れて対策を取られる危険性もある。
その為、この件を素早く処理出来なければ戦局はヴェイガンに傾きかけない。
「たく……お前はとことん面倒事を持って来やがるな」
「俺に言うなって」
「今はそんな事はどうでも良い。兄さんの事だ。こんな時の対策も用意してあるのだろう?」
「まぁな。今、連中はオーヴァンに引きこもって袋のねずみだ。港は潰されている事は逃げる時に確認した。通信も封じられている。今、
オーヴァンを落とせば特研の情報がヴェイガンに渡る危険性はない」
アリスが最後にクラリッサ達をオーヴァンに閉じ込めたお陰でまだ、情報がヴェイガンに渡ると言う最悪の事態は間逃れている。
だが、それも時間の問題でいずれは情報がヴェイガンに渡るだろう。
「今は連邦の主力はノートラムに向かってる。増援は期待出来ないとなると、俺らでオーヴァンを落とすしかないか……」
「アスノ局長。オーヴァンの防衛の為の戦力はどの程度です?」
ヴェイガンのノートラム侵攻に備えて、連邦軍の主力部隊はノートラムに向かっている。
ノートラムを落とされる訳にはいかない以上、オーヴァン攻略に戦力を割く訳にはいかない。
つまり、ディーヴァの戦力だけでオーヴァンを落とすしかない事になる。
現状でディーヴァの戦力はウルフ隊のMS6機とフリットとクライドを計算に入れると全部で8機だ。
その中に火力に特化しているガンダムZERO Ⅲγやディーヴァのフォトンブラスターキャノンなどもあり、オーヴァンの戦力次第では十分に落とす事は可能だ。
「ブリッシュで得たデータから改良したナイトルーパー改の先行量産機が10機程度だな」
「けど、特研にまともにMSを動かせる奴はいないだろ?」
「それは問題ない。ARISUシステムを使えば全てがエースパイロットだ」
ARISUシステムとはクライドが開発した自立稼働AIの事だ。
アリスの事を知ったクライドはアリスのAIを解析して再現をしようと試みたが、結果はアリスのAIに比べると失敗した。
だが、その失敗作のAIでも現在の技術的には最高クラスのAIである事には変わりない為、クライドはそのAIをMSに搭載出来るように改良した。
それにより、実際に人間が動かすとテストではパイロットの癖もデータに反映する為、その誤差を限りなく無くす為に何度も記録を取り複数のパイロットで同じテストを行っていた事をARISUシステムを搭載した無人MSで行う事でテストを繰り返す手間を大きく省く事が出来た。
それだけでなく、新しい技術の安全性の確認や意図的に起こりうる事故を起こす事で事故のデータを人的被害を出す事なく集める事に成功した。
そのARISUシステムはエースパイロットの操縦データを入れる事で全てが同じパイロットが乗っている状態でMSを動かす事が可能になっている。
クライドはあくまでもMSは人間の使う道具であるため、無人MSの実戦投入はする気はないが、今のオーヴァンにまともにMSを動かせるパイロットが居なければ十分ありうる事だ。
「だが、正面から正直に攻める必要もないから、エースが何んいようと問題は無い」
「何か策でもあんのか?」
「まぁね。こう言う時の為にオーヴァンには自爆システムが用意されている。そいつを使えば確実にコロニーごと機密を保持出来る」
「ですが、それは敵も予測しているのでは?」
「それはないな。その自爆システムはオーヴァンの建造の際に俺がマッドーナ工房に依頼して勝手に取りつけた物だ。その存在を知っているのは俺以外ではおやっさんとマッドーナ工房でも口の堅い技術者だけだ。故にクラリッサはそんな物が用意されている事すら気づいてないし、今ごとは僕を使ってロックをかけて来た情報を開示するのに躍起になっているだろうな」
これには流石に皆も呆れる。
クライドが特研を私物化している事はクライドと交友を持っている人の間では周知の事実ではあったが、まさかコロニー自体にまで勝手に細工を施していたとは思って無かったが、クライドなら確かにやりそうだ。
「だが、良いのか? そいつを使うって事はお前の城を完全に壊すって事だぞ?」
「別に構わんさ。あそこでの研究成果は俺の頭の中に入っているし、今のオーヴァンに破壊されて困る様な物は無いが、敵に渡ると面倒な物は沢山あるんだよな。情報以外でもツヴァイとか、地下には量産型のAGEビルダーとかも100基程作って見たしさ。それらがヴェイガンに渡る事は避けないとだろ?」
クライドは研究の成果はクライドの頭の中だけでななく、バックアップを小型のデータチップにまとめて義手と義足に仕込んでおり、過去の兵器情報のデータ端末も同様だ。
その為、オーヴァンにはクライドが開発し、実戦投入をする事なく封印されたガンダムZERO Ⅱやディーヴァに搭載されているAGEビルダーを材料などのコストを大幅に削減した量産型のAGEビルダーが隠してある。
まだ、見つかってはいないが、コロニーを隈なく捜索されればいずれは見つかるだろう。
「それに例の黒いガンダムが何なのかは掴んだから失っても大して痛くは無い」
「本当か。兄さん」
「ブリッシュで出て来たやばい奴か……アイツは何だっだ」
「あの黒いガンダムは開発コード『THE END』。コロニー国家戦争で単機で戦争を終わらせる為にアスノ家の最大の汚点であるダグ・アスノが設計開発した最後のガンダムだ」
「ダグ・アスノ……聞いた事がないが……」
フリットはその名前に聞き覚えがない。
クライドはアスノ家の最大の汚点と言うのだから、フリットやクライドと同じアスノ家の人間なのだろう。
そして、フリットが知らないのも当然だ。
ダグ・アスノはアスノ家の歴史の中で唯一の汚点とされている。
クライドも父からその名をアスノ家の汚点として聞かされていたが、何をしたのかまでは聞いてはいなかったが、THE ENDを調べた結果、その理由にまで辿りついた。
「なぁ、フリット……お前は銀の杯条約をおかしいと思った事は無かったか? 幾ら戦争が終結したとしても全ての兵器を破棄して保持する事すら認めないなんてあり得ない。もしも、どこかの陣営が破棄をしたフリをして見ろ。その陣営のみが兵器を持つ事になる。今まで戦争をしていた陣営同士が同時に兵器を破棄するなど信じられる訳がないし、もしも、別の勢力が出てくれば対応が出来なくなる」
「確かに……」
今までは銀の杯条約は当たり前のようにあった為、気にする事は無かったが、クライドの言う通りだ。
実際、連邦政府はヴェイガンによってエンジェルが落とされた天使の落日から14年も負け続けたのは銀の杯条約で兵器を捨てたからだ。
「だけど、その銀の杯条約を破る奴がすぐに出て来なかったのはジエンドのせいだったんだよ。コイツは戦闘があるたびに投入されて両陣営のMSや艦艇を全て破壊し、時には兵器工場ごとコロニーや都市を破壊した事もあるらしい。そうやって破壊の限りを尽くした事で人々に戦う恐怖を植え付けた。それにより戦争は終結。終盤はジエンドの一人舞台だったから、勝者は無し。人々には戦争による恐怖を植え付けたんだよ。何億と言う犠牲の元にな。そして、ダグはその事を分かっていたジエンドを開発して実戦に投入した。あの殺戮の為の機械をな」
クライドの言葉に三人は言葉を失っている。
余りにも信じがたい歴史の真実を知ってしまったからだ。
クライドも半信半疑だが、実際にTHE ENDの運用記録も過去の兵器データに残されておりそこから予測した事だが、大きく外れた訳ではない。
そして、それがダグがアスノ家最大の汚点と呼ばれた理由でもあった。
アスノ家がMS鍛冶の家系である以上、アスノ家の開発したMSで人が殺される事は避けられない。
その事はアスノ家の技術者は誰もが自覚している事だ。
だからこそ、アスノ家では大量殺戮兵器の開発は禁じられている。
クライドもこの戦争を利用して自身の開発したMSのテストの場として利用しているが、流石に数億の命を奪う事を前提としたMSの開発など死んでも御免で、それをやる事は技術者としては超えてはならない一線であると思っている。
だが、ダグは一線を超えてしまった。
その結果として戦争は終結したが、数億人の命を一機のMSで奪ったダグはアスノ家を追放された。
その為、クライドは決してダグを技術者としては認めない。
「そして、その後、ガンダムと言う破壊者の恐怖を忘れない為にその事を語り継がれて来たって訳だ。俺達の知るガンダムの伝説は語り継がれる途中でそれ以前のガンダムと混同して『戦争を終結させた』と言う事実が先走り、救世主『ガンダム』としてカッコイイ英雄譚として語られるようになったって訳だ。昔、うちの屋敷に飾られていたガンダムの肖像画もジエンドの特徴的なところだけを引き継いでそれっぽく変わっただけって事だ」
今までのガンダム像が崩れる様な気もして部屋の空気が重くなる。
「まぁそれはあのジエンドだけだって事にしとくさ。俺やフリットの開発したガンダムはダグ・アスノのジエンドとは違う」
クライドがガンダムを作ったのは復讐の為だが、少なくともフリットは皆を守る救世主となる為にガンダムを作った。
それは大量殺戮の為に開発されたTHE ENDとは違う。
「ジエンドの事は分かったが、ゼイ・ドゥの事はさっぱりだ。ゼイ・ドゥ自体、性能と扱い易さからザラムやエウバを始めとして多くの陣営が使っていたからな。陣営によっては独自の改良をしていたところもったがらしいが、ブリッシュで出て来た奴は改良のされていないタイプだったから陣営を割り出すのは難しい。だが、言える事は連中にはダグ・アスノが絡んでいる」
THE ENDが開発されてから100年以上が経ち、当時のTHE ENDはアスノ家によって確実に廃棄されている。
つまりは、何者かが再製造した事になる。
THE ENDはダグと共にアスノ家の汚点として表舞台から姿を消しており、その情報を知る事が可能なのは過去の兵器のデータを持つクライドと、同じく過去の兵器のデータなどが残されているデータベース『EXA-DB』、そして最後は開発者のダグ・アスノだ。
クライドは無関係で残された選択肢はEXA-DBかダグ・アスノだ。
ダグは100年以上も昔の人間だが、アスノ家を追放された後に事は不明でコールドスリープで現代まで眠っていた可能性もゼロではない。
EXA-DBの事は今のところは連邦側に知られたくはない為、伏せておいた。
「今はこれ以上の事は分からん。連中も何を持って行動しているのか分からない以上は打つ手がない。それよりもオーヴァンを落とす細かい算段の方が先だ」
今は謎の勢力の事に使っている時間は無い為、4人はオーヴァン攻略の為の作戦会議を始める。
クライドがディーヴァに合流してオーヴァン陥落に向けて動いている頃、オーヴァンではクライドの研究室のコンピュータのロックの解除作業を行っていた。
だが、特研の技術者を使ってもなかなかロックが解除出来ずにクラリッサは四苦八苦している技術者には分からないようにしているがイライラしていた。
「まだなの?」
「……もう少しです」
技術者はクラリッサにビビりながらも作業を急ぐ。
前に聞いた時も同じ事を言われたが、前に聞いたのは今からほんの数分前の事だった。
クラリッサは本来は単素でヒステリックを起こしやすい性格だ。
今までは指導者のイゼルカントの為とクライドや特研では素の性格を隠していたが、すでに隠す必要は無くなっている為、単気な素の性格が見え隠れしている。
そのせいで特研のマドンナ的な存在であるが故に甘い言葉でクライドを裏切った技術者は素のクラリッサの性格を知り後悔を始めているが、クライドが裏切った自分達を生かすような相手では無い事は十分に知っている為、生き残る為にはクラリッサが満足をする働きをするしかない。
「解除しました……」
技術者はクラリッサが切れる前に解除作業を終わらすが、その時点でその技術者は用済みになった為、クラリッサは技術者を射殺した。
「この中にアスノ家の技術の情報が……」
クラリッサはコンピュータの中の情報を閲覧しようとするが、コンピュータの画面がブラックアウトをして、すぐに画面が切り替わる。
そこには研究所の椅子に偉そうに座っているクライドの映像が映される。
「ああ……テステス。この映像が映されている事はクラリッサが行動を開始したと言うところだろうか」
画面の中のクライドはそう言い始める。
「まず、一つ。お前……馬鹿だろ。あんな物で俺が引っかかるとでも思っていたのか? お前がヴェイガンの人間である可能性があるって事が丸分かりだ。少しは工夫って事を覚えた方が良い」
クライドが言っているのはクラリッサがクライドに引きぬかれるきっかけとなった光波推進システムの事だ。
何も知らない技術者ならば、その技術は称賛に値する新技術だが、その技術はすでにヴェイガンのゼダスに使われていた。
クライドは蝙蝠退治戦役時にマッドーナ工房にゼダスが運ばれた時にムクレドが取ったゼダスのデータを持っている為、クラリッサの提唱した光波推進システムがゼダスの物と全く同じである事に気づくのは容易だ。
それからアリスに調べさせると、クラリッサはヴェイガンの人間か、ヴェイガンに通じている人間である事が判明した。
わざわざ、若い技術者が新技術を提唱して目立つと言う事は天才か、別の意図があるかだ。
ゼダスに使われている物と同じ物が偶然開発されたとは考え難い以上、別の意図がある可能性が考えられた。
その為、クライドはクラリッサの事を知った上で特研に引きぬいて泳がせていた。
その結果、クラリッサはヴェイガンであると判明した。
「そんなんだから、簡単に裏を付かれるんだよ。お前さ……スパイに向いて無いな。馬鹿だし」
クラリッサはクライドが全てを知った上で自分を引きぬいた事に気づく。
「まぁ、スパイをやらされる位だから、取りいる為の技術は褒めておく。『女』である事を利用するのは俺には真似できない事だからな。けどさ、そろそろお前も用済みなんだよ。だから、オーヴァンと運命を共にしてくれ」
自分がヴェイガンでのし上がる為にクライドを利用していたと思っていたが、実際は自分の方が利用されていた。
クラリッサが副局長の地位につくまでの道のりは容易では無かった。
クライドの信用を勝ち取る為に、成果を上げなくてはならず、紛いなりにも地球圏でも優秀な技術者の揃ってる特研では純粋に技術畑の出ではないクラリッサはそれだけで不利となる。
その為、今の地位を得る為に自身の女を利用した事は一度や二度ではない。
それも全ては指導者のイゼルカントの為と自分の出世の為と耐えて来たが、全てはクライドの掌で踊らされて、それをクライドは頭上から見下ろして嘲笑っていたのだこれほど屈辱な事は無い。
「尚、この映像は自動的にコンピュータごと自爆するように細工しておいたから、近くにいると危ないぞ。そんじゃカウントを始める10……」
クラリッサの屈辱を前に画面の中のクライドはカウントを始める。
「9……0」
10秒のカウントかと思いきやクライドは9から一気に飛ばしてOのなりクラリッサは反射的に後に飛び退いて頭を庇う。
「ドーン」
しかし、コンピュータは爆発を起こさず、クライドは迫力の欠片もない爆発音を口にするだけだ。
「バーカ今どき、そんな使い古された事をする訳無いだろ。まさか、ビビって飛び退いたとかないよな?」
まるで自分の行動を見透かされたかの様なクライドの言葉にクラリッサの怒りは頂点に達して、怒りのまま馬鹿にしているかの様な表情を浮かべる画面の中のクライドに銃を向けるが、クラリッサが引き金を引くよりも早く、先ほどクライドが言っていたようにコンピュータが爆発する。
クラリッサは反射的に腕で顔を庇うが、爆発したコンピュータの破片が腕に突き刺さる。
「クライド・アスノ……」
破片が刺さり腕から流れる血を抑えつつ、完全におちょくられている為、クライドの名を呪うかのように呟いたクラリッサの顔は副局長としてのクラリッサの表情とはうって変わりまるで悪鬼のように歪んでいた。
クライドを合流したディーヴァはオーヴァンに正面から接近していた。
ディーヴァの策は非常に単純な物であった。
ディーヴァとウルフ隊が正面から攻めて囮となり、オーヴァンの防衛部隊を引きつける。
そして、すでに出撃したクライドとフリットがオーヴァン内部に侵入してオーヴァンの自爆システムを作動し、脱出しオーヴァンを自爆させると言うものだ。
「お前ら、俺達の仕事は陽動だが、敵を俺達に引きつけておく為には俺達だけでオーヴァンを落とす気で掛かるぞ」
少なくとも敵にこれだけの戦力でオーヴァンを落とすと思わせるには、落とす気で掛からなければならない。
下手に気を抜いてしまうと敵にも別の意図があるかも知れないと思われてしまうからだ。
「ウルフ隊、出るぞ!」
ウルフ隊のMSが射出され、オーヴァンへと向かう。
オーヴァンの防衛線に接近すると、オーヴァンからもMSが出て来る。
それはクライドからの事前情報通りのナイトルーパー改だ。
ナイトルーパー改はブリッシュ公国で得たナイトルーパーⅣをベースにクライドが独自の改良を加えたMSだ。
ナイトルーパーⅣは近接戦闘を重視しら大型ランスが主兵装だったが、ナイトルーパー改は大型ランスをドッズバズーカに変更され、大幅に火力が補強されたが、その分、近接戦闘能力が低下している。
そして、両腕にはガンダムZERO Ⅲβに装備されていたビームシールドを装備し、内蔵火器の拡散ビーム砲を廃止して、新型のジェネレーターを搭載した事でビームシールドの出力を上げている。
それによって遠距離での砲撃戦では従来のMSを上回る性能となっていた。
「出て来たな……奴と撃ち合う事は無い。俺とアセムが先行する。オブライトはアリーサとマックスの援護をしながらついて来い。マリィはディーヴァと共に砲撃支援だ」
その情報はウルフ隊にもすでに伝わっている。
その為、機動力の高いウルフのGバウンサーとアセムのガンダムAGE-2が先行して敵を引きつけている間に後方からジェノアスⅡとアデルがナイトルーパー改に近接戦闘を仕掛け、近接戦闘の出来ないマリィのガンダムZERO Ⅲγはディーヴァと共に後方からの砲撃支援と言う戦術を取る。
ガンダムAGE-2はストライダー形態となり、ナイトルーパー改のドッズバズーカ乃迎撃を潜り抜けてGバウンサーと共にナイトルーパー改との距離を詰める。
ナイトルーパー改のドッズバズーカはAGE-2のハイパードッズライフル以上の火力と射程を持つが、ナイトルーパー改が肩に担ぐ程の大型の火器で連射も出来ずチャージの時間もかかる為、ナイトルーパー改の砲撃は時間差で行われる。
AGE-2の装甲でも直撃を受ければ致命傷を受けかねないが、前の戦闘後にウルフにスーパーパイロットになれと言われた事が効いているのか、アセムには今までの様な焦りはまるでなく、冷静に攻撃を見切り接近する事が出来ている。
ウルフもそんなアセムの動きから焦りは無く、本来の実力を発揮している事を確信し、アセムへのフォローは今は必要がない為、自身の戦いに専念出来る。
「捉えた!」
Gバウンサーよりも早くナイトルーパー改を射程に捉えたAGE-2はハイパードッズライフルを放つ。
それによりナイトルーパー改は散開するが、少し遅れて来たGバウンサーがドッズライフルを放ち、一撃目はナイトルーパー改の右足に被弾し、バランスが崩れたところをドッズライフルがナイトルーパー改に直撃する。
胴体に直撃するも一撃では致命傷にならなかったが、続け様にドッズライフルを撃ち込んでナイトルーパー改は撃墜される。
「流石に堅いな……」
ウルフはそう言いながら、ドッズライフルを放つ。
ナイトルーパー改は機動力を活かしてかわすが、ナイトルーパー改の動きは直線的になりがちでその事も当然、ウルフ隊は知っている。
その為、Gバウンサーのドッズライフルをかわした、ナイトルーパー改の前にはAGE-2がハイパードッズライフルを構えていた。
AGE-2はハイパードッズライフルを放ち、ナイトルーパー改を落とした。
「その調子だ。アセム!」
「はい!」
AGE-2とGバウンサーがナイトルーパー改と交戦して少しすると後方からオブライト達も戦場に到着する。
AGE-2やGバウンサーとは違い、ジェノアスⅡもアデルも性能的にナイトルーパー改とまともにやり合うのは難しいが、敵の動きは人間では決して真似は出来ないが、逆に完全に行動パターンが決まっている為、正確が故に動きは把握しやすい。
その行動パターンもある程度はクライドから情報が流れている為、対策も立てる事が出来る。
ナイトルーパー改がドッズバズーカを放ちオブライトのジェノアスⅡはドッズガンを撃ちながら後退する。
すると、ナイトルーパー改はドッズバズーカをバックパックにマウントするとバックパックに装備されているロングビームサーベルを抜いてジェノアスⅡのドッズガンをビームシールドで防ぎながら接近する。
「今だ!」
ナイトルーパー改はロングビームサーベルを振り上げると、アリーサとマックスのアデルがナイトルーパー改を挟み込むように待ち構えており二機のアデルはナイトルーパー改にドッズライフルを放つ。
ナイトルーパー改は完全に攻撃のモーションに入っていた為、回避行動を取る事が出来ずにドッズライフルの直撃を受ける。
装甲の厚いナイトルーパー改には一度や二度の直撃で致命傷にならない事は事前情報から分かっている為、アデルはドッズライフルを連射する。
ジェノアスⅡも至近距離からドッズガンを撃ち込んでようやくナイトルーパー改を撃破する。
「やりましたよ!」
「ようやく一機撃破だ!」
ナイトルーパー改を一機撃破した事を喜ぶ暇もなく、別のナイトルーパー改が三機に接近するが、後方で待機していたガンダムZERO Ⅲγがフォトンランチャーで援護射撃を行った。
ナイトルーパー改はガンダムZERO Ⅲγの攻撃を予測するも、搭載されているARISUシステムにはパイロットのマリィの射撃能力までは計算に入っていなかった為、回避しきれずに脚部に掠り機体の下半身が吹き飛びバランスが崩れてその隙を付かれてジェノアスⅡと二機のアデルの集中砲火を浴びて爆散する。
「隊長! まだ何か来ます!」
「クライドの奴……聞いてねぇぞ」
ナイトルーパー改の行動パターンを利用して、ウルフ隊は優位に立っていたが、オーヴァンより更なる増援が出て来る。
数は2機だが、ウルフとは非常に馴染み深いMSであった。
1機は蝙蝠退治戦役で自分の愛機だったGエグゼス。
もう1機はフリットの乗っていたガンダムAGE-1の2機だ。
どちらも黒一色で塗装されているが見間違う筈もない。
この2機はクライドが研究用の密かに建造していた物でそれを実戦に投入して来たのだ。
「AGE-1にGエグゼスか……それにしても黒一色とか趣味が悪過ぎだろ!」
GバウンサーとAGE-2は接近する2機に攻撃するが、2機は軽々と攻撃を回避する。
「あの動き……俺とフリットかよ」
AGE-1とGエグゼスの動きは蝙蝠退治戦役のウルフとフリットの戦闘データをARISUシステムで再現されている。
フリットのAGE-1には現在の戦場の状況から起こり得る事態を高速演算によって導き出し、最も起こり得る可能性の高い事を出した上で最も効率の良い動きを取らせる事でXラウンダー能力には一歩劣るがそれに近い動きを再現している。
「アセム! あの2機はお前に任せる!」
「俺にですか?」
「そうだ。アレは蝙蝠退治戦役の時の俺とフリットの戦闘データを使っている。お前は俺の様なスーパーパイロットになってフリットを超えるんだろ? だったら、昔のフリットの偽物に勝てない様じゃ、一生追いつけねぇ。だからここでお前はあの偽物フリットをぶっ倒してこい。ついでに昔の俺もな」
目の前のAGE-1とGエグゼスは自分とフリットの過去のデータを使われている。
今のウルフやフリットはそれ以上の力を持っているが、今のアセムの実力では勝てるかどうかはやってみないと分からない。
その為、ウルフはあの2機をアセムに任せる事にした。
もしも、この戦いであの2機に勝てるようなら、アセムは昔の自分をフリットを超えた事になる。
いずれ、自分達を追いこしていくアセムには過去の自分達を追い抜かす為にはこの状況は絶好の機会であると言える。
そして、あの2機をアセム一人で戦えるのであれば、自分はオブライト達の援護にも向かえる。
「分かりました!」
今までのアセムなら過去の二人とは言え、多少の尻込みをしたが、今は明確に進む道が見えている為、躊躇う事なく過去のウルフとフリットに向かっていく。
「俺は超えるんだ! 父さんもウルフ隊長も!」
AGE-2はハイパードッズライフルを放つが、二機は回避してビームライフルとドッズライフルで反撃する。
機体性能ではAGE-2の方が上ではあるが、AGE-1とGエグゼスはその性能差をもろともせずに向かって来る。
偽物とは言え、改めてフリットとウルフの凄さを目の当たりにするが、アセムは怯む事なく、向かい撃つ。
Gエグゼスは両手にビームサーベルを持ち、AGE-2も同様にビームサーベルを持って迎え撃つ。
二機はぶつかり合うとすぐにGエグゼスはAGE-2から離れると後方のAGE-1がドッズライフルを放つ。
AGE-2はかわそうとするが間に合わずに右足を吹き飛ばされる。
「強い……これが父さんと隊長の実力……だけど! 俺だって!」
AGE-2はハイパードッズライフルをAGE-1に向けるがGエグゼスがビームサーベルを振るいAGE-2の右腕をハイパードッズライフルごと切り落とした。
「まだだ!」
それでもアセムは怯む事なく、ビームサーベルを抜いてGエグゼスに切りかかりGエグゼスはビームサーベルで受け止める。
「アセム!」
「ディケ中尉! 何ですか!」
戦闘中にディーヴァの格納庫から通信が入る。
「今、ようやくAGE-2の新しいウェアが完成した!」
「新しいウェア?」
「ああ……その名もAGE-2 ダブルバレットだ! コイツはXラウンダー戦用とアセムの戦い型に合わせた新しいガンダムだ!」
今までの戦闘から対Xラウンダーの為の情報とアセムの操縦の癖や好みなどをAGEシステムが解析した結果、ガンダムAGE-2に新しい形態であるダブルバレットが完成していた。
「すぐに出して下さい!」
「分かった!」
AGE-2はGエグゼスを蹴り飛ばすとディーヴァの方に向かう。
AGE-1とGエグゼスもAGE-2を追うが機動力ではAGE-2の方が勝っている為、2機との距離は開いて行くが、ドッズライフルとビームライフルは正確にAGE-2を狙って来る。
その攻撃を回避しつつもディーヴァに接近するとディーヴァから新ウェアのダブルバレットが射出される。
AGE-2は現在付けているウェアをパージして、ダブルバレットに換装をしようとする。
パージしたウェアにビームが直撃して爆発が起こり、2機は正確にAGE-2を狙う事が出来ず、その隙にAGE-2はダブルバレットに換装した。
両肩にツインドッズキャノンを装備し砲戦能力を高め、両手に武器を持たない事でアセムの得意とする二刀流を使いやすくした当たらなガンダム……ガンダムAGE-2 ダブルバレットでアセムは再びAGE-1とGエグゼスへと向かう。
「このガンダムなら!」
AGE-2DBはツインドッズキャノンを放つ。
AGE-1とGエグゼスはかわすが、AGE-2DBはストライダー形態に変形して距離を詰める。
距離を詰めるとMS形態に変形して、両手にビームサーベルを持ってGエグゼスに切りかかる。
Gエグゼスも二刀流で迎え撃つが、ストライダー形態で勢いを付けたAGE-2DBに弾き飛ばされる。
AGE-2DBはそのまま、Gエグゼスに接近してビームサーベルでGエグゼスを両断する。
その後、両肩のツインドッズキャノンを後方に向けて両断されたGエグゼスに止めの砲撃を加えてGエグゼスを撃墜した。
「ハァハァ……隊長……やりましたよ」
Gエグゼスを撃墜し、過去のウルフに勝利した余韻を味わっている暇もなくAGE-1はドッズライフルを放つ。
AGE-2DBはストライダー形態に変形してかわし、AGE-1に向かう。
AGE-2DBはふくらはぎに搭載されているカーフミサイルで弾幕を張り、AGE-1はドッズライフルでカーフミサイルを迎撃する。
その隙にAGE-2DBはビームサーベルを抜き、AGE-1に切りかかり、AGE-1もビームサーベルで弾きドッズライフルに持ち替えて放つ。
「俺はなるんだ!」
AGE-2DBはドッズライフルを回避しながら、AGE-1に接近する。
そして、両肩のツインドッズキャノンの砲身をパージしてそこから巨大なビームサーベルを展開する。
その武器の事はAGE-1のデータの中には存在しない為、それを使われる可能性自体がないのでAGE-1はその巨大ビームサーベルによってシールドごと、左腕を切り裂かれた。
AGE-1はドッズライフルを向けるも、もう片方の大型ビームサーベルでドッズライフルごと、右腕を切り落とした。
「俺は……スーパーパイロットに……」
両腕を破壊されたAGE-1にAGE-2DBは両手にビームサーベルを持って突っ込む。
「なるんだぁぁぁ!」
AGE-2DBの両手のビームサーベルの攻撃がAGE-1にまともに直撃し、AGE-1は両断されて爆発を起こす。
「俺……倒したんだ……父さんとウルフ隊長を……」
「アセム! ぼやっとしてんな! 敵はまだいるぞ!」
過去のデータとは言え、フリットとウルフの二人を倒した事でアセムは浮かれ気味になるが、ウルフの叱責で気を引き締めて残っているナイトルーパー改の相手に向かう。
ウルフ隊が交戦している頃、戦闘の開始よりも前に出撃して、遠回りで接近したクライドのガンダムZERO2とフリットのガンダムAGE-1 フラットは敵に見つかる事なくオーヴァンに取りついていた。
オーヴァンには自爆システム以外でもコロニーの見取り図には乗っていない隠し通路がいくつも用意されており、時間的にクラリッサにはその全てを把握しているとは思えない。
把握していなのであれば、封鎖されていたり待ち伏せもされていない。
「どうやら、ウルフ達の陽動は成功しているようだな」
「みたいだな。まぁ、陽動が無くても余裕で戻ってこれたけどな」
二人は内部に侵入してAGE-1 フラットを先頭にして進んで行く。
フリットは敵に見つかった時の為の護衛の役目もあったが、目論見通り敵の注意はディーヴァの方に向かっている為、敵を出くわす事は無かった。
「フリット、この辺りで良い」
オーヴァンに侵入して少し進み、クライドは機体から降りる。
フリットはクライドの作業が終わるまで敵がこないか周囲を警戒する。
機体から降りたクライドは携帯端末を手にして、コロニーに備え付けてある端末に持っている携帯端末を接続する。
「セキュリティもそのままかよ……挑発は効いたって事か」
クライドがクラリッサ宛てに残したメッセージはクラリッサを挑発して、正常な判断力を奪う為の物だった。
クラリッサの素の性格は余り気の長い方ではなく、単気である事はアリスの調査でクラリッサのプライベートな時間など一秒もないくらいに監視をしていたので十分に把握している。
だからこそ、クラリッサに宛てたメッセージでクラリッサを挑発した。
そのせいでクラリッサはクライドが戻って来た時に血祭りにあげる事しか頭になく、オーヴァンのセキュリティをクライドのいた時から変えていなかった。
もしも変えたところでクライドは自力で破る気でいたが、変えてないのであればセキュリティを突破して、オーヴァンの管制システムを掌握する事は容易い。
管制システムに携帯端末からアクセスすると、クライドはシステムに隠してあった自爆システムを作動させる。
「これで良しっと……」
自爆システムが作動した事を確認すると、クライドは機体に戻る。
「終わったぞ。フリット」
「分かった。すぐに脱出するぞ」
自爆システムを作動させた以上、長居は無用であるため、クライドをフリットはすぐに来た道を戻りオーヴァンから離脱して行く。
「Gエグゼス及びAGE-1のシグナル消失しました……」
オーヴァンの管制室ではGエグゼスとAGE-1の撃墜を確認していた。
あの2機には蝙蝠退治戦役で大きな戦果を上げたウルフとフリットのデータを入力していたが、所詮は20年以上も前のMSでは今のMSを相手にするのは性能的に厳しかったと言う事だ。
「どう言う事! 何で新しいガンダムが出て来るの!」
クラリッサは管制室の技術者を怒鳴りつけるが、技術者からすれば当然の事だ。
ARISUシステムは無人機であるため、パイロットを必要としないシステムだが、その決定的な弱点としてデータの無い武器に対しては適切な行動を取る事が出来ずにその点では人間のパイロットに比べて大きく劣ると言う点だ。
これが人間ならある程度は経験則や直感である程度は対応は出来るがARISUシステムは既存のデータに依存している為、そのデータにない武器には適切な判断が出来ない。
その為、進化するMSであるガンダムとの相性が非情に悪い。
だが、その事をクラリッサに意見として言おうものなら確実に殺される事は目に見えている為、誰もその事を言う事なくクラリッサの癇癪が収まる事を待っていた。
すると、クラリッサにクラリッサが事前に内部に引きいていたヴェイガンの兵士がクラリッサの耳元で何かを報告する。
「ちっ……私は少し外すからその間はアンタ達で何とかしてなさい!」
クラリッサはそう言って管制室を出て行く。
嵐が過ぎ去った事で技術者達は安堵するが、ディーヴァはクライドからARISUシステムの対処法を聞いている事は戦い方からは明白でARISUシステムの天敵であるガンダムはデータにない新しいウェアに換装している為、すでに勝機などは無い事は分かり切っていた。
技術者達が諦めムードの中、少し外すと言っていたクラリッサは部下と共にオーヴァンを離脱していた。
先ほどの報告はオーヴァンの自爆システムが作動しているとの報告でそれを聞いたクラリッサはすぐにオーヴァンの脱出を決めた。
いざと言う時の為に引きいれた部下には自分用のドラドLと二機のドラドをオーヴァンに持ち込んでいた。
すでに勝機がない為、これ以上ここに残る必要がなくなり、後は技術者に任せて自分達はディーヴァが攻めて来ている方向とは別方向から密かに逃げる算段だ。
だが、クラリッサが逃げる事もクライドには想定内の事だ。
「クラリッサ様! 高速で接近する機影が……早い!」
部下の一人がそう叫ぶ。
レーダーには異様な速度で接近するMSが確認出来る。
「次は何なのよ!」
接近するMSはクライドが待機させておいた、ファムの新型のガンダム……ガンダムZERO Ⅳだ。
ガンダムZERO Ⅲβをベースとしてブリッシュ公国で回収したXフレームをコックピットの周辺に搭載した実験機だ。
Xフレームを搭載した事による反応速度のデータ収集を兼ねている為、武装は両手のビームバルカンとビームサーベルのみでバックパックには翼状のスタビライザーが4基搭載され、機動性能に特化している。
そして、コックピットは回収したガンダムZERO Ⅲβの物を流用し、全体的に装甲は殆ど付いていない為、防御力は殆ど無い。
「小父様の読み通り。自分が裏切らせた技術者は全て見捨てて逃げる訳ね……だったら、同胞とは言えこころおきなく倒せる」
ガンダムZERO Ⅳはビームバルカンを放つ。
二機のドラドはビームライフルを放つが、ガンダムZERO Ⅳは速度を維持したまま、かわしてビームサーベルでドラドの頭部をすれ違いざまに潰して破壊する。
その余りにも早い為、クラリッサももう一機のドラドのパイロットも全く反応が出来ない。
「機動性能に反応速度もベータとは比べ物にならない……」
ガンダムZERO Ⅲβを完璧に乗りこなしていたファムもガンダムZERO Ⅳの機動性能をコントロールするのは大変で少しでも気を抜くと扱い切れなくなりそうだった。
「だけど……このガンダムも使いこなして見せる!」
「何やってんの! アイツを撃ち落としなさい!」
ドラドLとドラドはビームバルカンを撃つがガンダムZERO Ⅳは余りにも早過ぎて狙いが定まらない。
ガンダムZERO Ⅳはドラドの背後を取ると、至近距離でビームバルカンを撃ち込んで破壊する。
「ふざけんな……」
ドラドLは両腕に装備されている小型シールドから小型ミサイルを放つが、ガンダムZERO Ⅳの機動力について行く事が出来ず、ビームバルカンで迎撃される。
「こんな事があって堪るか!」
クラリッサは叫びながら、ビームバルカンを連射する。
コンピュータの爆発で腕を怪我しており、最低限の手当てしかしていないので傷口が開いているが、頭に血が上っているクラリッサはそんな事には気が付いていない。
ビームバルカンを連射するが、ガンダムZERO Ⅳを捉える事が出来ずにそれが更にクラリッサを苛立たせる。
「私はイゼルカント様に認められて……ヴェイガンでのし上がるんだ!」
ドラドLは拡散ビーム砲を放つが、それをかわしたガンダムZERO Ⅳはビームサーベルを展開して接近する。
そして、ビームサーベルでドラドLの胴体を両断した。
「こんなところで……地球種に!」
胴体を両断され、ドラドLは爆発を起こした。
「任務完了……」
オーヴァンから離脱した3機のMSを撃墜し、他にMSが出て来る事の無い事を確認したファムは再び、出て来る事を考えるが、ディーヴァに捕捉されるのは面倒になる為、後退する。
自爆システムを作動し、オーヴァンから離脱したクライドをフリットはディーヴァに合流している。
すでにウルフ隊によって防衛のMSは全滅し、後はオーヴァンが自爆するのを待つだけだ。
勝利を確定させて、後は待つだけだが、オーヴァンに管制からディーヴァに通信が入る。
その通信をクライドのガンダムZERO2に回してクライドが通信に出る。
「局長……」
「どの面を下げて通信をして来たんだよ。お前らは」
クライドが出た事でクラリッサに利用されて裏切った為、技術者は後ろめたさを覚えるが今はそんな事を言っている場合ではなかった。
「我々は降伏します! ですから……」
「知るかよ」
クラリッサについて行けずに降伏をしようとするが、クライドは話の途中で一蹴する。
「お前らは一度裏切ったんだ。そんな事が通る訳ないだろ」
技術者達はクラリッサに唆されたとしても、自分の意思で裏切り、再び状況が悪くなると今度はクラリッサを裏切ろうとしている。
そんな相手を二度も信じる程、クライドは甘くない。
「だったら、ここで拘束を受けている奴だけでも助けてくれ……」
オーヴァンの技術者は研究者の大半が裏切っても全員が裏切った訳ではなく、裏切るつもりの無い者は皆拘束されている。
通信をして来た技術者は同僚に対しては仲間意識を持っていたのか、裏切る気の無かった者だけは助けて欲しいと言う。
「そいつらがヴェイガンと通じていないとどう証明する?」
現状で危惧する自体の一つで裏切り者でなないと装った裏切り者だ。
裏切る気もなく拘束された物達の中に裏切り者がいないと言う事が証明出来ない以上、解放する訳にはいかない。
下手に解放した後に情報がヴェイガンに渡るかも知れないからだ。
事前にその可能性の低い技術者達はオーヴァンから出している為、残っているのはクライドにとっては切り捨てても構わない技術者か、裏切り者の可能性があるかだ。
「それが出来ない以上は解放は出来ない……それに時間切れだ」
クライドがそう言うとオーヴァンのところどころから爆発が起き、オーヴァンは崩壊を始める。
その影響で通信系に異常が発生したのか、通信にノイズが入り、最終的に通信が途絶えた。
そして、オーヴァンは完全に崩壊し、クラリッサによる特研のクーデターは鎮圧された。