ヴェイガンのノートラム侵攻から一年……
ノートラム攻防戦は連邦軍の勝利に終わった。
しかし、その戦闘中に現れた連邦軍でもなく、ヴェイガンでもない第三軍……UIEによって双方は大打撃を被る事になった。
連邦軍ではその戦闘中に特別技術開発研究所の所長クライド・アスノを始め、特研が所有するMSの大半を失い、その前に起きたクーデターもあり、実質的に壊滅状態となり元から問題も多かった為、なし崩し的に取り潰された。
その後、連邦軍もヴェイガンも大きな被害が出た為、大規模な戦闘は行われず、特研から盗んだデータを利用して戦力を蓄えていたUIEは超ド級戦艦『ノア』を拠点とし、地球圏のどこかに姿を潜ませて、時折その影をチラつかせるだけで行動を起こしてはいなかった。
そして、後にこの戦いで散って行った多くの勇敢な兵士に敬意を表して『勇気の日』と呼ばれる事となった。
A.G.142年、天使の落日から41年が経ち、この日は天使の落日での犠牲者を追悼する式典が地球連邦首都『ブルーシア』によって行われる。
そこにアセムはいた。
ノートラム防衛戦にて移動要塞『ダウネス』の地球降下から地球を守った功績を認められてアセムは伍長から少尉にまで昇進し、今はウルフ隊を離れて特務隊の隊長を任されている。
特務隊となったアセムの乗るガンダムAGE-2とアセムの来ているパイロットスーツは今までの青から白一色になっている。
これは昇進する際に当時の上官のウルフからアセムはもうケツの青い餓鬼ではなく一人前のパイロットだから、最もイケている色である白にする事を許すと言われてAGE-2はアセムの意見を半ば無視して白く塗装された。
アセムも目標の一人であるウルフに認められた事は素直にうれしく白いAGE-2を受け入れた。
そして、今日は連邦政府首相のフロイ・オルフェノアの演説もある為、アセムは特務隊の部下を引き連れて警備に当たっている。
本来ならば地上での演説に特務隊が警備に当たる事はないのだが、今回は特別にフリットの指示でアセム達が警備についている。
部下に指示を出すアセムの表情は硬い。
アセムはフリットからこれより何が起こるかを聞かされている。
アセム達の任務はそれを誰にも妨害させない為だ。
部下に指示を出し終えて、部下のMSはアセムに指示された地点に向かい、アセムはふとトルディアに帰ったロマリーの事を思い出す。
あの戦いの後、いろいろとゴタゴタとしていたが、ある程度落ち着いたところでロマリーは軍を退役した。
その際にロマリーはアセムに自分は学生気分のままだったと告げた。
軍に入った後も学生気分が抜けていなかった。
それをマリィのMIAで気付かされたと言う。
ゼハートと共に大気圏に突入したマリィのコアファイターは今も見つかっていない。
軍でも落下予測地点を捜索したが、コアファイターの残骸も見つかっていない為、軍はマリィのコアファイターは大気圏で燃え尽きたと
判断し、今では戦死と言う事になっている。
そうして、ロマリーは軍を退役して、今は故郷のトルディアに帰っていた。
アセムはロマリーの事を思い出すと気が緩みかけたが、すぐに気を引き締める。
アセムは機体をストライダー形態に変形させると、自分の持ち場まで飛翔する。
ブルーシアでのオルフェノアの演説は順調に進み、そのまま何事もなく終わるかに思えた。
しかし、そうはいかなかった。
演説の途中でオルフェノアに武装した連邦軍の軍人がオルフェノアに銃を向けて取り囲む。
「我々は貴方と共に戦う事などは出来ない」
武装した軍人の後からフリットがそう言う。
「なぜなら……貴方はヴェイガンと通じているからだ!」
フリットがそう言うと式典会場はざわめく。
当然だ。地球連邦軍の総司令部『ビッグリング』の司令官のフリットが地球連邦政府首相のオルフェノアに対し、銃を向けて敵と通じていると公の場で糾弾しているからだ。
フリットはノートラム防戦の後にグルーデックより渡されたデータを元に調査を進めた結果、オルフェノアがヴェイガンと通じている確たる証拠を見つけ、オルフェノアが敵と通じている裏切り者だと判断した。
そして、今日、慰霊式典の場でその事実を公にしたのだった。
式典には多くのマスコミ関係の人が呼ばれている為、この場で公にすれば連邦政府はその事実を隠蔽する事が出来なくなるからだ。
「私がヴェイガンと通じているだと? 何を根拠に……」
「証拠ならあります。名門オルフェノア家はヴェイガンを生み出す事となったマーズバースディ計画を計画し、その後失敗するとその隠蔽まで行ったシュトレイト・フォンドール博士の血縁である。オルフェノア家はその事実を代々隠蔽して来た。その事実は貴方にとっては表に出来ない事だ。そこをヴェイガンに付かれた。その事を公表されない代わりにヴェイガンに軍の情報を流した……これがその証拠映像です」
フリットがそう言うと式典会場のバックスクリーンに映像が流れる。
それはクライドがアリスに命じて取らせたものだ。
そこにはオルフェノアとクラリッサが映され会話まではっきりと録音されている。
本来はクライドがオルフェノアを脅す材料にする為に取らせていたが、この映像は事前にフリットの手に渡るように手配されていた事によってオルフェノアを追い詰める事となる。
映像自体は隠し撮りである為、法的な証拠能力はないが、会話の内容からオルフェノアがヴェイガンと通じている事は明白だった。
それを見せつけられたオルフェノアに言い逃れは出来ない。
この映像は偽造された物であると主張しても詳しく調べればこれが偽造された物ではないと言う事実が残り帰って自身の首を絞めてしまう。
フリットが偽造した映像を使う様なドジを踏む筈がない。
「貴方は自分の地位の為に地球を売ったのだ!」
フリットに決定的な証拠を突き付けられてオルフェノアは反論出来ないが、式典会場に警報が鳴り響く。
「司令! ヴェイガンのMSが会場に接近しています!」
「恐らくヴェイガンの狙いは貴方です」
ヴェイガンがここに仕掛けて来る理由はいくつか考えられるが、状況的にオルフェノアを消しに来たと言う可能性が高い。
フリットも情報が漏れてオルフェノアに先手を打たれないように細心の注意を払い、ここまでの計画を準備して来た。
それでも人が関わる以上、完璧に秘匿する事は不可能で、何処からか情報が漏れる事もあり得る。
そこから、オルフェノアがフリットの追及を逃れる事が出来ないのであれば、ヴェイガンの取る手は一つしかない。
オルフェノアの口を塞ぐ事だ。
その為にヴェイガンはMSを送りこんで来たのだろう。
「だが安心しろ、貴方をみすみす奴らに始末させる訳にはいかない。まだ、いろいろと聞きたい事があるからな」
ヴェイガンはわざわざMSを使っての強硬策でオルフェノアを消しに来たと言う事はすでにヴェイガンにとってオルフェノアは利用価値が無いと言うのと同時に早急にオルフェノアを消したいと言う事だ。
この状況で強行策を取ると言う事はオルフェノアは少なからずヴェイガンに関する情報を持っていると言う事だ。
オルフェノアも自分が用済みとして切り捨てられる事に動揺を隠せない。
そして、警備のMS隊を突破して来たメデル・ザントのゼイダルスが式典会場に現れた。
ゼイダルスは瞬く間に警備のアデルを全滅させて、式典会場のオルフェノアの命を狙う。
だが、その前にアセムのガンダムAGE-2が降り立ちゼイダルスの前に立ちはだかる。
「これ以上は行かせない!」
「ガンダムか!」
AGE-2がゼイダルスの相手をし、フリット達はオルフェノアの安全と身柄を確保する。
「行かせはせんぞ!」
ゼイダルスは連れて行かれるオルフェノアを始末しようとするが、AGE-2がビームサーベルを振るい、ゼイダルスの左腕が切り落とされる。
「何故だ! お前は腐敗した連邦でそこまで戦える!」
「俺は皆を守る為に戦っている!」
ゼイダルスは左腕のクローを突き出すが、AGE-2はかわしてビームサーベルでゼイダルスの腕を切り落とす。
「俺は大切な人達を守る為に戦い続ける!」
ゼイダルスは拡散ビーム砲を放とうとするが、AGE-2はそれよりも早く、左手にもビームサーベルを持ち、ゼイダルスを切り裂く。
そして、ゼイダルスは爆発を起こす。
これによりヴェイガンのオルフェノアの始末を失敗した。
地球でフリットがオルフェノアを糾弾している頃、エリアルドは久しぶりに纏まった休暇が取れた為、アーヴィンに戻って来ていた。
ノートラム防衛戦から、エリアルドは通常の部隊に戻された。
今は軍のMS隊の隊長として日々、訓練に明け暮れている。
「久しぶり。ファム」
アーヴィンの中でブランシャール邸でエリアルドは久しぶりにファムを会う。
あの戦いからすぐにアブディエルはそのクルーと共に行方を眩ませた。
ファムはその際にエリアルドといる事を選んだ。
その後のアブディエルの行方はファムやエリアルドは知らない。
クライドの行方不明と言う事で今までの後ろ盾を失い、連邦軍からも追われる事になる為、ファム達は余計な事を聞かない事にしたからだ。
「ニュース見た?」
「ああ……司令が首相を糾弾したんだろ?」
エリアルドもここに来るまでのシャトル内でフリットが式典中にオルフェノアを糾弾したと言うニュースを見ている。
「恐らく連邦軍内部には更にヴェイガンと通じている人達がいる。指令は一人残らず、見つけ出すだろう」
「そう……」
ファムは少し暗い顔をする。
エリアルドの言う通り、フリットはヴェイガンと通じている者を決して許さないだろう。
最悪、それは両親をヴェイガンに持つファムのところまで来るかも知れない。
そうなれば、ファムは今の様な生活は出来ないだろう。
今のファムの立場はエリアルドの婚約者だ。
実際、あの時の告白の返事もプロポーズもまだだが、大かたの事情を知っているエリーゼが面倒事から守る為に立ち場上だけの婚約をさせた。
すでにファムはブランシャール運送の社員の偽造IDを持っているが、それを調べたエリーゼの父、パトリックがその余りにも出来の良さを感心し、偽造ではなく、本当にファムをブランシャール運送の社員として雇いいれている。
そこから、クライドがいざと言う時は本当にファムを地球の人間に出来るように手を打っていたいたのだと推測は出来るが、当の本人は行方知れずだ。
しかし、あれから1年が経つが未だにクライドの葬式などは行われてはいなかった。
不思議と皆が、クライドが死んだとは思えなかった。
またその内、ひょっこりを出て来そうだとクライドを知る者は皆一様にそう言っている。
「大丈夫だよ。ファムは俺が守るから。例え世界を敵に回しても……」
エリアルドはそう言ってファムを抱きしめる。
あの戦いでエリアルドは多くの人を失った。
だが、それでも今は腕の中に大切な人がいる。
今はただ、それを守る為に戦うと死んで行った者達にエリアルドは誓った。
A.G.142年、地球連邦軍首相、フロイ・オルフェノアは連邦反逆罪で逮捕され、フリット・アスノは粛清委員会を結成し、軍や政府内のヴェイガンと通じている者たちを一掃した。
その後、新たな首相が選びだされ、連邦軍は新しく生まれ変わってヴェイガン、そして新たに戦争に加わったUIEとの戦争は続いている。
A.G.154年……ここは地球圏のどこかの小惑星帯の中の小惑星。
その小惑星には過去の戦争における兵器データが残されているデータバンク『EXA-DB』が隠されていた。
そこに一人の老人の姿があった。
老人の右目には大きな傷があり、左目も閉じたままで杖を付いている。
その老人の前には大きなカプセルが置かれている。
カプセルの中には液体が充満し、そこには一糸纏わぬ女が入れてられている。
女は歳は10代の後半くらいで特徴と言えば黒い長髪くらいだ。
「完成だ……」
老人はそう言う。
老人の目はどちらも開いてはいないが、分かるらしい。
「後は世界がどう動くかだ。イゼルカント……そして、アルべリック……お前たちはどう動く」
老人はそう言いカプセルのある部屋から出て行く。
そして、カプセルの中の女が薄らと目を開けた。