ホワイトファングのMS隊が戦場に到着した頃にはすでに戦闘は終了していた。
そして、最後に増援を頼まれて以降のフォルスの足取りは掴めないでいた。
戦場にはフォルスのガンダムAGE-2Xの破片が残されていた為、AGE-2Xは損傷している事は確定しているが、破片の量からAGE-2Xが撃墜された可能性は低いと考えている。
そこから考えられる可能性は二つだ。
フォルスは機体を損傷させて戦闘宙域から離脱し今は身を隠しているか、敵に捕まったかだ。
前者はすでにフォルスが消息を経ち数時間が経っている為、フォルスから何の連絡もない事を考えると可能性は低い。
その為、フォルスは敵に拘束された可能性が高い。
「艦長! すぐにフォルスの捜索を本社に依頼しましょう!」
ラウラは珍しく、感情的にウルフに詰め寄る。
フォルスの消息不明から少しの間は冷静になろうとしていたが、すでに我慢の限界で今にも作業用の小型MSで飛び出していきそうな勢いだ。
「落ち着け。ラウラ、焦ってもどうにもならんだろ。それに、フォルスはUIEに捕まった可能性が高い。そんな状態で本社に連絡でもして見ろ、俺達は待機で別の部隊が編成されるだろう。そうなれば俺達は何も出来んし、時間がかかり過ぎる」
CMCの本社はフォルスの実力を非常に高く評価している。
それ故に破格の待遇で契約もしている。
そのフォルスがUIEに捕まったとなれば、ホワイトファングには待機命令が出て、フォルス救出の為の部隊が編成されるだろう。
だが、その編成までには時間がかかる為、その間のフォルスの身の安全は一切、保障が出来ない。
それ以上にウルフは命令権が無かろうと自分の船のパイロットが敵に捕まっているのに、何もしないで待っている事など性に合わない。
その為、フォルス救出を独断で行う事を決めている。
「しかし! 我々の戦力だけではどうしようもありません!」
フォルスが敵に捕まったと言う事はフォルスを相手に戦闘不能に持ち込む事が出来る相手がいると言う事だ。
ラウラの知る限り、フォルス以上のパイロットは知らない。
その為、今のホワイトファングの戦力ではフォルスを助け出すだけの戦力が無い。
「分かってる。だから、少し知り合いのところに連絡して装備を整える」
無論、ウルフもその事は重々承知だ。
その上でフォルス救出の為の戦力を補強する為に手は打ってあった。
ウルフの打った手とはウルフがレーサー時代から懇意にしているマッドーナ工房だ。
今は初代工房長のムクレド・マッドーナが死去して、妻のララパーリー・マッドーナがその跡を継いで工房を仕切っていた。
幸い、ホワイトファングにはマッドーナ工房の技術者のキャロルを乗せている為、連絡を取る事は容易で、50年以上もの付き合いを持つウルフの頼みをララパーリーは快く受け入れてくれた。
「ご無沙汰してます」
「全くだね。久しぶりに連絡をして来たと思ったら、無茶な注文をして来るんだかな」
マッドーナ工房の格納庫の一つでウルフはララパーリーに頼んでおいた物を用意出来たのか確認に来ている。
若い頃からの付き合いがあり、ウルフもホワイトファングにいる時よりも腰が低くなっている。
「頼まれていたフォトンブラスターキャノンは何とか用意出来ているからすぐに取りつけに入らせてるわ」
「頼みます」
ウルフが注文した物の一つにフォトンブラスターキャノンがある。
ディーヴァに搭載されているフォトンブラスターキャノンはディーヴァに乗せてあるAGEビルダーと連結させる必要がある為、アマデウス級には搭載されておらず、ホワイトファングも同様だった。
しかし、フォルス救出の時に必要となって来る可能性を考慮してマッドーナ工房に発注した。
その他にもMSの武器や弾薬類などホワイトファングに積めるだけ発注している。
「それと、他のも全て用意したけど、ウルフ……アンタ戦争でもする気なのかい?」
ウルフに頼まれていた物はまさに単艦で戦争でもする気かと思わせる量だった。
「そんなところです。代金は悪いけれど、本社の方に請求して欲しい」
フォトンブラスターキャノンをはじめとして、発注の代金は相当な金額となり、すぐには払える額ではない。
だが、CMCの本社であればすぐに用意できる金額だ。
本社としてもフォルスの救出の為に使われるのなら喜んで出すだろう。
本来ならば、この金額で後払いなど簡単に認める事は無いが、ウルフとは長い付き合いでそこまでして装備を整えるからには相当の事情がある事をララパーリーは汲んで後払いを認めている。
「助かります」
「何畏まってんだい。それよりもアンタに渡したい物があるんだよ」
ララパーリーはそう言ってウルフをある格納庫に案内する。
そこには一機のMSが置かれている。
塗装はまだされていない状態で頭部にはガンダム同様のツインアイとなっており、ビームバルカンが搭載されている。
バックパックにはGバウンサーのテールバインダーが大型になった物が搭載され、機体の至るところにスラスターが内蔵されている。
右手には専用のハイパードッズライフル、左腕にはビームソードが内蔵された大型のシールド、両腰にはビームサーベルが内蔵されている。
全体的にウルフのかつての愛機で今もキースのMSとしてホワイトファングに搭載されているGバウンサーを思わせる。
「コイツは……」
「機体名は『Gファング』……あのドクターCが設計してうちに寄こした新型MSだよ」
ウルフもその前には聞き覚えがある。
『ドクターC』……その姿も名前も知らない謎の技術者で時々、自身が開発した技術をどこかに無償で提供している。
それにより、その技術を巡りコロニー内で内紛が勃発した事もあれば、その技術で豊かな生活を得たコロニーもあると聞く。
そのドクターCがマッドーナ工房にGファングの設計図を送りつけて来たのだった。
「コイツをアンタに渡したいんだけどいるのかい?」
「俺にって良いんすか? ドクターCに引き渡すんじゃ」
「構わないさ。コイツはドクターCはコイツを扱えるパイロットに引き渡す事が条件でうちに設計データを渡して来たからね」
ララパーリーにもドクターCの意図は分からないが、ドクターCは設計データを開発しても余る程の資金を渡して来た。
その設計データの譲渡の絶対条件としてGファングを機体性能を活かせるパイロットに譲渡すると言う事だった。
その条件は機体性能を活かせると言うのみで、その相手の所属や人格は一切無視してかまわないとの事だった。
GファングはGバウンサーを母体とした高速戦闘を得意とするMSでこの機体の設計図を見た時にララパーリーはウルフが現役でパイロットとしていれば似あいそうだと漠然と思っていたが、そんな折にウルフからフォトンブラスターキャノンや武器、弾薬の他にGエグゼスかGバウンサーを一機、かつての自分が使っていた時のセッティングで用意して欲しいと依頼が来た。
ウルフもフォルス救出の為の一機でも多くのMSを投入する為に老体に鞭を打って自分も戦場にパイロットとして戻る気だった。
その際には操縦に慣れている自分のかつての愛機を使うつもりであったが、偶然にもGファングはウルフの好む高機動型のMSでGバウンサーの後継機と言っても良いMSであった。
例え、すでにパイロットとしての全盛期を過ぎたウルフでもこの機体を乗りこなす事は出来ると信じて、Gファングをウルフに託す気になった。
「それで、どうするんだい? ウルフ。コイツを持ってくかい」
「その前にコイツを俺色に染めて下さい」
それはウルフがGファングを受領する現れで、ウルフは昔、マッドーナ工房でGエグゼスを受け取った時のように目が輝いていた。
ウルフがララパーリーにGファングを見せられている頃、ホワイトファングの格納庫に次々と武器や弾薬が運びこまれている。
だが、それだけでは無かった。
格納庫に白く塗装されたクランシェが入って来る。
クランシェはハンガーに固定されるとパイロットが機体から降りて来る。
そのパイロットはヘルメットを取る。
フォルスよりも短い黒髪に顔立ちから女である事が分かる。
ウルフは本来ならば、ノートラムで合流する筈のアキラを急遽、マッドーナ工房で合流するように指示を出して、アキラはクランシェで単独、マッドーナ工房までやって来た。
ホワイトファングに転属される事から、すでにアキラのクランシェは白く塗装されている。
アキラは機体の整備を整備班に任せると、パイロットアラートに入る。
そこにはフォルス救出の為にいてもたってもいられずにいつでも出れるようにホワイトファングのパイロット達が待機していた。
「今日かはホワイトファングに配属される。アキラ・キャンベルだ」
アキラは同僚となるキース達に挨拶をするが、明らかに仲良くする気は無い事が見える。
「MS隊の隊長のキースだ。次の任務については聞いているな?」
「ええ……フォルスがUIEに捕まったからその救出作戦と聞いている」
すでにウルフの方から次の任務がフォルスの救出作戦である事は伝えられている。
その事を上に報告する事も出来たが、上司の告げ口はアキラのプライドが許さなかった為、黙っていた。
「どうせ、あの女の事だから、戦闘で手を抜いて足を掬われたと言う事でしょうね。私と組んでいた時もそうだった……」
アキラは昔の事を思い出してブツブツを恨みごと言い始めるが、アキラは今とんでもない事を口にしていた。
「ちょっと待ってくれ……今、何と言った」
皆を代表してキースが尋ねる。
「私と組んでいた時も……」
「もう少し前だ」
「あの女の事だから……」
「それだ!」
キースが自分の聞き間違えで無い事を確信して、思わず声を上げてしまい、アキラはびっくりしている。
「それがどうかしたの? あの女はいつもそうでしょ?」
「あの女とはフォルスの事だよな」
「話の流れにそれ以外に誰がいるの?」
アキラは怪訝な顔をして、キースやクリフォード、ライルにキャロルも驚いている。
「待てって、何言ってんだよ。フォルスは男じゃないのかよ?」
「貴方こそ何を言って……そう言う事。あの女は未だにあの格好をしていると言う訳ね」
アキラは一人、納得しているが、クリフォード達は未だに納得が言っていない。
「どう言う事だよ……」
「フォルスはサイズの合わないロングコートに皮の手袋、サングラスを付けているのでしょ?」
アキラはフォルスの普段着を言い当てるが、いつも同じ格好をしている為、以前にも同じ艦にいたとなれば知っていても不思議ではない。
「あの格好はフォルスが自分の性別を隠す為にやっているのよ。サイズの合わないロングコートは自分の体型を隠す為、手袋なんかもそう。後は顔をサングラスで隠して少し低めに声と口調で性別は隠せるわ」
確かにアキラの言う通り、フォルスの格好は男女の肉体の差を上手く隠す事が出来、サングラスで顔を隠している為、顔は中性的な顔立ちである事しか分からない。
その為、男とも女ともどちらにでも取れる為、普段の一人称が「ボク」である事からフォルスは男であると認識していた。
だが、今までフォルスが男である事を確認した訳でもないし、フォルスが自分の性別を明確に公言した事も無かった。
パイロットスーツに着替える時もフォルスはいつの間にか、着替えており私服に着替える時もだ。
戦闘後のシャワーなどもフォルスは士官用の部屋を使っている為、いつも自室の物を使っている。
その為、改めて考えるとフォルスが男である確証など何処にもない。
「けどよ……フォルスって名前はどう見ても男だろ?」
「フォルス・マースカ・カイザー……フォルスは英語で偽りの、マースカはロシア語で仮面、カイザーはドイツ語で皇帝。繋げると偽りの仮面の皇帝。どう考えても偽名でしょ。ご丁寧に違う国の言葉を使っているわ」
フォルスの名前はその様に取れる。
そこから、フォルス・マースカイザーと言う名は明らかな偽名である事が分かる。
フォルス自身もその事を隠す気は無いのだろう。
CMCとしては偽名だろうと性別をアヤフヤにしようと実力さえあれば問題は無い。
「けど……何でアイツ……性別を隠してたんだよ」
「面倒だからよ。あの女は女だからとか言われるのが面倒で男のふりなんかしているの」
アキラはその事実を知った時にフォルスと問い詰めた。
その時にフォルスは面倒だからと答えた。
アキラも女だからと軽視される事を嫌い、軽視されないように実力を付けたが、フォルスは逆に女である事を隠した。
それも自分以上の実力を持ちながらだ。
その事をアキラは許す事が出来ずに一方的に軽蔑していた。
一方のフォルスはアキラに性別の事を問われた時の事など些細な事でしかなく、すでに完全に忘れていた。
フォルスの性別が確定的になり、驚きを隠せないが、クリフォードはある事に気がついた。
フォルスに最後に会った時、フォルスはドレスを着ていた。
何故、その様な格好をしているのかと聞いた時、フォルスはこの方が都合が良いと言っていた。
クリフォード達は知らないが、フェオドール暗殺の為のパーティー会場に潜りこむ為には普段の服装では余りにも目立ち過ぎる。
だが、あの格好でないと性別を隠すのは難しい。
その為、性別を隠す事なく女の格好をしていただけだった。
そうなると、一つ重大な事があった。
あの時、クリフォードは勢いでフォルスの胸を掴んでいる。
クリフォードはフォルスが女装をしていた為、あの大きな胸は偽物だと思っていた。
しかし、今は状況が変わった。
フォルスが女である事が判明したと言う事はあの時のフォルスの胸は偽物ではないと言う事になる。
つまり、クリフォードはフォルスから言って来た事とは言え勢いでフォルスの胸を掴んだ事になると言う事だ。
今のところは衝撃的な事実によってその事は誰も思いだす事は無いが、クリフォードは無意識の内に自分の手を見ていた。
幸い、その事も誰にも気付かれる事は無かった。
そして、そんなクリフォードとは裏腹に他の皆はその事実をどうやってラウラに伝えるかを決めかねていた。
UIEとの戦闘で捕まったフォルスはUIEの大型母艦「ドレッドノート」に移送されていた。
ドレッドノートはかつてヴェイガンが運用していた移動要塞「ダウネス」に匹敵する程の巨大な戦艦だ。
そこにはオリンポス級の戦艦を収容する事も出来る。
その為、ドレッドノートは非常の強固な要塞と化している。
そのドレッドノートの牢の一つにフォルスは捕らえられている。
牢の中には窓の一つもなく、唯一出入り口のドアに外から中の様子を見る為の穴が開いているくらいだ。
その上、牢の中には中央に固定の椅子が一つあるだけだ。
フォルスはその椅子に拘束具を着せられて目隠しをされ椅子に座った状態で固定されている。
「これがあの白い四枚羽根のガンダムのパイロットか……まさか、こんな小娘が乗っていようとはな」
「アルベリック・バルベル程の将校が捕虜の尋問かな? 御苦労な事だね。それとも暇なのかい?」
拘束具と椅子に固定された状態で身動き一つ出来ないフォルスは目隠しをされているが交戦的な目でアルベリッヒを見返しているだろう。
そこには捕虜となっている事に対する不安など微塵も感じられない。
「ほう……この状況で強気な事を言えるのは流石だな」
「お褒めにあずかり光栄だよ。そんな事よりも、ボクのガンダムはどうした?」
「なぜ、総帥を狙った」
「ここは何処なんだい?」
はなっから、アルベリッヒの質問に答える気は無いらしく、フォルスは相手が答えない事を分かった上で質問に質問で返している。
「言わせておけば!」
「止めろ」
アルベリッヒの後に控えていた尋問官はアルベリッヒに対しても余りにも舐めた態度を取る為、感情的になり手を上げかけるがアルベリッヒが制止する。
あくまでもこれは尋問で捕虜に対して手を上げる事は許されてはいないからだ。
「懸命な判断だね。ボクは父に言われていてね。恩は自分の都合で忘れても良いけど、恨みだけは絶対に忘れずに返せと言われていたからね。尤も、この状況では君の顔を覚える事は出来ないけどね」
フォルスは音だけでその事を判断している。
「自分の立場を弁えて口を慎んだ方が良いな」
「これは失礼。ボクは自分が誰よりも上であると思っているからね。上から目線なのは仕方がないんだよ。今は目隠しをされて目線も何もないけどね」
フォルスはあくまでも自分の態度を変えるつもりは無いらしい。
その事もあり、ここでの尋問は無意味をアルベリッヒは判断し、自殺防止の為に猿轡も兼ねたガスマスクをフォルスに被せる。
そのマスクを被せた事でフォルスに強制的に睡眠ガスをかがせる。
暫くすると、フォルスは力無く項垂れる。
その後、フォルスのノアへの移送が決まり、その間にダグに見せるフォルスの身体データを取る。
一通りに検査を終えて、フォルスは再び牢に戻される。
(今日の検査も終わりか……全く、毎日、体の隅々まで検査して何が目的だ? まだ良いかそろそろ……こちらも任務に映らせて貰う)
ガスマスクによって催眠ガスで眠らされている筈のフォルスはわざわざ、ここまで連れて来られた本当の目的を果たす為に行動を開始しようとタイミングを待っている。