機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第79話

地球に降下したAGE-2X改とフォルスを回収したホワイトファングだが、ヴェイガンのMSをも回収すると言う予想外な事態となり、ゼイドラのパイロットのスラッシュとフォルスを艦長室に呼び出している。

 

「お前がゼイドラのパイロットか? 若いな」

「スラッシュ・ガレット……です」

「ちなみに彼はゼハート・ガレットとマリィ・アスノの子供らしいよ」

「マリィって……おいおい。親子揃って何やってんだ」

 

 ウルフは驚きを通して呆れていた。

 ウルフもゼハートの事は知っている。

 かつては地球制圧軍の司令官を任されていたエースパイロットだ。

 そのエースパイロットと連邦軍に多大な影響力を持つアスノ家のマリィの間の子供など、地球側からすれば軍内部のアスノ家の権威を地に落とす大スキャンダルになる。

 

「まぁ、アスノ家だからね」

 

 お前が言うなとウルフは言いかけるが、言ったところでフォルスには意味がない為、何も言わない。

 

「それより、スラッシュ。お前はどうするつもりだ?」

「いつまでも地球にはいられないから、どうにか宇宙に戻りたい」

 

 スラッシュは敢えて下手に友軍に合流が出来ないと言う事は伏せて置く。

 

「どの道、ボクらも仕事が終わったら、宇宙に上がるんだろ? だったら、その間はホワイトファングにおいて置く事を提案するよ。彼のゼイドラは戦力になるからね」

「簡単に言うな。戦力になる事は認めるがヴェイガンのMSだぞ」

 

 ウルフもヴェイガンのMSだから戦力と認めないと言う訳ではないが、ヴェイガンのMSを運用すると言う事は連邦軍からあらぬ疑いをかけられる危険もあり、スラッシュがヴェイガンの人間である事は変えようのない事実だ。

 その為、疑いをかけられた時にウルフ達がヴェイガンの与しているとされるとされても仕方がない。

 

「言い訳はなんとでも出来るよ。それにオリバーノーツまで交戦をしないようにルートを選べば問題はないしね」

 

 もしも、疑われてもゼイドラはヴェイガンから鹵獲したMSなどと言い訳を通す事も出来なくはない上に、戦闘さえなければ疑われる危険性は低くなる。

 

「お前の事だ。言っても聞かないんだろ」

「勿論だよ」

 

 フォルスはさも当たり前のように頷く。

 ウルフはフォルスの答えが予想通りである為、驚かないがスラッシュは少し戸惑っている。

 フォルスよりもウルフの方が艦での地位は上に見えるが、フォルスの艦を危険に晒すかも知れない我がままをウルフが文句を言いつつも認めている事から、フォルスが特別扱いをされているように見えるからだ。

 

「お前が拾って来たんだ。お前が責任を持って面倒を見ろよ」

「仕方がないね」

「……良いのか?」

 

 ウルフとフォルスの間で話が纏まったところにスラッシュが割り込む。

 

「コイツが一度、言い出したら聞かんからな」

「そうじゃなくて……俺はヴェイガンの人間だし……」

「半分だけどね」

 

 スラッシュは乗せてくれると言うなら、ありがたいがヴェイガンの人間である以上、艦長のウルフはヴェイガンの人間を受け入れると言う事に戸惑いを感じている。

 

「確かにお前はヴェイガンの人間でお前の親父には俺の部下も手を焼かされた。だが、俺らは連邦軍じゃねぇし、連邦軍に雇われている訳ではないからな。お前が敵対をしなければこっちも敵対する気はないんだよ」

 

 ウルフ達は今は連邦に雇われている訳ではない為、ヴェイガンは敵対しない限りは敵ではない。

 今は一応の雇い主はフリットと言う事になり、フリットなら半分でもヴェイガンの血を引いているスラッシュを敵と見なすだろうが、ウルフはフリット程、ヴェイガンに特別な思いを持っている訳ではない。

 スラッシュが敵対しないと言う事はウルフも敵対しないと言う事にスラッシュは唖然とする。

 ウルフ・エニアクルと言えばフリット・アスノと並び、蝙蝠退治戦役からのエースパイロットでウルフに撃墜されたヴェイガンのMSも少なくない。

 当然、それまでの戦いでウルフも友軍機を多くヴェイガンのMSに撃墜されている。

 そんなウルフがヴェイガン、それもかつては地球侵攻軍の司令官であったゼハートの息子であるスラッシュを敵対さえしなければ受け入れるのだ、何か裏があるのかと勘繰ってしまう程だ。

 

「だからと言って、艦内を好きに歩かせる訳にはいかないから、ある程度は行動を制限させて貰う」

「……頼みます」

 

 ある程度の不自由は単独で宇宙に戻る術を探す事に比べたら比べ物にならない。

 その為、スラッシュはフォルスの言う通り、一時的にホワイトファングに乗る事にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フォルスを回収したホワイトファングは目的地のオリバーノーツを目指し、ユーラシア大陸から移動を始める。

 オリバーノーツへの進路と取るに当たり、ホワイトファングは太平洋を横断するルートを選択していた。

 陸地を進めば、何処に敵が潜んでいるか分からないが、今のところヴェイガンもUIEも水中用MSの投入は確認されておらず、連邦軍も水中用のMSを開発していない。

 来るとしたら空中だが、重力下での飛行能力を持つMSはヴェイガンのMS以外には連邦軍のクランシェくらいだが、クランシェは正規軍以外ではCMCの様な一部を除いては殆ど裏ルートなどに出回っておらず、サブフライトシステムのウェイボードを使っても、ホワイトファングには重力下での飛行能力を持つAGE-2X改やクランシェ、場合によってはゼイドラも搭載している為、迎撃は可能だ。

 その為、海上で敵の襲撃を受ける危険性は少なく襲撃を受けても対処が可能な事、ノートラムで十分に物資を積んできた事もあり、スラッシュを乗せてもオリバーノーツまで水や食料を補給しないでも航行する事が出来る事から太平洋を進んでオリバーノーツを目指す事になる。

 移動を始めて数日が経ち、ユーラシア大陸から出てホワイトファングは太平洋を進んでいる。

 周囲には島も無ければ、船も見当たらず、天候にも恵まれて航海は穏やかに進んでいる。

 そんな中、フォルスは艦の展望デッキからボンヤリと海を眺めている。

 特に海が好きな訳ではないが、航海が順調で問題が起こる事も無い為、MSパイロットのフォルスはやる事が殆ど無い。

 フォルスは常備している薬を飲む。

 それが終わるとやはり、やる事はない為、暇つぶしにボンヤリと海を眺める。

 

「フォルス? こんなところにいたのか?」

「ああ……君か」

 

 スラッシュに声をかけられてフォルスはいつも通りの話す。

 スラッシュは行動を制限されているとは言え、独房に入れられている訳ではなくある程度の自由な行動が許可されていた。

 他のクルー同様の食事が与えられ、行動もブリッジや格納庫を始めとして艦の重要な場所への立ち入りは禁止されているが、それ以外は自由に動く事が許されている。

 スラッシュも始めはこのチャンスに少しでも情報収集をしようとも思ったが、自由に動ける事がウルフが自分達にスラッシュが不利益な行動を起こさないと言うある種の信頼だと思うとスパイ紛いの行動をする事に気が咎めて結局、情報収集を断念してしまった。

 更には乗艦した当初はウルフやフォルス以外のクルーからヴェイガンの人間と言う事で好奇な目で見られたりしたが、今では完全な仲間と言う程でないにしろ馴染んでいる。

 それらは、今まで火星圏で聞いている地球の人間とは印象が違って見えた。

 

「そう言えば……フォルスは俺の母さんの事……」

 

 スラッシュはここでの生活にも少しは慣れて来た事から余裕も生まれ、母の事を知るであろうフォルスに聞こうをするが、展望デッキから見える海の方に気を取られた。

 スラッシュは展望デッキから見える海に釘付けになり、展望デッキのガラスを突き破る勢いだ。

 

「すげぇ……」

 

 展望デッキから見える海は地平線まで見る事が出来、この光景は火星圏では決して見る事の出来ない光景だ。

 

「そうかな?」

「そうだって」

「海なんて、水の塊じゃないか、その上、塩分濃度が高いからそのままでは飲み水には適さないし、MSのパーツの洗浄にも使えない。その上、地球上の約70%が海なんだよ。少しなら有難みがあるけど、地球の半分以上が海なんて無駄の極みだよ」

 

 スラッシュからすれば、この光景は地球でしか見る事の出来ない掛け替えのない物だったが、フォルスにとっては何の価値もない物であった。

 そんなフォルスの言葉にスラッシュはせっかくの感動に水を刺される。

 

「お前な……」

「地球はコロニーよりも環境を制御出来ないし、無駄が多過ぎるんだよね」

 

 コロニーは環境や天候を操作出来るが、地上ではそうはいかない。

 

「そんな物を何十年もかけて侵略しようとしているヴェイガンの気が知れないね」

 

 そんな人の手でどうしようもなく、無駄の多い地球をエデンを称して手に入れようとする事をフォルスは理解出来ない。

 コロニーとて、穴が空けばそれだけで全滅する危険性はあるが、人類が宇宙に進出してから数百年が経ち、兵器開発の技術は銀の杯条約で捨ててもコロニーの開発技術は捨ててはおらず、突発事故でコロニーが崩壊する事はここ百年では確認出来てはいない。

 すでにコロニーで空気を循環させるシステムやコロニーでの自給自足も出来るようになっている為、今となっては地球に住むメリットは殆ど無くなっている。

 

「まぁ、それでも地球が欲しいって言うんならボクは別に構わないんだけどね」

 

 フォルスはそう言って展望デッキから出て行く。

 フォルスが出て行き、スラッシュはフォルスに母の事を聞きそびれた事を思い出すが、今更聞く気分ではない為、気分を取りなおして海を眺める事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 太平洋を横断するルートを選択したホワイトファングはトラブルも無く北米の都市「オリバーノーツ」の近くに建設された連邦軍の基地「オリバーノーツ基地」まで辿り付いた。

 ホワイトファングが入港する事は事前にオリバーノーツの方にも伝わっている為、予定よりも大幅に遅れた事以外は問題なく戦艦のドックに入港する事が出来た。

 ホワイトファングが入港したドックはオリバーノーツ基地では殆ど使われていないドックで隣のドックにはすでに老朽艦となり、いざと言う時の為に動態保存されているディーヴァが置かれている。

 

「さて、無事に入港出来た訳だが、俺はこれから仕事をして来る。ラウラ、後は任せた」

「了解です」

 

 ウルフはそう言って艦長席を立つ。

 ウルフはこれからオリバーノーツに向かい、フリットにプロト3のデータを渡す事になっている。

 その間にホワイトファングは大気圏を離脱する準備に入る。

 オリバーノーツ基地には戦艦が大気圏を離脱するだけの設備がない為、ホワイトファングには大気圏離脱用のブースターを取りつけて宇宙に打ち上げる手筈となっている。

 その為に必要なブースターはCMCの地上の支社から手配され、すでにオリバーノーツ基地に搬入されて後はホワイトファングに取りつけるだけになっている。

 ラウラの仕事はそれの指揮を取る事だった。

 取りつけ作業事態は軍の方で作業する事になっている。

 ホワイトファングがCMCの戦艦で艦長のウルフは連邦軍でも名が知れている為、身元は明らかではあるが、ウルフはすでに軍を退役した身である事や、今はオリバーノーツ基地がホワイトファングに仕事を依頼している訳ではない事もあり、ホワイトファングのクルーはキャロルやライルのように基地に身内が居ようとも艦内から出る事が出来ない状態になっている。

 ラウラの仕事はそれだけではなく、ホワイトファングの問題児のフォルスが勝手に動かないようにする事もある。

 現在のホワイトファングは大きな爆弾を抱えている。

 スラッシュだ。

 スラッシュはヴェイガンの人間でウルフ達からすれば今は敵ではないが、連邦軍から見れば敵でしかない。

 そのスラッシュとヴェイガンのMS「ゼイドラ」をホワイトファングが積んでいる事が知れれば確実に引き渡しを要求するだろう。

 スラッシュがウルフと縁も所縁もない他人ならば、艦とクルーの安全を優先して引き渡すかも知れないが、スラッシュはクライドの孫だ。

 身内には甘いクライドの孫であるスラッシュを連邦軍に引き渡すと、クライドが何をしでかすか分かったものじゃない。

 クライド自身が行動を起こす事はないかも知れないが、クライドの指示で動いているフォルスがいる。

 フォルスの実力は疑う余地もなく、単体の能力ではホワイトファングのMSでもオリバーノーツのMSでも太刀打ちは出来ないだろう。

 無論、ウルフとてフォルスを敵に回しても負ける気はないが、単体で勝てないが複数で戦えば勝てない事はないだろうが、多大な被害が出るのは確実だ。

 その上、クライドが今、何処で何をしているか知らないが、ウルフはクライドに対して一応の友情を持っている為、艦とクルーの安全とスラッシュの身柄を天秤にかけると苦渋の選択になる事になるので、スラッシュの事をオリバーノーツ基地に隠し通す事にした。

 少しでもその事実が明るみにならないように格納庫ではゼイドラを見つからないように作業を進めさせている。

 そんな爆弾を抱えている為、そんな事を全く気にしないであろうフォルスはその爆弾に火を付けるだけでは済まない危険性がある。

 

「くれぐれもフォルスに勝手な行動をさせるなよ」

 

 フォルスが本気になれば、ラウラには止められないかも知れないが、ホワイトファングの事をラウラに任せて、オリバーノーツへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 オリバーノーツの中にアスノ邸が立てられている。

 かつてのトルディアのアスノ邸と比べるとガンダムを隠していた馬小屋などはない為、小さく見える。

 今ではアセムは表向きは戦死している上にユノアも自立している為、ここにはフリットとその妻のエミリー、義理の娘のロマリーに孫のキオの4人が暮らしている。

 ウルフはアスノ邸の前に車を止める。

 ウルフがアスノ邸の呼び鈴を鳴らすと事前にウルフが来る事を聞いていたフリットがウルフを迎える。

 

「よう。久しぶりだな」

「ウルフ……良く来てくれた」

 

 フリットは訪れた50年来の戦友に顔を綻ばせている。

 ウルフはフリットに案内されてフリットの書斎に案内される。

 

「そう言えば、今日はキオはいないのか?」

 

 ウルフはふと、キオがいなかった事を尋ねる。

 キオはウルフに懐いている。

 キオも男の子である以上、MSの戦闘に興味を持っている。

 その為、ウルフは良くキオに戦闘の事を話している。

 フリットが話せば戦争の事を生々しく話してしまう事があり、キオの教育上良くないが、ウルフの話す戦闘は脚色が加えられてまるで物語の戦記のように話す為、いずれは戦争を言う現実を知る必要はあるが子供である今は戦争と言う過酷な現実を知る必要はない事もありウルフの話す戦記には助かっている。

 特にウルフは自分の活躍の脚色の度合いが大きい為、祖父のフリット同様に慕われている。

 

「ウルフの来る事は話しておいたが、友達と約束があるから遊びに出ている。時期に戻って来るだろう」

「まぁ、キオの歳を考えるとそれは自然だわな」

 

 キオはまだ13歳でその時を考えると友達と遊びまわっていた方が健全だ。

 少なくとも才能があってもフリットが14歳で軍のMSを開発しなければいけなかった時に比べれば少しはマシになったのかも知れない。

 

「そうじゃな……いずれは奴らが動き出したら、キオには否応なく戦う事になるからな」

 

 フリットはヴェイガンがいずれは大きく動くと予想している。

 それはヴェイガンに対する憎しみから来る物で、ウルフもヴェイガンがいずれは動く事は同意見だが、ヴェイガンに対する憎しみを年々募らせるフリットに心を痛めている。

 フリットがヴェイガンを憎む理由をウルフは嫌と言う程知っている。

 母親に始まり、いろいろな物をフリットは戦争で失っている。

 ウルフからすれば、結婚し子供が出来て今は孫までいる為、過去の憎しみに拘るよりも今ある幸せに目を向けた方が良いとは思うが、フリットにヴェイガンを憎むなと言っても意味がない事も知っている。

 アセムやクライドが生きていると言う事を教えれば、その憎しみが薄れるのかも知れないが、アセムの事を黙っているのはアセムとの男同士の約束である為、言えずクライドは目的は知っていても何をやるのか分からない以上は下手に話すべきではない事もあり、今は言う事は出来ない。

 

「戦うか……俺らの孫の世代にまで引きずっちまったな」

「ああ……だが、誰かがやらねばいかん事だ」

「それも分かってんだがな……」

 

 ウルフも戦わなければ守れない事は理解している。

 だが、天使の落日から始まった戦争はすでに60年以上も続いている。

 当時は子供だったフリットも今では老人となっている。

 もはや、ウルフも長時間の実戦が出来ないくらいに体は衰えている。

 

「そんな事を言っても仕方がないか……キャロルから預かって来た奴だ」

 

 ウルフはキャロルが纏めたプロト3の戦闘データが入ったデータディスクをフリットに渡す。

 

「済まない」

「これがあればAGE-3は完成すんだろ?」

「そうだな。すでに設計は概ね完成している。このデータを加えれば完成する」

「そうか……」

 

 AGE-3が完成すればいずれはキオは戦場に送り出す事になる。

 だが、完成しなくとも戦争が終わらない為、いずれはキオが戦場に出るになるかも知れない。

 その時にAGE-3の性能が中途半端だったらキオが戦場で死ぬ事になる。

 キオはウルフにとっては孫も同然で、もしもキオが戦死するような事になればフリットはヴェイガンを更に憎む事になり、そうなればもう戻って来る事が出来ないくらいに堕ちるかも知れない。

 キオを戦場に送り出したくないと言うのと同じくらいフリットをこれ以上憎しみに染まらせたくはないと言う思いはある。

 どちらにせよ戦争が終わっていない為、キオは戦場に出るのだろう。

 それは自分達の世代で戦争を終わらせる事の出来なかったフリットやウルフへの罰なのだろう。

 

「取り合えず、俺の仕事は終わりだ。後はお前の仕事だ」

「もう、戻るのか? キオもウルフの事が来る事を楽しみにしていたんだがな……」

「悪いな。今回は余り長居は出来ないんだよ。その代わり、キオに伝えておいてくれ、次に来る時にはとっておきの話を用意しとくってな」

 

 ウルフもキオが帰って来て話をする時間くらいはあるが、今はホワイトファングには爆弾を抱えている為、早いところ戻り宇宙に上がりたかった。

 

「分かった。気つけてな」

「ああ……生憎とまだ死ぬ気はないんでね」

「そうだな。この戦争に勝つまでは死ねんな」

「そう言う事だ」

 

 何十年にも渡る戦争を終わらせる事が出来ずに孫の世代にまで引き継がせようとしている為、フリットもウルフもまだ死ぬ訳にはいかず、最後まで戦争の行方を見届ける事が終わらせる事の出来なかった二人の責任と言える。

 ウルフはフリットに見送られながら、ホワイトファングに戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 ウルフがフリットに会っている頃、フォルスはオリバーノーツの街にいた。

 ラウラもフォルスが勝手な行動を取らないように目を光らせていたが、フォルスの方が上手であった為、ラウラの目を掻い潜り、フォルスはオリバーノーツに出ていた。

 フォルスの手には街の露店で買ったジャンクフードを持ち、特に目的がある訳ではないがジャンクフードを食べながら適当に歩いている。

 

「雪山に海と見て来たが、街はコロニーと大差ないな」

 

 フォルスはオリバーノーツの街並みを見てそう言う。

 今までは雪山や海と言ったコロニーではまず見る事のない大自然を見て、それを必要無い物だと判断してそれに比べるとコロニーの方がマシに思えたが、オリバーノーツを見る限りではコロニーと大差無いように思える。

 それも当然の事だった。

 コロニーの街は基本的に地上の街を再現している為、オリバーノーツの様な一般的な都市と一般的なコロニーの街と大差ないのは当然の事だ。

 そんな事を思いつつ、街を歩いていたフォルスは曲がり角に差し掛かると曲がり角から飛び出して来た影に気付く事は無かった。

 フォルスは何かにぶつかった感覚を感じて、下を見ると通路には茶髪の少年が尻餅をついていた。

 恐らくは曲がり角を飛び出した少年はフォルスとぶつかって尻餅をついてのだろう。

 

「大丈夫かい? 少年」

 

 フォルスはすぐにいつもの仮面をかぶり少年に対応する。

 

「ごめんなさい……」

 

 少年は顔を上げる。

 フォルスは気付く事は無かったが、少年はフリットの孫であるキオ・アスノだった。

 スラッシュ同様、フォルスはキオの存在は知っていたが、顔までは知らない為、キオ・アスノである事には気付いてはいない。

 一方のキオもフォルスをじっと見ていた。

 フォルスの格好は今の時期には寒いとしか思えない格好でゴーグル型のサングラスを付けているからだ。

 変わった格好をしているが、女性のファッションには疎いキオはそう言うファッションもあるのだと結論つける。

 

「怪我はないよね?」

「大丈夫です」

 

 フォルスは尻餅をついているキオに手を差し出すと、キオはフォルスの手を掴み、フォルスはキオの手を引いてキオを立たせる。

 二人の手が触れた瞬間に二人は奇妙な感覚を受けた。

 

(今のは……なんだろう?)

(この感覚……)

 

 初めての感覚にキオは自分の手を見て不思議がるが、一方のフォルスは感覚の正体に心当たりがあった。

 それはXラウンダーと対峙した感覚に酷似している。

 

(この少年か? まさかな)

 

 感じた感覚から相当なレベルのXラウンダーではあるが、目の前のキオからはXラウンダーの力を感じない。

 恐らくはキオの手に触れた時にキオの潜在的なXラウンダー能力にフォルスのXラウンダー能力が共鳴した事ではあるが、フォルスは今の感覚は気のせいだと結論づけた。

 

「少年、これからは前も気を付けるんだよ」

「はい。本当にごめんなさい」

 

 キオはフォルスに注意されてシュンとする。

 今日はウルフが来ると聞いていたから、友達と遊ぶのを早く切り上げて、家に急いでいたから前方の注意が疎かになっており、曲がり角でフォルスとぶつかる事になった事は全面的に自分に非がある為、キオは素直にフォルスに頭を下げる。

 

「次からは気を付けるんだね。君は運が良かったよ。ぶつかりのはボクじゃなかったら、大事故になっていたかも知れないからね」

「はい……」

 

 ぶつかった相手がフォルスだから、尻餅を付くだけで済んだが、これが車だった場合は怪我では済まなかったかも知れない事をフォルスに指摘されて、幾ら楽しみであっても自分の行動の危険さを思い知る。

 

「まぁ、運も実力の内と言うから、そこまで気にする事はないさ。今日の失敗を糧にすれば良いよ。少年、それではボクは行くけど気を付けるんだね」

 

 フォルスはそう言い、そろそろホワイトファングに戻ろうとする。

 キオもまた、フォルスにぶつかった事から急ぎつつも、走る事はなくアスノ邸に帰宅する。

 二人の出会いは二人とも明日には忘れているかも知れないが、この出会いはこれから続くフォルスとキオの宿命的な出会いであった事はこの時に二人は知る良しも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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