マッドーナ工房からの通信文を受けて宇宙海賊ビシディアンはバロノークの進路をマッドーナ工房に向けようとしていた。
しかし、それよりも先にヴェイガンのMSの接近を補足していた。
できれば戦闘は避けたかったが、ギリギリまで母艦の見えざる傘で姿を隠していたこともあって戦闘を回避するのは不可能な距離まで接近を許してしまっていた。
「嫌なタイミングで……」
「どうする? バロノークはまだ出せんぞ」
「迎撃するしかないだろうな。俺も出る。バロノークはすぐに離脱しろ」
見えざる傘を展開するにも小惑星帯の中では使っても小惑星の動きからすぐにばれてしまう。
そのため、見えざる傘を展開するためには小惑星帯を抜ける必要があった。
アセムはバロノークをラドックに任せて、格納庫に向かう。
「俺とフォルスが相手をする。他はバロノークの防衛を最優先だ」
アセムとフォルスの二機のダークハウンドが接近するヴェイガンのMSの迎撃に向かう。
接近するMSはガフランが3機だった。
二機のダークハウンドが接近するとガフランは逃げるかのように引いていく。
すると、ドラドやバクトなどが待ち伏せていた。
「待ち伏せか! だが!」
ヴェイガンのMSのビームバルカンを二機のダークハウンドは回避し、フォルスのダークハウンドXはハイパードッズライフルSBでドラドを撃ち抜き、アセムのダークハウンドがドッズランサーでガフランを貫く。
「キャプテン! 一機、異様に早いやつがいる!」
バロノークでは戦場に接近する増援の中でも一機だけ、異様に早いMSがいることを補足している。
「……あいつか」
瞬く間に戦場に到達した真紅のMS「ギラーガ」はギラーガスピアを構えてダークハウンドに突撃する。
ダークハウンドもドッズランサーを突き出して二機はぶつかり合う。
「この感じ……アセムだと!」
「
赤いMS……ゼハートか!」
ゼハートはダークハウンドからアセムの気配を感じ取る。
逆にアセムも直観的にギラーガに乗っているのがゼハードだと確信していた。
「アセム! なぜお前がそこにいる!」
ギラーガはダークハウンドを弾き飛ばして、追撃しギラーガスピアを振るいダークハウンドはドッズランサーでいなす。
ギラーガの連続攻撃は一見、ダークハウンドを圧倒しているように見えるが、その攻撃の一つ一つが感情的な攻撃であるため、アセムが見切るのは容易で攻撃を苦もなくいなすことが出来ていた。
普段のゼハートならそこまで感情的で単調な攻撃をしないが、今のゼハートは感情的になっていた。
死んだと思っていたアセムが生きていたことは複雑ではあるが、喜べることだった。
だが、今のアセムは宇宙海賊だ。
宇宙海賊は理念も信念もなく、ただ略奪を繰り返すならず者だった。
そのならず者に互いに認め合ったアセムが身を堕しているのだ、冷静でいられるわけがない。
「っ……ゼハート」
ギラーガの攻撃は単調ではあるが、直撃を受ければダークハウンドもただでは済まない。
その為、ダークハウンドは防戦一方になっている。
「答えろ!」
ギラーガがギラーガスピアを振り上げたところにフォルスのダークハウンドXがハイパードッズライフルSBを放ち、ギラーガはダークハウンドから距離取りながら、ビームバルカンで牽制する。
「こいつは私がやる」
ダークハウンドXはギラーガにTビットを向けてビームを放つ。
ギラーガはギラーガスピアで攻撃を防ぎ、ダークハウンドXにビームバスターを放ち、ダークハウンドXはストライダー形態に変形してかわす。
「フォルス!」
アセムはゼハートは自分で相手をしようとするが、この戦闘の目的は宙域からの撤退であるため、冷静になる。
すでにバロノークは動き出し、小惑星帯から抜けようとしている。
アセムとフォルスが交戦しているうちに数機がバロノークの方に向かっている。
防衛のMSでも十分に守り切ることは出来るだろうが、敵の伏兵がいないとも言い切れない。
そう考えれば、ゼハートをフォルスに抑えさせて、アセムがバロノークの防衛に向かった方が良い。
実際、アセムだろうとフォルスだろうと、ゼハートを抑える役目はどちらでも良かったが、バロノークの防衛には友軍と連携が取れた方が好ましい。
フォルスは単体での戦闘能力は非常に高いが、連携においては友軍に合わせるという事は一切することはなく、ビシディアンでもフォルスに合わせることが出来るのはアセムくらいだ。
その為、バロノークの防衛に回るのはアセムの方が良いという事になる。
「頼む」
「待て! アセム!」
ダークハウンドはストライダー形態に変形すると、バロノークの方も戻り、ギラーガはダークハウンドを追いかけようとするも、ダークハウンドXはMS形態に変形してビームサーベルで切りかかり、ギラーガはギラーガスピアで受け止める。
「邪魔をするな!」
ギラーガはダークハウンドXを押し戻し、ダークハウンドXは下がりながらもハイパードッズライフルSBを放つ。
ギラーガが回避しているうちにダークハウンドが離れていくため、それを見たゼハートも冷静さを取り戻す。
「まずはお前から先に仕留めさせて貰う!」
頭を切り替えたゼハートはダークハウンドXにギラーガスピアに内蔵されているビーム砲を放ち、ダークハウンドを牽制する。
「成程。だが、その程度ではな」
回避したダークハウンドXの回避先に増援として到着したダナジンが待ち構えており、ダナジンキャノンの集中砲火を浴びるが、ダークハウンドXは回避しながら、ハイパードッズライフルSBでダナジンを撃ち落し、ビームサーベルを別のダナジンに突き刺す。
「ガンダムと言えども一機だ。囲んで対処しろ」
ゼハートの指示でドラドが腕に装備している小型シールドに内蔵されているミサイルを放ち、ダークハウンドXは回避しつつハイパードッズライフルSBで迎撃する。
今回の戦闘では可変機構を持ったガンダムを相手にすることは分かっていたので、ダナジンには捕獲用ネットを装備している機体も出撃している。
ダナジンがダークハウンドXに捕獲用ネットを射出して、ダークハウンドXはネットをよけるが、それを見越したゼハートが先回りしている。
ギラーガがギラーガスピアを振り下ろすと、ダークハウンドXのハイパードッズライフルSBが破壊される。
すぐにハイパードッズライフルSBを捨てるとダークハウンドXはアンカーショットを射出するもギラーガに弾かれる。
「やれ」
ダークハウンドXを囲むように陣形をとっていたダナジンがビームバルカンとビームシューターでダークハウンドXに集中砲火を浴びせる。
威力が小さい分、連射速度に優れているビームバルカンとビームシューターを流石のダークハウンドXとフォルスと言えども集中砲火の前に完全に回避することは不可能だった。
「雑魚が!」
ダークハウンドXは両手にビームサーベルを抜いて、被弾しながらもダナジンに突撃してビームサーベルで切り裂き、別のダナジンに向かうが、ダナジンはダナジンキャノンを放ち、回避したダークハウンドXに先回りをしていた別のダナジンがダナジンスピナーでダークハウンドXを弾き飛ばす。
その一撃でバランスを崩したダークハウンドXにダナジン達はダナジンキャノンを一斉に放つ。
「舐めるな!」
ダークハウンドXは機体を反す。
それによって胴体への直撃を防ぐが、下半身と左腕が吹き飛ぶ。
だが、ダークハウンドXは気にする様子もなく、近くのダナジンにビームサーベルを突き出して破壊する。
ダナジンを撃破したダークハウンドは半壊した状態にもかかわらず、攻撃をかわしつつガフランを切り裂く。
「あの状態で戦うというのか!」
機体が半壊した状態とは思えない戦いをするダークハウンドXにゼハートは得体の知れない戦慄を覚える。
ダークハウンドXのパイロットは普通ではない。
ここで仕留めなければいずれヴェイガンにとって大きな脅威となると確信する。
ダークハウンドXはTビットを射出してドラドを撃墜し、Tビットが回転してバクトを貫こうとするも、ギラーガのビームバスターで二基のTビットが破壊され、バクトがビームライフルで反撃してダークハウンドXの頭部を吹き飛ばすが、構う事なくバクトに接近してビームサーベルを突き刺して破壊する。
だが、ドラドの小型シールドのミサイルの直撃を背部に受けて、背部のスラスターが破損し、周囲のMSのビームバルカンの集中砲火でダークハウンドXの装甲が次々と破壊されていく。
「ふざけるな……私はこんなところで……」
これ以上ダークハウンドXでの戦闘は出来ないと判断したフォルスは機体を捨てようとして、コックピットハッチを開くが集中砲火を受けたダークハウンドXは爆散した。
バロノークの防衛も戻ったアセムは難なく二機を突破したMSを破壊している。
すでに小惑星帯を抜けようとしているが、正面からビームがバロノークを狙う。
幸い、バロノークに直撃することはなかったが、その攻撃は正面にも敵がいることが分かる。
「やはり、伏兵がいたか……7機……俺が行く」
前方からはスラッシュのゼイドラとティアナのプロトギラーガ、ジルスべインが5機の系7機が接近していた。
ゼハートはバロノークが逃げることも想定して部隊を配置していた。
ダークハウンドはドッズガンを連射してヴェイガンのMSは散会すると、スラッシュのゼイドラがゼイドラガンの先端にビームサーベルを展開して、ダークハウンドに切りかかり、ダークハウンドはビームサーベルを抜いて受け止める。
「親父の予想通りってことだよ! ティアナ!」
「了解!」
ティアナのプロトギラーガはプロトギラーガスピアを構える。
プロトギラーガが回り込んでダークハウンドを攻撃しようとするが、後方に控えているメナスからの砲撃が放たれる。
それにより、ダークハウンドとゼイドラは距離を取る。
「今のは……どういうことだ?」
アセムは今の攻撃に違和感があった。
まるでゼイドラごと、自分を撃っていたかのようだ。
更にあわよくばプロトギラーガをも狙っていたかのような砲撃だった。
「ヴァレリ! 今のはなんだ!」
スラッシュはメナスに通信を送ろうとするが通信が通じない。
「スラッシュ様、今のは一体?」
「分からん! ヴァレリ! どういう事だよ!」
スラッシュは叫ぶが、メナスのヴァレリは応じない。
そして、ヴァレリからの答えを示すようにジルスベインがジルスベインガンを放つ。
その攻撃はダークハウンドだけでなく、ゼイドラやプロトギラーガをも狙っている。
「何がどうなっている?」
アセムは攻撃をかわしながら、攻撃が自分にだけでなくゼイドラとプロトギラーガをも狙っていることに疑問を持つ。
明らかにその二機をも狙っている理由が分からない。
「ヴァレリ!」
「何ですか?」
「どういうことだ!」
「どうもこうもありませんよ。貴方はヴェイガンに必要ないと私が判断したんですよ」
ようやく通信が繋がり、ヴァレリに真意を説くがヴァレリの答えはそれだった。
今までのヴァレリとは違い、モニター越しのスラッシュをまるで汚い汚物を見るかのように見ている。
「ただでさえ、薄汚い地球種の血を引いているのに地球種に情まで持った貴方は邪魔でしかないんですよ」
「ヴァレリ!」
スラッシュは頭に血が上り、メナスに向かおうとするが、ジルスベインのジルスベインガンがゼイドラに直撃する。
損傷こそはなかったが、動きが止まる。
「スラッシュ様!」
ティアナがスラッシュの元に向かうが、他のジルスベインの妨害を受ける。
「貴方は勇敢にガンダムと戦って戦死したとゼハート様に報告しておきますから、安心してください」
「ふざけんな!」
ヴァレリは通信を閉じ、スラッシュが再びメナスと通信を繋ごうとするが、通信は繋がらない。
「くそ!」
スラッシュはやりようのない怒りをコンソールにぶつけるが状況は好転するわけではない。
迫るジルスベインにプロトギラーガがゼイドラの前に出てビームバルカンでジルスベインを牽制する。
「ティアナ!」
プロトギラーガはジルスベインに向かい、プロトギラーガスピアでジルスベインを攻撃し、ジルスベインはジルスベインソードで受け止めて、別のジルスベインがジルスベインビットを射出してプロトギラーガを襲う。
プロトギラーガはビームバルカンでジルスベインビットを撃墜するが、別のジルスベインがジルスベインソードでプロトギラーガのプロトギラーガスピアを切り裂き、ジルスベインビットがプロトギラーガに直撃する。
「スラッシュ様は逃げてください! ここは私が食い止めます!」
「んな事が出来るかよ!」
スラッシュには部下を見捨てて逃げる事などできないし、逃げるところなどどこにもない。
前方にはジルスベインが5機に後方にはビシディアンのダークハウンド。
今はアセムが状況が掴めずにいるが、敵であることには変わりはない。
更にはバロノークも接近している。
「……分かりました。海賊のガンダム。聞こえますか?」
「通信?」
ティアナはある賭けに出る事にする。
「私たちは現時点を持って投降します」
「ティアナ! 何を考えてんだよ!」
「投降だと? 一体何を考えている」
ティアナは最後の手段としてスラッシュをビシディアンに投降させようとする。
相手が海賊である以上、捕虜としての扱いは期待できないが、この場で死ぬよりかはマシだ。
生きていればまだ先がある。
一方で投降すると言われたアセムの方はティアナの真意を量りかねている。
「スラッシュ様。貴方はここで死ぬべきではありません。生きていればXラウンダー能力がなくともいずれはお父上を……ゼハート様を超える事は出来ます。今は耐えてください」
「ゼハート? 父だと?」
スラッシュに対しての通信ではあったが、オープンチャンネルで繋がっていたアセムのダークハウンドにも二人のスラッシュへの言葉は筒抜けだった。
オープンチャンネルで通信をしていたため、その通信はメナスやジルスベインにも筒抜けであったので、ビシディアンに投降しようとしていることも筒抜けになっている。
その為、スラッシュとティアナに投降されては戦闘中にヴァレリがスラッシュを切り捨てた事が明らかになりかねない。
そうなれば、ヴァレリも破滅することになる。
そうなる前にスラッシュとティアナの口を塞ぐべく、ジルスベインはジルスベインビットをプロトギラーガに差し向ける。
プロトギラーガはビームバルカンで応戦するも対応しきれずにジルスベインビットの直撃を受ける。
ジルスベインビットはプロトギラーガの腕や脚部に被弾するだけでなく、頭部にも直撃する。
幸い、頭部のコックピットが完全に破壊されることは避けられたが、頭部が損傷してコックピットの一部がむき出しになる。
「ティアナ! この野郎!」
ゼイドラがプロトギラーガの前に出て、ゼイドラガンを放つが、ジルスベインはジルスベインガンでゼイドラを攻撃する。
ゼイドラガンが破壊され、ゼイドラは腕の電磁装甲でジルスベインの攻撃を防ぐが、いつまでも持たない。
ジルスベインはゼイドラに止めを刺すべくジルスベインソードでゼイドラに切りかるが、その攻撃がゼイドラを切り裂くよりも早く、ダークハウンドのドッズランサーがジルスベインを貫く。
「ゼイドラのパイロット……聞こえるか? すぐにそのMSを連れて後退しろ」
「ふざけんなよ! こんな事をされて黙って逃げられるかよ!」
アセムは状況が完全に呑み込めた訳ではないがスラッシュにそういうが、ヴァレリに一方的に切り捨てられた事で頭に血が上っており、引く気はなかった。
「馬鹿野郎! 自分の部下すら守れない奴がゼハートを超える事などできる訳がないだろう!」
アセムにそういわれてスラッシュは少しは冷静さを取り戻す。
なぜ、海賊のガンダムのパイロットがゼハートの事を知っているような口ぶりなのか疑問ではあったが、そんなことは今はどうでも良い。
スラッシュもゼハートの事は人伝に聞いた事だけだったが、ゼハートは部下を見捨てるような人ではないと聞いている。
その為、アセムが言う通り、自分の部下を守れないような奴にゼハートを超える事などできない。
「だけど……Xラウンダーを4人を相手に無茶だ!」
「大丈夫だ。この程度の数は問題じゃないさ」
普通に考えればXラウンダーとXラウンダー専用機を4機をガンダムと言えども1機では勝ち目はないだろう。
だが、アセムには確たる自信があった。
確かにXラウンダーが4人と言うのは厄介ではあるが、ゼハートやフリットクラスのXラウンダーはそう簡単にはいない。
その為、アセムには相手が4人のXラウンダーだろうと負ける気はしなかった。
ダークハウンドはストライダー形態に変形し、ドッズガンとビームバルカンを連射して突っ込む。
ジルスベインは散開して、ジルスベインガンを放つが、ダークハウンドはMS形態に変形すると、アンカーショットを射出してジルスベインに引っ掛けるとジルスベインを別のジルスベインに叩きつけてドッズランサーでジルスベインを2機同時に貫く。
残ったジルスベインはジルスベインビットを射出し、ダークハウンドはドッズガンで撃ち落しながら、アンカーショットを手に取り回転させてジルスベインビットを防ぐ。
その間にジルスベインはビームサーベルを展開して接近するが、ダークハウンドは胸部のフラッシュアイを使って目暗ましを行い、その隙をついてジルスベインの背後をとったダークハウンドはビームサーベルをジルスベインの頭部から突き刺す。
3機目のジルスベインを破壊したダークハウンドは最後のジルスベインに持っていたビームサーベルを投げ付けてジルスベインのジルスベインガンに突き刺さる。
ジルスベインはジルスベインガンを捨てると、ダークハウンドはストライダー形態に変形してドッズガンとビームバルカンを連射してジルスベインに突撃する。
ダークハウンドの攻撃を両腕の電磁装甲で防ぐが、ストライダー形態で勢いをつけてダークハウンドはMS形態に変形してドッズランサーで腕ごとジルスベインを貫いて破壊する。
「マジかよ……」
ダークハウンドが4機のジルスベインを瞬く間に撃墜したことにスラッシュは驚く。
それはヴァレリも同様であった。
相手がガンダムタイプのMSであろうと、ジルスベインが5機もあればスラッシュとティアナごと始末することが出来ると思っていたが、ダークハウンド1機にジルスベイン5機が全滅している。
ジルスベインが全滅した事でメナスの防衛もMSはいない。
後方からバロノークが接近して来て、バロノークは主砲をメナスに放つ。
バロノークの主砲がメナスに直撃し、バロノークの防衛のMSからもメナスに集中砲火を浴びる。
集中砲火を浴びたメナスの所々から爆発が起こる。
「馬鹿な……ガンダムはたった1機だぞ……地球種ごときに……」
ヴァレリはこの状況が信じられないが、ジルスベインが全滅し、敵艦からの集中砲火を浴びているというのは事実だった。
「こんなところで死ぬ訳にはいかん」
ヴァレリはすぐにブリッジを離れていく。
メナスの格納庫には予備戦力としてガフランが置かれていた。
ヴァレリはガフランに乗り込むとメナスが撃沈する前にメナスから脱出する。
その後、メナスは撃沈される。
「メナスが……」
ヴァレリに切り捨てられたとはいえ、メナスは自分の母艦でありクルーは自分の部下であったので、メナスが沈む光景をスラッシュは悲しそうに見つめていた。
「俺たちはこのまま宙域を離脱する。お前たちはどうする? 投降するというのであればこちらは受け入れるぞ」
「……分かった」
ティアナのプロトギラーガも大破し、この状況で戻る本隊に戻る事も出来るかどうかも分からない。
もしも、ヴァレリが事前に手を打っていれば戻れない可能性もある。
その為、今は死ぬ訳にはいかない事もあり、今はビシディアンに投降することにする。
何とかヴェイガンの攻撃を切り抜けて見えざる傘を展開してヴェイガンの追撃を逃れたバロノークだが、その被害も大きかった。
戦闘中にダークハウンドXの信号がロストし状況から考えるにダークハウンドXは撃墜された可能性が高い上に、戦闘宙域に戻ればヴェイガンと遭遇する危険があるため、戻る事も出来ない。
その上、ヴェイガンのMSの投降を受け入れた事で艦内の空気は余り良いものではなかった。
フォルスは他者と必要以上に関わろうとはしなかったが、ビシディアンではアセムと並ぶエースパイロットであることは皆も認めていた。
そのフォルスがやられてクルーの心境も穏やかではないだろう。
首領のアセムが投降を受け入れた事もあり、ヴェイガンの人間であるスラッシュとティアナに対して特に行動を起こす者は今のところはいない。
今は負傷したティアナを医務室で治療をするように指示を出している。
ティアナの治療を指示して少しするとスラッシュは艦長室に通される。
スラッシュが艦長室に入るとアセムは一瞬だけ驚く。
ティアナの話の内容からゼイドラのパイロットがゼハートの息子であると推測でき、自分も息子がいるため、ゼハートに息子がいても不思議はない。
スラッシュがゼハートの息子であるかも知れないという事からスラッシュを助けもしたが、直接会ってそれを確信する。
「アンタがあのガンダムの?」
「ああ……ビシディアンの首領のアッシュだ」
「何で俺を助けたんだよ?」
状況的にビシディアンがスラッシュを助ける理由はない。
その上、ティアナを治療し、自分も特に拘束される様子はない。
「さてな。強いて言うなら、昔お前のような奴を知っていると言うところだ」
ティアナの話からするにスラッシュがゼハートの息子でスラッシュ自身はXラウンダー能力を持たないという事になる。
そして、いつの時代も息子にとって父は超えるべき壁であることは地球圏でも火星圏変わらないだろう。
それらの事からスラッシュがかつてXラウンダー能力を持つフリットやゼハートに嫉妬し劣等感を持っていた時の自分と重なって思えた。
無論、スラッシュがゼハートに対して劣等感を持っているかなど、アセムには分かる訳ではないが、不思議と他人とは思えずにとっさに庇った。
投降を受け入れる事もそれ自体がこちらの情報やガンダムを奪取するための罠である可能性もあるが、ゼハートが息子を使って受け入れるか分からない方法を取るとは考え憎かった。
「そんな事よりもあれはどういう事だ?」
「俺の半分は地球の人間の血が流れているから、それを気に入らないと思っている奴は少なくないんだよ。まさか、ヴァレリもそう思っていたとは思わなかったけどな」
スラッシュ自身も地球の人間の血を引いている事でそれを良く思わない人がいる事は自覚している。
だが、その中に自分を補佐していたヴァレリが入っている事は今まで知ることはなかった。
それと同時にティアナが身を挺してまで自分を守ろうとは思ってもみなかった。
だからこそ、ヴァレリはティアナをもスラッシュと同時に始末しようとしていた訳だった。
「そういう事か……」
アセムは納得すると同時にチャンスとも思えた。
この戦闘を終わらせるための最大のネックは地球の人間とヴェイガンの人間は互いに互いを違うという認識があるが、スラッシュにはヴェイガンと地球の人間の両方の血が流れていると言う事はどちらも同じ人間であるという事の証明になる。
そうなれば、少しは戦いを終わらせるためのきっかけになるかも知れない。
「それでどうするつもりだ?」
だからと言ってスラッシュに何かを強要することも出来ない。
「分からないって……そんなのは、ヴァレリの事だから何か手を打っているかも知れないし」
そこそも、この戦闘は連邦軍内部でヴェイガンと内通している部隊をビシディアンが襲撃している事から始まっている。
ヴァレリがスラッシュがビシディアンと繋がっていたと言われればどうしようもない。
すでにビシディアンがスラッシュを助けているので、それを証拠と言われれば反論のしようがない。
「ならば、ビシディアンに入る気はないか?」
ビシディアンには脛に傷を持つ者が多く、仲間の過去を詮索することはしない。
それが例えヴェイガンの人間であってもだ。
「なんでそこまで……」
「お前の父のゼハートは俺の親友だからな。尤もゼハートがどう思っているのかは分からないがな」
アセムの言葉にスラッシュは驚く。
まさか、海賊の首領が父の親友と言うのだそれも当然と言える。
アセムは未だにゼハートを親友だと思っている。
それゆえにその息子のスラッシュをビシディアンに置こう思っている。
このままではヴェイガンに戻る事も出来ず、地球の人間だと言うスラッシュの母の事は知らないが、スラッシュに地球圏で頼れるところはどこにも無いのだろう。
その為、スラッシュをビシディアンに置こうと考える。
かつて自分がウルフによってXラウンダーへのコンプレックスを解消され、Xラウンダー能力を持たずともXラウンダーと対等以上に戦えるパイロット「スーパーパイロット」になるという道を示された事から、自分と似た境遇のスラッシュをビシディアンに置き、スラッシュに何かしらの道を示す事で自分の息子のキオを13年間も放っておいた事に対する罪滅ぼしの意味も兼ねてたのかも知れない。
「親父の親友?」
「もう20年以上も前に会ったっ切りだがな」
アセムはそういって23年前の自分とゼハートの事を思い出し過去を懐かしんでいる。
「無論。お前がそれを望まないというのであれば無理強いはしない」
「良いのか?」
「当然だ」
アセムは躊躇う事も迷う事もなく答える。
アセムからすればスラッシュがその気であれば受け入れるつもりでいる。
「俺だけでなくティアナもか?」
「彼女がそれを望めばな」
「なら……頼みます」
スラッシュはそう言って頭を下げる。
16年振りにゼハートを会う事が出来て話したい事は山ほどあったが、ヴェイガンに戻れない以上は下手に動けばゼハートにも迷惑がかかるかも知れない。
その為、スラッシュは父の親友と言うアセムの元に身を寄せる事に決めた。
メナスから脱出したヴァレリは一時的に身を隠していたが、ビシディアンをやり過ごして作戦の本隊に合流するために本隊に向かっている。
周囲にはフォルスのダークハウンドXとの戦闘の残骸が漂っている。
「地球種風情が……」
本隊に合流しようとしているヴァレリに心中は穏やかではない。
ジルスベイン5機とメナスを失った上にスラッシュを独断で切り捨てたことが明るみになると責任問題では済まされない。
その為、合流する前に何とか言い訳を考えておかなければならない。
スラッシュの事はごまかせたとしてもジルスベインとメナスの損失をごまかす事は出来ない。
「……あれはなんだ?」
ヴァレリはモニターの隅に何かを見るける。
余り良く見えないが、それは人影に見える。
黒いパイロットスーツであるから、更に見え辛いがパイロットスーツを着た人間だ。
パイロットスーツのデザインからヴェイガンのパイロットではない。
「ガンダムのパイロットか?」
周囲にはダークハウンドXの残骸も漂い、ヴェイガンのパイロットでなければビシディアンのガンダムのパイロットであると思われる。
漂っているため、生きているか分からないが、生きていればガンダムに関する有益な情報が得られるかも知れず、死んでいたとしても死体を宇宙に捨てるか海賊とは言え、ガンダムのパイロットである以上、ガンダムのパイロットとして生首でも晒せば地球側の士気を削ぐ事も出来るだろう。
ヴァレリは自分の失態を取り戻せるかも知れないと笑みを浮かべる。
ガフランは間違って潰さないようにビシディアンのパイロットを回収して本隊に合流しようとする。