マッドーナ工房の防衛に成功し、マッドーナ工房のドックにバロノークを入れてアセムはマッドーナ工房の一室に通されていた。
そこにはウルフとエリーゼがアセムを待っていた。
「久しぶりね。アセム」
「ええ……」
エリーゼの口ぶりから自分の素性が完全に知っている事から、アセムは否定はしなかった。
恐らくはウルフから聞いたと言う事は容易に想像がつくが、ウルフが無意味に秘密をばらすという事はないため、ウルフを非難する事もしない。
「いきなりで悪いが、少しばかり面倒な事になった」
ウルフはアセムにアーヴィンでの出来事を話す。
CMCの社長のジェラールがUIEと手を組んでそれに従う気のなかったウルフはブランシャール運送と結託してCMCを抜けた事、その際にUIEの計画の一端を知った事をアセムに話した。
「信じられない……」
ウルフが自分に対して嘘をつく理由はないが、流石にUIEが地球を破壊しようとしているかも知れないというのは余りにも荒唐無稽であるため、素直に信じる事が出来ない。
「まぁ、俺らだってそこまで信じているって訳じゃねぇからな。だから、兵器関連では俺らよりも知識を持ってる。クライドの野郎を探すって事になったんだよ」
「そう言う事でしたか……」
アセムは自分が呼び出された理由を理解する。
UIEが本当に地球を破壊するとしてそれを可能な兵器や方法をクライドに聞き出そうという事だ。
クライド自身、兵器に関する知識や技術は地球圏でも指折りだ。
更にはクライドはコロニー国家間戦争時までの兵器関連の情報が記されたデータバンクのEXA-DBを所有している。
その中に地球を破壊しうる威力を持った兵器もあるかも知れない。
その為、ウルフ達はクライドを捜索しようとしている。
そこで同じ目的を持って行動をしているビシディアンと連絡をつけて来たという事だ。
「確かに叔父さんなら……だったら、フォルスがいてくれたら……」
クライドの捜索するに当たり、クライドと繋がりを持っていたフォルスの存在はクライドを見つけるに当たり有用ではあった。
しかし、そのフォルスも先のヴェイガンとの戦闘でフォルスのダークハウンドXの撃墜が確認されている。
幾ら、フォルスと言えども機体が撃墜されたのであれば生きてはいない。
「どういう事だ?」
「フォルスはつい最近までビシディアンにいたんですよ。ですが、少しまでのヴェイガンとの戦闘で……」
「あのフォルスが……マジかよ」
フォルスがビシディアンにいた事も驚きであるが、それ以上にフォルスがやられていた事の方が驚きだった。
フォルスはクライドが最強のパイロットとして生み出された存在でその能力はウルフも良く知っている。
「フォルス? 誰?」
エリーゼはクライドが生きていると言う事までは聞いていたが、フォルスの事までは聞いていなかった。
ウルフはエリーゼにフォルスの事も軽く説明する。
「なるほどね……クライドらしいわ」
それに対してエリーゼは驚く事はなかった。
クライドが最強のガンダムを作り出すという事が夢であることはエリーゼも知っており、それを叶えるためにはいずれはパイロットの問題が出て来る為、驚く事ではない。
そして、最強のガンダムを操縦する最強のパイロットを生み出したという事はクライドの開発する最強のガンダムの設計が最終段階に来ている事を刺す。
「そのフォルスって子が戦死したとなれば、クライドは遠からず動くわ」
「その根拠は?」
「クライドがそう簡単に自分の夢を諦める事はないって事よ」
エリーゼは何十年もクライドと共に歩いて来た。
その為、クライドの事は誰よりも知っていると自負している。
クライドの性格を考えるとフォルスが死んだところで、最強のガンダムを作るという夢を捨てるという事はあり得ない。
となれば、次にクライドが取る行動は想像がつく。
新しいパイロットを生み出すと言う事だ。
フォルスの次のパイロットを生み出すとフォルスにした時のように経験を積ませたように新しいパイロットに経験を積ませようとするかも知れない。
そのタイミングさえ見過ごさなければクライドの尻尾を掴めるかも知れない。
「問題はタイミングか……」
そのタイミングを間違えればクライドを尻尾を掴む事が途端に難しくなる。
「俺達の方でも目を光らせておきます」
「頼む。こっちもこっちで情報を集める」
ビシディアンもブランシャール運送では簡単には掴めない裏ルートの情報を得る事が出来る情報網を独自に持っている。
今はブランシャール運送とビシディアンの両方の情報網を駆使してクライドの情報を集めるしかない。
「それまでは戦力の増強ね。UIEもあれで諦めてくれるとは思えないわ」
マッドーナ工房を襲撃したUIEの艦隊は今は補足できない距離まで離脱したが、一度の失敗で諦めてくれるとは思えない。
これからクライドを探すに為にUIEの攻撃を退け続ける必要もある。
それには戦力が必要だ。
クリフォードのプロト3をホワイトファングに積み込んだ為、少しは戦力の補強をしたが戦力はあるに越した事はない。
「こっちでもフォルスの穴を埋める程じゃないが、なかなか有望な新人が入ったから早いところ使い物に出来るようにしないといけないか……」
「キャプテン。バロノークに積み込むMSって……ウルフ艦長? なんでここに?」
「スラッシュ……お前こそ」
話しの最中にスラッシュがアセムを呼び出しに入って来て、ウルフがいた事に驚きウルフもまたスラッシュが入って来た事に驚く。
「知り合いですか?」
「まぁな。だが、ヴェイガンであるスラッシュがビシディアンに?」
「いろいろあったんですよ」
「それで? 彼は?」
「お前の孫だよ」
ウルフは簡潔にスラッシュをエリーゼに説明する。
余りにも簡潔過ぎてエリーゼとスラッシュは驚き、その説明にアセムも驚いている。
「何でアセムまで驚く?」
「叔母さんの孫って……まさか!」
アセムもウルフの言葉の意味する事にたどりつく。
エリーゼの孫と言う事はエリーゼの子供、つまり、ユーリア、エリアルド。マリィの誰かの子供と言う事になる。
父親がゼハートだという事はエリアルドの子供と言う可能性は消える。
となれば、母親がユーリアとマリィと言う事になる。
だが、ユーリアは未だに連邦軍に所属している。
それに対してマリィは戦死したことになっているが、ノートラム攻防戦ではゼハートのゼイドラと共に大気圏に突入している。
ゼハートが生きていたという事はマリィも生きていた可能性が高い。
マリィは本気かは分からないが、ゼハートの事をかなり気に入っていた。
更にマリィは父親のクライドの悪い部分を克明に受け継いでいる。
その為、ヴェイガンのMSの技術見たさにヴェイガンの側に寝返るという事は十分に想像がつく。
そうして、ヴェイガンの側に寝返ったマリィとゼハートの間に出来たのがスラッシュであると考えると説明がつく。
「その婆さんが俺の婆さんって……」
「こいつはお前の母親の母って事だ」
「あの子は何してんのよ……」
戦死したと思っていた娘がヴェイガンで息子を生んでいた事にエリーゼは呆れかえっている。
だが、夫であるクライドも表向きは戦死した状態で好き勝手に動いている事を考えれば今更驚く事ではない。
「まぁ、良いわ。スラッシュと言ったわね。貴方はお爺ちゃんやお母さんのようにならないように私がしっかりと教育してあげるから覚悟しなさいよ」
「悪いですけど、スラッシュは今はうちのパイロットなんですよ。その辺りはこっちでやっておきますよ。スラッシュ、俺に何か用だったんだよな?」
「工房の方から頼まれていたMSの事で来て欲しいって……」
「すぐに行く。隊長、叔母さん。俺はこれで」
「ああ、行って来い」
エリーゼの言う教育に余り良い予感のしなったアセムはスラッシュとともに部屋を出ていく。
アセムとスラッシュはマッドーナ工房の格納庫に来ている。
そこにはビシディアンのシャルドール・ローグやGエグゼス・ジャックエッジ、ガンダムAGE-2 ダークハウンドの予備パーツなどが置かれている。
それ以外に二機のMSが置かれている。
一機は組み立ての途中のティルヴァだ。
ティエルヴァはGバウンサーと母体としたXラウンダー対応機としてマッドーナ工房で開発された。
マッドーナ工房で作られたティエルヴァは連邦軍に納入されているが、連邦軍にXラウンダー能力を持ち尚且つティエルヴァを乗りこなせるパイロットはほとんどいない為、納入する数はどうしても予備パーツを含めても少数になってしまうのでマッドーナ工房には使われないパーツが眠っており、アセムはXラウンダー能力を持つティアナ用にティエルヴァを一機、マッドーナ工房から買い付けた。
今はそのティエルヴァを組み立てている途中だった。
その横に置かれているのはGサイフォス・ブレイヴだ。
ベースとなったGサイフォスはかつて、ビシディアンの若頭のウービック・ランブロ専用機として運用されていたが、アセムがビシディアンに加入した13年前にシドとの交戦で行方不明となっていた。
その後、ビシディアンではウービックが戻って来た時の為にGサイフォスを再製造するだけでなく、アセムの搭乗機となったダークハウンドのデータも反映されて強化されている。
そして、シドに対して勇敢に戦ったウービックにちなんで「勇敢な(ブレイヴ)」と名付けられた。
武装は右手にはダークハウンドの物と同タイプのドッズランサーを持ち、左腕のドッズバスターHは一回り大型となり先端についていたフックはアンカーショットに変更され、ダークハウンド同様、射出する事も電撃を流す事が可能となっている。
両肩には5連装ミサイルポッドが内蔵され、両腰には3連装の小型ミサイルポッドが装備され、両足の先端にはビームサーベルが埋め込まれており、右腕の装甲には予備のビームサーベルが収納されている。
頭部にはビームバルカン、胸部にはフラッシュアイが内蔵され、全体的に武装強化がされている。
Gサイフォス・ブレイヴは今まではウービックが戻って来た時の為にバロノークに搭載してはいたが、13年間も行方不明で生きているかすら分からない状況で今は少しでも戦力が必要と言う事でGサイフォス・ブレイヴをスラッシュの搭乗機として運用する為にオーバーホールを行っている最中だ。
「キャプテン、こいつが俺のMSなのか?」
「ああ……Gサイフォス・ブレイヴ。かつて、ビシディアンのエースだった男が使っていたMSを改良した機体だ。操縦系統はヴェイガンのMSとは違うからティアナ共々、機体が出来上がる前に慣熟を済ませておけ、シミュレーターは工房の物を使わせて貰えるように言ってある」
流石に操縦系統までヴェイガンのMSに合わせるには時間がかかり過ぎる。
その為、操縦系統を変えるよりもスラッシュとティアナが連邦系のMSの操縦系統に慣れさせる方が断然早い。
「分かった。すぐにでもやって来る」
「そうしてくれ。だが、ビシディアンのパイロットになれば敵は連邦だけでなく場合によってヴェイガンと戦う事になるかも知れない。その覚悟はあるのか?」
ビシディアンは連邦だけでなくヴェイガンとも敵対している。
場合によってはヴェイガンとも戦う事も十分にあり得る。
そうなった時、スラッシュは同胞と戦う事になるかもしれない。
最悪、ゼハートと戦う事だって覚悟しなければならない。
「覚悟とか言われても正直あるか分からないけど、ヴァレリの奴を一発ぶん殴らないと気が収まらない」
「成程。私怨と言う事か」
「止めても無駄だから、助けてくれた事は感謝してるけど、それとこれとは話が別だから」
今まで自分の補佐をしていたヴァレリの裏切りをスラッシュは許す気が出来ない。
同胞と戦う事には抵抗はあるが、ヴァレリと戦う事になった時は一切の抵抗もなく引き金を引く事が出来そうだった。
「止めはしないさ。誰にだって決着をつけないといけない奴はいるからな」
アセムにとってはゼハートがそれにあたる。
スラッシュのように恨みがある訳ではないが、互いに戦場にいる限りはゼハートとは決着をつけなくてはいけないと感じている。
「だが、お前がやり方を間違えそうな時は全力で俺がお前を止める」
誰かを憎むなとは言わない。
人間である以上、誰かを憎んでしまう事は仕方がない事だ。
だが、憎む事で道を間違えそうな時はアセムが全力でスラッシュを止めるつもりだ。
かつて、Xラウンダー能力に固執し道を間違えかけた自分をウルフが道を示してくれたようにだ。
「お前はもう俺達ビシディアンの仲間だからな」
「仲間か……」
不思議な感覚だった。
本来ならば味方であったヴェイガンを敵に回し、本来は敵であるはずのビシディアンが仲間となる。
だが、嫌な感じはしない。
少なくとも、アセムの事は信用してもいいとは思う。
そして、余り話は出来なかったが、自分の祖母にあたるエリーゼもここにいる。
ヴァレリに切り捨てた恨みを晴らすだけでなく、スラッシュはここに居場所を見つけた気がした。
ヴェイガンの艦隊を離れた戦闘艦は半月をかけて火星圏にあるヴェイガンの本拠地であるセカンドムーンに戻って来ていた。
その間にフォルスの意識は戻り軽く尋問を行ったが、フォルスは一言も話す事はなかった。
そして、ヴァレリはさまざまな手段を使ってようやく、ガンダムのパイロットを捕縛したとしてヴェイガンの指導者であるイゼルカントへの謁見へと漕ぎ着けた。
「ほう……その娘がガンダムのパイロットか」
ヴァレリは指示された通りにフォルスをイゼルカントの前に連れて来る。
フォルスは衣類に武器を隠せないように最低限しか隠せない薄い布しか身に着けれはおらず、手足に枷鎖をつけられて動きが封じられている。
尤も、戦闘艦ではフォルスの体については精密な検査はしない為、この程度ではフォルスの動きを封じる事には何の役にも立たないと言う事は知らない。
フォルス自身もここで騒ぎを起こす気は無い為、枷鎖は何の意味も成してはいないのだった。
「ええ……検査の結果、高いXラウンダー能力を持っている事からまず間違いないかと……」
「成程。確かに強い力を感じる」
説明がなくとも、イゼルカントもXラウンダー能力を持っている為、フォルスの力を感じる事が出来る。
フォルスから感じる力は強大で、それほ程の力を持つ者はそう簡単には表れないと言っても良い程だ。
「ヴァレリと言ったな。この度の働きご苦労だった。下がって良いぞ」
「しかし……」
相手が女で動きが封じられ、部屋の外には警備に兵がいるとは言っても指導者と敵パイロットを二人きりにするのは抵抗がある。
「構わん」
「……了解しました」
抵抗はあるが、イゼルカントの言う通りにしなければ、ゼハートを出し抜いてここまでフォルスを連れて来た意味がない。
ヴァレリは大人しく部屋を出て行くと、イゼルカントはフォルスの枷鎖を外す。
「何の真似だ?」
フォルスは自由になった手を擦りながイゼルカントに問う。
捕虜である自分と二人になっただけではなく、自由にしたのだ当然の疑問だ。
「この程度の拘束など意味はなかろう」
イゼルカントがフォルスから感じ取ったのはXラウンダー能力の高さだけではない。
フォルスがその気になったら、枷鎖を破壊して自分を殺す事など訳もないという事もだ。
その為、イゼルカントはフォルスの枷鎖を外した。
枷鎖を外したイゼルカントはフォルスの対面に座る。
「まずは娘、名はなんと言う?」
「名などない。好きに呼べ」
元々、フォルス・マーカスカイザーと言う名はCMCに入る時につけた名であり、ビシディアンにいた時は便宜上使っていただけに過ぎない。
フォルスにも生まれだされた時にクライドから名付けられた名もあるのだが、クライドの自身の存在理由を否定された今、その名を使う気にもなれない。
「まぁ良い。些細な事だ」
イゼルカントにとってもフォルスの名にさして意味は無い為、フォルスが名乗る気がないのなら、追求する気は無かった。
「ついて来い」
イゼルカントは立ち上がり、そう言う。
フォルスも拒否する理由も無い為、イゼルカントについて行く。
イゼルカントについて行くとセカンドムーンの中でも機密性の高い区画へと進んで行く。
すると、開けた空間に出ると、そこにはさまざまな機器があり、中央には大きなカプセルが置かれており、中には液体と共に一人の少年が入れられている。
その光景はかつて、フォルスが生み出された時の光景に似ていたが、当然の事ながらフォルスはそれを知る訳もなく、今のフォルスには何も感じる事はない。
「これがどうかしたのか?」
「彼の名はゼラ・ギンス。いずれ私の後継者となるべくして生み出されたヴェイガン最強の戦士だ」
イゼルカントは自身の後継者としてゼラ・ギンスを生み出していた。
だが、フォルスにとってはそんな事はどうでも良い。
イゼルカントはゼラを最強の戦士と言った。
最強のガンダムを動かす最強のパイロットとして生み出されたとって自分以外が最強と呼ばれる事は気に入らない。
「なぜ……それを話す」
「お主と対峙した時に感じた事がある。その強大な力をな」
イゼルカントはフォルスの力を感じ、ある事を考えていた。
その為に、ヴェイガンでもほとんど知る者はいないゼラをフォルスに見せた。
「その力……私の計画に力を貸して欲しい」
「正気か?」
「正気ではこの計画は遂行は出来ん」
イゼルカントの計画は正気な人間ではとても出来る物ではなかった。
だからこそ、ガンダムのパイロットであったフォルスですら計画に取り込もうとしている。
「私の本当の計画は地球を奪還する事などではない。そんな事をしたところで何の意味もない。本当にすべき事は人が人である世界を作りだす事だ」
「その為に私の力を使うと?」
「人は戦いを繰り返す。私はそれをする事のない賢い優良種を選別する為にこの戦いを始めたのだ。その為に地球の人間も生き残る道を残しもして来た」
イゼルカントの真の目的はそこにあった。
戦いによって極限状態を作り出す事で、その状況から生き延びる事の出来る人を選別し、それを繰り返す事で極限状態からも生き残る事の出来る優秀な人のみを残す事で世界から戦いをなくそうという事だ。
生き残った人は極限状態によって体験した死の恐怖を知る事で人が死ぬ戦いをする事がなくなり戦いはなくなるという事がイゼルカントの目指す世界だ。
「興味はないな」
世界がどうなろうとフォルスには興味はない。
興味があるのは自分が最強であるという事をクライドに証明する事だけだ。
「だが、その強い力を感じて確信した。お前はゼラとともに私の創り出す新世界のアダムとイヴとなる存在であると」
イゼルカントの創り出す新しい世界で最も優れた能力を持ったゼラと対をなす存在としてフォルスにイゼルカントは目をつけた。
「下らない。それに私がその事実を公表すればお前は破滅だ」
フォルスはイゼルカントの計画に賛同した訳ではない。
その為、フォルスがその事実を公表すればイゼルカントは破滅の道を辿るだろう。
無論、イゼルカントを絶対的な神のように信奉しているヴェイガンの民が簡単に信じるとは思わないが、計画に支障が出て来る事は確実だ。
「その時は私も劣等種であったという事だけだ」
だが、それすらもイゼルカントには意味をなさない。
自分が破滅するという事は自分もまた、計画の途中で死んでいった劣等種と同じであったに過ぎない。
そして、戦争がここまで激化した事自体が、イゼルカントが作り出した極限状態でもあり、すでに計画はイゼルカントの手を離れても続く事になるだろう。
「成程。では私がお前の計画に賛同したとしよう。だが、私がお前の計算通りに動くという保証はない。私が世界のすべてを滅ぼす結果になるやもしれん」
「その時は悲しい事だが今の人類には新世界に住む権利のある優良種がいなかったというだけの事だ」
フォルスは新世界などに興味はない。
自身が最強である事を証明するのに最も簡単な方法は自分と敵対するすべてを撃つ事だ。
その結果として、人類が滅亡する事にもなりかねない。
だが、イゼルカントはそうなった時は人類に生きる価値はなかったと結論をつけるだけだった。
フォルスが人類を滅亡させるかも知れない戦いをする事もまた、イゼルカントにとっては人類を選別する極限状態に過ぎないという事だ。
「良いだろう。ならば、私を満足させるMSを用意して貰おう」
それがフォルスの答えであった。
イゼルカントの目的はどうあれヴェイガンには利用価値がある。
MSの開発技術やXラウンダー対応機に関してはヴェイガンの方が進んでいる為、自分の能力に見合ったMSがあれば先の戦闘のように遅れを取る事はない。
そして、ヴェイガンにつくという事はいずれはAGEシステムを搭載したガンダムと対峙し戦う事も出来るだろう。
進化するガンダムを倒す事で自分が最強であるという事を証明する一つの材料になる。
その為、フォルスはイゼルカントの計画に加担する事に決めた。
フォルスに残された時間は僅かだ。
自身の体を維持する薬は十分に持ち出したが、それらは全てバロノークにある。
薬を前に飲んでから時間が経ち、すでに発作が起きる事がある。
発作自体はフォルスの命に係わる物ではなく、あくまでも警告でしかない。
だが、それが続けばいずれは身体機能に影響が出て来る。
その後にフォルスの身体機能が完全に停止するまでの時間を見積もれば1、2年と言ったところだろう。
その間にも不定期に発作が起こる事を考えればその時間は余りにも短すぎる。
だからこそ、フォルスには手段を選んでいる余裕はなかった。
フォルスがセカンドムーンに連れて来られて半月が経った頃、イゼルカントの側近の一人、ザナルド・ベイハートはイゼルカントに呼び出されていた。
ザナルドはイゼルカントの側近であるのでイゼルカントに呼び出されるという事は珍しい事ではない。
「お呼びでしょうか」
「地球侵攻作戦の準備は順調のようだな」
「ええ、すでにラ・グラミスの移動準備も完了しており、後は地球圏へと向かうだけになっております」
ザナルドは現在、火星圏で地球侵攻作戦の準備を任されている。
だが、その報告は定期的にしているので、その質問自体は単なる前置きでしかないだろう。
「結構。今回、お前を呼んだのは紹介した者がいるのだ。入って来い」
イゼルカントがそう言うと、フォルスがドレーネに手を引かれて入って来る。
半月前とは打って変わり、フォルスは胸元の大きく開いた黒いドレスを身に纏っている。
「これは娘でいずれ私の後継者となる。ヴァニスだ」
「はぁ……」
ザナルドは戸惑いつつ返事をする。
ザナルドも長年イゼルカントの側近であるが、昔には息子がいたという話しは聞いた事はあるが娘がいたという話しは聞いた事はない。
それもそうだ、半月前まではイゼルカントに娘などは存在すらしなかったからだ。
イゼルカントの計画を知ったフォルスはヴェイガンの次期後継者としてヴァニス・イゼルカントと言う新しい名前を名乗る事になった。
「ヴァニスは地球侵攻作戦に参加させる。地球圏のゼハート共々、補佐してやってくれ」
「はっ!」
ザナルドはちらっとフォルス……ヴァニスを見て返事をする。
いきなりイゼルカントの娘と紹介されても怪しむのは当然だが、イゼルカントがそう言う以上それを信じるしかない。
「頼むぞ。ザナルド・ベイハート」
「はっ、必ずやこの命に代えてもプロジェクトエデンの成功させて見せましょう」
フォルスはヴァニス・イゼルカントとしての道を進み、ついにヴェイガンの地球侵攻作戦が本格的に始動する。