ヴェイガンの一斉蜂起によって地球の40%がヴェイガンに支配された。
オリバーノーツでの戦闘から敗走したヴァニス達は近くの町を制圧していた戦艦に回収されていた。
「降下作戦に合わせた奇襲攻撃にて地球上の約40%が我が軍の支配下に置かれました」
回収された戦艦でヴァニスとゼハートは作戦の状況を把握している。
オリバーノーツではガンダムAGE-3によってファ・ゼオスが撃沈されて敗走こそしたが、全体的に見れば作戦は成功していると言える。
「そうか、ディーヴァをガンダムの動向はどうなっている」
ヴァニスにとっては降下作戦の状況などどうでも良い。
成功しているという事は自分が倒すに値する敵がいないという事だ。
その為、目下のところヴァニスの興味はAGE-3だけだ。
「現在は北米より南下しています」
モニターにはディーヴァの現在位置が映される。
「情報の正確さは?」
「スパイからの情報ですのでまず正確です」
ヴェイガンは長年をかけて地球に戦力を送りこむだけでなく、軍内部に内通者やスパイを送り込んだりしている。
そのスパイからの情報でディーヴァの位置はヴェイガンの側でも補足出来る。
「成程、ご苦労な事だな」
ディーヴァの現在地はオリバーノーツでの戦闘後に出航したとしてもずいぶんと遅いペースだ。
恐らくは高度を上げ過ぎると軌道上の艦隊に発見され、ラ・グラミスのディグマゼノン砲に狙われる危険性を危惧しており、更には見つかり難いルートを選んで航行しているのだろう。
だが、そんな事に関係なしにスパイによってディーヴァの現在位置を補足されているのだ、それらは無駄な努力となっている。
「ディーヴァに対してゴドム隊が仕掛けるようです。砂漠での戦闘ではゴドム隊の右に出る者はありません」
「ほう……それは楽しみだな」
ヴァニスの言葉を説明をしていた兵はゴドム隊がディーヴァとガンダムを仕留めたという報告が来る事を楽しみだと取るが、実際のところはゴドム隊との戦闘で更にAGE-3が進化して自分の前に出て来る事を楽しみだとヴァニスは思っていた。
ヴァニスはゴドム隊との戦闘によりガンダムが更なる強敵として目の前に出て来る事を願った。
砂漠地帯をロストロウランを目指して航行していたディーヴァはゴドム隊の襲撃を受け、艦に損害を受けながらも身を隠していた。
ディーヴァはビッグリングが陥落し、偶然にもロストロウランにフレデリック・アルグレアスが訪れていたこともあり、ロストロウランが臨時に総司令部となっていた為、ディーヴァはロストロウランを目指していた。
軌道上の敵を警戒して低軌道で航行していた事が仇となり、砂漠に潜んでいた無人攻撃機からの攻撃を受けたのだった。
「やられたな」
「ですね。まさか、砂漠の中から攻撃を受けるなど考えてもいませんでしたよ」
ディーヴァのブリッジでフリットやセリックは艦の被害状況を確認している。
今までに砂漠の中から攻撃して来る兵器など存在しなかった事もあり、上ばかりに気を取られて下は見えるところしか注意はしていなかった。
その為、砂の中からの攻撃など想定はしていなかった。
艦の損傷だけで済んだのは幸いとしか言いようはない。
「まったく……ヴェイガンがここまで地球環境に適したMSを使って来るとはね……」
「関心している場合か」
「失敬。ですが、ヴェイガンは見えざる傘を始めとした技術を次々と導入して来ています。それは連合以上の技術を持ち、単純な技術力で言えば、元司令の兄上に匹敵するかそれ以上です。連邦軍きっての頭脳を持った天才技術者、クライド・アスノをも上回る技術力の謎……非常に興味深い」
フリットとてヴェイガンが高い技術力を持っているという事は今更入れなくても分かっている。
フリットはセリックが産まれる前からヴェイガンと戦い、その技術力を目の当たりにしているからだ。
クライドは新技術を生み出す事も好きだが、既存の技術を突き詰める事が多く、たいていは新技術を自分から生み出すよりもAGEシステムやヴェイガンの新技術を盗用して、自分なりに改良する事の方が多い。
「そんな事よりも今は対策を取る方が優先だ」
フリットとしてはヴェイガンの技術がクライド以上と言われる事は面白くはないが、今は砂漠の中から攻撃して来る敵に対しての対策の方が優先だった。
「ファントム3……」
フリットとセリックが対策を考えようとする矢先、艦長席に座るナトーラがぼそりとつぶやき、二人の視線がナトーラに向く。
それにより、ナトーラは縮こまる。
「えっと……たった今、情報が届きました。ヴェイガンの一斉蜂起の時にこの付近を航行中の戦艦が接触……その後、通信途絶して捜索部隊が派遣されたがこちらも消息不明。接触した艦の最後の報告では、敵は機種不明のMS3機に戦艦2隻とMSが10機が破壊された様です。総司令部は正体不明の敵部隊をファントム3と呼称したようです」
「なぜ、今頃になってそんな情報が届く!」
「済みません!」
フリットは怒鳴り、ナトーラはさらに縮こまる。
情報の伝達が早ければディーヴァが損傷を受ける事もなかった。
情報が遅れた事はナトーラの責任ではなく、フリットも情報が遅れた事に対して怒り、怒鳴っているが、ナトーラは反射的に謝っている。
「アスノ元司令、落ち着いてください。これではっきりしましたね。連中は再び仕掛けて来ます」
報告では敵は3機のMSも使って来る。
ディーヴァを襲撃した時にはMSまでは補足できていない。
となれば、前回の襲撃はあくまでも威力偵察か、無人攻撃機にてディーヴァの足を止める為か、どちらにせよ確実にもう一度ヴェイガンは仕掛けて来る事は確実だ。
そして、次に仕掛けて来る時は無人攻撃機だけでなく3機のMSも投入して来る可能性が高い。
そうなった時、対策を立てておかなければ今度は損傷だけでは済まない。
「そうだな。まずは全MSを砂漠戦仕様に変更。それから砂漠の敵に対する戦術の構築、やることは多いな」
「連中が仕掛けて来る事が先か、こちらが対策を立てる方が先か……余りゆっくりは出来そうにないですね」
次に敵がいつ仕掛けて来るか分からない以上、出来る事は可能な限り早く準備を終えて迎え撃つしかなかった。
ブリッジでの相談をキオは扉の前で盗み聞きしていた。
ディーヴァに乗艦した時に正式にガンダムAGE-3のパイロットと言う事でセリックの指揮下に入る事になったが、流石にガンダムを動かす事が出来ても戦術的な事はMSバトルシュミレーターでもほとんどやったことは無い為、実戦では指示に従って動くしかないので参加はしてはいないが、フリット達が何を話しているかは気になっていた。
「そこで何やっているの?」
聞き耳を立ててブリッジの会話を聞こうとしていると、後ろから声を掛けられてキオはドキリとする。
だが、後ろを向くとキオは一息つく。
相手が見知らぬ相手であれば、会話を盗み聞きしようとしたことに対して何を言われるか分からないが、声の主を知っていた事で安心したからだ。
「ユノア叔母さん……」
「久しぶりね。キオ」
声の主はキオの父の妹、キオからすれば叔母にあたるユノア・アスノであった。
ユノアは医療スタッフとしてコロニーや地球の各地を飛び回る事が多い。
「まったく、何をしているのよ」
ユノアは盗み聞きをしようとしていたことを呆れていた。
中の様子が気になるのであれば、中に入ればよかったが、ガンダムのパイロットと言えど、13歳の少年に艦内を変にうろつかれても迷惑なだけであり、ブリッジに特に用事もなく来る事はクルーも余り良い気はしないだろう。
フリットも、アセムやユノアの子供時代よりも甘いが、それでも用もなくブリッジに出入りする事を容認はしないだろう。
ユノアに見つかった事でキオもそれ以上、ブリッジの話を盗み聞きする訳にもいかず、ユノアと共にブリッジの前から離れる。
「ユノア叔母さんもこの艦に配属されたんだね」
「まぁね。突然の辞令だったけど、ちょうど近くまで来てたから」
ディーヴァはオリバーノーツを出る際に艦を運用する為に必要な人材を配属させている。
その中に仕事で近くまで来ていたユノアもディーヴァの衛生員として配属されていた。
今まではディーヴァの医療スタッフとの顔合わせや、医務室の設備や備品のチェックを優先していたので、キオやフリットと話をしている暇はなかった。
「叔母さんと同じ船に乗れるなんて嬉しいよ」
「私もキオや父さん、エリアルド兄さんと同じ船、それもディーヴァに乗れて嬉しいわ」
成り行きでガンダムのパイロットとなり、ディーヴァに乗艦する事になったが、キオはディーヴァの中ではフリットとエリアルド以外には知り合いは軍にはいないため、不安はあったが、そこにユノアが加わった事で知り合いが増えた事に安心する。
ユノアも、キオやフリット、エリアルドと同じ船に乗れる事は嬉しい上に、ディーヴァは両親や兄、従姉妹などと言った一族と縁のある船に乗る事になった事は素直に嬉しいと感じている。
「それと、ロマリーさんと母さん達は隣町まで避難したって連絡があったわ」
「本当?」
今まで自分の事で精一杯だったので、キオは母のロマリーや祖母のエミリーが無事だったのかを確認する事を完全に失念していた。
だが、ユノアの口から母と祖母の無事を確認する事が出来たので一安心した。
「キオも早いところ、無事な事を教えてあげた方が良いわよ。きっと、ロマリーさんも喜ぶわよ」
「まだ、良いよ。どうせ連絡したら母さん、ディーヴァを降りろって言うからさ」
「親だもの当然よ」
キオとしても、ロマリー達に連絡したいが連絡をすれば、今の自分の状況を話さなくてはいけない。
そうなれば、ディーヴァに乗っている事やガンダムのパイロットになったことも話さなくてはいけない。
話せば確実にガンダムから降りるように言われる。
それは親として年端のいかない息子を戦場にやりたくないと言う親心であることは理解できる。
ロマリーは戦場で夫のアセムを行方不明になっている為、余計にそう思うというのも父を戦場で行方不明になっているキオにも理解は出来る。
キオはフリットよりガンダムを受け継いだ。
オリバーノーツでヴェイガンの襲撃の惨状を目の当たりにしてそれを止める事が出来る力をキオは持っている。
その力でヴェイガンと戦い、戦いを終わらせる事が出来るというのであればキオはヴェイガンを倒して皆を守りたいと思っていた。
「分かってるよ。だから、そのうち……あれ」
キオは「そのうち連絡する」でお茶を濁そうとするが、廊下の前方から三人の子供がハロと共に走って来る。
子供が戦艦に乗っている事は不自然ではあるが、キオはその子供達に見覚えがある。
キオがガンダムに乗る前にオリバーノーツで助けた子供達だ。
その時は一緒にいた幼馴染のウェンディに任せて、たまたま通りかかった軍の車両で避難させた筈だ。
「待ちなさい!」
そして、その後ろからウェンディが走って来る。
ウェンディはユノアと同じ衛生員の服を着ている。
「あっ、キオ、ユノアさん」
「苦労しているみたいね」
キオはウェンディまでディーヴァに乗っている事に驚くが、ユノアはウェンディと顔見知りでここにいる事も知っていたようで、子供達に手を焼かされている事を見て苦笑いしている。
「どうしたの? ウェンディ、そんな恰好して?」
「ごめん。今急いでいるから」
ウェンディはキオの質問に答える事なく、ユノアに軽く頭を下げて子供達を追いかけて行った。
「あの子、学校で医療を選択してたでしょ。だから、私の手伝いをして貰ってるの。今はあの子供達の世話を任せているのよ」
キオとウェンディは同い年ではなく、ウェンディの方が一つ年上だった。
キオは良くは知らないが、ウェンディは学校で医療を選択しているような話を聞いた事はある。
無論、専門的な知識や技術までは習ってはいないが、多少の知識を持っているので子供の世話を任せていた。
ユノアとウェンディが顔見知りなのは双方とも、ディーヴァの医療スタッフだったからだ。
「でも、どうして子供がディーヴァに?」
キオはふと思った事を口にする。
キオやウェンディも十分に子供に入るが、キオはガンダムのパイロット、ウェンディは医療を勉強しているという理由で軍艦に乗っていても不思議ではない。
だが、あの子供達は軍艦に乗って役に立てるとは思えない。
「あの子達の親は避難先から宇宙に上がるらしいのよ。それでディーヴァから下すよりもディーヴァも宇宙に上がるから宇宙に上がった後に親御さんに引き渡す事になっているのよ」
子供達はオリバーノーツでのディーヴァが出航する際に基地からディーヴァに乗り込んでいた。
その後、家族の事を調べたところ、すでに別々に避難してしまっていた事もあり、下している余裕がなかった。
その為、ディーヴァも宇宙に上がる予定があるので、仕方がなしにディーヴァに乗せていたのだった。
「ふーん。そうなんだ」
「ああ……いた。キオ」
子供達がディーヴァに乗っている事に納得していると通路の前方からシャナルア・マレンが歩いて来る。
シャナルアとはディーヴァに乗艦した時に一度、顔を合わせている程度で特に接点がある訳ではなかったので、呼び止められる理由が分からずキオは首を傾げる。
「アスノ少佐からアンタを指導するように頼まれたからついといで?」
「おじさんから?」
「そう言う事」
キオは今まではMSバトルシュミレーターを使ってのシュミレーション訓練がほとんどだったが、予定よりもだいぶ早く実戦になったこともあり、フリットもゆっくりとキオを育てる訳にもいかなくなった。
その為、軍でパイロットの教官をしていたエリアルドにキオを指導するように頼んでいた。
そして、エリアルドはシャナルアにキオを任せたという事だった。
キオはシャナルアと共に格納庫へとついて行く。
「違う。そうじゃない」
AGE-3のコックピットでシュミレーションをしているキオにシャナルアがそういう。
先ほどから何度もキオはシャナルアに怒られている。
「良い? 常に移動に心がける。敵の位置を把握する。撃った後も油断しない。この三つは常に頭に置いておくように言っているでしょ?」
シャナルアが怒る理由はそこであった。
何度も同じ説明をするが、キオはそれらを上手くは出来てはいなかった。
今までのゲームはあくまでも遊びの範囲だと思っていたので、撃墜されてゲームオーバーになっても構わないという気持ちはどこかにあったが、今はそういう訳にはいかなかった。
「そんな事入れても……爺ちゃんと言っている事が違うし……」
「アンタは突っ込み過ぎるのよ。私が教えるのは自分の身の守り方よ」
「でも、守ってても勝てませんよ」
「それもお爺ちゃんの言葉?」
訓練がうまくいかないのはそこにあった。
今までキオはフリットの教えに従って来た。
フリットの教えは基本的に攻める事を優先する。
敵を素早く倒す事で被害を最小限に留めるという事だ。
だが、シャナルアが教えている事はフリットの教えとは真逆の事だった。
自分の身を守り生き延びて戦い抜く事で被害を減らすというやり方だ。
どちらが正しいかと言えば、どちらも正しいと言える。
フリットが今まで教えて来た事ははガンダムの性能に依存する事が大きい。
高性能であるAGE-3の性能があれば、多少は無理な戦闘をしようとも性能で切り抜けられる。
だが、これからの戦いではAGE-3の性能に頼っているだけでは勝つ事も生き延びる事も出来ない。
だからこそ、キオは敵を倒すだけでなく、自分が生き延びる道を身に着ける必要があった。
「それで死んでしまっては意味がないでしょ? 前に出るだけが戦いではないのよ。覚えておきなさい」
フリットの教えを守り前に出る戦い方を否定をするつもりはないが、それで死ねば意味がない。
フリットとて、そこまでの危険を冒して欲しいとも思ってはいないはずだ。
キオは今までとは違うやり方に戸惑いつつも、シャナルアの指導を受ける。
「ずいぶんとしごかれてますね」
キオの訓練の様子を遠巻きにエリアルドとロディが見ていた。
今は砂漠での戦闘に備えてディーヴァの搭載機の調整を整備班が行っている。
シャナルアに任せてはいるが、エリアルドも少しは気になっている。
「キオには悪いが、戦場で死ぬよりかはマシだよ」
「それなら、少佐自ら指導しても良かったんじゃないですか?」
ロディもエリアルドの指導の噂は聞いている。
エリアルドの指導は厳しい事で有名だ。
それによって強敵への対処方を考えたり、極限状態を体感する事が出来る。
その恐怖で折れるようなら、戦場から去った方が身のためであり、模擬戦で死者や重傷者が出ないように配慮はするが、怪我人が出る事は珍しくない。
下手に手加減をして中途半端な実力で戦場に出て死ぬよりかはマシだという考えの元の訓練となっていた。
オリバーノーツ基地のパイロットの大半は、そのエリアルドの訓練を受けているパイロットは多い。
模擬戦の度にMSを修理する羽目になるので整備班の方でもエリアルドの訓練の厳しさは伝わって来る。
「流石に子供、親戚の子に対して指導するのは勘弁して欲しいさ」
エリアルドも自分の訓練が厳しい物なのは十分に理解している。
だから、その訓練を子供、それも自分の親戚の子供に課すのは酷と言うものだった。
それ故に指導をシャナルアに任せた。
「キオの事は中尉に任せればいいだろう。それよりも機体の調整は間に合いそうか?」
「整備士長としては間に合わせるとしか言えませんね。クランシェの方はまぁ、何とかなりそうですし、ガンダムは僕が担当するから大丈夫ですが、問題はオブライト中尉のジェノアスと少佐のガンダムですよ。特にジェノアスは弄った事のない奴が多いんで手間どりそうですね。幸い、僕が触った事があるからできないって事もないんですけどね……」
砂漠戦使用の調整をするに当たり、連邦軍の主力機であるクランシェの調整には問題はない。
新型であるガンダムAGE-3もマッドーナ工房での技術を多く使われているのでロディなら整備や調整には問題はない。
だが、問題はオブライトのジェノアスOカスタムとエリアルドのガンダムZERO Ⅲだ。
エリアルドのガンダムZERO ⅢはアデルマークⅡの部品を多く流用しているのでそこまで問題はないが、胴体部の調整は整備士も苦戦しそうだ。
それ以上にジェノアスOカスタムの方は問題が多い。
ドッズライフルやビームサーベルは最新の物を使っているので問題はないが、本体は近代改修がされてはいるが基本的にはジェノアスⅡと同じになっている。
今ではジェノアス系のMSはほとんど使われていないので軍の整備士にはジェノアス系のMSを弄る事が出来ない兵も少なくはない。
ロディの世代ではジェノアス系のMSも主力機だった時期もあるので、ロディはジェノアスOカスタムを弄る事は出来るがAGE-3の調整や整備士に指示を出すなど、やることが多すぎる。
「まぁ、今回は意地で乗り切るしかないってのが実際のところですね。本音を言えばロストロウランから宇宙に上がる前にジェノアスを弄れる整備士を回して欲しいですよ」
ロディも整備士である以上は、次の戦闘までに搭載機の全機を万全の状態で出撃させる事が仕事だ。
例え整備が出来る人間が少なかったから出来ませんでしたなどとは整備士の意地としては言えない。
だが、この場を乗り切ってロストロウランに到着した時にはジェノアス系のMSを整備出来る整備士を回して欲しいというのが本音だ。
更に本音を言えば、エリアルドにもオブライトにも他のパイロットと同じクランシェに乗り換えて貰えば整備の手間も変わって来る。
しかし、パイロットには自分の機体を選ぶ基準が大きく分けて二つある。
一つは機体性能。
パイロットによっては常に高性能機に乗りたいと望むパイロットや自分に合った機体特性を持ったMSに乗りたいというパイロットがいる。
もう一つは思い入れのある機体だ。
機体性能では新型機には劣るが今まで乗って来た為に扱いが慣れているなどや、機体に特別な思い入れがある場合は機体性能で劣っても乗り換えたくないというパイロットも多い。
エリアルドとオブライトは後者になる。
ガンダムZERO Ⅲはエリアルドの父、クライドが設計、開発したガンダムである為、エリアルドはウェアをアデルマークⅡの物に代えても、AGEドライヴやXブーストシステムが使えなくとも乗り続けている。
オブライトのジェノアスOカスタムの元になっているジェノアスⅡは23年前にもオブライトはディーヴァのMS隊に所属していた時からの搭乗機を改修した物だ。
その時のジェノアスⅡはオブライトの妻であるレミが整備をしていた事もあり、アデル系やクランシェに乗り換える事はせずに20年以上経っても改修して使い続けている。
ロディが乗り換えて欲しいと思うのは整備士側の都合でしかない。
それを押し付けて乗り換えろと言う整備士は3流だ。
整備士の仕事はパイロットが戦場ですべての力を出し切れるようにMSを整備する事でその力を出し切るというところには自分の乗りたいMSで出る事で発揮する力もまた存在する。
その為、パイロットが乗り変えを望んでいない場合はそれを押し付ける事は出来なかった。
「その辺りは上もわかってはくれるさ。ただでさえ、ディーヴァはガンダムを搭載しているからな」
ガンダムは連邦軍の中でも特殊なMSであり、戦局を変える可能性を秘めている。
詳しい情報は降りてはこないが、ヴェイガンは地球全土で一気に攻勢に出たとされている。
そうなれば、連邦軍の被害も大きい。
この状況で戦局を打開するとなればどうしてもガンダムに賭けるしかなくなる。
結局のところ、連邦軍は未だにガンダムに頼るしかなかったのだ。
シャナルアの指導も休憩に入り、キオは格納庫をぶらついていた。
すると、ロディがAGEビルダーで作業しているのが見える。
「何してるんですか?」
キオは何気なく、ロディに声をかける。
すると、ロディを手伝っていた少年、ウットビットがあからさまに嫌な顔をするが、キオは気づいていない。
「フリットさんに頼まれてね。砂漠戦用の装備が出来ないかってね」
搭載機を砂漠戦使用にしたところで砂漠での戦闘を視野に入れて設計されている機体は搭載していないため、砂漠戦用の敵を相手にするのは厳しい。
補給もままならない状況で砂漠戦に対応できる装備を得るために、AGE-3の戦闘データを使ったAGEシステムに新装備を考案させようとしている。
「そう言えば、オリバーノーツでの戦闘で少し話したけど、こうしてきちんと話すのは初めてだったよね。僕はディーヴァの整備士長のロディ・マッドーナ。よろしく」
「キオ・アスノです」
ロディが手を差し出してキオもそれに応じる。
その様子を見てウットビットは更に機嫌が悪くなって行く。
「君の家のMSバトルシュミレーターの調子はどうだい?」
ロディがそう言うとキオは首を傾げる。
なぜ、ロディが自分の家のゲームを気にするのか理由が分からないからだ。
その様子を見た、ロディも事情を把握する。
キオは自分とアスノ家の関係を知らず、ロディがMSバトルシュミレーターの制作に関わっていたことも知らないのだった。
「僕とこのウットビットは何かとアスノ家とは縁があってね。僕の実家の工房は君のお爺さんのお兄さんとは長い付き合いだったんだよ。その関係でフリットさんとも繋がりが深い。ガンダムのプロトタイプ機もうちの工房で製造てるからね。ウットビットのお爺さんはフリットさんの幼馴染で、お母さんは君のお父さんと同じ隊にいたんだよ」
ロディの実家のマッドーナ工房はその高い技術力からクライドは良く利用し、ロディの父のムクレド・マッドーナとは技術者として気が合い、友人でありライバルでもあった。
そして、フリットもまたAGE-3を製造するに当たり協力を依頼して5機のプロト3を製造している。
ウットビットもまたアスノ家とは深い関わり合いを持っていた。
ウットビットの祖父はディケ・ガンヘイルはフリットやエミリーとは幼馴染にあたり、かつてはディーヴァの整備士長をしていた時期もあった。
そして、母のアリーサ・ガンへイルはディーヴァに配属されウルフ隊のパイロットとしてキオの父のアセムと共に戦場を駆けていた。
「へぇ……そうだったんですか」
「それにしても凄いね。その年でガンダムを動かせるなんて、流石はフリットさんのお孫さんだ」
「そんな事はないですよ」
キオはそういうが、内心では喜んでいた。
フリットを慕っているキオはフリットの孫として誰かに褒められいるからだ。
だが、ロディに褒められている事をウットビットは良く思っておらず、それが顔に出ている。
すると、別のところから整備士がロディを呼ぶ。
元々、クランシェ以外のMSは癖があるので一般の整備士では手に負えない。
ロディも一通り指示は出したが、それでも出来ない時はいい加減な仕事をするくらいなら、自分を呼ぶように言ってある。
今回もその関係なのだろう。
ロディは呼んでいる整備士の方に向かい、キオとウットビットは二人きりになる。
「ウットビット君だったよね。僕はキオ・アスノ。よろしくね」
キオはそう言って握手を求めるが、ウットビットはキオの手を払い除ける。
「良い気になるなよ! ロディさんはなマッドーナ工房って凄い工房の跡取りなのに連邦軍で一兵卒から整備士長にまで上り詰めた凄い人なんだ! アスノ家で爺ちゃんが元総司令だからってガンダムのパイロットになったお前が気安く話かけられるような人じゃないんだ! 分かったのか!」
ウットビットを声を荒げる。
ウットビットはロディの事を尊敬しているが故にガンダムのパイロットと言うだけでロディを気安く話をするキオの事が気にいらないだけだった。
「そっか、君はロディさんの事を尊敬しているんだね。僕も爺ちゃんの事を尊敬してるんだよ。爺ちゃんは僕とそんなに年の変わらない14歳でガンダムを作ってみんなを守る為にヴェイガンと戦って来たんだよ。ウットビット君も爺ちゃんを話してみると良いよ。爺ちゃんはいろんな事を教えてくれるよ」
キオのとってはフリットはヒーローだった。
自分とは一つしか違わない14歳の時にガンダムAGE-1を作って自らが乗り込んで戦った。
その戦果は歴史の教科書にも乗っているほどだ。
その後も軍では異例の大出世をして40歳になる前に軍の総司令官にまで上り詰めている。
総司令官になった後も、ビッグリング防衛戦やノートラム防衛戦でもその能力を発揮して守り切るなどその能力はパイロットや技術者には留まらない。
今ではフリットを英雄視する声も少なくない。
そんな英雄であるフリットを祖父に持つキオにとってはフリットは何よりも誇れる人であった。
「うるさい! ディーヴァに乗っている奴が皆、お前を特別扱いすると思うなよ!」
ウットビットは面と向かってロディを尊敬していると言う図星を突かれた事もあり、キオにそう言い捨てて走り去って行く。
ウットビットとの一件があったが、ウットビットとまともに話す事なく、キオはシャナルアの指導を受けている。
休憩前と比べてキオはウットビットの事が気になり集中力に欠けている。
キオはウットビットが自分を嫌う理由が分からない。
ウットビットと会ったのは今日が初めてだ。
会話の中でもウットビットを怒らせるような事は言ってはいないはずだった。
別の事を考えていた事でシュミレーションの方が疎かになり、あっさりと撃墜されて終了した。
「キオ、休憩前よりも悪くなってるわ」
「済みません」
キオは上の空で謝り、シャナルアもキオの様子がおかしい事に気が付く。
そして、AGE-3の後部座席に座っていたシャナルアはキオの前部座席に身を乗り出してキオと額を合わせた。
「厳しい指導だとは思うけど、これもアンタの為なんだよ。戦場に出れば子供も大人も関係ない。だから、私はキオの死んで欲しくないから……」
「あの……シャナルアさん、何の話ですか?」
シャナルアはてっきり、自分の指導が厳し過ぎた事でキオが落ち込んでいたと思っていた為、シャナルアは自分が厳しいのはキオの死んで欲しくないからだと説明するが、ただ考え事をしていたであった。
「アンタ、落ち込んでたんじゃいの?」
「いえ、少し考え事をしていただけです」
「何だ……子供はああやると安心するから……」
シャナルアは自分の勘違いに気が付き恥ずかしくなるが、同時にキオが落ち込んでいた訳ではない事を知り安心する。
シャナルアの勘違いも解けて、キオも今はシュミレーションに集中しようとした矢先、ディーヴァ内に警報が鳴り響く。
その警報は偵察に出ていたMSが敵部隊を補足した事によるものだった。
キオとシャナルアもすぐにシュミレーターを切り上げて出撃準備に入る。
敵部隊を補足したディーヴァからMSが射出される。
セリックのクランシェカスタムとデレクとジョナサンのクランシェは飛行形態で敵の囮役となり、引きつけている。
残りの飛行能力を持たないエリアルドのガンダムZERO ⅢとオブライトのジェノアスOカスタムに加えてシャナルアのクランシェが地上から無人砲台をドッズライフルで狙い撃ちして行くが、砂漠仕様になっているとはいえ、砂漠戦を前提とはされていないので、砂漠に苦労させられている。
それに続いてキオとフリットの乗るガンダムAGE-3も出撃する。
AGE-3が砂漠に着地しようとするが、AGE-3は砂に足を取られて膝をつく。
「キオ、多少速度が落ちてでも構わん。体勢を維持する方を優先するんだ」
「分かったよ。爺ちゃん!」
例え、速度が落ちようとも質量装甲を持つAGE-3は簡単には破壊はされない。
だが、体勢を崩してしまえば、敵の攻撃を一方的に受ける事になる。
フリットの指示通りに体勢を維持していると、砂中から3機の敵MSが接近して来る。
AGE-3はシグマシスライフルを構えて放つ。
だが、敵MSは直撃を避けると砂の中から飛び出して来る。
ゴドム・タイナム、グラット・オットー、デモン・ラージの3人が駆るヴェイガンが開発した砂漠戦用MS「ゴメル」だ。
三機のゴメルはAGE-3に体当たりをして再び砂に潜行する。
「アイツがガンダムか……姫様に良い手土産が出来る! デルタアタックを行くぞ!」
三機のゴメルがAGE-3の周囲を高速で移動して行く。
すると、AGE-3がゆっくりと沈んで行く。
「機体が……沈む!」
「キオ! 飛ぶんだ!」
三機のゴメルの繰り出すデルタアタックは砂の中を高速で移動する事で対象を砂の中に引きずり込むという物だった。
どんなMSだろうと砂の中に引きずり込まれれば圧倒的にゴメルが有利となる。
その為、フリットは砂の中に引きずり込まれる前に上空へと逃げるように指示を出す。
高度を上げて上空に飛び上がれば無人砲台や砂中のゴメルから狙い撃ちされる危険性があるが、それでも砂の中に引きずり込まれるよりかはマシであった。
「逃がすかよ!」
だが、グラット機が砂の中から飛び出して来て、AGE-3をシグルクローで攻撃して妨害すると、再び砂の中に潜行する。
「ちぃ……」
「フリットさん! ガンダムの新装備が完成しました!」
砂漠から攻撃して来るゴメルに手をこまねいていたが、AGEシステムがAGE-3の新装備を完成させたとロディからの通信が入る。
戦闘に入るまでには完成しなかったが、新たなにAGE-3の砂漠での戦闘のデータをも取り入れて完成していた。
「すぐに射出しろ! 空中で換装する!」
「分かりました!」
今からでは戻って換装する余裕はない。
AGE-3はこういう時を想定してウェア側にもコックピットを取り付けて空中での換装を行う事が可能となっていた。
「落ちろ! ガンダム!」
ゴドム機は潜行形態のまま、先端のゴメルキャノンからビーム刃を出して、AGE-3に突撃しようとするが、AGE-3はコアファイターとGセプターに分離して攻撃を回避する。
そして、Gセプターは煙幕弾を投下する。
上空に上がったコアファイターとGセプターにAGEシステムが開発した新兵器「Gホッパー」が向かって来る事が見える。
Gホッパーにはガンダムに乗るキオに対抗心を燃やしていたウットビットが乗っている。
ある程度の操縦は自動化されているが、移動をするだけで四苦八苦している。
「何だ? アイツは!」
「ガンダムの新兵器か? 構わん! 撃ち落せ!」
コアファイターと合流し、合体しようとしていたコアファイターとGホッパーにゴメルが腕に内蔵されているミサイルを放つが、フリットの操縦するGセプターが割り込んで庇う。
「爺ちゃん!」
「私に構うな! キオ! ドッキングするんだ!」
コアファイターとGホッパーは変形して、ドッキングする。
両肩と両腕にシグマシスライフル以上の火力を持った砲門「シグマシスキャノン」を持ち、脚部には地形に関係なしに高速での移動を可能としたホバーユニットが内蔵されている。
重力下での戦闘を重視したAGE-3の新形態、ガンダムAGE-3 フォートレスとなった。
「これが……新しいガンダム」
フォートレスは砂漠の上をホバーで浮遊する。
ドッキングが完了し、後部座席にウットビットが移動して来る。
「あんなのはこけおどしだ!」
ゴメルは再び、砂漠の中に潜行する。
フォートレスはシグマシスキャノンを放つが、間に合わなかった。
砂漠に潜行した三機のゴメルはフォートレスの周囲を旋回して攻撃のチャンスを伺う。
「どうする……」
砂漠に潜られているうちはフォートレスの大火力を持ってしても簡単には攻撃は届かない。
キオは三機のゴメルを警戒しているが、ゴメルはミサイルランチャーを放ち、フォートレスは後方に下がり回避する。
ゴメルはミサイルで追撃して来る為、フォートレスは常に移動をしなければならない。
(そうか……常に移動をするってのはこういう事だったんだ)
攻撃を回避しているうちにキオはシャナルアの言っていた「常に移動に心がける」と言う意味を理解する。
常に移動をしていれば敵に狙いを絞らせる事がなく、被弾数も必然的に減って来る。
「逃がすか! もう一度デルタアタックをかけるぞ!」
三機のゴメルはフォートレスを囲むように陣形を取り、デルタアタックを仕掛けようとする。
(敵の位置を把握する……)
キオは三機のゴメルの位置を把握する。
すると、Xラウンダー能力も相まってゴメルの攻撃のタイミングが良く分かり、最低限の動きで回避する事が出来る。
最低限の動きで回避が出来れば反撃のチャンスも生まれて来る。
フォートレスは両腕のシグマシスキャノンを放ち、砂漠の中からゴドム機とグラット機が出て来る。
「そして! 撃った後も油断しない!」
背後からデモン機が飛び掛かって来る。
三つ目の「撃った後も油断しない」
攻撃を行った後はどうしても油断しがちになる。
複数の敵と交戦する場合、その隙を狙って来る事が多い。
その為、撃った後に油断をしない事で攻撃のタイミングを見計らって攻撃して来る敵にも対処が出来る。
フォートレスは背後から飛び掛かって来たデモン機に腕のシグマシスキャノンを向ける。
そして、シグマシスキャノンが放たれてデモン機を吹き飛ばした。
「デモン!」
フォートレスはゴドム機とグラット機に両肩のシグマシスキャノンで牽制の砲撃を放ち、自動砲台への方向に向かって行く。
「爺ちゃん! みんな! 退避して!」
フォートレスは全4門のシグマシスキャノンから最大出力でビームを放つ。
放たれたビームは一つの強力なビームとなり、砂漠ごと自動砲台を焼き払う。
フォートレスの砲撃が終わるとそこには砂漠の焼け跡だけが残されていた。
「ふぅ……大丈夫だった?」
自動砲台を全滅させて、いつの間にかゴメルも撤退していた事で戦闘は終結して、キオは後部座席に座っているウットビットに気を向ける。
ウットビットは初めての戦場を直接感じて、半ば放心状態になっていた。
「ウットビット君?」
「ウットビットで良い……」
初めて直接実戦を感じた事で、今まではキオはアスノ家と言うだけでガンダムに乗っていたと思っていた。
確かにキオがガンダムのパイロットになったのはアスノ家と言う理由だったのかも知れない。
だが、それだけで実戦で戦う事は出来ないと言う事をウットビットは実感していた。
「ウットビットで良い! 君はいらないよ!」
「うん!」
キオにはウットビットが自分を嫌っていた理由も、自分を認めた理由も分からないが、ウットビットが自分に対する態度を改めた事は分かった。
周囲に更なる敵影を確認出来なかった事で、フォートレスはディーヴァに帰投する。
ディーヴァに帰投したキオはすぐにシャナルアの元に駆けつける。
「シャナルアさん! やりましたよ! シャナルアさんに教えて貰った事を思い出したら、ファントム3の一機を落としました!」
キオはシャナルアに教えて貰った戦い方を実戦で上手く出来た上に敵MSを撃破した事を嬉しそうに報告する。
だが、一方のシャナルアは浮かない顔をしている。
「そんなに嬉しいかい? アンタが撃墜したMSにだって人が乗ってるんだ」
「でも、敵なんですよ」
「敵だった家族はいるんだよ!」
キオがそういうとシャナルアは激昂して叫ぶ。
「戦争はね……嬉しくなったり喜んだりするもんじゃないんだよ……」
シャナルアはそう言って歩いて行く。
その様子はどこか悲しそうだったが、キオにはそこまで感じ取る余裕はなかった。
キオはシャナルアに教えて貰った通りに戦い敵を倒した。
その為、なぜシャナルアがあそこまで怒るのかは分からない。
茫然としているキオの方に一連を見ていたセリックがキオの肩に手を置く。
「気にするな。お前は良くやったよ。お前が敵を落としてくれたおかげでディーヴァは沈まずに済んだ。戦場でいちいち敵の事を考えていたらおかしくなる。生き残ったんだ勝利を喜んだって良いさ」
落ち込むキオをセリックが励ます。
キオがゴメルを撃墜したことでディーヴァが守られた事は確かな事実だ。
ディーヴァが沈めば多くの命が失われてただろう。
キオはそれを守った。
そして、戦争である以上敵を撃たなければこっちが撃たれる。
「だが、シャナルアの事も分かってやれ。アイツは自分の事は多くは語らないが、戦争で両親を失って、妹も難病で苦しんでいるらしい」
セリックもシャナルアの事を多くは知らない。
だが、以前に両親を戦争で失ったという事は聞いた事があり、唯一の肉親である妹も難病で苦しんでいるという話しも聞いた事がある。
そのせいで、戦争で戦果を挙げて喜ぶという事に余り良い気はしないのだろう。
キオはシャナルアの過去を少し知り、何も知らないでシャナルアの前で結果を出した事ではしゃいだ事を反省してシャナルアの歩いて行った方を見つめていた。
ゴドム隊の敗走はヴァニスの元にすぐに届けられていた。
その報告を聞き、ゴドム隊を押していた兵はバツを悪くしているが、ヴァニスは気にしていない。
それどころか、ゴドム隊の報告からAGE-3が新しい形態になったとあることから、顔にこそは出していないが満足していた。
ゴドム隊の一機が撃墜された事などヴァニスにとっては些細な事だった。
それ以上にガンダムが進化したことの方が重要だ。
「そうか……まぁ良い。そんな事よりもロストロウランの位置はどうなっている」
友軍の敗走、更には戦死者までいるというのにヴァニスはそんな事と全く気にする様子を見せない事にヴァニスの後ろに控えているゼハートはヴァニスに対しての不信感が消えない。
指揮官として一兵の戦死など気に留める事でない事も理解できる。
もしかしたら、ヴァニスが顔に出さないだけで、戦死者を悼んでいるのかも知れない。
その心中は誰にも分からない。
だが、漠然とした不信感はどうしても消えはしない。
相手はヴェイガンの次期指導者でゼハートが幼少の事から目をかけてくれたイゼルカントの娘であってもだ。
「いえ……未だに特定には至りません。しかし、軍内部に潜入させたスパイからの情報でロストロウランの位置を絞りつつあります」
ゼハートは不信感を心の内に仕舞い込む。
今は自信の根拠のない不信感を考えるよりも降下作戦の成功で地球上の40%を制圧したことでヴァイガンは勢いに乗っている。
その勢いを殺す事なく、未だに位置の特定が出来ない連邦軍の地上での重要拠点であるロストロウランの位置を特定する事が最優先だ。
ロストロウランは一斉蜂起の時にも位置を特定できず、未だに位置すら掴んでいない状況が続いている。
ビッグリングを落とした今となっては月のルナベースと地上のロストロウランを抑えれば連邦軍はまともに戦う事が出来なくなる。
すでにルナベースの制圧は完了している為、宇宙での戦局は完全にヴェイガンが優勢となっている。
だが、ロストロウランは巧にその場所を隠している。
連邦軍に入り込ませたスパイからさまざまな情報が送られて来るが情報が情報だけに確証を得るためにスパイからの情報を総括してロストロウランの位置を割り出している途中だ。
「なら良い。早急にロストロウランの位置を特定させろ。すでに宇宙では第二次降下作戦の準備は完了しているのだろう?」
宇宙ではザナルドがロストロウランに対して更なる降下作戦の準備が完了している。
後はロストロウランの位置を特定して、地上に降下した部隊で包囲して降下作戦と共に仕掛けるだけだ。
ロストロウランを落とせば実質的にこの戦争に勝利したと言える。
(さぁ。来いガンダム。進化したお前の力を私に見せるが良い)
ゼハート達はいち早く戦争に勝利する為に、ロストロウランの位置を特定させようとしていると思われていたが、実際は報告にあったガンダムの新形態と戦いの場にロストロウランと決めていた。
ヴァニスを乗せた新型戦闘艦はある程度絞られたロストロウランへと進んで行くのだった。