ヴェイガンの地球降下作戦により地球の約40%が制圧され、作戦を成功させたヴェイガンは破竹の勢いで制圧下を拡大して行った。
そして、地球に降下したヴェイガンはロストロウランへと進行している。
「姫様、コードネーム『マリア』からよりの通信です『我、密林ニ楼閣ヲ発見セリ』」
「ほう……私のラファールの状況はどうか?」
「出撃可能です」
「軌道上のファ・アークに第二次降下作戦の開始を伝えよ」
連邦内に放っていたスパイからの通信はロストロウランの位置を特定したとの事だった。
それにより、ヴェイガンはロストロウランに対して第二次降下作戦が決定する。
「それにしても周りくどいやり方をしなくいても良い物を……」
ヴァニスはぼそりとそういう。
今回の作戦はイゼルカントより発令された作戦だ。
その作戦はヴァニスに言わせれば回りくどい事この上ない。
だが、作戦の成功の有無よりもガンダムと戦う事の方が優先であるヴァニスには意義を唱えて代わりとなる作戦を立てるのも面倒であった。
「は?」
「何でもない。プラズマ粒子爆弾の用意は出来ているのだろうな?」
「順次、ウロッゾに搭載しています」
この作戦に置いて、ヴェイガンが投入する水陸両用MS「ウロッゾ」に搭載するプラズマ粒子爆弾が重要な鍵となる。
成功の有無がどうでも良いとは言っても、作戦の成否によって戦いに水を差されるのも面白くはない。
「結構。速やかに終わらせよ」
ヴァニスを乗せた新型戦闘艦はロストロウラン攻略の為にロストロウランを目指す。
ファントム3の襲撃を退けたディーヴァは艦の修理を終えて、ロストロウランへと航海している。
途中にファントム3の襲撃を受けて、修理の為に足を止めるなどトラブルもあったが、ようやく半日程度でロストロウランに到着する予定となっている。
そんな中艦長室ではフリットとナトーラが作戦会議をしている。
だが、作戦会議とは名ばかりで実際はフリットの説教であった。
「決断力のない艦長など持っての他だ。艦長の決断が遅れれば被害は拡大する。その分、クルーの命を危険に晒す事になる」
「分かってはいるんですが……私の判断でクルーや兵の命を左右すると思うとどうしても……」
フリットもナトーラの言いたい事は分かる。
指揮官が判断を間違えれば部下の命を危険に晒してしまう。
その為、自分の判断が本当に正しいのかと思い判断が遅れるのは経験の少ない指揮官なら当然のことだ。
しかし、迷って判断が遅れるとそれだけ部下を危険に晒す。
「少なくとも私は艦長の指揮官としての素養はあると考えている。しばらくは私が艦長をサポートする。まずはその優柔不断な性格から何とかしないとならんな」
フリットの言葉にナトーラは驚いている。
ナトーラは自分でも自分は艦長には向いていないと思っている。
だが、フリットは自分に艦長としての素養があるという。
「失礼します」
ナトーラが落ち込んでいると艦長室にブリッジクルーの一人のウォンが入って来る。
「艦長、報告したい事があります」
ウォンはフリットを一瞥する。
元司令とは言え、民間人のフリットのいる場で言うような話ではないが、今更なので気にしない事にする。
「先ほど、総司令部から連絡が入りました。ディーヴァから圧縮された偽装データが乗員用ネットワークから定期的に送られていまして表向きは家族充てですが、調査の結果偽造された物であることが判明しその宛先も、複数の場所を経由して最終的にはヴェイガンの物と思われる施設充てに送られているそうです」
「ディーヴァの情報が漏れているのか……だとすれば砂漠での襲撃も偶然ではなかったという事か……」
砂漠を航海しているディーヴァを襲撃したのは偶然発見された訳でも敵の索敵能力が優れていた訳ではなく、ディーヴァ内のスパイが情報を流した為であるという事だ。
「そんな……一体、誰がそんな事を……」
「発信源は特定できているのか?」
ナトーラは乗員の中にスパイがいる事が信じられないが、フリットは発信源が特定されているかを確認する。
ディーヴァにスパイが紛れこんでいるとなれば、速やかに拘束する必要がある。
泳がせておいたところで、更に情報が流されて戦況が不利にしかならない。
だが、拘束すればスパイが情報を送っていたルートから意図的に情報を流す事でヴェイガンの動きを操作できるかも知れない。
「はい……シャナルア・マレン中尉の自室からです」
「決まりだな。すぐに中尉を拘束するんだ」
「待ってください! また中尉がスパイと決まった訳では……」
「だが、中尉の部屋から情報が送られているのだ。彼女がスパイである可能性が高い」
ナトーラの言う通り、シャナルアの部屋から情報が送られているからとは言え、シャナルアがスパイだという決定的な証拠とは言えない。
何者かがシャナルアの部屋から情報を流す事でシャナルアをスパイに仕立て上げるという可能性も否定はできない。
だが、シャナルアをスパイに仕立て上げる理由がない。
スパイに仕立て上げて拘束させる事で動きを封じるなら、MS隊の隊長であるセリックや熟練のパイロットであるエリアルドやオブライトなどがいる為、わざわざシャナルアをスパイに仕立て上げる理由はない。
本当にシャナルアがスパイでないと言うのであれば、拘束後に申し開きを聞いて判断しても遅くはない。
「艦長! たった今、ロストロウランからの緊急通信です! ロストロウランにヴェイガンの大規模部隊の襲撃によって交戦状態に入りました!」
「そんな! ロストロウランは今までヴェイガンに見つかっていないのに!」
「それが特定されたという事だ。スパイによってな」
今までロストロウランの位置が特定されななかったからこそ、地球の40%を制圧されても連邦軍は何とか戦線を維持できた。
そして、このタイミングで襲撃を受けたという事はスパイによってロストロウランの位置がヴェイガンによってその位置を特定されたという事だ。
「ディーヴァも最大速度でロストロウランに向かうぞ」
スパイの問題も乗っているが、今はいち早くロストロウランに向かい、状況を把握し場合によっては戦闘に参加してロストロウランを守らねばならなかった。
ロストロウランが落とされれば、この戦闘に連邦軍が勝利するのは出来なくなるからだ。
ヴェイガンの大部隊の襲撃を受けたロストロウランもすぐに防戦を始める。
各所にはトーチカにより対空砲火を始め、陸戦用のアデルマークⅡやアデルキャノン、クランシェを始めとした防衛部隊を展開して防衛している。
ロストロウランは地上の重要拠点なだけあり、十分な戦力が配備されている事もあり、ヴェイガンも攻めあぐねていた。
「どうやら、予定通りではないようだな」
「予想以上の戦力が配備されているようで……」
新型戦闘艦でラファールで待機していたヴァニスが戦局を確認している。
予定ではそろそろ、ウロッゾを投入して作戦の第二段階を始める時間だが、その為に投下ポイントを制圧できずにいる。
「私が出て蹴散らして来る」
大した敵はいないだろうが、手こずらされているという事は少しは歯ごたえがあるのかも知れない。
新型戦闘艦のハッチが開き、ヴァニスのラファールがロストロウランに投入される。
今回の戦闘ではオリバーノーツで失ったビームライフルは補給の際には用意できなかった事と、今回の戦闘ではゼハートは専用にカスタムしたウロッゾRにて出撃する事が決まっている事もありギラーガのギラーガスピアを装備している。
「たまには雑魚を相手にするのもよかろう」
ラファールは地上のトーチカの火線を回避しつつ、ビームバルカンでトーチカを破壊する。
クランシェが飛行形態でドッズライフルを放ち、ラファールに接近して来るが、ラファールはクランシェとすれ違いざまに左手のビームサーベルで両断する。
そのまま、ビームバスターでアデルキャノンごと地上を焼く。
地上を焼いたラファールは地上まで降下して、アデルマークⅡをギラーガスピアで切り裂く。
「とは言った物の……」
前方からスパローのウェアを装備したアデルがシグルブレイドを振り下ろし、ギラーガスピアで受け止める。
ラファールの後方からタイタスのウェアを装備したアデルが肩にビームを展開しつつ突撃して来るが、ラファールはラファールテイルで弾き飛ばして、アデルスパローに対してセンサーバルカンで頭部のメインカメラを潰した腕で左手をアデルスパローの胴体に押し付けるとビームサーベルを出してアデルスパローの胴体を貫いて破壊すると、倒れていたアデルタイタスにギラーガスピアのビームを放つ。
装甲の厚いタイタスのウェアには大した損傷はなくとも、胴体部はビームで撃ち抜かれてアデルは爆散する。
「雑魚ばかりでは飽きて来るな」
ギラーガスピアを振るい、シャルドール改を切り裂き、センサーバルカンでトーチカを破壊する。
ラファールによって多数の被害が出るも、アデルマークⅡがラファールを囲むように展開してドッズライフルを放つが、ラファールは上空に回避して拡散ビーム砲でアデルマークⅡを一掃する。
数はいてもここの能力が高くない事でヴァニスも飽きて来たが後方の新型戦闘艦からウロッゾの降下が確認出来る。
「ゼハート隊が出たか……」
それを確認したヴァニスは新型戦闘艦へと帰投して行く。
ロストロウランの付近まで来ていたディーヴァはMS隊の発信準備が進められている。
ロストロウランにヴェイガンの大部隊の襲撃の報告でロストロウランの状況を把握する事を最優先にしていた事でシャナルアのスパイ疑惑の対応が遅れていた。
「シャナルア機の発進は中止? どういう事なんだ?」
ブリッジからシャナルアのクランシェだけは出撃させないという事土壇場に言われた事で整備士長であるロディがブリッジに確認を取っていた。
ブリッジの方もロストロウランでの戦闘の状況把握と格納庫からの問い合わせとでてんてこ舞いとなり、格納庫の方には十分な説明がされてはいなかった。
そして、その混乱が致命的な隙となり、シャナルアのクランシェが出撃命令が出ていないにも関わらず、出撃して行く。
緊急処置としてディーヴァのカタパルトは出撃の為にハッチが開閉していたので、閉めようとするもその前にクランシェは飛行形態に変形してディーヴァから出て行く。
状況が分からないまま、格納庫は混乱し、その様子はAGE-3のコックピットにいたキオにも見えていた。
AGE-3は道中に単座式となっていた。
それはフリットがナトーラのサポートをしなくてはならないのと、二度の実戦でキオも実戦に慣れたとフリットが判断したことによる。
ロストロウランは湿地帯でもあるので足場が悪い為、AGE-3は足場に関係なく高い平面機動力を持つフォートレスのままになっている。
「どうなっている?」
「シャナルア中尉はヴェイガンのスパイだったみたいで……」
単独で出撃した事でセリックがブリッジに通信でどうなっているのか確認しようとした通信をキオも聞いていた。
「シャナルアさんが、スパイ?」
キオは何が何だか訳が分からない。
言っている事は理解できる。
だが、シャナルアがスパイであるなど、納得はできない。
「どういう事なんです! シャナルアさんがスパイだなんて!」
「聞いていたのか……聞いての通りだ。シャナルア・マレンはヴェイガンのスパイだったのだ」
「そんな!」
ブリッジにいるフリットがそう言うも、キオは信じる事が出来ない。
「裏切り物の事などどうでも良い。今はロストロウランの防衛が最優先だ」
「……ごめん。爺ちゃん。僕はシャナルアさんを放ってはおけない」
フォートレスは出撃すると、シャナルアのクランシェが飛び去った方向に向かう。
フリットはシャナルアをスパイだと言うが、キオはどうしてもシャナルアの口から真実を聞きたかったからだ。
フォートレスはクランシェを追いかけるが、ロストロウランの防衛部隊と交戦しているダナジンがフォートレスに気が付いてビームバルカンを放って来る。
「邪魔をしないで!」
フォートレスは両肩のシグマシスキャノンを放ち、ダナジンを破壊してシャナルアを追う。
ヴェイガンのMSは次々とフォートレスを狙い、そのつどシグマシスキャノンで応戦して撃破する。
そうしているうちに、シャナルアを見失う。
「シャナルアさん!」
キオは必死にシャナルアを探す。
戦場には友軍機のシグナルが多数存在するので、シグナルでシャナルアを探すのは困難だが、不意に一機のクランシェが視界に入る。
そのクランシェは地上に倒れ込み、ダナジンはビームシューターからビームサーベルを展開しており、今にもクランシェを串刺しにしそうだった。
それを見たキオは直感的にそのクランシェにはシャナルアが乗っていると確認してダナジンをシグマシスキャノン破壊する。
「シャナルアさんですよね!」
「キオ……」
キオの直感通り、クランシェにはシャナルアが乗っていたが、クランシェはフォートレスにドッズライフルを向ける。
「シャナルアさん……どうして……シャナルアさんはスパイだったんですか……」
「だったら何?」
キオはシャナルアの口から否定して欲しかった。
だが、シャナルアの答えはスパイであることを肯定する物だった。
「どうして……どうして、ヴェイガンのスパイなんか!」
「……お金がいるのよ。妹にちゃんとした治療をさせる為にはどうしてもお金ががいるのよ!」
シャナルアはキオに叫ぶ。
キオもシャナルアの妹が難病である事はセリックから聞いていた。
そして、その妹に治療を受けさせる為にはお金が必要だった。
簡単な病気だったら良かったが、不幸にもシャナルアの妹は難病で治療のためには大金が必要で治療しなければ死ぬとなれば用意する必要があった。
それこそ、どんな手段を使ってでもだ。
その大金を用意するためには軍の給料では到底足りない。
そんな時にヴェイガンの接触を受けた。
内容が内容だった為、始めは難色を示したが、提示された金額があれば妹に治療を受けさせる事が出来た事もあり、仲間を裏切る罪悪感こそはあるが、両親を戦争で失ったシャナルアはたった一人の肉親である為だと自分に言い聞かせて情報を流し続けた。
「そうするしかなかったの!」
「だからって! 戻りましょう。僕の出来る事なら何でもします! 爺ちゃんに頼めば、シャナルアさんもシャナルアさんの妹さんだって助けてくれますから!」
「今更どうしろってのよ! 私の流した情報でこれだけの戦闘になって……今更戻れる訳がないでしょ!」
シャナルアも妹の為とは言え、情報を流す事に後ろめたさを覚えていたので、流す情報は戦況には影響の出ない程度の情報だったが、次第にその程度の情報では報酬が貰えなくなり、その結果、ヴェイガンが最も欲している情報であるロストロウランの位置情報を流してしまった。
多少は誤差を持たせて送ったが、こうしてロストロウランが戦場になった時点で取り返しの付かない情報を流してしまった事には変わりはない。
キオはフリットならばなんとか出来るという。
確かに退役しても尚、軍内部へのフリットの発言力は強い。
フリットが一声言えば、シャナルア一人の罪などもみ消す事は容易だろう。
しかし、フリットが現役時代ではヴェイガンに対しての強硬姿勢だったことは軍人ならば誰でも知っている。
そんなフリットがヴェイガンに情報を流した自分を助けるなど到底思えなかった。
「キオ……戦争はね。アンタが思っている以上に厳しいんだよ。アンタも戦争をするなら……覚悟を決めな」
クランシェはフォートレスにドッズライフルを放つ。
その一撃はフォートレスは微動だにしないが、当たる事はなかった。
「私はまだ死ねないの……死ぬ訳にはいかないの」
「シャナルアさん!」
「子供が駄々をこねないの!」
キオの言葉を遮るかのようにクランシェはドッズライフルを放つ。
すると、フォートレスの後方から一機のウロッゾが突っ込んで来る。
クランシェの放ったビームを回避する為にウロッゾは後方に飛んで回避する。
クランシェはフォートレスの前に出る。
シャナルアはとっさの行動であった為、自分で自分の行動は理解できないがただ一つ言える事はキオをここで死なせたくはないという事だ。
自分の行いは今更許されるものではないが、年端もいかないキオがここで死ぬ事は避けたかった。
「何をしているの? 死にたいの?」
ウロッゾはミサイルを放ちながら、再び接近して来る。
クランシェはドッズライフルを放つ。
ウロッゾは機体を左右に移動させてビームをかわし、ウロッゾキャノンを放ち、クランシェの右腕をドッズライフルごと吹き飛ばす。
そして、ウロッゾはシグルクローでクランシェに襲い掛かる。
クランシェは左腕の内蔵式ビームサーベルを展開して突き出す。
クランシェのビームサーベルはウロッゾの頭部を貫いた。
しかし、ウロッゾのシグルクローはクランシェの胴体に突き刺さっている。
「シャナルアさん!」
スパイだと言って自分に銃を向けたシャナルアが自分を守るように戦った事で状況が理解できなかったキオはようやく状況を理解する。
だが、すでに遅かった。
「キオ……」
「シャナルアさん! 無事だったんですね!」
シャナルアの声を聞いて、キオはシャナルアが生きている事を確認するが、ウロッゾのシグルクローでクランシェの胴体は押しつぶされており、コックピットも変形してシャナルアを押し潰している。
今のシャナルアは虫の息であった。
そんな状況でもシャナルアは最後の力を振り絞って手を伸ばす。
その手の先にはシャナルアと小さい少女が映されてた写真が貼られている。
恐らくはシャナルアとその妹の写真だろう。
「キオ、アンタは死んじゃ駄目だ。どんな事があっても……歯食いしばって生きるんだよ。何があっても……生きるんだ。アンタなら出来る……」
「シャナルアさん?」
シャナルアの声は息も絶え絶えでキオはシャナルアは自分の思っている以上に重傷であるかも知れないと気付いた。
だが、キオのはどうする事も出来ない。
「アンタならやれる……強くなるんだよ。信じてるわ……キオ……」
そして、クランシェとウロッゾは爆発を起こして、フォートレスは爆風をモロに受ける。
「シャナルアさぁぁぁぁあん!」
フォートレスは爆風で倒れ込んでキオは叫んだ。
MS隊を出撃させたディーヴァも遅らせながら、ロストロウランに到着して戦線に加わっている。
ディーヴァは主砲やミサイルでヴェイガンのMSを迎撃している。
「アスノ元司令……一度、基地に入った方が……」
「この状況でそんな余裕があるか!」
状況は思った以上に悪い物だった。
完全に陥落した訳ではないが、ヴェイガンのMSがすでにロストロウランの内部に侵入されている可能性すらある。
その場合、基地に入ってしまえばディーヴァは身動きが取れなくなる。
そこに敵MSの襲撃を受ければディーヴァは確実に沈むであろう。
フリットの指示で ブリッジクルーは慌ただしく司令部や艦内の各部署とやり取りと行っている。
その様子をナトーラは艦長席に座りつつも、縮こまって見ていた。
元より指揮官としての経験が皆無で適切な判断が出来ないという事もありブリッジクルーは艦長のナトーラではなく、民間人である筈のフリットに指示を仰いでいる。
「何をしている。君がディーヴァの艦長だろう」
「でも……私がいても足手まといでしか……」
「確かに艦長は実力も経験もない。だからこそ、私がここにいる。失敗しないで一人前になれる人間など一握りでしかない」
ナトーラには実力もなければ経験もない。
だから適切な判断が常に出来なくとも当たり前だ。
もしも、間違えた判断を下した時の為にフリットがサポートの為にナトーラの隣に座っている。
ナトーラが間違えればフリットがそれを訂正し、それを次に活かせばいい。
少なくとも、フリットが隣にいるうちは間違えても正しい判断を下せる人がいるのだから。
「……分かりました。オドロ曹長、ここは大気圏内ですので、生命維持システムに回している予備電源を航行制御に回しても大して問題はありません。それとエイラ曹長、ディーヴァの武装の一部は直接入力でも使え、電力配分も最低限に抑える事が可能なはずです」
ナトーラは思い切って指示を出す。
今の今までフリットに指示を仰いでいたブリッジクルーは突然の事で戸惑っていた。
「何をしている! 指示が出たぞ。さっさとせんか!」
フリットに急かされてブリッジクルーは作業に入る。
そして、それはナトーラの判断が間違っていないと事になり、ナトーラは安心する。
「それで良い。始めから艦長として振る舞える者などはいない。己に課せられた役目や責任を全うするしかないのだ」
「艦長! 司令部からの通信です!」
「繋いで下さい」
ロストロウランの司令部と通信が繋がれ、モニターにはかつてのフリットの右腕だったアルグレアスが映される。
軍を退役してからは会う機会が全くと言って良い程なかったが、今は再会を喜んでいる暇はない。
「状況はどうなっている?」
「一時はロストロウラン内部に侵入した敵MSは掃討しました。それによりヴェイガンは撤退しており、掃討戦に移行しつつあります。しかし、敵の中に異様な戦闘能力を持ったMSがいまして、正直、私の手に余ります」
「分かった。そいつのはキオを向かわせる」
一度は帰投したヴァニスではあるが、ディーヴァが戦線に参加した時に再び、ラファールにて出撃しており、猛威を振るっていた。
アルグレアスも対応するが、その圧倒的ともいえる力の前に被害だけが増えている。
(だが、それ程のMSを投入しておきながら、撤退だと?)
一騎当千のMSがいながら、ロストロウラン内部に侵入したMSが撃破された途端に撤退して行く。
ヴェイガンにとってロストロウランを落とす事は最優先事項の筈だ。
それなのに撤退するのが早すぎる。
フリットはそこに違和感を覚えていた。
再度出撃したラファールはビームバルカンを連射してクランシェを蜂の巣にして撃墜する。
その後、上空から急降下してアデルキャノンにギラーガスピアを突き刺して破壊する。
「ディーヴァが到着したという事はガンダムもいる筈だ……さぁ出て来い」
ヴァニスは連邦軍のMSを撃破しながらも、戦場にいるであろうガンダムを探す。
すると、不意に殺気を感じると機体に強い衝撃を受ける。
モニターにはフォートレスが映されており、ラファールはフォートレスの体当たりを受けてそのまま、押されている事が分かる。
「来たか……ガンダム!」
ヴァニスはお目当ての敵であるガンダムとガンダムから感じるオリバーノーツの時には感じなかった明確な殺気を感じ取り、声を上げる。
「どうして……どうして、シャナルアさんが死ななければなかったんだ!」
「通信だと?」
フォートレスから接触通信が繋がれて、キオは叫ぶ。
シャナルアの死を受け入れる事が出来ず、それを敵にぶつけるしかなかった。
「どうして!」
「知った事か。戦場で死ぬ奴は生きる価値のない弱者だという事だ」
「ふざけるなぁぁぁ!」
ヴァニスの言葉で更にキオは頭に血が上る。
フォートレスは腕のシグマシスキャノンでラファールの頭部を殴りつける。
コックピットに衝撃が走り、モニターに一瞬ノイズが走るが戦闘には影響はないようだった。
「シャナルアさんだったんだぞ!」
フォートレスはラファールを何度もシグマシスキャノンで殴りつけるが、ラファールはビームバルカンを連射しながら、距離を取ろうとするが、フォートレスはビームバルカンを気にする事なくラファールに突っ込む。
ラファールはギラーガスピアを振り下ろしフォートレスはシグマシスキャノンで受け止める。
「シャナルアさんは優しい人で……それをお前たちが弱みに付け込んでスパイなんてさせるから!」
「フン。弱いから弱みに付け込まれる」
「だからって、人の弱みに付け込んで良い理由にはならない!」
フォートレスはギラーガスピアを受け止めているシグマシスキャノンとは別のシグマシスキャノンをラファールに向けるがラファールはラファールテイルでフォートレスを弾き飛ばす。
「死んだ弱者の事などどうでも良い! 進化したガンダムの力を私に見せて見ろ!」
ラファールはフォートレスに拡散ビーム砲を放つ。
フォートレスは機体を後ろに移動させて回避するが、拡散ビーム砲のビームがフォートレスの右足に直撃する。
拡散ビーム砲はビームを拡散している分、威力は高くはない為、損傷は少なかったが、当たりどころが悪かったのか右足のホバーユニットの機能が停止して、左足のホバーユニットだけでは機体を浮かす事が出来ずに機体が地上に落ちる。
その隙をヴァニスが見逃すはずもなく、ギラーガスピアを構えてフォートレスに突撃する。
フォートレスは4門のシグマシスキャノンでラファールを攻撃するが、ラファールは回避してギラーガスピアを突き出す。
フォートレスはその一撃が届く前に、コアファイターとGホッパーを分離させる。
ラファールの一撃はGホッパーを捉える。
「爺ちゃん! Gセプターを早く!」
「成程……良い判断だ」
ホバーユニットが損傷した時点でフォートレスの機動力は大幅に低下する為、Gホッパーを使い続けるよりもGホッパーから分離してGセプターに代えた方が戦える。
ヴァニスとしてもコアファイターと戦ったところで意味が無い為、コアファイターがGセプターをドッキングするまで何もする気はない。
ディーヴァからGセプターが射出され、コアファイターとドッキングしてAGE-3はラファールにシグマシスライフルを放つ。
ラファールはかわして、ビームバルカンを撃ちながらAGE-3に接近する。
AGE-3も高い機動力を持つラファールにシグマシスライフルを当てる事は困難である為、シグマシスライフルをバックパックにマウントすると両腕の装甲からビームサーベルを展開して迎え撃つ。
「さぁ、第二ラウンドと行くぞ」
「貴女だけは!」
ラファールはギラーガスピア、AGE-3は二本のビームサーベルを巧みに操り切り結ぶ。
機動力ではラファールが勝るが、パワーではAGE-3が勝り二機の戦闘は互角だった。
「姫様。プラズマ粒子爆弾の配置完了しました。撤退をしてください」
「キオ! すぐに戦闘を中止するんだ」
互角に戦う二機だったが、互いにゼハートとセリックから通信が入る。
「何でですか!」
「奴らの目的はロストロウラン内に爆弾を仕掛ける事だ。我々も捜索に回る」
ヴェイガンが余りにもあっさりとロストロウランへの攻撃を諦めた事を不審に思ったフリットはアルグレアスに基地内に破棄されたMSを調査させた。
その中にプラズマ粒子爆弾が仕込まれていた。
ヴェイガンがあっさりと撤退した理由は、撃退されたと見せかけてプラズマ粒子爆弾を仕掛けて、それによりロストロウランを壊滅させるという作戦となっていた。
アビス隊にもロストロウラン内のプラズマ粒子爆弾の捜索をするように指示が来ている。
「でも! こいつはシャナルアさんを!」
だが、キオは目の前の敵を撃たずにはいられなかった。
目の前の敵はシャナルアを弱者と罵り、生きる価値がなかったとまで言った。
キオにはそれがどうしても許せなかった。
「キオ! シャナルアがお前に教えたのはそんなことか!」
セリックにそう言われてキオは少しは冷静になる。
シャナルアがキオに教えた事は敵を倒す事ではなかった。
「今はロストロウランを守る事が優先だ。分かるな?」
「……はい」
キオはシャナルアに教えられた事を思い出して、自身を納得させる。
今の自分がすべき事は敵を倒す事ではなく、ロストロウランを守り抜く事だ。
AGE-3はラファールとの戦闘を中断させると、セリック達と合流する為に飛び去る。
「逃げるのか? いや……プラズマ粒子爆弾の事が知れたという事か」
「姫様」
「ああ……分かっている。どうやら、ここは雌雄を決する場ではなかったと言う事か」
アビス隊と合流する為に飛び去るAGE-3を見てそう言う。
例え、ここで決着がつかずとも、いずれは戦場で戦う事もあるだろう。
今無理に決着をつける必要もなかった。
ヴェニスにはそこまで時間が残されている訳ではないが、無理に決着をつけようとして中途半端に決着をつければ本末転倒となる。
「今回は引いてやる。この状況を乗り越えて更なる強敵として私の前に来い。ガンダム」
ヴェイガンの狙いに気が付いた連邦軍はすぐにプラズマ粒子爆弾の捜索を開始する。
プラズマ粒子爆弾から発せられている微弱な電磁スペクトルを解析して基地内には6基のプラズマ粒子爆弾が設置されたことが判明したが、それが基地内に廃棄されたウロッゾに仕掛けられている事までは分かったが、どのウロッゾに仕掛けられているかまではおおよその位置から割り出してその付近のウロッゾを片っ端から調べるしかなかった。
それにより5基までは発見する事が出来、その場で解除出来る物は解除するが、間に合いそうにない物はロストロウランの外に持ち出してウェイボードに乗せて空中で爆破して対処している。
だが、最後の1基で問題が生じていた。
解析した電磁スペクトルで位置を特定はされているが、その辺りに廃棄されたウロッゾを全機、調べたがどれにもプラズマ粒子爆弾は搭載されてはいなかった。
「提督、付近にそれらしい物はありません。座標は本当にあっているのでしょうか?」
セリックが部下と共にプラズマ粒子爆弾があると思われる座標を調べるがそれらしいものは発見出来ない。
セリック達が見落としている可能性もあるが、ここまで周到に用意されているという事はばれた時の対策としてダミーの反応を残している可能性もある。
「こちらでもすでに何度も解析している。その座標で間違いはない」
当然、その可能性は司令部でも考えられており、何度も解析したが、反応はその辺りで間違いはない。
他の部隊にも他の場所を捜索させているが、見つけたという報告はない。
その上、余り悠長に探す事も出来ない。
「聞こえるか? キオ」
「爺ちゃん?」
「残り一つのプラズマ粒子爆弾が爆発を起こせば基地は壊滅的な打撃を受ける」
フリットの言う通り、その辺りには基地のエネルギープラントがある為、プラズマ粒子爆弾が爆発すれば誘爆を起こしてロストロウランは壊滅的な打撃を受ける事は確実だ。
下手をすれば壊滅する事すら考えられる。
「それを救えるのはお前しかいない」
「僕が?」
「そうだ。キオの中に眠るXラウンダーの力はかつてない以上の物だ。その力を使えば皆を救えると私は信じている。やれるな? キオ」
「分かったよ。爺ちゃん」
キオは神経を集中する。
フリットはキオならば、みんなを救えると言ってくれた。
ならば、キオはそれを信じてやるだけだ。
神経を集中させて、Xラウンダー能力を最大限まで行使する。
すると、キオは何かを感じ取る。
「見つけた!」
キオは機体を感じた方へと機体を向ける。
アビス隊もAGE-3を追いかける。
その先は行き止まりであった。
だが、AGE-3は壁に腕を突っ込む。
そして、壁の中から何かを引きずり出す。
「まさか、こんなところに隠されていたとはな……良くやったな。キオ、後はそれを外に持ち出すだけだ。急げ。余り時間はない」
最後の一つはウロッゾの中ではなかった。
ウロッゾにプラズマ粒子爆弾を隠す事がばれる事も予測して1基だけは壁の中にカモフラージュして隠す事で見つけ難くされていた。
最後の1基を見つけこそはしたが、予想以上に手間どった事もあり、爆発まで残された時間は僅かであった。
AGE-3はすぐさま、回収したプラズマ粒子爆弾を持って基地の外へと向かって行く。
それに続いてアビス隊も基地の外を目指す。
その道中で基地内に潜んでいたウロッゾがAGE-3にウロッゾキャノンを放ち、妨害する。
「行け! キオ!」
オブライトのジェノアスOカスタムがドッズライフルでウロッゾを牽制すると、ビームサーベルでウロッゾの腕を切り落として、もう片方の腕のシグルクローでジェノアスOカスタムに振り下ろすがジェノアスOカスタムはシールドで弾き、ウロッゾにビームサーベルを突き刺す。
「任せました! オブライトさん!」
まだ、ウロッゾは残っているが、時間が無い為、その場はオブライトに任せる。
エリアルドのガンダムZERO ⅢもジェノアスOカスタムと共にウロッゾの相手をする為に留まる。
AGE-3とセリック達は基地の外を目指す。
だが、更に前方にはダナジンやドラドLがビームバルカンやビームシューター、小型シールドの三連ビームバルカンを放って来る。
「ここは俺達が!」
「先に行け!」
飛行形態のデレクとジョナサンのクランシェがAGE-3の前に飛び出してドラドLに体当たりをして道を開ける。
AGE-3とクランシェカスタムは先に進むが、クランシェカスタムはMS形態に変形すると、AGE-3を追えないようにデレクとジョナサンを援護する。
「後ろは俺達に任せろ! キオは爆弾を!」
「分かりました!」
ここまでくれば基地の外までは一直線だ。
後は時間との戦いではある。
だが、無情にもプラズマ粒子爆弾の爆発までの残り時間はほとんど残されてはいない。
「もう……間に合わない!」
時間はほとんど残されてはいない為、キオは諦めかける。
すでに外の近くまで来ている為、AGE-3で抱え込めば爆発は少しでも小さくなる。
そうなれば少しでも多くの命が救えるかも知れない。
(キオ……アンタならやれる……)
だが、不意にキオはシャナルアの声が聞こえた気がした。
「シャナルアさん?」
(アンタならやれる。信じてるわ……キオ)
シャナルアが死んだ事はキオも目の前で見ていた。
シャナルアの声が聞こえる訳がない。
そんな事はキオも分かっている。
幻聴とはいえ、シャナルアにやれると言われたキオは機体のスラスターを最大出力で使う。
「僕はやれる! やれるんだぁぁぁぁぁ!」
フルスピードのAGE-3は基地から飛び出す。
プラズマ粒子爆弾の爆発までの時間は10秒を切っていた。
基地から飛び出したAGE-3は力の限り、プラズマ粒子爆弾を空へと投げる。
そして、上空に投げられたプラズマ粒子爆弾は爆発を起こす。
空中で爆発したプラズマ粒子爆弾の爆風をAGE-3は受けて、基地の外壁に叩きつけられる。
だが、爆風は基地までほとんど届く事はなかった。
「ハァハァ……僕はやれたんだ。シャナルアさん……僕、やれましたよ」
何とか、プラズマ粒子爆弾からロストロウランを守り抜いたキオは安堵の表情を浮かべている。
一度は諦めかけたが、聞こえる筈のないシャナルアの声によってキオはロストロウランを守り抜く事が出来た。
その爆発をロストロウランから撤退するヴァニスも確認していた。
「姫様」
「ああ……どうやら作戦は失敗したようだな」
抵抗飛行するラファールにはゼハートのパーソナルカラーである赤で塗装されたウロッゾRが追走している。
すでにプラズマ粒子爆弾の最後の1基の起爆時間が過ぎており、ロストロウラン内で爆発が確認できない事から、全てが解除されたか、基地の外で爆発したかだ。
つまりは、作戦の失敗を意味する。
「全機に撤退命令を出せ」
「はっ」
未だに撤退をする振りとして交戦している部隊は存在する。
それらの部隊に撤退命令が下され、プラズマ粒子爆弾の脅威がなくなった連邦軍はヴェイガンの掃討戦に移行され、ヴェイガンが完全に撤退したことでロストロウランに対するヴェイガンの第二次降下作戦は失敗で終わった。