ヴェイガンのロストロウラン攻略は失敗に終わった。
それから数日、ディーヴァはロストロウランに入港している。
ロストロウランの位置を把握した事で再度の攻撃の可能性を警戒するもヴェイガンはロストロウランに対して再度の攻撃をかける事はなかった。
プラズマ粒子爆弾を使ったロストロウランの陥落する為に多くのMSを投入したため、再度の攻撃を仕掛けるには戦力が決定的に不足していたからだ。
「ヴェイガンは完全に引き上げたようですね」
「そのようだな。あれだけの大部隊を早々動かせる訳がない」
ロストロウランの廊下をフリットとアルグレアスが歩いていた。
ロストロウラン防衛戦では再会を喜んでいる時間はなく、防衛戦が終わった後も劣勢を強いられている戦況を前にアルグレアスではどうする事も出来ない事もあり、フリットの知恵を借りていた。
アルグレアスとしてはフリットの後釜に収まった以上、フリットが守り抜いたビッグリングを陥落させた上に今まで地球や軍内部にヴェイガンが潜んでいた事にも気づく事はなく、情報漏洩によってロストロウランの位置を特定されて大部隊の襲撃を受けて敗北寸前まで追い込まれた事は恥ずべき事ではあったが、アルグレアスが提督の地位から退いたところで戦局が変わる訳でもない為、恥を忍んで退役したフリットの力を借りる羽目になっている。
「現在、ルナベースにヴェイガンの要塞攻略の為の戦力を集中させています。アスノ大佐の部隊の無事も確認できています」
地球の40%がヴェイガンに制圧されている為、その解放も早くしなければならないが、ヴェイガンの宇宙要塞「ラ・グラミス」によって連邦軍は頭上を抑えられているも同然だ。
ビッグリングを一撃で破壊したラ・グラミスのディグマゼノン砲はその威力から地上に対しても有効的な攻撃が可能である事は容易に想像がつくため、反抗作戦の為にもラ・グラミスを攻略しなくてはならない。
その為に、連邦軍の宇宙の重要拠点の一つである月面基地「ルナベース」に戦力を集める準備が進められているという。
その中にユーリアの部隊も編入予定だ。
アルグレアスの報告は連邦軍の中でもガンダムに次ぐ戦力が無事である事の報告であると同時にユーリアはフリットからすればユーリアは養子ではあるが姪にあたる為、身内の無事を知らせるも同然であった。
フリットは顔にこそ出さないが、アルグレアスには身内に無事に安堵しているという事は長い付き合いから分かっていた。
「それと……ルナベースではAGEシステムの更なる改良の準備が整っていると言って来ています」
アルグレアスは非常に言い難そうにそういう。
それを聞いたフリットはアルグレアスの予想通りに機嫌を悪くしている。
「今更か……」
「そうですね。政府は軍の技術力がアスノ家に劣っているとは認めたくはないのでしょう」
「本当に今更だな」
フリットはそう吐き捨てる。
フリットが現役時代に何度もAGEシステムの改良を政府に提案していた。
AGEシステムは戦局を変える程の可能性を持ったシステムでそれを改良する事は戦争のパワーバランスをも変える事が出来たかも知れない。
だが、連邦政府はフリットの提案を一度も許可を出す事はなかった。
様々な理由をつけてはいたが、政府は軍の技術力がアスノ家と言う一族に劣る事を認めたくはなかったというつまらない意地によるものだとアルグレアスは見ていた。
フリットからすると、クライドの特研はクライドの完全に趣味が入っているとは言え、技術の元を辿ればアスノ家に繋がり、軍で主力MSとなっているアデルはフリットの開発したガンダムAGE-1がベースになっており、ジェノアス系やシャルドール系、クランシェを初めとしたMSに火器に使われているドッズライフルやドッズガンもフリットが開発したAGEシステムが乱した技術が使われている。
その為、今の軍のMSにアスノ家由来の技術が全く使われていないMSは存在しないと言ってもいい。
その上、マッドーナ工房のような民間の工房からの技術提供やMSの納入を受けている時点でアスノ家の技術を認めたくないなどフリットからすれば戦争に勝つ気があるのかすら疑わしい。
「ええ……政府はビッグリング陥落を重く見ているようです」
「どうだかな……」
今まで決して認める事のなかったアスノ家の技術を認めた事でアルグレアスは政府も重い腰を上げたのだと思っているが、フリットはそうは思えなかった。
現在の連邦軍の置かれた状況は総司令部が陥落し、頭上を抑えられ地上の40%を制圧された上で臨時の総司令部であるロストロウランの位置が特定され、大部隊による襲撃を受けている。
そこまでの状況で連邦軍が敗北していないのは奇跡と言っても過言ではなかった。
それだけ今の連邦軍は追い詰められている。
政府はその状況を本当に理解しているのか分かった物ではない。
「ですが、今の状況なら多少の事は押し通せます」
今までは火星圏に部隊を送ると言った大規模な作戦行動の認可を得る事は出来なかったが、今は多少、無理な作戦だとうと攻勢に出るためだと言いえば認可が簡単に降りるだろう。
それだけでも、政府が動いた事には意味がある。
「司令の要望にあったようにディーヴァの戦力の補強は手配してあります。状況が状況なのでパイロットを回す事は出来ませんでしたが、こちらで保守を行っていたAGE-1 フラットをディーヴァに配備させています」
「AGE-1か……懐かしいな」
フリットは戦局を変える要はディーヴァにあるとしてディーヴァの戦力の補強をアルグレアスに指示を出していた。
現在の地球の戦局の劣勢や、ロストロウランの防衛部隊の配備などでパイロットまでは補充は出来なかったが、使い手のいないガンダムAGE-1 フラットをディーヴァに配備する事には成功していた。
AGE-1 フラットはAGE-1自体は50年も前に投入された骨董品ともいえるMSだが、保守と最新の部品を使っての改良によりパイロットの能力によってはある程度はヴェイガンのMSとは戦える。
フリットも現在の状況を考えるとMSの一機でも回せる為にアルグレアスがどれだけ手を尽くしたかが分かる為、文句を言う事はない。
AGE-1ならば、フリットは誰よりも機体特性を把握し性能を引き出す事が出来ると自負している。
キオがAGE-3の操縦を一人に任せた事やナトーラも艦長としての才能が開花して来た事を考えるといざと言う時はフリット自ら出撃する事も可能であろう。
「ですが、メカニックの方は優秀な人材を何名かは抑える事は出来ています」
MSの方は芳しくはなかったが、その分、整備士長のロディからの要望であったメカニックの補強は手配出来た。
優秀なメカニックが配属されたところで直接的にはディーヴァの戦力の補強には繋がらないが、メカニックの負担が減れば出撃したMSの整備を万全にする事が可能でマシントラブルの危険性も減るのでメカニックの増強は長期的に見れば十分に戦力の補強と言える。
「無理をさせて済まんな」
「いえいえ。司令の為ならこの程度は無理ではありませんよ」
フリットは自分の無理を聞いたアルグレアスを労う。
すでに軍を退役したフリットを未だにアルグレアスは何かと便宜を図っている。
元司令とは言え、民間人であるフリットが軍の基地で堂々と歩いていられるのもアルグレアスの便宜による物だった。
提督であるアルグレアスが退役将校に必要以上の便宜を図れば現役の将校から良い目で見られない事はフリットも百は承知であるが、今はアルグレアスの便宜を最大限の利用するしかない。
一方のアルグレアスも自分の将校達からの評価は知ってはいるが、自身がフリットのようにはいかない事はここ一月で痛感しており、自分がなんと言われようともフリットに最大限の便宜を図ろうとしている。
アルグレアスにとっては今もフリットが司令だという事だった。
「私はもう、司令ではない」
「いえ、私にとってはアスノ司令こそが唯一の司令だと今でも思っています」
アルグレアスはそう言い切る。
すでに権力を持たないフリットにはそれが心強く思える。
軍に入ってからは単純な力だけでは戦争は出来ない事は知っている。
「アルグレアス……済まないな」
「言いっこなしですよ。私もここまでの責任を感じています。状況を打開できるのであれば退役した老兵でも使いますよ」
アルグレアスはおどけたようにそういう。
フリットがアルグレアスの権力を当てにしているように、アルグレアスもまたフリットの蝙蝠退治戦役からの経験や能力を当てにしていた。
ここまで追い詰められた事で今更、老兵の力を当てにする事で恥の上塗りをしたところで失う物など何もなかった。
「それと……非常に気になる事があります。ルナベース到着後の新型ガンダムはジラード・スプリガン大佐の管理下に置かれると言って来ています」
「どういう事だ? AGE-3はアスノ家の個人所有のMSだ。それにとやかく言われる筋合いはないぞ!」
「分かっています。私も気になって詳しい理由をルナベースのアローン・シモンズ司令に問い合わせていますが、状況が状況だけに連絡のつかない状況が続いています」
フリットの怒りは尤もだ。
ガンダムAGE-3はフリットが設計し、マッドーナ工房に製造を依頼している。
銀の杯条約で戦闘用MSを所有する事は未だに禁止されているが、そんな物はとうの昔に有名無実となっている。
AGE-3はディーヴァに搭載されて運用されているが、それはフリットがその方がAGE-3を効率良く運用できると判断したからで軍の所有物ではない。
その為、AGE-3の運用方法に関して軍に一方的に決められる権限は持っていない。
アルグレアスもその事を不審に思い、ルナベースに問い合わせてはいるが今の状況では簡単に連絡が取れないのか、向こうからは何も言ってはこない。
「ユーリアならまだしも、どこの馬の骨とも分からない奴にガンダムを任せられるか!」
「同感です。スプリガン大佐はルナベースのエースとしては有名ですが、アスノ大佐以上にガンダムを任せるにたるパイロットはいませんからね」
アルグレアスもジラート・スプリガン大佐の噂は聞いている。
連邦軍では数少ないXラウンダー能力を持ち、マッドーナ工房製のXラウンダー対応機のティエルヴァを駆るエースパイロットだ。
だが、フリットのように身内贔屓をなしにしても、今の連邦軍にユーリア以上のパイロットは存在しないだろう。
戦局を変えうる切り札のガンダムにXラウンダーだろうと実戦経験の少ないキオを乗せるよりかは、Xラウンダー能力を持ち蝙蝠退治戦役からの実戦経験とそれに見合う技量を持ったユーリアの方がキオよりも多くの戦果を挙げられる事は明白だ。
そのユーリアがビッグリング防衛戦で戦死したのならともなく、生存しているのにユーリアではなくジラードを指定する事はどう考えてもおかしい。
「まぁ良い。私が直接ルナベースで問い質して来る」
「では宇宙に上がられるので?」
「当然だ」
アルグレアスとしてはフリットにはロストロウランで全体指揮を執って欲しかったが、当のフリットは自らも宇宙に上がり前線で戦うつもりだ。
司令だった時は指揮官としての責任もある為、極力前線で戦う事は控えていたが、今のフリットには立場から来る責任はない。
あの当時から、フリットも出来るなら前線で戦い続けたかったのだろうと今になって思う。
「分かりました。私も地上から出来うる限りディーヴァを支援します」
「その心遣いは有難いが、地上の方をアルグレアスには任せたい」
宇宙のラ・グラミスを落とす事も重要だが、地上の制圧された場所を解放する事もまた重要だ。
地上と宇宙の両方から反抗に出る事で敵の戦力を分散させようと狙っている。
連邦軍もビッグリングの陥落などで厳しい状況ではあるが、ヴェイガンもまたロストロウランの攻略失敗で相当数の戦力を失っている。
今なら両方から攻勢をかければどちらかの戦況は好転するかも知れない。
「分かりました。今度こそは司令のご期待に沿って見せます」
フリットが退役する時に自分の後釜として期待されたが、ここまで追い詰められた事でその期待を裏切っている以上は、もう二度とフリットの期待を裏切る事は出来ない。
宇宙に上がるフリットに地上を任された以上、アルグレアスも死ぬ気で地上の戦局を好転させようと心の中で誓っていた。
アルグレアスに手配された物資が次々とディーヴァに搬入されている。
その中には予備パーツや武器、ガンダムZERO Ⅲ用のアデルマークⅡの宇宙戦用のウェアなどが搬入されている。
「凄いですね。これだけの物資を……」
「フリットさんが、上に掛け合ってくれたお陰だね。それに整備班の人員も増やしてくれたから、僕達も少しは楽になるけど、だからと言って手を抜く事は出来ないよ」
「分かってますよ。ロディさん」
搬入されて来る物資をロディが確認している。
その傍らにはウットビットがロディの仕事を見ながら、手伝いをしている。
搬入されて来る物資は搭載されているMSの数よりも多く、これだけあれば当分は補給をなしにでも長期に渡る航海が可能になるだろう。
そして、前々から不足していた整備班の人員も補強されている。
人員が増えた事で整備が楽にはなるがその分、各班同士や整備士同士の連携が疎かになれば、作業効率は落ちて致命的なトラブルやミスに繋がりる事になる為、そこを整備士長であるロディが取り持たなくては人員を増員して貰った意味がない。
「あの、整備士長ですよね?」
「そうですけど。貴女は?」
「本日付でディーヴァに配属されました。レミ・ローレイン准尉です」
「話しは聞いています。助かります」
そこには新しくディーヴァに配属されたレミが立っていた。
ディーヴァに配属する条件の中にジェノアス系のMSを弄った経験のある技術者である事があり、レミはかつてディーヴァに配属されていた事もあり、本人もまたディーヴァへの配備を希望していた事もあり、ジェノアスOカスタムの整備班の班長として配属される事になっていた。
ロディの方にも新しく配属される整備士の情報は分かっており、その中でも過去にディーヴァに配属されており、ジェノアスⅡの整備担当をしていたレミは非常に心強い。
ロディはレミに手を差し出し、レミもそれに応じた。
ロストロウランでの出航準備が進む中、キオはロストロウラン内の一角の展望デッキから空を眺めていた。
先の戦闘でのシャナルアの裏切りと死。
それらは未だに受け入れる事が出来ない。
なぜ、シャナルアが死ななければならなかったのか、どうやればシャナルアは死なずに済んだのか、そんな事を何度も考えるが答えが出る事はなかった。
「キオ」
答えの出ない事を考えているとアルグレアスに指示を出し終えてキオを探していたフリットがキオに声をかける。
キオはフリットの姿を見るや否や、感情が爆発してフリットに飛び込む。
「爺ちゃん!」
「キオ……」
そんなキオをフリットは優しく抱きしめる。
フリットはそんなキオを見て自問する。
どうしてこうなったのかと。
戦争で息子のアセムを失い、キオは父を知らずに育った。
だからこそ、フリットはヴェイガンと戦う事になった時にキオは大切な者を失わないように力を与えた。
しかし、かつての自分のようにキオは大切な者を守れなかった。
「キオ……お前のせいじゃない。仕方がなかったのだ。どの道、シャナルアの行った事は許される事ではないんだ」
フリットはキオをそれで納得させようとする。
シャナルアはヴェイガンに通じていた。
フリットも事情は理解できる。
シャナルアは大切な家族を守る為にヴェイガンに情報を売った。
それは戦争を終わらせる為に軍で戦い続けて来たフリットとはやり方は違うが、家族を守りたいという気持ちは同じであった。
だが、シャナルアの行為はロストロウランを襲撃させるきっかけを作ってしまった。
キオがシャナルアを連れ戻したとしてもシャナルアは極刑は免れない。
それでもキオは納得がいかない。
「シャナルアさんは! 家族の為に!」
「ああ……分かっている。だが、これが戦争なのだ」
「戦争って! こんな悲しい気持ちにならなるのにどうして戦わないといけないの!」
今までは敵を倒していれば良かった。
ヴェイガンはオリバーノーツの町を焼いた。
そんなヴェイガンを倒していれば良かった。
だが、戦闘は敵を倒す事があるのなら、当然、味方が倒される事もある。
キオは初めて戦争を実感した。
「悲しい事を無くす為に戦うのだ。その為のガンダムだ。その為に私もアセムも戦って来た」
「爺ちゃんと父さんも?」
「そうだ。ヴェイガンはいつも私達から大切な者を奪っていく」
キオも余り詳しくは聞いた事はないが、フリットは多くの人達を戦争で失っていると聞いている。
初めはフリットの両親、キオの曾祖父と曾祖母だ。
次に兄と姪、そして息子と失っている。
それ以外にもフリットは連邦軍の軍人として戦い、その中で部下を失って来た。
「キオ……お前はガンダムを受け継いだのだ。そのお前にはガンダムで皆を守る使命がある。これ以上、こんな悲しみが生まれない世界を作る為にもだ。泣いている暇はないぞ」
キオは初めて身近な人を失ったキオには酷な事だとは分かっているが、いつまでも死んだ人間の事を引きずれば次の戦闘でキオがやられるかも知れない。
そうならない為にも、シャナルアの事を忘れろとは言わない。
フリットもまた、50年前に守る事の出来なかったユリンの事を未だに忘れる事は出来ず、守れずに死なせてしまった事は忘れてはいけないと思っている。
だが、それでもキオは前に進まなければいけない。
そうしなければ、また同じ過ちを繰り返してしまうからだ。
「爺ちゃん……」
「ディーヴァは宇宙に上がる。お前もその為の心構えはしておけよ」
フリットはキオから離れると宇宙に上がる準備をする為にディーヴァに戻って行く。
ロストロウラン攻略に失敗してヴァニスはゼハートと搭乗機もろとも、宇宙に上がっていた。
新しい新型戦闘艦の「ファ・ザード」に乗艦したゼハートは与えられた執務室で報告を聞いていた。
その報告の中には地球軌道上の部隊が連邦軍と小競り合いをしている間にディーヴァが宇宙に上がったとの報告も入っていた。
「ディーヴァが宇宙に上がったか……狙いはラ・グラミスと言う訳か」
ゼハートはディーヴァが宇宙に上がったのはラ・グラミスが狙いだと予測している。
ラ・グラミスはヴェイガンの宇宙における重要拠点だ。
超高出力のビーム砲であるディグマゼノン砲は連邦軍にとっても脅威だろう。
ラ・グラミスが落とされると地球を頭上からの攻撃が行えなくなる。
ディグマゼノン砲の威力ならば、ロストロウランに対しても軌道上からでも十分に壊滅的な一撃を放つ事は出来るだろう。
すでにロストロウランの位置を掴んでいる為、ゼハートは早急にディグマゼノン砲による軌道上からの砲撃で壊滅させる作戦を立案するもイゼルカントによる否決された。
理由はディグマゼノン砲の威力では地球環境への影響があるという事だった。
言われてみればロストロウランを壊滅させたとて、地球の環境に影響を与えてしまえばプロジェクトエデンに影響が出てしまう。
その為、今は次の作戦行動に対しての作戦を考えている。
次の作戦はヴェイガンにとって最大の不確定要素であるガンダムの事だ。
現在のヴェイガンでは技術向上が頭打ちによってMS開発が滞っている。
少し聞いた話しでは何らかの技術提要によって技術の進歩があったと聞いている。
だが、ガンダムに搭載されているAGEシステムは未だにヴェイガンでも再現が出来てはいない。
それはアスノ家であるマリィですらだ。
AGEシステムを手に入れる事はこの戦局を傾ける事になる為、ガンダムの鹵獲作戦を立案する事になった。
「ゼハート様。入ります」
すると、一人の女が入って来る。
仮面で表情が見えなかったが、ゼハートは一瞬顔を顰める。
「フラム・ナラであります。ザナルド様の命により、本日付でゼハート様の補佐官になる事になりました」
「ザナルドがか?」
「そうです。姫様を補佐するに当たり、ゼハート様一人では何かと不便だという事で」
フラムはゼハートにそういう。
これからの戦いに当たり、もう一人ヴァニスの補佐官を回して貰おうとはゼハートも思っていた。
今までは短期的に勝負をかける為、重要な事ではなかったが、これからは長期的な事も考える必要があった。
ヴァニスは年の事も考えるとゼハート一人では何かと身の回りの世話などで不便な事もあり、もう一人の補佐官はヴェニスと同じ女にして貰うつもりであった。
その為、フラムの能力は分からないが、ザナルドが回して来た以上は能力がない訳ではないだろう。
無能な人間を送ってゼハートの足を引っ張るという事はプロジェクトエデンに影響が出かねない為、ゼハートの事を気に入らないザナルドもそこまではしないだろう。
そして、単にヴァニスの身の回りの世話の為に派遣したという訳ではないだろう。
本当に身に回りの世話の為の派遣なら、ゼハートの補佐官として派遣する必要はない。
ヴァニスの立場を考えれば補佐官が二人いてもおかしくはない。
それば考えられる理由はゼハートの粗探しの為に派遣して来たというところだろう。
そうなると、ゼハートの信頼を得るために一定の能力は持っていると考えられる。
「成程な」
自分に対する粗探しであろうと、意図的にミスやヴァニスに危害を加えるという事は考えにくい事もあり、それで納得したとしておく。
「それにつきましては、ガンダム鹵獲作戦の為の威力偵察を行いたいと思います。その為の兵をお借りしたいのですが」
「ほう……」
「すでにディーヴァの進路は予測してあります。後はゼハート様から兵をお借りすればすぐにでも」
ずいぶんと手回しが良いが、これはゼハートに取り入る為であろう。
だが、ロストロウランで補給を受けたディーヴァの戦力がどの程度の物か把握する必要もある。
「面白そうな話だな」
「姫様……聞いてらしたのですか?」
いつの間にか、ヴァニスが執務室の中に入っていた。
予想外の相手の登場にフラムは少し狼狽えている。
「威力偵察を許可しよう。但し、私も出る」
「姫様、自らですか?」
フラムは更に動揺する。
威力偵察で多少の被害が出ようとも、敵の戦力を把握すれば問題はなく、自身の功績としてゼハートに報告出来ると考えていた。
それにより、手柄を立てゼハートに取り入ろうと考えていた。
だが、ヴァニスが戦場に出て戦死する事にでもなったら、いくら威力偵察に成功したところでおつりが来る程の大失態となる。
その上、偵察対象が新型のガンダムを搭載しているディーヴァだ。
不確定要素が多すぎる。
「そうだ。ディーヴァにはガンダムが搭載されている。アレは私でないと相手は出来んだろう?」
そう言われてしまえば、フラムに反論は出来ない。
すでにガンダムの戦闘データは見ているが、ヴェイガンの主力量産機のダナジンでは到底勝ち目はない。
「しかし……姫様にもしもの事があっては……」
「ほう……それは私ではガンダムに勝てないと?」
「そういう訳では……」
フラムの言葉は受け取り方ではヴァニスではガンダムには勝てないと言っているような物でヴァニスに指摘されて失言だったと焦る。
ゼハートならともかく、ヴェイガンの次期指導者であるヴァニスに対しての失言は非常に不味い。
「冗談だ。私が出る事に問題はあるまいな?」
「ええ……」
「そういう事だ」
「了解しました」
ヴァニスが執務室を出て行くまで、フラムは生きた心地はしなかったが、ヴァニスが出て行った事で一息をつく。
「それではゼハート様。私は威力偵察の準備に入ります」
「頼んだ」
威力偵察の許可を得た事でフラムはその準備の為に執務室から出て行く。
「何の因果かお前の妹が来る事になるとはな……ドール」
ゼハートは一人となった執務室で自傷気味に呟いた。
宇宙に上がったディーヴァはヴェイガンの目から隠れる為に特別警戒宙域を航行している。
特別警戒宙域、通称サルガッソーは彗星の氷の粒により視界は悪く、その上に計器が殆ど機能しないという事もあり、隠れて航行するのにはうってつけであった。
「本当に何も見えないね」
キオは食堂でウットビットやウェンディと食事を取りつつ、食堂に備え付けられているモニターに映されるディーヴァの外の光景を見てそういう。
モニターのは氷の粒でほとんど視界が確保できない状況だ。
「何だろう……この感じ……だれかが僕達を待ち構えている?」
「怖い事言うなよな。ここなら誰が待ち構えてもおかしくはないんだからよ」
キオの隣で食事をしていたウットビットがキオにそういう。
サルガッソーは視界が悪い上に計器もほとんど機能しない事から、隠れて航行する事にはうってつけではあるが、それは裏を返せばサルガッソーは待ち伏せをしやすいともいえる。
キオが誰かが待ち構えていると感じれば本当に誰から待ち構えても不思議ではない。
「ここにはさ、難破船がいくつも漂っているっているらしい魔のエリアで、中じゃ計器が使えなくなるとか、入っていった船は二度と帰って来れないとか……いろんな噂があるみたいだぜ?」
「不気味ね……」
「だからさ、ヴェイガンだけじゃなくて難破船の乗員の幽霊とかが出るって噂まであるんだぜ?」
どこまでが本当か分からない、ウットビットの噂話ではあるが、ディーヴァ無いに警報が鳴り響き、三人はびくりとした。
「本艦に接近する熱源を感知! 所属は不明です!」
「熱源の大きさから戦艦クラスだと推定!」
「映像に出ます!」
ブリッジでレーダーに捕捉した敵艦をモニターに映し出す。
氷の粒のせいでかなり接近を許してしまっている。
そこには宇宙海賊ビシディアンの母艦であるバロノークの姿が映されている。
「あれは……バロノーク級だと!」
フリットはバロノークの事を知っていた。
フリットが現役時代に設計、製造された戦艦で一番艦が強奪されている。
そして、その一番艦のバロノークがビシディアンの母艦として運用されている事もだ。
「俺達は宇宙海賊ビシディアンだ! お前達の船は俺達が頂く! 命が欲しかったら、船を置いて行け! 出ないと力づくで奪う!」
「まさか、こんなところでビシディアンに遭遇するとはな……いや、待ち伏せていたのか」
サルガッソーで偶然にもビシディアンと遭遇するとは考え難い。
そうなると、ビシディアンはこちらを待ち伏せていたと考えられる。
「どうする? 艦長」
フリットは判断をナトーラに任せる。
ナトーラは少し考えると決断する。
「MSを発進させて下さい。それと対艦戦闘用意もお願いします」
それがナトーラの判断だった。
敵がビシディアンであろうとも当然、ディーヴァを明け渡す気はない。
それは艦長として当然の判断であったが、すぐにその決断が出来るようになっただけでナトーラの成長が見える。
ディーヴァからMS隊が射出されて、ビシディアンを迎え撃つ用意をされている。
視界が悪い為、敵の正確な数を把握できない。
「この感じ……誰だなんだ」
キオはその中で不可解な感覚を感じていた。
今までXラウンダー能力によって敵の敵意を感じた事はあった。
だが、ビシディアンのMSの先陣を切って接近して来るダークハウンドからは敵意を感じない。
「ようやく会えたな……キオ。見せて見ろ……この父に!」
ダークハウンドはMS形態に変形するとドッズランサーを突き出して突撃する。
AGE-3はダークハウンドの突撃をかわしてシグマシスライフルを放つ。
「そんな攻撃では当たらんよ。キオ」
AGE-3はシグマシスライフルを連射するが、ダークハウンドには当たらない。
AGE-3はビームサーベルを左腕の装甲から展開してダークハウンドに接近して切りかかろうとするも、ダークハウンドはフラッシュアイでキオの目を暗ませる。
それによってAGE-3の動きが一瞬鈍り、その間にダークハウンドはAGE-3の背後を取り、AGE-3を蹴り飛ばす。
「うわぁぁぁ!」
「どうした、キオ。お前の力はその程度か」
AGE-3はそのまま、戦艦の残骸に叩きつけられる。
機体性能ではAGE-3の方が上だったが、戦闘技術に関してはキオよりも圧倒的にアセムの方が上であり、ダークハウンドはAGE-3を翻弄して行く。
その様子をフリットは歯がゆい思いで見ていた。
フリットもビシディアンの噂は聞いている。
現役時代から海賊行為に及んでいる。
その時には使われていなかったが、フリットが退役した辺りから使われるようになったダークハウンド。
ダークハウンドはビシディアンの首領であるキャプテンアッシュの専用機として運用されていると聞く。
(あれがビシディアンの首領……その素性は未だに明らかにはなっておらん。AGE-2に良く似たMS……そして、そのMSを操る技術……一体何者だというのだ?)
キオを圧倒するダークハウンドは何の皮肉か、ダークハウンドの一部はキオの父であるアセムが乗っていたガンダムAGE-2と酷似している。
一説によれば13年前に大破し一部を回収したアセムのAGE-2の破片を回収して再利用しているとの噂まである。
偶然か必然かビシディアンがダークハウンドを運用し始めたのはアセムが行方不明になった時期を重なっている。
そうなればキオは父のMSの残骸を利用したMSと戦っている事になる。
AGE-3とも互角以上に戦えているダークハウンドの事を観察していると不意にフリットはダークハウンドから何かを感じ取った。
その感覚にフリットは思わず立ち上がってしまい、ナトーラを初めとしたブリッジクルーは何事がと思いフリットの方を見るがフリットに回りを気にしている余裕はなかった。
(アセム……お前なのか? そのMSに乗っているのは……)
フリットの感じたのはアセムの気配だった。
アセムにはXラウンダー能力は無い為、明確に感じる事は出来ないが、フリットが自分の息子の感覚を間違える訳がない。
ダークハウンドには間違いなく、自分の息子であるアセム・アスノが乗っているとフリットは確信していた。
(父さん。貴方がディーヴァに乗っている事は知っている。軍を退役した今の父さんにAGEシステムを使うに相応しいか……どこまで出来るのか見極めてさせて貰う)
AGE-3のビームサーベルをダークハウンドはビームサーベルで受け止める。
アセムがディーヴァに仕掛けた理由はそれだった。
ディーヴァに新型のガンダムであるガンダムAGE-3を搭載しているという情報はビシディアンでも掴んでいる。
そして、そのAGE-3のパイロットはキオであるという事もだ。
AGEシステムを搭載したAGE-3とディーヴァを軍を退席したフリットにどこまで使いこなせるかそれを見極める為とキオがどこまで戦えるかを試す為にアセムはディーヴァに仕掛けていた。
その中でキオの実力次第ではキオをガンダムのパイロットから引きずり下ろす気でもいる。
更には今のフリットにAGEシステムを扱いこなせないのであれば、AGEシステムもガンダムやディーヴァもろともビシディアンで強奪してビシディアンで運用する気であった。
キオとアセムが交戦している中、他のMSがディーヴァに取りつこうとしているが、アビス隊の防衛を突破できずにいる。
Gエグゼス・ジャックエッジがドッズライフルⅡBの実体剣でクランシェカスタムに切りかかる。
クランシェカスタムはシールドで攻撃を受け流す。
「妙だ……連中は決定的なチャンスで攻撃してこない。どういう事だ?」
戦闘をしながら、セリックはビシディアンの戦い方に違和感を覚えていた。
サルガッソーでの戦闘は視界が悪い為、戦い難い。
ビシディアンの方が待ち伏せをしていた分、地の利はある筈だが、ビシディアンのMSはある一定以上の攻撃は行ってこない。
「アスノ少佐。そちらはどうですか?」
「悪いけど、こっちはこっちで手一杯だ」
エリアルドのガンダムZERO Ⅲは別の場所で交戦している。
そちらの方も似たような状況かを確認するが、そうでもないようだった。
ガンダムZERO Ⅲはロストロウランで搬入した宇宙専用のウェアに換装して、二機のMSと交戦している。
一機はスラッシュのGサイフォス・ブレイヴともう一機はティアナのティエルヴァ・ツインエッジと交戦している。
ティアナのティエルヴァ・ツインエッジはティエルヴァを更にマッドーナ工房で改造したMSだ。
ビシディアンのチームカラーの黒で統一され、両腕にはガンダムAGE-1のウェアの一つのレイザーウェアのレイザーブレイドが装備され、脚部の膝の部分にはニードルガンが内蔵されている。
ティエルヴァ・ツインエッジはレイザーブレイドでガンダムZERO Ⅲに切りかかり、ガンダムZERO Ⅲはドッズライフルを撃ちながら回避する。
「スラッシュ様!」
「任せろ!」
Gサイフォス・ブレイヴがドッズランサーを突き出して、ガンダムZERO Ⅲはシールドで受け流して、Gサイフォス・ブレイヴを蹴り飛ばす。
「Gバウンサーのカスタムタイプが二機か……厄介なMSだ」
ティルヴァ・ツインエッジがTビットを射出してガンダムZERO Ⅲはデブリで身を隠しつつ、ドッズライフルでTビットの1基を破壊する。
Gサイフォス・ブレイヴが肩のミサイルポッドからミサイルを放ち、ガンダムZERO Ⅲは頭部のビームバルカンで撃ち落す。
「スラッシュ様!」
ティアナが叫び、3機に対してビームが放たれる。
各機は各自にビームに対処する。
「アビス隊各機に緊急報告! ヴェイガンの物と思しきMSが接近しています!」
「ヴェイガンだと?」
ディーヴァからヴェイガンのMSを補足したとの報告が入る。
数機のダナジンがダナジンキャノンを放って来る。
「くそ! 何でこんな時に出てくんだよ!」
ダナジンの攻撃をかわしつつ、Gサイフォス・ブレイヴはドッズガンに内蔵されているドッズガンでダナジンを牽制するが、ダナジンはかわしながら、ビームサーベルを両手に展開して接近して来る。
「スラッシュ様!」
明らかにスラッシュはヴェイガンのMSに対して躊躇っている為、ダナジンに攻撃が当たる事はなく接近される。
ダナジンに左腕のドッズライフルHを向けるも、ダナジンのビームサーベルで切り落とされる。
ドッズランサーを突き出すが、ダナジンはビームシューターを放ちながら、後退して再度攻撃体勢に入るが、ティエルヴァ・ツインエッジがレイザーブレイドを連結させたレイザーブーメランを投げて、ダナジンは真っ二つに両断される。
ティエルヴァ・ツインエッジはダナジンを両断したレイザーブーメランをキャッチして、Gサイフォス・ブレイヴの前に出る。
「大丈夫ですか?」
「ああ……」
ティアナに助けられこそしたが、未だにヴェイガンと戦う事を割り切れてはいないので複雑な心境だった。
ビシディアンとディーヴァとの交戦にヴェイガンの横やりが入る。
それにより戦場は三つ巴になりかけている。
だが、どちらも狙いはディーヴァである為、ディーヴァが劣勢になりかけている。
「ヴェイガンまで出て来るなんて……」
「落ち着け艦長。攻撃準備だ。私の指示通りに砲撃させるんだ」
フリットは矢継ぎ早に指示を出す。
フリットの指示でディーヴァの主砲が放たれる。
その砲撃はヴェイガンもビシディアンもいない明後日の方向に撃っているように思える。
だが、ヴェイガンがその砲撃をかわそうとしていると、必然的にヴェイガンのMSはアビス隊とビシディアンの間に割り込む事になる。
「成程……アスノ元司令の指示か……大した物だ」
それにより、ヴェイガンはビシディアンとアビス隊の両方からの攻撃を受ける。
ダナジンは挟撃に対して何とか回避しようとするが、ダナジンの1機が撃墜された。
AGE-3とダークハウンドはビームサーベルで切り結んでいた。
その2機にフリットの指示の砲撃が開始される前にAGE-3に向かって行った2機のダナジンが向かっていた。
そのダナジンには砂漠でキオが戦ったファントム3のゴドムとグラッドが搭乗している。
威力偵察ではあるが、ゴドムとグラッドは砂漠での戦闘でデモンがやられている為、その仇討ちが目的であった。
「ガンダムだけは落とすぞ! グラッド!」
「おうよ!」
2機のダナジンは二手に分かれてAGE-3にビームバルカンを連射する。
ダークハウンドはAGE-3から距離を取るが二人に目的はあくまでもAGE-3なのでダークハウンドを完全に無視している。
グラッド機がAGE-3の背後からビームサーベルを振り落し、AGE-3はビームサーベルでグラッド機のビームサーベルを弾く。
だが、ゴドム機のビームバルカンがAGE-3を襲い、致命的な損傷はないが、グラッド機に追撃が出来ない。
「どこから!」
AGE-3はシグマシスライフルを構えるが、2機のダナジンはデブリを使って位置を特定できないように移動している。
そして、AGE-3をビームバルカンで攻撃する。
「弄り殺しにしてやるよぉ! ガンダム!」
「どうする。キオ……お前の力はその程度か?」
アセムはキオの力を見極めようとしていた。
この状況を自分の力で乗り越える事が出来なければこれからの戦いでは到底生き残れないだろう。
アセムはいつでもキオを助けに行けるようにしておきながらも、キオの戦いを見届ける。
「くっ……」
AGE-3はシグマシスライフルを放ち、デブリを吹き飛ばすが、そこにはダナジンは隠れていない。
その隙にゴドム機はダナジンスピアーでAGE-3を背後から弾き飛ばす。
「グラッド! 止めだ!」
「任せろ!」
体勢を崩したAGE-3にグラッド機は両手にビームサーベルを展開してAGE-3に迫る。
「デモンの仇!」
「僕は負ける訳にはいかないんだ!」
AGE-3はグラッド機の攻撃に合わせてシグマシスライフルを構える。
そして、シグマシスライフルが放たれてグラッド機は跡形もなく、吹き飛ぶ。
「グラッド! ガンダム!」
ゴドム機はAGE-3に向かおうとするが、ダークハウンドのドッズガンの直撃を受ける。
「悪いが、そこまでにして貰おう」
「ちぃ! 海賊風情が!」
アセムは今の戦いで及第点だと判断して、戦闘に介入する。
ダナジンはドッズガンの直撃で損傷を受けるが、戦闘に支障はない。
「その辺りにしておけ、ゴドム・タイナム。お前ではガンダムは倒せんよ」
今まで戦闘に参加する事はなかった、ヴァニスのラファールがビームライフルを放つ。
「目的は達した。ガンダムの相手は私がやる。お前たちは適当に相手をして撤退しておけ」
「……了解」
グラットがやられた事で撤退する事に納得は言えないが、ヴァニスに命令された以上は従うしかない。
ダナジンは後退して行き、ラファールはAGE-3とダークハウンドの前に立ちはだかる。
「ガンダムが2機……相手にとって不足はない。2機まとめて私が倒す」
「ヴェイガンの新型機か? 厄介そうだな」
「あのMS……あの時の!」
初めて見るMSにアセムは警戒し、キオはロストロウランで交戦した時の事を思い出して、頭に血が上りかけるが何とか抑える。
「始めようか」
ラファールはビームライフルをAGE-3に放つ。
AGE-3はビームをかわしながら、シグマシスライフルを放つ。
ラファールがシグマシスライフルを回避すると、ダークハウンドがドッズランサーを突き出す。
「やるな」
ラファールは拡散ビーム砲を放ち、ダークハウンドはストライダー形態に変形してビームバルカンを連射しながら、デブリを盾代わりにして接近する。
ダークハウンドはそのまま、ラファールに突撃して、シールドごとラファールの左腕をもぎ取る。
「ちぃ!」
ラファールはビームライフルをダークハウンドに放つが当たる事はない。
ダークハウンドの動きをXラウンダー能力で先読みしようとするが、一瞬ヴァニスの視界が歪む。
一瞬ではあったが、その一瞬が決定的な隙が生じてしまう。
AGE-3はシグマシスライフルを放ち、すぐにかわそうとするもビームライフルごと右腕が吹き飛ぶ。
そして、ダークハウンドが背後からラファールの胴体にドッズランサーを貫いた。
機体が爆発する前に頭部のコックピット部がラファールコアとして機体の爆発に紛れて射出された。
「ガンダム……」
ラファールコアだけでは戦闘は出来ない為、ヴァニスは撤退して行く。
ラファールが撃墜された事でキオとアセムは再び対峙する。
「どうして、僕を助けてくれたんですか?」
キオはオープンチャンネルを開く。
ディーヴァを強奪する為に待ち伏せして仕掛けて来たのに、アセムはキオを助けた。
キオにはその理由が分からない。
ガンダムを奪おうとするなら、ある程度は損傷させても問題はないはずだ。
その後にも戦闘が継続する可能性を考えればあのタイミングでAGE-3を助ける必要はなかった。
「貴方は敵な筈なのに……危険な筈なのに、暖かい感じがするんです。貴方は誰なんですか?」
キオはダークハウンドから敵意を感じなかった。
それどころか、どこか懐かしい暖かい感じを感じた。
アセムもキオを殺す気も傷つける気も毛頭なかった。
アセムの実力ならばAGE-3とキオを相手でも十分にキオを傷つけるに戦う事は可能だ。
高いXラウンダー能力を持つキオはアセムが敵意がない事だけでなく、キオを大切に思っている事までも感じ取っていたという訳だった。
キオの質問にアセムは答えない。
答えてしまえば、歯止めが利かなくなりそうだった。
13年振りに大きくなった息子の声を聞けただけでも満足だったが、話してしまえば自分が父親である事までも話してしまいそうだった。
ダークハウンドはストライダー形態に変形すると、AGE-3にカプセルを射出して撤退する。
(父さん……AGEシステムは今しばらく貴方に預けておくことにするよ。キオ……次に会うまでにもっと強くなるんだ。この父すら超える程にな)
アセムはこの戦闘でヴェイガンをビシディアンとアビス隊の間に追い込むフリットの指揮やキオの戦いからAGEシステムを今は奪う必要がないと判断する。
ダークハウンドが撤退し、ビシディアンも撤退して戦闘は終了した。
サルガッソーでビシディアンとディーヴァとの戦闘に介入して、威力偵察を行い偵察に出た部隊が帰投したことでフラムはゼハートに報告している。
「今回は兵を失い申し訳ありませんでした」
フラムはそう言うが内心は安堵していた。
今回の戦闘でダナジンを3機とラファールが撃墜された。
ダナジン3機はともかく、ラファールが撃墜された時にヴァニスが戦死したら、取り返しが付かなかった。
だが、機体こそは失ったがラファールコアによってヴァニスはファ・ザードに帰還している。
「構わん。目的は達している」
今回は威力偵察が目的で敵を撃つ事ではない。
3機のダナジンとラファールを失っても、この戦闘で得られた情報は次の作戦には役に立つ。
「だが、お前は今回の戦闘で戦死者の名前を知っているか?」
「いえ」
ヴァニスさえ帰還出来れば後はどうでも良かった事もあり、フラムは今回誰が戦死したのか確認していない。
大規模な戦闘ではなかった為、知ろうとすれば知る事は出来ていたが、フラムはヴァニスが戻って来るかのみを気にしていた事もあり戦死者の事は何も確認していない。
「サム・カレル、リン・フォスター。そしてグラット・オットー……皆、気性は荒くとも良いパイロットだった。お前も覚えて置け」
「はっ」
フラムは指揮官で次期指導者の補佐官と言う立場に有りながら、末端のパイロットの事をまで知っている事に内心では驚いていた。
フラムもゼハートの噂がいろいろと聞いているが、その噂の真相を自身の目で確かめる事がフラムがゼハートの元に来た本当の目的を実行する為に必要な事であると感じていた。
ビシディアンとヴェイガンが撤退したことで周囲の安全に警戒しつつも、キオはディーヴァに帰還した。
ダークハウンドとの戦闘はキオにとっては分からない事だらけだ。
海賊で連邦軍の船を襲って来た敵である筈なのに、キオにはどうしても敵には思えなかった。
「キオ! 無事でよかったぜ。敵はあのビシディアンだったんだろ?」
「うん……」
キオが無事に帰って来た事を喜ぶ、ウットビットに曖昧な返事をしてAGE-3の整備をウットビット達に任せて機体から降りる。
格納庫の出入り口にフリットがいる事に気が付いたキオはフリットの元に向かう。
フリットならば、何かしらの答えを出してくれると思ったからだ。
「爺ちゃん……僕、海賊の人に助けられたんだ」
「ああ……見ていた」
「不思議なんだ……あの人は敵の筈なのにどこか懐かしくて暖かかったんだ」
キオはフリットに感じたままの事を話す。
敵である宇宙海賊に対してそんなことを言えばフリットに怒られると思い、キオは俯いている為、フリットの表情は分からない。
「そうか……お前も感じたのか」
だが、キオの予想とは違う言葉が返って来た。
「そこまで感じたというのなら隠しても無駄だろう。あの海賊のMSに乗っていたのはアセム・アスノ……お前の父親だ」
「僕の父さん?」
キオは顔を上げる。
フリットの言っている事が一瞬理解できなかった。
「だが、奴をアスノ家の人間として認めん! 奴の事は忘れろ」
フリットは声を荒げる。
ようやく、フリットの言葉を理解したキオだが、フリットの言葉が理解できない。
「どうしてそんな事を言うんだよ! あの人が僕の父さんなんでしょ!」
キオはフリットに食い下がる。
あのMSに乗っていたパイロットがキオの父、アセムならキオが感じた感覚も分かる。
なぜ、死んだと聞かされていたアセムが生きていて海賊になっているのかは分からない。
だが、暖かい感覚はアセムが今でもキオの事を思っていたからこそ、感じた感覚だ。
それはつまり、アセムは自分や母のロマリーを捨てたという事ではない事を証明している。
自分の父親であるという事はフリットにとっては息子だ。
その息子が生きていた事を知ったのならば、自分と同様に喜ぶと思っていた為、父を忘れろと言うフリットの言葉が信じられない。
「今の奴は卑劣な海賊行為を行うテロリストだ。そんな奴を私は息子とは認めん。私の息子でお前の父のアセム・アスノは死んだのだ……連邦軍の軍人として立派に戦って死んだのだ……」
「訳分かんないよ! どうしてなんだよ!」
フリットはキオに言い聞かせるのと同時に自分にも言い聞かせるように言うが、色々な事があり過ぎてキオにはそこまで考える余裕はなく、ただフリットに叫んだ。
ファ・ザードに帰還したヴァニスは格納庫でヴァニスが負傷しているかを心配して駆けつけた兵に対して禄に対応する事なく、自室に戻って来ていた。
次期指導者である立場からヴァニスの自室は立場相応の装飾品が調度品が備え付けられている。
棚には高級なワインなども完備されている。
しかし、ヴァニスにとっては寝れるスペースがあれば問題はなかった為、高級な装飾品も調度品も意味を成さなかった。
ヴァニスはソファーに座ると荒くなっていた息を片手で頭を押さえつつ、息を整える。
2機のガンダムを前に一瞬、発作を起こした事が隙となった。
発作自体は一瞬で今は収まっているが、そんなことよりも負けたと言う事実がヴァニスを苛立たせている。
「私が負けだと……そんな事が……」
自身の最強を証明する為にこんなことまでしているのに敗北の事実はヴァニスにとっては屈辱以外の何物ではない。
「荒れているようだな」
自室の大型モニターにセカンドムーンにいるであろうイゼルカントの姿が映し出される。
「何のようだ?」
ヴァニスはイラついている事もあり、モニター越しにイゼルカントを睨みつけるが、イゼルカントは全く怯む事はない。
それがまた、ヴァニスを苛立たせる。
「セカンドムーンで製造していた新型のMSが完成した。すでにお前の専用機として地球圏に運ばせている。後数日で届く事だろう」
「レギルスと言ったな」
「そうだ。ガンダムレギルスは高いXラウンダー能力にも対応している。性能はラファールとは比べものにならないとのことだ」
ヴァニスも噂程度は聞いていたが、火星圏で製造されていた新型MS「ガンダムレギルス」が完成し、地球圏に運ばれていると言う。
ラファール以上の性能を持つと言う事はラファールがレギルスのプロトタイプにあたるという事で確実だろう。
ちょうど、搭乗機を失ったばかりのヴァニスにとっては更なる性能を持ったMSを与えられる事は好都合だ。
「精々、私の能力について来れる事を機体する」
ヴァニスはレギルスが完成した事で落ち着きを取り戻して通信を一方的に閉じる。
そして、次の作戦の時の万全に体調にする為にヴァニスは備え付けのベットに倒れ込み眠りにつく。