ヴェイガンのガンダム鹵獲作戦により、ガンダムAGE-3はヴェイガンに鹵獲された。
ガンダム鹵獲後にヴェイガンは速やかに撤退し、大破したAGE-1 フラットとダークハウンドはディーヴァに収容された。
「また、この船に乗る事になるとはな」
アセムはダークハウンドのハッチから身を乗り出して、格納庫を見渡す。
あの時とは搭載機は違うがAGEビルダーや機材などはあの当時のままで、懐かしさを感じる。
「本当にアセムだったんだな」
アセムの元にディーヴァの帰投したエリアルドとオブライトが来る。
フリットがXラウンダー能力で感知した事もあり、アセムが生きている事をようやく実感できた。
表向きは自分が死んだ事になっていたこともあり、アセムはバツが悪そうにする。
「エリアルド兄さんにオブライトさん……ご心配をお掛けしました」
「全くだ」
「だが、せっかくアセムが戻って来たのに……」
アセムがディーヴァに戻って来たが、代わりにキオはディーヴァに戻ってこれなかった事で、戦場にいながらキオをみすみす連れていかれた事にエリアルドやオブライトも少なからず責任を感じている。
「ふざけた事を言うな!」
だが、重い空気を吹き飛ばすようにフリットの怒鳴り声が格納庫に響く。
フリットは格納庫の通信機器でブリッジに怒鳴りつけているのだろう。
その横にはセリックがフリットとなだめているのが見えるが、遠目で見ても意味がない事が分かる。
「追撃が出来ないとはどういう事だ!」
「ですから、ガンダムのいないディーヴァでは追撃しても……」
「やりようは幾らでもあるだろう!」
どうやら、フリットはナトーラにキオとガンダムを奪還する為に追撃を行うように指示を出すが、ガンダムを奪われたディーヴァでは戦力が決定的に欠けている事を理由にナトーラは無理だと言うが、フリットは戦い方次第では可能だと主張している。
「父さん。落ち着いてくれ。この状況では追撃は出来る訳がないだろう」
「お前は黙ってろ!」
見るに見かねたアセムが止めに入るが、逆に火に油を注ぐ事になる。
「キオがヴェイガンに捕まったのも、元々はお前が海賊になどなるから!」
フリットはアセムのパイロットスーツの襟元を掴む。
キオがヴェイガンに捕まった事とアセムが海賊になったこととは直接的な関係はない。
だが、アセムが海賊にならなければキオがガンダムのパイロットにはならなかったかも知れない為、アセムは言い返せない。
「ああ……そうだな。キオがガンダムのパイロットになったのは俺のせいだ。だから、俺がキオを助ける」
「海賊の言う事など信用出来るか!」
「確かに今の俺は海賊だ……だが、キオの父親だ!」
アセムはフリットに言い返す。
今のアセムは海賊かも知れない。
だが、それと同時にキオの父親でもある。
フリットがどんな手段を使ってでもキオを助けたいようにアセムもまた、キオを助けたいと思っている。
「父さんが海賊である俺を信用出来ないのなら、それでも構わない。だが、俺はキオを助けたい。それは海賊としてじゃない。父親としての事だ。父さんも人の親なら分かるだろう?」
アセムの言葉にフリットは言い返せない。
フリットもまた、アセムやユノアの父親である。
その為、アセムの気持ちも理解は出来る。
「連邦軍にヴェイガンに仕掛けてキオを救出するだけの戦力を集める余裕はない。俺ならビシディアンを動かす事も出来る!」
今の連邦軍は戦局が劣勢となっているのでキオの救出に回す戦力はすぐには集める事は出来ない。
しかし、アセムならビシディアンを動かす事が出来る。
少なくとも、今のディーヴァよりも戦力は充実しており、ゲリラ戦などは得意としている。
フリットは冷静さを取り戻しつつあり、アセムの言う事も理解出来る。
だが、簡単に認める事も出来なかった。
その態度に業を煮やしてアセムも熱くなって行く。
「父さん! 兄さん!」
格納庫の騒ぎを聞きつけたユノアがフリットとアセムの間に入る。
「二人とも落ち着いて。二人が言い合ってもキオは戻らないのよ」
ユノアに指摘されて二人とも、顔を背ける。
フリットはようやく、冷静になるがやはり素直にアセムの事を認める事は出来ないでいる。
「俺がキオを助けに行く。良いな。父さん」
「勝手にしろ」
「そうさせて貰う」
フリットは渋々だが、内心では納得はいかないが、キオを助ける為に最も確率が良い方法はアセムが率いるビシディアンがキオを救出に向かった方が良いと言う事は分かっている。
だが、フリットは退役したとは言え、連邦軍に協力している立場上、海賊であるアセムに協力的な発言をする事も出来ない。
それはアセムも十分に理解しているのでフリットの「勝手にしろ」は「任せた」だと解釈する。
「ユノア、父さんは任せた」
「ええ。兄さんもキオを助けて来てね」
「ああ」
アセムはユノアにそう言いダークハウンドに乗り込む。
そして、ダークハウンドはディーヴァからバロノークへと戻って行く。
バロノークに戻ったアセムはすぐにブリッジに上がる。
そして、現在の状況を説明する。
バロノークは戦闘に巻き込まれない距離を保っていたので、戦闘の細かいところまでは把握できていなかった為、AGEシステムを搭載されたAGE-3が鹵獲された事までは把握はしていなかった。
「そういう訳だ。俺達はこれよりキオとガンダムの奪還に入る。俺の個人的な事だが、力を貸して欲しい」
「気にするな。キャプテン。ビシディアンとしてもAGEシステムをヴェイガンの手に渡ったままにする訳にはいかないからな」
ビシディアンを代表して、ラドックがそう言う。
ビシディアンはEXA-DBの捜索以外にも戦争を拡大させない事や戦局が傾かないようにする事も目的だ。
ヴェイガンの一斉蜂起の時にはすでにビシディアンの戦力ではどうしようもないくらいにヴェイガンの作戦が秘密裏に進んでいた為、阻止する事は出来なかった。
そして、AGEシステムは戦局を変えるだけの可能性を秘めている事はかつてAGEシステムを搭載したガンダムに乗っていたアセムは良く知っており、ビシディアンも十分に理解している。
そのAGEシステムがヴェイガンが手に入れたとなると、戦局は更にヴェイガンに傾く事になる。
それはビシディアンの本意ではない。
「済まない」
「それでどうする? 撤退したヴェイガンの部隊の進路は地球圏から離れている。恐らくは火星圏に戻るつもりだぞ」
「当然だな。火星圏程安全にAGEシステムを解析できる場所はないからな」
ガンダムを鹵獲した部隊は地球圏から離れて火星圏へと向かっていると予測される。
火星圏に戻れば連邦軍は簡単には手が出せなくなる。
その為、AGEシステムを解析するには火星圏はうってつけな場所と言える。
「まずは戦力を確保する。マッドーナ工房に連絡を入れてくれ。ディアハウンドを使う」
「本気か……いや、ヴェイガンの本拠地に乗り込むんだ。それくらいは必要か」
ラドックはアセムがディアハウンドを使う事に驚くが、ヴェイガンの拠点である火星圏に乗り込むのであればそれくらいは必要だと考え直す。
アセムの言うディアハウンドとはダークハウンドのバリエーションの一つだ。
ダークハウンドは格闘戦に主眼を置く事で敵を最小限の損傷で仕留める事で、海賊行為をやり易くした機体でディアハウンドはAGE-2のダブルバレットをベースにして大軍を殲滅する事を目的としている。
その上、対Xラウンダー用の装備でもあり3機のガンダムを圧倒したレギルスを相手にする時には有効な装備でもある。
ディアハウンドはダブルバレットをも超える大火力を持つ為、普段は使う事は無いが今回は用意しておいた方が良い装備であった。
「後はホワイトファングにも連絡を取って貰い。協力して貰う」
ディアハウンドだけではレギルスを相手にするには正直なところ、戦力不足が否めない為、ウルフ達の戦力もあてにしている。
ホワイトファングには自分以上の経験を持つウルフやAGE-3にはやや劣るも、AGE-3のプロトタイプであるプロト3やUIEから奪取したゼイ・ドルグなど戦力も充実している。
ウルフならば、事情を説明すれば二つ返事で協力してくれる事は分かりきっている。
「ホワイトファングの戦力も足すと相当なもんだが、それだと時間がかかるぞ」
「分かってる。だが、焦ってキオを助けられないよりかはマシだ」
下手に焦って補給もままならない火星圏に乗り込んだところでキオの奪還は不可能だ。
その為、多少は時間がかかったところで戦力を十分に集めてから行動を起こすべきだった。
先の戦闘ではゼハートのギラーガも確認できている。
ゼハートならば、子供であるキオに手荒な真似はしないと信じたい。
アセムはキオの救出の為に行動を開始する。
ヴェイガンに捕まったキオは火星圏のヴェイガンの本拠地であるコロニー「セカンドムーン」に連行されていた。
敵の本拠地である事で警戒しつつも、ガンダムに乗っていないキオの表情には怯えが見えるが、キオはそれを押し隠そうとしている。
セカンドムーンに到着したキオはファ・ザードからヴァニスに連れられて降りる。
その前にはヴェイガンの現指導者であるイゼルカントが待ち構えていた。
イゼルカントを見た途端にキオに表情が強張る。
キオもヴェイガンの一斉蜂起の時にイゼルカントの宣戦布告は見ている。
敵の大将であるイゼルカントが目の前にいるのだ当然の反応と言える。
「お父様。地球圏より帰還しました」
ヴァニスはイゼルカントにそう言う。
キオはヴァニスがイゼルカントの事を父と呼ぶことに驚くが、父と再会したのに声に感情が乗っていない事にも違和感を覚える。
「この度の働き、ご苦労だった」
イゼルカントはヴァニスの戦果を労う。
ロストロウランは落とす事は出来なかったが、今回の侵攻作戦では多大な戦果を挙げた事は間違いない。
そして、キオはイゼルカントとヴァニスと共にセカンドムーン内を走っているモノレールに乗せられる。
モノレールには誰も乗っておらず、キオは座席に座りイゼルカントはキオの正面に座り、ヴァニスはドアの近くに立ったままだ。
モノレールは走りだし、窓の外から見える光景は地球の都市とは違い中世の街並みを再現しているようだった。
「物珍しいのか?」
キオの正面に座るイゼルカントがそう言うも、キオは顔を背けて話す気がない事を見せる。
「敵とは話す事はないか。まぁ良い」
イゼルカントは気を悪くした様子もなく、モノレールはセカンドムーンのイゼルカントの居城へと到着する。
「ここまで良い。捕虜はヴァニスに預けるからな」
イゼルカントに動向していた将校にそう言い、ヴァニスは眉をひそめる。
ガンダムに乗っている時のキオは倒すべき敵として認めてはいるが、ガンダムから降りているキオには何の興味も持たず、キオの面倒を押し付けられも迷惑なだけだった。
将校達は渋々、イゼルカントの言う通り下がる。
キオはそのまま、イゼルカントとヴァニスと共にイゼルカントの居城に通される。
応接室に通されると、そこにはイゼルカントの妻であるドレーネが待っていた。
ドレーネはキオを見ると明らかに驚いているがキオはそれを気に止める余裕はない。
「僕をこんなところに連れていてどうするつもりですか?」
キオはようやくイゼルカントを睨んで口を開く。
だが、イゼルカントはキオに睨まれたところで動じない。
「君には地球圏を代表して我らヴェイガンを学んで貰いたい」
「ヴェイガンを学ぶ?」
「部屋を用意した。必要な物はヴァニスに頼むが良い。出来る限り用意しよう」
イゼルカントはそう言いドレーネと共に応接室を出て行く。
「ついて来い」
ヴァニスはそっけなく、そう言いイゼルカント達が出た扉とは別の扉から出て行き、キオは慌ててついて行く。
ヴァニスに後をついてキオは廊下を歩いている。
その道中で兵とすれ違うたびに緊張するが、特に何かをされる訳ではなく、ヴァニスに敬礼をするだけだった。
そうこうしているうちにヴァニスは立ち止まる。
「ここだ」
ヴァニスはその部屋に入り、キオもそれに続く。
部屋はとても捕虜の部屋とは思え無かった。
備えつけのベッドや調度品はパッと見でも高価な物だとキオでも分かる。
「ここは弟の部屋だ」
「弟?」
「そうだ。お前は死んだ弟に良く似ている。だから、お父様もお前を特別扱いにするのだろう」
ヴァニスはベットの傍らに置かれている写真をキオに渡す。
そこには黒髪だが、キオにそっくりな少年と若き日のイゼルカントとドレーネが映されている。
それはイゼルカント夫妻の実の息子であるロミ・イゼルカントとの写真であった。
表向きはイゼルカントの娘であるヴァニスはロミの姉と言う事になっており、イゼルカントの娘を演じるに辺り、必要な情報は全て頭の中に入っている。
その為、ロミとは面識はないが、ロミがいた事の話しなどはある程度は可能だった。
そして、イゼルカントはキオが死んだ息子であるロミと似ているから特別扱いとしているとキオに話す。
大方、イゼルカントはキオの高いXラウンダーとしての素質に目をつけて懐柔でもしようとしているのだとヴァニスは考えているが、実際のところそれだけではなく、ロミと似ている事もキオを特別扱いする理由だという事まではヴァニスも気づいてはいない。
幾ら、キオがロミに似ていようとも縁もゆかりもない他人である為、特別扱いにする理由とは思えないからであった。
しかし、イゼルカントも頭では分かっていても、いざ目の前に死んだ息子と瓜二つの少年がいれば息子の生まれ代わりくらいには思ってしまうだろう。
「着替えはクローゼットの中にある。好きに使え。用があれば私を呼べ。この部屋の中でなら好きに過ごせ」
ヴァニスは要件だけを簡単に説明する。
もはや、ヴァニスにとってガンダムに乗っていないキオなど興味の対象外であった。
説明を終えるとヴァニスはさっさと部屋を出て行く。
セカンドムーンに戻ったマリィはセカンドムーン内に用意された研究室に戻って来ていた。
研究室にはイゼルカントの命により、ヴェイガンでの最新の機材の一式やEXA-DBの一部のデータがコピーされたメモリーユニットなど、ヴェイガンの技術部でも最新鋭の設備となっている。
だが、研究室ないはデータディスクやプリントアウトした資料などが散乱しており、足の踏み場もない状態だ。
そんな研究室ないの大型コンピュータの前でマリィはある設計図の解析作業をしている。
「やはり、ここにいたのか?」
解析作業に没頭していたマリィにゼハートが声をかけるとマリィはあからさまに機嫌を悪くするが、研究中のマリィに話しかければこうなる事は分かりきっている為、ゼハートも気にする事は無い。
「何か用?」
マリィはモニターの方を向いたままで答える。
「レギルスの再調整について聞きに来たのだが、何をしている?」
ゼハートはマシントラブルを起こしたレギルスの再調整の事を聞きにいたが、マリィは明らかに別の作業をしている。
「見てみ」
ゼハートはモニターを見るがモニターに映されているのがMSの設計データである事は分かる。
だが、そのMSはヴェイガンのMSの設計とは大きく違う。
「これは?」
「鹵獲したガンダムに搭載されたAGEシステムが提示した新たなガンダムの設計図」
「何だと?」
マリィが解析していたのはAGEシステムがレギルスとの戦闘のデータから作り出した新しいガンダムの設計データだった。
AGEシステムが提示したという事はこのガンダムはレギルスと対等に戦えるだけの性能は確実に持っているという事になる。
レギルスの圧倒的な戦闘能力を目の当たりにしたが、AGEシステムは一度の戦闘でレギルスに対抗する事が出来ると言う事はもはや脅威でしかない。
「開発コードFX……フォローXラウンダー。今までヴェイガンのMSの中でXラウンダー専用MSと称されているMSはさ、Xラウンダーが搭乗する事を想定して設計、開発されてんだけどさ。このFXはXラウンダーが搭乗する事が前提で設計されてんだよね。だから、従来のXラウンダー専用機とは違ってXラウンダーでないとまともに動かす事は出来ない。だけど、Xラウンダーが搭乗すれば無類の強さを発揮しそうなんだよね。設計図を見る限りはスペック上はレギルス以上だし」
今までのXラウンダー専用機であるゼダス、ファルシア、ゼイドラ、クロノス、ギラーガなどはXラウンダーが乗ってもその反応速度に対応できるように設計されている。
ファルシアやギラーガのようにビット兵器を搭載したMSはXラウンダーでなければビット兵器をコントロールする事が出来ない為、性能を最大限に発揮は出来ないが、Xラウンダーではないスラッシュがゼイドラを乗りこなしているようにXラウンダーでなくてもある程度は乗りこなす事は可能だった。
しかし、AGEシステムが提示した新型ガンダム「ガンダムAGE-FX」は完全にXラウンダー専用機となっている。
新システムであるサイコフォローシステムはパイロットのXラウンダー能力をダイレクトに機体に伝える為、Xラウンダー能力を持たなければまともに動かせるMSではない。
その上、設計図を見る限りでは基本性能はレギルス以上で動力機関にはAGEドライヴを使わなければならないと提示されている。
「これ程とはな……」
「ちょうど、AGEドライヴもあるし、このFXをセカンドムーンの高速成形機に作ろうと思うんだよね。まぁ、ヴェイガンのMSとは部品の互換性が殆どないから時間はかかりそうだけどね」
FXの性能がレギルスを凌駕しているのであれば製造すればレギルスと共にヴェイガンの切り札となるだろう。
だが、それ程の性能のMSを連邦軍に奪取されれば、レギルスの投入で圧倒的に優位に立っていた戦局が覆えかねない。
すでにレギルスは量産の為に動き出しているので無理にFXを製造する必要もないようにも思える。
しかし、マリィの性格上止めたところで聞く耳を持たないのは確実だった。
「分かった。俺の方からイゼルカント様に進言しておく。それよりもレギルスの方がどうなっている?」
FXの件に関しては後でイゼルカントに進言しておけば良い。
それよりも、ゼハートがマリィを探していた理由であるレギルスの再調整の方が今は優先すべき事だ。
「ああ……原因は分かってんだよね」
マリィは珍しく歯切れの悪い。
その様子に状況が良くないのかとゼハートは考える。
だが、次にマリィが口にした言葉はゼハートの予想を大きく上回る言葉だった。
「ねぇ……ゼハート。あの姫ちゃんてさ……本当に人間なの?」
「どう言う事だ?」
ゼハートは余りにも予想外な言葉に動揺をするが、マリィが意味もなくそんな事を言う事は無い為、その真意を確かめようとする。
「まず、レギルスのトラブルの原因はパイロットのXラウンダー能力が強すぎるからだったんだよね」
「強すぎた? レギルスは従来のXラウンダー専用機とは能力に対する追従性や感応性は桁違いだったはずだ」
「それでも耐えられなかったのよ」
マリィはレギルスの戦闘データを数値化した情報をモニターに映し出す。
「あの子はさ。最大でビットを100以上も展開した状態でそのすべてのビットの位置を把握しながら個別にコントロールした上で戦場のすべてのMSの動きを先読みして把握してたみたいなのよ」
「あり得ない」
ゼハートはマリィの意見を一刀両断にする。
マリィの言っている事はあり得ないからだ。
Xラウンダーは先読み能力以外にも高い空間認識能力を持つ。
それ故にビットなどの遠隔操作できる武器を扱う事が出来る。
ビットの数が増えれば増える程、ビットの操作が難しくなり、ゼハートもギラーガでビットが最大で10数基が限度だ。
それを100以上も展開すれば、ビットをいくつかのグループに分けて同時に操作するならまだしも、100基以上のビットをすべて同時に操作するなどあり得ない。
その上でレギルス本体の操縦や戦場のMSの動きは把握して先読みするなど人間技ではない。
「理論上はあり得るわ。でも、それをやれば確実に脳が破壊されて最悪死ぬわよ。運が良くても廃人になるか能力が暴走するかはする筈よ」
それだけの事を理論上では可能だったが、実際に行えばマリィの言う通り、死ぬか廃人やXラウンダー能力が制御できずに暴走しかねない。
だが、地球圏から火星圏に戻るまでの道中でヴァニスを何度もあったが、今までとは変わらなかった。
「取りあえずの対処方としては姫ちゃんの能力を抑える事を進めるわね。どう言う訳かそれだけの事をやってのけてるけど、そのままだと確実に死ぬわよ。ゼハートがつけている制御デバイスを改良した新型の奴が技術部で開発中だったと思うからそれを姫ちゃん用に更に改良して使って貰うわ」
「ああ……頼んだ」
ゼハートは気の抜けたような返事をする。
地球侵攻作戦の開始前から感じていた妙な感覚。
普通ではあり得ない程のXラウンダー能力を平然と使う事もあり、ゼハートの中でヴァニスへの疑念が大きくなって行く。
「ゼハート様はいらっしゃるでしょうか?」
「いるよ」
疑念が大きくなる中、研究室にフラムが訪ねて来る。
「ゼハート様。イゼルカント様がすぐに来るようにと」
「分かった。すぐ行く」
ゼハートの中でヴァニスへの疑念が晴れない事もあり、イゼルカントに直接ヴァニスの事を聞いて見る事にした。
ゼハートはイゼルカントがいるとされる部屋を訪れる。
そこにはすでにイゼルカントと共にザナルドやヴァニスもいる。
ゼハートはちらっとヴァニスの方を見るがすぐにイゼルカントの方を見る。
「揃ったな」
ゼハートが到着してイゼルカントがそう言う。
どうやら、イゼルカントの話しはゼハートとザナルド、そしてヴァニスにあると言う事になる。
「お前達に来て貰ったのは他でもない。今後のヴェイガンの事だ。今後、ヴェイガンの指揮権、及びプロジェクトエデンの全権をヴァニスに譲ろうと思う」
イゼルカントの話しは予想以上の物であった。
ヴェイガンの指揮権とプロジェクトエデンの全権をヴァニスに譲るという事はヴァニスがイゼルカントに変わりヴェイガンを率いると言う事だ。
「イゼルカント様。お言葉ですが姫様の実力は私も見て理解しています。しかし、姫様ではヴェイガンを率いるには若すぎます」
ゼハートはヴァニスに対する疑念もあり意義を申し立てる。
ゼハートも過去に18で地球侵攻軍の司令官を命じられた時もその若さから部下に能力を疑問視されたことがある。
ヴァニスの年は知らないが、その時のゼハートと同様にヴァニスの若さから不満を持つ者も出て来るかも知れない。
それ以上にヴァニスにヴェイガンを率いる事を任せて良いものかと言う疑念もある。
「ゼハート! 貴様、イゼルカント様に意見すると言うのか!」
「良い。ゼハートの心配も尤もだ。しかし、私にはもう時間がないのだ。私に残された時間は僅かだ。その為、私が生きているうちにヴァニスを新しい指導者として立てて経験を積ませる。お前達にはヴァニスを支えて欲しいのだ。長年私の側近としてヴェイガンに尽くしていたお前達だからこそなのだ」
イゼルカントがヴァニスを早い段階で指導者にする事で経験を積ませる事が目的ではあったが、イゼルカントの時間が残り僅かだと言う事に驚く。
セカンドムーンでもマーズレイの影響は完全に遮断は出来てはいない。
指導者であるイゼルカントの居城は一般市民の居住区よりも安全ではあるが、完全にマーズレイを遮断する事は出来てはいない。
そのせいでイゼルカントもまた、マーズレイによる死病にかかっていた。
ヴェイガンでもマーズレイによる死病は不治の病で薬でも症状を抑える事は出来ても完治は出来ない。
その事実の方がゼハートやザナルドには大きな衝撃であった。
今まで一度たりともイゼルカントが計画の半ばで倒れるなどあり得なかった。
だが、地球侵攻作戦を前に自身の後継者を表舞台に出した事もイゼルカントに残された時間が少ないと言う事を考えれば納得も行く。
「私は計画の半ばで倒れるがお前達は必ずや計画を遂行し、ヴェイガンの未来を作って欲しい」
イゼルカントはゼハートとザナルドに頭を下げる。
ザナルドはイゼルカントの残り少ない命だと知り、イゼルカントの理想であるプロジェクトエデンに自らの命をかける決意をするが、ゼハートは逆にイゼルカントがいなくなった場合、本当にヴァニスにヴェイガンの未来を託してもいいのか迷いが生じていた。
キオがセカンドムーンに連行された翌日、キオはイゼルカントと共にモノレールにて連れ出されていた。
その道中でキオは相変わらず、イゼルカントに対しては必要以上に話しをしないように心掛けていた。
「なぜ、我らが地球に戦争を仕掛けたか分かるか?」
イゼルカントの問いにキオは答える事は無い。
だが、イゼルカントは続ける。
「我々は取り戻さねばならんのだ。人としての尊厳をな……火星圏ではかつては夢の新天地として移住計画が立てられた。しかし、テラフォーミングの失敗と火星の磁気嵐によって死病が蔓延している。その死病に怯えながらも必死に子を作り生き延びて来たが、その中で生きる事を諦めて人を愛する事が出来なくなって来ている。それは人である事を放棄する事だ。私はその恐怖から解放し、ヴェイガンの民を救う為に戦争を仕掛けたのだ。それしかヴェイガンの未来を創る事が出来ないと悟ったのだ」
「だからって人の命を奪う事は良くないですよ!」
キオは堪らずに声を上げる。
確かにヴェイガンの事情を知れば同情する事は出来る。
だが、そのせいで地球では多くの人が死に、多くの人が戦争で戦い続けて来た。
キオもロストロウランでシャナルアを目の前で失った。
キオの祖父のフリットや父のアセムはそれ以上に仲間を失って来た。
例え、ヴェイガンにどんな事情があってもそれを仕方がない事だとは思えない。
「お前に分かるか? 死の宣告を受けてなお生きねばならない者達の思いが地球でぬくぬくと生きていた者を憎む事でしか生きる事が出来なかった者の叫びが」
「それは……でも……」
キオは今まで父親こそはいなかったが、ロマリーやフリット、エミリーなど周りの大人に守られて生きて来た。
ガンダムのパイロットになった後も、フリットの作ったガンダムに守られて来た。
その為、キオにはヴェイガンの人間がどんな思いで生きて来たかは分からない。
だが、それでも今までヴェイガンがやって来た事を認める事も出来ない。
「キオ、お前は知らねばならない。お前達の敵の本当の姿をな」
キオはとある駅で落とされる。
そして、鞄を一つ渡される。
「それには小型端末と僅かだが金も入っている。セカンドムーンで好きに動き、ヴェイガンの世界を自分の目で見るのだ」
キオが茫然としているうちにモノレールは発進して、キオは駅に取り残される。
キオは一先ず、渡された鞄の中身を確認する。
そこには小型端末が入っている。
小型端末を確認すると、地球でも使われている奴に近い為、使い方はある程度は把握できる。
次に金を確認する。
イゼルカントの言っていた通り金が少し入っているが、地球の貨幣とは少し違うのでキオにはどの位入っているのかはイマイチ分からないが、金を使う機会がなければ問題は無いので、鞄を肩からかけて駅から町に出る。
町に出たキオは周囲を警戒しつつ、歩いている。
敵の本拠地であるが誰もキオが地球の人間である事に気づいていない為、特に何かをされるという事はないのでキオは警戒を少し解いて町の風景を見る。
モノレールの窓から見えら通り、セカンドムーンの町は石作りの建物が多い。
地球圏では余り見られる風景ではないが。不思議と悪い気はしない。
広い道路では露店がいくつもあり、活気に溢れている為、先ほどのイゼルカントの言葉が本当かどうか疑わしくなる。
だが、同時に露店を切り盛りしている人も露店を眺めている人も、露店で買い物をしている人もどれも自分達と同じに見える。
オリバーノーツやロストロウランであれだけの事をしたヴェイガンの人間とは思えない。
キオはキョロキョロとしていると、後ろから誰かがぶつかる。
キオは尻餅をつくが、肩からかけていた筈の鞄がない事に気が付く。
すぐには何が起きたか分からなかったが、すぐにぶつかった相手が奪って行った事に気が付いた。
追いかけるも気づくまでの間に鞄を奪った相手を見失ってしまった。
「どうしよう……」
鞄の中には金以外にも通信機でもある小型端末が入っている。
それがなければイゼルカントの方に連絡を入れる事が出来ない。
金がない上にキオはセカンドムーンの地理は分からず、キオは地球の人間だ。
今はその事は知られてはいないが、何の拍子に周囲に知れるかは分からない。
「おい」
途方に暮れていたキオに誰かが声をかける。
キオはびくりとしつつも声の方を向く。
そこにはキオよりも少し年上の少年が立っている。
「これ、お前のだろ?」
少年の手には奪われたキオの鞄を持っている。
「うん……」
キオは先ほどの事もあり警戒しつつ返事をしると少年は鞄を差し出す。
「気をつけろよな」
「ありがとう」
相手に悪意がなく、奪われた鞄を取り返してキオに届けてくれたのだと気付くとキオは鞄を受け取る。
「お前……怪我してるじゃないか?」
「このくらい大丈夫だよ」
「良いから、来いよ」
尻餅をついた時に掌を軽く切ったのか、少し血が出ている事に少年が気が付く。
キオはこのくらいの怪我なら放っておいてもその内、治るだろうと思うが、少年はキオの手を引いて行く。
少し歩くと一件の家の前で少年が止まる。
どうやら、ここが少年の家らしい。
「ここ俺んちだから入れよ」
助けてくれた事から少年が悪い相手でない事もあり、キオは少年に言われるまま家に入る。
リビングに通されてキオは椅子に座り、少年に手当を受ける。
「これで良しだ」
「ありがとう。僕はキオ。君は?」
「そう言えば……俺はディーン。ディーン・アノンだ。キオは余所者だろ? この辺りは余り治安が良くないからな。キオみたいな余所者を相手にひったくりとかする奴がいるんだよ。そいつには俺の方からもきつく言ってあるからな。けど、悪く思わないでくれそいつも生きていく事に必死なんだよ」
ディーンはキオに軽く説明する。
だが、キオはその説明に違和感を感じる。
ここはヴェイガンの本拠地のコロニーの筈だ。
そのイゼルカントの居城のあるコロニーの治安が悪いと言う事はおかしい。
だが、他のコロニーがこれ以上に治安が悪いのであればここの治安もマシな方なのかも知れない。
そうなれば、キオの思っている以上にヴェイガンの内情は悪いのだろう。
「誰か来ているの?」
「ルウ、起きても大丈夫なのか?」
家の奥から、キオと同い年くらいの少女が出て来る。
顔色は余り良くなく、ディーンの言葉からルウと呼ばれた少女の体調は余り良くないみたいだ。
「お客さん?」
「こんにちは。僕はキオ。よろしく」
「うん。よろしくね」
キオとルウは名乗るが、その様子をディーンは余り面白くないように見ていた。
「ねぇ。キオ、まだ時間はある? もし良かったら、夕飯を食べて行かない?」
「ルウ!」
「えっ……うん。大丈夫だけど……」
戻る時間は正確には指定されていないので、大丈夫だとは思うがディーンの反応が気になりディーンの方をちらりと見る。
先ほどまで良くしてくれたが、余りキオを歓迎していないように見える。
「良いでしょ? お兄ちゃん」
「……ああ」
ディーンは渋々だが返事をする。
それからすぐに夕飯の用意がされた。
「キオはどこから来たの?」
「少し遠いところだよ」
「学校には行ってるの?」
「うん」
「学校ではどんな事を教えてくれるの? キオは勉強は得意? それとも運動の方が得意なの?」
「えっと……」
ルウはキオを質問攻めにしている。
質問をする時のルウは目が輝いていて、余程外の事が知りたいらしい。
そんなルウをディーンは複雑な表情で見ている。
「ルウは学校には行ってないの?」
「お前!」
キオはルウが学校の事を集中的に聞き、学校に憧れているような感じだったので何気なく聞き返すが、それに対してディーンが思わず立ち上がって怒鳴る。
「私は見ての通り余り出歩けないから……」
「病気なの?」
見たところ、怪我をしている訳ではない事から病気だと言う事は簡単に想像はつく。
「マーズレイのせいだ。セカンドムーンでも完全にマーズレイの影響は遮断出来てないんだよ」
「そんな……」
マーズレイのよる病は死病であるという事は少し前にイゼルカントも言っていた。
そのマーズレイによる病気にかかっていると言う事はルウは遠からず死ぬという事だ。
「お前のところはどうなんだよ」
「それは……」
キオはディーンの質問に答える事が出来ない。
ルウに言った少し遠いところは地球だ。
地球ならコロニーに住んでいても死病に怯える事は無い。
それ以前にディーンとルウに自分が地球で生まれて育ったという事は知られてたくはなかった。
「言いたくないなら、それでも良いさ。どこも酷いらしいからな」
質問に答えずに黙るキオからキオのいたところもマーズレイの影響が酷いと勘違いしたディーンは話しを打ち切る。
気まずい空気の中、三人は夕飯を続ける。
夕飯が終わりキオは戻らなくてはいけない為、ディーンはキオを玄関まで送っている。
「今日はありがとうな」
「僕の方こそ」
「ルウのあんなに楽しそうな顔は久しぶりに見たよ……だけど、キオ……もうここには来ないで欲しい」
キオはルウとも仲良くなり、また来る事も約束していた為、唖然とする。
「あいつさ……長くないんだよ」
「え……」
「不公平だよな。何でアイツがこんなに早く死なないといけないんだよ。アイツが何をしたってんだよ」
唖然としているキオにディーンは続ける。
ルウの容体はキオの思っている以上に悪く余り長くないと言う事だった。
「そんな……どうにもならないの?」
「なるもんか。薬は俺達のような末端の一般人には回ってこない」
死病に対して完治は出来ないが、症状を抑える薬はすでに開発されている。
だが、薬は非常に高価でルウのような一般人よりもヴェイガンの要人の方に回される。
「それなのに……地球の奴らは安全なところでぬくぬくと暮らしてるんだぜ?」
その言葉には明確に地球の人間に対する恨みや妬みが込められている。
キオは自身に対して言われた訳ではないが、胸に何かが突き刺さるような感覚を受ける。
「けどよ。イゼルカント様がもうすぐ地球に帰還出来るって言ってた。でも……地球に帰還できてもルウはすぐに死んじまうんだよ。変に希望は与えたくはないんだよ。折角、ルウも自分の事を受け入れたってのに、お前と友達になればルウはこの世に未練が残って死ぬ事が怖くなる」
「ディーン……」
キオはディーンに何も言えない。
だけど、それが悲しい事は分かる。
死ぬ事が怖くなく、この世に未練がないと言う事は生きている事に何の意味も見出していないと言う事だ。
キオも自分が生きている事に何の意味があるかと聞かれても答える事は出来ないだろう。
だけど、この世に未練がない訳ではない。
「分かってくれ。キオ、俺はこれ以上ルウを苦しめたくはないんだ」
ディーンは泣きそうな声でキオに言う。
ディーンも本当はルウとキオは友達になって欲しいとは思っている。
だけど、ルウが生きたいと思うようになったところで遠からず死ぬ事は変えられない。
そうなった時、ルウは死ぬ事に恐怖するだろう。
「どうして……そんな事を言うの?」
「ルウ……聞いてたのか?」
ディーンは夕食を終えて休んだとばかり思っていたルウが起きていて今の話しを聞いていた事に動揺する。
「私だって自分がもうすぐ死ぬ事は分かってる! でも、もっといろんな人に会いたい! いろんな場所にだって生きたいの!」
「だからってそれはすぐに終わるんだぞ! そうなれば辛いだけじゃないか!」
ルウは残り少ないからこそ、いろんな人と出会い、いろんな場所に行きたいと願うが、ディーンは残り少ないからこそ、別れが辛くなると考えている。
キオにはそれがどちらが正しいのかは分からない。
「それでも……それでも私は行きたいの。残り少なくても最後まで私はちゃんと行きたいの!」
「ルウ……分かったよ」
結局、ディーンが折れてキオはまた、遊びに来る事を約束して今日のところはイゼルカントの居城へと帰って行く。
帰って来たキオは与えられた部屋でキオは一人考えていた。
今まで見て来たヴェイガンのイメージとは違って見えた。
オリバーノーツやロストロウランであれだけの事をやったことからキオの中ではヴェイガンの人間は極悪非道と言うイメージを持っていたが、セカンドムーンの住人やディーンやルウは自分となんら変わらない人間に見えた。
「災難だったな」
今日の出来事を考えているとヴァニスがノックもなしに入って来る。
ヴァニスはキオに断る事なく、ベットに座り込む。
キオはいろいろとあり、頭の中が整理できていない事もあり、何も言わない。
ヴァニスの方はキオを監視していた兵から今日の出来事は把握しているようだ。
「何か用ですか?」
「特に用事はない。今日一日セカンドムーンを見てどう思ったのかと聞いて来いと言われただけだ」
「何が何だか分かりません。ヴェイガンの人達は僕達と何も変わらない……」
「当然だな。地球では私達がモンスターとでも教えていたのか?」
ヴァニスはヴェイガンがUEと呼ばれていた時はUEが異星人やモンスターだと言われていたが、今ではそんな教育はされていいないと言う事は当然知っている。
「まぁ良い少年。なぜ戦争が起きたのか分かるか?」
「それは……イゼルカントさんは人としての尊厳を取り戻す為に戦争をしていると言ってました」
「そうだな。大昔の移住計画の失敗で我らの祖先は火星圏に取り残された。そして、地球に帰還する為にヴェイガンは地球に戦争を仕掛けたというのが歴史の事実だ。だが、そんな事は戦争が起きた理由付けに過ぎない」
「何が言いたいんですか?」
キオはヴァニスの意図が分からず、棘のある言い方になる。
「簡単な事だ。ヴェイガンと連邦軍と言う二つの勢力があるからこそ、戦争が起こる。そう考えれば戦争を終わらせる道も見えて来ると言う物だ」
ヴァニスの言っている事は至極単純だった。
戦争は二つの勢力があるから戦争になる。
「世界に陣営が一つしかなく、その陣営を絶対的な支配者が支配すれば世界から戦争はなくなる」
「それが貴女だと言いたいんですか?」
「そうだ。私にはそれだけの力がある」
ヴァニスはそう言い切る。
世界を手中に入れ、その頂点に立つ事でヴァニスは自身の最強を証明しようと言うつもりであった。
「貴女は連邦軍を……地球の人間を皆殺しにするつもりですか?」
「私に膝をつくのであれば生かしてやる。だが、銃を向けるのであれば女子供だろうと一人残らず排除する。当然だろう。対立する物がいれば戦争の火種となる。ならな、自身に敵対するすべてを排除すれば戦争は終わり世界は平和となるだろう」
確かにヴァニスの言う事は正しい。
敵をすべて滅ぼせば戦争は終わり、対立する物がいなければ戦争が起こる事は無い。
だが、それは極論でもありキオは到底受け入れる事は出来ない。
「少年。私の物になれ。お前には私の下につく資格がある」
「僕にヴェイガンの仲間になれと言うんですか?」
「違うな。ヴェイガンのではない。私のだ」
ヴァニスはキオをヴェイガンに誘っている訳ではない。
ヴァニスはヴァニスの目的の為にキオを誘っている。
だが、キオはヴァニスの奥底で得体の知れない感覚を感じる。
キオが今まで出会った誰とも違う感覚だ。
「私は私のやり方で世界を統一させる。お前はその力を私の為に使え」
「僕は……」
「すぐに結論を出す必要はない。だが、いずれお前は私の計画に乗る事になるだろう。これはその事前報酬だ」
ヴァニスは持って来ていたピルケースをテーブルに置く。
「これは何ですか?」
「マーズレイのよる病の薬だ。治す事は出来ないが症状を抑える事は出来る」
ヴァニスが持って来た薬はマーズレイによる病の症状を抑える薬だった。
報告ではキオが出会ったルウは死病に犯されているという報告があった。
その為、キオへの懐柔の為に薬を用意して来た。
「これ……貴重な薬なんでしょ?」
「そうだな。だが、すでに非公式だが父の跡を継いでいる。この程度な事は造作もない」
正式に公表はされてはいないが、ヴァニスはイゼルカントの後継者となり跡を継いでいる。
その立場を使えば薬の一つや二つを手に入れる事など容易だ。
「この薬をお前にくれてやろう」
「それで僕に貴女の仲間になれと?」
「そうは言わない。これをどう取るかはお前次第だ。少年」
ヴァニスは立ち上がりドアへと歩いて行く。
キオは薬を受け取るが、どうするかで迷っている様子をヴァニスは一瞥して部屋を出て行く。
「そうだ……迷え。迷って考えろ。そして、私が最強である事を証明する糧となるのだ。私を失望させるなよ……キオ・アスノ」
ヴァニスはドア越しでキオには聞こえない程の声で呟き部屋から離れていく。
キオが火星圏に連行されて一月が経つ。
その間にもキオは薬を持ってディーンとルウのところに遊びに行っている。
その裏でヴェイガンもMS開発が進んでいた。
セカンドムーンから離れた宙域に二機のMSが対峙している。
一機がガンダムレギルスに酷似している。
だが、白を基調としたレギルスとは違い真紅一色に塗装されている。
それがガンダムレギルス二号機として開発されたガンダムレギルスRだ。
レギルスRはゼハート専用機に調整されている。
一号機はレギルスビットの発生装置としてレギルスシールドを後付けで装備されているが、レギルスRは新開発された「エンベッドビットシステム」を採用し機体に内蔵さている為、シールドは装備されていないが、元から強固な装甲を持っているのでシールドは必要としていなかった。
シールドを廃止し、専用の武装としてギラーガのギラーガスピアを改良したレギルススピアーを装備している。
ライフルとシールドを廃止したせいで火力と防御力は低下しているが、それでも標準的なMSよりも高い上にレギルススピアーを装備した事で格闘能力は向上している。
レギルスRにはゼハートが搭乗している。
レギルスRはレギルス同様にXラウンダー能力に対する追従性や感応性は高い為、ゼハートはXラウンダー能力を抑えていた仮面型制御デバイスを外している。
レギルスRと対峙しているのはAGE-3の戦闘データあら更に進化した新型のガンダム、ガンダムAGE-FXだ。
FXにはヴァニスが搭乗している。
仮面を外したゼハートに対してヴァニスは能力を抑える為に仮面型の制御デバイスをつけている。
ゼハートがつけていた仮面よりも大型の物をつけている。
ヴェイガンで開発された二機のガンダムのテストを行う為に二機は対峙していた。
「姫ちゃんにゼハート。良いわね。今回の目的はレギルスRとFXの性能テストよ。適当なところで切り上げて良いからね」
二機の戦闘に巻き込まれない距離を保っているファ・ゼオスのブリッジからマリィがそう言う。
ファ・ゼオスには新型機の性能を直接見る為にザナルドも乗艦し、模擬戦の様子を見ている。
ザナルドは地球の人間であるマリィに対してはヴェイガンに有益な技術をもたらした事は評価しているが、それ以外は一切認めてはいないが、マリィは全く気にした様子はない。
「そんじゃ始めて」
マリィが始まりの合図を告げるとレギルスRはレギルススピアーを構えてFXに突撃する。
その機動性能は一号機よりも早いが、FXは軽く回避してシグマシスライフルの発展系であるスタングルライフルを放つ。
シグマシスライフル以上の威力を持ちつつも、シグマシスライフル以上の連射を可能としているスタングルライフルはレギルスRでも直撃を受ければ一撃で落とされるだろう。
「行け。ビット」
レギルスRはスラングルライフルを回避するとレギルスビットを数十個も展開してFXに差し向ける。
「ファンネル」
FXの全身に大小合わせて14基装備されている新兵装「Cファンネル」を射出する。
全方位から迫るレギルスビットをCファンネルが盾となって防ぐ。
Cファンネルはレギルスビットに対抗する為にAGEシステムが考案した武装だった。
全方位からの攻撃に対応する為に全方位に対して防御する事が可能な程の強度を持っている。
そして、AGE-1 スパローのシグルブレイドの技術を応用されているので高い切れ味を持つ。
レギルスビットはCファンネルによって防がれるが、レギルスRはレギルススピアーでFXに振り下ろす。
FXは腕の装甲に内蔵されているビームサーベルでレギルススピアーを受け止めるとレギルスRを弾き飛ばす。
「なんてパワーだ……これが進化したガンダムの力か……だが、こちらもガンダムだ!」
レギルスRのバイザーが展開してツインアイが露出する。
レギルスRはレギルスビットを自機の周囲に展開しつつ、FXに突撃する。
FXはスタングルライフルを連射するが、高密度に集結しているレギルスビットが防ぎFXに接近してレギルススピアーを切りかかりFXは回避してCファンネルを差し向ける。
「ちぃ!」
レギルスRはレギルススピアーでCファンネルを弾き飛ばし背後から迫るCファンネルを尾のレギルスキャノンで牽制して回避する。
「これがガンダムの性能か!」
ゼハートはガンダムの性能を実感している。
自分のレギルスRはゼハートの全力のXラウンダー能力に完全について来る。
そして、それでもなお気を抜けば一瞬で敗北するであろうガンダムAGE-FXの性能を持っている。
「成程……悪くない性能だ」
一方のヴァニスもFXの性能に満足している。
レギルスもヴァニスの能力に完全ではなかったが、従来のMSよりも高性能だったが、FXは汎用型で欠点と言える物のないレギルスに対抗する為に基本性能はレギルスよりも高く、サイコフォローシステムによりXラウンダー能力に対する反応が高い。
更にはヴェイガンが保有していたAGEドライヴにより非常に高い性能を持っている。
そして、何よりもAGE-3の流れを組んでいる為、操縦系統もヴェイガンのMSと言うよりも連邦軍のMSの方に近い事もあり
FXはCファンネルを使いつつもスラングルライフルの先端のバレルが展開した高出力モードのチャージモードで放つ。
レギルスRはレギルスビットで前方にビームバリアを展開するもチャージモードのスタングルライフルの威力を殺し切れずにレギルスRの左腕が吹き飛ぶ。
レギルスRは胸部のビームバスターを放つもCファンネルが集まって大きな盾を形成して防ぐ。
FXは左腕にビームサーベルを展開してレギルスRに接近してビームサーベルを振るう。
「はい。そこまで」
FXのビームサーベルはレギルスRの胴体に触れる直前で止まる。
模擬戦を見ていたマリィが実戦で使うだけの性能があると確認し、勝負がついたため、これ以上の戦闘の必要はなしと判断して模擬戦を止めたのだった。
「テストは終了。戻って来て」
マリィはそう言って通信を終わり、FXとレギルスRはファ・ゼオスまで帰投する。
「で、どうでしたか?」
「悪くない性能だ」
マリィはザナルドにしたり顔でザナルドにそう言う。
模擬戦を見る限りではFXもレギルスRも従来のMSとは別次元のMSである事は間違いなく、ザナルドもそれは認めているが開発を主導していたマリィがしたり顔でそういう為、素直に認める事は無い。
「三号機の製造は遅れているようだな」
「あれは私の趣味が入ってますからね」
ザナルドは嫌味のつもりだったが、マリィは気にした様子はない。
全部で三機製造されているガンダムレギルスだったが、三機は別の設計思想の元開発された。
ヴァニスの一号機はMSの装備としては標準的な武装を持った汎用型でゼハートの二号機は高速白兵戦型、そして開発中の三号機は重装甲の砲戦型となっており、三号機はマリィの趣味が多く取り入れられている事もあり最も開発が遅れていた。
「でも、レギルスタイプのMSの量産化計画は大詰めですよ」
「フン……まぁ良い。レギルスが量産した暁には地球種など恐れるに足りんだ」
ザナルドにとっては三号機の開発が遅れている事よりもレギルスの量産化計画が順調である事の方が重要だった。
量産化した時には一号機や二号機よりも性能が落ちるだろうが、数を用意できる事は大きい。
地球を占領する為には部隊を小分けにして拡散する必要があり、単体での戦闘能力と数を両立する必要があるからだ。
高性能機は数機あれば十分だった。
FXとレギルスがファ・ゼオスに帰還するとファ・ゼオスはセカンドムーンへと戻る。
ガンダムが鹵獲されてからの一月でアセムはマッドーナ工房を拠点として火星圏に乗り込む準備をしていた。
その間にフリットはフリットでルナベースへは向かわず、付近の部隊を集めて艦隊を編成して火星圏に乗り込む準備をするが、ビッグリングの陥落で宇宙の連邦軍は命令系統が混乱しており、一月ではほとんど艦隊編成が出来てはいない。
だが、アセムはその一月でビシディアンのスポンサーに頭を下げ、場合によっては事情を説明して資金を集めて装備を充実させていた。
マッドーナ工房の方でも事情は理解している為、破格の値段で部品や武装、弾薬などを提供した。
アセムの予想通り、ホワイトファングのウルフは二つ返事でアセムに協力すると言っている。
ホワイトファングの艦長であるエリーゼは少し渋るが事情が事情だけに協力する事を許可した。
「ホワイトファングの準備は完了したわ」
「バロノークもいつでも行けます」
バロノークは開発の段階で火星圏まで航行可能な航行システムが搭載されていたが、ホワイトファングには搭載されいないので航行システムは隠密行動の為にステルスシステム「見えざる傘」の搭載などを行い突貫作業で完了している。
視認性を考えれば白の塗装は目立つ為、色を塗りなおす案も出されたが、そこはウルフが頑なに拒絶した事もあり断念して白いままだ。
そして、ホワイトファングにも予備パーツ一式や弾薬を十分に積み込んでAGE-3用のウェアも搭載して準備を終えている。
バロノークもダークハウンドの予備パーツやディアハウンドのパーツも積み込み準備は万端だ。
「それじゃ火星圏に乗り込みに行くわよ」
マッドーナ工房からバロノークとホワイトファングは火星圏へと出航する。