機動戦士ガンダムAGE ZERO   作:ケンヤ

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第93話

キオがセカンドムーンに連行されて一か月以上が経っている。

 その間に何度もディーンとルウの元に遊びに出かけていた。

 いつもは一人だったが、今日はヴァニスも同行している。

 キオはヴァニスが同行する事は余り気が進まないが、ヴァニスから定期的にルウに渡す薬を貰っている為、断る事は出来ない。

 ヴァニスはいつものドレスやXラウンダー能力を抑える為につけるように言われていた仮面を外し、ヴェイガンの一般的な服装に着替えている。

 目立つオッドアイをサングラスで隠しているので、一般人には見えないがイゼルカントの跡を継いだとはいえ、軍内部ではヴァニスの事は知れ渡っているが一般人にまでは知れていない為、ヴェイガンの指導者であるヴァニスが町を歩いても誰も気が付く事は無い。

 

「キオ!」

 

 二人の家の近くまで歩いていると外で待っていたのか、ルウがキオに気が付きその声で家の中にいたディーンもキオが来た事に気が付いて家から出て来る。

 

「ルウ、ディーン」

 

 二人はキオと共に来たヴァニスにも気が付きディーンは少し身構える。

 

「キオ、この人は?」

「弟が世話になっている」

 

 キオは素直にヴェイガンの指導者であるイゼルカントの娘だと答える訳にもいかず、答えかねているとヴァニスが答える。

 ここに来るにあたり、ヴァニスとキオの関係は姉弟と言う事になっている。

 その方が何かと説明の面倒がないからだ。

 

「キオのお姉さんなんだ」

「うん……そうなんだ」

 

 キオはディーンとルウに嘘をつく事に後ろめたさを覚えるも自分が地球の人間である事を黙っているので説明をする事が難しい為、嘘をつくしかないと自分を納得させる。

 

「今日はいつも弟が世話になっているのでその礼に来た次第だ」

「いえ、こっちの方こそキオが遊びに来てくれるからルウも退屈しないで済みます」

「それは何よりだ」

 

 ヴァニスはそう言って軽くはにかむ。

 それを見ていつも無表情なところしか見た事のなかったキオは軽く驚く。

 

「ねぇ、キオ。今日はジャンクの丘に行こうよ!」

「ルウ!」

「大丈夫だよ。今日は調子が良いから」

 

 ディーンはジャンクの丘に行きたいと言うルウを止めようとする。

 ジャンクの丘とはセカンドムーンの中にある丘でセカンドムーンではそう呼ばれているが正式な名称を知る物は少ないと言う。

 娯楽の少ない一般市民の数少ない娯楽場所でもあった。

 距離としては歩いて行ける距離で健康なディーン達ならば問題はないが、病気のルウでは体力的にきついと思い止めるが、ルウは今日の体調が良いと言う。

 実際、キオから貰った薬を服用する事でルウの体調は良い。

 だからと言って大丈夫かどうかはディーンでは判断が付かない。

 

「ねっお願い!」

「ディーン。今日はヴァ……姉さんもいるから何かあっても大丈夫だと思うしさ」

「けどな……」

 

 ディーンはそれでも渋るが、ルウは今までは余り外にも出歩く事が出来ず、そのせいで同年代の友達も出来なかった。

 その為、ルウの体調も良い上に今日はキオだけでなく自分よりも大人であるヴァニスもいると言う事でディーンも渋々だが、折れる。

 

「仕方がないな……だけど、体調悪くなればすぐに帰るから言えよ」

「ありがとう! お兄ちゃん! キオ、行こ!」

「うん!」

 

 ディーンの許しを得た事でルウがキオの手を引き、ジャンクの丘へと駆け足に向かう。

 そんな様子を見てディーンもルウの笑顔が見れただけでも許可を出した甲斐があったと思いつつヴァニスと共に二人を追いかける。

 ジャンクの丘とはセカンドムーンの自然公園だが、自然公園とは名ばかりで緑は全くと言って良い程なく、石畳の階段が続いている。

 階段の傾斜は余りきついと言う訳ではないが、子供、それも病気であるルウには少しきつく、顔色も少し悪くなり息も切らしつつある。

 

「大丈夫か? ルウ。やっぱり家に戻った方が……」

「大丈夫だよ。折角ここまで来たんだから最後まで昇りたいよ」

 

 ディーンは息を切らして顔色も悪くなっているルウを気遣うもルウはここまで来たから最後まで昇りたいと言う。

 だが、ヴァニスがルウを抱きかかえる。

 

「お姉さん?」

「このままでは時間の無駄だ。上まで行ければ良いのだろう?」

 

 ヴァニスはルウを抱えたまま、階段を昇る。

 キオとディーンはルウを軽々と抱きかかえた事に驚くが黙々と階段を昇るヴァニスを追いかける。

 ルウをヴァニスが抱きかかえた事で移動速度が上がり、すぐにジャンクの丘の頂上に到達する。

 頂上に着くとヴァニスがルウを下す。

 

「ここだよ。キオ」

 

 ルウとキオはジャンクの丘の手すりから景色を眺める。

 

「ねっ、綺麗でしょ?」

「……うん。そうだね」

 

 キオはルウに曖昧に答える。

 キオはここからの光景をとても綺麗とは思えなかった。

 ここから見える光景はセカンドムーンの町が見えるが町に緑がなく、石造りの建物も多い為、灰色の世界でしかない。

 地球で育ったキオはこれ以上に綺麗な風景は数えきれない程知っている。

 コロニーでもこれ以上の光景など腐る程あるだろう。

 だが、セカンドムーンで暮らすルウからすればこの光景も綺麗に感じるのだろう。

 それは火星圏ではこの光景が綺麗に感じる程荒廃していると言う事だ。

 景色を見て喜んでいるルウに水を差したくはない為、キオはルウに合わせたのだった。

 

「今日は助かりました。俺達だけではルウをここまで連れて来る事は出来ませんでした」

「礼には及ばない」

 

 ヴァニスがルウを抱きかかえたのも無駄な時間を使わない為であって善意でやった訳ではない。

 だが、ディーンから見ればヴァニスの真意を知らずとも、ルウをここに連れて来るが出来ただけでもヴァニスに感謝するだけの意味はある。

 

「でも……ルウのあんな顔を見るのは久しぶりです」

「そうか」

 

 ディーンの感謝を無理に受け取らない必要も無い為、ヴァニスはそれ以上は否定しまい。

 

「ルウ! 気が済んだらそろそろ帰るぞ!」

 

 ディーンは景色を見る事も出来、ルウの体調を気遣いそろそろ切り上げようとする。

 ルウもキオと共にこの景色を見る事が出来たので大人しく切り上げる。

 ジャンクの丘から戻り、キオとヴァニスは帰る事になる。

 ジャンクの丘に行った事で体調も少し崩しているのでこれ以上、ルウに負担を掛ける訳にはいかない。

 

「それじゃあ。また明日ね。キオ」

「うん。また明日」

 

 キオとルウは明日も会う約束をして別れる。

 

「今日はどうしてついて来たんですか?」

 

 セカンドムーンのイゼルカントの居城へと帰りの途中でヴァニスに尋ねる。

 ヴァニスがわざわざキオについて来た理由は未だに分からない。

 監視するにしては堂々とし過ぎている。

 

「さてな。お前に話す必要はないな。強いて言うならば、宝の守り人と言ったところか」

 

 ヴァニスはそう言うがキオは意味が分からずに首を傾げる。

 

「尤も、今日のところは無駄足になったようだがな。ネズミも慎重と言う事だ」

 

 ますます訳が分からなくなるが、ヴァニスはキオに説明をする気はないようだった。

 キオはそれ以上、何も言う事なく居城に戻り自分の部屋に戻る。

 

 

 

 

 翌日、キオはルウと約束をしている為、ルウの家を目指している。

 今日もまた、ヴァニスがキオに同行している。

 その理由を聞いたところでヴァニスは話す事は無く、キオには拒否権はなく、昨日同行した時には何もしなかった為、文句を言う事もなかった。

 ルウの家についたキオは家のドアをノックしてディーンかルウを呼び出すが、返答はなかった。

 キオは気づかなかったのかと思い間を開けてもう一度、ノックするが反応はない。

 不審に思ったキオはドアを開けてみると鍵がかかってなかったのか、ドアは開く。

 

「ディーン? ルウ?」

 

 キオは家の中を覗く。

 家の中は静まりかえっていたが、奥から人の気配は感じる。

 何かあったのかと思い恐る恐る人の気配のする方に向かうと、そこにはディーンが椅子に座りこんでいた。

 ディーンの前にはベットが置かれており寝室だと分かる。

 

「ディーン?」

「キオ?」

 

 キオはディーンに声をかける。

 ディーンもキオが来た事に気が付いて振り向く。

 その様子は昨日までのディーンとは少し違いキオは不審に思う。

 そして、キオの視線はベットの方に向かう。

 ベットにはルウが寝ている。

 ディーンの様子がおかしいが、なぜディーンの様子がおかしいのか理解する前に今までキオの後ろにいるだけで何もしてなかったヴァニスが口を開く。

 

「死んでいるのか?」

 

 ヴァニスの言葉にディーンはびくりと反応する。

 答える事は無かったが、キオにもその反応で答えは分かる。

 ルウは寝ている訳ではなかった。

 寝ているように見えるが、良く見れば生きているのならば、少なからず胸元が呼吸で上下する筈だが、ルウの胸元は微動だにしていない。

 布団がかかっている為、布団の重みのせいかも知れないが、ディーンの反応がすべてを物語っている。

 ルウはすでに死んでいると。

 

「どうして……」

「あの後か」

 

 ディーンは無言で頷く。

 昨日の別れ際、ルウは少し顔色が悪かった。

 ジャンクの丘に登った事で疲れが溜まっているからだと思っていたが、キオが帰った後に急に体調が悪くなり、薬を飲んでも持ちなおる事もディーンの看病も空しく息絶えた。

 

「僕のせいなの……」

 

 キオはそういう。

 昨日、ルウがジャンクの丘に行きたいと言った時にヴァニスもいるからとディーンを説得したのはキオだ。

 もしも、キオがそんな事を言わなかったら、ルウは体調を崩して死ぬ事はなかったかも知れない。

 それは仮定の域を出ず、仮にジャンクの丘に登らなくても死んでいたかも知れない。

 だが、それを証明する術はなく、ジャンクの丘に登った事で疲れが溜まり体調を崩したと言う事実は変えられない。

 

「それは違う!」

 

 しかし、ディーンは叫ぶように否定する。

 そして、一冊の本をキオに差し出す。

 それは日記でキオは日記を手に取り中を見る。

 そこにはルウの書いたと思われる日々の出来事が記されていた。

 

「アイツさ……最後まで笑ってた」

 

 日記を読むキオにディーンは語り出す。

 その声は震えておりディーンは今にもで泣きそうなところを堪えているように見える。

 

「ルウは幸せだったんだよ。お前のお陰なんだよ。だからお前のせいなんかじゃない。キオがいたからルウは笑って死ねたんだよ」

 

 ルウの日記にはこの一か月間はキオとの他愛もない会話などが書かれており、ルウは毎日が楽しかったと言う事が良く分かる。

 キオは自分のせいだと言うがディーンはキオのお陰でルウは最後の一か月を幸せに過ごせたと思い、感謝こそしても恨みなどはなかった。

 ルウが幸せだったのはルウの亡骸の安らかな顔を見れば一目瞭然だった。

 最後まで幸せだったからこそ、安らかな死に顔になった。

 

「でも……僕は……」

 

 それでもルウの死を目の当たりにしてキオは自分を責めようとする。

 ルウの日記を見てキオは涙があふれて来る。

 自分にとってはルウやディーンとの一か月は地球にいた時とは大して変わらない友達との日々だったが、残り少ない命であったルウからすれば特別な物だった。

 日記を見てそれを知るともっとルウにしてやれた事は無かったのかと考えてしまう。

 だが、それを考えたところで意味はない。

 キオにつられてディーンも今まで必死に耐えていたが、嗚咽と共に涙を流す。

 その様子をヴァニスは冷ややかに見ていた。

 

(下らない。何も成す事もないこの死は無意味だ。なんの価値もない……だが、何だ。この敗北感は……)

 

 ヴァニスから見ればルウは取るに足らない存在で最後まで幸せだったとしても、ルウの人生は何を成した訳でもなく終わり、その一生は無意味でしかない。

 ヴァニスもまた、同じように残された時間は多くはない。

 だが、ヴァニスはルウとは違い無意味に死ぬ気は無い。

 無意味に死んだルウは負け犬で自分は違う。

 しかし、ヴァニスの中では本人でも分からないがルウに対して漠然とした敗北感を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 地球圏を出発したバロノークとホワイトファングは火星圏に到達していた。

 到達してすぐにセカンドムーンに接近するとすぐに行動を起こす事なく状況を把握していた。

 火星圏に到着してセカンドムーンの付近に接近して丸一日が立つがセカンドムーンから動きがないと言う事は見えざる傘によって姿を隠しているが、ヴェイガンに感知されていないと言う事になる。

 それを確認すると、キオとガンダムの奪還の準備に入る。

 バロノークからはアセムのダークハウンド、スラッシュのGサイフォス・ブレイヴ、ティアナのティエルヴァ・ツインエッジが射出され、ホワイトファングからはウルフのGファング、クリフォードとキャロルのプロト3、ファムのゼイ・ドルグが射出される。

 6機ともマッドーナ工房の倉庫から引きずり出してきたステルスマントを使いセカンドムーンの監視を少しでも誤魔化そうとしている。

 セカンドムーンに接近する6機はダークハウンド、ゼイ・ドルグ、Gサイフォス・ブレイヴの隊とGファング、プロト3、ティエルヴァ・ツインエッジの隊に分かれる。

 

「こっちはガンダムを奪還する。アセム、お前は意地でもキオを助けて来い」

「分かりました」

 

 二つのグループは二手に分かれてセカンドムーンに接近する。

 キオの救出とガンダムの奪還の両方を同時にこなすのは難しい為、アセムとウルフの二つの対に分けて分担する事にしている。

 アセムの隊はキオの救出で、ウルフの隊はガンダムの奪還になっている。

 両方の隊には火星圏の出身でセカンドムーンの構造にもある程度は熟知しているスラッシュとティアナもおり、二人がセカンドムーンに侵入する手引きをする手筈となっている。

 スラッシュは当初は余り気乗りはしなかったが、セカンドムーンを落とすのではなく、アセムの息子とガンダムを奪い返しに行くのであると言う事ならと、協力している。

 

「ここってヴェイガンの本拠地なんだろ? 警備が手薄過ぎないか?」

 

 セカンドムーンに取りつき、ティアナによって内部へのハッチを開き3機は侵入する。

 余りにも順調過ぎてクリフォードは呟く。

 ここまで順調だと罠かも知れないと勘ぐってしまう。

 

「今までセカンドムーンは愚か、火星圏が戦場になった事はないから、その分、セカンドムーンに配属されている兵の練度は余り高くは無いのよ」

 

 すでに64年も続いている連邦軍とヴェイガンとの戦争の戦場は地球圏で、火星圏まで戦火は広がってはいない。

 その為、火星圏に配備されているMSはガフランやバクトと言った半世紀以上も前のMSを主力としている。

 その上、一度も火星圏に敵が侵入した事がない事もあり、兵は経験が不足している事が多い。

 敵が火星圏に攻める事は無いと言う油断から警備の穴は幾らでも見つける事は出来る。

 

「ここからは散開して各自でガンダムの捜索だ。ここは敵の本拠地だ。油断するんじゃねぇぞ」

 

 セカンドムーンに侵入して、ウルフの隊はガンダムの捜索だが、事前にセカンドムーンの構造はある程度は把握しているが、MSで移動すればすぐに発見されることは目に見えている。

 その為、最重要項目であるキオの救出を優先し、キオを救出するかアセムの隊が敵に見つかるまでは待機するのだった。

 

 

 

 一方のアセムの隊も無事、セカンドムーンの内部に侵入を成功させている。

 アセムの隊はキオの救出の為、アセムとスラッシュが機体から降りてファムはその場で待機する。

 潜入した場所はウルフの隊もアセムの隊も普段は人のほとんど来ない場所を選んでいるが、絶対に人が来ないとも言い切れないので3機とも無人にして機体から離れる訳にもいかないのでファムが残りセカンドムーンの中で土地勘のあるスラッシュとなんとしてもキオを助けたいアセムが機体から降りてキオを助けに行く事になっている。

 アセムとスラッシュは慎重にセカンドムーンの基地を進んでいる。

 曲がり角から安全を確認していると、曲がり角からヴェイガンの兵士が歩いて来る。

 兵士は二人で雑談をしながら、歩いており曲がり角に隠れているアセムをスラッシュに気が付く事は無い。

 アセムとスラッシュは息を殺して兵が曲がり角に差し掛かるタイミングを見計らい、兵士に襲い掛かり前もって用意しておいた薬を嗅がせて眠らせる。

 

「悪いな」

 

 アセムとスラッシュは眠っている兵の身ぐるみを剥ぐとパイロットスーツの上から衣類を来る。

 その後、眠っている兵が助けを呼べないように猿ぐつわをした上で縛りあげて見つからないように隠すと何食わぬ顔でセカンドムーンを進む。

 その過程で何人かの兵をすれ違うも、アセムの顔を知らずスラッシュも顔を見られないようにしている為、兵は敵だとは気付かなかった。

 スラッシュに案内されてセカンドムーンを進んでいると格納庫に出る。

 

「これは……ガンダムか……」

 

 その格納庫にはガンダムAGE-FXが置かれていた。

 アセムとスラッシュは見覚えのないガンダムがセカンドムーンにある事に驚いている。

 

「そこのアンタ達なのをしてんの?」

 

 後ろから声をかけられてアセムは持って来ていた銃を構えようとするが声の主を確認すると、腰のホルスターに手をかけるだけに留める。

 

「……マリィなのか」

「……アセム?」

 

 声の主はマリィでアセムは23年前と大して変わらない為、マリィだとすぐに気が付くもマリィはアセムだと気付くのに時間がかかった。

 マリィはアセムだと気が付くとアセムの元まで来るとアセムをじろじろと見る。

 

「うわっ……おっさんじゃん。もう23年も経ってんだから当然よね。てか、その髭似合わないって」

 

 アセムはふつうなら再会する筈もない火星圏でアセムと再会する事には触れる事もなく、年を取ったアセムにそういう。

 その言動はアセムの知るマリィそのものでアセムは少し安心していた。

 

「そっちのは……ゼハートって訳じゃないわよね……スラッシュ? 生きてたんだ」

 

 アセムといるスラッシュをゼハートではないとすぐに分かり、そうでないとスラッシュであるとマリィは判断する。

 マリィもゼハートからスラッシュは戦死したと聞いていた為、少し驚くがあっけらかんとしている。

 

「お袋なんだよな?」

「そだよ。私、ママだよ」

 

 スラッシュは母は少し変わり者だとは聞いていたが、予想以上だった事に軽く戸惑っている。

 だが、アセムは今更マリィの言動で戸惑う事もない。

 

「マリィ、あのガンダムは何だ? キオはどこにいる」

 

 アセムはマリィの両肩を抑えて聞く。

 その勢いにマリィは不機嫌になる。

 

「いきなりそれ? まぁ良いけど、あれがガンダムAGE-FX。AGEシステムがレギルスとの戦闘データを元に開発した新型のガンダムよ」

「何だと……」

 

 レギルスの戦闘データを元に開発したとすればFXの性能はレギルス以上と言う事になる。

 そして、レギルスとはAGE-3を鹵獲したガンダムタイプのMSならばそのレギルスの性能を身を持って体験しているアセムにはFXの性能がそれ以上の脅威だと言う事は容易に想像がつく。

 

「そんでキオってガンダムのパイロットよね。アセムの子供? って事はロマリーの子供でもあるのよね?」

「そんな事はどうでも良い。キオはどこだ? 無事なんだな?」

「無事だと思うわよ。ガンダムのパイロットは捕虜じゃなくて客人扱いになっているってゼハートも言ってたから、そんで姫ちゃんの預かりだからどこにいるかは分かんない」

 

 マリィもゼハートからガンダムのパイロットのキオがアセムの子供であると言う事は聞いているが特に興味も無い為、どこにいるかなど知る訳はない。

 だが、アセムはキオが無事であると言う事が分かり一先ず安堵する。

 少なくとも客人扱いと言う事は手荒な真似はされないと言う事は確実だ。

 

「マリィ。私のレギルスRの調整は……」

 

 そこにゼハートは模擬戦のデータをフィードバックして調整中だったレギルスRの様子を聞きに来る。

 タイミングが悪く、アセム達とゼハートは遭遇する形となってしまう。

 

「レギルスRの調整はまだ終わってないわよ」

 

 マリィは何事もなく、答えるがアセムとゼハートに視線が重なる。

 ゼハートの方はそんなに変わっていない為、アセムはゼハートだとすぐに分かり、ゼハートもアセムの事はすぐに気が付く。

 

「アセム! なぜお前がセカンドムーンにいる!」

 

 ゼハートはアセムに叫ぶがアセムが答える前にアセムがここにいる理由にたどり着く。

 このタイミングで火星圏までアセムが来る理由は一つしかなかった。

 

「ゼハート! ちぃ!」

 

 マリィとは違いゼハートは見逃してはくれない事は分かっている為、アセムはとっさにマリィをゼハートの方に突き飛ばす。

 ゼハートは銃を抜こうとするが、マリィを受け止める為に銃を抜けない。

 

「スラッシュ! 退くぞ」

 

 マリィを突き飛ばした事で一時的な時間を稼ぐ事は出来るが、それで出来た時間も大してある訳もなく、一時的に撤退する事を決める。

 

「スラッシュだと……」

 

 ゼハートはマリィを受け止めながら、アセムの言葉をアセムに同行していたスラッシュの顔がちらりと見た事で動揺してアセムとスラッシュに逃げられる。

 

 

 

 

 

 

 

 ルウの家からキオはどう戻って来たかは余り覚えてはいなかった。

 ただ、ヴァニスについて行くだけで、ようやく、昨日までとは帰り道が違う事に気が付いた。

 そこは居城ではなく基地内の方が近い。

 実際にセカンドムーンの中でも一般人は入る事の出来ない軍部のエリアに連れて来られている。

 

「お父様は?」

「イゼルカント様は奥様と共に乗艦しています」

 

 基地内でヴァニスは適当な兵を捕まえて尋ねる。

 キオはまだ、ルウの死を引きずっており余り会話の内容は頭に入って来ない。

 すると、基地内に警報が鳴り響く。

 

「何事だ」

「どうやら、賊が入り込んだようです!」

 

 警報で兵は慌ただしくしているが、今までセカンドムーンに敵が攻め込んだ事も無い為、動揺している兵も多い。

 

「ついて来い」

 

 そんな中でヴァニスはキオの手を引いて連れて行く。

 少し歩いたところでガラス越しに巨大な戦艦が見える。

 23年前に地球圏での前線基地として使われていた移動要塞「ダウネス」をベースとして戦艦クラスまで小型化した大型戦艦「グレート・エデン」だ。

 グレート・エデンはヴァニスの乗艦として運用される予定となっている。

 ダウネスよりも大幅の小型になっているが、それでもファ・ザードやファ・アークと比べると一回り以上もよりも大型となっている。

 

「こいつを私の私室に連れて行け」

 

 グレート・エデンへと繋がる通路を警備している兵にキオを引き渡す。

 キオは何が何だか分からないが、兵に連れられてグレート・エデンへと連れて行かれる。

 

「さて……ネズミの相手をするか」

 

 キオをグレート・エデンに連れて行かせたヴァニスはFXの置かれている格納庫を目指す。

 格納庫に到着すると、少しまでまではマリィやゼハートもいたが、今は兵は出払っているのか誰もいない。

 

「全く……不用心な」

 

 敵に入り入りこまれたのならばMS戦になる事も考慮して戦力になるMSをいつでも出せるように調整したり、敵にMSを奪われないようにするなどすべきだ。

 FXはAGEデバイスを起動キーとして使われているのでAGEデバイスがなければ機体を動かす事は出来ないが、直接MSで持って行かれる事もあり得るので何かしたの対策を取るべきだが、AGEデバイスがなければ動かせない事を良い事にここの警備は後回しにしていたらしい。

 ヴァニスはAGEデバイスをセットしてFXを起動させる。

 そして、FXのコックピットにおいてあったXラウンダー能力の制御デバイスをつける。

 機体が起動して操縦桿を握るが、ヴァニスの動きが止まり、片手で頭を抑える。

 

「こんな時にか……」

 

 ヴァニスは仮面で表情は見え難いが苦痛に歪んでいる。

 この一か月でヴァニスの発作は単に呼吸困難で胸が苦しくなるだけでなく強い頭痛が伴っている。

 それはレギルスに搭乗した時にXラウンダー能力をフルに使ったせいだ。

 普通の人間では使えない程の力を使ったせいでヴァニスの脳に負担がかかり過ぎた。

 これが普通の人間ならば、確実に脳が負担に耐え切れずに破壊されるだろうが、ヴァニスは普通の人間では無い為、耐える事は出来たが確実に影響は出ている。

 ヴァニスはその発作が治まるまでFXのコックピットで耐えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 アセムとスラッシュがゼハートと遭遇した事によりセカンドムーンに敵が侵入して警報が鳴っていると言う事は待機していたウルフの隊でも確認できる。

 

「アセム達が見つかったようだな。こっちも動くぞ」

 

 アセム達は役目の特性上、MSから降りなければならない為、ウルフ達がMSで陽動をかけつつガンダムのコアファイターの捜索をする手筈になっている。

 3機のMSは散開して別のルートからコアファイターの捜索に入る。

 

「こいつは……ずいぶんと懐かしいMSで出迎えてくれるじゃねぇか」

 

 ウルフのGファングの前にバクトが一機とガフランが二機立ちふさがる。

 三機のMSはGファングにビームバルカンを放つ。

 Gファングはシールドを使いながら攻撃を防いでビームサーベルを抜いて接近する。

 バクトやガフランではGファングとは機体性能に絶対的な差がありパイロットも経験も技量にも絶対的な差がある為、三機のMSは抵抗をする事なくGファングのビームサーベルによって切り裂かれる。

 

「クリフォード君。次の角を右に回って格納庫があるから」

 

 キャロルがクリフォードに進路を指示して先に進む。

 指示通りに曲がると格納庫にたどり着く前に通路を塞ぐようにザムドラーグが待ち構えていた。

 通路はMSが通る事も想定しているのか、MSが十分すれ違える程の広さがあるが、通常のMSよりも大型であるザムドラーグがいる為、通路を抜ける事も難しい。

 

「まさか、侵入して来たのがガンダムだったとはな!」

 

 ザムドラーグは指のビームバルカンを連射する。

 プロト3はシールドを使いつつ回避する。

 

「こんなところでライフルは使えねぇ!」

 

 シグマシスライフルは下手をすればセカンドムーンまで破壊しかねない為、プロト3はビームサーベルを抜いてザムドラーグに接近しようとするが、10基のビームバルカンに通路と言う閉鎖空間では完全に回避する事は難しくシールドを使って防ぐしかなく、中々接近が出来ない。

 

「ちぃ! こうなったらよ!」

 

 プロト3はシールドを掲げて強引にザムドラーグに接近しようと試みる。

 ザムドラーグはザムドラーグキャノンを放ち、プロト3は左腕ごとシールドが吹き飛ぶがそのままビームサーベルを突き出してザムドラーグに一撃を入れようとする。

 だが、ザムドラーグは股の下からザムドラーグテイルが出て来てプロト3を弾き飛ばす。

 

「くそ! そんなのありかよ!」

「油断したな。ガンダム。武器は剣や銃だけではないのだよ」

 

 ザムドラーグはビームサーベルを展開してプロト3に飛び掛かって来る。

 ザムドラーグがプロト3にビームサーベルを突き刺す前にプロト3はコアファイターに分離する。

 MSでならばザムドラーグを抜ける事は難しいがコアファイターなら十分にザムドラーグの横を抜ける事は可能でコアファイターはザムドラーグを抜けると格納庫に滑り込む。

 

「逃がさんよ」

 

 ザムドラーグは捨てられたプロト3の胴体をビームサーベルで破壊し、コアファイターを追いかけようとするが、背後からティアナのティエルヴァ・ツインエッジがレイザーブレイドを振り下ろして来たのでビームサーベルで受け止める。

 格納庫にすべり込んだコアファイターは無理をしたせいで爆発こそはしなかったが、行動不能の状態となっていた。

 

「キャロル。生きてるな?」

「無茶し過ぎ。だけど……アレ」

 

 二人が滑り込んだ格納庫には偶然、AGE-3のコアファイターが置かれてる。

 クリフォードとキャロルはコアファイターを乗り捨ててAGE-3のコアファイターを調べる。

 

「動くのか?」

「AGEシステムが外れてる……動くわ」

 

 AGE-3に搭載されていたAGEシステムのコアユニットはFXに移植されている為、AGE-3のコアファイターのコアファイターはAGEデバイスがなくとも起動が可能だった。

 キャロルがコアファイターの座席後方に移動してクリフォードが座席に座る。

 

「AGE-3のコアファイターは確保しました」

「なら、お前らは外まで退避しろ! 俺はもう少し暴れてから逃げる」

 

 ウルフからの指示を受けてコアファイターは来た道を戻ろうとする。

 だが、通路ではティエルヴァ・ツインエッジとザムドラーグが交戦している。

 コアファイターは戦闘の合間から何とか、二機を通り抜ける。

 

「ちぃ!」

 

 ザムドラーグはコアファイターに腕を向けるがティエルヴァ・ツインエッジがレイザーブレイドでザムドラーグの腕を切り裂き、膝のニードルガンをザムドラーグのスラスターに打ち込んでコアファイターと共に退避する。

 

「逃がさんよ!」

「止せ」

 

 残っている腕のビームバルカンを退避しているコアファイターとティエルヴァ・ツインエッジを狙うが、ヴァニスが止める。

 発作も収まりヴァニスもまたFXで出撃していた。

 ヴァニスの指示でザナルドも二機への攻撃を中断する。

 そして、二機を追うようにFXがザムドラーグの横を通り過ぎていく。

 機動性能においてコアファイターとティエルヴァ・ツインエッジよりも遥かに高いFXではあるが、二機がセカンドムーンから出るまで攻撃をする事も追いつく事もなかった。

 

「これでお前達も本気で戦えるだろう」

 

 ヴァニスが追いつかず攻撃もしなかった理由は敵がセカンドムーンへの被害を考えて本気で戦えないからだった。

 その為、ヴァニスはわざとセカンドムーンを出るまで何もしなかった。

 セカンドムーンから宇宙に出ればセカンドムーンへの被害を少しは気にする事もなくなる。

 FXはティエルヴァ・ツインエッジにスラングルライフルを放つ。

 

「ここは私が、貴方達はウェアを換装して来て」

 

 ティエルヴァ・ツインエッジはレイザーブレイドを構えてFXに向かう。

 コアファイターのままでは足手まといになる為、AGE-3用のウェアを搭載しているバロノークへと向かう。

 ティエルヴァ・ツインエッジはニードルガンを連射する。

 

「ファンネル」

 

 FXはCファンネルを射出してCファンネルを盾の代わりに使いニードルガンを防ぎ、残りがティエルヴァ・ツインエッジに向かって行く。

 

「早い!」

 

 ティエルヴァ・ツインエッジもTビットを使いCファンネルに対応しようとするも、Tビットよりも圧倒的な機動力を持つCファンネルによって切り裂かれて破壊される。

 Cビットからの攻撃をレイザーブレイドで弾いているも、次第にCファンネルの動きに対応しきれなくなる。

 

「この程度か」

 

 Cファンネルの動きに完全について行けなくなり、ティエルヴァ・ツインエッジはCファンネルの猛攻を受ける。

 Cファンネルによってティエルヴァ・ツインエッジの四肢は切り裂かれて頭部も首から切断され、スラスターも潰されてティエルヴァ・ツインエッジはまともに動く事も反撃も出来ない状態に持ち込まれるとFXはスラングルライフルをチャージモードでティエルヴァ・ツインエッジに向ける。

 FXはスラングルライフルで止めを刺そうをするが、横やりが入る。

 

「戻って来たか」

 

 横やりを入れたのはバロノークにウェアを取りに戻っていたクリフォードのAGE-3だ。

 AGE-3の装備しているウェアはマッドーナ工房が一か月をかけて突貫作業にて製造した新ウェアだ。

 ノーマル形態をベースとして両肩と両腕にはシグマシスキャノンを装備し、バックパックには改良されて強度問題をクリアしたブラスティアキャノンとシグマシスロングライフルが稼働アームにより装備されている。

 脚部は宇宙ではオービタルの時のようにつま先立ちのオービタルモード、陸戦時は展開されてホバー移動を可能とするフォートレスモードに切り替えが可能となり、両腕のシグマシスキャノンの先端からは高出力のビームソードを展開してビームトンファーとしても使えるようになっている。

 両肩の疑似斥力システムは若干大型となり機動性能を高めるだけでなくシールドとしても使えるようになっている。

 ガンダムAGE-3の3つの形態の特性を一つにまとめた新形態ガンダムAGE-3 トラインとなったクリフォードは戻って来る。

 

「この野郎!」

 

 AGE-3 トラインはシグマシスキャノンを連射するがFXはCファンネルで防ぐ。

 戦う力を持たないティエルヴァ・ツインエッジに興味をなくしたかのようにFXはAGE-3 トラインの方に向かう。

 AGE-3 トラインはバックパックのブラスティアキャノンを構える。

 砲身にシグマシスライフルが使われているが、そのままでは腕のシグマシスキャノンと干渉し合って使えない為、シグマシスロングライフルと共に逆手持ちから通常のライフルと同じ持ち方が出来るように改良されている。

 ブラスティアキャノンは砲身の耐久性の問題と共にチャージ時間が長いと言う弱点を持っていたが、砲身にブラスティアキャノン用の小型ジェネレーターを内蔵する事である程度は短縮されている為、連射は出来ずとも以前のようにチャージに時間がかかると言う事はなくなった。

 AGE-3 トラインはブラスティアキャノンを放ち、FXはチャージモードのスタングルライフルを放つ。

 2機の放ったビームは互いのビームで相殺され強い閃光が起こるがFXは構う事なく突っ込んでビームサーベルを振るう。

 AGE-3 トラインもビームトンファーで受け止めるが、FXのビームサーベルの方が出力が強く押し切られそうになり、FXを蹴り飛ばそうとするがFXは軽く避けて逆にAGE-3 トラインを蹴り飛ばす。

 

「新形態と言ってもこの程度か」

「ちくしょう! 化物かよ!」

「落ち着いて! もうすぐウルフさんも来るから!」

 

 FXにシグマシスキャノンを連射するもCファンネルに阻まれてFXはその機動力をほとんど使う事は無くCファンネルだけで完全にAGE-3 トラインの攻撃を防いでいる。

 その余りにも一方的な戦闘にヴァニスもAGE-3 トラインに対して興味がなくなりかけるが、ウルフのGファングもセカンドムーンから離脱してハイパードッズライフルを放つ。

 

「待たせたな」

「艦長か……白い狼と呼ばれたその実力……見せて貰うぞ」

 

 FXはGファングにCファンネルを差し向ける。

 

「ファンネルか。自分は直接戦わないで端末に戦闘を任せんのが流行ってんのかよ!」

 

 GファングはハイパードッズライフルをFXに放つ。

 それをFXはCファンネルを使った防ぐ。

 それによって自分に向かって来るCファンネルの数は減りGファングはFXに接近する。

 

「避けられたってのにファンネルで防ぎやがって! この俺も舐められたもんだな!」

 

 Gファングはシールドのビームソードを振り下ろす。

 FXは腕のビームサーベルでGファングの攻撃を弾く。

 だが、GファングはFXに至近距離でハイパードッズライフルを向けている。

 

「くたばりやがれ!」

「流石は白い狼と言ったところか……だが、甘いな」

 

 Gファングの至近距離からの攻撃をFXは最小限の動きで回避する。

 そして、今後は逆にGファングに至近距離からスラングルライフルを向ける。

 だが、FXが攻撃する前にAGE-3 トラインがシグマシスロングライフルを放つ。

 FXは攻撃を中止して、Cファンネルで防ぎつつ、AGE-3 トラインにスラングルライフルを放つ。

 GファングとAGE-3 トラインはFXに集中砲火を浴びせるも、FXは動く事なくCファンネルの盾で完全に防ぎきる。

 

「ふざけやがって……」

 

 ウルフはFX……ヴァニスの戦い方に憤りを覚えていた。

 これだけの攻防でFXの性能とパイロットの能力の高さは認めざる負えない。

 だが、その戦い方はCファンネルによる攻撃と防御をメインに使いスラングルライフルやビームサーベルはほとんど使っていない。

 その上でFXはほとんど動かない。

 それは自身の方を相手よりも格上であると確信しての戦闘で何より相手を見下している事が良くわかる。

 圧倒的な力を持ちながら、FXはほとんど動く事なく戦闘ではCファンネルに頼り切っている戦いは明らかに手を抜いているようにしか見えない。

 しかし、それ以上に腹が立つのは敵を見下して舐めている敵に対して一泡を吹かせる事すら出来ないと言う事だ。

 

「そろそろ飽きたな」

 

 ヴァニスはGファングとAGE-3 トラインに対しての興味を無くし、セカンドムーンの方に戻って行く。

 

 

 

 

 

 ウルフ達とは別の場所からアセム達もセカンドムーンの外に離脱している。

 その後ろからゼハートのギラーガが追いかけて来る。

 レギルスRの調整が完了していない為。代わりにギラーガで追撃している。

 時間がなかった事もありゼハートはパイロットスーツや仮面をつける事もなく追撃に出ている。

 ギラーガはギラーガビットを展開して差し向ける。

 

「ゼハートか……」

 

 ダークハウンドはドッズガンでギラーガビットを迎撃する。

 ゼイ・ドルグとGサイフォス・ブレイヴもギラーガビットを迎撃する。

 

「キャプテン! 親父の相手は俺がする!」

「スラッシュ……分かった。ファムさん」

「分かってる」

 

 ファムはセカンドムーンの防衛部隊が出撃している為、そちらの相手に向かい、Gサイフォス・ブレイヴはギラーガに向かう。

 Gサイフォス・ブレイヴはドッズランサーを突き出し、ギラーガはギラーガスピアで受け止める。

 

「親父!」

「スラッシュ……」

 

 スラッシュはゼハートに通信を送る。 

 ゼハートは動揺を押し隠している。

 

「聞いてくれ! 地球とヴェイガンは戦争をしている場合じゃないんだよ!」

「何を言っている?」

「UIEの奴らは地球を破壊しようとしてるんだよ! 戦争してたら手遅れになる!」

「何を言うかと思えば戯言を……地球種に何を吹き込まれて来た!」

 

 ギラーガはGサイフォス・ブレイヴを弾き飛ばす。

 スラッシュの言う事は荒唐無稽過ぎてゼハートは信じようとはしない。

 実際にUIEが地球を破壊しようと目論んでいるかなど分かりはしないが、その事を話してゼハートとの戦闘を回避しようとスラッシュは考えるも無駄であった。

 ギラーガはギラーガスピアでGサイフォスのドッズランサーを破壊する。

 Gサイフォス・ブレイヴはドッズバスターHで応戦する。

 

「ゼハート!」

 

 アセムのダークハウンドがビームサーベルでギラーガに切りかかりギラーガスピアで受け止める。

 

「アセム!」

「ゼハート! 自分の息子の言葉くらい聞いたらどうなんだ!」

「父親である事を捨てたお前が言う事か!」

「だからこそだ!」

 

 ダークハウンドのビームサーベルがギラーガスピアを切り裂き、ダークハウンドはドッズランサーでギラーガを殴り飛ばす。

 本来ならばゼハートはスラッシュに任せようとしていた。

 息子の言葉なら少しは聞く耳を持つかと思っていたが、息子の言葉すらまともに聞く気もない態度に我慢できずに横やりを入れた。

 ギラーガは殴り飛ばされるるもビームバスターを放ち二機を牽制する。

 

「手間取っているようだな。ゼハート」

「姫様」

 

 ウルフ達の方から来たヴァニスがスタングルライフルを放つ。

 

「あれは……FXか」

 

 FXはCファンネルを射出する。

 ダークハウンドとGサイフォス・ブレイヴはCファンネルに対応する。

 

「姫様……あれには」

 

 ゼハートはそこまで言うがその先を言わない。

 言ったところでスラッシュが敵である事には変わりはない。

 

「キャプテン。準備が出来ましたぜ!」

「そうか。頼む」

 

 バロノークからラドックが作戦の準備が整ったとの通信が入る。

 そして、見えざる傘で姿を隠していたバロノークとホワイトファングが姿を現す。

 そこには強襲揚陸形態でフォトンブラスターキャノンの準備とその前方にはマッドーナ工房に用意させたフォトンリング・レイが発射準備が完了した状態になっていた。

 

「ヴェイガンに告げる。そちらの捕虜となっているキオ・アスノを引き渡して貰う。それが受け入れなれない場合はフォトンリング・レイにてセカンドムーンを破壊する!」

 

 アセムはオープンチャンネルで告げる。

 すでにフォトンリング・レイの発射準備は完了している上に発射されれば確実にセカンドムーンを破壊出来るだろう。

 これがアセム達の奥の手だ。

 セカンドムーンをフォトンリング・レイで破壊すると脅してキオを奪還すると言う作戦だ。

 

「姫様。すでにAGEシステムは我が手にあります。キオ・アスノを……」

 

 ゼハートはすでにAGEシステムをヴェイガンに手中に入れている為、キオをヴェイガンで確保する必要はないのでキオを引き渡す事を進言するが、すべてを言う前にFXはビームサーベルでダークハウンドに切りかかり、ダークハウンドの左腕を肩から切り落とす。

 

「キャプテン!」

「姫様!」

 

 ダークハウンドはドッズガンでFXを牽制するがCファンネルでFXは防御する。

 

「私には関係ないな。やるなら好きにしろ」

「なっ!」

「この声……フォルスか!」

 

 ヴァニスはセカンドムーンの住民を人質に取られている状況ではあるが、全く気にしている様子はない。

 その事実にゼハートは驚愕している。

 ゼハートもアセムが本気でセカンドムーンを破壊するとは思ってはいない。

 そんな事をすれば自分の息子のキオも殺しかねないのとアセムの正確上、セカンドムーンをフォトンリング・レイによって破壊するなどあり得ないからだ。

 それでも、ヴァニスはそこまで読んでの行動ではなく、単にセカンドムーンがどうなろうと興味はないと確信する。

 一方のアセムの方も通信の声がフォルスと良く似ている事に気が付く。

 

「お前、フォルスなのか?」

「だったら、どうする? キャプテン」

 

 ヴァニスは隠す事なくそういう。

 だが、止まる事なくCファンネルを使いダークハウンドとGサイフォス・ブレイヴを攻撃する。

 

「なぜ、お前がヴェイガンにいる!」

「話す理由は必要か? 私を殺さねばキオ・アスノを奪い返す事は出来ないのだろう?」

 

 ダークハウンドは右肩のバインダーからアンカーショットを射出するが、Cファンネルに阻まれ複数のCファンネルにてアンカーショットのワイヤーを切断される。

 ドッズガンを連射するもCファンネルを通す事は出来ない。

 Cファンネルの攻撃を回避するもダークハウンドは右足が切断される。

 

「アセム……」

 

 ゼハートはその光景を見て迷いを生じている。

 ヴァニスに対しては少しつづ疑念を持っていた。

 幾ら強い能力を持っていようともヴァニスには漠然とした疑念を持っていたが、ようやく疑念は確信に変わる。

 ヴァニスにはヴェイガンの未来など興味がないと言う事だ。

 その目的は分からないがヴェイガンの未来は破滅しかない。

 そう結論づけたゼハートはFXにビームバスターを放つ。

 ギラーガの一撃は完全にFXの背後からの攻撃であったが、FXはCファンネルを集結して防いだ。

 

「成程……それが答えかゼハート・ガレット」

「……貴女はヴェイガンの未来を本当に考えているのですか?」

「興味ないな。私は私の為にだけに戦うだけだ」

 

 それはゼハートの確信の裏付けでもあった。

 ヴァニスはヴェイガンの未来ではなく自分の為に戦っている。

 だからこそ、ヴァニスはセカンドムーンの住民を躊躇いなく見捨てる事が出来る。

 

「ヴァニス・イゼルカント! 貴女をヴェイガンの指導者として認める訳にはいかない!」

 

 ギラーガは両手にビームサーベルを展開してFXに突っ込む。

 もはや、ヴァニスがイゼルカントの娘でヴェイガンの指導者でも関係ない。

 ヴァニスはヴェイガンを破滅へと導く為、ここで撃たねばならない。

 ギラーガはFXに向かうがCファンネルによってギラーガの両腕は切り裂かれる。

 

「行け! ビット!」

 

 両腕を破壊されて、ギラーガビットを使おうとするが、それよりも先にCファンネルによってギラーガのXトランスミッターを破壊される。

 

「ゼハート!」

「親父!」

 

 ダークハウンドはドッズガンを連射しながら、フラッシュアイで目暗ましをして、Gサイフォス・ブレイヴはドッズバスターHについているアンカーショットを射出してギラーガに引っ掛けると自分の方に引き寄せる。

 

「スラッシュ。お前はゼハートを連れてバロノークまで後退しろ」

 

 ダークハウンドはFXに牽制の攻撃を入れつつ、Gサイフォス・ブレイヴの前に出る。

 

「分かった!」

「スラッシュ! 何を!」

 

 Gサイフォス・ブレイヴはギラーガを抱えてバロノークまで後退する。

 そして、ティエルヴァ・ツインエッジをバロノークに戻して来たGファングとAGE-3 トラインもFXに攻撃する。

 

「アセム。ここは……」

「分かってます」

 

 キオの奪還作戦は完全に失敗でこれ以上の戦闘はこちらの被害を増やすだけだ。

 幸い、この作戦ではバロノークもホワイトファングも全戦力を投入した訳ではない。

 戦力を温存しておく事は次の作戦に繋がる重要な事である事はアセムも理解している。

 ここで無理に戦闘を継続したところで無駄に戦力を消耗すれば次の作戦を立てる事も出来なくなる。

 アセムは奪還作戦の失敗を悔しく思いながらも次に為に撤退を始める。

 ヴァニスも追撃の意志は無い為、牽制の攻撃をCファンネルで防ぐにとどまっている。

 ファムのゼイ・ドルグも合流して母艦の近くまで接近すると見えざる傘を展開してバロノークとホワイトファングは姿を消した。

 

「姫様!」

 

 セカンドムーンの防衛隊も遅れて到着するが、すでに撤退した後であった。

 

「賊は撃退した。追撃の必要はない」

 

 遅れた事で先ほどのやり取りを見ていた者はおらず、ヴァニスに対して誰一人疑問を持つ事なく、火星圏に乗り込んで来た賊を一人で撃退した事に歓喜の声を上げる兵までいる。

 

「次はもう少し楽しませてくれよ」

 

 ヴァニスは誰に言う訳でもなく呟き、見えざる傘で姿を消した方向を一瞥してセカンドムーンへと戻って行く。

 

 

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